軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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そして10・9・8という高評価に投票してくれた皆様…
今更ながら本当にありがとうございます m(__)m

こんな拙い作品を楽しみにしてくれている方がいるならば…その応援を糧に更新がんばります!!


…そういう訳で、主役の彼らの旅行も今回で終わり、新しい話のスタートです!



第四章・ぜつぼう
三十話『くすり』


 

 

 

 

 

 

美紀「おはようございます。昨日はぐっすりと眠れましたか?」

 

誰に起こされた訳でもなく、ひとりでに目覚めた彼に美紀が言った。

 

 

 

 

「……まぁ……おかげさまで……。」

 

目を合わせずに彼が答えた。

 

 

 

 

美紀「あれ?もしかしてまだ昨日の罰ゲームの事気にしてます?」

 

 

 

「……いいえ。」

 

 

 

美紀「なら良いんですが……悪く思わないで下さいよ。」

 

 

 

「思ってませんよ。」

 

彼は布団から出て、それをたたみながら言った。

 

 

 

 

美紀「確かに拍子抜けだったかも知れませんが…私の罰ゲームなんて先輩達のと比べたら簡単なだけマシに思えるはずですよ。」

 

気になる一言を呟く美紀。

 

 

 

「皆の命令?」

 

彼が尋ねる。

 

 

 

 

美紀「あ、さっき先輩達と布団を片付けていたら昨晩の話になって…その時みんなに聞いたんです。もし先輩達が勝ってたら最下位の……というか__さんに何を命令しましたか?って」

 

 

 

「へぇ~。…そういえば皆は?」

 

部屋の中には自分と美紀しかいないことに気付き、彼は尋ねた。

 

 

 

 

 

 

美紀「朝の散歩だそうですよ。」

 

 

 

 

「そうですか、美紀さんは残ったんですね。」

 

 

 

美紀「朝起きて誰もいなかったら__さん、心配になりますよね?だから私は残りました。」

 

美紀は笑顔で言った。

 

 

 

 

 

「それは悪かったですね…ありがとうございます。」

 

布団を片付けて終えた彼が座りながらペコッと頭を下げる。

 

 

 

美紀「いえいえ…それで、先輩達の命令ですが……聞きたいですか?」

 

 

 

「……まぁ。」

 

 

 

 

美紀「まず由紀先輩の予定してた命令ですが、まぁこれはまだ楽な方ですね…『物資の調達に出掛けた時にお菓子を見付けた場合、__さんは自分の分のお菓子を由紀先輩に献上しなければならない』…だそうです。」

 

 

 

「あらかわいい。」

 

 

 

美紀「そうですね、由紀先輩らしい命令です。」

 

そう言って美紀はくすっと笑う。

 

 

 

 

美紀「……けど次からは少し怖いですよ。」

 

表情を一変させ、今度は恐ろしい物を思い出したような顔をする美紀。

 

 

 

「……。」

 

 

 

美紀「まずは、りーさんのから…『運転を覚えてもらう』それが__さんに下したかった命令らしいです。」

 

 

 

「あれ、そんなに怖くはない気が……」

 

 

 

 

美紀「…すいません、これは__さんが怖い…じゃなくて、私達が怖い…ですね。」

 

 

 

 

「……酷いな。」

 

 

 

 

 

美紀がそう言うのには訳があった、以前胡桃が彼に車の運転を教えようとした時…彼は胡桃の教えを受けながら運転していたにも関わらず、ものの20秒で車を壁にぶつけそうになった。

 

その後も胡桃は彼に根気強く教えたが、結局進歩はみられなかった。

 

それからというもの、彼女等は彼を二度と運転席に座らせていない。

 

 

 

 

 

 

美紀「けれどこの命令は多分りーさんの冗談だと思います。__さんに運転をされる事の恐怖はりーさんもよく知っていますし……。」

 

苦笑いして美紀が言う。

 

 

 

「…まぁこれからも運転は大人しくりーさん達に任せますよ。……それで、胡桃ちゃんの命令は?」

 

 

 

 

美紀「胡桃先輩のは間違いなく__さんが恐れる命令ですね。」

 

 

 

「どんなです?」

 

 

 

美紀「『目の前で本物の白刃取りを見せてもらう』…そう言ってました。」

 

 

 

「……どういう事でしょう?」

 

 

 

