とある場所にある車両整備店、そのガレージで彼は今日もナイフ投げの練習をしていた。
ガッ!
ガッ!
ガッ!
「………」
……スタスタッ
ダーツ盤に近付き刺さったナイフを回収し、また投げる位置につく。
「…………」
ガッ!
ガッ!
ガッ!
(……大変だ………。)
ガッ!
(めちゃくちゃ上達してきてる!!!)
「今日はもう50本は投げてるけど、6本しか外してない!!!ヤバいよこれは!……うわぁ~!世界がこんなじゃなきゃ、サーカス団とかに入れたなぁ。」
「……よし……あれを出すか…」
そう言って彼が荷物の山から取り出したのはゾンビの形に切り抜かれたダンボールだった。
(これを的にした方が実戦に近い雰囲気が出せる…)
ダーツ盤にそのダンボールを重ね…頭の部分がダーツ盤の中央になるようにして、一本ナイフを刺し倒れないように固定する。
(…出来た!)
(距離約5m…三投で頭に当てなきゃ殺されると思って投げよう…!)
(三投……いける…倒せる!!)
「はッ!!」
彼が投げたナイフは勢い良くダンボールゾンビに向かって行ったものの……僅かに右にそれゾンビの頭…その10cm横のコンクリート壁にぶつかり…先端部分が欠けてしまった…
そして…その弾きかえったナイフ片は……
容赦なく彼の右足の太股に突き刺さった。
「……ぐわぁっ!!!」
「な!?…ナイフの破片が刺さったのか!?」
(そんなに深くはないと思うけど……血はそれなりに出てきてるなぁ)
(……ガーゼとかあったかな?)
ナイフ片を足から抜き、足を引きずりながら近くの棚に向かう。
ガサゴソ……ガサゴソ…
(しまった……無い!!)
(近くのスーパーはもう医療品は無かったし…この辺には薬局も無かった気が……)
(そう言えば…確か近所のモールの中に薬局があったはず…。少し遠いけど、医療品無いのは困るし…行ってみようか)
(……投げナイフ…持っていった方が良いのかな…)
彼はまだ折れていない自分のトラウマと化したナイフ達を見つめた…。
(一応持っていこう…別に投げなくても普通に使えるし…)
彼は手製のナイフベルトに投げナイフ数本と大型ナイフを装備するとその上から上着を着て出発の準備を整えた。
(なんたる醜態だ。……まさかこの間想像した事が現実になるなんて。情けないったらありゃしない)
(軽いケガで済んだからいいものの……これで死んだら本当にバカだ……サーカスに入れるとか思ってた自分やダンボールを"かれら"の形にくりぬいてた自分を殴りたい……)
(……足のケガはとりあえずタオルで縛っておこう)
太股をタオルで縛ると彼はデパート「トータル」を目指して出発した。
彼は気付いていないが……彼は動かないダンボールのゾンビに三投で勝つと宣言し、驚く事に一投目で敗北するという前人未到の伝説を作りあげていた。
スタスタスタスタ
(…………足痛い…)
1話以来の主人公サイドのストーリーです。
彼は少しだけバカです。