軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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五十九話『ついていない日』

 

 

美紀「ん~?無いじゃないですか…そんな絵」

 

あの後、少し離れた場所まで車を走らせ、適当な空き地を見つけてそこに一時的に車を停める事にした。

 

あの絵を見たがった美紀は由紀と共に傘をさしながら外に降り、ドアを見たが…もうあの絵は消えていた。

 

 

由紀「あれ?変だなぁ~。ほんとにあったんだよ?ひつじさんの絵」

 

美紀「う~ん、雨で消えちゃったのかも知れませんね。」

 

由紀「ざんねんだね…みーくんにも見せてあげたかったよ。…あっ!せっかくだから似たのを私が描いてあげようか!?」

 

美紀「いえ…けっこうです。ほら、戻りましょう」

 

 

バタン…

 

 

胡桃「どうだった?あったろ?」

 

美紀「いえ、もう綺麗に消えてました。雨で流れてしまったみたいですね」

 

悠里「あら、そう…。まぁ、私達が見た時も少しにじんでたものね」

 

向かい合って席に座る胡桃と悠里。

戻った美紀と由紀はそれぞれの隣に座り、頭を悩ませる。

 

 

美紀「少しだけ気味が悪いですね。私達以外の生存者があの場にいた…、という事なのかな…」

 

悠里「そう…でしょうね。」

 

由紀「じゃあさ、戻ってあげた方が良くない?一人ぼっちで困ってる人かもよ?」

 

胡桃「いやぁ…困ってるなら普通に声をかけるだろ。なのに、そうしないでわざわざバレないように絵だけ描いて逃げたんだぜ?」

 

由紀「う~ん…人見知り?」

 

胡桃「いやいや…」

 

 

由紀「ベテランサバイバーの__さん!あなたはどうお考えでしょーか?」

 

一人離れた席に座る彼にマイクを向けるような仕草をして、楽し気に由紀が尋ねた。

 

 

「えっ?ん~…どうでしょうね。正直、まったく謎ですよ。…っていうかベテランサバイバーって何ですか…」

 

由紀「__くんも分からず、りーさん達も答えを出せない…。つまり…この事件は迷宮入りだね!」

 

悠里「いえ、もしかしたら…」

 

突如、悠里が思い付いたように呟く。

由紀はそんな彼女の方へと振り向き、彼にしたような仕草をして尋ねる。

 

 

 

由紀「さすがりーさん!分かりましたか?」

 

悠里「ふふっ…」

 

尋ねる由紀に対して悠里はニヤリと笑い、少しだけ低めの声で答えた。

 

 

悠里「幽霊…かもね?」

 

由紀「うぐっ!?ほ、ほんとに…?」

 

悠里「由紀ちゃんと友達になりたくて、それであんな絵を描いたのかもよ?」

 

由紀「わたしっ!?わ、悪いけど幽霊の友達はちょっと……代わりに胡桃ちゃんをその人の友達に…」

 

胡桃「な!?ふざけるなっ!あたしだってやだよ!」

 

由紀「私はやだとは言ってないよ!?ただちょっと遠慮しただけだもん…!だから呪うなら胡桃ちゃんを~!!」

 

胡桃「あっさりと友達を売るなぁ!!」

 

そう怒鳴りながら胡桃は由紀の胸ぐらを掴み、ぶんぶんと強く揺さぶる。

由紀はその手を振りほどこうとしながら、必死に謝り続けた。

 

 

 

由紀「ごみんごみん~!!冗談っ!冗談だよぉ!!」

 

胡桃「冗談でも…絶対にそういう事言うなよ!?」

 

由紀「う~、わかった…ごめんなさい~。」

 

胡桃は由紀から手を離して、ボソッと呟く。

 

 

胡桃「まったく…本当にあたしだけ呪われたらどうすんだっての…」

 

 

美紀(由紀先輩はともかく、胡桃先輩までりーさんの話を本気にしてる…。100%冗談なのに…)

 

「とりあえず今日はここで休みます?それとも、もう少し移動しますか?」

 

悠里「ん~、そうね。もう少しだけ移動して、別の安全そうな場所で休みましょうか。胡桃、運転頼める?」

 

胡桃「はいよ~。」

 

悠里にそう返事を返してから胡桃は運転席に座り、車を走らせた。

その隣…助手席には悠里が座り、地図を見ながら彼女をサポートする。

 

 

 

