軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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四十話『ごかい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「全く…嘆かわしい世界だな。」

 

 

男は手錠をされて身動きが出来ない自分のベルトを外しているその少年…つまり彼を見つめながら呟く。

 

 

 

 

「…あなたは何か誤解をしてると思います。」

 

彼は冷や汗をかきながら自分を見下している男に言った。

 

 

 

 

 

男「いや…言い訳などいいさ、君もこんな世界で辛い目にあってきたのだろう?そんな中、自分の欲望を受け止めてくれる体…つまり俺を見付けて拉致した…そういう事だろう。」

 

 

 

 

 

「いや…ちが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

男「出来れば女が良かったのだが見付からず、仕方ないからまぁ男でも良っか~…みたいな軽いノリだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、だから違うって言ってるんですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

男「違う?…まさか……元から男狙いだったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「違う、男なんて求めてないです。」

 

 

 

 

 

 

 

男「じゃあ何故俺のベルトを外している?」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おはようございます。」

 

彼は今さらながら、とりあえず挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

男「あぁ、おはよう。」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

男「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「で…何故俺のベルトを?」

 

 

 

 

 

 

「あなたが奴らに噛まれていないか確認する為ですよ。」

 

 

 

 

 

 

男「ほぅ………」

 

彼がそう答えると男はしばらく考えてからこう言った。

 

 

 

 

 

男「ちなみに言っておくと噛まれてないぞ。」

 

 

 

 

 

「本当に?…僕としても出来ればあなたの言葉を信じてそれで終わりにしたいんだけど…」

 

 

 

 

 

 

男「真実を知りたいならば好きに脱がして確認してくれて良いぞ、だが…して良いのは確認だけだ。男に襲われるのは遠慮したいから…」

 

 

「襲わない、襲いたくもない。」

 

 

 

 

 

男「本当か?」

 

 

 

 

 

 

「本当に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「………男が好きなんじゃないのか?」

 

少し間を開けてから男は彼に尋ねた。

 

 

 

 

 

 

「好きじゃない、僕はちゃんと女の人が好きです。」

 

 

 

 

 

 

男「じゃあ俺を拉致したのはやはり妥協してか?」

 

 

 

 

 

 

(おかしい……話が先に進まない!?)

 

彼は無言のまま頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

男「どうした?」

 

 

 

 

 

「……妥協とかじゃない、そもそも僕は女の人に囲まれて暮らしているから、襲うならあなたみたいなおじさんではなく彼女達の内の誰かを襲うと思いますが…」

 

 

 

 

 

男「女の人達と暮らしているのか……その人達はどこに?」

 

男が辺りを見回しながら尋ねる。

 

 

 

 

 

「外に出てます、おじさんの裸を見るのは嫌だからってね。」

 

 

 

 

 

男「なるほど……」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「で……今まで何回その人達を襲った?」

 

 

 

「な!?」

 

男のとんでもない発言に、彼は言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

男「だって君は男より女の方が好きなんだろ?」

 

 

 

 

 

 

「そうだけど…だからって仲間を襲ったりする訳ないでしょ。」

 

 

 

 

 

男「どうだか…本当は男が好きだから、女の人を襲えないんだろ?」

 

男がそう言ってニヤッと笑った。

 

 

 

 

 

「ふざけるな…僕は本当に女の人が好きだ。間違っても男なんぞに興味は示さない!」

 

彼は男を力強く睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「なら証明してみせろ。」

 

 

 

 

「証明?」

 

 

 

 

男「あぁ、今からその女の人の内一人を選んで、ポンっと胸でも尻でも触ってこい。そしたらお前は女が好きなのだと信じてやる。」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無理だと思う、多分殺される。」

 

彼は顔を伏せながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

男「仲間なんだろ?なら大丈夫だ。……それともやっぱり男の方が良いのか?」

 

 

 

 

 

「っ!…分かったよ、やってやる!少しの間そこで待っていろ!!」

 

 

バタン!

