軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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第六十一話『ひさびさ』

 

 

 

 

「………はぁ」

 

屋内にあるベンチの隅へ腰掛け、側に設置されていた自動販売機から買ったばかりの缶ジュースをゴクゴクと飲んでから彼はため息をつく…。一息つきながら見回した空間には大きな音を響かせながら眩い光を放つアーケードゲームの筐体や、可愛らしいぬいぐるみが景品になっているクレーンゲーム…そして聞き覚えのある曲を流しているリズムゲーム機等が周囲を賑やかにしている。今の時刻は昼を少し過ぎた辺りだが、物事の始まりは今朝早くの事だった…。

 

休日の今日、当初は特に予定など無かったのだが今朝起きたら携帯にメッセージが入っており、彼は渋々ながらそこへとやって来る事になる…。携帯に入っていたメッセージはこうだ。

 

 

『たぶん今日も暇であろうかわいそうなあなたに朗報!可愛い可愛い女の子と遊ぶチャンスがやって来ましたよ~!!ピチピチお肌の女の子と遊びたい?楽しい時を過ごしたい?むへへ……仕方ないなぁ!その夢、叶えてあげましょ!!ピッチピチのかわい~かわい~年下の女の子があなたをお待ちしておりますですよ♡絶対に来てね♡来なかったら泣く』

 

 

……という色々と怪しいメッセージに続き、巡ヶ丘市内にあるゲームセンターの位置が記されていた。このメッセージの送り主が予想していた通り特に予定など無く退屈していた彼はそのゲームセンターへとやって来たわけなのだが、そこで待っていた人物…つまり例のメッセージの送り主はやはり"彼女"だった。

 

メッセージ越しでも伝わる"騒がしさ"…。

いきなりこんなメッセージを送ってくる"年下"の知り合いなんて、"彼女"しかいないだろう。

 

 

 

果夏「お~~っ!!来てくれたっ!来てくれたっ!!せんぱ~い!お久しぶりですねぇ♪」

 

「んん……久しぶり?」

 

つい数日前、普通に校内で会った気がするが、まぁ良いだろう…。

彼はその少女、紗巴(すずは)果夏(かな)に手を引かれながらゲームセンター内へと足を踏み入れていく。

 

 

果夏「ぬへへ…もうっ!あんなメッセージに釣られて来ちゃうなんて、先輩も男の子ですね~♪あのメッセージを送ってきたのが悪い人だったらどうするんです?もっと気を付けないとダメですよ~」

 

…果夏は得意気な表情でこう言っているが、彼はあのメッセージを送ってきたのが果夏だと確信していた。何故なら、メッセージの送り主は【紗巴果夏】と表記されていたから…。彼と友人登録しているメッセージアプリを使ってメッセージを送信したら名前が表記されるのは当たり前の事なのだが、果夏はそんな簡単な事すら見落としているようだ。

 

 

果夏「むふふっ、でも、今回は助かりましたね!?先輩を待っていたのは悪~い人ではなく、可愛い可愛い…ピッチピチの後輩ちゃんでしたよ~♡うれし~でしょ~!!」

 

「…はいはい、嬉しい嬉しい……」

 

あのメッセージを匿名のまま送りつけたと勘違いしている辺り本当に残念な娘だが、確かに可愛いには可愛い。ピョコピョコと揺れる茶色のポニーテールに、真っ赤なシュシュ。クリクリとした大きな目や明るい表情もそうだが、こうして元気いっぱいの笑顔を振り撒きながらはしゃぐ様はまるで妹か何かのように思えて素直に可愛いと思える。

 

 

果夏「遊ぶの久しぶり…!遊ぶの久しぶりっ…!!ほんっ………とうに久しぶりっ!!!わたしっ、今日は一生分騒ぐんで!!先輩もついてきて下さいよ!!!」

 

……いや、少し元気過ぎるかも知れない…。

彼女は大きく開いた目をキラキラと輝かせながら騒ぎ、周囲にいた人々がチラホラとこちらを見る…。大きめの音を鳴らすゲーム機達よりも更に大きな声を出す彼女に手を引かれていた彼は辺りから向けられる視線から逃れるように顔を俯け、彼女の望むまま遊びに付き合っていった…。

 

 

「そう言えば何で僕を呼んだんだ?真冬を呼べば良かっただろ」

 