悠里「えっと…この先だと、良さそうな公園があるわね。そこにする?」

 

胡桃「そこ、広いの?」

 

悠里「ええ、広いみたいよ。」

 

胡桃「んじゃ、そこにするか…ナビよろしく」

 

悠里のナビに従い、胡桃は車を走らせていく。

その間、由紀達は席に座りながら会話を交わした。

 

 

由紀「雨やまないねぇ…」

 

「そうですね…」

 

美紀「勢いも増してますし、やむとしても明日ですかね。」

 

由紀「えぇ~!じゃあ外で遊んだりするのは無理ってこと?」

 

美紀「まぁ、天気なんてよく分からないので、もしかしたら急にやんだりするかもですけどね…。」

 

由紀「あいまいだなぁ。天気予報さえみれれば…」

 

 

「これだけ地面が濡れてたらどのみち遊ぶのはムリでしょう。靴がぐちゃぐちゃになりますよ」

 

美紀「そうですね。先輩…諦めてください。」

 

由紀「仕方ないからそうするよ…。こうして皆とお喋りしてるだけでも、十分楽しいしね♪」

 

美紀「ふふっ、そうですね。」

 

三人がそんな会話を交わしていると、突如道路の真ん中で車が止まる。

彼は席から胡桃に声をかけ、どうしたのかと尋ねた。

 

 

「…どうしましたか?」

 

胡桃「目的地はこの先なんだけどな…ちょっと奴らが道塞いでて、通るのは厳しそうだなぁ。」

 

「どかしてきましょうか?数によっては頑張ってきますよ?」

 

その発言を聞き、胡桃は道の先にいるゾンビの数を大まかに数え、彼に伝えた。

 

 

胡桃「数は15~20くらいかな…。いける?」

 

「もちろん無理です!!引き返して下され。」

 

即答する彼だったが、その答えは正解だと胡桃と悠里は思った。

あの数を相手にするのは危険…

それに、他の道はまだいくつかある。

ここは引き返して、安全な道を探すだけだ。

 

 

胡桃「いい判断だな…。あの数相手にしようとしたら…さすがに止めるわ」

 

悠里「そうね、案内するから…他のルートから行きましょうか。」

 

胡桃「そうするか、わざわざ轢いて通るのも嫌だし…なによりもそんな事して車が壊れたらたまったもんじゃない」

 

胡桃は奴らがこちらに気付いて接近される前に車をUターンさせ、来た道を戻る。

少し戻ったところで先程とは別の道を選択し、そのルートを進むことにした。

 

 

 

悠里「こっちからだと多少遠回りになるけど…まぁ、仕方ないわね」

 

胡桃「そういう事だな…。ま、遠回りになるっつってもたかが5分~10分の違いだろ?」

 

悠里「ええ、多分そんなものだと思う…」

 

胡桃「なら全然オッケー。問題なし!」

 

 

 

 

美紀「道が塞がれてるなんて…珍しいですね」

 

「移動中の集団に偶然当たっちゃったんでしょうね。運が悪かったかな…」

 

由紀「でもこっちの道からでもちゃんと目的の公園には行けるんでしょ?ちょっと遅れちゃうだけで」

 

 

悠里「うん、ほんのちょっと遅れるだけ…。だからあなた達はのんびりしてて。遅れた分を入れても、20分以内には着くハズだから」

 

 

 

由紀「は~い!」

 

美紀「着いたら着いたで、この雨ですから…外には出れませんね。夕飯の支度しようにもまだ時間がありますし…、やる事がないです。」

 

由紀「そこは上手く考えて車内での有意義な時間を過ごすんだよ!」

 

美紀「…例えば?」

 

由紀「う~ん…どーしよーかなぁ…」

 

「由紀ちゃんが作戦を考えてる間に僕は寝ますから…何かあったら起こして下さい。」

 

由紀「寝ちゃダメだよっ!一緒に考えるんだから!」

 

顎に手を当てて考えてる由紀を見て、彼はテーブルに顔を伏せて眠ろうとする。

由紀はそんな彼の肩を揺さぶり、無理やり眠りを妨げた。

 

 

「いやー、そこは由紀ちゃんと美紀さんに任せますよ…。僕はそういうの考えるの苦手ですから」

 

美紀「いや、私も苦手です!なので、ここは由紀先輩に全てを任せる形に…」

 

由紀「二人とも全然やる気が無い~!!このままじゃ目的地に着いても全員がダラダラして夜を迎える事になるよ!」

 

