今回は少し長く…そして見辛いと思いますが、どうにか楽しんでもらえる事を祈っています(*_*)
境野「九…八…七…」
境野のカウントダウンが残り十秒を切り、彼は悠里へナイフを向ける…。首を切ればいいのか…胸を貫けばいいのか…。そんな事しか考えられない自分が嫌になる…。彼が今考えているのは悠里が出来るだけ楽に死ねる方法であって、彼女を助ける方法ではないからだ。
「境野…三瀬。お前達だけは必ず殺すからな…。今は無理でも…いつか必ず」
残された短い時間の中、彼はカウントダウンし続ける境野へ向けて告げた。その声はいつもよりも低く、強い憎しみが込められている事が分かる。境野は僅かな間だけカウントダウンを止めると一度彼に返事を返し、すぐにカウントダウンを再開した。
境野「ああ…、殺れるものならな?五…四…」
「…っ……」
"殺す"と告げたのに、境野は平気な顔をしている。
それが馬鹿にされているようで…ナメられているようで…彼は苛立った。
胸がギリギリと痛み、息をするのも
今すぐ
境野「三…二……」
由紀「っっ…ぅっっ…!!」
由紀ら宮野に押さえられながら涙を流し、そして目を背ける…。
彼が悠里を殺すところなど、絶対に見たくはなかったから…。
「………」
残り二秒…。彼はナイフを悠里の胸に突き付け、その手に力を込めた。あとはグッと押し込むだけで、ナイフは悠里の心臓を貫く…。そうなれば悠里は死に、彼はきっと…今までに彼女達と作り上げた自分を失う。彼女達と出会った事で明るく、陽気になった自分とは…今日でお別れだろう…。
悠里「っ……ぅ…」
彼の事を気づかい、悠里は未だ必死に笑顔を作っていた…。
肩が震えているのに…涙が溢れているのに…彼女は微笑んでいた。
彼女のこんな笑顔を見ているのは辛いが、目を背けてはいけない。
彼は手に持つナイフの刃先をその胸元へと向け、覚悟を決めた…。
(本当に……ごめんなさい…)
心の中でそう呟き、ナイフをスッとその胸へと向ける…。
片手だと震えがひどいので、彼は両手で押し込む事にした。
しっかりと心臓を貫けれるだろうか…外したらかわいそうだ…。
そんな事を思いながら向けたナイフ…その刃先が悠里の制服に触れ、悠里の胸…その奥にある心臓を貫こうとする…。迫るその刃を前に、思わず悠里の笑顔が崩れかけた…。どれだけ覚悟を決めたところでもやはり、死ぬのは怖いから…。
もう…お別れだ…。
彼と悠里はもちろん…離れたところでそれを見ていた由紀と未奈もそう思い、涙の止まらない瞳をギュッと閉じる。彼が悠里を殺すところなど、見たくはなかったから…。
宮野「もう…よくないですか?」
「…っ?」
境野「なに…?」
由紀の悲痛な呻き声と未奈のすすり泣く声だけが響いていた空間で、宮野が突然そう告げた。彼女は由紀と未奈を連れて境野や三瀬から離れ、端の方で境野を見つめている…。
その様子から察するに今放った言葉は彼にではなく、仲間であるはずの境野にあてたものらしい。境野は彼女の方に振り向きながら首を傾げていて、彼はというと境野らの注目が宮野に集まっているのをいいことに、悠里へ向けていたナイフをギリギリのところで止めていた。
境野「…何が…もういいんだ?」
宮野「その人はもう、境野さんの仲間になるって言ったんですよ?なら…仲間の娘を殺させるなんて事させなくても…」
少し焦った様子を見せながら宮野は境野にそう告げる。
彼女は由紀と未奈を自分の背後に隠しており、庇っているようにも見えるが…。
境野「はぁ…。宮野…お前、何馬鹿な事を言っているんだ?」
境野がため息混じりにそう呟き、呆れたような表情を見せる。すると宮野はキッと目を鋭くし、大きな声をあげながら境野を睨み付けた。
宮野「馬鹿な事を言っているのはあなたでしょう!?こんな若い娘達にまで酷い事をして…普通じゃないっ!」
境野「…お前、この前俺らが他の生存者を殺した時は何も言わなかっただろう?今さら何をムキになってるんだよ?」
宮野「前は…黙っているしかなかった。私は弱いし、逆らえば何されるか分からない。だから黙っていたけど…今回はさすがに無理。彼女達みたいな娘が殺されるのは、いくらなんでも見ていられない…!」
