軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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毎度更新が遅れて申し訳ありません(>_<)
今回も少し長めになっています!


八十六話『わたさない』

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の知り合いだという人物らにさらわれ、とある場所にある大きな倉庫…その裏手にある一室へと閉じ込められていた由紀・悠里・未奈の三人。彼女達が閉じ込められている部屋には宮野という一人の女性が見張りとして存在しており、逃げる事が出来ぬまま、彼女達は彼を待ち続けていた。

 

 

 

…ガチャッ

 

 

境野「予定通りに事が進んでいるなら、そろそろ彼がここに来る頃だろう。君達にも彼を出迎えてもらうが、念の為に手を縛らせてもらう」

 

三人が無言のまま部屋で待っていると突如その部屋の扉が開き、このグループのリーダー的存在である男…境野が現れ、彼女達に告げる。境野は扉の側にいた見張りの宮野にガムテープを手渡すと、由紀達を顎で指して無言の指示をした。宮野はその指示を受けると静かに由紀の元に歩み寄り、ベリベリと音を立てながらガムテープを引っ張り出した。

 

 

由紀「…!」

 

宮野「縛るから、両手を後ろで組んで」

 

由紀「……うん」

 

由紀は大人しく宮野の指示に従い、両手をそっと後ろで組む。宮野は彼女の細い腕をガムテープでぐるっと巻いていき、力を入れても動かす事の出来ぬように縛る。

 

 

 

由紀「……」

 

宮野「…はい、終わり。次は君ね」

 

悠里「………」

 

一瞬だけ宮野を睨む悠里だったが、状況が状況な為に従うしかない。彼女もまた大人しく手を組み、それを宮野に縛られる。そうして悠里の手を縛り終えた後、未奈もまた大人しく手を縛られた。

 

 

 

宮野「境野さん、全員縛り終えました。移動させておきますか?この娘達」

 

境野「ああ、そうしてくれ。皆で彼を出迎えよう」

 

そう言って境野は何やら楽しげに微笑むが、由紀達の表情は暗いままだった。三人は境野と宮野に連れられて部屋を出ると、そのまま倉庫のメインフロアへと歩いていった。

 

 

 