立ち上がって力説する由紀。

そんな彼女に向け、運転中の胡桃はボソッと呟いた。

 

 

胡桃「ダラダラするのはお前だけだろ。他の人はそれなりにやる事があるし…」

 

由紀「失礼なっ!私もやる事が………」

 

胡桃「聞こえてたのか…。で、やる事ってのは?」

 

由紀「………」

 

胡桃「………」

 

 

 

 

 

由紀「りーさん…今日はいつも以上にお手伝いするからね」

 

悠里「あら、ありがとう♪」

 

胡桃(やる事…特に無かったんだろうな…)

 

 

由紀「私はともかく、__くんだってやる事ないでしょ?あまり手伝いとかしてるイメージないし」

 

「…僕を標的にしないで下さい。」

 

突然の由紀のその発言に対し、彼は相変わらずテーブルに顔を伏せたままでそう呟く。

 

 

美紀「あれ?__さんって、わりと私達の手伝いしてくれますよね?」

 

「まぁ…そこそこに…」

 

悠里「頼まれた事に対しては嫌な顔せず、何でもしてくれるイメージがあるけど…」

 

胡桃「だってさ。由紀が思ってた以上に働き者だったな。コイツは…」

 

 

由紀「うぅ~、いつの間にみんなからこれほどの信頼を……恐ろしいよ」

 

美紀「先輩も遊んでばかりいると、__さんに人気を取られちゃいますよ?」

 

由紀「人気を…取られるっ!?わ、わかった!私…これからはすごくがんばるっ!みんなの為に!」

 

 

胡桃(人気を取られそうになって焦るって、お前はアイドルかなんかかよ…)

 

奮起する由紀をバックミラー越しに見て、苦笑いを浮かべる胡桃。

だが同時に、微笑む由紀はとても可愛らしく見えていた。

 

 

胡桃(でも…由紀はある意味、あたし達のアイドルみたいなもんなのかもな…。あいつの笑顔には何度も救われたし。)

 

 

胡桃(アイドル…アイドルねぇ…)

 

『アイドル』というその単語が頭に引っ掛かり、胡桃は考える…

彼女達それぞれのアイドルとしての適正を。

 

 

胡桃(あたし達の中で、アイドルとかに一番向いてるのはやっぱり由紀だよな…。誰とも分け隔てなく接するし、いつもにこにこしてる…。それに、あの子どもっぽい性格も人気に繋がりそうだ)

 

 

胡桃(美紀はどうだろ…?短髪が似合う、クールな女の子…。ん~、なんか…あれだな、女性人気が強いアイドルになりそうだ。でも、たまに見せる女の子らしい表情もフツーに可愛いから…そういうのを見せたら、男性ファンもたくさん付きそうだよな)

 

 

胡桃(りーさんは…めちゃめちゃグラビア()えするアイドルになるな。間違いない…。りーさんの水着姿、何度か見てるけど…やっぱりあたし達とは基本が違う…。りーさんがアイドルになって写真集とか出したら…凄い売れそーだなぁ…)

 

 

胡桃(あたしは…ダメだ。我ながらまったく想像ができない…。あたしがフリフリの衣装着て歌ったり、踊ったりする。それって…どうなんだろうか…)

 

悠里「…るみ」

 

胡桃(アイドルっぽい衣装…どこかで探してみて、そのうち着てみようかな…。)

 

 

 

悠里「…胡桃、聞いてる?」

 

胡桃「…あっ、ごめん。なに?」

 

悠里の呼び掛けに胡桃は少しだけ遅れてから気づき、返事を返した。

 

 

悠里「次の曲がり角を右よ。しっかり頼むわね。」

 

胡桃「あ~、わりぃ。考え事してて…」

 

悠里「へぇ…、何を考えてたの?」

 

胡桃「…別に。ただ、りーさんのスタイルって凄いなぁと思ってさ」

 

悠里「な、なんで急にそんな事を…」

 

胡桃「マジでさ、グラビアアイドルとか興味ない?」

 

悠里「なっ!?ありませんっ!ほらっ、バカな事言ってないで運転に集中してっ!!」

 

胡桃「はぁ~い。」

 

頬を赤らめながらそう言って悠里は怒る。

胡桃はそんな彼女を見て、ニヤニヤしながらハンドルを切った。

 

 

胡桃「ここを曲がって…それから?」

 

