VRという新たな世界を得て進化した決闘システム、デュエル・リンクス。そこでは数多の決闘者がしのぎを削っていた。これはそんな一人の決闘者の、ごくありふれた決闘を書いた話である。

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生存報告も兼ねてこちらにも投稿します。遊戯王系は初めてなので至らない部分も多々あると思います


Duel Links

 街が有る、既存のものよりも遥かに高くスタイリッシュな流線型を多用した摩天楼がところせましと並び、ホログラムの広告を輝かせている。その間を高架道路が毛細血管宜しく張り巡らされている。茜色の空には幾つもの惑星が顔を覗かせ、さながらスペースオペラを題材にしたSF映画のワンシーンめいていた。

 摩天楼の間を飛び回り高速道路を駆け巡るのが宇宙船やシルバーのビークルに加え、数多の、様々な形状をしたモンスターやそれらを操るお気に入りのアバターに身を窶した決闘者デュエリストも含まれるという点、そもそもこの世界が現実では無い仮想空間という点を除けばだが──

 「リバースカード《バージェストマ・ハルキゲニア》を発動、《サンダーエンド・ドラゴン》の攻守を半分にさせて貰うぜ」

 《サンダーエンド・ドラゴン》★8:ATK3000→1500

 『幻覚が産んだ生物』という名に違わぬ奇妙な見た目をした生物が雷光を放つ竜に纏わりつき動きを封じる。同時に生気を吸収されているのか竜の雷光の威力は弱まり体色も色あせたものへと変化した。

 「バトルだ、《バージェストマ・アノマロカリス》で《サンダーエンド・ドラゴン》に攻撃!」

 巨大なエビに似た形をした生物が竜に向けて爪を振り下ろし、深々と突き刺す、竜は絶叫を放つ暇も無く光の粒子の欠片となって消えていく。攻撃の余波は、ライフポイント減少という形で相手の決闘者を襲う。 

 エネミー:LP3100→2200

 「くそっ、俺の切り札がこうもあっさり・・・」

 「出すなら無効化持ちか俺みたいにバックを固めておくんだな。トドメだ、《餅カエル》でダイレクトアタック!」

 エネミー:LP2200→0

 白く、柔らかそうな感触のカエルの舌が相手を直接弾き飛ばし残りのライフを根こそぎ奪う。吹き飛ばされた相手は壁に背を強かに打ちつけられた。仮想空間でも痛みが発生するからか、相手は低く呻き、背中を庇う様に摩る。

 決闘が終りモンスターの姿が大小のポリゴン塊となり消えると、黒を基調とした衣装で着飾った海賊風アバターの男がを畳み、来いよと言わんばかりの手振りで他の決闘者を挑発する。

 「これで五人目か、デュエル・リンクス最強を名乗る『竜騎士空挺団』も大したことないな。ホラ次は誰だ?」

 デュエル・リンクス、それがこの仮想空間に名付けられた名だ。海馬コーポレーションが莫大な時間と費用をかけて開発したこの次世代決闘システムは、VR空間と言う新たな世界を最大限に活用した。決闘者は自宅に居ながら、世界中のライバル達と手軽に決闘し、各々の実力を高めあえる。

 男の一番近くにいた、中世の騎士然としたアバターの竜騎士空挺団員が剣をモチーフにした決闘盤(デュエルディスク)を構える、声色には仲間を多数屠られ所属集団を馬鹿にされた怒りからか確かな熱がこもっている。

 「『ジェリーフィッシュ海賊団』め、ヤケに強い新入りを手に入れやがったな、なら次は俺が行かせて貰う!」

 「アンタらの実力がヘナチョコだから弱い奴しかニューロンズ・VR・システムが探してくれないの間違いだろ。悪いが雑魚に構っている時間は無いんだ、早くしろ」

 デュエル・リンクスへとアクセスするVR端末、ニューロンズ・VR・システムは使用者の脳波周波数から実力や決闘構想の合致した決闘者を探し出せるのだ。

 決闘者達はデュエル・リンクス中でこの機能をフルに使い、他のMMOゲームでいうパーティーやクランに相当する集団を多数形成している。当然より良いカードや決闘場所、仮想空間内での地位等を求めて集団同士での大規模な決闘も頻発する。

 「抜かせ!ジェリーフィッシュ海賊団め、今日という今日こそは我が竜騎士空挺団が貴様らから勝利をもぎ取ってやる!」

 別のRPGの下っ端兵士めいた小太りのアバターの決闘者も激昂して決闘盤を構える。

 男の所属するジェリーフィッシュ海賊団と竜騎士空挺団はライバル関係で互いに抗争を重ねている。男の周囲は既に他の海賊団の決闘者達が操る水属性モンスターと空挺団の決闘者達が操るドラゴン族モンスターが火花を散らしあっていた。押しているのはジェリーフィッシュ海賊団の方であった。