 

彼はあっさりと男の挑発にのり、外に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「…ふぅ、どうにか追い出せたが…手足に手錠をされている上にすぐ外にはあの少年の仲間がいる……逃げ出すのは無理かな、まぁ悪いやつではなさそうだし…それに少し面白そうだ……ここは大人しく待っているか。」

 

 

 

 

男は大人しく彼の帰りを待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「おっ!どうした?」

 

突然車から降りてきた彼に胡桃が声をかける。

 

 

 

 

 

「………」

 

(胡桃ちゃんはダメだ、少しでも触ったら殺される。)

 

 

 

 

 

 

悠里「__君、どうしたの?あの男の人は?」

 

 

 

(りーさんもダメ…なら美紀さんは…)

 

彼は美紀をじっと見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

美紀「…なんですか?」

 

 

 

(いや……無理だな。)

 

 

 

 

 

 

 

 

(だったら残るは一人!!)スタスタ…

 

 

由紀「ん?」

 

 

彼は無言のまま、不思議そうな顔をする由紀の背後に回り込み…そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スッ…

 

 

 

由紀「ひゃっ!!?」

 

そっと由紀の尻を触った。

 

 

 

 

 

 

 

由紀「ちょっ!?__くん!?」

 

彼の行動に由紀は驚く。

 

 

 

 

 

胡桃「お前っ!!」

 

 

 

美紀「あなたって人は…」

 

 

 

悠里「__君!!」

 

 

鬼の形相で三人が彼に少しずつ近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ…、いくら由紀ちゃん本人が怒らなくてもそれをこの人達に見られてたらどのみち僕は殺されるんじゃあ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、違うんです!あの男が…あの男が悪いんです!僕はただ奴の口車にのってしまっただけで…」

 

 

 

 

胡桃「はぁ?訳のわからない事言ってんじゃねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が必死に言い訳する声は車内の男の耳にも届いていた。

 

 

 

 

男「もしかして…本当に触ったのか?あの少年…思ったよりも間抜けみたいだな。 いや…その行動力は評価するべきなのかも…」

 

男がそんな事を呟いていると車のドアが開き、全員が車内に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

胡桃「ほんとだ、目…覚ましてるな。」

 

胡桃が男を見ながら言う。

 

 

 

 

悠里「自己紹介くらいは出来ますか?」

 

男の目を見ながら尋ねる悠里。

 

 

 

 

「りーさん、気を付けて下さい…この男は巧みな話術で人を操ります。まるで魔法のようにね!!」

 

彼が悠里に向けて言う、その彼の頬は真っ赤に腫れ上がっているが…先程胡桃にでも殴られたのだろう。

 

 

 

 

胡桃「この人の話術どうこうじゃなくてお前がバカだっただけだろ。」

 

そう冷たく言い放つ胡桃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「ん?……話術?なんの事かさっぱり…」

 

男は首を傾げた。

 

 

 

 

美紀「え?__さんはあなたにそそのかされたから由紀先輩のお尻を触ったって言ってましたけど…」

 

 

 

 

 

 

男「ん?……俺は何も言ってないけどな。」

 

 

 

「はぁ!?」

 

彼は驚きの声をあげながら男を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

胡桃「お前まさか…初対面の人間のせいにして由紀にセクハラしたんじゃあ…」

 

胡桃がそう言いながら恐る恐る彼の顔を覗く。

 

 

 

 

 

「違う違う!おいあんた!!本当の事を言って下さいって!このままじゃ僕の立場が危ない!」

 

 

 

 

美紀「どんな立場ですか。」

 

ぼそっと呟く美紀。

 

 

 

 

 

 

男「ははっ…悪かった。君達、この少年の言うとおりだよ…俺がそそのかしたんだ。」

 

焦る彼がかわいそうに思えた男は全てを白状した。

 

 

 

 

 

「ほら!だから言ったでしょ?」

 

 

 

 

悠里「…なんでそんな事言ったんですか?」

 

悠里が男に尋ねた。

 

 

 

 

 

男「目を覚ましたら彼が俺のベルトを外してたんでね、多分噛み傷がないか確認しているんだろうと気付いてはいたけれど……面白そうだったんでからかわせてもらった。」

 

男はニヤつきながらそう答えた。

 

 

 

 

 

 