悠里「この住宅街を道なりに進んで行けば途中でT字路に当たるハズだから…そしたら左に曲がってね。」

 

胡桃「左だな?よし、りょーかい」

 

胡桃が悠里の指示を受けてハンドルを切る中、その後ろで由紀は何かを思い付いたらしく、大きな声をあげていた。

 

 

 

由紀「よぉし!目的地に着いても夕飯までかなり時間があるし、それまで『恋バナ』でもしよっか!!」

 

「恋バナって…由紀ちゃん、大丈夫ですか?」

 

由紀「ん~?なにが?」

 

「いや…恋バナなんかしても、由紀ちゃんは語る程の経験が無さそうだから…」

 

美紀「それ、私も思いました」

 

はりきる由紀を相手に、彼と美紀は冷たく言い放つ…

由紀はそう言われてからほんの少しだけ考え、苦笑いしながら答えた。

 

 

由紀「えへへ、みんなの経験談をもとにして…それをこれからの自分に生かそうかなぁ~ってね。」

 

美紀「ようするに…、人にふるだけふって、先輩は何も話さないと…」

 

由紀「だ、だって…恋愛経験とかないんだもん」

 

美紀「まぁ…、私もありませんけどね。」

 

何気ない美紀のその一言に、彼は反応を示し、大きめの声で彼女に尋ねた。

 

 

 

「っ!本当ですかっ!?」

 

美紀「なんであなたが食い付くんですか?」

 

「由紀ちゃんが恋愛経験無しってのは分かります!でも…美紀さんはあるでしょう!?あなたは高校生なのですよ!?」

 

美紀「べ、別におかしい事はないでしょう!?由紀先輩だって無いって言ってるのに、どうして私にだけ食い付くんですかっ!由紀先輩にも食い付いて下さい!!」

 

「由紀ちゃんは脳内年齢が10才程度で止まっている特例ですので放置です!!」

 

由紀「うわぁ~…本人を前にしてなんて失礼な言葉を…少しショック」

 

 

美紀「そ、そう言われると返す言葉がありませんが…。」

 

由紀「返そうよ~!ちゃんと『先輩はそこまで子どもじゃない!』って返そうよ~」

 

 

「でも…美紀さんは脳内が幼い由紀ちゃんと違い、中身も大人です。そんな人が恋愛経験無しなんて…僕は信じない!いくらなんでも片思いした事くらいはあるハズっ!」

 

美紀「お言葉ですが…先輩が幼いのは脳内だけではないですよ。体もです!!」

 

「ぐっ!?そうきましたか…!」

 

 

由紀「ねぇねぇりーさぁん。__くんとみーくんが私をいじめる~」

 

悠里「二人とも、由紀ちゃんをいじめちゃダメ!それと__君。高校生でも恋愛経験が無い女の子くらい、普通にいるわよ。」

 

助手席に駆け寄ってきた由紀の頭を撫でつつ、悠里は彼に向けて告げた。

 

 

「ほ、本当ですか…?じゃあ、りーさんも…」

 

悠里「う~ん…正直、気になる人は何人かいたんだけど、じっくり見ている内にその人の嫌な所に気づいちゃって…結局好きになる所までいかないのよね。」

 

美紀「あ、それちょっとわかります。少し外見が良くても、言動がキツかったりすると一気に気持ちが冷めるんですよね。」

 

その発言を聞いた彼は美紀の方を見て、精一杯の丁寧語を使う。

 

 

「あなた方は外見ばかり着飾る男性をあまり好まない、という事でございますか?」

 

美紀「かといって…、異常に丁寧な言葉を急に使う人が好きかというとそれも違いますよ?」

 

「そうですか。そりゃ残念…」

 

 

由紀「でも大丈夫!まだ恋バナをする希望はあるよ!われらが学園生活部の秘密兵器…恋愛マスター胡桃ちゃんがいるもん!!」

 

胡桃「その肩書きはなんだよっ!?言っとくけど、あたしもそんなに恋愛経験無いからな!?」

 

由紀「…『そんなに』?つまり…、少しは経験があるって事ですかな!?」

 

「なっ!本当ですか!?」

 

 

胡桃「っ…!間違えた!全然っ…全然無いからっ!!」

 

由紀「ほんとかなぁ?」

 

胡桃「ほんとだよ!だいたい恋バナなんて、男の前で出来るわけないだろ!?」

 