 「おっと一人で二人相手はフェアじゃないな。マイン、ここは俺にもやらせて貰う」

 もう既に何人か倒し終え、次なる相手を求めていた海賊団員が男の名を呼び加勢する。左腕からは既に決闘盤が展開しており戦う意欲は充分といったところだ。

 「ルーキー相手に二人がかりは流石に無いんじゃない?いつもの騎士道精神はどこ行ったよ」

 「海賊が騎士道を語るとは笑止!」

 瞬間、彼らの頭上を《アビスケイル‐ミズチ》を装備し強化された《水精鱗‐ガイオアビス》によって吹き飛ばされた《クリスタルウイング・シンクロ・ドラゴン》が通過する、ドラゴンは壁にぶつかる前に数多の塵芥と化した。ガイオアビスの真下では海賊船の船長のような身形の男に厳つい鎧を身に纏った男が屈していた。二人はお互いの集団のリーダーだ。

 船長風の男は右手を掲げ高らかに叫ぶ。

 「野郎共、今回は俺達の勝ちだ!」

 歓喜の叫びが、この空間内を木霊する。勝利の嬉しさで飛んだり跳ねたりする海賊団員達の中で、マインは静かに微笑んだ。

 

♢♢♢♢

 

 「大会?」

 勝利への熱が冷める暇も無くアジトへと戻るなり、リーダーは底ぬけた笑顔でマインにそう切り出す。彼の唐突の申し出にマインは少々の戸惑いを隠せない。

 「別にいいですが、リーダーの方が適任では?確実に俺よりも強いですし」

 大会も決闘者の格付けする要素の一つだ。ここでの活躍が対外の集団に対するイメージを決定する。故に集団は大会に出場させる選手の選定には慎重を要する。マインの怪訝な反応は当然のものだ。

 「出たいのは山々だけどその日リアルの方で色々あってね、俺以外でうちの中で強いのって言ったら君ぐらいだし」

 「流石に新入りを持ち上げすぎですよ、それは」

 謙遜の笑み。それに対しリーダーの目は笑っていない。アバターの髭の部分を触りながらリーダーは続ける。

 「ほう、ここに入る前はうちの団員を何人もぶちのめしていたのに?」

 「・・・」

 「通り魔みたいに単独でうちの仲間に決闘を仕掛けては、あいつらが俺に泣きついてくるぐらいにボコボコにしていて『持ち上げすぎ』かい?『罠使いのマイン』さんよ」

 昔の通り名にマインの瞼がピクリと反応した。決闘者の中には集団に属さず個人で活動する者も当然いる。彼らの中で特に実力のある者は通り名が付けられ、多くの決闘者の尊敬又は畏怖の対象となった。丁度、嘗ての彼の様に。

 「俺がお前を引き入れる契機となった決闘も大した接戦だったよな。延べ20ターンに渡る長期戦、決着時の俺のライフはたった300、しかも勝因が運よく引けた《ブラック・ホール》ときたからお前が勝っても可笑しくなかった」

 ここまで言われたらもう言い返しようが無かった。やれやれと言いたげに首を縦に振った。

 「わかった出場はする、ただ決勝までいけるかはわからん」

 「そうだろうと思ってプレゼントを用意しておいた、受け取れ」

 団長が三枚のカードを彼に渡した。渡されたカードを見る、思わぬサプライズ笑みが零れた。三枚とも同じカードで、普通のデッキで扱うには癖が強いが彼のデッキの場合は莫大なアドバンテージをもたらしてくれるものだった。

 「どうだ、お前さんにはピッタリのカードだろ?」

 貰ったカードをマインは早速デッキへと組み込んだ。枚数調整は必要ない、それ程までに強力なカードだった。

 「ああ、最高のプレゼントだったよ、これなら優勝も狙えそうだ」

 

♢♢♢♢

 

 大会当日、会場となるデュエル・リンクス内のアリーナで、マインは控室に備え付けられたモニターから他の選手の決闘を観ていた。四人二組、それぞれ使っているのは【DD】【メタルフォーゼ】【ABC】【Kozmo】とどれも使用率の高い強豪デッキだ。

 流石大会、皆持てる限りの最強のデッキを使っている。そう思うと体の表面から芯に至るまでピリピリしてくる、その感覚が彼には心地よかった。デッキの最終調整をする両手が興奮で震える。

