軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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四十四話『わかれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一晩だけながら、朝倉誠を車内に泊めた一行。

 

そしてその翌朝…朝食を済ませた後すぐに、誠を見送る準備が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「ほんとに行っちゃうの?」

 

車の外、由紀が悲しげな表情で誠に尋ねる。

 

 

 

 

誠「そんな顔をするな、運がよけりゃ…その内また会えるよ」

 

 

 

 

「今、りーさんと美紀さんが車の中でいくつか食料と薬をバッグに詰めてます。多分もう来ると思うから、それを貰っていって下さい。」

 

 

 

 

誠「悪いね、貴重な物資を…」

 

申し訳なさそうに誠が呟く。

 

 

 

 

胡桃「気にすんなよ、こんくらいはしないと…あんた飢え死にしそうだからな。」

 

 

 

 

誠「かもな…ありがとう。」

 

 

 

 

胡桃「礼はりーさん達が来てからでいいよ。」

 

胡桃が言っているそばから、悠里と美紀がバッグを持ってやってきた。

 

 

 

 

悠里「少し重いかもしれませんが、これ持っていって下さい。」

 

悠里が誠に物資の詰まったバッグを手渡す。

 

 

 

 

 

誠「…一日だけだけど、久しぶりにとても楽しい時間を過ごせた。…本当にありがとう」

 

 

 

 

美紀「私達も楽しかったですよ。どうかお元気で…」

 

 

 

 

誠「みんなもね…、じゃ…行くよ。」

 

誠はそう言ってバッグを持ち直すと、彼の方を見て呟く。

 

 

 

 

誠「…がんばれよ」

 

 

 

 

「あなたもね……またいつか会いましょう。」

 

 

 

 

誠「…ああ」

 

彼と言葉を交わした誠は、静かに外の世界へと歩き出す。

 

 

 

 

由紀「バイバイ…元気でね」

 

歩き出す誠に、由紀がそっと手を振る。

 

 

 

 

 

誠「じゃあな、由紀、胡桃、悠里、美紀……

みんながこの世界でも楽しく生きれるように、どこかで祈ってるよ」

 

そう言って一度だけ手を振り返すと、誠は前を向き…振り返る事なく街の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

胡桃「行っちゃったな…」

 

 

 

「だね」

 

 

 

美紀「あの人なら、きっと一人でも大丈夫ですよ。」

 

 

 

 

由紀「そうかな…やっぱ私は心配だよ…」

 

 

 

 

悠里「大丈夫よ由紀ちゃん…きっとまた会えるわ」

 

それぞれが誠の歩いていった方向を見つめて言葉を交わす中…ある事に気付いた胡桃が呟く。

 

 

 

 

胡桃「あの人…最後の最後であたし達を呼び捨てにしてったな。」

 

 

 

美紀「そういえば…そうですね。」

 

 

 

悠里「まぁ私達よりも一回り年上だから、違和感はなかったわね。」

 

 

 

由紀「へへ…お父さんみたいだった」

 

 

 

「………」

 

 

 

由紀「__くん?どうかした?」

 

無言でたたずむ彼を見て、由紀が声をかけた。

 

 

 

 

「ん?いや…なんでもないです。戻りましょうか」

 

 

 

由紀「うん、みんなも戻ろ~」

 

 

 

 

いつかまた誠と会える事を祈りながら、彼女達は車に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「まだお昼まで時間がありますが…どうします?移動ですか?」

 

車内に戻り早々に美紀が悠里に尋ねる。

 

 

 

 

悠里「ん~…移動する前に、美紀さん達が誠さんと会ったそこのショッピングモールを…今度は全員で見てきましょうか?」

 

近くのショッピングモールを車内から見つめながら、悠里はみんなに提案した。

 

 

 

 

美紀「かまいませんけど…チラッと見た感じでは食料とかかなり漁られていましたよ。」

 

 

 

胡桃「チラッと見た感じだろ?よ~く探せばなんかあるかもよ?」

 

美紀にそう言って、胡桃は準備を始める。

 

 

 

 

悠里「ええ、行ってみましょ。美紀さん達も途中で誠さんを引きずって帰ってきたから…全部は見てないでしょ?」

 

 

 

 

由紀「うん、全然見てないよ~」

 

 

 

 

悠里「じゃあ決まりね!行きましょ、みんな。」

 

 

 

 

美紀「わかりました。ちょっと準備しますね、りーさん達は先に外で待ってて下さい。」

 

 

 

胡桃「了解、りーさん行こ。」

 

 

 

悠里「ええ」

 

準備を終えていた悠里と胡桃は、いち早く外に出る。

 

 

その直後、由紀が彼に尋ねた。

 

 

 

 

由紀「__くんも準備出来てる?」

 

 

 

 

「はい、もう出来て…」

 

彼はそこまで言葉を発してから、美紀が何かを伝えたそうな目をしている事に気付き…慌てて言葉を付け加える。

 

 

 

 

「…あ、やっぱもう少し待ってて下さい。なんなら由紀ちゃんも先に出ていて良いですよ~」

 

 

 

 

 

由紀「わかった!みーくんもはやくしてね~!」

 

 

 

美紀「はい、すぐに終わりますから…待ってて下さい。」

 

 

…バタン

 

 

 

由紀が外に出てドアを閉めたその直後、彼は美紀に尋ねた。

 

 

 