由紀「あ~、つまり__くんに聞かれるのが恥ずかしいと…。」

 

胡桃「あぁ~もう!!そいつがどうこうじゃなくて!普通は女の子だけでするもんだって言ってんだよ!!」

 

赤い顔を真正面に向けてハンドルを切りながら、胡桃は由紀を相手に怒鳴る。

由紀はそんな胡桃の反応が面白くて、ついつい意地悪な発言を重ねていってしまう。

 

 

由紀「またまた~照れちゃって~。乙女だなぁ~♪」

 

胡桃「うぐっ!お前いい加減にっ…!!」

 

 

悠里「由紀ちゃん、あまり胡桃を困らせちゃダメでしょ?」

 

由紀「……ダメ?」

 

悠里「ダメ!ほら…、ちゃんと謝って?」

 

胡桃「そうだそうだ!あやまれ~!」

 

由紀「うぅっ…!ご、ごめん…」

 

胡桃「分かればいい、特別に許してやろう!ほら、大人しく座ってろ。」

 

由紀はとぼとぼと歩き出し、彼と美紀の待つ席に座ってテーブルに顔を伏せた。

 

 

由紀「じゃあ恋バナは無しかぁ…。どうやって時間つぶそ~かなぁ…」

 

美紀「…怪談でもしますか?」

 

由紀「怪談ねぇ…どうせなら夜やろうよ。昼間にやっても楽しくないし…」

 

 

胡桃「怪談なんていつやっても楽しいもんじゃねぇだろ…。勘弁してくれよ…」

 

由紀「あ…、そういえばさっきは聞き忘れたけど、__くんは恋愛経験無いの?片思いとかでもいいよ。」

 

「特には…無いですねぇ」

 

美紀「まったく…人の事言えないじゃないですか。」

 

「すいませんね…」

 

由紀「じゃあさ…、私達の中で誰が一番好きかな?」

 

「好き…ってのはつまり…」

 

由紀「う~ん…お嫁さんにしたい人!ほら、選んで?」

 

 

美紀・悠里・胡桃(とんでもない事を聞く…!!)

 

突然の由紀の発言に三人は思わず言葉を失う。

しかし、何気に彼の答えが気になるのも事実で…皆さりげなく耳を傾けていた。

 

 

「お嫁さんですか?えらく飛躍した話ですね…。恋人どころか、いきなりお嫁さん…お嫁さん、お嫁さん…ん~…」

 

彼はしばらく瞳を閉じて熟考する。

由紀・美紀・悠里・胡桃の中で誰を選ぶべきなのか…

誰とならより幸せになれるのか…

そして何より、誰が好きなのか…

全てをまとめて答えを出した彼は閉じていた瞳を開け、口を開く。

 

 

「そう…ですね。僕は…」

 

由紀「うんうん!僕は…?」

 

 

美紀「………」

 

 

胡桃「………」

 

 

悠里「………」

 

 

 

「みんなの中で、お嫁さんにするなら…」

 

 

 

ギギギィッ!!

 

由紀「うわぁっ!?」

 

美紀「っく!なんですか!?」

 

大きい音とともに、突然車内が大きく揺れる。

胡桃が急にブレーキをかけたようだ。

 

 

胡桃「ごめんっ!大丈夫か!?」

 

 

由紀「びっくりしたぁ…どしたの?」

 

胡桃「道にバリケードみたいなのが出来てて、通れなくなってる…。」

 

美紀「バリケード?」

 

悠里「ここを通らなきゃダメなのに…、どうなってるの?」

 

「………」

 

彼と美紀と由紀は運転席の方に歩み寄り、目の前の光景を確認する。

ここは目的地に続くT字路、ここを左に曲がらなくてはならないのだが…そこには大きな板やドラム缶など、さまざまな障害物が大量に置かれ、道を塞いでいた。

 

 

「あらま…。とりあえず、降りてみますかね。意外と簡単にどかせるかもですし…」

 

胡桃「だな…。よし、降りよう。」

 

美紀「__さん、傘忘れないで下さいよ?」

 

「はい、分かっています。」

 

一同は車を降りてから傘をさし、間近でそのバリケードを見て、退かせそうかどうかを確認する事にした。

 

 

 

胡桃「くそっ、行く道行く道塞がれてるなんて…今日はやたらとついてないな…」

 

勢いよく雨の降り注ぐ外へと降りてすぐ、胡桃は一人呟いた。

 

 

 

 

 


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