軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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最初に言っておきますと、今回も少し長めです!!(書いている内にテンションが上がってしまい、書きたいものを全て書いてしまったので…)



前回までのあらすじ『由紀ちゃんとお掃除』


第二十三話『むじゃき』(ゆき)

 

 

 

 

由紀「わぁぁ~~っ♪」スタスタッ!

 

「…………」

 

昼を少し過ぎた頃だろうか…。由紀はびっしょりと濡れた体操服の袖を肩まで捲ってからデッキブラシを構えると、それをプールの底に擦りながら一気に駆け出した。その姿がやたらと楽しげに見えた彼は大人しくその様子を見守っていたのだが…。

 

 

 

由紀「ぅわぁぁ~~っ♪」スタスタスタッ!

 

(あ、またこっちに来た……)

 

元気な声を発しながら駆けていった由紀はプールの端にたどり着くと直ぐ様ターンして、また彼の方へと駆け寄ってくる。『なんだかんだでこの掃除を楽しんでいるのだろう…』彼がそんな事を思ったときだった。

 

 

 

 

由紀「もう疲れたっ!!」

 

由紀は彼の前で立ち止まると持っていたブラシを放り投げ、力なくその場に座り込む。楽しそうに掃除していたと思えば急にこうだ…。彼は苦笑いしつつ由紀の隣に(かが)んで目線を落とし、彼女を励ました。

 

 

 

 

「もう半分以上は終わってる。あと少しだから頑張ろう」

 

由紀「うぅ……せっかくのプール、泳いだりしてふつーに遊びたかった…」

 

「それは確かに…。まぁ、由紀ちゃんと一緒なら掃除でも楽しいけどね」

 

由紀「……ほんと?」

 

膝を抱えて座り込んでいた由紀がその顔を少しだけ上げ、彼の事を覗きこむようにして見つめてくる。彼はそんな彼女に笑顔を返し、その肩をポンと叩いた。

 

 

 

 

「うん、いい暇潰しになってるよ…」

 

由紀「…えへへ、そっか」

 

由紀は照れたように笑い、両足のつま先をモジモジと擦り合わせている。このままずっと由紀の事を眺めていても良かったのだが、彼には一つ気になる事があった。

 

 

 

 

 

「あのさ、普通に座ってるけど大丈夫?そこ凄く濡れてるけど…」

 

由紀の座っているところは先ほど撒いた水がまだ渇いておらず、軽い水溜まりのようになっている。にも関わらずそこに体操座りしていた由紀の短パンはグッショリと濡れてしまい、由紀はほんの少し気持ち悪そうにしていた。

 

 

 

由紀「うわぁ……もっとびしょびしょになっちゃった…。あっ!一応言っておくけど、おもらししちゃったわけじゃないよっ!!」

 

「そんなこと、言われなくたって分かってるよ」

 

体操服の裾を両手で引っ張り、濡れた短パンを隠しながら顔を赤く染める由紀。短パンからポタポタと水滴が滴り、それが太ももを伝う様は確かに漏らしてしまったかのようにも見える。ただ、実際は違うことくらい彼にも分かっていた。

 

 

 

 

由紀「なんかお尻のとこばかり濡れてて気持ち悪いなぁ…。よし…!」

 

さすがにここまで濡れてしまった服をそのまま着ているのは少し動きづらいし、何となく気持ちも悪い…。由紀は短パンに両手をそっとかけ、ゆっくりとそれを下ろした…。

 

 

 

(っ!?びっくりした…そうか、今は下に水着を着てるのか…)

 

目の前で急に短パンを下ろす由紀を見た彼は一瞬ドキッとしたが、脱いだ短パンの先にあったのが黒いスクール水着なのを確認して少し落ち着く。由紀は脱いだ短パンをプールサイドへと投げると、今度は上の体操服にも手をかけた。

 

 

 

 

由紀「もう両方脱いじゃお。水着の方が楽だもんね」 

 

「…………」

 

ポツリと呟いてから服を脱ぐ由紀…。彼は彼女が少しずつ服を脱ぐ様をじっと見つめていた。いくらその下に水着を着ていると理解していても、同級生の女子が目の前で服を脱いでいると少なからず胸が高鳴ってしまう。