三瀬「へぇ…宮野ちゃんは正義に目覚めたわけだ?」
それまで黙っていた三瀬が宮野を睨み、そのまま彼女の所へと歩み寄ろうとする…。すると宮野はすぐそばにあった裏口へ続く扉…そのドアノブに手をかけ、迫ろうとする三瀬を睨み返した。
宮野「三瀬…近寄らないで」
三瀬「…あ??」
三瀬はそんな彼女を不思議そうに見つめ、ピタッと足を止める。そのドアノブに手をかける事にどんな意味があるのかを考えようとしたからだ。だがあの扉はただ裏口へと続く廊下に出るだけの物で、他に大した物は無い。となれば…わざわざ警戒する理由も無いのだが…。
三瀬「そのドア開けて、それでどうすんの?その二人を連れて裏から逃げるってか?」
宮野「…それは無理。絶対に追いつかれるから…」
三瀬「あぁ…だろうな」
宮野「あなた達がもっと常識のある人ならこの計画は見送ろうと思ったけど…やっぱ無理。境野さん、あなた達はただの異常者。なら…ここで止めなきゃいけない」
境野「止める…?お前一人でか?」
宮野「…一人じゃない。私と……」
そこまで言って宮野が言いよどんでいると、彼女が手をかけていた扉が開いていく…。だがそれを開いたのは彼女ではなく、その扉の向こう…そこにいた人物だった…。
???「宮野、話が長い…」
宮野「わ…っ…!?」
境野「…ん?」
三瀬「あ?」
扉を開いたその人物は中へと足を踏み入れ、横に立つ宮野へ呆れた視線を向ける。宮野はその人物がこのタイミングで入ってきた事に驚いたようで目を丸くしていたが、驚いていたのは彼女一人だけではない。彼に悠里…そして由紀もまた、その見覚えのある人物の登場に驚く。その人物は宮野より一回り大きい身体をした男性で、顎周りに無精髭を生やしていた。
宮野「もう少し待っててもよかったのに…!あなたが出てきたら、もう戦うしかなくなっちゃうじゃないですかっ!?」
???「いいんだよ、それで。このクズ共に話なんかどうせ通じない。言うだけ無駄、体で分からせるしかないって事」
宮野「それは…そうですけど…」
宮野はそっと顔を伏せ、何かを言いたそうにする。するとその男性は宮野の考えを見抜き、小馬鹿にしたように鼻で笑った。
???「あぁ…わかった。こうなったからには俺達が死ぬか、あのクズ共が死ぬかするまで終わらないもんな。お前はアレだ…俺達が負けて、アイツらに殺されるんじゃないかと不安なわけだ」
宮野「……はい」
???「まぁ大丈夫だろ。敵は見たところ二人だけみたいだし…俺はこう見えてけっこう戦える。わざわざこんな重いもんを武器にして、ずっと鍛えてきたからな」
その男性は辺りを見回し、敵が境野…そして三瀬だけという事を確認すると、巻き付けるようにして肩にかけていた鎖をジャラジャラと鳴らしながら手に持ち、そして構える。彼・悠里・由紀はその見知った人物を前にして、ただ驚き、目を丸くする事しか出来なかった。
???「…少年。また会ったな」
「………」
なんでこの人がここにいるのか…。彼はそれを考えるあまり返事を返せない。彼がそうして無言でいると、その男性は自分の側にいる由紀に気付き、その口を塞ぐテープを剥がした。
???「…っと。由紀、大丈夫か?」
ペリペリッという音がなり、テープが由紀の口から剥がされる。由紀はそれが剥がれるとすぐにその男性を見つめ直し、半泣きでその名前を呼んだ。
由紀「まっ、マコト…さん?」
その男性…
由紀達が誠の登場に驚く中、当の本人は境野…そして三瀬を見つめながら、由紀から剥がしたテープをポイっとその辺に投げ捨てる。
誠「こんなもん貼られてかわいそうに…随分と乱暴だな?」
境野「どこの誰だか知らんが、勝手に剥がすなよ」
境野が苛立ったような表情を浮かべてそう答えると、誠はピクッと眉を動かす…。『どこの誰だか知らんが…』その言葉に反応したらしい。
誠「…んん?お前、俺を忘れてるのか?」
境野「初対面の人間を覚えておく方法があるっていうなら、是非教えてほしいな」
誠「マジか…。おい宮野、コイツ本格的にクズだぞ」
宮野「えっと…本当に会ったことあるんですよね?」