男「…まぁこんな冗談真に受けて本当にセクハラしてくるとは思いもよらなかったけどね…。」

 

 

 

 

美紀「………」 悠里「………」 胡桃「………」

 

男がそう呟いた瞬間、三人は彼を冷たい目で見つめる。

 

 

 

 

 

「許して下さい……この人に男好きのレッテルを貼られて、それを取り払う為に仕方なくやったんです…僕だってやりたくて由紀ちゃんにあんな事をした訳では…」

 

彼は弱々しい声で三人に言った。

 

 

 

 

 

胡桃「あたし達じゃなくて…ちゃんと由紀に謝れ。」

 

 

胡桃にそう言われた彼は、由紀の前に立ち、謝罪をした。

 

 

 

 

 

 

 

「由紀ちゃん…本当にすいませんでした。どうかしてたんだ…僕は。」

 

 

胡桃「お前すぐにその『どうかしちゃってるモード』に入るから…本当に気を付けてくれよ。」

 

 

 

 

 

「…善処します。」

 

彼が胡桃の言葉に答えた後に、由紀は口を開いた。

 

 

 

 

 

由紀「別に怒ったりしてないから大丈夫だよ。__くんはただ自分は男の子じゃなくて女の子が好きなんだって、この人に信じてもらう為にやっただけなんだよね?」

 

 

 

 

「…はい」

 

 

 

 

由紀「なら許してあげる!そんなに思いっきり触られたわけでもないから。」

 

由紀はそう言ってニコッと微笑んだ。

 

 

 

 

「うぅっ…」

 

彼はその笑顔を見て、彼女にあんな事をした自分が酷く嫌になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「いい子じゃないか……こんないい子にセクハラするなんて、信じられない男だな…君は。」

 

男が彼を見ながら言う。

 

 

 

 

「ぐっ!!」

 

男のそんな発言に、彼は言葉を返せなかった。

 

 

 

 

(お前がやらせたんだろ!…って言いたいけど、僕が何て言おうと言い訳にしかならない…ここは黙っておこう。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「きっと彼はもっと思いっきり触れば良かったとすら思っているぞ。」

 

黙る彼に男が追い打ちを仕掛ける。

 

 

 

 

胡桃「うわぁ…」 美紀「そうなんですか?__さん…」 悠里「まさか…」

 

再び彼を見つめる三人。

 

 

 

 

 

由紀「だぁ~っ!!もうこの話は終わりだよみんな!__くんは仕方なくやっただけなんだから、そんなこと思ってないよ!…ねぇ__くん?」

 

そう言って由紀も彼を見つめる。

 

 

 

 

 

 

「いえ!少しだけ思ってました!」

 

 

 

 

 

 

…なんて情けない本音はこんな状況で言える訳もなく、彼は由紀にこう返す。

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ、もちろん思っていません!」

 

 

 

 

由紀「ほらね?だからこの話はおしまい!今はこの人が誰かって事が先でしょ?」

 

由紀が男を指差して言った。

 

 

 

 

 

美紀「それもそうですね、まさか由紀先輩がまともな事を言うとは…」

 

 

胡桃「まったくだ…」

 

 

 

 

 

由紀「二人とも失礼だよ!」

 

 

 

 

 

悠里「で…あなたは誰ですか?」

 

悠里が男に尋ねる。

 

 

 

 

 

男「誰って…俺からしたら目を覚ました時にいきなり現れた君達こそ誰だ?って話なんだけどな…」

 

 

 

 

悠里「あなたはこの近くのショッピングモールの中で倒れていたんです。彼とも少しだけ争ったみたいですけど…覚えてませんか?」

 

悠里に言われた直後、男はしばらく黙りこんでから思い出したように答える。

 

 

 

 

 

男「あぁ!そういえばお前…俺を刺そうとしたヤツか!?」

 

彼を見ながら言った。

 

 

 

 

「それはあんたがゾンビかと思ったからで…」

 

 

 

 

男「ちゃんと確認しろ、もう少しで普通の人間を殺すところだったんだぞ?」

 

 

 

 

「…すいません」

 

 

 

 