美紀「つまりですね、胡桃先輩がシャベルを座って待機する__さんに降り下ろすので、__さんはそれを両手で受け止めて防ぐ…。それを成功するまで繰り返すと言ってました。」

 

 

 

 

 

 

「成功する前に僕が死ぬやつじゃないですか。」

 

彼はそれを想像して、顔を青くする。

 

 

 

美紀「ね?私の命令が一番まともな気がしません?」

 

美紀が顔を近付けて言う。

 

 

 

「確かに……そうかもですね。」

 

彼がそう言った瞬間、部屋のふすまが開き、散歩から帰った胡桃達が部屋に入って来る。

 

 

 

 

 

由紀「ただいま~」

 

 

 

美紀「お帰りなさい」

 

 

 

 

 

胡桃「あ、起きたんだな。」

 

彼を見て、胡桃は言った。

 

 

 

 

 

「ついさっきね、散歩は楽しかった?」

 

 

 

胡桃「まぁ気晴らしにはなったな。」

 

 

 

 

悠里「…ふぅ」

 

彼と胡桃が喋る後方で、悠里が溜め息をつきながら座りこむ。

 

 

 

 

美紀「どうしました?」

 

美紀が悠里の隣に座って声をかける。

 

 

 

悠里「…ううん、ちょっと疲れただけよ」

 

笑顔で答える悠里。

 

 

 

 

 

胡桃「あ、悪かったな、朝から付き合わせちゃって…」

 

 

 

悠里「大丈夫よ、私も運動ついでに行きたかったから。」

 

 

 

由紀「ごめんね、りーさん、胡桃ちゃんのワガママのせいで…」

 

由紀が悠里の横に駆け寄って言う。

 

 

 

 

 

胡桃「朝、散歩行きたいって言ったのはお前だけどな」

 

 

由紀「でも、りーさんを誘ったのは胡桃ちゃんだよ~。」

 

 

胡桃「あたし一人じゃお前の面倒見きれないと思ったからな」

 

 

由紀「胡桃ちゃんひどーい!りーさんもなんか言ってあげてよ!」

 

由紀はそう言って悠里に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

悠里「…え?…ああ、ごめんね由紀ちゃん、ちょっと聞いてなかったわ。」

 

 

 

 

 

 

「……りーさん少し顔赤くないですか?」

 

悠里の顔色を見て、彼が言った。

 

 

 

胡桃「そういえば…」

 

 

悠里「ん~…少しだけ具合が悪くて……」

 

 

 

美紀「ちょっと失礼します。」

 

美紀はそう言って悠里の額に手を当てた。

 

 

 

 

悠里「……。」

 

 

 

美紀「…凄い熱じゃないですか!?」

 

 

 

胡桃「マジかよ!?」

 

胡桃も悠里の額に手を当てる。

 

 

 

胡桃「……ほんとだ…!いつから!?」

 

悠里の顔を見て胡桃が尋ねる。

 

 

 

 

 

悠里「…散歩に行き始めたばかりの時は大丈夫だったんだけど……ここに戻る途中から少しだけ調子悪くて……」

 

赤い顔で悠里は答えた。

 

 

 

由紀「だったら早く言ってくれれば……」

 

 

 

悠里「ごめんね、あとは帰るだけだから大丈夫だと思ったの…」

 

 

 

「薬はある?」

 

彼が胡桃に尋ねる。

 

 

 

 

胡桃「どうだったかな……ちょっと車見てくるついてきて。」

 

 

「わかった、美紀さん、由紀ちゃん、りーさんを頼むね。」

 

そう言って彼と胡桃は二人でキャンピングカーに薬があるか確認に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン!

 

 

 

胡桃「あたしはこっちの箱を確認するから、お前はこれを頼むよ。」

 

胡桃は車内の戸棚から二つの救急箱を取り出すと、その片方を彼に渡した。

 

 

 

「了解」

 

 

 

胡桃「……こっちは包帯とかだけだな……多分飲み薬はそっちだ、あるか?」

 

 

 

「…お!これかな?」

 

彼はそう言って解熱剤の箱を取り出す。

 

 

 

胡桃「それだ!よかった~…もしかしたらもうなかったかもって……」

 

 

「あ!!」

 

胡桃が喋っている途中で彼が何かに気づく。

 

 

 

 

 

