胡桃「んで、何か作戦はあるのか?」
「んん…そうだなぁ…」
自分達の出し物を他クラスの生徒に煽られ、C組の生徒数名は今も怒りを露にしている…。あそこまでコケにされたら、もう引く訳にはいかない。その日の放課後、C組の生徒は教室に残り、彼を中心として作戦会議を開いていた。
「まず、メイドをやりたい娘はどの程度いたかな?」
席についたまま問うと集まっていた生徒の内、数名が手を挙げだす。
立候補している女生徒は由紀を含めて5人…。
悪くは無い人数だが、少し物足りない気もする。
彼が眉をしかめながら天井を見上げて『ん~』と唸ると、そばにいた男子生徒が不安そうな表情で口を開いた。
男子生徒「お、おい、何だよその顔は…。5人もいりゃ
「まぁ…ある程度はやれると思う。けどさ、メイド喫茶って言ったらほら…メイドはそれぞれ客の席につき、色々なサービスをする訳だろ?ケチャップ使ってオムライスにハート描いたり、美味しくな~れのおまじないをかけてみたり…」
それらはテレビや漫画で見たメイド喫茶のイメージだが、どうせならこのクラスのメイド喫茶でもそれらのサービスをやっていきたい。…となると、メイド達はそれぞれの客にある程度の時間を費やさねばならない。
「5人でも十分かも知れないけど、回転率を考えたらもう少し人数が欲しい。いくら客が集まってきてくれても、それらに対応出来るくらいの人員がいなきゃ無駄に列が出来てしまう…。あまりに長い列が出来ると客も並ぶ気失せるだろうし、少人数のメイドでのんびりし過ぎていると売上も伸びない…」
悠里「あら、結構真剣に考えてるのね?」
「そりゃもちろん。我がクラスのメイド喫茶をバカにしたヤツに痛い目を見せるつもりでいるんで……」
彼の事だからもっと適当な考えで突っ走るのでは…と思っていたが、意外にも真面目だ。悠里が『ふふっ』と笑って肩を揺らすと、彼は彼女の方を見つめながら申し訳なさそうに言葉を放つ…。
「という訳なんで、その…りーさんもメイドやってくれません?」
悠里「えっ?私?」
「色々考えてみた結果、やっぱメイド足りないと思うんですよね~…。
りーさん綺麗だし、スタイル良いし、変な客が来ても上手くあしらっていくだけの対応力もありそうなんで、メイドやってくれればかなり頼りになるんですけど…」
当日、悠里は裏方に回りたいと言っていたが、正直それは惜しい…。
悠里程のルックスの持ち主なら、多くの客を獲得出来るハズだ。
彼がそう告げると周りにいた生徒達もそのメイド姿を想像し、賛成の言葉を放っていく。
女子生徒「うん!若狭さんならメイド服も似合うと思うから、やってみなよ♪」
男子生徒「俺も若狭のメイド姿には結構興味がある!!やってくれ!」
悠里「え、えぇ~……ど、どうしようかしら…」
付近にいた男子、女子に迫られ、流石の悠里も困惑の表情を見せる。彼女はかなり悩んでいたようだが、最後の最後で由紀に『わたしも、りーさんのメイド姿見たいな~♪』と言われ、苦笑しながらも首を縦に振った。
悠里「じゃあ…うん、やってみようかな。あまり期待しないでね?」
こうして悠里がメイド組に加入し、辺りの生徒達は歓声を送る。
これでメイドは6人…。悠里という人材が加わってくれたのはとても嬉しい事だが、正直に言うともう少しだけ人員が欲しい…。彼は辺りをキョロキョロと見回すと、更にもう一人の女子生徒を見てニヤリと笑った。
「あと、胡桃ちゃんも協力を……」
笑みを浮かべながらそう告げると胡桃はカバンを背負い、そのまま帰宅しようと背を向ける…。が、由紀がその前へと回り込んでそれを阻止した。
胡桃「ゆきっ!どけって!!」
由紀「だめ~っ!ほらほら、戻って戻って~♪」
胡桃「ぐっ!この…っ!」
あと少しで教室から逃れられた胡桃だが、由紀に背を押されて彼の席のそばまでやって来る。微かに腕をバタつかせて抵抗してはいるようだが、由紀は笑顔のままで動じない…。結局、胡桃は彼のそばまで運ばれてしまい、何か言いたげに眉をしかめた。
「さて、さっきの続きだけど…胡桃ちゃんもメ―――」
胡桃「嫌だっ!!!」
食い気味に断られたが、こんな事で諦める彼ではない。
小さく『コホン』と咳を出し、再チャレンジしていく…。
「胡桃ちゃんもメイ―――――」
胡桃「嫌っ!!!」
「………胡桃ちゃんもメイド―――――――」
胡桃「イヤだっ!!!」
早くも三回断られたが、まだまだ諦めない…。
