HUNTER LORD   作:なかじめ

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長い…長くない?


9話 月光の使い手

「どうし(まし)た!?ルドウイーク殿(様)!?」

 

村長とストロノーフはハモってそう聞いてきた。

 

「え?い、いや、それなんだが。」

灯りの方を指すルドウイーク。

(…おかしい、確かに灯りを見つけたのは嬉しいし、びっくりしたが、何で俺はあんな大声を?…いや、何だか灯りを見つけたら、『喜ばなければいけない』と思ったな、何でだ?)

 

「…いや、何だ?虫でいるのか?ルドウイーク殿。何も無いが。」

 

「え?いや…、そうです。今デカい蜂がブーンと」

(…まさか、俺にしか見えないのか!?いや考えても見ればそうか。こんな風に全く隠す気も無く各地に有れば、イタズラされたり、壊されたり面倒だものな。)

 

「…そうか。では、おい!その捕虜の所に行って尋問するぞ!どこの国、目的、洗いざらい吐かせる!ルドウイーク殿はどうする?」

 

「私も聞いても?」

 

「君が捕らえた捕虜だ、勿論いいとも。それに君が一緒なら、余計に怯えて喋ってくれそうだ!ははは!」

 

「そう言う事なら付き合いましょう。ですが、先に行って始めていて下さい。少し、外の風に当たって心を落ち着けてから行きます。」

 

「…、ああ分かった。では。」

 

ガゼフ達が去って行くのを見送り、灯りの所にいく。ガゼフが去り際に

「英雄殿も、蜂は怖いのか?気を落ち着ける程?…分からん物だな…ふふ。」

等と言っていたが聞こえていないフリをした。

(…さて、行ったか、取りあえず灯りを付けてみるか。)

 

灯りの目の前まで来ると、唐突に自分の頭の中に新しい情報が流れてくるような、何かが頭に新しく書き込まれたような幸福なような不快なような気持ち悪い感覚がルドウイークを襲う。

(…な!?なんだ!?何が…!)

 

確かめるべく、自分の内側に意識を向けるルドウイーク、するとさも当然のようにその情報が見つかる

『新しいスキルがアンロックされました!』

 

『狩人の灯り』

効果ー狩人の工房に帰る灯りを点ける事が出来ます。

アンロック条件、職業が獣狩りの狩人の状態で灯りに近づく

(…新しい情報だけど…もう知ってるよ…。)

なんなんだよ、と愚痴りながらいつも通りにパチンと指を弾くとポーンと音がし灯りがつく。

 

「…はぁ、やっと見つけたぞ。さて、一度工房に帰って……ん?」

 

何やら遠くに人影がチラホラ見える。

 

「…今日はこの村は千客万来だな。やれやれ。取りあえず灯りは点けたし、先にこちらをどうにかするか。」

 

そう一人ごち、ガゼフの所に向かう。

 

 

「おお!ルドウイーク殿、こいつらはバハルス帝国では無く、スレイン法国の者らしい!しかし、紐を外したいのだが、解けないのだ。固すぎてどうにもならん。」

見ると泣きながら紐を外してくれと、懇願しているベリュースがいた。

(…まあ、俺の力で無理矢理縛ったからなぁ。そろそろ外してやるか。)

紐を外しながらガゼフにさっきの事を報告する。

「そのスレイン法国の連中がまたお越しだ。人気者は辛いな。あなたを追っかけ回して居たようだぞ、ガゼフ殿。」

「何!?至急確認しろ!」

 

「村長殿…申し訳無いが、またあなたの家で村人を集め匿って貰っていいか?」

一日で何度村人は村長宅でかくれんぼしただろうか。

「いえ、すぐさま集めて、避難させます。」

「それとガゼフ達が来るときに村長宅の裏に隠していた賢王を呼んでもらえますか?」

 

「その必要は無いでござるよ!先程エンリ殿に殿の元に向かうよう言われ、この賢王、馳せ参じたでござるよ!」

 

「…。…そうか。では、お前は最終防衛ラインだ。村長宅の前を固め、我々以外は入れるな。いいな?」

 

余りのエンリの末恐ろしさに固まりながら賢王にそう指示をする。

 

 

その後は少しバタバタしたものの、村人を避難させ、ガゼフ達と一緒に村の出入り口から一番近い家の陰で話し合う。

 

「…居るな、マジックキャスターに天使か…厄介な奴らだ。」

(マジックキャスター…?魔法を使う?秘技のような物か?)