胡桃「なんだよ?」

 

 

「……これ、空箱だ」

 

彼が解熱剤の箱を開いてからひっくり返してみせる。

 

 

 

胡桃「ちっ!マジかよ……誰だ、空箱のまま入れたやつは!?」

 

 

「…どうする、薬を探しに行く?」

 

 

 

 

胡桃「…そうだな、この辺りで薬局は見かけてないから…また街に戻るか、旅行は終わりだ。」

 

 

 

「わかった、皆を呼んでくる。少し待ってて」

 

 

 

 

胡桃「頼む。」

 

胡桃を車内に残し、彼は由紀達を呼び戻しに行く。

 

少ししてから彼が由紀達を連れて旅館から出てきた。

 

 

 

美紀「薬、無かったんですね」

 

車内に入ってから美紀が胡桃に言う。

 

 

 

胡桃「ああ、これから街に戻りながら探す。」

 

全員車内にいるのを確認してから胡桃は運転席に座り、エンジンを掛けると、車を動かした。

 

 

 

 

 

悠里「…ただの熱なんだから…まだここで休んでいても良かったのに…ごめんね、私のせいで…」

 

 

 

美紀「どうせあまり長居も出来ませんし、ついでに他の物資も探せます。気にしないで下さい。」

 

美紀が悠里に優しく言った。

 

 

 

由紀「そうだよ、気にしないでね、りーさん。」

 

 

 

悠里「……うん、ありがとう。」

 

悠里は二人に礼を言うと、車内のベッドに横たわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…薬、すぐに見つかると良いけど…。」

 

運転をしながら胡桃が呟く。

 

 

 

「……もしかしたらだけど、すぐには見つからないかも。」

 

助手席に座っている彼が言った。

 

 

 

胡桃「どうして?」

 

 

 

「そういえば今まで何度も物資の調達には行っていたのに、解熱剤は手に入れた事がないな……と思って。」

 

 

 

胡桃「………確かにそうだな。」

 

彼に言われて胡桃もそれに気づく。

 

 

 

胡桃「どうしてだろ。」

 

 

 

「………。」

 

彼は少しだけ考えてから、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「もしかしたら、奴らに噛まれた人間が関係しているのかも…」

 

 

 

胡桃「……どういう事だよ?」

 

運転しながら尋ねる胡桃。

 

 

 

「奴らに噛まれて怪我を負った人間が奴らになるまでを見たことは?」

 

 

 

胡桃「……。」

 

そう言われて胡桃は思わず自分の右肩を見る。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……いや、直接はない…。」

 

 

 

「そっか……、奴らに噛まれた人間は、噛まれた直後からかなりの苦痛に襲われるみたいでね…」

 

 

 

胡桃「……。」

 

 

 

「んで、その苦痛は時間が経つ毎に強くなっていって…最終的にはそのまま奴らになる。」

 

 

「それもほんの数時間でね、…たまに丸一日くらい大丈夫な人もいるから、個人差があるみたいだね。」

 

自分が今まで見てきた経験を元に、彼は言った。

 

 

 

 

 

 

胡桃「…それで、それと解熱剤が見つからない事となんの関係が?」

 

 

 

 

「噛まれた直後の症状、それに発熱も含まれてる。」

 

 

「だからこの騒動が起きてからその症状を解熱剤で抑えられるかも…と思った人達が一斉に漁ったのかも、……当然、奴らに噛まれたら解熱剤なんかじゃ抑えられないけど。」

 

 

「まぁ……あくまで僕の考えた一つの説だから、違うかもだけどね。」

 

 

 

 

 

胡桃「……なるほどね、確かにあり得そうな話だと思うよ。」

 

胡桃(奴らに噛まれた直後の苦しみも、凄い熱が出るのも、この身で味わってるから知ってるけどな…)

 

 

 

 

 

 

 

彼と胡桃がそんな会話をしてしばらくすると、街の外れに差し掛かり、一つの薬局を見付ける。

 

 

車を停め、胡桃と由紀がその薬局の探索に向かい、彼と美紀は悠里の側にいる為に車に残った。

 

 

 

 

 

 

 

由紀「じゃあ、りーさん、薬取ってくるから…待っててね?」

 

由紀が横たわる悠里の手を握って言った。

 

 

 

悠里「…気を付けてね」

 

悠里はそう言って由紀の手を握り返した。

 

