やっぱりコックリさんなんかやるもんじゃないね   作:hotoke 814

3 / 7
契約

初めてだった。

いくら人外だとしてもあれは最初になるであろう。恐らく。

「なんじゃ、さっきからずーっとわらわを見おって?なんじゃ惚れたんか?」

イラッ。

「今のは……なんだ……?」

「契約じゃ」

「契約?」

さっきから契約契約言ってるがわけがわからない。契約しろと言った覚えもないし、契約するぞとも言われていない。

「あれ、初めてだったんだけど」

狐の口とのとの口がくっつく。

俗に言う接吻。

もっと簡単に言うとちゅー。キスである。ちなみにのとはさっきのがはじめてのちゅーである。

「まぁまぁ、良いではないか。これでも美人な方じゃろ?わらわは」

「美人は自分で美人だって言わねぇよ…」

先程の疲れが2倍以上になって戻ってきた。キスにはストレスや疲れを軽減する効果があると聞いたことがあるが真逆だった。

「で?キスと契約の関係は?これでまだダメでした☆なんて言ったら呪うからな」

「だいじょーぶじゃ。わらわをそんじょそこらの祟と一緒にしてもらっては困るぞ」

少し頬を膨れさせ機嫌の悪そうに言う狐。黙ってりゃ綺麗なのになー。

もちろん口に出しはしない。

「細かい説明をよこせ」

「力の回復には時間がかかるのじゃ。まぁ、一ヶ月か二ヶ月くらいじゃがな?じゃが、それはわらわ単体での話じゃ。そこで必要になってくるのは祟と契約する契約者じゃ。契約する事で力を回復するのが早くなるのじゃ。まぁ、さっきのはそうじゃな、うん、突然で悪かった。しかし、早く回復する為にはしょうがなかったしな。うんうん。ただ、ちょっとキスする位でわらわの力が回復するんじゃから、そんなでもないじゃろ?ん、あぁ、そうそう契約すると大体一週間か二週間くらいじゃな。ただ、問題もちょっとあって…」

「もうええわ!」

まだ何か言いたげな狐を黙らせる。

息を荒らげながら今までにこんなに睨んだことのないくらい睨みつける。

流石にまずいと思ったのか、狐は少ししょんぼりしながら黙った。

少し頭が痛くなってきた。心做しか目もぼやけて見える。狐を見やると、のとと同じように頭が痛いのかこめかみをおさえていた。

いや、なんでだ。

「なんでお前まで頭痛そうにしてんだ」

「言ってなかったかの。今、わらわとそなたの体は繋がっておる。痛みを共有しておるのじゃ」

喋りながら少し辛そうにする狐。なるほど、痛みが共有されてるのかなるほどなるほど。

「いや、どういう事だ!?」

思考が一気に冷めていく。まるで北極にいながらさらに全裸で氷水をかけられたように思考が冷えていくのを感じた。

「説明をしようとしたらそなたが話を止めたのじゃろうが!」

わらわが怒鳴られる筋合いはないわ、と狐は拗ねてしまった。

これに対してのとはぐうの音も出なかった。実際、言おうとしていたのを一時の感情で止めてしまったのだ。これは全面的にのとが悪いと言えよう。

「じゃあこれどうすんだよ!これじゃ不便な事この上ないぞ!?」

「案ずるな。わらわもそこまで鬼ではない。私生活に影響が出ない程度にしておる」

いや、ばっちりこっちの感覚共有してたじゃねーか。

こいつの言うことは間に受けていいのかダメなのかよくわからなかった。

「とにかく私生活に影響が出ないならまぁ、百歩譲って許そう。ただし、影響が出てきたらお前のその頭についてる突起物引きちぎるからな」

そう言うとのとは狐の頭の上についている耳をそれなりに抓った。

「いたいいたいたい!耳はやめい!耳は!」

涙目で耳をつかんでいる手を叩く狐。

のとの中のドS心に火がつきそうになった。

おっと。そんなことをしてる場合じゃない。今は何時だ?

のとは狐の耳から手を離し、壁に掛かった時計を見る。ちなみに狐は開放された耳を両手でまるで子猫をあやすかの様に撫でていた。

時刻は7時50分前後。父母ともに共働きののとは自分で家事をするのは日常茶飯事だった。

しかも今日は色々あったせいでいつもより夕飯の時間が遅くなってしまった。これから夕飯を作る気にはなれないのでこの日はコンビニのサンドイッチで片付けたのだった。

ちゃっかり狐も同じものを食べていた。

もちろん、払ったのはのとである。

 

一悶着あったが、無事翌日の朝。

のとは基本、6時には起床する。これは親が厳しいからや部活があるからではなく、中学校時代から受け継がれているいわば癖なのだ。

癖のはずなのだが…。

その日、のとが起床した時間は7時であった。いつもなら朝ご飯を食べ終え、ゆっくりしている時間帯だ。

「…やっぱ、あいつの影響とかか…?」

そんなことを考えながら顔を洗い、歯を磨く。磨き終わり、居間に行ってみると机に書置きで両親が先に出たという内容の文が書いてあった。

ここまでで、のとは一つ疑問に思うことがあった。

「あいつどこ行きやがった!?」

周りを見回すが誰もいない。居間にはのとしかいない。

洗面所やのとの部屋にいなかったならば居間かと思ったが違った。

まさか、昨日の事はすべて夢だったのだろうか。だとしたらのとはおそらく末期だろう。

「いないのならそれもそれでいいんだけどな」

そう言うとのとは朝食に取り掛かる。

と言ってもそこまで時間がある訳では無いので食パンを焼き、ジャムを塗って食べる程度。

高校生ということもあって少し足りない気もするが、我慢して制服に着替える。

着替え終わったところで上から物音が聞こえた。

「んあ?」

なんだあいつ居たのか。特に危機感もなく上の階を見やる。

すると階段からバタバタと慌ただしい音を立てて何かが降りてくる。いや、降りてくるというより落ちてくるといった方があっている気がする。

「のとぉ!!?」

狐は髪の毛の所々に寝癖をつけて降りてくるなりのとに噛み付いた。

いや、比喩ですよ?

