軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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またしても更新を遅らせてしまい、申し訳無いです(-_-;)

頭で構想はすれど、それを文字にする事の難しさを改めて実感中の今日この頃(汗)今回も相変わらず見辛い文だとは思いますが、どうにか楽しんでいただけたら幸いですm(__)m


八十三話『てがみ』

 

 

 

 

 

 

謎の男が姿を消し、どうにか危機から逃れる事の出来た胡桃は彼と美紀のいる上の階へと足を運ぶ…。階段を上り、たどり着いたその階でキョロキョロと辺りを見回すと、ちょうど探索を終えた二人と合流する事が出来た。

 

二人は胡桃に声をかけるが、すぐに異変に気づく…。

 

 

 

美紀「っ!?…胡桃先輩!血が出てるじゃないですか!!?」

 

「怪我したの!?まさか…噛まれたんじゃ!?」

 

胡桃の怪我が"かれら"に負わされた物ではと彼は心配し、慌てた様子で彼女へ近寄る。胡桃は心配させないようにと彼へ軽く笑顔を返し、下で起きた事を告げる事にした。

 

 

胡桃「奴らにやられた訳じゃないから心配すんな。その…他にも生存者がいてさ…、そいつにやられた」

 

美紀「他の生存者?この病院にですか?」

 

胡桃「あぁ…。身を潜めながら、あたしらの隙をうかがってたみたいだ」

 

「…そいつは今……どこにいる?」

 

憎しみを込めた声…そして冷たい目付きをして、彼は胡桃に尋ねる。彼は明らかに、胡桃に傷を負わせたその人物に対して強い怒りを抱いていた。

 

 

胡桃「たぶん…もう外に出ていったと思う。他にも仲間がいるみたいで、無線機で呼び出されてたから」

 

美紀「少しじっとしてて下さい…。応急手当てだけしておかないと…」

 

美紀は背負っていたカバンを下ろし、その中からガーゼ取り出して胡桃の頭へそっと押し当てる。

 

 

胡桃「あっ、大丈夫だよ。もう血は止まってるみたいだし」

 

美紀「それでも、念の為にです!」

 

「その生存者に怪我をさせられたのか…。それも…頭を…」

 

胡桃の顔には頭から流れていた血の跡が残っており、いくら血は止まったと言ってもその跡を見るだけで痛々しく見える。彼は美紀から応急手当てを受ける胡桃の顔をじっと見つめ、深いため息をついた。

 

 

 

「こんな危ない目に遇ったっていうのに、なんで呼ばなかった?」

 

胡桃「…ごめん。大声だしたら奴らに気付かれて、お前らも危なくなると思ったから…」

 

「…いや、側にいなかった僕が悪い。辺りに感染者が潜んでいる以上どんな危ない状況でも大声を出せない事くらい分かっていたのに、胡桃ちゃんを一人にしてしまった…」

 

胡桃「いや、そもそもあたしが一人で良いって言ったんだ。お前が気にする事じゃない」

 

美紀「…その生存者の人、どうして胡桃先輩を襲ったんですか?」

 

胡桃の頭にガーゼを当てながら尋ねる美紀…。

彼の知り合いに襲われたというのには多少の言い辛さを感じていたが、それでも胡桃は全てを話す事にした。

 

 

 

胡桃「その、あたしを襲ったそいつさ…、どうも…お前の知り合いみたいで…」

 

気まずそうに彼の顔をチラッと見つめ、胡桃はそう告げた。

彼はその発言に驚き、目を丸くする。

 

 

「…僕の?」

 

美紀「えっ?」

 

胡桃「ほら、お前…前に言ってたろ?善人のふりして近寄ってきて、物資を全部盗んでいった連中がいたって…。あたしを襲ったのはたぶん、その内の一人だ。お前の事…知ってたから…」

 

「…どんな奴だった?」

 

胡桃「えっと…男の人で、年は見たところ20代くらいかな?そんで、武器には金槌を使ってて――」

 

「金槌…。アイツかもな…」

 

美紀「心当たりがありますか?」

 

武器に使っていたのが金槌というのを聞いた途端、彼は頭をかきながら舌打ちを鳴らす。彼は美紀の問いを受け、静かに口を開いた。

 

 

 

「一人だけ思い当たる人間が…、そいつは確か金槌を使っていました。とはいっても金槌は武器としてはありふれてそうなんで、まだ確証は持てませんが…」

 

美紀「では、胡桃先輩を襲ったのがその人だと仮定して…目的は?」

 

胡桃「…わかんねぇ。でもそいつ…あたしら全員の名前を知ってたんだ」

 

美紀「えっ?」

 

「全員?僕だけじゃなく?」

 

胡桃「あぁ。美紀に由紀にりーさん…全員の名前を知っていた」

 

美紀「………」

 

「みんなの名前まで…どうして」

 

美紀「もしかすると…」

 

胡桃「とりあえずもう手当てはいいよ。由紀達が心配だし、一旦戻ろう」

 

