オチはない。
ごくごく平和な日常が流れているときに物語の主人公は変化を望み、実際にそれが(意志にそぐっているかはともかくとして)叶う、みたいなことは王道中の王道だが、現実でそのようなことはなかなか起きないのも王道だ。
平穏な日常がいい。それが俺の願いだった。
——2023.06.23 PM07:01
こんな思想が悲劇の引き金になるとは思わなかった。そして、目の前にいる、おおよそ今までに見たことがないしこれからも見ることはないであろう、二本足で立つ龍が剣を振り回して風を切っている。
大きさは人より一回り大きい程度で、どこぞの物語のような固い鱗と、騒々しいブレス、獰猛な牙に蝙蝠のような翼が特徴。直接的な危害はまだないものの、あたりは騒然としている。
「――下がれ、
透き通るような声が後ろからした。振り返ると、女が、派手に装飾された銃を肩に担いでその龍を見つめていた。
「……?!」
落ち着いてみてみれば、自分のクラスメイトであることに気が付く。
「……まさか、私の言っていたことを全て『設定』だと思っていたのか?」
二度、ざわつく。彼女の『設定』、それはあまりにも信じるには荒唐無稽な……
「異次元から来た、武者と騎士の舞踏会を終わらせるための、大トリを任された天才魔騎士!」
彼女は銃を構える。銃口の先に立つ龍は楓に気付いたのか、剣を構え、突進する。
それに対し楓は冷静に、ただトリガーを引くだけ。呆気なく、龍はのけ反った。
「む……」
楓は極めて不満げな表情だった。辺りは異常な雰囲気だというのに誰一人逃げようとはしない。
龍と楓の一騎打ちを、見届けるものばかりだ。
のけ反ってから、しばらく。龍は耳がつぶれると思ってしまうほどの雄たけびをあげ、鱗の間からは蒸気を出し始めた。
「やれやれ……仕方のない奴だ」
緩めていた構えを直し、反動をモロに受けながら銃弾を放つ。撃つたびに数センチ後退しているのが校舎を照らすライトが見せてくれる。
龍はそれを今度はものともせず、楓に迫る。持っていた剣を振り下ろそうとしたとき、楓はその場から『消えた』。
「ふん。こっちに来て鈍ったんじゃないのか?」
声が上から聞こえる。見上げてみれば、信じられないことに、彼女は浮いていた。仕掛けは見当たらない。しかも彼女は平然と銃を撃ち続ける。
剣戟を受ける寸前のところで彼女はどこかへと消え、地面と空中を自由自在に動き回る。
そして、龍はついに目に見える形で疲弊を見せた。機敏だった動きはどこへ行ったのやら、ゆったりとした防御の構えへとシフトしていた。
「私の魔弾で、すべてを終わらせてやる……!!」
リロード音。その後、物々しい魔法陣が空に描かれ、彼女の体を包み込むように六面に展開される。
地面が揺れ始め、風が急に激しく吹き付けるようになる。
「
言われる前に、直感がそうしろと伝えていた。今の楓は、さながら悪者にとどめを刺すときのあの一瞬そのもの。
光り輝く魔法陣が消え、辺りが一瞬暗くなったと思えば、次の瞬間。
轟音と共に、彼女の持っていたマスケット銃から出たとは思えないほどの太さの光の帯。
それは遠く離れた場所からでも熱量を感じられるほどの、まさに『異次元』の領域。
こうして、彼女は鮮烈な『再デビュー』を果たした。
ただの中二病ではなく、人間のことを「