「なんで起きた時起こしてくれないのじゃ!!??」

「だって居なかったじゃん」

「居たわ!」

目尻に涙を浮かべながら抗議してくる。何がそこまで奴を駆り立てるのかわからない。

「何がやりたいんだお前は」

ここまで言うにはなにかやりたいことがあるのだろう。すると狐は頬を赤らめて目を伏せてしまった。

なんでこいつ人間の女っぽい仕草をするんだ。

「ってか言えないようなことをする気だったのか…?」

恐る恐る聞いてみるがどうやらそれはないらしい。じゃあなんだ?

「だ、男女が2人きりで同居しとるのじゃぞ!?」

「それがどうした」

狐は「お前は一体何を言っているんだ」というような顔で見てくる。

「だ、男女の2人きりでの朝なんじゃか××や××とか××が人間の世界は普通なのじゃろ?!」

「おいやめろ!朝っぱらから放送コードギリギリなセリフを出すな!

というよりどこでそんな事を聞いたんだ…」

「お主の書物の中から見つけたのじゃ!」

「……どこにあったヤツ?」

この時、のとは背中に今までに感じたことのない寒気を感じた。

「お主のベッドの下じゃ!」

「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」

誇らしげな狐とは裏腹に頭を抱えしゃがみこむのと。

この時のとはわかった。これが本当の積みゲーなのだと。

「あ、あれは違うからな?!あ、あれは、そう!了のなんだ!決して俺のじゃないからな?!」

こんな事言ったらそれは僕のです。勘弁してください。と言っているようなものじゃないか。のとは弁明してる最中に気づいたのだった。

「まぁ、お主も"ししゅんき"じゃからな。わらわは気にはせん。ただ…その…そういう事は程々にな…?」

どうやらそういうことらしい。助かったのか助かってないのかわからなかった。

「そういや、今日学校だけど付いてくるのか?」

「もちろんじゃ」

「ですよねー…」

とりあえずこいつは俺にしか見えないから、と自分の中で決めつけて学校に行くことに決めた。

時計を見るとゾッとした。いつもなら既に出発している時刻だった。

「やばい!もう出るぞ!」

「わ、わかったのじゃ」

のとは急いでカバンを持ち、家を出ていった。

 

 

「ま、間に合ったぁ…」

高校の自分のクラスに着くなり自分の席に突っ伏した。そこから顔を上げ周りを見回すといつもの見慣れた顔の中に、別の意味で見慣れた顔もあった。やっぱり来てるんか。

さっきから浮きながらあっちへふらふらこっちへふらふらと狐はふよふよしていた。

他の連中の反応から察するに狐の姿が見えるやつはいないらしい。

「おっはよー、のと」

聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。振り返らなくてもわかるので振り返らずに答える。

「てめーは朝から元気だな、了」

そう答えると了は不機嫌そうな様子でのとの前の席に座った。

「んだよ、のと〜。挨拶したんだから挨拶くらい返せよな〜…まぁ、いつも通りで良かったわ」

「…いつも通りに見えるか…?」

恨めしい目を了に向けるが、了にとってはそんなもの何処吹く風。

「いつも通りにしか見えねぇけど?」

平然とそんなことを言う始末である。

元からバカと鈍感を足して百をかけたような奴だから今更どうしょうもないとのとはわかっていた。

「…なんでもねぇ」

机に突っ伏した状態で答える。

ちらっと横目で見てみたが狐は相変わらずふよふよしていた。

それを見てさらに盛大ため息をつく。

「なになに?なんか悩み事〜?」

今度は前から声が聞こえた。

了にしては高い声。男というより女に近い声。

突っ伏した状態から前を見ると、そこには了の他に見知った顔があった。

入雲葉桜。

いつも、了と話していると会話に乱入してくるのが彼女だ。

そこまできわどい会話をしてるわけではないので、普通に会話をしている。

そんな関係だが、1年から同じクラスで結構仲も良い。

「なんだ、葉桜か…」

「なんだとは何よ、なんだとは」

「別に何でもねーよ」

「相変わらず気怠げねぇ、もうちょっとハキハキしなさいよ」

そう言って葉桜は背中を叩いてくる。

「そうだぞ、朝が苦手なのはわかるがよー」

「わかったわかった…」

朝のテンション高め了達にはどうも追いつけないのとであった。

 




毎度毎度遅れてしまって申し訳ないです…。はい、ほとけです。今回は契約のキッスの後と学校での生活を少し書かせてもらいました。次回あたりでは新キャラ出せたらいいなと…。では、次回お会いしましょう!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。