手当てしてくれている美紀の手をそっと払い、胡桃は立ち上がる。

一方で美紀は何か考え事をしながら、下ろしていたカバンを背負った。

 

 

 

美紀「そう…ですね。でも、まだその人が外にいるかも知れませんよ?」

 

「その時はその時です。胡桃ちゃんに手を出した以上、そいつだけは絶対に許しません」

 

三人は辺りを警戒しつつ、側の階段を下りていく。

静かな院内に三人の足音だけが微かに響く中、胡桃はそっと彼に声をかけた。

 

 

 

胡桃「…なぁ」

 

「ん?」

 

胡桃「お前…あたしが死んだら悲しむか?」

 

「…はい?」

 

その突然の問いに対し、彼は眉をひそめる。

一瞬何かの冗談かとも思った彼だったが、先程襲われたばかりという事実…そして胡桃の真剣な表情を見たら、冗談などではないとすぐに分かった。

 

 

「当たり前だよ。この前そう言ったでしょ?」

 

胡桃「…あたしを襲った奴に言われたんだ。お前はあたし達と友情ごっこしてるだけだから、あたしらの内の誰が死んでも悲しんだりしないって…」

 

「はぁ?そいつ…何知ったような事を…!」

 

そう言って苛立った表情を見せる彼を見て、胡桃は安心する。やはり彼の事はあの人物よりも自分達の方が理解している。彼は冷徹な人間などではない、優しい人だ…そう思えたから、彼女は本当に安心した。

 

 

 

胡桃「お前は…あたしが思っているままの人間だよな?」

 

「胡桃ちゃんの抱いているイメージによるけど、まぁ…期待に背く事はないと思う」

 

胡桃「…うん。それならいい」

 

胡桃はチラッと彼の顔を見つめると嬉しそうに微笑み、少しだけ歩くペースを速める。三人はすぐに一階にたどり着き、病院の外へと出た。

 

 

 

美紀「…車、どの辺りに停めましたっけ」

 

「えっと…どこだったかな…」

 

美紀が辺りを見回しながら彼と胡桃に尋ねる。彼はその場所を忘れたようで首を傾げていたが、その場所をハッキリと記憶していた胡桃はため息をつきながら二人の前に立った。

 

 

 

胡桃「__はともかく、美紀まで忘れたのかよ。しっかりしろっての」

 

美紀「いや…私はちゃんと覚えてたハズなんです。でも…その…」

 

胡桃「…っ!?」

 

目の前に広がる駐車場…。ここを訪れた際、胡桃達は何かあればすぐ駆け込めるようにと入り口から近い距離に車を停めた。確かに…10mと離れていない地点に停めたハズだった…。

 

 

 

美紀「ないんです…車…どこにも…」

 

そう告げる美紀の声が、段々と震え始める。

一方で胡桃は目を見開きながら車を停めたハズの地点…更にはその周囲を調べるが、やはり…由紀と悠里を乗せたあの車は見当たらない。

 

 

胡桃「嘘だろ…!どこに…どこに行った!?」

 

美紀「…まさか、胡桃先輩を襲った人に…!」

 

そう言えば、あの男を無線機越しに呼び出した声は確か『二人捕まえた』と言っていた。

突然襲われた事や、彼の知り合いという事に驚いたあまりつい忘れていた胡桃だったが、あの言葉を思い返してどんどん不安になる…。

 

 

 

胡桃「由紀…りーさん…。まさか…本当に…」

 

「停めた場所、ここで間違いないよね?」

 

胡桃「あ…あぁ。絶対にここだ。この赤い車の隣に――」

 

言いながら側にあった赤い軽自動車を指差した胡桃だったが、彼女は突然その腕を下げ、ゆっくりとその車へと歩み寄る。そしてその車のボンネットへと手を伸ばすと、そこに置かれていた一枚の紙を手に取った。

 

 

美紀「先輩…それは…?」

 

胡桃「……」

 

「……」

 

彼と美紀は黙ったままそれを見つめる胡桃の横に立ち、その内容を覗き見る。ノートをちぎったようなその紙には、真っ黒な文字でこう記されていた…。

 

 

 

 

『二人もらった お前らは一度家に帰れ』

 

 

 

「二人…って事は…」

 

美紀「これって…!」

 

胡桃「由紀…りーさん……」

 

紙を見つめる胡桃の目が、段々と潤み始める。

彼女はその紙をグシャッと握り潰すと、その場に膝をついてうなだれた。

 

 

胡桃「くそっ……くそぉっ!!」

 

「どうすればいい…。追いかけようにも、二人がどこに連れていかれたかが分からないし…!」

 

焦ったあまり、胡桃と彼は声を荒げてしまう。

すると少し離れていた場所にいた"かれら"がこちらに振り向き、うめき声をあげながらのそのそと歩み寄ってくる。

 

 

美紀「っ!?とりあえず、書いてあった通りに一度家へ戻りましょう!」

 

胡桃「帰るって…どこに…」

 