 

 

 

 

由紀「…よ…っと!」

 

脱ぎ終えた体操服も先ほどの短パンと同じ場所へと投げ、由紀は微かに乱れた髪を右手で整える。上下の体操着を脱ぎスクール水着姿になった彼女は眩しそうに空の太陽を見上げた後、そばに転がっていたブラシを手に取った。

 

 

 

 

 

由紀「さっ!じゃあもうひとがんばりしよっか!!」

 

「んっ?あ、あぁ…そうだね」

 

彼はスクール水着姿の由紀に見とれてしまい、返事が一瞬遅れる。彼等の学校は水泳時男女別に分けられていた為、こうしてスクール水着を身に纏う由紀を見たのは初めての事だった。

 

 

 

 

(この前ビキニ買うのに付き合った時も思ったけど、由紀ちゃんって意外と胸あるんだよな……)

 

由紀の身体にピッチリと張り付くスクール水着…その胸にあたる部分は決して平らではなく、程よい大きさの膨らみがある。そして由紀が彼に背中を見せ、微かに前屈みになってプールの掃除を始めた時、彼は思わず自分の口を手で押さえた…。

 

 

 

 

由紀「あとちょっと~♪あとちょっと~♪」ゴシゴシ

 

「…ッ!!」

 

この学校のスクール水着は下の方が結構なV字になっているため、由紀の太ももが惜しげなく晒されている。それ自体もかなりの破壊力なのだが、彼が今見ているのはそこだけではない…。彼が今見ているのは…目の前に突きつけられた由紀のヒップだった。

 

 

 

 

由紀「ふんふんふ~ん♪」ゴシゴシ

 

「ッぐ……ぅ…う…!」

 

不意にこちらへと背を向けた由紀…そんな彼女が少し体を前屈みにしながらブラシを擦るものだから、その小ぶりなヒップが自然と彼の方へと向く…。平均的な物よりもやや際どい気のするスクール水着は由紀の太ももどころか微かにそのヒップもはみ出しているようにも見えてしまい、彼は目線を外せなくなる。

 

 

 

 

(あれは太ももか…!?それともギリギリのところで尻か…!?いや、もうそんな事はどうでもいい!一つ確かな事は…このままじゃまずいって事だ!!)

 

ブラシを擦る動きに合わせて揺れる由紀のヒップ。それが手を伸ばせば触れられる距離にあるものだから、彼の心は大きく揺れていた。目の前にいるのはあの由紀で、今も楽しげに鼻唄を歌っている……そんな彼女に手を出してはいけないと分かってはいるのだが…。

 

 

 

 

由紀「るったった~♪らんたった~♪」ゴシゴシ

 

 

「んん……んん~…!!」

 

(相手はあの由紀ちゃんだぞ…いくら二人きりとは言え、手を出すのはマズイだろ…。いや、誰が相手でもマズイんだけどさ……)

 

頭では思っていても目はそちらに向いてしまい、右手もふらふらと彼女の方へ伸ばしてしまいそうになる…。『少し触ってしまっても由紀ちゃんなら謝れば許してくれる…。少しだけなら問題ない…』頭の片隅でそんな事を考えてしまい、どうにも落ち着かない…。彼はこのどうしようもない気持ちを抑えるべく、ある行動ととった。

 

 

 

 

 

由紀「ふんふんふ~ん♪」ゴシゴシ

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!ガッ!!!