 画面内では決着が着いたようだ。勝ったのは【メタルフォーゼ】と【Kozmo】だ。有り難いが半分、勘弁してくれが半分だった。【メタルフォーゼ】とマインのデッキの相性は良いが【Kozmo】の場合は初手が良く無ければ絶望的だ。

 そんな事を考えている内に次の試合を告げる小洒落た制服を着たNPCが出迎えに来た、彼の出番が来たのだ。デッキを決闘盤へと差し込みNPCの案内についていく。

 案内通りについていき大きめのゲートをくぐると、アリーナのフィールドへと出た。フィールドの観客席は満員でそこらかしこで観客たちが各々応援する選手の名前を叫んでいる。ふと自分の名前を呼ぶ声が聴こえ、マインが聞こえた方へと振り向く、仲間達が手を振って思い思いの声援を投げかけていた。少々恥ずかしく思いながらも、彼らの声にサムズアップアップと言う形で応えた。

 あらかじめ主催側から受け取っていた番号が書いてある位置へと足を運ばせる。指定された場所の前には既に誰かいた、恐らく対戦相手だろう。長髪で神父風のアバターの男だ。

 「貴方が『罠使いのマイン』ですか、まさかここで貴方と戦えるとは決闘者冥利につきますな。因みに私はゴスペルと申します、以後お見知りおきを」

 にこり、という擬音が似合う笑みを男はマインに向けて来た。反応にやや困りながら、マインは取りあえずぎこちなく歪んだ笑みを返した。

 「やはり名の有る決闘者は違う、私もそれなりに決闘者として経験を積み彼らを見る目があると自負しますが、貴方は私が目にしたどの決闘者よりも凄みがある。ここにいるだけで気圧されそうだ」

 やりづらい、と彼は感じた。ゴスペルという男は瞬時に実力を見極めリスペクトの念を示してくる。舐め切った相手を罠に嵌めるプレイングを得意とするマインとは相性は最悪だ。若しくはリスペクトを示し相手を油断させる戦法か。

 どちらにせよ、実力は決闘すれば分かる事だ。

 「ここから先は」

 開始時刻はもう目の前だ。

 「決闘で語ろうぜ」

 「ああ、そうしよう」

 『それでは各自決闘を始めて下さい』

 決闘開始を告げるブザーが高らかに鳴り響く。

 『決闘デュエル!』

 戦いの火蓋が切って落とされた。互いにデッキから五枚の手札を引き、即座に確認する。両者とも、目に迷いはなく勝利への筋道を瞬時に割り出していく。

 「俺は手札の《魔知ガエル》をコストに手札から《鬼ガエル》を特殊召喚!」

 《鬼ガエル》☆2:ATK1000

先攻はマインからだ、フィールドに現れたのは角の生えた小さなカエル、人によっては嫌悪感を示しそうなデザインだ。

 「《鬼ガエル》の効果により墓地へ《粋カエル》を送らせてもらう、更に《鬼ガエル》効果で手札に自身を戻し通常召喚!」

 手札へと跳ねて戻ったかと思うとすぐさまフィールドへと再び現れる。一見して意味の無い行為に思われるが実は大きな意味がある。

 「同名ターン1制限が無いため効果発動、《粋カエル》をもう一体墓地へ送るぜ」

 二枚分のデッキ圧縮。たかが二枚、されど二枚、その差で望むカードが引けるか否かの確率は変わってくる。マインのメインフェイズはまだ終わらない。

 「《粋カエル》の効果により《魔知ガエル》を除外し墓地から特殊召喚する、チェーンは?」

 「特にないよ、続けてどうぞ」

 《粋カエル》☆2:DEF2000

 《鬼ガエル》の隣に、歌舞伎役者にも似た風貌のカエルが立ち並ぶ。

 ここまで何の妨害も無かった。《鬼ガエル》の効果に合わせて《増殖するG》を投げられる訳でもなく、《粋カエル》の効果に合わせて《D.D.クロウ》が投げられる訳でもない。逆にそれが不気味だった、いやもしかしたらこうやって深読みさせるのも相手の戦略の内なのかもしれない。

 迷う暇は無い、レベル2が二体、更なる展開──エクシーズ召喚──へ繋ぐ。

 「鬼ガエル》と《粋カエル》でエクシーズ召喚!現れろ、ランク2、《餅カエル》!」

 《餅カエル》★2:ATK2200

 二匹のカエルが作り出した光の渦から現れたのは、鏡餅よろしく二つに重なった白いカエル。ご丁寧に頂上にはみかんまでついている。

 「ほう、そうきましたか」

 《餅カエル》を見て、決闘を開始してから相手が初めて反応らしい反応を見せた。それは驚きでも嫌悪でも何でもない、雨上がりに道端でカタツムリを見つけた時に似た反応だった。

