鎧も盾もいらねぇ早く動きてーんだ!デカい武器以外は重いものいらねー!ってゆうのがコンセプトですから。
なので今作の狩人さんもカンストレベル帯では紙装甲です。
蒼の薔薇の、女忍者ティアと女戦士ガガーランは今回、黄金の王女ラナーから話を聞いた我らがリーダー、ラキュースの命で、ガゼフを救ったという男がどんな男か調査するためエランテルに来ていた。
他の3人は別件で動いており、チームを分けてまでやる必要あんのか?というガガーランの質問にラキュースが
「…ガゼフ戦士長程の人が、敵に回したらこの国が滅ぶという人よ。もしかしたら私達の最大の敵になるかもしれない。でも、無理はしないでいいわ。エランテルの組合長に話を聞くだけでも良い。ヤブヘビになっなら元も子もないからね。…お願い!ガガーラン、ティア!」
と、いつになく真剣な表情で言われては了解するほか無かった。
「…それがアンデッド退治する羽目になるとはねぇ!」
そうウォーピックを豪快に振り回し、アンデッドを吹き飛ばしながら言うガガーラン。
「…ガガーランがやる気マンマンで俺がやるぜ!って言ってたのに。」
そう忍術でアンデッドを焼き払いながら答えるティア
「仕方ねーだろ!ミスリルが2チームしかいねーであとは出払ってる!他には低位の冒険者しかいねーっつーんだから。俺達ゃアダマンタイトだからな!」
「うん。それに…」
「ああ、大量っつーわりには、そこまでの数じゃねー!さっさと終わらして童貞でも探しに行くぜ!」
「エランテルには美味しそうな女の子がいっぱいいた。頑張る。」
そんなごっつい話をした2人の視界の端に、地面から、いや恐らく地下から出てきたと思われる人影が映った。
「…なんだありゃ?女?」
「金髪の女、黒いマントに…その内側はビキニアーマー!!」
そう興奮したティアとは違い、ガガーランは様子がおかしい事に気づく。よろめき、頭を抑えて苦しそうにしている。だけでなく
「あああああ!!!」
と絶叫し始めた。
「おいおい!怪我でも……ああっ!?」
そうガガーランが心配そうに言う間に、その女は爆発した。
いや、爆発したように見えた。
その女は爆発的に巨大化し、そして見たことも無い、巨大な化け物になった。
『ギャアアアアアアアアアアアア!!!』
その化け物の咆哮を聞き直感的にガガーランとティアは
「おめえら!あいつに近づくな!!」
「あれの相手は私達以外無理!」
そう味方のエランテルの冒険者に指示を出し、走り出した。
しかし、その化け物の近くに来たとき、彼女達はその判断が間違っていた事に気づく。自分達でも無理だと。何故ならその化け物と目が合った瞬間、体が動かなくなったから。バッドステータス等ではなく、レベルの桁が違い過ぎて、目が合った時には死を覚悟、ではなく死を納得した。これじゃ死んでもしょうがない、と。
その化け物がティアを鷲掴みする。そしてそのまま化け物は自らの口にティアを持って行く。その状態でもガガーランは
「…テ、ティア…」
と、かすれた声で言うのが精一杯だった。
だがーーーー
その化け物の、ティアを鷲掴みする手にドスッ!という音と共にナイフが突き立つ。
「ギャアアアアアア!!!」
そう鳴き、ティアを手放す化け物、その化け物の足元にティアを受け止め、立っている一人の男がいた。
「吹っ飛べっ!!」
そう言い放った男の右腕から何かの触手のような物が飛び出し、化け物を後ろの、この墓地を囲んでいる壁まで吹き飛ばす。
「俺はエランテルの冒険者、ルドウイーク。君達は?」
「おめえが…あの?お、俺はガガーラン、そっちは」
「私はティア。そう、貴方がガゼフを救った人…」
そうルドウイークの腕に抱かれ答えるティア。
「俺の事をガゼフから聞いているなら話は早い。君達は他の冒険者と共にアンデッドの駆除を頼む。ここから距離を取り、アンデッドを向こうに押し込んでくれ。」
そう墓地の反対方向を指を指すルドウイーク。
「おめえはどうするんだ?」
「ルドウイークはどうするの?」
そう同時に聞かれ、ルドウイークは化け物を指さし
「彼女は俺をご指名のようだ。はぁ、やれやれ。こちらとしては不本意なんだがね。」
体制を立て直した化け物は真っ直ぐルドウイークを見て、いや睨んでいた。
「へ、そうか…任した!」
「…なんで女だって分かったの?」
「…ぇ……何となくだ!さあ、行ってくれ!」
これ以上の話は危険と判断したルドウイークは会話を打ち切る。ただエミーリアも同じだったからと決めつけていただけだ。
その背中を見送りながら「助けてもらったお礼、言えなかった。」とティアがぽつりと呟いた。
「…任されたは良いが、何故この世界にこんな獣が?あそこから出てきたのか?」