「…俺が居た所では秘技、いやマジックキャスターと壁役の前衛が揃った敵に、同数の戦士で挑むのは狂気の沙汰だったんだが…此方では違うのか?」

 

「いや、ここでも変わらん、狂気の沙汰だな。勝つ目はほぼ無いだろう。」 

「ふふ、はっきり言う、嘘でも勝つと言わないと出世出来ないぞ?」

 

「ははは!出世等とうに諦めた!いや出世等考えてもいなかった。そういう所が貴族に嫌われ今日に繋がったのだろうな。」

 

「…不器用なんだなぁ、で?どうする?」

 

「行くさ!我々は王の剣!勝つ目が無くとも王の民を守る為闘う!…ルドウイーク殿!」

 

ガシッと、両手で俺の肩を掴んでくるガゼフ。

 

「…ストロノーフ殿、いやガゼフ殿、気持ちは分かるが、俺は男色では無いぞ…」

 

「ふはは!私も違うさ!未だ妻が居ないせいでそんな陰口を貴族連中に叩かれる事も有るがな!ルドウイーク殿、我々が削れるだけ敵を削る。後は村人

を任せてもいいか?」

 

「…はぁ、全く不器用だ、本当に。呆れる程不器用だ。」

 

「何?」

 

「付いて来いと言ってくれるのを待ってたんだがなあ!…俺も行くぞ、ガゼフ!」

 

「しかし、…分かった。これで勝つ目が増えたよ。ルドウイーク殿!」

 

ガゼフは最初断ろうと思ったようだがルドウイークの目を見て諦めたようだった。

 

「…俺が行くんだ、負ける目なんて出させないさ。村人も守り、ガゼフ達も守る。両方成し遂げてみせるさ。」

 

小声で口に出し、決心を固める。

 

「どうした?ルドウイーク殿?」

「いや、何でも無いぞ。ガゼフ殿。」

 

 

「そういう事になった。まあ落ち着いて待っていてくれ、皆。」

 

「ルドウイーク様、行っちゃうの、死んじゃイヤだよ!」

 

「私も嫌です!」

 

「大丈夫さ。絶対に生きて帰ってくる。信じてくれ。」

 

村人達に説明するとエンリとネムが抱きついて泣きそうな顔で、ネムは泣いて引き止めて来た。

 

「…しょうがないな。ほらネム、これを預かって置いてくれ。無くすなよ。帰って来たら返して貰うから。」

 

「え?これなあに?」

 

「これはノコギリの狩人証と言ってな、狩人の証なんだ。大切な物だからな。頼むぞ!」

 

ノコギリの狩人証とはヤーナムで一番最初に手に入れる狩人証で狩人にとっては身分証のような物である。

 

「分かった!ちゃんと待ってる!」

 

「…いい子だ。ほら、エンリも。行ってくるからな。」

 

エンリの頭をぽんぽんと撫で、エンリを自分の体から離す。

「…分かりました。どうか、ご無事で!」

 

「ああ!では皆さん、行ってきます。賢王!後は任せたぞ!」

 

「合点承知!でござるよ!殿、ご武運を!」

 

村人に見送られ、ガゼフ達の元に向かう。

 

「来たか。では行くぞ!」

 

「ああ!ぶちのめそう!」

 

おおおおー!!!

 

 

「奴らの包囲を咬みちぎってやれ!行けえ!」

 

「馬鹿め!無策で突っ込んで来るとは。天使をストロノーフに集中させ近寄らせるな!ストロノーフ以外は脅威等皆無!」

その言葉にニヤリとわらうガゼフ。

「それはどうかな?」

 

「?はったりだ!やれ!」

 

その時、天使がガゼフに殺到した瞬間、天使の間を黒い何かが通り過ぎた。そして、

 

「なぁっ!?何が!?」

 

大量の天使達が光の粒子となり消滅した。

 

「…なんだ?天使と言うから少しは警戒して雷光のヤスリまで使ったのに必要無かったな…」

 