 

 

胡桃「すぐ戻るから。」

 

由紀と悠里、握り合う二人の手に自分の手を重ねて胡桃が言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「気を付けて下さい。」

 

 

 

「何かあったら大声で呼んで、すぐに駆けつけるから」

 

車のドアを開け、外に出る由紀と胡桃に美紀と彼が声をかける。

 

 

 

 

 

由紀「うん!」 胡桃「はいよ」

 

二人は同時に返事をすると、ドアを閉め、薬局に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(つら)くないですか?」

 

ベッドで横になる悠里に彼が尋ねた。

 

 

 

悠里「うーん……頭が少し痛くて、ぼーっとするだけ…あとは大丈夫よ」

 

そう言うと悠里は彼と美紀に笑顔を見せた。

 

 

 

美紀「それって…大丈夫なんですか?」

 

そう言って美紀も悠里に笑顔を返す。

 

 

 

悠里「ふふっ…ええ、大丈夫…。」

 

 

 

「…無理せず、ちゃんと休んでくださいね。」

 

 

 

悠里「うん、ありがとう」

 

悠里はそう言って布団をかけ直して眠りについた。

 

 

 

 

美紀「……すぐに良くなるといいんですが。」

 

悠里の眠るベッドから離れ、彼と向かい合う形で椅子に座ってから美紀は呟いた。

 

 

 

 

「…そうですね」

 

彼が美紀に相づちを打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分程して、胡桃達が戻って来るのに窓の外を見ていた彼が気づくが…二人表情で探索の結果が良くはない事がわかった。

 

 

 

 

…バタン

 

 

由紀「ただいま~」

 

 

 

美紀「お帰りなさい」

 

 

 

 

 

胡桃「…ダメだ、ここには薬無かった」

 

それだけ言うと、胡桃は運転席に勢い良くもたれ掛かった。

 

 

 

 

「…まだ一軒目だよ、そう落ち込みなさんな。」

 

助手席に移動して、彼が胡桃に言う。

 

 

 

 

胡桃「へへっ、分かってるよ!」

 

胡桃は少しだけ笑うと、また車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「りーさんはどう?」

 

車を走らせた直後、彼に悠里の調子を尋ねる胡桃。

 

 

 

「今は寝てるよ、調子は旅館から出た時より少しだけ悪くなってるかも…」

 

 

 

胡桃「…そっか、早く薬みつけてあげなきゃな。」

 

 

 

「そうだね…。」

 

 

 

 

 

 

それから更に車を走らせる事、約20分…彼女達は二日ぶりに街へ戻ってきた。

 

そしてまた一軒の薬局を見つけ、車を停めると、今度は彼と美紀が探索に向かう。

 

 

 

…しかし結局その薬局にも解熱剤は無く、また車を走らせる…

 

 

 

 

 

 

薬を見つける事が出来ないまま、気が付けば日も暮れてきて、彼女達は六軒のも薬局を回っていた。

 

 

……そして七軒目、ここには彼と胡桃が探索に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…どう?ありそう?」

 

自分の担当範囲の探索を終えた胡桃が、彼の所に駆け寄って尋ねる。

 

 

 

「…いや、ダメだ…ここにも無い。」

 

見ていた空の棚から目を離して彼は言った。

 

 

 

 

胡桃「ちっ!…くそっ!!!」

 

ドンッ!!

 

胡桃はそう怒鳴って目の前の棚を蹴った。

 

 

 

 

「……落ちついて、もう辺りも暗くなってきたから…今日はこの辺で諦めて、また明日探そう。」

 

彼が胡桃をなだめる。

 

 

 

 

胡桃「でも早く見つけないと…りーさん苦しいだろ……」

 

 

 

「うん…分かってるよ、でも夜の探索は危ない……りーさんも幸いただの熱みたいだから、薬なんか無くても明日良くなるかもよ?」

 

 

 

胡桃「…だと良いけどな……」

 

そう言って胡桃は薬局から出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん~」

 

(胡桃ちゃん…少しばかりイライラしてるな、まぁ七軒も回ってただ一つの解熱剤も見つけられないんじゃ…イライラもするか。)

 

彼も胡桃に続き、車に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





りーさんの発熱をきっかけに、前回までババ抜きをして騒いでいたのが嘘のようなシリアスパートに突入します。


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