 

 

由紀「わっ!?なんの音!?」

 

掃除を進める由紀の背後から突如鳴る音。それはまるで何かを壁に叩き付けたような、打ち付けたような…そんな音だった。由紀が驚き振り返るとそこにはプール端の壁際に手をついたまま立ち、顔を俯ける彼の背中があった。

 

 

 

由紀「ど…どしたの?」

 

由紀は手に持っていたデッキブラシを壁にかけ、彼の背に向けて声をかける。彼はすぐこちらに振り向いて笑顔を見せていたが、その額が真っ赤になっているような気がするのは由紀の勘違いだろうか…。

 

 

 

 

「なんでもない…。ちょっとだけ疲れたから、少し休憩するよ」

 

由紀「うん…。ねぇ、おでこ赤いよ?大丈夫?」

 

「ん?あぁ、大丈夫大丈夫」

 

正直いうとあまり大丈夫ではなかった。彼の額が真っ赤に染まっているのは、自らの邪念を打ち消すべくプールの壁にその頭を打ち付けた事によるもの…。彼はズキズキと痛むその額を隠すようにして手をあて、プールサイドへと上がる。由紀も彼とともに休憩しようかと思ったが、気が乗っているうちにもう少しだけ働くことにした。

 

 

 

 

由紀「じゃあ、ゆっくり休んでね!」

 

「…は~い」

 

プールの中からこちらへパタパタと手を振る由紀…。彼女のその純粋な笑顔を見て、彼は激しい後ろめたさに襲われた。こんなにも眩しい彼女の笑顔…それを曇らせてしまうかもしれぬ行動を先程の自分はとろうとしてしまっていたのだから。

 

 

 

 

(由紀ちゃんごめん。もう二度と、君に対して(よこしま)な気持ちを抱いたりしないから…。にしても、巡ヶ丘学院高校のスク水はこだわりを感じる逸品だな)

 

 

 

 

 

 

 

由紀「あっ、ごめんっ!さっきそこに投げた私の体操着、どっか日の当たる場所にかけといてくれるかな?できるだけ乾かしておきたいんだ~」

 

「あぁ、はいはい……」

 

言われた彼はそばに落ちていた彼女の体操着を上下ともに拾い上げ、いい感じに日の当たる場所を探す…。少しの間辺りをキョロキョロ見回した結果、彼はそばにあったフェンスの方へと歩み寄った。

 

 

 

 

(日も当たってるし、ここにかけておけば良いだろ……)

 

プールと外を隔てる2mあるかないかくらいのフェンス。日の当たりも申し分ない。濡れた由紀の服もこの上にかけておけばある程度は乾くだろう。彼はそこへ服をかけようとするがその前に、この服が少しでも早く乾くよう一工夫した。

 

 

 

 

 

(…けっこう水吸っちゃってるから、軽く絞っておくか。そうすれば乾くのも多少早くなるだろうし)

 

 

 

ギュッ………

 

 

 

ボタボタボタッ…!

 

 

 

体操シャツの濡れている箇所を雑巾(ぞうきん)のように絞り、フェンスの上に干す前にある程度の水気を払っておく。持っている時に重いと感じたそのシャツはやはりかなり濡れていたようで、絞る度にボタボタと水滴が落ちた。

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

ギュッ……

 

 

ポタポタ…ポタッ…

 

 

 

 

体操シャツの方はかなり水気を払えたらしく、落ちる水滴が減ってきた。彼はそのシャツをフェンスの上にかけて干した後、今度は一旦地面に置いていた短パンの方を手に持つ。実を言うと、由紀の体操シャツを絞っていた段階で彼の中にある気持ちが芽生えかけていたのだが………それは彼女の短パンを手に持った事によって完全に目覚めた。

 

 

 

 

 

 

(ええっと、この濡れている由紀ちゃんの短パンをこうして絞って…)

 

 

 

ギュッ…!!

 

 

ボタボタッ……

 

 

 

 

 

(こうして絞って出る水は…果たしてただの水なのだろうか?この水、一度は由紀ちゃんの身体にかかり、そうしてこの短パンまで(つた)ってきたものだろう。だとすれば………これはもうただの水ではなく"由紀エキス"とでも言った方が…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!!

