軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回登場した新キャラ…狭山さんが思いの外の好評で驚きました!

彼女はこれからも少しずつ登場しますので、ご期待いただければ幸いです(^_^)


三十五話『かえりみち』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胡桃ちゃん!」

 

薬局の外、一人待っていた胡桃に彼が声をかけて近寄る。

 

 

 

 

胡桃「……」

 

 

 

 

「薬、あったよ!…帰ろう?」

 

彼はそう言ってゆっくりと歩き出し、胡桃もそれに続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の5分程は二人共無言で歩いていたが、胡桃がその沈黙を破った。

 

 

 

 

胡桃「あたしの事……怒ってるよな…」

 

小さな声で彼に尋ねる。

 

 

 

 

「……少しだけね、けどもう良いよ…胡桃ちゃんが無事なら。」

 

 

 

 

 

 

胡桃「あたしは…別に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怖い思いさせたね…もっと早く来れば良かった、ごめんね…胡桃ちゃん。」

 

彼が立ち止まり、胡桃を見て言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「………ううっ…ぐすっ」

 

その一言を聞いた胡桃の心に、安心と後悔…二つの感情が溢れてきて、我慢出来ずに再び泣き出してしまう。

 

 

 

「胡桃ちゃん!?ごめんね?部屋に入った瞬間助ければ良かったのに、不安にさせちゃったよね?!三人相手に真っ向勝負はキツいから、まずは油断させて一人減らそうと思って…」

 

胡桃の涙を見て彼が焦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃(バカだ、あたしは!自分勝手な行動をしたせいで……こいつに無駄な殺しをさせた!!)

 

 

 

胡桃(りーさんの熱も、すぐに治ったかも知れないのに!わざわざ危険な真似をして…こいつに心配をかけて……)

 

 

 

胡桃(あたしはこいつを支えていこうと思ってた、もう空彦を殺した時にしたような…あんな怖い目をしなくてもいいようにって………なのに……)

 

 

 

胡桃(支えるどころか……あたしがそのきっかけを作ったんだ!!)

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「ううっ……ごめん……危険を犯してまでやる必要はないって…お前に言われてたのに……あたし…あたしっ…!」

 

大量の涙を流しながら、胡桃は彼に謝り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「胡桃ちゃん………もう怒ってないから…」

 

そう言う彼の顔を、胡桃は静かに顔を上げて見つめる。

 

 

 

 

 

月明かりに照らされた彼の顔…そこに流れる血を見て、胡桃は気づく…最初にその血を見た時は、奴等の返り血を浴びてしまったのだろうと思った。

 

確かに、返り血も少なからず浴びてはいるのだろうが…よく見ればその頭には小さいながらに切り傷があり…そこからは彼自身の血が流れていた。

 

 

 

 

 

 

胡桃「あ…!あっ…!!」

 

よく見ると彼は頭だけでなく体にもいくつかの怪我を負っているようだった。

 

 

 

 

 

胡桃「その怪我…!?」

 

 

「ああ…そんなにひどくないよ。…さすがに二人相手に無傷はムリだったね……最初に一人殺っといて本当に良かった……三人のままだったら僕が死んでたかも。」

 

そう言って彼は笑う。

 

 

 

 

 

胡桃「あたしのせいで………」

 

彼の怪我を見て、胡桃はまた泣いてしまいそうになる。

 

 

 

 

「………。」

 

そんな胡桃の頭を、彼は優しく撫でる。

 

 

 

 

 

胡桃「………ぐすっ…」

 

それだけで、胡桃の心は不思議と落ち着いていった。

 

 

 

 

 

 

「さぁ…もう大丈夫かな?」

 

彼が胡桃の顔を覗きこんで尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「うん……ありがと」

 

 

 

 

 

胡桃(さっき川崎(あいつ)に無理やり頭を撫でられた時は…すごく嫌な気分だったのに……こいつに撫でられても嫌な気分にはならない……)

 

 

 

胡桃(……それどころか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傷…後で手当てしてくれるかな?それで全部ちゃらにするから…」

 

 

 

 

 

胡桃「…うん…わかった」

 

そう言って胡桃は彼に笑顔を見せる。

 

 

 

 

「……よかった。」

 

そして、二人は再び車へ向けてゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……。」

 

 

 

 

 

 

「………。」チラッ…チラッ…

 

 

 

 

胡桃「えっと…なに?」

 

歩きながら横目でチラチラと自分を見てくる彼に胡桃が言った。

 

 

 

 

 

「いやね……目のやり場に困る……けれども見てしまう自分もいるんだ…」

 

彼が顔を赤くして言う。

 

 

 

 

 

胡桃「??……あ!」

 

胡桃は今更気づく、自分の着ているシャツは酷く破れていて、その箇所から下着が見えてしまっている事に。

 

 

 

 

胡桃「うわっ!」

 

慌てて隠そうとするが、破れ方が酷くて上手く隠せない。

 

 

 

 

胡桃(どうしよう!シャツが破け過ぎててどうしても見える!!)

