軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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六十話『二度あることは…』

本日の拠点として一つの公園を選び、そこへと向かう悠里達だったが、途中で道を"かれら"の群れに塞がれていた為、仕方なく別の道へと変更。

 

しかし、目的地へと通じるT字路まで来たところで、今度はガラクタで作られたバリケードによって道を阻まれてしまう。

 

目の前に現れたそのバリケードをどかせそうか確認する為、彼女達は激しい雨の降る外へと降り立った。

 

 

 

「……ダメだな。簡単には動かせない」

 

片手で傘をさしながら、もう一方の手でバリケードを押し、ぴくりとも動かないのを確認してから彼は皆に告げた。

 

 

胡桃「くそっ!また別のルートからやり直しかよ…!?」

 

美紀「逆方向も同じように塞いでありますね…。誰が道路にこんなものを…」

 

彼女達が目指すのはT字路の左側の道だったが、その反対…右側も同じように大量の物で塞がれていた。

 

 

 

そしてT字路の左右どちらでもなく、その中央…そこには高さ2m、横幅6m程の大きな横開き式の門があり、一軒の大きな家の庭へと続いていた。

 

由紀「この家、すごいね~!学校の校門みたいな門がついてるよ!お金持ちなのかな?」

 

美紀「え?ここって図書館かなんかの施設じゃなくて個人の家なんですか?」

 

そう尋ねる美紀に対して由紀は門の横に付けられたある物を指さす。

それはこの家の表札らしく、三文字の漢字だけが書かれていた。

 

 

由紀「普通のお家みたいだよ。だってこれって表札でしょ?えっと…、みず…なし…」

 

美紀「『水無月(みなづき)』だと思いますよ。ここはその『水無月』って人のお宅みたいですね。」

 

由紀「へぇ、みなづきさんか!!オシャレな名字だね?」

 

 

胡桃「広い庭だなぁ…門から家まで10m以上離れてるぞ…絵に描いたような豪邸じゃねぇか」

 

門の隙間からその広い庭を覗いて胡桃が言う。

手入れする人がいないのか芝生が僅かに荒れているが、それでも十分に綺麗な庭だった。

 

 

悠里「少なくともこの家の庭にかれらはいないみたい…もしかしたら、生き延びた人がいたりしないかしら?」

 

「どうでしょうね…確かめてみたいですか?」

 

由紀「じゃあ、私が門をよじのぼって見てこよっか?」

 

胡桃「由紀じゃ無理だろ…」

 

由紀「見くびっちゃダメだよ!私だってこのくらい…」

 

そう言って由紀は目の前の門をよじ登ろうと手を伸ばすが、片方の手は傘をさしている為使うことが出来ない。

仕方なくもう一方の手で門を掴むが、雨に濡れているからか上手く掴む事が出来ず、少し力を込めると滑ってしまっていた。

 

 

由紀「これは…雨のせいだね。雨が降ってなければきっとのぼれたよ!」

 

胡桃「はいはい、わかったわかった…」

 

由紀「ちょっとだけ、バカにされてる気がする…。」

 

胡桃「気のせい気のせい」

 

由紀「うぅっ…胡桃ちゃんなら、雨降っててもこの門のぼれる?」

 

胡桃「もちろん、鍛え方が違うからな!」

 

由紀「さすがだね!やってみせてよ!」

 

 

悠里「ちょっと!危ないからやめなさいよ!?」

 

胡桃「大丈夫っ、へーきへーき!見とけよ由紀…あたしの身体能力をっ!!」ダッ!!

 

止めようとする悠里を気にもせず、胡桃は門から少しだけ離れてから一気に駆け出し、助走をつける。

後はその勢いのままジャンプし、門の上へと手を伸ばすだけだったが…

 

胡桃「……っ!!」

 

不意にある事に気がつき、胡桃は足を踏ん張らせてブレーキをかけ、ジャンプする事なく門の手前ギリギリで停止した。

 

 

胡桃「………」

 

由紀「どしたの?やっぱりちょっと難しい?」

 

美紀「当然ですよ!雨の中この高さの門をよじ登ろうとするなんて危険過ぎます!」

 

胡桃「いや…その、それもあるけどさ…」

 

美紀に説教される中、胡桃はチラッと彼を見てから呟く。

今の彼女の格好は学校の制服姿に上着を重ねたもの、当然下はスカート…

高い門をよじ登ろうとしていた彼女が、彼を見てからそれを突然止めた理由は一つだった。

 

 

「チラチラこっち見てるけど、なにかな?」

 

胡桃「な、なんでもない…///」

 

 

悠里「まぁ…でも、中を探したところで多分誰もいないでしょう。とりあえずは先を急ぎましょうか」

 

胡桃「そうだな…。ってか本当に雨がすごいな…傘さしてても少しずつ濡れるんだけど」

 

美紀「先輩の場合はさっき無駄にダッシュしたから余計に濡れてるんですよ!」

 

胡桃「うっ…、反省する…」

 

由紀「私もさっき水溜まり踏んじゃったから、靴の中がヒドイ事になってるよ…」

 

「結局バリケードも動かせなかったですし、これ以上濡れる前に早いとこ戻りましょうか」

 

胡桃「そうだな。よし、車に戻ろうぜ~」

 

 

悠里「あっ、胡桃。今度は私が運転を…」

 

バタンッ!!バタン!!!