その言葉の聞こえた方角に目をやる敵部隊の隊長。

「なぁんだ!?貴様は、上位天使を破壊したのは貴様か!?」

敵部隊の隊長ニグンはそこに立つ男を見た。全身の見事な装束、右手には細いサーベル、左手には青い見事な盾を装備している。

(何者だ?あの上等な装束からして貴族?有り得ない。)

 

(一応、魔法対策として湖の盾を装備してきたが、これ盾としては3流も良いとこ何だよなぁ…、一応右手には咄嗟に銃を使えるようにレイテルパラッシュを装備してきたが。警戒いらなかったか。)

「くそ!ガゼフと奴にも天使を送れ!」

 

 

 

 

それから数分後、天使はいなくなっていた。

 

ガゼフ達は疲れたのか、座りこんでいるが、ルドウイークはまだ疲れ等感じ無かった。

 

「…有り得ない。ほとんどガゼフとお前に上位天使がやられる等、合ってはいけないんだ!監視の権天使《プリンシパリティ・オブ・ザベーション》かかれ!」

「…はいはい。ガゼフ、そこでちょこっと休んでてくれ。まだ奴らが遊び足りないようだ。」

「…ハァハァ…済まない、そうさせてもらう。」

 

高位天使が右手にメイスを持ち近づいて来ても余裕で後ろを向きガゼフと会話しているルドウイークを見て、ニグンは恐怖と怒りがない交ぜになった感情に襲われる。

「やれーー!!」

 

「…よっ!ほいっと!」

 

サイドステップで攻撃を避け、ステップ攻撃で攻撃する。高位天使も一撃で消えていく。

 

「有り得ない、有り得ない!」

因みに他のマジックキャスター達の低位の魔法は問題無く湖の盾で無効化できた。

 

「高位天使が一撃だと!」

「ニグン隊長!我々はどうすれば!」

「くそ!こうなったら時間を稼げ!最高位天使を召喚する!」

 

「ルドウイーク殿!阻止しなくては!」

 

「…、済まないガゼフ。最高位天使ってのを見てみたい。」

「…は?いや、え?」

「何とかするから許してくれ。」

「…え?…あぁ。分かった。もう好きにしてくれ。ははは…」

 

そんなやり取りをしてると

「見よ!!これが最高位天使の姿だ!ドミニオンオーソリティ!!」

 

「…デカくて、眩しいな。」

 

「ふふふふ、どこまでもなめ腐りやがって。すぐにお前等消し、すぐに、忘れ去ってやる!」

 

「はいはい。」

 

「ホーリースマイトを放て!!」

 

その言葉と共にドミニオンが持っていた笏が砕け散り魔法が発動する。

 

善なる極撃《ホーリースマイト》

 

光の柱が落ちてきた、そうとしか思えなかった。ゴシュウ!という音を立てて地面に着弾する!

 

「凄まじい!これほどとは!見ろ!光の柱の横に立つ男の服もあれほどはためいて……何ぃ!?外れた!?」

 

ルドウイークは何やら身構えるように、何かを警戒するように、平然とそこにいた。

 

「…何だ?連射はして来ないのか?」

 

…今何と言ったんだ、あの男は?第七位階、神の領域の魔法を連射だと?

 

「馬鹿者お!!連射だと?何を言っているんだ!」

 

「…そうか。なら終わりにしようか。」

 

その言葉にゾクッとするニグン、

(…いやそもそも何でホーリースマイトが当たらなかった!避けたのか?)

 

「貴様、何故魔法が当たらなかった?」

 

「そりゃ、避けたからな。あの程度見慣れた物だぞ。」

 

は?いや、こいつの言っている事は強がりだ!そうに決まってる!恐らく命からがら飛び退いたんだ!