 「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 フィールドに裏側表示のカードが二枚現れる。

 一枚手札に握っているのは、手札誘発だと思わせるブラフだ。この時点で伏せても発動できないというのもあるが。

 「地雷(マイン)にしては随分伏せ(地雷)が少なく無いですか?まあいい、行かせて貰いましょう、ドロー!」

 新たなカードが相手の手札へと加えられる。その時、マインは一瞬相手の口元が微かに歪んだのを見逃さなかった。《餅カエル》の解決手段を見つけたのだ、彼はそう確信した。

 彼の予想はすぐさま現実となる。

 「スタンバイフェイズに《餅カエル》効果でORU(オーバーレイユニット)を一つ使い《魔知ガエル》を守備表示で特殊召喚する」

 「では私はチェーンして《帝王の烈旋》を発動しよう」

 マインの眉が不快そうにビクリと動く。思いつく限りの、最悪な解決札であった。これを通せば、何を出されるか、《天帝》か、《冥帝》か、すかさず《餅カエル》の効果を発動させる。

 「チェーンして《餅カエル》効果を発動、自身を墓地に送り《烈旋》の発動を無効にする。更にチェーンして《バージェストマ・レアンコイリア》を発動し除外された《魔知ガエル》を墓地に戻す。更に墓地の《餅カエル》の効果で墓地の《鬼ガエル》を手札に加えさせてもらう」

 ここで《レアンコイリア》を発動させたのは次のターンでの展開の下準備だ、《レアンコイリア》に対する相手側のチェーンが無いのか逆順処理が行われマインのフィールドに学帽を被った蛙が現れた。

 《魔知ガエル》☆2:DEF2000

 「流石に防がれるか、ではメイン1に入ろう。手札の《堕天使イシュタム》の効果でこのカードと《スペルビア》を捨てて2ドロー。更に《トレード・イン》で《ゼラート》を捨て2ドロー。手札の《堕天使の追放》を発動し《堕天使の戒壇》を手札に加える」

決闘盤に次々とカードを差し込み、流れる様に手札を交換し、デッキを回転させていく。最上級モンスターを多数抱えているにも関わらず滑らかに回す様にマインは舌を巻き、確信する。こいつはやり手だと。

「《堕天使の戒壇》を発動し墓地から《堕天使スペルビア》を守備表示で蘇生、更に《スペルビア》の効果で《イシュタム》を攻撃表示で蘇生しよう。チェーンは?」

「ない」

 《堕天使スペルビア》☆8:DEF2400

 《堕天使イシュタム》☆10:ATK2500

 ポケモンのシンボラーに似た堕天使と、天使と言うよりは淫魔に似た姿の堕天使がフィールドに並ぶ。最上級が簡単に並ぶ様はリーダーが扱う【水精鱗】を連想させたがそれよりも大胆で凶悪だ。

 「無いなら特殊召喚時に《堕天使イシュタム》の効果、ライフを1000払い墓地の《堕天使》魔法、罠の効果を一枚選んで適用しデッキ戻す。選ぶのは《戒壇》だ」

 ゴスペル:LP8000→7000

 戦士を楽園へと導く天使が怪しげな呪文を唱え、併せて黒い影が形を成していく。呪文を唱え終える頃には影は屈強な男性の堕天使へと変化していた。

 「これにより墓地の《堕天使ゼラート》を守備表示で蘇生する」

 《堕天使ゼラート》☆8:DEF2300

 「手札から闇属性モンスターを捨て《堕天使ゼラート》の効果発動、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する、といっても一体しかいませんがね」

 天使が剣を振るうと黒い稲妻がマインのフィールドを薙ぎ、モンスターを貫く。

 「破壊された《魔知ガエル》の効果発動、デッキから《鬼ガエル》をサーチ」

 「破壊されてもアドバンテージを取るとは、これまた厄介ですね。なら私は《スペルビア》と《ゼラート》で《神竜騎士フェルグラント》をエクシーズ召喚!」

 《神竜騎士フェルグラント》★8:ATK2800

  黒い渦から現れた竜を模した鎧を纏う騎士を観て、マインは少しだけほっとした。この相手ならチェーン妨害こそされても伏せにまでは干渉できないからだ。恐らく相手は効果を無効にする手札誘発を握っており伏せを攻撃に合わせて発動すると読んだのだろう。

