恐らく、四人の中で最も手強い人物…
彼はそんな彼女をドキドキさせられるのか?
ご覧下さいましm(__)m
「ん~……」
(次はりーさんか…あの人は手強そうだからなぁ。美紀さんのように簡単にはいかないだろうな…)
彼は一人車の外で待ちながら計画を練り、悠里を待つ。
5分ほど待つと車のドアが開き、中から洗濯かごを抱えた悠里が降りてきて彼の元に駆け寄る。
悠里「お待たせ。」
「大丈夫ですよ、じゃあ…行きますか。」
車を停めている広場から出て、悠里と共に彼はのんびりと歩く。
自分の前を歩く彼の後ろ姿を見て、悠里は突然くすくすと笑い出した。
悠里「うふっ…ふふっ…」
「ん?どうかしましたか?」
悠里「あの、__君。先導してくれるのはいいけど…そっちじゃないわよ?」
そう言って笑いながら、悠里は彼の進む道とは真逆の方向を指さす。
「そ、そうでしたか…。そういえば、どこに向かうんですか?」
悠里「あっちの方に少し進むと川があるの。そこで洗濯物を洗うわ」
「川ですか…分かりました。」
彼はくるっと振り返り、悠里の指さした方へと歩き出す…
今度は先程よりもゆっくり歩き、悠里に前を進んでもらった。
悠里「ふふっ。どこに行くのか分からないのに先導してたなんて…おかしな人」
「考え事しながら歩いてたんで…ほとんど無意識でした。」
悠里「あら、珍しいわね…何を考えてたの?」
「あ~…別に大したことじゃありませんよ。」
悠里「そう?ならいいけど…」
(どうやればあなたをドキドキさせられるか考えてました。…なんて言えないからね)
(そういえば…りーさんって僕の事をどう思ってんだろう。)
(もし、ただの問題人物程度にしか思っていないなら…何をしても怒られて終わりそうなんだよな)
(それに加えて昨日のヤンデレモード…見事な演技力だった。中途半端な演技じゃ通用しないかも…)
(これは中々……厳しそうだな)
悠里を逆にときめかせる為の手段をじっくりと考えながら彼は歩く
道中、悠里に何度か話しかけられたが、考え事をしている彼はそれに適当な返事しか返さなかった。
しかし、考え事をしているのは彼だけではなく…
悠里(さて…二人で洗濯しに行って。それからどうしようかしら?)
悠里もまた、彼をときめかせる為の作戦を考えていた。
考え事をしつつもしっかりと会話を振る…この時点では彼よりも彼女の方が
二人が互いに作戦を考えながら歩いていると小さな川原にたどり着き、悠里は川のそばに洗濯かごを置く。
悠里「さて…今日の洗濯物は何かしら~?」
「何かしら~?って…それに洗濯物つめたのはりーさんでしょう?」
楽しそうに洗濯かごを漁る悠里を見て、彼は冷静にツッコむ。
悠里「ええ、実はそうなの…」
「実はも何も、普通に知ってますって…」
悠里「じゃあ問題!私がこれから取り出す洗濯物は…誰の何でしょうか?」
かごの中に手を入れて何かを掴むと、悠里は彼を見てニコニコしながら尋ねた。
「誰の…何かだって!?」
その彼女の問いに対し、彼は一つの結論を出す
現時点では誰のかまでは分からないが
彼女が今、掴んでいるのは…
(もしかして……いや、まさか…)
悠里「ヒントをあげるわね。色は…白よ」
「白……ですか」
(やっぱり…これ下着じゃない?)
普段彼女達の下着などを洗濯をしている時、彼はその洗濯が完全に終わるまで車内に監禁されている…
そんな彼の脳内に、もしかして今回からは自分も堂々と洗濯を手伝っても良いと言われるのでは?
それを任せられる程までに信頼されるようになったのでは?