境野に"初対面"と言われて呆れたような表情を見せる誠に対し、宮野が恐る恐る尋ねる。
誠「俺が嘘ついてると思うか?宮野はあのクズと俺…どっちを信じる?」
宮野「私、まだあなたの事よく知らないです…」
顔を下に向け、宮野は誠から視線を逸らす。二人の距離感から察するに、どうやら彼女が誠とは出会ったのは最近らしい。
誠「…ま、それでもアイツらよりは信頼してるんだろ?自分から進んで扉を開けて俺を呼ぼうとしたわけだし。まぁお前が開けなくても、俺はもう出てくつもりだったがね。悠里を助けなきゃなんないし…」
宮野「ええ、いてくれてよかったです。もしかしたら、扉を開けてもいないんじゃないかと思いました…」
誠「ああ、着いたのはついさっきだけどな。まだそれなりの人数がいると思っていたから慎重に…ゆっくりと忍び込んでたんだけど、残る敵は二人だけだったのか。ダメだぞ、もう少し人員を残しておかないと…。俺みたいな奴が潜り込むからな」
誠は鼻で笑いながら境野、そして三瀬を見つめる。境野はそれを無言のまま見返していたが、三瀬は誠の余裕そうな表情に苛立ち始めていた。
三瀬「ようするに宮野は俺達を裏切り、その男の仲間になったと…そういう事か?」
宮野「いや…私はまだ
三瀬「…へぇ」
誠「まぁ、今はそれで十分だ。ところで、アンタらは今の状況を理解しているか?人質としてとっていた由紀と
誠は一歩前に踏み出し、由紀と未奈を背後に隠す。そして先程まで悠里を殺さねばならない状況にいた彼もまた、悠里を自分の後ろに隠していた。
誠「宮野に対して警戒心が薄かったのと、わざわざ少年に悠里を殺させようとした趣味の悪さが
三瀬「ちっ!宮野…お前ぶっ殺すからな!?」
宮野「っ…」
自分らを裏切った宮野へと、三瀬が怒声を飛ばす。
宮野は少し怯えた表情を浮かべながらも、隠し持っていた小さなナイフで由紀と未奈の手を縛るテープを切っていた。そうして二人の両手が自由になると、宮野はそっと誠へと声をかける。
宮野「あとは…任せていいんですよね?」
誠「もちろん。宮野は由紀と
宮野のその問いに、誠は正面の境野らを見つめたままで答える。
宮野は側に立つ由紀と未奈の事をほんの一瞬だけ見つめ、静かに頷いた。
宮野「……わかりました。お願いします」
三瀬「…境野さん。この状況、少し面倒じゃないか?」
後方の誠…そして前方に立つ彼を交互に見てから三瀬が呟く。
先程まで追いつめていたハズの彼は悠里を背後に隠し、ナイフを境野らに向けて構えている…。それはそうだ、彼が境野らに従っていたのは人質がいたからだが、今はその人質の全員が境野らの手を離れている。彼が境野に従う理由はもう無い。
三瀬「あ~あ、もう少しでアイツが仲間の娘を殺すとこが見られたのに…とんだ邪魔が入った。こんなことになるなら、もう少しだけ人員を残しておけばよかったなぁ…」
境野「………」
境野は無言のまま、彼と誠を交互に見る。三瀬はこの状況に多少は焦っているようだったが、境野の表情にはまだ余裕があった。
境野「…マコトとか言ったな。お前、俺達に勝つつもりか?」
誠「ん、もちろんそうだ。人質さえどうにかすれば少年も自由に動ける。これで二対二…だいぶ良い状況だろ?」
境野「二対二ね…。どうだろうな…」
そう呟いた境野は目線を彼へと移すと、ニヤリと微笑んで声をかける。
境野「君は…俺達の仲間になってくれるんだよな?」
全く悪びれる様子もなく境野は彼に尋ねたが、当然、そんな図々しい台詞に彼が頷く訳はなかった。
「…ふざけるな。人質がいなくなった以上お前には従わないし、もちろん仲間にもならない」
悠里を背後に隠し、彼は境野へ敵意に満ちた視線とナイフを向ける。だが境野はまだ表情を変えず、落ち着いた様子で言った。
境野「よし、君が俺達の仲間になり、あのマコトって男を三瀬と協力して殺してくれたら丈槍由紀はもちろん、もう若狭悠里も殺さなくていい。二人の身の安全を保証しよう」
「………」
境野「…だが、このまま俺達を敵に回すようなら俺達はマコトを殺し、お前も半殺しにする。そして動けないお前の前で若狭悠里…そして丈槍由紀を殺す。出来るだけ残酷に…時間をかけてな」
