軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回の話は留守番しているみーくん達からのスタートとなりますが、探索を終えた彼らも既に家のそばまで来ているため、わりとすぐ合流します。


七十一話『せんたく』

 

 

 

 

白雪「みき、次は何してあそぶ?」

 

美紀「えっと…絵でも描こっか?」

 

白雪「うん。みきは絵、得意?」

 

美紀「ん~、特別得意なわけでもないかなぁ…」

 

白雪「じゃあ勝負しよう?後でミナに見せて、どっちが上手いか聞くの」

 

美紀「わかった。じゃあ紙とペン貸してくれる?」

 

 

白雪「えっと…はい、これ」

 

美紀「ありがとう。じゃあ…ワンちゃんでも描こうか?」

 

白雪「ワンちゃん…?うん、いいよ」

 

広間の隅…美紀と白雪は床に寝転びながらペンを片手に持ち、真っ白な紙に『犬』を描いていく。そんな二人の様子を、席に座りながら見守る未奈と胡桃…。未奈はそばの胡桃の顔をチラッと覗きこむと、申し訳なさそうに言った。

 

 

 

 

未奈「あのぉ…ごめんなさい。ヒメちゃんの遊びに付き合ってもらっちゃって…」

 

胡桃「ん?気にしないでよ。好きでやってる部分あるし…。」

 

未奈「…ありがとう。胡桃ちゃんは…子ども、好き?」

 

胡桃「まぁ…少なくとも嫌いじゃないよ。シラユキ可愛いし…」

 

未奈「さっきまでは胡桃ちゃんがあの子と遊んでくれてたんだよね?ありがとう…二人がヒメちゃんと遊んでる間に、私は家の仕事を片付けられたよ♪」

 

胡桃「仕事?」

 

未奈「うん♪みんなの部屋の掃除とか…あと洗濯!みんなの服もちゃんと洗っておいたからね♪」

 

そういえば、彼女達が昨日…濡れた服から綺麗な服への着替えを終えた後、未奈は気づけば彼女達が脱いだ服を集めてどこかに持っていった。洗濯の準備をするために、わざわざ運んでいってくれたのか…。そう思った胡桃は未奈に礼を言おうとするが、直前のところで一つ、気になる事が出来てしまった。

 

 

 

 

胡桃「あの…下着も?」

 

未奈「うん!洗っておいて、今は外に干してあるよ♪」

 

 

胡桃「ちょいっ!!?どこ!?それってどこに干してあんの!?」

 

未奈「ごっ、ごめんなさいっ!?庭ですっ!庭ですからっ!」

 

突如大声を発する胡桃に対し、凄まじい早さで頭を下げる未奈。

彼女は目に涙を浮かべながら、必死に頭を下げ続ける…。

そういえば彼女はこういう性格だったと思い出した胡桃だが時すでに遅し…室内にはなりやまぬ『ごめんなさい』の雨が響いていた。

 

 

 

未奈「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」

 

胡桃「い、いや…わかったから!もういいからっ!!」

 

未奈「ごめんなさい~っ!!」

 

 

美紀「ちょっと先輩っ!なにしてるんですか!?」

 

胡桃「あたしが悪いのか!?」

 

突然の連続『ごめんなさい』に驚いた美紀がそばまで駆け寄り、胡桃と共にそれを抑えようとするが…止め方がまるで分からない。都合の悪いことに、昨日これを止める事が出来た唯一の人間である"丈槍由紀"は今、外に出てしまっているのだ。

 

 

 

未奈「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

 

美紀「み、未奈さん!落ちついてっ!!」

 

未奈「ごめんなさいごめんなさい!!何で謝ってるかも分かりませんが、ごめんなさい!!!」

 

 

胡桃「何で謝ってるかも分からないのに頭を下げるなよっ!!!」

 

未奈「ひいっ!?ごっ、ごめんなさい~っ!!!」

 

