軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回は前回の続き…みーくんと彼の初デート編となっていますが、書いている内に楽しくなってきてしまい、当初の予定より長い物となりました(^_^;)

その結果、前後編の二部構成となりましたが、楽しんでもらえると嬉しいです!


第四話『初デート(前編)』

 

 

 

 

 

 

(…そろそろ来る頃だと思うけどな)

 

美紀とのデートを約束していた土曜日が遂に訪れ、彼は街中で彼女の事を待つ…。家まで迎えに行くと言ったのだが、彼女の方がそれを遠慮してきた為、結局現地集合となった。しかし、約束の時間になっても美紀は中々現れず、数分の時が経過していく……

 

 

(ちょいと心配になってきたけど大丈夫かね…。美紀は時間にルーズなイメージがないんだけど…。もしかして、悪い男にでも捕まったか?)

 

少し遅れているだけで変な想像をし過ぎな気もするが、美紀は贔屓目(ひいきめ)抜きに見ても美人な子だし、休日の街は人もかなり多い…。一人で歩いていたところを変な奴に絡まれた、という可能性も無くはないだろう。彼はポケットから携帯を取り出し、彼女に連絡を入れる事にした…。

 

 

…スッ

 

「うぉっ!?」

 

???「だ~れだ?」

 

美紀へ連絡を入れようと携帯電話の画面を覗いた瞬間、背後からやって来た人物の手によって視界が遮られる。その人物は柔らかで微かに冷たい手のひらで彼の両目を塞ぎ、クスクスと笑う。

 

 

「……美紀でしょ」

 

美紀「へぇ、よく分かりましたね?」

 

背後にいた人物…美紀はそっと手を離してから彼の前へと回り込み、驚いたような眼差しを向ける。先ほどの彼女は声色を変えていたようだが、美紀だと分からなくなるレベルの物では無かった。

 

 

 

美紀「とにかく、遅れてすみません。待たせちゃいましたよね?」

 

「無事だったならいいよ。にしても、美紀が約束の時間に遅れるなんて結構意外だな。何かあったの?」

 

美紀「その……先輩との初デート、せっかくだからおしゃれしたいなぁとあれこれ悩んでしまいまして…。そうこうしてたら思ったよりも時間がかかり、少し遅れてしまいました…」

 

申し訳なさそうに…それでいてどこか照れたようにして、美紀は履いていたスカートを指先でギュッと握る。彼女は半袖の白いシャツの上に紺色の上着を羽織り、そして下には上着よりも更に少しだけ暗い紺色をしたミニスカートを履いていた。こうして見ると、確かに何時もよりおしゃれしているように思える…。また、スカートと膝上まで上げられた黒のニーソックスの間からのぞく太ももがやけに眩しく、そして魅力的だ…。

 

 

美紀「少しでも先輩によく見られようと思って気を使ったんですよ。ええっと…おかしくないですか?先輩、是非とも感想をどうぞです」

 

「あー……うん、いいね」

 

美紀がニコニコと微笑みながら尋ねてきたので、彼はその全身をパッと見つめ直した後、最後に太ももを眺めてコクリと満足げに微笑む。今日の美紀は何時にも増して可愛いが、なんと言っても太ももが良い…。少し気を抜くと、ついそこを見つめてしまう程だ。

 

 

「いや、本当にすごく良い……」

 

美紀「ど、どこ見ながら言ってるんですか…」

 

「にしても短いスカートだ…。少し動いたら見えそうなくらい…」

 

美紀「そこまで短くはないですよっ!確かに強い風が吹いたら危ないかもですが、その時はしっかりと手で押さえますから…」

 

口ではそう言う美紀だが、咄嗟にそんな反応が取れるのか気になるところだ。出来るなら今すぐにでも突風が吹き、そのスカートを捲って欲しい…。なんて事を思う彼だったが、辺りにいる男性達が通り際に美紀の事をチラチラと見ているような気がして考えを改めた。自分だけならまだしも、他の男に美紀のスカートの下を見せたくはない。

 

 

 

「風、気を付けなよ。しっかり押さえないと、辺りにいるやらしい男にスカートの中を見られちゃうからね」

 

美紀「はい、気を付けます…。でも、この辺にいる男性の中で一番いやらしいのは先輩だと思いますよ?私が思うに、先輩以上の変態は中々いないかと…」

 

「なっ…失礼なヤツだな」

 

彼がムッとした表情を浮かべると、美紀は楽しそうに微笑みを浮かべて歩き出す…。それからほんのワンテンポだけ遅れて彼もその隣に立ち、二人並んで歩いていった。

 

 

 

美紀「けど私も先輩ならともかく、他の男の人にスカートの中を覗かれるのは嫌なので、本当に気を付けないと…」

 