 

 

由紀「うわっ!!?」

 

先程聞いた音と同じ様な音が再びプールサイドの方から聞こえ、由紀は驚きの表情を見せる。今度のは三度、しかもさっきのより音の質が激しい気がした。音の聞こえた方へ目線を向けた由紀が見たのはフェンスの上に干された自分の体操シャツと短パン……そして、そのそばの地面に額をつけたままうずくまる彼の姿だった。

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ…ぅっ…!」

 

由紀「なっ!?ど、どうしたのっ!!?」

 

うつ向けになったまま苦しそうな声をあげている彼の身を心配した由紀は直ぐ様掃除を中断し、急いでプールサイドへと上がる。何があったかは知らないが、こんな苦しそうな声をあげて倒れている彼をほうってはおけなかった。

 

 

 

 

由紀「大丈夫っ!?どっか痛いの!?」

 

「だ…大丈夫……」

 

心配そうな顔をしてそばに駆け寄り、背中を撫でてくれた由紀へ彼はそう答える。本当の事を言うと地面に打ち付けた額が痛くて仕方ないのだが、由紀にそれを打ち明けられる訳もない。自分は彼女に抱いてしまった(よこしま)な気持ちを痛みで打ち消すべく、この額を打ち付けたのだから…。

 

 

 

 

 

(もう二度と由紀ちゃんに邪な気持ちは抱かないと決意したばかりなのに、ものの数分であっさりといけない事を思ってしまった…。それもこれも、全てスクール水着のせいだ…)

 

彼はスッと立ち上がり、由紀に背を向けてプールの中へと戻る。彼女に背を向けたのは赤く染まった額を隠すためでもあるが、何より彼女の水着姿を見ないようにする為だった。

 

 

 

 

由紀「ねぇ、ほんとーに大丈夫?保健室いく?あっ…お休みの日でも保健の先生っているのかなぁ…?」

 

「あ~…本当に大丈夫なんで、お気になさらず…。ほら、とっとと掃除を終わらせよう…」

 

由紀「でも、休憩はもういいの?キミ、全然休んでないじゃん」

 

「うん、もう大丈夫…」

 

休憩していてもいいのだが、何かしていないとつい由紀の方へ目を向けてしまいそうになる。ならこうして掃除でもしていた方が邪念も払えそうだし、早いところこの仕事を終わらせたい。

 

 

 

 

(まさか由紀ちゃん相手にこんな苦労をするなんて……二人きりだからか?それとも、これがスクール水着の魔力(チカラ)ってやつか)

 

二人きりという状況…そして少し際どくも見えるスクール水着。この二つが合わさり、彼を惑わせているのだろう。二人きりじゃなかったら……もしくはこの学校のスクール水着がもう少し露出控えめだったら…彼も由紀にこんな気持ちを抱かなかったはず。

 

 

 

 

(この前までは由紀ちゃんの事を子供っぽい子供っぽいと思っていたけど、(あな)っていたな…。こうして見ると、由紀ちゃんも立派な女の人で……)

 

スクール水着越しにも分かる程よい大きさの胸…そしてスラッと伸びた細く綺麗な足。それらを見ていても彼女の女性らしさは分かるのだが、掃除中の彼女が時おりみせる、濡れた前髪を指先でかきわける仕草……それがやけに大人っぽく見えてしまい、胸がドキッとする。

 

 

 

 

由紀「……ん?どうかした~?」

 

「あ、いや…別に…」

 

彼女を見ていたら不意に目があってしまい、彼は咄嗟に目を逸らす。

なるべく彼女を見ないようにと決めたのに…気づけば見てしまうから恐ろしい。

 

 

 

 

由紀「…えへへ、あとすこしだよっ!がんばろーね♪」

 

邪魔な前髪をかきあげ、にこりと微笑む由紀…。所々は大人っぽく見える彼女だが、この曇りのない大きな目やその笑顔は本当に子供っぽく、純粋なものだった。

 

 

 

 

「…うん、がんばろうか」

 

こんな顔で笑う女の子を相手に邪な気持ちを抱いていた自分が情けなくなり、彼は今度こそは真面目にやろうと決意する。

 

 

 

 

そうなってからは早かった。二人はプールの中、まだ手のつけていなかった箇所をどんどん磨いていき、数十分後にはあらかた磨き終え、二人はデッキブラシを置いた。

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、こんなもんだろ」

 

由紀「おわった~~っ!よし、お疲れさまっ♪」

 

由紀は嬉しそうに微笑み、彼に右手の平を彼へ向ける。彼はその意味をすぐに理解すると自らも右手を上げ、彼女とハイタッチをした。

 

 

 

パァンッ!