 「バトルフェイズ、攻撃宣言前にORUを一つ使い《神龍騎士フェルグラント》効果を自身に適用。では改めて二体でダイレクトアタック!」

 マイン:LP8000→5500→2700

 一気にマインのライフが四分の一近くにまで減らされる、昨今の高火力モンスターが並ぶ環境においてこのライフはレッドゾーンといっても差し支えが無い。それでも彼の目から諦めの色は見えていない、未だに先にある勝利を見据え続けている。この程度、全損しないのなら安いものだ。

 「メイン2、デッキトップ10枚を除外し手札から《強欲で貪欲な壺》を発動し2枚ドロー、一枚伏せてターンエンド。伏せの数の少なさと言い今回は調子が悪いとお見受けしますな」

 「調子が悪いと思っているなら、それはアンタの思い違いだ」

 「なっ・・・!?」

 マインのフィールドに残った一枚のカードが開く。

 「エンドフェイズ時に《バージェストマ・オレノイデス》を発動、伏せを割らせてもらう。更にチェーンして墓地より《レアンコイリア》を通常モンスター扱いで特殊召喚」

 《バージェストマ・レアンコイリア》☆2:DEF0

 三葉虫に似たモンスターが伏せカードを割ると同時に奇怪な見た目のモンスターがマインのフィールドへと躍り出る。割られたのは《神の通告》だった。カウンター罠を潰されゴスペルは眉を顰めるもすぐさま笑顔に戻る。ただし目だけは笑っていなかった。

 「成る程、やってくれますね」

 「俺のターンだな、ドロー。スタンバイ、メイン。墓地から《魔知ガエル》を除外し《粋カエル》を特殊召喚。《粋カエル》と《レアンコイリア》でエクシーズ召喚、現れろ《バージェストマ・オパビニア》!」

 《バージェストマ・オパビニア》★2:DEF2400

 フィールドに現れたのは、またしても奇怪な見た目をした古代生物だ。余りにも特異的過ぎる見た目にゴスペルはややたじろいだ。観客席からも悲鳴が少々聞こえて来る。対戦相手の様子を気にも留めずマインは効果を発動させる。

 「《オパビニア》の効果発動、ORUを一つ使い《バージェストマ》罠カードをデッキから手札に加える、加えるのは《レアンコイリア》」

 「ではチェーンして《フェルグラント》の効果を発動し《オパビニア》の効果を──」

 「悪いな、こいつはモンスターの効果を受けないんだ」

 黄金の騎士が放つ妨害の雷撃には目もくれず、古代生物は吻部を地面に突っ込むと古代生物を掘り出しマインの手札へと投げ込む。

 「くそっ、なら《イシュタム》の効果でライフを1000払い効果発動、墓地の《追放》の効果を適用し《背徳の堕天使》を手札に加えよう」

 ゴスペル:LP7000→6000

 相手がこの決闘を始めてから初めて明確に悪態をついた。このままこっちのペースに持っていけば万々歳なんだがな、そんなことを考えながら罠カードを決闘盤へ挿していく。

 「《オパビニア》がフィールド上に存在する場合《バージェストマ》罠は手札から発動できる。俺は手札から《バージェストマ・ディノミスクス》を発動し《イシュタム》を除外し手札を一枚捨てる、チェーンして《オレノイデス》を特殊召喚、更にチェーンして《レアンコイリア》を発動し《魔知ガエル》再び墓地へ戻す」

 《バージェストマ・オレノイデス》☆2:DEF0

 《バージェストマ》限定とは言え禁止カードである《処刑人‐マキュラ》とほぼ同等の効果は強烈だ。幾重の連鎖を重ね除去、展開、墓地アドバンテージ回収が一気に行われる。マインのメインフェイズはまだ続く。

 「《魔知ガエル》除外し《粋カエル》を墓地より特殊召喚。《粋カエル》と《オレノイデス》でエクシーズ召喚。再び現れろ、《餅カエル》!更に手札から《鬼ガエル》を通常召喚!」

 このターンに入ってからマインは初めて召喚権を使用した。

 「墓地の二枚目の《魔知ガエル》を除外し二体目の《粋カエル》特殊召喚!《粋カエル》と《鬼ガエル》でエクシーズ召喚、現れろ《キャット・シャーク》!」

 《キャット・シャーク》★2:DEF500

 古代生物、カエルときて次にフィールドに現れたのは猫と鮫の混ざった可愛らしい見た目のモンスター、予想外のモンスターに観客席からどよめきが走る。召喚されてすぐに効果が発動された。