 

顔を真っ赤にしながら、一生懸命それを隠そうとがんばる胡桃。

 

 

 

 

「…はぁ」

 

 

 

 

パサッ

 

それを見かねた彼が、自分の上着を脱いで、胡桃の肩にかけた。

 

 

 

 

 

胡桃「あ…ありがとう。」

 

上着に袖を通してしっかりとそれを着る胡桃。

 

 

 

 

「寒いでしょ?外に出るなら上着くらい着てから行きなよ。」

 

呆れ顔で彼は言った。

 

 

 

 

 

 

胡桃「悪かったな!…てかお前も温泉で裸を覗きに来たくせに…今更ちょっとブラ見えたくらいで目のやり場に困るってなんだよ。」

 

 

 

 

「あれは覚悟を持って自分から行ってるからいいんだよ!…けど今みたいな不意打ちはちょっと…いくら見えてるのがただの下着でもダメージが大きくて…」

 

彼がよくわからない話をぶつぶつと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「……ってか僕間に合ってた!?もしかしたらあの時、既に変な事された後だったんじゃ……」

 

そう言って彼は、胡桃の顔をそっと覗く。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃(…せっかくだ…ちょっとからかってみるか。)

 

 

 

 

 

胡桃「えっと……少しキスとかされたのと………後はその…聞かないでくれるとありがたいな……」

 

言いながら胡桃は俯く。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

ちらっと彼の顔を覗き込んでみる……

 

 

 

 

すると彼の顔がみるみる青ざめていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃(ヤバ……やり過ぎた!)

 

 

 

胡桃「ウソウソ冗談!まだ何もされてなかったよ!!…ってかあたしまだ服着てたんだから分かるだろ!!」

 

 

 

 

「…でも服着ててもキスは出来るし、胸とかも下着の中に手を潜り込ませれば脱がせなくても触れるよ?」

 

彼が青ざめた顔のまま言った。

 

 

 

 

胡桃「う…確かにそうだけど……。大丈夫!!キスもされてないし、変なとこ触られてもないから!」

 

 

 

「……本当に?」

 

 

 

 

胡桃「本当に!!」

 

 

 

 

「僕を傷付けないように嘘ついてない?」

 

 

 

 

胡桃「ついてない!もしそんな事されてたらあたしだって女なんだからもっと落ち込んでるって!」

 

 

 

 

 

「…それもそうか、なら良かったけどさ……あんな事があった後じゃ、冗談に聞こえないって。」

 

安心したのか、彼の顔色が戻っていく。

 

 

 

 

 

胡桃「へへ…わりぃ…。」

 

そう言って胡桃はニコッと笑った。

 

 

 

 

 

 

「あの…それと…もう一つ、聞きたい事があるんだけど…」

 

彼が小さな声で言う。

 

 

 

 

胡桃「ん?なに?」

 

胡桃がそう言った直後、彼は立ち止まり…ナイフを抜く。

 

一瞬それに驚く胡桃だが、すぐにその行動の意味を理解する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少し待ってて。」

 

二人の道の先に、かれらが三体立っていた…

 

 

 

 

 

ナイフを構え、進もうとする彼を胡桃がそっと手で遮る。

 

 

 

 

胡桃「お前は怪我もしてるし、疲れてるだろ?いいよ、あたしがやる。」

 

シャベルを構えて胡桃は言った。

 

 

 

 

「本当に?…じゃあ頼むよ、気を付けて。」

 

彼はナイフを仕舞う。

 

 

 

 

胡桃「…任せとけ!!」

 

勢いよく駆け出した胡桃は、瞬く間にその三体を仕留めた。

 

 

 

 

 

 

 

「見事なもんで……なんでアイツらに押さえ込まれてたのか不思議なくらいだよ」

 

胡桃が倒した死体を見ながら彼は呟いた。

 

 

 

胡桃「…やっぱ人間は殺したくなかった…それで躊躇って、隙をつかれた。」

 

 

 

 

「………胡桃ちゃんはそれで良いよ、僕のように平気で人を殺す人間にはならないようにね。」

 