「つまり、僕に見られる分には構わないと?」

 

美紀「恥ずかしいというのは変わりませんが、先輩は私の彼氏ですからね。…て、何ですかその顔…。まさか『見たい』とか言いませんよね?こんな街中(まちなか)で…」

 

「美紀が見せてくれると言うのなら是非とも…」

 

美紀「なっ…!?せ、先輩は…本当にどうしようもない変態ですっ!はぁっ……はいはい、今日のデートで私を満足させてくれたらまた後日見せてあげてもいいですが、見せるにしたって先輩の家の中とか、人目のつかない所でですよ?」

 

「…………」

 

かなり呆れていたようだが、美紀はそれでも了承してくれた…。それがほんの少し意外だった為に彼は目を丸くして驚き、彼女の事を見つめる。

 

 

 

美紀「そ、そんな目で見ないで下さいよ!先輩の方から言い出したんじゃないですか…!」

 

「あ、あぁ…そうだね」

 

見つめられた事で自分の発言を後悔したのか、美紀は顔を俯けたままトボトボと歩く。短い茶髪からのぞく耳は真っ赤に染まっており、とてつもない恥ずかしさを感じているのが分かる。

 

 

 

美紀「今の言葉、冗談ですからねっ!今回のデートがいくら楽しくて満足のいくものだったとしても、私はそういう事をしませんから!」

 

「…そりゃ残念」

 

恥ずかしいという気持ちを隠すように声を張る美紀の頭をポンと撫で、彼はこれからの予定を考える。街にやって来たのは良いが、ほとんど予定を立てていなかったのだ。

 

 

 

美紀「…先輩?どうかしました?」

 

「美紀、どっか見たい場所ある?」

 

美紀「見たい場所?いえ、特に無いですけど…」

 

「そっか…。昼食にはまだ早いし、どうするかね…」

 

美紀「…ふふっ、適当に出歩きながら考えましょ?」

 

「あぁ、そうするか…」

 

もっとしっかり予定を立てて来るべきだったと反省する彼だったが、美紀はその事を全く気にしていないかのようにニコニコと笑っていた。

 

 

 

美紀「そうだ、手だけ繋いでも良いですか?今日は思っていたよりも寒いので、先輩の手に温めてもらいたいです」

 

「んん、いいよ」

 

そっと手を寄せると美紀は嬉しそうにそれを掴み、しっかりと手を繋ぐ…。彼女の手は確かに冷えていたため、彼はそれが少しでも早く温まるようにギュッと力を込めていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

圭「み、美紀ちゃんが先輩と手を繋いで……っ!やっぱり…やっぱりそういう関係なのっ!?」

 

二人が手を繋いだまま仲良く歩く後方…約10メートル程の距離。

人混みに紛れながらそれを見ていた圭は顔を真っ赤に染めていく…。

先日、美紀と彼がデートの約束を交わしたのを偶然にも目撃した彼女は二人の関係が気になってしまい、今日は朝から美紀の自宅前に姿を潜ませ、出掛けていく美紀の事をそのまま尾行してきたのだ。

 

 

 

圭「ああ、やっぱり付き合ってるんだ…。じゃなきゃ、美紀ちゃんがあんなふうに手を繋ぐなんてあり得ないもん…」

 

あまり離れると前方を歩いている二人を見失ってしまうが、かといって近付き過ぎても尾行がバレてしまう…。圭は人混みに紛れたまま絶妙な距離をとりつつ、今回の助っ人に選んだ人の手を引いていく。

 

 

歌衣「あの…あまり引っ張られると痛いんですが…」

 

圭「ご、ごめんっ!けど、もう少しだけ早く歩かないと二人を見失っちゃうから…」

 

前方の二人と後方の歌衣(うい)…それらを交互に見つめ、圭は少し後悔する。大切な友人と先輩の関係を確かめるのにも自分一人だと心細いので、たまたま予定の空いていた歌衣に協力を頼んだのだが、歌衣はどうにものんびりしていて尾行がより大変になっていくのだ…。

 

 

 

歌衣「にしても、本当に仲が良さそうですねぇ」

 

圭「うん…すごく怪しいっ!」

 

歌衣「……あの、協力しておいてなんですが、二人の関係がそんなにも気になるなら美紀さんに直接聞けば良いんじゃないですかね?」

 

圭「そ、それはそうだけどっ…!なんか…なんか聞きづらいのっ!!」

 

実際、今日という日がやって来るまでの数日間に何度かそれにチャレンジしてみた。しかしいざ美紀を前にしてしまうと肝心の事を聞き出す勇気が持てず、結局は尾行するという形になってしまった…。

 

 

 

圭(…ほんと、楽しそう)

 

