ルドウイークはガゼフと別れ灯りの前に来た。来たはいいのだが
「…大丈夫なのか?本当に帰れるんだろうな?」
と不安になり灯りの回りにいる使者達に聞いてみるが、当然返事は無い。元々コミュニケーションが取れる相手でないし、期待してはいなかったが。
「…まあ、行くしかないか…よし。」
と覚悟を決めて手を灯りにかざす。すると遠くから、
『ガゼフさん!ルドウイーク様はどうしたんですか!?なんで1人で帰って来ちゃったんですか!!』
とエモット姉妹の元気な声が聞こえてきた。
「…やっべぇ!まだ無事を伝えて無かった…先にエンリ達に…!?」
そこまで言った所でスゥーっと景色が薄くなり、(あっ。)と思った時には見慣れた光景が眼前に広がっていた。
「お帰りなさいませ。そしてお久しぶりです。ルドウイーク様。」
「…ああ、ただいま。人形。しかし…本当に帰って来れるとは、本当にこの世界はどうなっているんだ…?」
「そのご説明を致しましょうか?」
「え?出来るのか?」
「はい。ゲールマン様がいらっしゃらない今、狩人の夢の助言者の役割は私に移行しました。普く世界の意志を、貴方にお伝えしましょう。」
「…!是非お願いしよう。」
あんな爺より、人形とは言え美人にヒントを貰った方がやる気も出るよな、等と思いながら、そう返事をした。
人形からの説明を掻い摘まむと、
元々、この世界では、人間は食物連鎖でいえば草食動物等と同じ、かなり低位の存在だった。しかし、過去に数多くのプレイヤーという存在がこの世界に転位し、人間を救ったのだという。そのプレイヤーの中にはルドウイークに言わせると「クズで救いようがない」と言えるプレイヤーもいたが、中には「凄い人達だ」と思う存在もいた。しかし、今現在はそのプレイヤーという神の力を持つ物達の世界が崩壊し、来訪者は消えた。しかし、彼等の残した遺産は数多く残っており、ルドウイークを呼んだのもその残した遺産の力が働いたのだという。
ちなみにそのプレイヤー達の神の世界はルドウイークの創造主であるプレイヤーの世界とは別の世界だという。だから安心して下さい、と。
別に俺は自分の創造主の心配なんかしていない!と若干ツンデレっぽい事を思いつつルドウイークは気になった事を聞く。
「…しかし、なんで君がそれを知っている?」
「この『狩人の工房』、それ自体がその神の遺産により形作られているからです。この狩人の工房は貴方に必要な物。しかし、この世界に呼ばれたのは貴方だけ。それでは貴方は闘えません。貴方をこの世界に呼んだのは複数の神の遺産の力なのです。その神の遺産に願いを頼んだ方はこう願ったのです。『永遠に血に狂った獣を狩る狩人をこの世界に』と。頼まれた神の遺産は困りました、神々の世界は崩壊し、神は呼べません。別の世界から狩人を呼ぶのには自分の力では足りないのです。しかし、その神の遺産のすぐ近くに『世界の仕組みを変えてしまう程の』神の遺産が偶然にも揃っていたのです。両者は力を揃え狩人を呼ぶ事にしました。最後の所持者、哀れな老婆の只一つの願いの為に。」
そこまで一気に話す人形、ルドウイークは途中から絶句し、何も言葉を挟め無かった。そして恐らく、神の遺産、あくまで人では無く『物』をまるで意志の有る人間のように話すのは、自分と同じ『物』に感情移入しているのだろう。
「そして、貴方の力を万全に、十二分に発揮するため、この狩人の夢、工房、そしてあの使者の方々もこの世界に招かれたのです。私には貴方への説明役も兼ねて。」
もしユグドラシルプレイヤーがこの話を聞いたら、まず間違いなく、絶対に、口を合わせてこういうだろう。
ぎゃああああ!!!!勿体無えええええええ!!!!!
と。『世界の仕組みを変えてしまう程の』アイテムなど間違いなくワールドアイテムしかなく、下手をすれば二十の内のいずれか、だと思われる。
しかし、ルドウイークにはそんな事知る由も無く、
「…なる程…凄まじい話だな。俺は託されたのか。」
と言うのが精一杯だった。
「はい。貴方にはこの世界でも、血に狂った獣達を狩っていただきます。そして、それが一番、貴方の為になります。」
「だな。結局俺にはそれしか出来ない、さもなきゃどこかの国の軍隊で大量殺人の英雄だ。やはり俺はどこかの国の軍隊より、冒険者になった方が良いようだ。」
「私もそう思います。そしてこの工房に帰る為の灯りは、貴方に必要の有る場所に灯っているはずです。」
「…そいつはご丁寧に…随分と俺に都合の良い世界だ事で。」
と肩をすくめ冗談めかして答えると
「はい。この世界は貴方に都合の良い世界に作り替えられたのです。」
と、とても怖い返し方をされ、再び絶句するルドウイーク。
(…可愛い顔してさらっと怖い事言うな。悪気は全く無いんだろうが…無いんだよな?)