 

 

気持ちの良いくらいに見事な音が鳴り、彼は満足して手を下げる。しかし隣を見ると由紀は自らの右手の平をふーふーと吹きながら、彼の方を涙目で見ていた。

 

 

 

 

 

由紀「いたいよ!もう少し優しくやってほしかった!!」

 

「あぁ、ごめんごめん」

 

由紀「…えへへ、じゃあ特別に許してあげよう♪」

 

えっへんと胸を張りながら、由紀は掃除を終えたプールの中へと戻る。今さら何をしようとしているのか…彼がそんな事を思いたたずんでいると、由紀は彼の事を手招きして誘い込んだ。

 

 

 

 

(ん?……まぁ、とりあえず行くか)

 

訳のわからぬままプールの中へと()り、由紀の隣に立つ。すると由紀はプールの隅の日陰になっている場所に背中をつけながら座り込み、小さくため息をついた。

 

 

 

由紀「めぐねえももう少しで来るだろうから、ここで休みながら待ってようよ。ここ涼しいよ~」

 

辺りは強い日差しが降り注いでいるためかなり暑いが、由紀のいる場所は日陰になっているし、先程も付近に水を撒いておいたので確かに涼しい。彼は短パンが少し濡れるくらいは仕方ないと覚悟を決め、彼女の隣に腰をおろした。

 

 

 

「…涼しい」

 

由紀「でしょっ?それにほら、目の前の水たまりをね…こうして足でパシャパシャ~ってやると気持ちいいよ」

 

二人の前にある水溜まり…由紀はそこに足を伸ばし、つま先でパシャパシャと音をたてる。その際に跳ねた水はたまに彼の足へとかかってきたが、暑さにまいっていた身体にはそれも心地よかった。

 

 

 

 

(どれ、やってみるか…)

 

彼も足を伸ばし、つま先を水溜まりにつける。水溜まりもギリギリの所で日陰に入っていたのでまだ冷たく、つま先で触れるだけでも心地良い。ただ、欲を言うならもう少し範囲が欲しかった。この水溜まりはあまり大きくない為、由紀とつま先がぶつかってしまう。

 

 

 

 

「…あ、ごめん」

 

自分のつま先が由紀のつま先に触れてしまい、彼は咄嗟に謝る。しかし由紀はまるで気にしていないようで、ヘラヘラと楽しそうに笑っていた。

 

 

 

由紀「ん~ん、だいじょーぶだよ♪」

 

「そっか、ならよかっ―――」

 

ピトッ…

 

 

 

「っ?」

 

彼女の笑顔を見て安堵した時、彼のつま先に何かが触れる。何かと思い目線をそこへ向けると、由紀が彼のつま先に自分のつま先を重ね、その足裏をイタズラに擦ってきていた。

 

 

 

 

由紀「えへへ~♪どう?つめたい?」

 

「まぁ…冷たいっちゃ冷たいかな…」

 

由紀「むー、なんかビミョーなリアクションだね…つまんないなぁ~」

 

彼のなんとも言えぬ反応に満足のいかなかった由紀はもう一方の足も彼のつま先に重ね、その顔色を(うかが)った。

 

 

 

 

由紀「両足でやったら冷たい?」

 

「いや、その…冷たいというか……」

 

正直に言うと…また良くない気持ちが彼の心に宿りかけていた。同級生の女子…その中でも可愛い方にあたる由紀が水着姿のまま、自分のつま先に自らのつま先を重ね、擦ってくるのだ…。これはさすがに我慢するのが難しい。

 

 

 

 

 

 

 

(狙ってやってる………訳ないか。由紀ちゃんはただじゃれあっているだけのつもりなんだろうが、つま先とはいえここまで密着されるとさすがにマズイ…。このままじゃ、また彼女に邪な気持ちをっ……!)

