HUNTER LORD   作:なかじめ

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冒険者
12話 冒険者


冒険者組合にはその日、珍しく大勢の冒険者達が詰めていた。別に何が有るわけでも無く、たまたま仕事の合間という物がかち合っただけなのだが、低位からエランテルでは最高位のミスリルプレートまで揃うというのは余り無い珍しい光景だ。その冒険者組合では、滅多に会わない他のチームの冒険者同士で談笑するもの、情報交換するもの、我関せずのもの等、色々な光景が広がっていた。

 

そんな冒険者組合に、とある男が入って来たのは昼というには、やや早い10時半程の事だった。

その男を見た冒険者達の反応は大体、低位、中位、高位と三つに分けられる。低位のものは、立派な服だな。とか俺もいつかあんな格好してみたいな。などの比較的可愛らしいものだ。中位のものの反応は、一言でいうなら嫉妬。その男にではなく、自分たちより高位の冒険者達に対するもの。あいつらさえ居なければ自分たちがこの貴族の依頼を受けられたのに。というものだ。

そして高位、彼等は既に自分たちをどう売り込むか、この依頼の報酬で何をするか、という捕らぬ狸の皮算用というのが相応しい反応だった。というのも、この入って来た男は立派な、というにはいささか足りない程の、見事な装束を着込んでおり、帽子の下から見える顔は若い。つまり、若い金持ち貴族だ、という結論だった。若い金持ち貴族は大体、見栄っ張りであり、他の貴族に笑われないよう、非常に金払いがいい、それでいてそこまで危険な場所にはいかない、稼げる美味しい仕事なのだ。

そんな貴族が冒険者組合に来るのは大体が依頼をするためで、一割程度がそれ以外の、彼等冒険者からすると、非常に嫌な来訪理由の可能性も有る。しかし、この貴族は武器を持っておらず、これも見事な、というだけでは足りない程の杖をついており、その嫌な理由ではないと思われた。

 

「いらっしゃいませ、仕事のご依頼ですか?」

しかし、彼等の目論見は次の一言で完璧に打ち砕かれる。

 

「いや、冒険者になりに来た。」

 

その一言で、ザワリと揺らぐ冒険者組合、そして、ひそひそ話が始まる。

 

「どーせ、王都の赤いのか、青いのの話に憧れて来たんだぜ。」

「違いねぇ。すぐに嫌になって帰るだろう。あーあ、何買うか考えてたのになぁー。」

「俺らには回って来ねえって、ははは。」

 

等の諦め半分、呆れ半分といった反応がほとんどだ。いや、全部と言っていい。一名を除いて。

 

「…おい。お前ぇ、冒険者舐めてんだろ。」

ガタンと椅子を倒しながら立ち上がったのは、冒険者チームクラルグラのリーダー、イグヴァルジだった。

それにつられ、冒険者全員がさっきの男を見ると

 

「いや一人です、ええ、説明を?是非お願いします。」

 

その貴族風の男は、聞こえていないのか、わざとなのか、手帳のようなものを取り出し、受付と話し続けていた。

 

「…てんめぇ…!おい!」

 

「…。ほう、最高位がアダマンタイトか。なる程。」

 

「無視してんじゃねーーー!!!」

ついに大声を出すイグヴァルジ。やっとその男が振り向く。

 

「…?さっきから…ん?もしかして俺に言ってたのか?」

 

キョロキョロと回りを見回しながら心底不思議そうに言う男。

「…お前ぇ以外に誰がいるってんだ!ええ!?」

 

「はぁ、何をそんなに怒っているのかな?先輩殿?」

 

「お前、冒険者舐めてんだろ?そんな格好で、武器も持たず、たった一人で冒険者に、なりたいだ?そういうのが一番嫌いなんだよ、俺は!!」

 

「はぁ。ん!なる程!」

 

そう言うなり、また振り返り受付の方をむき、

 

「これは何かのテストだろう?冒険者入門か何かの。」

 

「ええ!?いや、あの、ははは。」

 

と苦笑いで答える受付。

 

「いや、受付さんも当然仕掛け役側か、教えてくれる訳ないな、すまない。」

 

またイグヴァルジの方へ向き直るその男、イグヴァルジはもう青筋で顔が埋まりそうだった。

 

「てんめぇ…この、くそ、ぐ!くぅ!」

とイライラし過ぎて言葉を忘れているようなイグヴァルジにさらに油を注ぐ男。

「で?どうすればいい?貴方をぶちのめせばいいのか?」

 

その言葉を脳に染み込ませるのにたっぷり10秒程沈黙し、

 