彼が笑顔で言う。

 

 

 

 

胡桃「けど……それじゃ…お前だけつらい思いを……」

 

 

 

 

「さっき、それを言おうと思ったんだ。」

 

 

 

胡桃「さっき?ああ…そういえば聞きたい事があるとか言ってたっけ。」

 

かれらが現れたせいで中断していた会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「うん、胡桃ちゃんは、僕が目の前でアイツらを殺したのを見て……僕に対して嫌悪感とか…恐怖感とかを感じた?」

 

彼がそう尋ねた、胡桃は思い返す……あの時、感じた感情を。

 

 

そこに、彼に対する嫌悪感や恐怖感は存在していなかった…あったのは、あんな状況を生み出した自分への嫌悪感…そして激しい後悔の念ばかりだった。

 

 

 

 

胡桃「ううん…お前に悪い感情は抱いてないよ。」

 

そう答える胡桃。

 

 

 

 

「やっぱり…胡桃ちゃんならそう言ってくれるって思ってた。あんな僕でも、見放さずにいてくれるって…」

 

じっと、胡桃の目を見つめながら彼は言った。

 

 

 

胡桃「お前の中で、あたしは随分信頼されてるようで…」

 

 

 

 

「うん…今は胡桃ちゃんにしか、あんな姿…安心して見せられない。由紀ちゃんはあんな僕を見たら傷付きそうだし…美紀さんは引いちゃいそう…、りーさんには……説教されそうかな?」

 

彼はそう言って笑う。

 

 

 

 

 

胡桃「ははっ……でも考えすぎだよ。由紀も美紀もりーさんも、きっとどんなお前でも受け入れてくれる。」

 

ポンっと、彼の肩に手を置いて、胡桃は言った。

 

 

 

 

 

「そっか……そうだよね…ありがとう、胡桃ちゃん。」

 

彼はそう言ってから、まっすぐと胡桃の目を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

「あんな奴らを殺してしまったくらいじゃ、僕は落ち込まない……だから胡桃ちゃんは気にしないで欲しいって事を伝えたかった……。僕は君達に嫌われさえしなければそれで良いから」

 

 

 

 

胡桃「…うん……嫌いになんかならないよ…あたしも、もちろん…他のみんなもな。」

 

強く彼の目を見つめ返して、胡桃は答えた。

 

 

 

 

 

「…本当にありがとう……胡桃ちゃん。」

 

彼はポンっと胡桃の頭に手を置くと、もう一度その頭を撫でた。

 

 

 

 

胡桃「う……」

 

 

 

 

「…あぁゴメン、頭…なれなれしく撫ですぎだね。」

 

そう言ってから、その手を胡桃の頭から離す。

 

 

 

 

胡桃「だな………同年代の…しかも付き合ってもいない女の子の頭とか、普通は撫でないだろ。」

 

胡桃が彼に冷たい視線を送る。

 

 

 

 

「まったくその通り……いや~…反省反省。」

 

彼はそう言ってからゆっくりと歩きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……。」

 

胡桃は立ち止まったまま…その背中を、静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             そっか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            今…気づいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          あたし………やっぱり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         …………………………………

  

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……へへっ!」

 

少し遅れてから、胡桃は彼の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「ほら!急ぐぞ!!」

 

彼の手を握ると、それを引いて駆け出す胡桃。

 

 

 

 

 

 

「うわっ!!走るの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「走る!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕、来るときも走って来たから疲れてるんですけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「大丈夫!がんばれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに怪我してる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「さっき自分で、そんなにひどくないって言ってただろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まったく………ってか手冷たいよ!ちゃんと上着着てる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「着てる着てる!あたしは手足が冷えやすいの!!」

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…じゃあまた今度、手袋でも探そうか?」

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……うん!!」

 

 

二人は手を繋いだまま、車まで走って帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…ふぅ」

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ!ゴホッ!!ゴホッ!!」

 

車まで戻った時には、彼は息があがって虫の息になっていた。

 

 

 

 

胡桃「だらしないな……救急箱取ってくるから待ってろ、中だと皆起きちゃうかも知れないから…手当ては外でするけど、それで良いだろ?」

 

 

 

「ハァ…ハァ…う、うん」

 

 

 

 

 

胡桃は一度車内に入ると、すぐに救急箱を持ち出して、ベンチで座って待つ彼の元に戻る。

 

 

 

「皆は寝てた?」

 

 

 

 

胡桃「ばっちし寝てた。」

 

 