「説明は以上です。質問は有りますか?」
「…ん?今は思い浮かばないな。何か有ればその時に頼もう。…とりあえずこの世界でも宜しくな。人形。」
「はい。此方こそ宜しくお願いします。」
ニコリと。そうとても美しい笑顔で返事をされドキッとしたのは表に出すのをなんとか我慢する。
本当はかなり気になるキーワードである『永遠』や『スキル』等、質問するべき事が有ったのだが他にも凄い話ばかりで、頭から完全に抜けてしまっていた。
「…さて、やるべき事をやって早くエモット姉妹を安心させよう…ん?そう言えばここに来てる時外はどうなっているんだ?」
「外の時間は止まっています。あくまでここは外から隔離された場所。あくまでここは夢の世界。気になさる必要は有りません。」
「ああ、そうですか…ははは…それは都合が良いなぁ…」
(どこまで!どこまで俺に都合の良い世界なんだ!ヤバい!プレッシャーが半端じゃ無いんだがっ!!)
と、やりとりをしつつ、やりたかった事をやり始める。まずは所持品だ、とにかく保管箱の中身が手持ちの、所持品に突っ込まれていた為、必要な物とそうでないものを、徹底的に分ける。
「…これもゴミ、こんなゴミ血晶いらん、HPマイナスとかゴミの中のゴミ!」
という具合で。そうしてやっていると
「…ん?狩人の徴が無い?確かな徴も?」
狩人の徴は血の意志(経験値)を失う事で灯りの場所に転位するもので無限に使用できる、確かな徴は一回につき一つと回数制限が有るが血の意志を失わないというアイテムだった。
「問題有りません。ルドウイーク様、狩人の徴は無くなってはおりません、貴方の中に確かに有りますから。」
「人形、分かった。君が言うんなら大丈夫だな。」
「はい。大丈夫です。ルドウイーク様。」
(…え?どういう意味だ?俺の中には?貴方は徴なんて無くてもちゃんと狩人ですよ、という事か?…まあいいか、1人で戦うならまだしも、この世界では他の人間も共に戦う事も有るだろう。一人で転位して避難しても周りは置き去り、では意味が無いしな。)
そう納得し、所持品の整理を終えると今度は持てるだけの消耗品を買いに使者の所に足を向ける。
ルドウイークは勘違いしていた。狩人の徴の本当の能力を。ワープ、転位等するものでは無く、その真の能力は、灯りで目覚めてから使った時点までの全ての事を夢にして、再び灯りで目覚めをやり直すアイテムだった。
「よーし、これで大体買い物は終わったか。んー?あれ?何でこんなゴミアイテムの所持数が増えてるんだ?」
輝く硬貨、それはヤーナムでは地面に撒いて道しるべぐらいでしか使い道が無いアイテムだった。それが今までは所持品99、保管箱99。それが限界だったはずなのに今では相当な量、他のアイテムとは別枠でインベントリに入れるスペースが有った。
「…これ、今気づいたが金貨…なのか?これが使えれば外では金に困らないな。帰ったら村長に聞いてみよう。」
「今日はこのあとどうされるのですか?」
「とりあえず武器の修理もしたし、現実に帰って向こうで休むさ。というか、ここに俺がいたら向こうの時間が進まないんだろ?」
「…そうですね、その通りです。また来てくれますか?」
「ああ、勿論。」
(…え?今残念そうにしてなかったか!?これは…!いや、気のせいだ、気のせい!)
「じゃあな、人形!…に使者!行ってくる!」
「はい。行ってらっしゃいませ!ルドウイーク様!」
そうして、現実に戻り、エモット姉妹に、『心配してたのに!!』とめちゃめちゃ怒られたルドウイークだった。
次の話でカルネ村にサヨナラバイバイ!出来そう…いやする!
ここまで書いて、0話に伏線を確認しに行った所…無かった。書いて無かった…orz
恥ずかしい!…やっぱり初小説で伏線張ろうと言うのが背伸びし過ぎました…なので一応書き足しました。