予定では半々にするハズでしたが、由紀ちゃん達の視点がかなり多めになってしまいました(汗)
そして今回は新キャラも多いです!名前を覚えるのが大変だと思うので、その辺は適当に見て頂いて構いませんm(__)m
「…さ、入って入って」
悠里「……」
二人の男の手により、目の前にある倉庫の扉がギギィッと音をたてながら開く。悠里・由紀の二人はその男達の仲間である女に背を押され、半ば無理やりにその中へと招き入れられた。
薄暗いその倉庫の中は広さの割に物がなく、あるのは雑に置かれた木箱や壁際にある錆びたロッカーだけ…。そしてその広い空間の真ん中で、一人の男が木箱に腰掛けながら彼女達に手を振っていた。
「やぁ、待ってたよ。えっと…君達の名前は?」
三十代半ばくらいであろうその男性は一見すると人の良さそうな顔をしていたが、由紀の背中にナイフを突き付けているこの女と仲間という時点で善人では無いのだろう…。悠里はそんな考えを抱きながら、由紀よりも先に口を開いた。
悠里「若狭…悠里です」
「君が悠里ちゃんか…。で、君は?」
由紀「え…っと……そのっ…」
悠里に向けて少しだけ微笑んだ後、男は由紀の方へと視線を移す。
だが背中にナイフを突き付けられている由紀は怯えていて、中々声が出せずにいた。
悠里「この娘は由紀…。丈槍由紀です」
怯える由紀に代わり、悠里は自己紹介をする。
すると男は腰かけていた木箱から立ち上がり、つかつかと悠里の前へ歩み寄っていった。
「お前には聞いていない。俺はこっちの小娘に聞いているんだよ」
先程までは柔らかい表情をしていた男だったが、突然人が変わったかのような鋭い目で悠里を睨み付ける。男は直後にたたずむ由紀の頬をペシペシと叩き、その顔を覗き込んだ。
「…ほら、タラタラすんな。お前の名前は?自己紹介出来ない程ガキじゃないだろ?」
由紀「ゆ…ゆきです…っ!」
瞳に涙を浮かべながら、由紀は震え声で答えた。
「……名字は?」
由紀「丈槍…丈槍由紀です…」
肩をプルプルと震わせながら呟く由紀。男はその名前を聞くと再び柔らかい表情に戻り、ニッコリと微笑んだ。
「よし、丈槍由紀ちゃんだね?…
男がそう言うと、由紀の背後に立つ如月と呼ばれたその女は突き付けていたポケットナイフを折り畳み、それをポケットへしまった。
如月「こうでもしないと逃げられるかと思って…。ほら、その悠里って娘は抜け目なさそうだから、一応警戒しとかないと」
女は言いながら悠里を睨む。一方で男は彼女達の前を落ち着きなく歩き回ると、悠里と由紀、二人の顔を交互に見ながら口を開いた。
「まぁいい。今度はこちらから自己紹介をしようか、俺は
境野と名乗ったその男の言葉を聞いた直後、由紀達の後方から金槌を持った若い男がこちらへと歩み寄り、ヘラヘラと笑い始める。
「知り合いって言ってもただ一日行動を共にして、彼の寝ている隙に物を全部奪ってやっただけの仲だがな?」
悠里「っ!?」
胡桃同様、悠里も彼からその話を聞いた事があった為、この言葉を聞いた途端即座にこの人物達と彼の関係を理解した。
境野「まぁ悪気があった訳じゃないんだ。俺達はただ彼に強くなって欲しかった。それだけなんだよ」
申し訳無さそうな素振りを微塵も見せない境野。悠里はそんな発言に激しく苛立ってしまい、思わず声を荒げた。
悠里「ふざけないでっ!!寝込みに人の物資を奪って消えるなんて…どれだけ酷いことをしたか分かってるの!?一歩間違えたら彼はそのまま寝込みを"かれら"に襲われて死んでいたかも知れないのよっ!!」