そう言って胡桃は彼の横に座り、救急箱を開けると彼のシャツを脱がし、怪我を一つずつ手当てしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃(けっこう怪我してるな……)

 

彼は頭や胸や手足に、全部で六つの傷を負っていた。

 

 

 

その一つ一つに、胡桃は手当てを施していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…終わり、お疲れ!…もうシャツ着て良いよ。」

 

最後の傷の手当てを終えた胡桃が、彼の背中を叩いて言った。

 

 

 

 

 

「どうも……ところでこの傷…皆にはなんて言おう…殆どの傷は服で隠れるから良いけど、額にあるこの傷だけは隠せないし…」

 

シャツを着て…額に貼られた大きめの絆創膏を触りながら、彼は言う。

 

 

 

 

胡桃「あ~……そっか、どうしよ。」

 

 

 

 

「まぁいいや…朝の散歩に出掛けて転んだとでも言うよ。…で、散歩ついでに近くの薬局に行ったら薬もあった!ってな感じで…。」

 

 

 

胡桃「すっげー無理がある!」

 

胡桃はそう言って笑う。

 

 

 

 

「かな?」

 

彼もそれにつられて笑った。

 

 

 

 

真夜中の公園、ベンチの上で笑い合う二人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「……」

 

 

それを車の窓から覗き見る美紀。

 

 

 

 

 

 

美紀(うわ!!どうしよう…胡桃先輩が棚を開ける音で起きちゃったから、どうしたのかと様子を見てみたら…)

 

 

 

 

美紀(あの二人……いつからそういう関係に……!?)

 

 

 

 

 

美紀が見たのは、真夜中の公園のベンチの上、ボロボロの服を着て笑う彼と…

 

 

 

その彼の上着を着て笑う胡桃、それだけではない…胡桃の着ている上着、たまにその隙間から彼女の下着が見え隠れするのを美紀の目は見逃さなかった。

 

 

 

 

美紀(胡桃先輩…確か今日、寝る時はシャツ着てたよね!?なんでそのシャツ脱いで、ブラの上にそのまま__さんの上着を!!?それに__さんの服もかなり乱れてる……それってつまり……!!)

 

勝手な勘違いをして、一人で顔を赤くする美紀。

 

 

 

 

 

 

 

美紀(だからあんなに仲良さそうなのか!…あの二人…私達にバレないように外で……………あ!戻って来た!!)

 

 

二人が車に戻ってくるのを見て、慌ててベッドに潜る美紀。

 

 

 

 

 

…バタン

 

 

 

胡桃「あ…シャツ破かれたから別のに着替えないと…。」

 

車内に戻った胡桃が小声で言った。

 

 

 

 

美紀(破かれた!?__さん…どれだけ激しくしてたんですか!!?)

 

寝た振りをしながら聞き耳をたてる美紀。

 

 

 

 

胡桃「…ちょっと着替えるから後ろ向いてて。」

 

 

 

 

 

「分かった」

 

 

 

美紀(胡桃先輩、__さんと凄い事してきたハズなのに、着替えを見られるのは恥ずかしいんですね……私にはわからない世界です。)

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……もういいよ、上着…ありがとな。」

 

 

 

「ほいほい。」

 

 

 

美紀(やっぱあの上着__さんのだったんだ!…気まずい事知っちゃった!これでもう、明日からどうやって二人と話せば良いかもわからなくなった!)

 

 

 

 

 

胡桃「お前は着替えないの?」

 

 

 

 

 

「着替えるよ、だからあっち向いててよ。」

 

彼が冗談のつもりで言う。

 

 

 

 

 

胡桃「男のくせに何言ってんだよ…大体お前、さっきあたしに裸見られてるだろ…」

 

この胡桃の言う裸とは、先程手当てするのにあたり、邪魔な上半身の服を脱いだ時の彼の事を言っている。

 

勿論、それに下半身は含まれていない。

 

 

 

 

 

美紀(裸を!?…決定的な言葉を聞いてしまった!恥ずかしくて…もう私は明日から二人の顔を見れませんよ!!)