チラッと地下への入り口のような穴が開いた場所を見る。その視線を獣の頭部に移し、
「あの角による攻撃には注意しないとな。あんなものエミーリアには生えて無かった。後はほとんど一緒か…後はこの場所では…月光の聖剣のスキルは使えないな…それに加速もマズいか…」
この墓地を出れば、民家も近くに有る、しかも回りを冒険者が囲むように戦っているのだ。月光の聖剣のスキルの実験はあの一回きり、流石に使った場合他への被害は免れ無いだろう。
それに加速もマズい。余りに攪乱し、獣のターゲットが他の冒険者に移った場合…止められない。つまり…
「ふふ…、なんて不利な戦いだ…」
と自虐的に笑うルドウイークに向かい獣が一鳴きし、猛然と突っ込んできた。
激闘がはじまった。
恐らく、ユグドラシルに獣狩りの狩人という職業が合った場合、アタッカーが一番向いているだろう。超火力と抜群の機動力により、味方のタンクが抑えている間につかず離れずのヒットアンドアウェイで攻撃を叩き込んで行き、隙を見てパリィやバックスタブからの必殺の内蔵攻撃を決める。勿論後ろの後衛から支援や回復を貰いながら。それが一番狩人の性能を活かせるだろう。
しかしーーーー
彼は今一人だ。同格のボスの攻撃を自分に引きつけ、攻撃をいなし、避けて攻撃を叩き込む。その間に回復も自分でしなければならない。狩人には防御という物が無い。全て攻撃は当たらないようにしなければならない。
何より、この世界で手に入れた、この獣でも瞬殺出来るだろうスキルの封印、そして元々持っていた狩人の業の封印。更には銃も封印。
…それはもう、縛りプレイと言って良かった。
その難行に挑んでいたルドウイークだが、ようやく獣の攻撃パターンを見抜き本格的に攻撃を叩き込んでいた。
「…やはりほとんどエミーリアと同じ能力、しかし…異様にタフだが…っ!あぶねっ!」
この世界はユグドラシルの法則で、システムで回っている。恐らくこの獣もユグドラシル側のフィールドボスという扱いになっているのだろう。集団で戦うこと前提のDMMORPGのフィールドボスと、ソロ前提のbloodborneのボスでは耐久力も違ってくるだろう。
そんな難行にようやく変化が訪れた。
順調に攻撃を、一方的に叩き込んでいたルドウイークだったが、先程までと違う行動を獣が取った事で、一端バックステップで離れる。
「…何だ?何を?」
ダーン!ダーン!と獣が両手を握りしめ地面に叩きつけているのだ。まるで悔しがっているように。
「な、何が…あ!?」
それを困惑しながら見ていたルドウイークだったが、急にその獣が後ろに大きく飛び退いた事で、追いかけようとする。この場から逃げると思ったからだ。だが、着地した獣のポーズを見て間違いに気づく。
クラウチングスタート。陸上競技の短距離走を見たことが有る人ならそう例えただろう。これ以上無い前傾姿勢で有り、逃げるのではなく、明確に前に走ると告げていた。
「…これは…はは、なんて恐ろしさだ…くそ!前に行くわけにはいかないか…」
何しろいつ突っ込んでくるか分からない巨大な獣とこれ以上距離を詰めるのは悪手だ、まず避けられない。
そこで、ルドウイークは獣が何かブツブツ呟いている事に気づく。が遠すぎて何と言っているかまでは分からない。呟き終えると、ググッと更に力を込めて前傾姿勢になる獣
「…さーて、集中しろ!俺!」
獣がスタートを切る。それは今まで見てきたどんな突進よりも早く、ルドウイークでさえ見たことも無いスピードだった。ルドウイークが横にステップを踏めたのは今までの経験等をふまえても自分自身を誉めてやりたくなる見事なタイミングだった。
しかし、そのステップの最中、有り得ない物を目撃する。
獣がその巨大な両腕を地面に叩きつけ急ブレーキをかけたかと思うと、その反動で此方に向き直り、そこでまた何かを呟いた。今度ははっきりとルドウイークの元までそれが聞こえてきた。
「りゅう…すい…かそく!」
それはルドウイークの良く知る、ゲールマンの加速の業、それに近い技なのだろう。ルドウイークから見ても有り得ない、凄まじい結果を生み出した。
一度は急ブレーキで減速したスピードがまた先程と同じ、いやそれ以上のスピードになり、ルドウイークに突っ込んできた。ルドウイークはまだステップ中、当然避けられない。
「う、嘘だろ…はは…がぁっ!!!」
あまりの有り得なさに思わず笑い、そのまま喰らう、何とか体をひねり角の刺突だけは避けたがその巨体の質量をモロに受け吹き飛ばされる。
「…ぐ、い、いってぇ。生きてるのが奇跡だな…」
そう言いながら立ち上がるルドウイーク。輸血液を体に叩き込み、獣を見据える。