果夏「もちろん、真冬ちゃんも呼んでますよ。他にも由紀先輩、りーさん、胡桃先輩に美紀ちゃんに圭ちゃん…歌衣(うい)ちゃんにも呼び出しのメッセージを送りましたっ!遊ぶなら大勢で遊びたいですからね~♪」

 

それを聞き、彼は一安心する。

まだ遊び始めて数十分しか経っていないが、このまま果夏と二人きりで遊び続けるのは……彼女のテンションに一人でついていくのはかなりキツいと感じていた。しかし、もう少し待っていれば他の皆もやって来る。そうなったら彼女の扱いに慣れている真冬辺りと交代し、自分はのんびりと遊ぶことが出来るだろう。思わず、安堵のため息が出る。

 

 

「ふぅ……で、皆はいつ頃来る?」

 

果夏「さぁ?みんな、『行けたら行く』…としか返事してくれなかったんですよね~。たぶん、そろそろ来てくれると思うけどな~」

 

「行けたら行く…ねぇ」

 

果夏の携帯を見せてもらったが、確かに皆が同じようなメッセージを返してきていた。細かな言い回しこそ違えど、皆が皆『行けたら行く』と返事している…。いや、よく見てみると由紀と歌衣だけは違うメッセージを返していた。この二人はもうじき来てくれそうだ…。

 

 

(けど、他の皆はどうかな…)

 

出来るだけ多くの人数が集まってくれた方が楽になるし楽しいと思うのだが、どうなる事やら…。少しだけ不安を感じる彼だったが、その後、数十分程経ってから由紀と歌衣が現れ、そして更に数分が経った頃…悠里と胡桃、圭と美紀と真冬が続けてやって来た。一時はどうなるかと思ったが、無事に全員集合だ。

 

 

「よし、果夏のことは真冬に任せた」

 

真冬「え…?」

 

まず最初に真冬の肩を叩き、そのまま果夏の横へと立たせる。

彼女なら、果夏を相手にしても上手くやっていけるだろう。

隣へとやって来た真冬を見た果夏はニタニタと嬉しそうな笑みを浮かべながらその手を掴み、そのままゲームセンターの奥の方へと消えていった…。

 

 

胡桃「ゆき達も来てんだよな?」

 

「ああ、由紀ちゃんなら歌衣ちゃんを連れて先に遊んでるよ」

 

胡桃達よりも一足先にやって来ていたあの二人は今、仲良く肩を並べてクレーンゲームを楽しんでいるようだ。胡桃と悠里は楽しげに遊んでいる二人を確認するとその場へと歩み寄り、二人が狙っていたぬいぐるみを獲得するべく協力していく。

 

彼もその輪に加わろうかと考えたようが、まずは果夏のテンションに付き合い続けてきた事で溜まり始めていた疲れを少しでも癒すのが先だろう。

 

 

美紀「あれ?先輩、どこに行くんですか?」

 

「…ちょいと休憩。ノド渇いたし…」

 

圭「あっ、私も飲み物買ってこ~。美紀ちゃんも何か飲む?」

 

美紀「ううん、まだ平気。また後で買うよ」

 

圭、美紀の二人とゲームセンター隅にある自動販売機へ寄り、彼は圭に続いて一本の缶ジュースを買う。彼はそのジュースをベンチの上で…圭はその側に立ったまま飲んでいき、そして互いに一息つく。

 

 

「………ふぅ」

 

圭「…さて先輩っ、せっかくなんで私達と一緒に遊びません?」

 

圭は彼の事を誘うと、ニッコリと可愛いらしい笑みを浮かべる。

本当はもう少しだけ休んでいようと思ったが、圭と美紀は果夏ほどテンションが高い娘ではないので一緒に遊んでいても疲れはしないだろう。彼はゆっくりと立ち上がり、静かに頷く。

 

 

「よし、じゃあお供させてもらうかな」

 

圭「やった~!えへへ、美紀ちゃんは何で遊びたい?選択は任せるよ!」

 

美紀「えっ?いや、私はこういう所にはあまり来たことないから、任せると言われてもどうすれば良いか……」

 

圭「なるほど…。じゃあ面白そうなヤツを適当に回ってこうか?」

 

美紀はコクリと頷き、彼もそれに賛同する。

そして三人はゲームセンター内をスタスタと歩き出し、これからどれで遊ぼうか…と頭を悩ませていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回はみーくん&圭ちゃんコンビと共に、ゲームセンター内を見て回る予定です!

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