反射的にツッコミを入れてしまう胡桃…。

未奈はそんな彼女の大きな声に再び驚き、より強く謝罪をしていった。

額を床に擦り付け、涙をぽろぽろとこぼしながら…未奈は謝り続ける。

 

 

 

美紀「ほらっ!先輩がまた大きな声を出すからっ!!」

 

胡桃「ご、ごめんっ!!ほら未奈っ!もう、ごめんなさいは無しにしよう?」

 

未奈「すいません~っ!!すいません~っ!!」

 

 

美紀「………」

 

胡桃「ま、まぁ…『ごめんなさい』ではなくなったよな?」

 

気まずそうに苦笑いしながら、胡桃はそっと横目で隣の美紀を覗き見る…。覗きこんだその表情は恐ろしいほどに冷たい目をしており、真っ直ぐに胡桃のことを睨み付けていた。

 

 

 

胡桃「~っ!わかったよ!ちゃんとあたしがどうにかするからっ!!」

 

美紀「先輩一人に任せておけません…。私もどうにかして――」

 

 

 

白雪「ミナ…大丈夫だよ。おちついて?」

 

慌てる二人の間をそっと通り抜け、土下座する未奈の背中を優しく撫でる白雪…。すると未奈はあれだけ連発していた謝罪をやめ…そっと白雪の顔を覗きこんだ。

 

 

 

未奈「…ヒメ…ちゃん?」

 

白雪「その呼び方は…やめてほしい…」

 

 

未奈「えへへ~♪かっわい~っ♡」

 

 

そっと目線を逸らして照れる白雪の顔を見た未奈は正気を取り戻し、彼女にギュッと抱きついた。

 

あれだけ錯乱していた未奈を、あんな一瞬で静めるなんて…。

突然の出来事に胡桃と美紀は思わず言葉を失いつつも、今は満面の笑みを浮かべる未奈、そして嫌そうな表情を浮かべながら彼女を突き離そうとする白雪…その二人をじっと見つめていた。

 

 

 

美紀(シラユキちゃん…すごい…)

 

胡桃(あんな簡単に…未奈のヤツを抑えこむなんて…!)

 

 

 

未奈「ぎゅう~~っ♡」

 

白雪「見てないで…助けて、くれたら…うれしい…」

 

未奈に力いっぱい抱きしめられ、白雪はだんだんと顔を青くしていく。

どうやら呼吸するのもやっとらしい…。

 

 

 

美紀「未奈さんっ!シラユキちゃん苦しそうですから!」

 

未奈「…はっ!ヒメちゃんごめんねっ!?」

 

 

白雪「…ギリギリ…大丈夫…」

 

抱きしめ攻撃から白雪を解放した未奈は彼女の頭を撫でながら謝る。それは先程のような連発式の謝罪ではなく、本当の意味でも謝罪だった。だんだんと顔色が戻っていく白雪を見た胡桃と美紀は一安心するとそっと扉を開けてから廊下に出て、聞こえないようにコソコソと言葉を交わした。

 

 

 

 

胡桃「あのさ…あたし、未奈って何かの病気だと思うんだよね…。だって普通じゃないだろ?あんななって謝るなんてさ…」

 

美紀「まぁ…確かに少しおかしいですが、そうと決めつけるのは早いですよ?ああいう性格ってだけかも…」

 

胡桃「性格ってだけであんなに土下座したりするか?もしかしたらさ、ほら…昔のトラウマとかで謝る癖が~みたいな、そんなんじゃないのか?」

 

 

 

弦次「あれは昔っからの"性格"ですよ。病気でもなんでもなく、お嬢はずっと前からああです…」

 

美紀「あ…」

 

胡桃「うっ!」

 

廊下で話す二人の会話にどこからか現れた弦次が割り込み、ニッコリと微笑む。その背後には彼、由紀、悠里もおり、不思議そうに二人を見つめていた。ちょうど今、探索から戻ってきたらしい。

 

 

 

 

胡桃「お…おかえり」

 

由紀「たっだいま~!……どして廊下にいるの?」

 

美紀「ちょっとナイショの会話を…」

 