 

~~~~

 

メインフロアへと足を踏み入れると、そこには相変わらず金槌を手にしている三瀬(みせ)、そして背後に十人近い人数の仲間を従えた如月(きさらぎ)がいた。

 

 

 

如月「あら、この娘らと一緒に彼を待つ事にしたの?」

 

境野「ああ。彼女達がいた方が盛り上がるからな」

 

境野達の側に由紀達を見るや否や、そこにいた如月が境野へと声をかける。

 

倉庫内のメインフロア…本来ならこの広い空間には様々な物が置かれているのだろうが、今となってはボロボロの木箱やゴミが散乱しているだけ…。よく見ると部屋の隅には幾つかのカバンやダンボールが置かれているが、あれはきっと境野らの持ち物なのだろう。

 

 

境野「もうじき彼が来ると思うが…お前はもう帰るのか?これから面白くなるのに…」

 

大きなカバンを手に持ち、数人の人物を従えている如月を見た境野がそう尋ねると、如月は残念そうな表情をして答える。

 

 

如月「ええ、噂の彼をこの目で見られなかったのは残念だけど、早く帰らないとあの人が困るだろうから…。必要な物と人手を借りたらすぐ戻るって約束したのに…もうかなり経っちゃってるもの。ところで、本当にこんな人数を貸してもらっていいの?」

 

側に立つその十人近い仲間達をチラッと見つめ、如月は境野に確認する。この人物らは本来、境野の仲間であった連中のようだ。

 

 

 

境野「ああ、かまわない。ここには俺と三瀬、それに宮野だけいれば今日のところは十分だ。人質だっている訳だし、彼も不用意に暴れたりはしないだろう。お前らも…それで良いな?」

 

如月に貸した仲間らを見つめ、境野は尋ねる。

その問いに対して全員が頷き、更にその内の一人の男はこう言った。

 

 

 

「如月さんについていけば暴れられるんだろ?なら当然行きますよ。俺は例の少年には興味ないですし」

 

男が笑い混じりにそう告げると、その隣の男もつられて口を開く。

 

 

 

「だな。まぁ、そこの娘達と遊べなかったのは残念ですがね?」

 

悠里「ッ…!」

 

男は彼女達をじろりと見つめ、ケラケラと笑う。それを見た悠里達が男達を警戒して身を引くと、その間に如月が割り込んで不満そうな顔をする。

 

 

 

如月「一時的とはいえ、この私の仲間にしてあげるってのに…こんな娘達が欲しいの?」

 

「いや~如月さんも魅力的ですが、俺達の相手はしてくれないでしょう?なら、この若い娘達を相手に無理やりするってのも捨てがたくて…」

 

如月「いちいち"若い娘"とか言う辺りが少しムカつくけど…まぁいいわ。確かに、私はあんたらの相手するつもりないしね。それにそんなに若い娘が好みなら、これから私達が争うグループにも若い娘がいるの。私あの娘大嫌いだし、あんたらの好きにして良いわよ」

 

「へぇ~。その娘、可愛いんですか?」

 

如月「まぁ、ムカつく小娘だけど顔はわりと綺麗よ?あんたらもきっと気に入るわ」

 

ニヤリと不気味に笑いながら如月が男達へと告げると、男達の士気が目に見えて上がる。おかげで悠里達は男らの視線から逃れる事が出来たが、それでもその場にいるのは怖かった。

 

 

 

由紀「………」

 

未奈「大丈夫だよ。あの人達はどっかに行くみたいだから…」

 

由紀「…うん、そうだね」

 

未奈「そう。だから大丈夫…。きっと、すぐに皆のところに帰れるから」

 

 

そっと由紀の側に寄り、未奈は声をかける。

出来るならその頭を撫でて安心させてあげたいと考えた未奈だったが、手を縛られている為それは叶わない。だがそれでも、由紀は大分安心できたようだ。

 

 

 

境野「彼女らの乗っていたあのキャンピングカーはどうする?持っていくか?」

 

如月「…いえ、自分の車があるからいいわ。まぁ、キャンピングカーの中身…つまりしまってあった薬とか食べ物は全部貰っちゃったけどね。許してちょうだい?」

 

衣服こそ未奈の屋敷へと移したが、悠里達のキャンピングカーにはまだ薬や食料等の物資が残されていた。如月はそれらを全て取り出していったらしく、言葉とは裏腹に全く悪気の無さそうな笑みを浮かべてポンポンっと悠里の頭を叩く。

 

 

 

悠里「………」

 

悠里はあえて返事を返さず、ただじっと如月を睨んだ。もう、この女とは会話すらしたくなかったからだ。

 

 

 

如月「さて、あとは物と一緒にあなた達を私のトラックの荷台に積んで帰るだけね」

 

「おいおい、俺達はあんたの荷物同然ですか?」

 

物資と同様に荷台へ乗せると聞き、男達は口々に不満を漏らす。如月はニヤニヤと微笑みながら、その場の連中を静めた。

 

 

 

如月「大丈夫大丈夫。あのトラックの荷台ってけっこう広いし、それに目的地までは20分とかからないハズだから♪」

 

「つってもなぁ…。まぁ、観念するしかねぇか…」

 

何を言っても無駄だと思い始めたのか、男達はため息をついて観念した。

そうして男達が無口になった中、境野はその男達を見ながら如月へ言葉を放つ。

 

 

 

境野「…なんでもいいが、そっちの仕事が終わったらそいつらは返せよ?」

 

如月「ええ、この人達はあくまで少し借りるだけだもの。アイツらとの争いが済んだらすぐに返すわ。もちろん、戦利品も分けてあげるからね♪」

 

境野「それはありがたいが…ちゃんと勝てるんだろうな?わざわざ貴重な人員と物を分けてやったのに、返り討ちにあったら笑い事じゃ済まないぞ」

 

如月「平気よ。あんたに借りた人員を合わせれば、私達は30人近いグループになるもの。相手との戦力差は歴然…負けようがないわ。」

 

境野「…ならいい。じゃあ、戦利品とやらを楽しみに待っているよ」

 

如月「ええ、任せて。…じゃあ行くわね。バイバイ、お嬢さん方…また後日会いましょうね♪」

 

未奈「………」

 

 

由紀・悠里・未奈の三人へ向けて手を振りながら陽気に倉庫を出ていく如月。男達は境野に軽く頭を下げてから如月のあとに続き、彼女と共にその倉庫を出ていった。

 

 

 