「はあーーーーー!!??」

 

と声を裏返して絶叫するイグヴァルジ。

 

「ちょ、おま、お前このプレートが何のプレートが分かるか?」

 

「…学科も試験するのか…それは確かミスリルプレートだな。どうだ?」

 

「そうだ!このエランテルで最高位のプレートだ!!」

 

「いや最高位はアダマンタイトだろう、さっき習ったんだ。それにミスリルとの間にオリハルコンが有るはずだ!」

と、もうクイズ感覚で答える男。

「ふー!何で、くぅぅー!!!このエランテルにはミスリルまでしかいねえんだよ!!分かるか!?つまり、このエランテルで最高位のプレートを持つ冒険者をお前はぶちのめすと言ったんだぞ!?出来ると思ってんのか!?」

 

そうまくしたてるイグヴァルジに、男は酷く冷酷に、冷静に告げる。

 

「出来るだろ。」

 

と。

 

「…はぁ?…お前はもう許さねぇ、叩きのめして叩き出してやる!」

 

「…そうか、なら、」

 

「やってやらぁーーー!!!!」

 

と、男の言葉を遮り思い切り右手で殴りつけようとするイグヴァルジ、しかしー

 

パーン、という音と共に、イグヴァルジの右手が男の左手に弾かれる。

 

ガントレットを嵌めた全力のパンチを、素手でパリィされ、棒立ちのイグヴァルジの胸元に、男は右手をすっと、回りの冒険者曰く、手が霞んで見えた。という程の張り手が入る。

 

バチーンという破裂音と共に、組合の出入り口に向かい吹き飛ぶイグヴァルジ、出入り口の扉を突き破り、そこでやっと停止した。

冒険者達がどよめき、外からは悲鳴が上がる。

 

その貴族風の男、ルドウイークはこう思った。

(…どうしてこうなった…。え?俺が悪いのか?)

 

 

 

ルドウイークは軽く押して尻餅を付かせれば実力差を理解してくれるかな?程度にしか考えていなかった。しかし、やはり何時もの銃や先触れパリィと左手での払いのけパリィという違いは有るが、パリィしたあとの内蔵攻撃という、一連の流れが体に染み込み過ぎているのだろう。手加減してポンと押して尻餅を付かせるつもりが、ポンと言う音はバチーンという、重い破裂音に変わり、尻餅をつくはずのイグヴァルジは、気づけば「かひゅう!」という肺の中の空気を吐き出す声と共に出入り口の扉を突き破り消えて行った。ようは、手加減が全く足りなかった。

 

「…、え、えっと、君達は彼の冒険者仲間かな?」

 

と、とりあえずさっきのイグヴァルジという男が倒したらしき椅子のあるテーブルに腰掛けていた、他の冒険者に、声をかけてみる。

 

「え、あ、あ、はい。」

 

(…これは完全に怯えられてないか?不味いな、ネムに他の冒険者と仲良くしろと言われていたのに…)

 

「んん!あー彼の介抱を頼んでもいいだろうか?」

 

「も、勿論です、はい。」

 

と駆け出して行くクラルグラの他のメンバー。

「あっと!ちょっと待ってくれ!!」

急に呼び止められビクッとこっちに振り向く。

(さっきから介抱を頼むと言ったり待てといったりゴメンナサイ…)

 

「んー、彼が目を覚ましたら、大人気ない対応をして済まなかったと、ルドウイークが言っていたと伝えてくれ。あとその扉の修理代はお詫びに此方で払っておこう。君達も済まなかったな。」

 

「いえ、とんでもないです。こちらこそすみませんでした。彼は任してください。」

 

(やっとまともな反応に…。どうやらテストだと思ったのは勘違いか。大怪我してなきゃいいが…。ん?そう言えば何か忘れているような…)

 

「…!あっ!そうだ受付さん。推薦状が有るんだった。」

 

「え?あっ!はい。どちらの方からのですか?」

 

「我が友、ガゼフ・ストロノーフからの物だ。」

 

その一言で、今日で一番冒険者組合が揺れる。その日、この男、ルドウイークが冒険者組合を揺るがしたのは何度目だろうか?

 

こんな、色々と問題だらけの1日が、今後、リエスティーゼ王国の大英雄、狩人で有り冒険者でも有る、聖剣のルドウイークの誕生した日だった。




一人ですが、チーム名というか二つ名は聖剣で行こうかと思います。
今回ルドウイークが行ったパリィは大体、ダークソウルの素手パリィ→致命だと思って頂ければ宜しいかと思います。

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