 「ORUを一つ使い場の《餅カエル》を対象として発動、ターン終了時まで攻撃力を二倍にする!」

 《餅カエル》★2:ATK2200→4400

 猫の可愛らしくも不可思議な舞に合わせてカエルのサイズがドンドン大きくなっていく。踊り終えた頃には元の二倍ほどに大きさに変化していた。巨大なカエルの眼に竜騎士の姿が映る。

 「バトルだ、《餅カエル》で《フェルグラント》に攻撃!」

 口から伸びた長い舌が騎士を絡めとり、そのまま飲み込む。モンスターがモンスターを飲み込むというエグい光景に客席から本日何度目かになる悲鳴が両者の耳に入った。

 ゴスペル:LP6000→4400

 「ターンエンドだ、この瞬間《餅カエル》の攻撃力は元に戻る」

 《餅カエル》★2:ATK4400→2200

 現時点でマインの場にはモンスターが三体、対するゴスペルの場にはモンスターも伏せも無い。手札とライフアドバンテージこそゴスペルに傾いているが現状不利なのは彼の方だ。それでもマインの中で警鐘が鳴り止まない。そしてこういう時に限って嫌な予感は良く当たる。

 胃痛が止まらない、ここまでキリキリしてくる決闘はマインには久しかった。

 「では私のターン、ドロー・・・ふむ、では全力で行かせて貰いましょう」

 「スタンバイフェイズ時に《餅カエル》の効果でデッキから《魔知ガエル》を特殊召喚」

 ここで仕掛けてくる、予想は確信へ、更に現実へと変わる。

 「《餅カエル》をリリースし相手の場に《怪粉壊獣ガダーラ》を特殊召喚」

 《怪粉壊獣ガダーラ》☆8:ATK2700

 《餅カエル》を踏み潰し、マインの場に巨大な蛾が鎮座する。ここで無効化持ちの《餅カエル》を失うのは痛かった。

 「墓地へ送られた《餅カエル》の効果で自身をエクストラデッキへと戻す」

 「しぶといですね、ですが最早防ぐものは何もありません。私は手札から《闇の誘惑》を発動、二枚ドローし手札から《虚無魔人》を除外しましょう」

 ゴスペルの除外ゾーンに新たなモンスターが加わる。《虚無魔人》が相手の手札から離れたのを確認しほっとする暇も無く更なる展開が始まろうとしていた。

 「今日は運よろしいようで、手札から《堕天使マスティマ》の効果発動、手札から《堕天使》カードを二枚捨て自身を特殊召喚」

 「なら効果にチェーンして《増殖するG》を発動する」

 これが、今マインにできる精一杯の妨害だ。《マスティマ》の効果はチェーンブロックを作るが故にチェーンしての《増殖するG》が有効なのだ。

 《堕天使マスティマ》☆7:ATK2600

 「ライフを1000払い《マスティマ》の効果を発動、墓地の《戒壇》の効果を適用、《イシュタム》を蘇生。更にライフを1000払い《イシュタム》の効果発動、墓地の《背徳の堕天使》の効果を適用する。破壊するのは《魔知ガエル》にしましょう」

 ゴスペル:LP4400→3400→2400

 「破壊された《魔知ガエル》の効果で墓地の《鬼ガエル》を手札に加える」

 破壊された《魔知ガエル》の効果分も含め計三枚の手札がマインの手元に出来上がるも、その中に事態を打開できる《バージェストマ》罠カードは一枚も無い。それを知ってか知らずか、ゴスペルは更に畳みかける。

 「二体の《堕天使》をリリースしアドバンス召喚、現れろ、《大天使クリスティア》!」

 《大天使クリスティア》☆8:ATK2800

 先程までの堕天使達とは打って変わり神々しい威光を纏う天使がフィールドへと降り立つ。その雄姿にマインは苦い顔を隠せない、それもその筈《クリスティア》がフィールドに存在する間、一切の特殊召喚が行えないのだ。特殊召喚を多用するマインのデッキには天敵といって差し支え無い。

 「バトル、《クリスティア》で《オパビニア》に攻撃しましょう」

 振り下ろされた裁きの雷が、古代生物を灰塵へと帰させた。

 「私はこれでターンエンド」

 絶望的な盤面だ、一切の特殊召喚を封じられ手札には直接の解決手段となる罠は無し。幸い《キャット・シャーク》は自身の効果で戦闘破壊はされないが解決札が来た瞬間にもうアウトだ。打点も壊獣含めてどれも大天使に負けている。深く溜息を吐いた。

 ふとマインは思い返す、相手は全力を出したが自分も全力を出したのか、まだだろうと自答する。相手の言う通りまだ罠で魔法罠ゾーンを埋めていないし『アイツ』も出してない。