~~~

 

 

三瀬「……やかましいのがやっといなくなったな」

 

倉庫の外から聞こえる、如月が乗ってきたトラックのものと思われる大きなエンジン音。それがのっそりと移動してどこかへ消えていったのを耳で確認すると、三瀬は口を開く。

 

 

境野「まぁ、予定通りにいけばまた明日にでもここへくるだろう。人員の返却と戦利品の受け渡しがあるからね」

 

三瀬「戦利品…ねぇ。あんま期待せずに待ってますか…」

 

手に持った金槌を肩にのせ、三瀬はダルそうに隅へと歩いていく。そしてそのまま壁に背を預け、ススッと床に腰を下ろした。

 

 

 

悠里「…あなた達は、しょっちゅう他の生存者を襲っているの?」

 

悠里がポツリと呟く。すると境野はそばにあった木箱の上に腰を下ろし、彼女の顔を見ながらそれに答え始めた。

 

 

 

境野「襲うのはあくまでも最終手段であって、いきなり襲ったりはしない。人聞きの悪いことを言うな」

 

悠里「…最終手段?」

 

境野「ああ。俺達は他の生存者グループを見つけた場合、まず交渉をする。いや…脅しと言った方が正しいかな。そいつらを見張りながら付きまとい、殺されたくなければ物資を分け与えろと告げるんだ。すると大抵の奴はこれに従う。人数が多いからなぁ…俺達のグループは」

 

境野のその言葉を聞いた途端、未奈はふと気になった。

この連中が今までそうやって他の生存者を脅してきたと言うのなら、もしや弦次もその犠牲者なのではないかと…。

 

 

 

未奈「あなた達もしかして…ゲン君を脅してたんですか!?」

 

境野「…まぁな。あの少年は賢いぞ、俺達と自分の戦力差を見て、すぐに言うことを聞いてくれた」

 

未奈「そんな…じゃあ…ゲン君はずっと私達に内緒で」

 

弦次が根っからこの連中の仲間ではなかったと知り、一安心はした。だが、脅されていた事を自分達に隠していたのは許せない気もする。頼りない事は分かっているが、それでも相談くらいはしてくれてもよかったのに…。未奈の心はそんな思いでぐちゃぐちゃになり始めていた。

 

 

由紀「ミナちゃん…大丈夫?」

 

未奈「……うん、平気だよ。心配しないで」

 

声をかけてくれた由紀に心配させぬよう、強がって笑顔を見せる。だがその力ない笑顔を見た由紀は未奈の心境を見抜いてしまい、切なそうな表情をした。

 

 

 

由紀「………」

 

未奈(こんな笑顔じゃ…ごまかせないか…)

 

 

境野「…話を続けるが、困ったことに今現在俺達に従っている生存者はあの弦次とかいう少年だけだ。あとの奴らは最初こそ従っていたものの途中から逃げようとしたり、歯向かってきたりした。まぁ…そういった忠誠心の無い連中には用がないので殆ど殺してやったがな」

 

悠里「……」

 

木箱に腰かけたまま、境野は彼女らを相手に語り続ける…。

話を聞く限りこの男は…いや、この連中は逆らう人間に対して容赦がない。悠里達を助ける為に彼が来てくれたとして、この男に対抗できるのだろうか…。

 

悠里は頭を悩ませる…。彼がここへ来て何をするにしても、自分達が人質になっている以上はどうしても不利になるだろう。

 

 

 

悠里(あの如月とかって女の人が仲間を引き連れて出ていったおかげで…今ここには三人しかいない。どうにか…逃げることは……)

 

悠里はじっくりと倉庫を見回し、逃走できないか考える。

今邪魔なのは三人…。3mほど先にある木箱に腰かける境野と、壁に寄りかかって座っている三瀬…この男は10mくらいは離れている場所にいる。あとは宮野という女性だが、彼女はずっと悠里達のすぐ後ろで何も言わずにたたずんでいて、離れようとしない。

 

 

 

宮野「………」

 

悠里(…ダメね。この女の人は私達を警戒しているようで、全く目を離してくれない…。そもそも手を縛られた状態で逃げきるっていうのには無理があるし、リスクだらけね…。)