胡桃「由紀の言ったとおりだったな…この人は目を覚ました時、目の前にいきなりナイフを構えたこいつがいたから慌てて反撃しただけみたいだ。」

 

 

 

 

美紀「あなたはどうしてあそこに倒れていたんですか?」

 

美紀が男に尋ねる。

 

 

 

 

男「腹が減って動けなくなった…あのモールにも食料を探しに行ったのに、一つとして残っていなかったし」

 

 

 

悠里「…そうでしたか。」

 

 

 

 

男「こんな事を頼むのはどうかと思うけど、余裕があるなら何か食べ物をくれないかな?今も腹ペコで死にそうだ…」

 

 

 

 

 

由紀「じゃあ…なんかあげようか?」

 

由紀が男を見ながら言った。

 

 

 

 

悠里「待って、由紀ちゃん。」

 

 

 

由紀「ん?」

 

 

 

 

悠里「いくつか質問します。それに全て答えてくれたら、食料を差し上げても良いです。」

 

 

 

 

 

男「…手短に頼むよ。」

 

 

 

 

 

悠里「まず…噛まれてはいないんですよね?」

 

 

 

 

 

男「噛まれていない…なんなら改めてチェックしてもらっても構わないよ。」

 

男は嘘をついている様子もなく、堂々と答えた。

 

 

 

 

悠里「いえ、信じます。次の質問……あなたは一人ですか?仲間とかは…」

 

 

男「いない。」

 

その質問に、男は食い気味に答える。

 

 

 

 

 

 

 

悠里「そうですか……ずっと一人で?」

 

 

 

 

男「いや……世の中がこうなってばかりの時は他に二人いた…でも……もう言わなくても分かるだろ?」

 

少しだけ悲しげな目をして、男は言った。

 

 

 

 

悠里「はい…すいません、もう結構です。胡桃…手錠の鍵は?」

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「ここにあるけど…外しても良いの?」

 

胡桃は鍵を手に握りながら悠里に言った。

 

 

 

 

 

 

悠里「…手錠を取ったら私達を襲いますか?」

 

悠里が男に尋ねる。

 

 

 

 

 

 

男「襲わないよ、約束する。」

 

 

 

 

 

悠里「こう言ってるし…外してあげましょ?」

 

 

 

美紀「りーさん…そんな事正直に答える訳が…」

 

美紀がそう言うと、悠里は胡桃から鍵を受け取って言った。

 

 

 

 

 

悠里「確かにそうだけど…だからって人を疑ってばかりいるのも嫌なの。この人は大丈夫そうな気がするし、万が一の時は__君と胡桃がいるから…」

 

 

 

悠里「由紀ちゃんもそう思うでしょ?」

 

そう言って由紀を見つめる悠里。

 

 

 

 

由紀「うん!そだね♪」

 

由紀は笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

美紀「…分かりました」

 

 

 

悠里「じゃあ、少しじっとしていて下さいね。」

 

そう言って悠里は男の手錠を外し始めた。

 

 

 

 

 

胡桃「本当に暴れるなよ、おっさん。」

 

 

 

 

男「おっさんとはなんだ。」

 

男は悠里に手錠を外されながら不満そうに言った。

 

 

 

 

 

「まだあんたの名前を知らないからでしょ。」

 

 

 

 

男「あぁ、そうだった。」

 

 

 

 

 

悠里「はい、もう良いですよ。」ガチャ

 

悠里が手錠を外し終えると男は皆に自分の名を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

誠「俺は朝倉誠(あさくらまこと)…君達は?」

 

自由になった腕を二、三回振って、その男…朝倉誠はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 




朝倉さんに操られた?とはいえついに由紀ちゃんに手を出した(軽くですけどね)主人公……
この主人公ヤバいな、少し落ち着かせないと…っていうような事を考えつつ、まずは新キャラプロフィールです。




朝倉誠 

彼女達がショッピングモールで出会った中年男性
顎回りに生えた無精髭がワイルド。


年齢は29だが、髭のせいで少しだけ老けて見える。

武器には鎖を使ったり初対面の彼をおちょくったりと変わった人物。
(一応小型ながらもナイフも所持)



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