…というような考えが巡る。
「………」
だが、彼は思考を研ぎ澄まし…
世の中そんなに甘いハズはないと悟った。
(これは…僕を試している?いや、違うな…。これはりーさんが練ったゲームの作戦…)
(忘れてた…僕は今、あのゲームのターゲットになっているんだったな。)
(二人きりで洗濯に出かけ、更にその洗濯物の中身が何かのクイズを出す。それも…僕が下着だと答えるようなヒントを出して誘導をしてきている。)
(危なかった…。ゲームの真実を知っていなかったら、まんまと『下着ですか!?』とか言うところだった…)
(ここは…適当に答えておくか。)
「ん~…何でしょう?靴下とかですかね?」
彼はニコニコしながらとぼけて答える。
悠里は少しつまらなそうな顔をしてから、それを引っ張り出して答えた。
悠里「正解は…みんなで使ってるタオルでした~。」
「…そうですか。」
悠里「『誰の』…って聞いておいて答えが『みんなの』っていうのは少しイジワルだったわね…ごめんなさい。」
「いいですよ、別に…」
悠里(ああいう言い方をすれば…__君なら、もしかして下着かな?とか言うと思ったけど…思っていたよりも真面目ね。よしよし!)
彼は思っていた程不純な思想の持ち主ではなかったのだと思い、悠里はこっそりと嬉しそうに笑う。
悠里(でも、それだとこの作戦は失敗ね…。彼に中身は下着だと思わせてドキドキさせる作戦だったのに…どうしましょ。)
「で…、これを洗濯すれば良いんですか?」
彼が悠里の横に歩み寄り、かごを覗きながら尋ねる。
悠里「え?あ、あぁ…うん!頼める?」
「じゃ、はやく終らせちゃいますか!」
悠里「ええ。でも手抜きはダメよ?しっかり丁寧にね」
「はい。もちろんです!」
悠里は彼に笑顔で答えると、川際に並んで二人でその洗濯物を洗い始めた。
悠里「そういえば…私が__君と二人きりになるのは久しぶりね」
「あ~…そうですね。」
そんな会話を交わした直後、少しの間二人は無言で洗濯物を洗う。
悠里「………」
「………」
(さて…どう攻めたもんかな。りーさんも作戦を考え直しているのか…動きを見せない)
悠里「………」
洗濯をする悠里を横目で見つめ、彼は作戦を練る…
そんな彼に突然、悠里は洗濯しながら話しかけてきた。
悠里「ねぇ、__君…」
「は、はい!なんですか?」
悠里「えっと…そのね…」
(動き始めたな。さて…どうくる?)
彼は心の中で覚悟を決め、悠里の言葉を待つ。
悠里「私の事…どう思ってる?」
洗濯する手を止め、彼を見つめて悠里は尋ねた。
彼はこの発言に対しての正しい返答を脳内で必死に考える…
彼女を照れさせる返答を…
(どう思ってる…ときたか。これは難しいな…どう返すか…。)
(ストレートに『愛してます』とか言ってみるか?)
(いや、ダメだ。相手はあのりーさんだ…こんな安易な作戦は効かないだろう)
(ここは…とりあえず普通に答えておくか)
返答を待つ悠里を笑顔で見つめ、彼は答えた。
「凄い人だなって…そう思っています。」
悠里「凄い人?」
「ええ。僕と同い年なのに信じられないくらいしっかりしてますし、頼りになる。こんな世界でもみんなをちゃんと守ってくれる…お姉さんって感じですね!」
悠里「お姉さんか…。でも、私よりもあなたや胡桃の方がみんなを守っていると思うけど?」
「そういう意味の守るじゃなくてですね…。…そうだ」
「みんなが学校で暮らしていた時、物資等の管理はりーさんがしていたと聞きました。」
悠里「まぁ…管理って言っても、簡単にだけどね。」
「いえ、誰かがそういうのをしっかりやってくれていると…かなり助かりますよ。」
悠里「そう…かしらね…」
「それと…りーさんには言葉には出来ない、頼れるオーラが出てるんです!」
悠里「た、頼れるオーラ?」
彼の発言に、悠里は少し困惑したような笑みを浮かべる。
「そうです!なんていうか、悩みや相談があれば頼りたくなるような…そんなオーラです。」
「僕も相談事があれば、真っ先にりーさんを頼りますし…他のみんなも同じハズです。」
悠里「ふふっ!なにそれ?変なの~」
自身をよく分からない方法で褒められ、悠里は思わず吹き出す。
彼は無邪気に笑う彼女を…ただじっと見つめていた。
(りーさんっていつもは大人っぽいのに、こうやって無邪気に笑っていると…雰囲気がまた違って見える。)
「ほんと……素敵な人です」
悠里「えっ?」
「あっ…」
目を大きく開き、彼を見つめる悠里…
彼はたった今放った自らの発言を恥じた。
その発言は悠里を照れさせようとして言った訳ではなく、無邪気に笑う彼女を見て…自然と出てしまった言葉だったからだ。
「えっ…と…」
悠里「………」
「今のは…その…」
(ダメだ!変に恥じらうな!!平静を装えっ!)