そう思い込み、折れそうな心を支えるニグン。

「次は外さん!」

 

「だから外したんじゃなくて、避けたんだ。…まあいい此方もとっておきを出すとするか。」

 

そう思い、インベントリから《月光の聖剣》を取り出す。そして、柄にてを掛けた瞬間、またあの不快なような、幸福なような自分の中に新しい情報が書き込まれるような感覚が襲ってきた。

 

『新しいスキルがアンロックされました!』

 

真の月光の使い手

 

効果ー聖剣のルドウイークと遜色ない、使い手の名に恥じない一撃を放てる

アンロック条件 職業、月光の使い手LV5の状態で月光の聖剣を装備する。

 

 

このスキルはユグドラシルでも、当然、スキルの無いbloodborneでも有り得ないスキルだ。もしユグドラシルプレーヤーがこの職業等を見たら皆が知らないと言うだろう。これはスキルを持たない、システムの全く違う狩人をこの世界に招くための、摺り合わせで幾つかのスキルを狩人に組み込んだのだ。そしてルドウイークと名を替えたこの狩人に対する、この世界と、ゲールマンからのささやかな贈り物だった。

 

 

 

(こんな《力》は今まで無かった…なのに不思議だ。自分の中に意識を傾けると分かる。どういう事が出来るか。これなら、やれる!ここなら周りの『被害』も気にせず試せる!)

 

「はっはっは!何を取り出すやらと思えば随分みすぼらしい剣だな! 」

その言葉で現実に引き戻されるルドウイーク。

 

「ほう、そのみすぼらしい剣の力、目に焼き付けろ!」

 

「こちらが先だぁ!ホーリースマイトを放てぇ!」

 

再び放たれる光の柱!しかしー

 

「くそっ!ちょこまかと!」

 

それを避けつつ位置を調整する。そう、自分と、最高位天使の直線上に誰も入らないように。勿論カルネ村も入らないように。

丁度両軍の間、真ん中辺りに立ち、月光の聖剣に力を注ぎ込んだルドウイーク。

ニグンとガゼフは見た。彼が手をかざした瞬間、みすぼらしかった剣は、光を放つ聖剣に変わっていた。

 

「…なん…だと?」

「あれは、凄まじい魔力の剣か!?」

 

ルドウイークは剣を顔の前に掲げ、意識を集中する。

ニグンとガゼフは見た、彼を中心に魔力が天に向かって立ち上って行くのを!

 

(…不思議な感覚だ。そう言えば、この剣を使うときに言わなければいけないことが有ったような…ん?…はっ!?)

 

ルドウイークは思い当たる、灯りを発見したときも今も、もしかして俺を通してプレイヤーが言っていた事なんじゃないかと。

 

(なる程な。しかしこの剣には《詠唱》なんて必要無いぞ…プレイヤー殿。いや、願掛けみたいな物か、ふふ!面白い!乗ってやるか!)

 

ニグンとガゼフは見た。その立ち上る魔力の中心で詠唱を始める、ルドウイークを!

 

『束ねるは星の息吹!輝ける命の奔流!そして、微かな月の明かり!!』

 

そこまで唱えるとルドウイークは《月光の聖剣》を振りかぶる!

 

ニグンとガゼフは見た!立ち上っていた魔力が全て剣の周りに集まり魔力の渦となっていくのを!

 

「受けるがいい!!ムーンライト・ソーーーードっ!!!!!」

 

 

瞬間、光と凄まじい音が辺りを飲み込んだ。

 

 

ニグンとガゼフは国は違えど、両者とも1部隊を預かる実力者である。その二名が余りの光に目をつむり、そして開けたとき見た物は、信じられない光景だった。

 

ルドウイークが剣を振り下ろした格好で止まり、最高位天使は光の粒子になり消滅していく所だった。そして視線を下に向けると、ルドウイークを出発点として、直径1メートル大に地面が丸く抉れ、煙が立ち上っている。それが恐らく1~2㎞程続いていた。

 

「なんと…遥かに強者だとわかってはいたが…ここまでとは。」

 

「…あなた様は神だ…それ以外は有り得ません…」

 

すっかり、戦意を消失したニグンの元に歩いていくルドウイーク。彼の前に着くと

 

「っひぃ!も、申し訳有りませんでした!」

 

「…お前の名前は?」

 

「ニグン、ニグン・グリッド・イールンでございます!」

 

「ニグン殿、覚えておけ。」

 

「はい!!…何をでしょうか?」

 

 

 

 

 

「貴公にとっては、みすぼらしいこの剣は、私が振るえば、《勝利を約束された剣》だったことを!」




最後のは誤字じゃ無いです^_^;

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