 

弦次「ははっ!気にしなくてもいいんですよ?自分だって初めてお嬢のアレを見た時は、なんかの病気かと思いましたから」

 

そう言って弦次は楽しそうに笑う。弦次の言う"アレ"とは、間違いなくあの連発式謝罪の事を言っているのだろう…。

 

 

 

 

悠里「胡桃…なんかしたの?」

 

胡桃「いや…ちょっと洗濯ものの話を…」

 

 

胡桃「…っ!?」

 

言いかけたところで胡桃は何かを思い出したように焦りだし、再び部屋の中へと戻って未奈に尋ねた。今度は慎重に…大声を出さないように…。

そうしなければ、未奈はまた大声で謝り始めてしまうから…。

 

 

 

胡桃「あ、あのさ…さっき下着とか庭に干したって言ってたけど…」

 

未奈「ん?ああ。庭って言っても裏の方だから、__君に見られたりはしないよ♪」

 

そう告げて微笑む未奈を見て、胡桃は心から安堵する。

先程未奈は『庭に干した』と言っていたが、それが彼にも普通に目につく場所なのではないかと心配したからだ。

 

 

 

胡桃「よ、よかった…」

 

未奈「今朝、悠里ちゃんと一緒に場所を考えてね。ここなら大丈夫!って所に、隠すように干しといたよ!」

 

胡桃「りーさんも場所決めを手伝ったんだ…なら安心」

 

未奈「でも、胡桃ちゃん達のやつ全然変な下着じゃないのに…なんで隠すの?」

 

 

胡桃「………」

 

未奈「………」

 

 

 

ガチャッ…

 

 

一瞬、二人の間の時間が止まったが…それは部屋の扉が開き、弦次達が室内に入って来たことで再び動きだす。

 

 

 

弦次「お嬢、白雪、ただいま…って、どうした?」

 

未奈「いやぁ…あのね、胡桃ちゃんが――」

 

 

胡桃「未奈、ちょっと部屋移ろうぜ…」

 

未奈「へっ?ちょ…胡桃ちゃん?」

 

胡桃は未奈の手を引き、他の部屋へと半ば強引に連れていく。

そうして早足で部屋から出ていく胡桃達を見て、不思議そうな顔をする彼…。彼は彼女とともに留守番していた美紀ならば何か知っているのではと考えた。

 

 

 

「胡桃ちゃん、どうしたんです?」

 

美紀「さぁ…私もよくわかりません」

 

事実、美紀は彼女が未奈を連れ出したその理由については何も知らなかった。ただ、先程胡桃と未奈のそばにいた白雪…、彼女はずっと二人の会話を聞いていた為、大体の事を把握していた。

 

 

 

 

白雪「あの…大したことじゃないとおもいますから、心配しないでください?全部…ミナがわるいんです」

 

「…??」

 

白雪「ミナ…女の子として少しおかしいところがあるから」

 

彼が白雪の発言に首をかしげている頃…。

胡桃は階段をかけ上がり、未奈を自分の部屋へと連れ込んでいた。

 

 

 

未奈「えっと…えっと…!ど、どうしたの…?まさか、また私…何かマズいことを!?」

 

胡桃「それはないっ!!だから謝るのはやめてくれよ!?」

 

未奈の謝罪が始まる前に、それを阻止しておく胡桃…。

アレは一度始まれば止められないが、始まる前に止める事は出来るようだ。

 

 

 

未奈「じゃ、じゃあいったい…」

 

胡桃「さっきあたしにさ…『なんで下着を隠すの?』って言わなかった?」

 

未奈「うん、言った…と思う。それが?」

 

 

胡桃「じゃあ逆に聞くけどさ…、なんで隠さなくていいと思ったの?」

 

未奈「えっ?だって…、干してるやつだし…」

 

胡桃「はっ?」

 

 

 

未奈「履いてるのを見られるのは恥ずかしいと思うけど、干してるのはべつに隠さなくてもよくないかな?」

 