「………」
境野「二対二の状況にはなったが、お前がマコトと組んだところで俺達に勝てると決まった訳じゃない。まぁ、腕に自信があるならそのまま俺達とやり合えばいいさ。だがもし俺達に負けたら…若狭悠里、丈槍由紀…。あ、そう言えばあと二人いるんだよな?恵飛須沢胡桃と、直樹美紀だったか?そいつらも連れてきて、お前の前で殺してやろう」
誠(…考えたな。全く、趣味の悪い奴だ)
ニヤリと笑いながらそう告げる境野を前にして、誠は微かに戸惑う…。確かに自分と彼が組んでも勝率は100%ではない。ここで勝てれば悠里も由紀も未奈も救えるが、もし負ければその先に待つものは地獄だ…。もしかしたら彼は自分ではなく、境野らと手を組むかもしれないと誠は考えた。
誠(そうなったらマズイな…三対一か)
内心では少し焦る誠だが、決して表情には出さない。もし表情に出したら、それをきっかけに彼が境野らと手を組んでしまうかもと考えたからだ。
「………」
彼は境野達とある程度の距離がある事を確認してから、悠里の口を塞いでいたテープを外す。すると悠里は呼吸を整え、不安そうに彼の名前を呼んだ。
悠里「…__君」
先程まで泣いていたからだろう。悠里の目は真っ赤に腫れ、声もまだ震えている…。彼はそんな彼女の頭にそっと手を置き、そのまま遠方の誠へと視線を向けた。
誠「少年!どうする?俺と一緒にコイツらをぶっ倒すか?それとも、コイツらと一緒に俺を殺すか?」
彼の視線をうけ、誠はそう尋ねた。彼は静かに悠里の頭から手を離すと、ナイフを片手に答える。
「……答えは決まってる」
誠や境野はもちろん…悠里も由紀も未奈も、彼の答えに耳を澄ました。
境野達と手を組み、誠を殺す事によって悠里達を守るか。それとも…一か八か誠と組んで全員を救う事に賭けるか。既に、彼の気持ちは決まっていた。
「…境野。さっきお前に言ったよな?今は無理でも…いつか必ず殺すって…」
境野「……三瀬」
三瀬「ちっ!面倒だなぁ…!」
彼の雰囲気から答えを先読みし、境野と三瀬は警戒を強める。彼は一歩ずつ境野の方へと歩みよりながら、ナイフを持つ手に力を込めた。
「訂正するよ。いつかじゃない…今、実行してやる」
誠「…よし、やるか」
彼が境野達と距離を詰めるのと同じ間隔で誠も境野達との距離を詰め、境野達を彼と挟むようにして歩み寄る。境野は誠を…そして三瀬は彼を警戒しながら、カッターナイフと金槌をそれぞれが構えた。
「…ッ!!」
境野達との距離があと5mほどになったその時…彼は突如駆け出し、その距離を一気に詰める…。それを見た誠は多少驚いたが、すぐに自分もそれに合わせて駆け出す。
三瀬「バカが…後悔させてやるよ!!」
迫る彼を迎撃するべく、三瀬は金槌を振り上げてそう言った。
だが、彼の耳にその声は届いていない。今、彼の心の内は境野と三瀬への殺意でいっぱいで、三瀬の言葉などは耳に入らなかった…。
~もっと先になると思ってたのに…今から殺せる。
今日、この場で…コイツらを殺せる~
彼は降り下ろされた三瀬の金槌をギリギリのタイミングで横に避けると、素早くナイフを振り払う…。放った攻撃をかわされ、体勢を崩しかけている三瀬目掛けてナイフを振るう彼の目はとても冷たく、目の合った三瀬に一瞬恐怖を感じさせるほどだった…。
という事で、久しぶりにマコトさんを登場させました!
マコトさんがどんな人か忘れた方は三十九話『くさり』と、その後の数話を見直せば思い出していただけるのではと思います(*^^*)
次回、彼は突如現れたマコトさんと手を組み、境野達への反撃を試みます。やっと逆転のチャンスです!!やっとです!!!
何故マコトさんがここにいるのか…何故宮野さんと組んでいるのかなどの話はまた後日にちょろっとやります(^_^;)
話数、かなり多くなってきましたね…(-_-;)
本編の方…見易いようにいくつかの章に分けた方が良いのかと悩んでいます(汗)
今見直すと、前半数十話の展開をやり直した過ぎて…(苦笑)
いや、それなりに気に入っている話もあるんですけどね…( ;∀;)