 海賊団の仲間達の期待を背負っている、仲間が今の自分を見ている、ならこのドローに賭けてもいいじゃないか、そう思うと不思議と負ける気がしなくなった。

「俺のターン!」

 この引きに全てがかかっている。

「ドロー!」

 引いたカードに目を落とす、彼が目にしたのはリーダーがくれた、そしてこの状況では最高のカードだった。

 ──どうだ、お前さんにはピッタリのカードだろ?──

 リーダーの声がどこからか聞こえた気がした。

 「アンタには感謝するぜ、リーダー」

 誰にも聞こえぬよう、蚊の鳴き声程の小声でつぶやいた。

 「俺はカードをモンスターゾーンに一枚、魔法罠ゾーンに二枚伏せ《ガダーラ》を守備表示に変更、そして手札から《命削りの宝札》を発動!デッキから三枚ドローさせて貰う!」

 《怪粉壊獣ガダーラ》☆8:ATK2700→DEF1600

 「ここで《命削り》だと!?」

  いつもの口調を忘れる程にゴスペルは狼狽えた。《命削りの宝札》、最大三枚までドローできるという一見すれば禁止カード《強欲な壺》以上のドローソースだが代償として発動ターン中特殊召喚不可、エンドフェイズ時に手札を捨てるという普通では使用を躊躇するデメリットを持つ。故にマインの罠の比率の高いデッキとは相性が良く、加えて特殊召喚できない現状では最高の状況打開策への鍵と成りうる。

 ドローした三枚に目を通し確信する、全て罠カード、マインの脳内で勝利への方程式が新たに組み上げられていく。流れるような手つきでカードを決闘盤の魔法罠ゾーンへと配置していく。

 「三枚伏せてターンエンド!」

 威勢よくターン終了宣言をした。魔法罠ゾーンが1ターンにして全てカードで埋まる光景は観客席の見る目を奪った。

 対するゴスペルは心底穏やかでは無かった。あれ程の絶望的状況から一気にボードアドバンテージを盛り返されたのだ。全て罠カード、《フォース》系罠を警戒し攻撃すら躊躇してしまう。

 手札も現状ハンドレス、しかもこの盤面に対する最高の回答である《ハーピィの羽根帚》は《強欲で貪欲な壺》のコストで除外された。

 「私のターン、ドロー」

 ドローしたのは《増殖するG》、現状では役に立たないカードに苛立ちを隠せない。運が、全て相手へと傾いているのをゴスペルは理解しだしていた。

 「バトル《クリスティア》で《ガダーラ》を攻撃、ターンエンド」

 「よし俺のターンだな、スタンバイフェイズ時に《ブレイクスルー・スキル》を発動、《クリスティア》の効果を無効化する」

 「ならばチェーンして《増殖するG》を発動!」

 無効化したなら、大量に展開する筈だ、そう踏んでの発動だった。0にさえなければ盛り返した手札で何とか出来る、まだデッキには《幽鬼うさぎ》と《浮幽さくら》が残っている、それさえ引ければ《餅カエル》や《聖騎士セイントレア》程度なら何とかなる筈だ。

 「メイン、先ず《エクシーズ・リボーン》を発動しこのカードをORUにして《オパビニア》を蘇生、更にチェーンして墓地より《オレノイデス》を特殊召喚。《オパビニア》の効果を使い《バージェストマ・カナディア》を手札に加える。更に《バージェストマ・ピカイア》を発動し手札の《カナディア》を捨て2ドロー、チェーンして《レアンコイリア》を特殊召喚」

 「《レアンコイリア》の特殊召喚にチェーンして手札を一枚捨て《カオスハンター》の効果を発動し──」

 「悪いが通させない、《神の通告》を発動し無効にする!」

 「──ッッウ!?」

 マイン:LP2700→1200

 何だ、何が起きている、ゴスペルは困惑し平生の柔和な態度は完全に崩れ去っていた。《ブレスル》までは読めた、それでも展開阻害用兼壁の《カオスハンター》まで阻止されるのは予想外だった。手札アドバンテージ補充と盤面復活、自己防衛をほぼ全て罠でやってのけたのだ。これが『罠使いのマイン』の真の実力か、眼前にいる相手への畏怖の念がゴスペルの背筋を震わせる。しかしこれもまだ序の口に過ぎない。

 「伏せていた《鬼ガエル》を反転召喚し《鬼ガエル》《オレノイデス》《レアンコイリア》の三体でオーバーレイネットワークを構築!失われた蒼界への扉開く時、古の海王が深淵より蘇る!エクシーズ召喚、浮上せよ、ランク2《バージェストマ・アノマロカリス》!」