これはクラスの皆の為…仕方の無い事なのだ。
「頼むよ。胡桃ちゃん凄く可愛いからさ、メイド服とか絶対に似合うと思う。ツインテールのメイドとか本当に最高だし……」
胡桃「なっ…!?なっ…!!?」
辺りには大勢の生徒がいるのに、『可愛い』とか『最高』とか、彼は何を言っているのだろうか…。何時からかそばに立つ生徒達が自分を見てニヤニヤしている事に気付いてしまい、胡桃は口をパクパクと動かしながら顔を赤らめていく。
胡桃「あ、あたしなんかがメイドやったって…誰も……」
皆の視線を浴びていたらどう答えれば良いのか分からなくなってしまい、咄嗟に自分を卑下する。『あたしはメイドなんて柄じゃない』『多分、客も来ない』…そう言葉を放っていく胡桃だが、対する彼は首を横に振りながらニコッと微笑む。
「そんな事ないって。絶対に人気者になるから!」
悠里「ええ、くるみなら大丈夫よ」
由紀「うんっ!くるみちゃんも一緒にやろうっ」
胡桃「う…うぅ……」
彼にそんな事を言われるだけでも恥ずかしいのに、由紀や悠里もそれを後押ししてくる…。更に、辺りにいる生徒達すらも胡桃の事を笑顔で見つめ、言葉で後押しをしていった。
女子生徒「くるみさん、絶対にメイド服似合うよ~♪」
男子生徒「ああ、似合う似合うっ!!」
女子生徒「絶対に可愛いと思うな~♡」
胡桃「わ、分かった分かった!!
やるから!やってみるからもうやめろって!」
複数の生徒から『メイド服が似合うと思う』だの『可愛い』だのと言われた胡桃の顔は驚く程に赤くなり、両手を落ち着きなくバタつかせる。このまま皆に『可愛い』とか言われていると恥ずかしさのあまり頭が変になりそうだった為、胡桃は渋々ながらもメイド組への加入を決意した。
「よし…これで7人」
男子生徒「流石にもう十分だろ?」
そばにいた生徒に問われるが、彼は首を横に振る。
「もう少し、もう少しだけ欲しいな…」
もう少しだけ人員がいれば、時折メイド達数名を交代させて休憩させたりする事も出来る。常に最高の回転効率で客を満足させつつ、メイド達の体力を維持していく為にはもう数名欲しいところなのだが…。
「やってくれる人、他にいる?」
尋ねてみるが、誰も手を挙げない。
もう、C組にはメイド希望者は残っていないようだった…。
そもそも、これ以上の人員をメイドに移すと今度は裏方がいなくなる。メニューである料理やら何やらを提供するのが遅れれば、どのみち効率は悪くなってしまうだろう。
悩みに悩んだ結果、彼はある一つの策を思い付いた。
しかしそれを皆に語るにはまだ早い…。まず、"確認"が必要だ。
彼はその場にいた皆を解散させると今度は一人で職員室へと向かい、担任である佐倉慈に声をかけていく。慈はその呼び掛けに応じ、職員室前の廊下へと来て彼と向かい合った。
慈「まだいたの?もう下校の時間よ?」
「それは分かってるけど、少し聞きたい事がありまして~」
慈「聞きたい事?」
小首を傾げる慈に対し、彼は尋ねる。
「今度の文化祭で、うちのクラスはメイド喫茶をやるっていう事はめぐね……佐倉先生も知っていると思うけど、メイドとして他の学年の生徒を雇うのってありですか?」
慈「えっ?他の学年の生徒を…?ええっと、どうかしら……少し待ってね?確認してくるから」
慈はそう言ってから職員室の中へと戻り、他の教員達と話し始める。恐らく、彼が尋ねてきた事が可能かどうかの確認をしているのだろう…。慈は少ししてから再び廊下へ戻ると、彼の前へと立って告げた。
慈「メイドを手伝ってもらいたいその生徒と、その生徒のクラスの担任からしっかり許可を取れば構わないそうよ」
「おお、そうですか!なら、どうにかなるかな……」
他学年の生徒をメイドとして雇っても構わないのなら、幾らでもやりようはある。あとは目星を付けている生徒達に声をかけていくだけだが、勧誘を断られたりしないかどうかだけは心配なところだ。
彼は慈に礼を言ってからその場を去り、下校していく…。
そしてその次の日、授業後の休み時間を利用してはお目当ての学年、クラスに出掛け、目星を付けていた複数の生徒らを勧誘して回った…。
メイド喫茶の本気を…巡ヶ丘学院高校の女子の本気を見せ付けるべく、彼は今日も頑張っています。とりあえず、今回のお話ではりーさん&胡桃ちゃんが新たにメイド組の方に参加しました!!二人ともメイド服がよく似合いそうなので、文化祭当日が楽しみですな(*`艸´)