彼は心の中で自らにそう言い聞かせ、照れてしまいそうになる表情をどうにか隠そうとした。
悠里「顔…赤いわよ。大丈夫?」
「えっ!?」
(しまった!堪えようとしてたのに…顔に出てしまったのか!?)
焦った彼は悠里から顔を逸らす…
悠里は彼のそんな行動を見ると、再び笑い出した。
悠里「冗談よ、赤くなんかなってないわ。…ふふっ、おもしろい人」
「っ!?」
(やられた!なんてザマだ…これじゃあ完全にりーさんのペースじゃないか!!)
悠里「ごめんね、イジワルしちゃった。」
「だ、大丈夫です…このくらい。」
彼は全く動じてないかの様に悠里を見つめ平静を装う。
悠里はそんな彼をしばらくの間見つめ返すと、ニヤニヤしながら言った。
悠里「それで…さっきは私になんて言ったの?」
「…え?」
悠里「さっき私を見てなんか言ってたでしょ?なんて言ったの?」
「き、聞こえてたでしょ?」
悠里「ううん。ハッキリとは聞こえなかったの…」
悠里「だから、もう一度言ってくれると嬉しいんだけど」
そう言って悠里はじっと彼を見つめ、彼が口を開くのを待つ。
一方彼は、緊張のあまり少し顔を青くしていた。
「え、えっと…大した事言ってないですよ?りーさんには関係の無い、ただの一人言なんで…」
悠里「私の方を見て言ってたのに?」
「ええ…ほんと、ただの一人言です。」
悠里「ふぅ~ん……」
「………」
悠里は彼をじろじろと見つめるが…
彼がこれ以上見つめていても何も言わないと思ったのか、悠里は目線をそばの川に移した。
悠里「本当はね……」
川を見つめながら、悠里がそっと呟く。
「……はい」
悠里「あなたの言葉…ちゃんと聞こえてたの」
「えっ!?」
悠里「ちゃんと聞いていたけど……もう一度あなたの口から聞きたくて、それでとぼけちゃった…」
照れたような笑みを浮かべ、悠里はそっと彼を見る。
悠里「とぼけてダメなら…ストレートに言うわね?」
そう言って悠里は体を彼の方に向け、彼を正面から見つめると…
ほんの少しだけ頬を染め、優しい口調で言った。
悠里「もう一度……さっきの言葉を、私に聞かせてくれますか?」
「………」
彼は激しく動揺する。
悠里は恐らく、彼をときめかせる為にわざとこんな台詞を言っているのだろう
それは彼も分かっている。
分かっているのに…
目の前にいる悠里を見て、ときめかずにはいられなかった。
目の前の彼女は自分と同い年と思えない程に大人びていて、微かに頬を染めたその表情が…とても美しかったからだ。
悠里「……ダメ?」
黙っている彼へ悠里は残念そうに声をかける。
彼が黙っていたのは何かを考えていたからではなく、ただ悠里の表情に見とれていたからだった。
「えっ?あ…その」
悠里「もう一度…聞かせてくれる?」
(照れるな…照れなければいいんだ。照れずに正面から言って…逆にりーさんを照れさせてやろう。)
彼は覚悟を決め、口を開いた。
「りーさんは…とても素敵な人です。」
悠里「………」
照れる事なく、彼は言い切る。
しかし悠里の表情を見てまだ攻めれると思った彼は、調子に乗って次から次へと言葉を付け足していった。
「さっきの無邪気な笑顔…凄く可愛かったです。」
悠里「かっ…かわいい?私が?」
「はい!とても可愛かったですよ?もちろん…普段の大人びた表情も綺麗で、とても素敵だと思いますが」