境野「そしたらそれまで。その程度の雑魚だったって事だよ。俺達が欲しいのは出来るだけ戦える人間であって、雑魚はお呼びでないからね」
「あぁ、戦える人間って言えば…君らの友達のシャベルを持った女の子、中々に運動神経良かったな」
金槌を持った男が思い出したように呟く。
悠里「シャベル!?そ、それって…」
由紀「胡桃ちゃんに…何をしたのっ!!?」
男の呟きを聞いた由紀はハッとしたような表情を見せ、慌てた様子で尋ねる。男はニヤニヤして中々答えようとしなかったが、直後に隣でそれを見ていた境野が声を発した。
境野「
三瀬と呼ばれたその金槌男は鼻でため息をつき、渋々口を開く。
三瀬「いや、殺そうと思ったんだけどな、結構手強くて…結局時間切れ。途中で逃げてきた」
境野「時間切れ?」
如月「コイツ、いつまでもタラタラしてるから私が呼び出したの。もうこの二人を捕まえた後だったしね」
如月は悠里と由紀を顎で指してから、ヘラヘラと笑う三瀬を睨み付ける。
そんな三人の会話を側で聞いていた由紀はホッとしたように胸を撫で下ろし、小さな声で呟いた。
由紀「よかった。胡桃ちゃん…無事なんだ…」
悠里「………」
由紀は安心したように微笑んだが、悠里は気が気ではない。
胡桃が無事らしいという事は確かに喜ぶべき事だが、それでも今の自分達が危機的状況にある事には変わりないのだ。
境野「まぁいい、とりあえず、彼がくるまでこの娘達は閉じ込めておけ」
如月「わかったわ。ほら、ついてきて…」
由紀の肩に手を当て、如月は悠里を見つめる。彼女はとことん悠里を警戒しているようだった。如月が由紀の側にいる以上悠里は下手に動けず、大人しく彼女の誘導する場所へと歩いていった。
如月は二人を連れて歩き、倉庫の奥にある扉を開ける。
すると真っ直ぐ進めば裏口に出るのであろう廊下があり、その途中にはいくつかの部屋への扉があった。あるのは恐らく、トイレや物置部屋だろう。如月はその内の一つの部屋へ悠里達を入れると少し遅れて自分も入り、そっと扉を閉めた。
その部屋は天井付近にある小さな窓から微かに明かりを取り入れてるだけだったがかなり明るく、すぐに部屋中を見回せた。武器になりそうな物どころか何も無い部屋だったが、そこには二人の人物が待ち構えていた。
その内の一人は十代後半か二十代前半であろう見知らぬ女性だったが、もう一人には見覚えがある。悠里と由紀はその人物がいる事に驚きの声をあげた。
悠里「ミナさんっ!?」
未奈「悠里ちゃん…由紀ちゃんまで!?」
由紀「どうしてここにいるの!?」
悠里はそこにいた少女…、未奈の元に駆け寄り、由紀はその胸に飛び込む。
未奈はそんな由紀を受け止め頭を撫でながら如月を睨んだ。
未奈「この人達まで…!いい加減にしてくださいっ!」
如月「って言われてもね。彼を誘き寄せるにはこの娘達が必要でしょ?あなた一人だけを人質にしたって、彼は来ないもの」
未奈「彼っていうのは…」
如月「当然、この娘達の仲間であるあの彼よ。あなたのボーイフレンド…ゲンジ君だっけ?あの子な訳がないでしょう?だって…あの子は――」
未奈「わかってます!だから黙ってて下さいっ!!」
未奈は如月を睨んだまま、少しだけ声を荒くした。
その声には強い怒りのような思いが込められていて、彼女のそんな一面を見たことがない悠里と由紀は思わず驚く。
二人の知っている未奈は大人しく、他人に謝ってばかりいる少女だった。
だが今の未奈の目付きはキツく、じっと如月を睨み付けている。
由紀は未奈の胸からそっと離れて、恐る恐る声をかけた。
由紀「ミ、ミナちゃん?」