獣はまたあのポーズをとっていた。
「…ふふ、良く分かった。アレは回避は不可能だ。…くそっ!」
ルドウイークは新たに武器を取り出す。月光の聖剣ではない、もう一本の聖剣。自身の、いや英雄ルドウイークの名を冠した聖剣。ルドウイークの聖剣を。
そのロングソードを背中の巨大な鞘に叩き込み、一つの特大剣にする。
ルドウイークの聖剣は恐らく高レベル帯では最も威力の高い武器になるだろう。ルドウイーク自身も強敵と戦うならこれを選ぶというぐらい、自分の信頼する武器だった。
「回避が無理なら迎撃だ。その角をへし折ってやる。…来い!」
そしてまた突っ込んでくる獣。ルドウイークは封印と決めていた『加速』を使用した。避ける為では無く、剣の振りを早くするために。
ヤーナムにいた時はこの加速はステップとローリングにしか効果が無かったが、この世界では全ての行動に効果が付与されるようになっていたのだ。あのスレイン法国の騎士の伏兵を倒した時にはとても驚いた。
しかしーーーー
またも獣が何かを呟く
「ふ…らく、ようさい!」
ルドウイークの聖剣と獣の頭部から垂直に生えた角がぶつかる。
…はじかれたのはルドウイークの聖剣だった。
「こんな細い角に俺の全力の一撃が!!っぐはぁっ!!」
ルドウイークは左肩に凄まじい衝撃を感じながら再び吹き飛ばされる。
墓石を幾つか砕きようやく止まる。
まだ、ルドウイークの心は折れてはいない。だが、…体は限界だった。
右手にかろうじて握っていた聖剣を杖代わりに立ち上がろうとするが右手の力だけでは無理だった。左手は感覚が無いので見てみると肩口から先が無くなっていた。
「…ま、負けるわけには…」
そう、掠れた声で自分を鼓舞し立ち上がろうとし何とか膝立ちになると、横から声を掛けられた。
「もう…立つんじゃねえ。」
ルドウイークは目だけを動かし、その人物を見ると、ガガーランだった。
「に、げろ!」
「馬鹿やろう。ルーキーのお前にこんなカッコいい所見せられて、アダマンタイトの俺が逃げるわけにゃ…いかねえんだよ!!」
すると後ろから大勢の足音が聞こえる、エランテルの冒険者達だ。
「そ、そうだ!」
「ルーキーや余所の冒険者が戦ってんだ!」
「俺達エランテルの、冒険者が逃げる訳には行くか!」
「おめえら、行くぞ!」
そう言い、ルドウイークの横をガガーランを先頭に通り過ぎていく。
獣を見ると、三度あのポーズをしている。…その顔は笑っているように見えた。
「に、逃げて、くれ…」
そう必死に冒険者に頼むルドウイークの視線を遮る人物がいた。
「さっきは助けてくれて有り難う。これで貸し借り無しね。」
ティアだった。
「に、げろ…、頼むから…!」
と言うとティアはルドウイークのそばにより、ルドウイークの目線に合わせるよう膝立ちになる。
そしてティアはニコリと可憐な笑顔になると
「さっきは久し振りに、いや初めて男にときめいた。そんな男の人を置いて逃げるのは、絶対にイヤ!」
そう言い放ち、会話は終わりと、ルドウイークを隠すように獣の方に向き直るティア。
(…こんな時に言われても…嬉しくないんだよ!…くそったれ!動け!俺の体!)
獣がスタートを切った爆発音が聞こえ、その次に冒険者達の短い悲鳴を聞き、ルドウイークは…意識を手放した。
(俺は死んだのか…)
ルドウイークは闇の中にいた。
(何も出来ず、誰も守れず、死ぬのか…)
「動いてくれ俺の体!あの獣を放っておいたらエランテルが!」
そう叫ぶルドウイークの頭の中に音声が聞こえた。
『CONGRATULATION!この世界での初めての死亡かつアナタの心が折れていない事が確認されたことにより、世界級(ワールド)アイテム「狩人の徴」を入手しました』
「…何だと!?一体何が!?」
そんなルドウイークの声を遮るように再び違う内容の音声が聞こえる。
『なお、この世界級アイテムは入手と同時に効果を発揮します。アナタが最後に灯りに触れてから死亡するまでの事柄をアナタの夢にし、再び目覚めをやり直します。なお、初回は狩人の夢の工房での目覚めとなります』
その音声が途切れ、ルドウイークが目を開けるとそこは本当に狩人の工房の前だった。左手もちゃんと有る。呆然としていると
「あら?ルドウイーク様、先程お出掛けになったばかりでどうしたのですか?」
という人形の声が聞こえてきた。
微(び)じゃなくて、徴(しるし)です。私は最初、「かりゅうどのび」とずっと読んでました…
狩人の徴はMMOに持ち込むとぶっちゃけチートレベルだと思うのでブラボでは任意で使えましたが今作では死亡したとき限定です。そのチート具合は次の話で人形ちゃんに説明してもらいます。