 

 

「ん?」

 

胡桃「…何の音だ?」

 

突如何かが倒れたような音が響き、彼女達は一斉に振り返る。

その音は彼女達の周辺、そう遠くはないところから聞こえてきた…

その場にいた全員、嫌な予感がしていた。

 

 

胡桃「…りーさん、車…とっととUターンさせて離れよう」

 

悠里「そうね…みんな、中に入りましょう。」

 

車のドアを開け、悠里がそう言った直後…周辺に不気味なうめき声が響き、物陰から"かれら"姿を現し始めた…

 

 

 

ヴァァア…アァッ…

 

美紀「やっぱり…」

 

「来ましたね…早くここから離れた方が…」

 

 

ァア…ァア… グァアァ… ァア…!

 

ウァァ…ァア…

 

胡桃「なっ!?いくらなんでも多すぎだろ…!!」

 

少し焦った表情をして、胡桃は呟く。

そこら中の物陰から姿を現す"かれら"の数は予想していたよりも多く、既に15体以上が後方の道を塞ぎつつ彼女達目掛けて歩み寄って来ていて…みるみる数を増していく。

左右の道はバリケードに塞がれ、後方は奴らが塞ぐ…。

彼女達は逃げ場を失い、追いつめられていた。

 

 

悠里「…!胡桃っ!どうする!?」

 

胡桃「多少車が傷むだろうけど仕方ない…この群れの中を無理やり突破するしか…!」

 

目の前に迫る群れを相手に無事突破できる事を祈りながら呟く胡桃、すると直後…由紀が先ほどまで見ていた豪邸の門に手をかけ、全員に大声で告げた。

 

 

由紀「みんなっ!この門、鍵がかかってないみたい!中に逃げられないかな!?」

 

 

胡桃「!!そうか…わかった!りーさんは門が開いたら車を中に!美紀は由紀を手伝って二人で門を開けてくれ!!」

 

この"かれら"の群れを無理やりに突破しようとして、途中で万が一にも車が死体に引っ掛かりでもして止まってしまったら、もう逃げ場はない。

そうなれば確実に全員死ぬ…そう考えた胡桃は一か八か、目の前の門の向こうに逃げ込む事にした。

 

 

 

美紀「は、はいっ!わかりました!」

 

美紀は由紀の元に駆け寄り、雨に濡れるのもお構い無しに持っていた傘をその辺に投げ捨て、由紀と二人でその門を横に開いていく…

だが、その門は予想していたよりも遥かに重く、全力で押しても少しずつしか開いていかなかった。

 

 

由紀「うぐぅ…!重いよぉ…!」

 

美紀「が、がんばって下さいっ!急がないと…このままじゃ…!」

 

彼と胡桃も二人に手を貸そうかと思ったが、すぐそばに迫る"かれら"が門を開ける二人に襲いかかる事の無いように足止めをしなくてはならなかった。

 

 

胡桃(横開きの門、これならただ力任せに襲いかかる事しか出来ない奴らじゃ簡単には開けられないかも知れない…。頑丈そうな門だし、あたし達が入った後ですぐに閉じる事が出来れば…どうにかしのげそうか…)

 

 

 

「今日は悪いことばかりおこる…。由紀ちゃんと美紀さんがあの門を開けきるまで、この数を相手に時間稼ぎしなきゃダメか…」

 

胡桃「ほんの少しの間だけだ。本当に少しだけ堪えられればいい…、だから間違っても噛まれたり、死んだりするなよ」

 

「うん、胡桃ちゃんも…」

 

胡桃「ああ…、わかってるっ!!」

 

 

二人は持っていた傘を投げ捨て、雨に打たれながら胡桃はシャベルを、そして彼はナイフを構え、"かれら"の群れの前に立ちふさがった。

 

 

 




この日は本当についていない由紀ちゃん達…
道が塞がれていたあげく、後方から迫るかれらによって一気に大ピンチとなりました。

でも由紀ちゃんとみーくんが門を開けるまで時間はそうかからないでしょうし、彼と胡桃ちゃんならきっとどうにか出来るはずです!

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