胡桃「はあっ?」

 

 

 

未奈「だって干してるやつだよ?柄とかをデザインしたのが自分って訳でもないし…見られても困ることなんて…」

 

胡桃「はあっ!?」

 

未奈「ひいっ!!?」

 

『もうダメだ…。コイツとは物事の捉え方そのものの次元が違う。』胡桃はそう思い、深く考えるのを止めた。恐らく…未奈の中での下着の扱いは普通の衣服とそう変わりがないのだ。強いていうなら『履いてるのを見られるのは恥ずかしい』…その程度だ。干してるものは、いくら見られたところで全く恥ずかしくないらしい。

 

 

 

胡桃「そういうけどさ…ほら、いくら干してある…今は履いてない下着だとしても、ゲンジさんに見られたら恥ずかしいだろ?なっ?」

 

未奈「??…全然だよ?私…たまにゲンくんに洗濯頼んでるくらいだし…」

 

胡桃「っ!?…いやまて、あれだろ?洗濯っていってもタオルとかだろ?」

 

 

未奈「タオルもだけど…普通に服とか下着もやってもらうよ?」

 

胡桃「…下……着?」

 

未奈「ほら、ブラジャーとかパンツとか…」

 

胡桃「そんくらいわかってるよ!!マジかよ!?お前、同い年の男子に下着洗濯させてんのかっ!!?」

 

未奈「ひいいっ!?ごめんな――」

 

胡桃「謝るのはやめろっ!!」

 

未奈が暴走する前に胡桃は手でその口を塞ぎ、そのまま潤み始めた彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

 

 

 

 

胡桃「一応先に言っとくけど…あたし達の服をゲンジさんに洗濯させたりとかすんなよ!?近づけるのも、見せるのもダメだからな!?」

 

未奈「んぐっ!んぐっ!」コクッ!コクッ!

 

口を塞がれて声を出せない未奈は必死に(うなづ)き、それに答える。

目にはじんわりと涙が浮かんできていて、(はた)から見たら胡桃が彼女を脅迫しているかのようだった。

 

 

 

胡桃「てかもう、全部あたし達が洗濯するよ…。未奈に任せんの心配だわ…」

 

そっと彼女の口から手を離し、胡桃は頭を抱える。

一方で未奈は溢れていた涙を手で拭いながら、乱れかけていた呼吸を少しずつ整えていた。

 

 

 

未奈「わ、私も洗濯くらいはやる…。みんなの役に立ちたいし…」

 

胡桃「…男の手は借りんなよ?お前は少し特別だけど、普通の女の子は男の子に下着を見られるのが恥ずかしいんだ。たとえ、干してあるやつでもな」

 

未奈「ど、どうして?」

 

胡桃「どうしてって聞かれるとムズいけど…、まぁ…『へぇ、こんなの履いてるんだぁ』…とか思われたりするからじゃないかな?」

 

未奈「ゲンくん…そんな変態じゃないもん…」

 

胡桃「だとしても!!男に下着を洗濯させたり、干してあるのを見られても恥ずかしくないとかいう女子は珍しいんだっ!!普通は違うっ!かなり恥ずかしい!!少なくとも、あたしはアイツに下着を洗われたら死にたくなる!!///」

 

未奈「……覚えとく」

 

 

 

顔を真っ赤にしながら熱弁する胡桃の迫力に押され、渋々引き下がる未奈だが…本当は何が恥ずかしいのかを未だに理解していなかった。

 

女子としての常識であろう知識を未奈に授けたところで、胡桃は彼女を連れて広間へと戻っていく。広間へと戻る道中に胡桃は思った…『ゲンジさん、どんな気持ちで未奈の下着を洗濯してたんだろう…』…と。

 

 

 

 




一度始まったら止まらない"連発式謝罪"…同年代の男子に下着(履いてる時以外)を見られても恥ずかしくない、それどころか洗濯すらさせる…。

地味に変人力の高い、少しずれてるお嬢様。それが水無月未奈という女の子なのです(汗)

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