如月「あれ?あんた、わりと大人しい娘って聞いてたのに…。意外と怖い娘なのね?」
未奈「……」
如月「…まぁ、いいわ。えっと…
如月が宮野と呼んだのは、未奈と共に元からこの部屋にいたもう一人の女性。肩よりも少し先へと伸びた黒髪を揺らすその"宮野"という女性は部屋の入り口付近に置かれたパイプ椅子に座っており、じっと由紀達を見つめている…。彼女は如月達の仲間であり、ここで未奈の見張りを任されていた。
宮野「…ええ。大人しくしてました」
如月「ふぅん…。じゃあちょっと人数増えたけど、その調子で見張っててね。もし暴れたら誰か呼べば良いわ。すぐに誰かくるでしょう」
宮野「…ええ。そのつもりです」
話している間でも如月とは目を合わさず、宮野はじっと由紀達を見つめて目を離さない。そんな彼女を見た如月は満足そうに微笑むと、由紀達を見回して首をかしげる。
如月「…にしても、なんでこんな子供達が生き残れるのかしら?」
彼女が不思議そうな表情をしながら由紀達の前へと歩み寄ると、由紀達は警戒して一歩後ろへと下がる。
如月「そんな警戒しなくても、別に何もしないわよ。確かにアンタらみたいな娘達は嫌いだけど、アイツよりはマシだからね」
未奈「…アイツ?」
如月「私はね、今回は物資や人手を分けてもらいに来ただけで、本来境野達とは別行動してるチームのメンバーなの。私のチームは今、他の生存者グループと揉めてる真っ最中なんだけどね、相手のグループにいる女の子がムカつくのよ…。たぶんアンタらと同じくらいの年なんだろうけど、本当に可愛げが無くて」
如月は何かを思い出すかのように目を閉じ、大きく舌打ちを鳴らした。
如月「…思い出しただけでもイライラしてくる。けどまぁ、アイツらは今日殺す予定だからいいわ」
そう言って、如月はニヤリと笑う。
そんな彼女の不気味な笑顔を見た由紀達はどんどん不安になり、そっと身を寄せ合った。
如月「本当は噂の彼にもアイツらを殺す手伝いをしてもらいたかったんだけど、来るまでもう少し時間がかかりそうだから私は帰るわ。アイツらを殺し終えた後またここに来る予定だから、その時に会いましょうね♪」
由紀「………」
…バタン
それだけを言い残し、如月は部屋を出た。
彼女が出ていった事で胸を撫で下ろす由紀達だったが、まだこの部屋には奴等の仲間である宮野がいた。
悠里「…お願いです!私達を逃がして下さいっ!」
如月が部屋を出てすぐ、悠里が宮野へと懇願する。
この部屋は鍵を掛けられないようだし、廊下に出れば裏口へと続く扉もすぐ側にある為、宮野さえ説得すれば逃げ出す事は容易だと思ったからだ。
宮野「…ごめんね。それ無理。あなた達の仲間の子が来るまで見張るのが私の仕事だから、それまでは大人しくしててね」
悠里「そんなっ…」
悠里は部屋の隅へと歩いていくと、頭を抱えてそのまましゃがみこんでしまった。由紀と未奈もまた彼女の側でしゃがみこみ、そのままじっと膝を抱える。
由紀「…ミナちゃんは、どうしてここに?」
先程は聞きそびれたが、由紀はそれが気になった。
未奈はあの屋敷にいたハズなのに、何故ここにいるのかと…。
未奈「…今日、ゲン君に誘われてここの倉庫に来たの。それで…そのままあの人達に捕まっちゃった…」
どこか虚ろな目をしながら、未奈は半分笑って答える。
その笑顔は自傷的で、とても苦しそうだった。
由紀「えっ?だってゲンくんはあの後家に戻ってきて、ミナちゃんは部屋で寝てるって言ってたよ!?」
未奈「…それ嘘だよ。家に戻ったのはゲン君だけで、私はここにいた」
悠里「ゲンジさんは…どうしてそんな嘘を?」