 

手を縛られた状態で由紀・未奈・悠里がこの三人から逃げ切る。それはとても難しい事だった。もし誰か一人でも捕まればその瞬間に足を止めねばならぬし、下手な真似をした罰として誰かが傷付く…もしくは殺される可能性すらある。それを頭で想像した途端、悠里の脳内から逃走という選択肢が消えた。

 

 

 

悠里(もう、__君に…任せるしかないのね…。でも、こんな状況…彼一人じゃ…)

 

三人の敵と三人の人質…。それらに対して彼はたった一人で、どうする事が出来るのだろう…。どう考えても良い終わり方が想像できずに悠里は一人うなだれ、心を不安に圧し潰された。

 

 

 

境野「俺達のグループは、別行動中の如月のチームを入れれば30人を越す大きさだ。ただでさえ化け物が外をうろつく世の中だってのに、更に俺達を敵にまわそうなんて連中はただの馬鹿だよな?」

 

そう言いながら境野がヘラヘラと笑うと、離れた所に座る三瀬もつられて笑い出す。だが悠里らの背後に立つ宮野という女性だけは、それを黙って見ていた。

 

 

 

境野「だいぶ人数が集まったが、もうちっといても構わないからな。彼には…俺達の仲間になってもらう」

 

彼女らを眺めながら境野がそう告げた途端、由紀と悠里はハッと顔をあげる。それを聞いた悠里はすぐに言葉を放とうとしたが、そんな彼女よりも早く、由紀は口を開いていた。

 

 

 

由紀「__くんは私達の友達だよっ!!ヒドイことばかりしてるあなた達の仲間になんて、絶対にさせないっ!!!」

 

悠里「…由紀ちゃん」

 

珍しく大声を張り上げ、由紀は境野を睨み付ける。人を睨み慣れていない瞳では大した迫力は出せないが、彼を奪おうとする人間を前にして、こうせずにはいられなかった。

 

 

 

境野「………」

 

由紀「__くんは…私達の事が好きって言ってくれた!皆の事が好きだから…だから一緒にいるんだって言ってた!!」

 

境野「……何が言いたい?」

 

身をのりだし、大きな声をあげる由紀。

境野は腰かけていた木箱から降りると彼女の前へと歩み寄り、脅すように冷たい視線を向ける。その視線を受けた由紀は肩をビクッと震わせ、一瞬だけ言葉を詰まらせたが、またすぐに声を張り上げた。

 

 

 

由紀「あなた達の事、__くんきっと大キライだよ!!他の人達を脅してヒドイことばかりしてるような人達だもん!!そんな人達のところにいても__くんは楽しく笑えないから…だからっ……絶対にあなた達の仲間なんてっ…!」

 

話している間もずっと冷たい視線を続ける境野が怖くて、由紀の瞳はうるうると涙ぐむ。そんな由紀を追い詰めるように、その冷たい眼差しを向けたままで境野は低い声を発した。

 

 

 

境野「彼が俺達を嫌いかなんて分からない。全部お前の想像だろ?」

 

悠里「…想像でもいいじゃない…。一日で彼を捨てて、今の彼がどんな人か想像すら出来ないあなた達よりずっとマシでしょう!」

 

涙ぐむ由紀に代わり、横に立つ悠里が声をあげる。すると境野は少しの間を空けてからニヤリと笑いだした。

 

 

 

境野「…ああ、そうだな。俺には今の彼がどんな人間なのか想像も出来ない。いや、想像する必要がないんだよ。どうせ無理やり仲間にして、俺好みの武器に染めるんだからな」

 

悠里「ッ…!!」

 

悠里は思わず言葉を詰まらせた。この境野という男はもはや彼を人として見ておらず、ただ自分の力に…武器にしようとしているのだ。ここまで腹がたったのは初めてかも知れない。悠里はそれほど怒っていた。だが、怒っていたのは悠里だけではなく、その隣にいる由紀も同じだったようで…

 

 

 

由紀「…ったいに……さない…」

 

境野「……あ?」

 

ボソボソ呟くその言葉が聞き取れず、境野は威圧混じりに聞き返す。すると由紀は再び境野を睨み、声を大きくした。

 

 