 

 

 

 

 

胡桃「んじゃ、おやすみ。」

 

 

 

「おやすみ」

 

彼と胡桃は、一つの問題を片付けた事で安心して眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

また一つの新たな問題が、美紀の中で生まれた事も知らずに……

 

 

 

美紀(…まさかあの二人が……気まずいなぁ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻…岡達のいた薬局

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狭山「…あ、遅かったね。」

 

薬局の裏口で待っていた狭山が、目の前に現れた二人の男に言う。

 

 

 

 

????「途中で道に迷った…」

 

男が言った。

 

 

 

??「ってかこんな夜中に呼び出すなよ…眠いっての。」

 

もう一人の男が愚痴を漏らす。

 

 

 

狭山「…ごめん、この辺りの医療品を独占してた奴らを見つけたんだけど…本当にたくさん溜め込んでてね…せっかくだから二人にも手伝ってもらおうかなぁと思って」

 

 

 

 

 

??「お!?そっか、やっと見付けたか!」

   

 

 

 

 

????「辺り一帯の薬局を漁って回っている奴等がいるのには気付いてたが……まさかそいつらが薬局に住んでいる奴らとはな……本当に間違いないのか?」

 

男の一人が狭山に尋ねる。

 

 

 

 

狭山「…うん、中にある段ボール…それにこことは別の薬局のシールが貼られていたから、まず間違いないと思うよ。」

 

 

 

 

????「一件ならともかく…何故辺り一帯の薬局を漁っていたんだ?そんなに医療品ばかり要らないだろうに。」

 

 

 

 

??「独占して、他の生存者と会った時の取引材料にでもしようと思ってたんだろ…おかげで俺達も困らされたぜ、どこのドラッグストアに行ってもほとんど空……漁られた後だったからな。」

 

 

 

 

 

 

????「で…相手は何人だ?」

 

 

 

 

 

狭山「…もういないよ」

 

 

 

 

 

??「なんだ…もう殺したのか。」

 

 

 

 

 

 

狭山「…ボクじゃなくて、別の人が。」

 

 

 

 

 

 

????「別の人?」

 

 

 

 

 

狭山「…うん。元は三人の男がいたけど、__が来て殺していった。」

 

狭山が二人に彼の名を告げる。

 

 

 

 

??「!?」  ????「!!」

 

その名を聞いて、二人の男は驚く。

 

 

 

 

 

 

 

??「あの男がここにいたのか?」

 

 

 

 

 

狭山「…うん」

 

 

 

 

 

????「一人だったか?」

 

 

 

 

 

 

狭山「…恵飛須沢胡桃もいたよ、多分…あれからずっと一緒にいるんじゃないかな。」

 

 

 

 

 

 

??「恵飛須沢胡桃……あぁ、シャベル使ってた中々強い()か。あとの奴らは?……えっと、なんて言ったっけな……」

 

 

 

 

 

 

 

????「若狭悠里、丈槍由紀、直樹美紀…ちゃんと覚えておけ。」

 

 

 

 

 

??「顔は覚えてるから大丈夫だよ。」

 

 

 

 

 

狭山「…その三人はいなかったけど、多分一緒に行動してると思うよ。必死に解熱剤を探してたから…その中の誰かが熱でも出したんじゃないかな。」

 

 

 

狭山「…それであの二人がここに薬を探しに来たんだと思う。」

 

 

 

 

 

 

????「解熱剤を探してたなんて、よく分かるな。」

 

 

 

 

 

 

狭山「…本人から聞いた。」

 

 

 

 

 

 

??「話したのか!?」

 

 

 

 

 

狭山「…うん、__とだけね。」

 

 

 

 

 

????「なんで逃がした?」

 

 

 

 

 

狭山「…__は怪我してたし、恵飛須沢胡桃は見たところ精神的に弱ってた…そんな二人を相手にするのはイヤだよ。」

 

 

 

 

??「狭山ってそういうとこあるんだよなぁ…」

 

 

 

 

 

狭山「…あと恵飛須沢胡桃については、二人にもう一つだけ言っておこうかと思った事があるけど…まぁいいや…次に会った時のお楽しみにしておこう、二人も多分気づくだろうし…」

 

 

 

 

 

??「ん?なんだよそれ…」

 

 

 

 

????「まぁいいさ……まだ生きているって分かっただけマシだ。」

 

 

 

 

??「そうだね、正直もう死んでるだろって思ってたよ。」

 

 

 

 

狭山「…でも今日はもう探さないよ、ここにある医療品…ボク達三人で持てるだけ持ってかなきゃいけないから。」

 

 

 

 

???「分かってる、とっとと運び出すぞ。」

 

三人は会話を終え、薬局の中に消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前半は彼と胡桃ちゃんがちょっと良い雰囲気になるお話……そして、みーくんの勘違い劇場でした。


ラストは狭山さんと愉快な(?)仲間達…。


次回は、まだまだ勘違い真っ只中のみーくんがメインの話です。

ご期待下さいm(__)m

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