 《バージェストマ・アノマロカリス》★2:ATK2400

 深い海の色に似た蒼い光渦の爆発から現れたのはマインの真の切り札、カンブリア紀最強の捕食者の名と姿を冠した海色のモンスターだ。ランク2とは思えない威圧感にゴスペルはたじろぎ悟る、これが自分を屠るモンスターだと。

 「《アノマロカリス》の効果発動、ORUを一つ使いフィールド上のカードを一枚破壊するぜ、破壊するのは勿論《大天使クリスティア》!」

 太古の絶対捕食者の爪が大天使を捕え、粉砕する。その直前、ゴスペルは先程引いたカードを藁にもすがる思いで発動した。

 「チェーンして《幽鬼うさぎ》を発動、《アノマロカリス》を破壊する!」

 童女の見た目をした死神が《アノマロカリス》へと鎌を振り下ろす、だが死神の鎌は海王の甲殻を貫けない。打つ手なし、この瞬間、勝敗が事実上決した。

 「モンスターの効果を受けないのはこいつも同じでね、最後の伏せカード《無謀な欲張り》を発動し2ドロー。更に墓地へ罠カードが送られた事より《アノマロカリス》の効果が発動、デッキトップをめくり罠カードなら手札に加え、それ以外なら墓地へ送る。カードは──《神の宣告》、罠カードだ、よって手札に加えさせてもらう」

 最早次のターンがあるとは思えない状況でも手抜かりなく手札を補充していく。

 「バトルだ、《アノマロカリス》でダイレクトアタック!」

 ゴスペル:LP2400→0(LOSE)

 海王の爪が間近に迫る中、ゴスペルが胸中に抱いていたのは悔恨でも恐怖でも無く満足であった。噂に聴いてからの当人と決闘したいという願いが叶ったこと、そして当人の実力を嫌と言う程思い知らされたことがゴスペルにこの期に及んで平生の笑みを浮かべさせたのだ。

 また次が有る、その時こそは彼に勝とう、それにはデッキを一から考え直す必要が有りそうだな、吹き飛ばされながら、ゴスペルはそんな事を考えていた。

 「ありがとよリーダー・・・そして俺のデッキ・・・」

 勝敗が決し、自身のモンスターも光塵となり消えていく様を見ながら、精神力の糸が切れたマインはその場でへたり込む。勝利の高揚より緊張からの開放感の方が強く感じられる。歓声が、ヤケにはっきりと聞こえる、試合中は気にもしなかったのに。

 無論これで終りでないのは重々承知だった、別の勝者との決闘が次に待ち構えている。次も、その次にも。

 だからここで休んでいる暇は無い。いつもより重い腰を持ち上げ、立ち上がる。前へ進もう、次の勝利へと手を伸ばす為に――

 

♢♢♢♢

 

 他の観客が歓声に沸く中、海賊団の面々は新入りの実力に言葉を失っていた。

 「あれが・・・新入りの実力」

 団員の誰かがやっと口を開いた。

 「絶対俺より強いぜ、《バハシャ》一枚賭けてもいい」

 「お前じゃ《バハシャ》どころかデッキ全部あげる羽目になるぜ」

 聞き慣れたガラガラ声が背後から響く、振り向くといつもみたいな笑みを振り撒くリーダーがいた。

 「あれ、リアルで用事が有る筈では?」

 団員の一人が突っ込む。

 「ああ、アレ予想より速く終わったからな。暇だからここに来てみたんだ。ちょっとタイミングが悪かったけどな、どうだい、アイツは勝ったか?」

 「ええ、勿論。ラストターンの反撃は凄まじかったっすよ」

 「そりゃあそうだろうな」

 目を瞑る、リーダーの瞼の裏に映るのは自分が彼と初めて決闘した時の情景だった。有り体に言えば大苦戦だった、《ガイオアビス》が《アノマロカリス》に粉砕されたかと思いきや、特殊召喚した《メガロアビス》がいつの間にか除外されている、そんな中で彼が勝てたのは奇跡と言っても可笑しくは無い。

 今回の大会でも相手の攻めに合わせ嵌めていく彼の戦術は今でも健在なのか、それとも別の罠活用法を使ったのかは直接試合を観ていない今の彼には分からない。知りたいが部下から聞く気にはなれなかった。この手で確かめるのが一番確実だからだ。

 「今度またアイツと決闘しようかな・・・」

 「今なんか言いましたか?」

 「いいや何でもない」

 決闘を終え、次に備えて悠々と会場から控室へ戻っていくマインの背中をリーダー含む団員達が目に焼き付けていた。




長編の方は今しばらくお待ちください


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