由紀「やっぱり、あなたには絶対に__くんを渡さないっ!!わたしっ…あなたみたいな人、大キライっ!!」

 

境野「へぇ、そう…」

 

由紀「わたし達はみんな…__くんが好き…。だからっ、そんな__くんをあなたなんかに渡したりしないからっ!!」

 

由紀は瞳を潤ませながら、顔を真っ赤にして怒鳴る。

普段は人に怒鳴ったりしない彼女だったが、彼を無理にでも仲間にしようとする境野がどうしても許せず、思わず声を荒くしてしまう。そんな彼女の隣に立つ悠里と未奈はその珍しい光景に驚き、言葉を失っていた。

 

 

 

 

境野「…うるさい娘だな。おい三瀬、こいつ裏に連れてって適当に痛めつけておけ。少ししつけといた方がよさそうだ」

 

由紀「っ!?」

 

三瀬「ほいほい…了解しましたよと」

 

倉庫の隅にしゃがんでいた三瀬は立ち上がり、ゆっくりと由紀の前へと歩み寄る。悠里と未奈は由紀を庇おうと身をのりだしたが、背後に立つ宮野の手によってそれは止められた。

 

 

悠里「ちょっと!」

 

未奈「離してっ!!」

 

宮野「大丈夫。由紀(この娘)に手を出させたりしないから」

 

 

悠里「…えっ?」

 

そう告げた後に宮野は悠里と未奈…そして由紀を自らの背後に隠し、迫る三瀬の前へと立ち塞がる。その行動に悠里達はもちろん、三瀬や境野も驚いていた。

 

 

 

三瀬「…なに?邪魔なんだけど」

 

境野「宮野、どいてやれ。その女の子には少し俺達の怖さってヤツを――」

 

宮野「今彼女を傷つけるのはマズイと思いますよ。待っていた人…来たみたいですから」

 

境野「…なに?」

 

倉庫入り口の扉…。その扉は先程出ていった如月がしっかりと閉めなかった事で僅かな隙間が開いており、その隙間の向こうには一人の人影があった。境野と三瀬…そして悠里達はそれに気付いていなかったが、定期的に扉を気にしていた宮野だけはそれに気付いていた。

 

 

悠里「……」

 

由紀「あ…っ」

 

 

ギギ…ギギィッ…

 

その人物はその扉の隙間に手をかけ、少しずつそれを開けてゆく。鉄で出来たスライド式の扉は滑車が錆びているのか、ギギッと耳障りな音を発てていた。

 

 

 

境野「…やっときたか。じゃあ、その娘にお仕置きするのはまた後でだな。まずは彼をお出迎えするとしよう」

 

境野の言葉を聞いた三瀬は悠里達から離れ、じっとその扉へと視線を向ける。扉がある程度開くと一人の少年が中へと入ってきて、半開きになったその扉を今度は丁寧に閉めていく。

 

 

 

「開けっぱなしだと"かれら"が入ってくるかも知れませんからね」

 

境野「…ああ、しっかり閉めておいてくれ。余計な邪魔者は勘弁だ」

 

境野はそう言葉を付け足し、入ってきた少年を笑顔で見つめる。その少年はすぐに扉を閉め直すと、くるっと振り返って倉庫奥にいる由紀達へ向けて微笑んだ。

 

 

 

「お待たせしました。りーさん、由紀ちゃん、未奈さん」

 

振り向いて名前を呼ぶ少年のその顔を見た途端、由紀達の表情が少しだけ明るくなる。"彼"が来て、自分達の名を呼んでくれる…。手を縛られて見知らぬ人間達に囲まれている由紀達にとって、それはとても安心できるものだった。

 

 

 

 

由紀「__くんっ!!」

 

彼は名を呼ぶ由紀に笑顔を返すと彼女側に立つ境野…そして三瀬と宮野へと静かに視線を移し、一歩前へと…その足を踏み出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




由紀ちゃん達を助けるべく、彼が駆けつけました!
境野は戦力の殆どを如月に貸している為、今現在倉庫にいる敵は3人だけですが…対する彼は一人です(汗)更に由紀ちゃん達が人質にとられている為、そう自由には動けないでしょう(-_-;)

かなり厳しい状況ですが、彼や由紀ちゃん達がハッピーエンドを迎えられるように応援していただけたら幸いですm(__)m

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