静かに悠里が尋ねると未奈は自分の膝に顔をうずめ、少しの間を開けてから答える。彼女は泣いているのか、声が微かに震えていた。
未奈「ゲン君はね…私達の味方じゃなかったんだよ…」
由紀「えっ?」
悠里「っ…」
由紀と悠里はその発言に驚きながら、ただじっと未奈を見つめた。
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一方、車を失った胡桃達は屋敷へと駆け足で戻りつつ、道を阻む"かれら"をかわす。そんな中、美紀が放った発言に胡桃と彼は驚いていた。
「……」
胡桃「…マジかよ」
美紀「ええ。私の考えが間違ってなければ、今回の出来事はゲンジさんに仕組まれた物だと思います」
ノソノソと動く"かれら"に追いつかれないように適度な速度で走りながら、美紀は自らが感じていた違和感を口にする。
美紀「思い返すとあの人の行動にはおかしい所がありました。まず、私達にあの病院へと行くように頼んできた事ですが、これもおかしいです」
胡桃「…そうか?」
美紀「だって、急にですよ?私達は大した準備もしていないのに、今すぐ行ってきてほしいと急かしてきたんです。出来るだけ早くに行ってきてほしいという気持ちは理解出来ますが、それにしたって急すぎます」
胡桃「まぁ、言われればそうだな…」
美紀「それにもう一つ…あの時__さんは寝ていましたが、ゲンジさんは起こして連れていけと言ってきました。本来ならそこまでする必要はないと思います」
「…どうでしょうね。考え過ぎかも知れませんよ?」
美紀「でも、そうだとすれば色々と納得がいきます。胡桃先輩を襲った人は私達全員の名前を知っていました。恐らく、誰かから私達の事を聞いていたんではないでしょうか」
その言葉を聞いた途端、胡桃は思い出す。
あの時襲いかかってきたあの男は確かに言っていた…。胡桃達の事を知っているのは、とある人物から聞いたからだと。
胡桃「…あぁ、それで間違いない。あの男はそう言ってた」
美紀「だとすれば、それを教えたのはゲンジさんだと思います。あの人が私達の情報を流し、そしてこの病院へと足を運ばせ、そのまま罠に掛けたんです」
胡桃「…どう思う?」
美紀の考えを聞いた胡桃は、隣で黙ったままの彼に意見を聞く。
彼は眉間にしわを寄せながら頭を悩ませているようだが…。
「…まぁ、もうすぐ屋敷につく。答えは本人に聞いてみよう」
美紀「…ですね」
胡桃「…だな」
ゲンジの待つその屋敷へと近寄るにつれ、彼等の不安は増していった。
という訳で、弦次君に裏切り疑惑が浮上しました。
彼や胡桃ちゃんは弦次君の違和感に気付いていませんでしたが、みーくんだけはそれとなく気付いていたようです。出来る娘ですね(* ̄ー ̄)
次回はそんな弦次君と彼等の話がメインになります!
自分でシナリオを考えておいて恥ずかしいですが、今回の話は文字にするのがとても難しいっ(泣)私の実力ではどうしても駄文になってしまう(T_T)
などとぼやいた所で、軽くですが新キャラプロフィールを書いておきます。
主人公の彼とは以前一日だけ行動を共にしており、久しぶりの再会を楽しみにしています。
以上四名の紹介でした!
ちょっと多いですね(汗)あんまり一気に新キャラを投入しても訳が分からなくなるので小出しにしようかとも思いましたが、今回の話を最短で終わらせるにはこうするしかありませんでした(泣)
まぁそれぞれが喋る際に名前は表示されるので、無理して覚えなくても大丈夫だとは思います…(-_-;)
こんな分かりにくい作品ですが、お付き合いして頂ければ幸いですm(__)m