悠里「そ、そう…」
彼の言葉に悠里は照れて俯く。
それをチャンスと思い、彼は更に攻めた。
「それに同い年なのに、僕なんかとは比べられない程にしっかりしていますし…優しいです。」
「たまに怖いなぁと思う時もありますが、そんな一面も僕は好きです」
悠里「たまにでも、怖いなぁとは思われてるのね…。まぁ自覚はあったけど…」
「それに…強い人だなぁとも思います。」
悠里「……」
「こんな世界でみんなを支えて…凄く大変なハズなのに、それを表情に出さない…」
「思えば僕は…りーさんの弱気な面を見たことがありません」
「いや…それはりーさんだけじゃないですね。由紀ちゃんも美紀さんも…胡桃ちゃんもです…」
「でもみんながあそこまで強くいられるのは…りーさんの存在があったからこそではないでしょうか?」
悠里「私…?」
「はい。りーさんがいたから、みんなは今日も元気で過ごしていられるんだと…僕はそう思っています。」
「りーさんに会えて…本当によかったです。」
そう言って満足そうな顔をすると彼は口を閉じ、悠里の反応を見る。
悠里「…ありがとね。そう言ってもらえると…凄く嬉しいわ」
彼の台詞に恥じらう事なく…
本当にただ嬉しそうに悠里はにっこりと笑った。
全く照れない悠里を見て少しだけ彼は残念がったが…彼女が嬉しそうに笑うのを見ていたらどうでもよくなった。
悠里「私なんかにそう言ってくれる__君に…1つお願いがあるの。」
「なんでしょう?」
彼が尋ねると、悠里は恥じらう演技をしながら答えた。
悠里「私の事……抱きしめてくれる?」
「んなっ!?」
彼はそれが演技であると気づけず、本気にする。
顔を真っ赤にし、照れながら言う彼女のその表情がとても演技には見えなかったから…
悠里の演技力はずっと警戒していた彼を騙せる程に凄まじく、完成された物だった。
悠里「で、でも…軽く、かる~くよ?強く抱きしめたら怒るからね?」
さすがの悠里も本気で動揺する彼を見てやり過ぎたと思い、本気で抱きしめられない様に保険の言葉をかけておく。
「わ、わかりました…」
彼は悠里に近寄ると彼女の肩にそっと手を伸ばして自分の方へと引き寄せ、ほとんど力を入れず…本当に軽く抱きしめる。
悠里は彼の胸にそっと顔をうずめると、しばらくは無言でそうしていた。
悠里「………」
「………」
悠里(な、なんかこれ…__君をときめかせようとして頼んだのに、逆に私がドキドキしちゃってる気が……)
「…………」
悠里(…でも、__君凄く顔が赤くなってる。よかった…ちゃんとドキドキしてくれているみたい…)
悠里はそっと彼の顔を覗き見て、その顔が赤く染まっているのを確認する。
それを見て悠里はとりあえず一安心し、再び顔を彼の胸にうずめた。
悠里(恥ずかしい気持ちもある、あるんだけど……でも落ち着く。)
悠里(そういえば、こうして誰かに甘えた事とか…あまりなかったなぁ…)
悠里(もう十分彼をドキドキさせたと思うけど、もう少しだけ…もう少しだけこうしていても…いいよね。)
心地良くなってしまった悠里は彼に体を預けると、そっと目を閉じる。
一方彼は…目の前の彼女にドキドキし過ぎて、静かにパニックを起こしていた。
(まだなの!?まだなの!?いつまで僕はこうしていればいいの!!?)
(もう5分くらいこうしてるよね!?これ以上は……ヤバいんですが!)