 

 

「どうかしました?」

 

 

 

美紀「リュックの中を見て思い出しました。これ…いつ胡桃先輩に渡すんですか?」

 

そう言って美紀がリュックサックから取り出したのは、昨日彼が胡桃の為にとショッピングモールから持って帰ってきた手袋だった。

 

 

 

 

 

「あ、そういえば美紀さんに預けてましたね。…後で渡そうと思います。預かってもらって助かりました、ありがとうございます。」

 

美紀から手袋を受け取りそれを上着のポケットにしまうと、彼は丁寧に頭を下げた。

 

 

 

 

美紀「どういたしまして。胡桃先輩…よろこんでくれるといいですね。」

 

 

 

「はい、まったくです。」

 

二人はそう言ってから笑い合うと、みんなの待つ車外へと降りた。

 

 

 

 

 

由紀「お!きたきた、じゃ…行こ~!」

 

笑顔で歩き出す由紀、それを追うように他のメンバーも歩き出した。

 

 

 

 

 

 

そして入った、ショッピングモール内…

 

 

 

胡桃「…どこ見るの?適当にまわる?」

 

壁に貼られたモール内の地図を眺めながら胡桃が悠里に尋ねる。

 

 

 

 

 

悠里「そうね…適当にまわりましょう。」

 

 

 

 

胡桃「りょーかい」

 

 

 

由紀「あ、昨日そっちから見たから…今日はこっちからにしよ?」

 

歩き出す胡桃の手を引いて、由紀は嬉しそうに店内を駆けていく。

 

 

 

 

胡桃「わわっ!おい由紀!走るなって!!」

 

 

 

 

 

美紀「ふふっ、由紀先輩は今日も元気ですね。」

 

走る由紀とそれに振り回される胡桃…その光景を見た美紀が笑いながら呟く。

 

 

 

 

悠里「そうね、元気が一番。でも…」

 

悠里はゆっくりと由紀の元に近寄り、手の届く距離になった瞬間に由紀の服の裾を掴む。

 

 

 

 

悠里「由紀ちゃん…元気なのは良いけど、あまり大声ではしゃいじゃダメ。…わかった?」

 

優しい言い方ながらも、どこか恐怖を感じさせる笑顔で…悠里は由紀に言った。

 

 

 

 

由紀「うっ!ごっ、ごめん!もう少し静かにします!」

 

由紀は連れ回していた胡桃から手を離し、悠里に謝る。

 

 

 

 

悠里「わかればいいわ。ちゃんと静かにね?」

 

 

 

 

由紀「らじゃ~…」

 

頼りない敬礼をする由紀

 

 

 

 

 

 

「りーさんが怖いのはみんな一緒か…」

 

 

 

美紀「ええ…」

 

そんな由紀を見て、彼と美紀は呟いた。

 

 

 

 

 

由紀を落ち着かせたところで、一行はモール内をまわる。

 

モール内の物資はかなり漁られていたが…それでも、奴らと出くわさなかったのは不幸中の幸いだった。

 

 

 

 

美紀「昨日も思いましたが…ここって静かですよね。まだあれに会ってませんし…」

 

 

 

胡桃「だな…みんな外に出たのか?」

 

 

 

「なんにせよ、静かなのはありがたい。無駄に戦いたくはないからね」

 

三人が言葉を交わす中、由紀がモールの一角を指さして言った。

 

 

 

 

由紀「りーさん、あそこ食料品売り場だよ。見てく?」

 

 

 

悠里「そうね、一応見ておきましょうか…入り口付近の棚は空っぽだけど、奥まで見れば何かあるかもしれないしね。」

 

 

 

 

 

「けっこう広いスペースのようです…二手に別れて探索しませんか?」

 

食料品売り場のスペースは確かにかなりの広さだった。

彼は効率的な探索をする為に、二手に別れての探索を悠里に提案する。

 

 

 

 

悠里「う~ん、まぁわりと安全な場所みたいだし…それでいいわよ。どういう風にチーム分けしようかしら?」

 

悩む悠里…そんな彼女に、彼は言った。

 

 

 

 

 

 

「僕は胡桃ちゃんと探索して良いですかね?」

 

 

 

 

胡桃「え?あたし!?」

 

彼からの不意の指名に、胡桃は驚く。

 

 

 

 

 

悠里「ん?ええ…別に良いわよ?じゃあ、私は由紀ちゃんと美紀さんを連れてくわね。」

 

 

 

 

胡桃「でもさ、そっちのチームは大丈夫?もし奴らと出くわしたら…」

 

 

 

 

 

悠里「大丈夫よ、ちゃんとペンライトも持ってきてるし…いざとなればこれを使って逃げるから」

 

ニッコリと笑みを浮かべて、悠里は胡桃に答えた。

 

 

 

 

 

美紀「さっきも言いましたが、この辺はわりと安全っぽいですし…大丈夫じゃないですか?もちろん、気は抜けませんが…」

 

 

 

 

由紀「心配しないで!こっちは三人なんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…わかったよ。んじゃ、行こうぜ__。」

 

 

 

悠里「無理して隅々までチェックしなくても良いからね、ある程度見たらまたここに集まりましょ。」

 

 

 

「了解しました。」

 

 

集合地点を決めた彼女達は、二手に別れての探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は早めの更新を予定していますので、楽しみにしていただければ幸いです(*^^*)


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