人の多い街中でここまで距離を開けていると会話の内容までは聞こえないが、彼と出会ってから美紀が楽しそうに微笑み続けているのは分かる。繋いだままの手やその距離感から察するに、付き合っているというのは間違いないだろう…。だが、それが分かったところでこの尾行を止める気はない。二人が付き合っているのなら、彼が美紀に相応しい男なのかどうか……それを美紀の親友として見極めようと思った。

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「で、どうにも眠気が取れなくて…。やっぱり授業ってのは退屈だよな」

 

美紀「勉強はちゃんとしないとですよ?授業中に居眠りばかりしてたらダメな人になっちゃいます。私、そんなダメな人が彼氏なんて嫌です」

 

「…わかった。勉強も頑張るよ。美紀に嫌われるのだけは勘弁だからね」

 

美紀「はい、そうして下さい!」

 

他愛のない会話を交わす中、美紀は彼の背中をそっと叩いて励ましていく。デートが始まり、行くあてなく歩き続けて数十分の時が流れた。今のところただ散歩しているだけのデートだが、これはこれで結構楽しい。

 

 

 

美紀「面白いですよね。クラスの男子と話していても何とも思わないのに、先輩とだとどんな会話も楽しく思えます」

 

「それは嬉しいけど……美紀もクラスの男子と話したりするんだね」

 

美紀「まぁ、本当にちょっとだけですけどね」

 

同じクラスにいる以上、会話をしたりするのは当たり前の事だ。それは分かっているが、美紀が他の男子と話している様を想像するとほんの少しだけモヤッとした気持ちになる…。

 

 

 

美紀「あっ、ひょっとして先輩…嫉妬(しっと)してますか?」

 

「嫉妬?いや、少し話したくらいでそんな……」

 

美紀「ふふっ、素直になって良いんですよ?今一瞬、私が他の男子と会話してるのを想像して嫌な気持ちになりましたよね?」

 

目の前に回り込んだ美紀は歩みを止めると、微かに身を屈めてから彼の顔を上目遣いで覗きこむ。彼女の予想は見事に当たっていて、彼はほんの少しだけ嫉妬していた…。

 

 

美紀「まったく、そんな気持ちにならなくても大丈夫なのに…。私が好きなのは先輩だけなんですから、安心していて良いんですよ」

 

「…分かったよ」

 

これだけ気持ちを見透かされていると気恥ずかしくなり、彼はプイッと顔を背ける。しかし美紀は彼が顔を背けた先々へと回り込み、ニヤニヤと微笑んだ。

 

 

美紀「顔、赤いですよ。照れてるんですか?」

 

「っ…!そ、そろそろ昼にしよう…。あそこの店とか良さそうだ」

 

前へ回り込んできた美紀の肩を叩き、彼はたまたま視界に入ったレストランへと足早に歩を進める。その行動がただの照れ隠しだと見抜いていた美紀はまた嬉しそうに微笑み、彼のあとをついていった…。

 

 

 

そうして訪れたレストランは思っていたよりも空いていたが、全体的な雰囲気は悪くない。二人は店員に案内されるまま席へ座ると、テーブルに置かれていたメニューを開いていく。

 

 

美紀「結構色々な物がありますね。先輩、どれにします?」

 

「えっと…ちょっと待ってて。一回トイレ行ってくる」

 

美紀「じゃ、私は先に決めて待ってますね」

 

トイレへ向かう彼を見送り、美紀はもう一度そのメニューに目を通す。そんな彼女が座る席のすぐ真横…ちょっとした仕切りで遮られた先にあるスペースには圭と歌衣が座っていた。二人は美紀にバレないようにメニューで顔を隠しつつ、彼女の様子を窺い続ける…。

 

 

 

 

美紀「…ふふっ、先輩の照れた顔、可愛かったなぁ」

 

などという美紀の独り言が耳に届き、圭と歌衣は二人揃ってその顔を真っ赤に染めた。美紀は今回の初デートにかなり浮かれているようであり、その後も一人で『ふふっ』と笑い声をあげる事が何度も続いた…。

 

 

 

 

歌衣「み、美紀さん、すっごくご機嫌です…」

 

圭「こんな美紀ちゃん、今まで見たことない…」

 

聞こえてくる笑い声は本当に美紀のものなのかと疑わしくなってそっと立ち上がり、圭は仕切りの隙間から向こうを覗く。隙間の向こうにある席にいるのは紛れもなく美紀であったが、やはりいつもの彼女とは別人のような雰囲気だった…。




少し小悪魔なみーくんや、照れるみーくんというのは良いものですね(*´-`)
次週は今回の話の続き…後編となっていますので、楽しみに待っていただけたら幸いです。

今月は色々とみーくん尽くしになりそうな予感…。

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