そんな事を考える彼だったが、実際は悠里を抱きしめてから2分もたっていない…
混乱しているからか…彼の中で時間の感覚が狂い始めていた。
そして、これ以上は危険だと彼自信も自覚し始めたその時…
ちょうど良いタイミングで悠里は彼から離れた。
悠里「ふぅ…もう良いわ。…ありがとう」
「あ、…は、はい。」
悠里「無茶なお願いだったのに…嫌な顔一つしないでくれてありがとう。なんか…ドキドキしちゃった」
「そ、そうですか…」
悠里がわざと彼をドキドキさせる発言をする
彼は未だにその演技に騙され、その発言に素直にときめいた。
(ドキドキした…?りーさんが…僕相手に?)
悠里(顔…ほんとに真っ赤ね。…もう一押しかしら?)
彼の表情を見た悠里はここがチャンスだと思い、一気にたたみかける。
悠里「男の子に抱きしめてもらったの初めてだから…私…その……」
「は、はい……」
悠里「やっぱり……私…」
直後、悠里は顔を真っ赤にして…彼にとどめの一言を放った。
悠里「__君の事…好きみたい…」
「…………」
(なんて…言った?)
悠里「前からそんな気はしていたの…でも、今確信できた。」
「マジ…ですか?」
悠里「うん、あなたの事……大好きよ」
「えっと……ええっと…//」
悠里のこの発言に…
不覚にもゲームの存在を忘れていた彼は本気で照れる。
ゲームの事を知ってから彼女達を警戒し、その上でカウンターをくらわそうとしていた彼はどこに行ったのか……
悠里「返事は…また夜に聞くから…今はとりあえず、洗濯を終わらせましょ?」
本気で照れて顔を真っ赤にする彼をよそに、悠里は手際よく残りの洗濯物を洗っていく。
そして、10分程たった頃…
「…………」ジャバジャバジャバ…
悠里(__君…あれ以来ずっと同じタオルを洗い続けているわ……)
彼は悠里に告白されてからずっと、真顔で狂ったように同じタオルを洗い続けていた。
もちろんタオルの汚れはとっくに落ちている。
悠里(告白するのは…やり過ぎたかしら?)
「………」ジャバジャバ…ジャバジャバ…
悠里(な、なんか……悪いことしちゃったわね…)
ひたすらタオルを洗い続ける彼を見て、悠里は先程の自分の言動を後悔した。
悠里「あの…__君?」
その肩をトントンッと叩き、悠里は彼を呼び掛ける。
「あっ!な、なんでしょ!?」
悠里「それ…もう十分キレイになってるわ。貸して?」
「あ、あぁ…はい。」
彼からタオルを受け取ると悠里はそれを軽く絞り、かごの中に入れる。
悠里はそのかごを持って立ち上がると彼の方へ振り向き、にっこりと笑った。
悠里「とりあえずは終わり!さぁ…後はこれを車のそばで干して、乾かすだけよ」
そう言ってゆっくりと歩き出す悠里を見て、彼は立ち上がると彼女の持つそのかごへ手を伸ばし、それを取り上げて彼女の前を歩いた。
「重いでしょう…僕が持ちます。」
悠里「それはありがたいけど、でもそれだと帰り道で"あれ"と遭遇した時に…」
「広い道路の真ん中を歩くようにしていれば、急に襲われる事は無いので大丈夫です。遭遇しても…このかごを置いて、ナイフを抜く時間くらいは十分にあります。」
悠里「そう…。じゃあ…お願いするわね」
彼にそう告げ、悠里は笑顔を見せる。
だがその笑顔を見た彼は照れたような表情をして、そっと目を逸らした。
共に車へと戻る道中、彼の頭の中にあるのは…そばにいる悠里の事ばかりだった。
(どうしよう……りーさんに告白されてしまった…)
(返事は夜で良いって言ってたけど…どうするべきか…)
そっと彼女の方を見て、深く考える…
悠里「………なぁに?」
「い、いえ…なんでも…」
(ほんとに綺麗な人だな…)
(性格も良いし…スタイルも良い……)
悠里の事を改めて見て、彼はますます頭を悩ませる。
(返事……どうしよう)
(受ける理由は数あれど……)
(断る理由は…一つも無いんじゃないかな…)
(相手は…あのりーさんだし…)
少しの間考えを巡らせ、彼は結論を出す。
悠里のような女性に告白され、断る理由など自分には無いと…
(返事…オーケーにしようかな…)
(わざわざ断る事は無いし…こんなチャンス、もう無いだろう…)
(りーさんのような素敵な女の子が…僕なんかを好きなんて言ってくれたんだ。)
(こんな夢のような展開…見逃す訳が……)
ここで、彼は自分が心の中で放ったワードに何か違和感を感じる。
(こんな夢のような……)
(夢のような……)
(………夢?)