地面に座り込んだ胡桃が、美紀を見上げながら小さな声をあげる。

 

 

 

美紀「どこって…未奈さんの家ですよ!」

 

胡桃「でも…由紀達を探さないと!」

 

美紀「なんのヒントも無いまま探すより、一度あの家へ戻るべきです!」

 

「…確かにそうだな。このままじゃどのみち奴らに囲まれる。胡桃ちゃん、立って!」

 

胡桃「…あぁ」

 

彼は胡桃の手を掴み、急いでその体を立たせる。

彼と胡桃と美紀は"かれら"に取り囲まれる前に駆け出し、その病院をあとにした。

 

 

 

 

 

 

___

 

____

 

 

 

 

 

 

 

 

悠里「………」

 

「ねぇ、そんな怖い目で睨まないでくれる?」

 

見知らぬ男が運転するキャンピングカーの中、後部座席に由紀と並んで座る悠里は目の前に座るその女を睨み付ける。だが悠里の視線を受けてもその女は全く気後れする事はなく、ニコニコとどこか不気味な笑みを浮かべた。

 

今現在、車内には悠里と由紀、そしてその女と運転席の男…更にもう1人、金槌を手に持った男が助手席に座っていた。

 

 

 

悠里「あなた達、いったい何が目的ですか?」

 

「ん~。欲しい物は色々あるけど、今一番の目的は戦える人材を揃える事ね」

 

悠里「だったら私達を連れていくのは間違いです。私達が戦えるように見えますか?」

 

「いいえ。ちょっと刃物を突きつけられただけで抵抗しなくなった辺り、そういう事なんでしょうね」

 

右手に持つポケットナイフを弄りながら、その女は微笑む。

 

 

 

悠里「だったら…!」

 

「でも私の仲間がね、あんた達のお友達の男の子…彼は使えるハズだからって言って聞かないの」

 

由紀「そ、それって…」

 

「ええ。__君だっけ?私の仲間の何人かは彼と知り合いなの。…あ、私は違うよ?例えばほら、ソイツとか…」

 

女はそう言って、助手席に座る男を指さす。

すると男は軽く顔を振り向かせ、悠里達を相手に語り始めた。

 

 

「あいつと会った事のある人間は元々は五人いたんだがな、その内の三人は奴らに食われちまって、今俺達の仲間であいつを知る人間は俺を含めて二人だけだ」

 

男がそう言い放つと、悠里達の前に座る女は深いため息をつきながら愚痴をこぼした。

 

 

「その二人がどっちも"今の彼は使える"って言うから、仕方なく付き合ってあげたの。本当なら私はもう自分のチームに戻ってる時間だったのに…余計な仕事を増やして…」

 

「ははっ、そんなに怒るなよ。この娘らをあそこに閉じ込めたらすぐに送るからさ」

 

「いいえ、自分で帰るわ。その代わり、物資は多目に分けてもらうわよ?」

 

「へいへい。りょーかいしましたよ」

 

 

由紀「……」

 

悠里「つまり、私達は彼を誘き寄せる為の人質って事…?」

 

うつむいて不安そうな表情をする由紀の背をそっと撫で、悠里はその女に尋ねた。

 

 

 

「まぁそうね。彼を直接連れてきてもよかったけど、人質を取ってから自分達の領域に誘い込んだ方が色々と楽だし、試したい事もあるの」

 

由紀「__くんに…酷いことしないで。お願いだから…」

 

怯えているのか、消え入りそうな声で由紀が呟く。

すると女はふふっと笑い、由紀と悠里の顔を見た。

 

 

「彼に酷い事はしないわ。だって、私達は彼を必要としているんだもの。酷い事をされるとしたら、それはむしろあなた達ね」

 

女の笑顔とその言葉が恐ろしくて、由紀の顔は徐々に青ざめる。

悠里は由紀を不安にさせない為に平静を装っていたが、さすがにその発言を聞いたら手の震えを抑えられなかった。

 

 

その後、悠里はどうにか隙をついてその場から逃れようと考えるもその女に隙はなく、車はとある場所にある大きな倉庫の前へと停まった。

 

 

「さぁ、到着よ。降りて降りて」

 

由紀「うっ!」

 

女は立ち上がった由紀の肩を掴むとその背にナイフを突き付け、悠里の顔を覗き見る。

 

 

「少しでも暴れたり、逃げようとしたらこの娘を苛めちゃうから。だから大人しくしててね?大丈夫、あんたらが大人しくしてればすぐに彼と会えるから♪」

 

悠里「わかり…ました」

 

悠里はグッと拳を握りしめ、車を降りる。

由紀を押さえられた以上は危険な真似は出来ない為、悠里は大人しくその女達に従い、由紀共々その薄暗い倉庫の中へと足を踏み入れていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




胡桃ちゃんが危機を脱したのと入れ代わるようにして、りーさん・由紀ちゃんコンビにピンチが訪れました。

次回は由紀ちゃん達サイドの話と、家へと戻る彼等一行の話を半々にして送る予定です!(^^)

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