(そうだ…忘れていた…!)
(こんな展開…昨日何度も味わっただろう!)
(美紀さんは僕に呼び捨てしてほしいと言い…。りーさんは耳掃除をしてくれ…。胡桃ちゃんは手を握ってきた…)
(そして由紀ちゃんは僕に妹の素晴らしさを教え、別れ際にキスをしてくれた…)
(そうだ…これは夢なんだよ!彼女達が僕をドキドキさせようと意図的に生み出した夢の空間なんだ!!)
ようやく…彼は本来の目的を思い出す。
自分の使命は彼女達の裏をかき、復讐する事だと…
「りーさん!!」
彼はかごを地面に置き、悠里の方へ振り返る。
思い出して早々…復讐を実行する為に。
悠里「ん?どうしたの?」
「夜まで待つ必要はありません…今、返事を返します。」
悠里「えっ…?」
「僕も…りーさんの事が好きです。」
悠里「えっ!き、急にどうしたの?」
「りーさんの告白…受けます。僕たち…付き合いましょう。」
悠里「い、いや…その…あれは…」
彼の告白に顔を真っ赤に染め、悠里は戸惑う。
しかし、悠里は彼のその行動に違和感を覚えていた…
悠里(さっきまであんなだったのに…どうして急にこんな積極的に…)
悠里(そういえば…美紀さんも__君と帰ってきてから様子がおかしかった…)
悠里「__君、あなた…もしかして……」
「な、なんです?」
彼は焦る…
悠里の目が突如、先ほどまでの照れたものではなく…鋭くこちらを睨む目に変わったからだ。
悠里「………」
「…………」
(もしかして…この人!?)
悠里「ま、…別にいいわ。」
彼から目を離し、ニヤニヤしながら悠里は呟いた。
「………」
悠里「ごめんなさい。自分から告白しておいて悪いけど…あなたとは付き合えない…」
「は、はぁ…」
悠里「私がなんで急にあなたに告白したのか…理由を知っているんでしょ?」
「………」
悠里「残るのは後、胡桃と由紀ちゃんね?ふふっ…私達は人の事言えないけど、あまりイジメないであげてね?」
そう言って悠里はにっこりと笑い、車へと戻る為に歩き始めた。
そんな彼女の後ろ姿を見て、彼は思う。
『この人には…敵わないな』と…
結局…彼は全てを知った上でも悠里には敵わなかった。
それどころか…彼の中の僅かな違和感を感じ取られ、もうゲームの事を知っているという事にすら気付かれたのだった。
少しして、二人は車のそばにたどり着き…持っていた洗濯物を干す。
全てを干し終えると、悠里は車のドアに手をかけ…それを開ける前に彼を見つめると、とても綺麗な笑顔で言った…
悠里「もう少し仲良くなったら…本当に付き合っても良いと思えるかも。…だからずっと、私達のそばにいてね?」
「…!?」
彼の返事を待たず、悠里はドアを開けて中に入る。
今の台詞はゲームに勝つ為に言ったのか…
それとも本音なのか…彼には全く分からない。
だがそれでも…その言葉が今日一番、彼を心からドキドキさせた…
結果…完敗でしたね(笑)
やはり、りーさんは手強かったです。
残るは胡桃ちゃんと由紀ちゃん…
彼は二人を相手に、今回の失態を取り戻す程の勝利を掴めるのでしょうか?