 

水溜まりに触れて濡れた自分の足を彼のつま先に擦り付け、由紀は楽しそうに微笑む。この曇りない笑顔を見るに彼女はただ遊んでいるだけのつもりなのだろうが、これだけ肌をくっつけられると彼の方が我慢出来なくなってくる…。あと数秒これが続いてしまえば、どうかなってしまうかも知れない…彼がそう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

由紀「…ねぇ?」

 

由紀はつま先を擦るのをやめて自らの膝を抱え、体操座りの姿勢をとる。彼女がつま先を離した事でどうにか理性を保てた彼がホッとしていると、由紀は空を見上げながらポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

由紀「今日…ほんとにありがとね」

 

「えっ?」

 

 

ポスッ…

 

言い終えた直後、由紀は隣に座る彼の肩にその頭を寄りかける。綺麗に晴れている雲一つない空の下、辺りではセミがミンミンとうるさく鳴く中……彼は自分に寄り添う彼女の事を横目で見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

由紀「キミが一緒にいてくれてよかった…一人だったら絶対つまんなかったもん…」

 

「そう…かもね」

 

 

 

 

由紀「……キミは、本当によかったの?せっかくのお休みなのに、一日ムダになっちゃったんだよ?」

 

「ムダにはなってない。由紀ちゃんと一緒に掃除するのも楽しかったし」

 

由紀「……………」

 

答える彼に対し、由紀の返事が戻ってこない…。彼が青い空を見上げながらセミ達の声……そして休日にも活動をしている運動部のものであろう遠くの掛け声に耳を澄ませていると……。

 

 

 

 

 

…ぎゅっ

 

由紀が無言のまま、そっと彼の左手を握ってきた。彼は何故急に手を握られたのかと戸惑いつつ、しっかりとそれを握り返す。小さな手、そしてその細い指の感触を確かめるようにしっかりと…。

 

 

 

 

 

由紀「わたしもね…すっごく楽しかったよ…」

 

由紀がこちらを見てにっこりと微笑むが、その表情はいつもと違う…。どこか照れたようにして微かに目を細めながら頬を赤く染めたその顔は子供っぽさなどまるで感じさせず、彼は目を丸くした。

 

 

 

「…………」

 

由紀(あれ……?わたしの胸、どきどきって…してるみたい)

 

手を握りあったまま彼に寄り添っているだけで、由紀は経験したことのない胸の高鳴りに襲われる。この気持ちが何なのか……それが分からぬまま、由紀は彼の手を一層強く握り、その顔と真っ正面から向かい合った。

 

 

 

 

由紀「あっ、あのねっ……わたしね………その…ね……」

 

「…なに?」

 

彼が小さな声で尋ねるが、由紀自身…自分が何を言おうとしているのか分からずにいた。ただ気がつけば彼の手を強く握り、何かを告げようとしていたのだ。

 

 

 

 

由紀「っ…とね……その……な、なんだっけな……」

 

言い出したのは自分なのに言葉が出ない。出そうとしている言葉が何なのかも分からない。由紀は目をキョロキョロと泳がす事しか出来ず、軽いパニックに陥りかけた。

 

 

 

 

…ガチャッ

 

 

由紀「あっ!」

 

「…お」

 

危うい所でプールの入り口の扉が開く音が聞こえ、由紀は思わずホッとする。扉の向こうから現れた一人の女性…『佐倉慈』は辺りを少し見回した後、プールの中で休む二人を発見してプールサイドから声をかけた。

 

 

 

 

 

慈「いたいた。その様子だと掃除は終わったのかしら?」

 

由紀「うっ、うんっ!終わったよ!」

 

慈に気づかれるより先に彼の手を離し、由紀はスッと立ち上がる。いつもの由紀ならこのまま手を繋いでいたところだが何故か今この時は慈に…他の人にそれを見られてはいけない気がした。

 

 

 

慈「そう、お疲れさまっ!!…あれ?丈槍さん、水着に着替えたの?」

 

由紀「うん!濡れちゃうからね~」

 

慈「用意が良いわね。あら、あなたは体操服のままね…。濡れちゃったでしょ?」

 

「ええ、まぁ。でも着替え持ってきてるんで平気です」

 

慈「ならよかったわ。じゃあ今日のところはこのくらいにして……二人とも、お腹って空いてる?私も仕事が終わったから、お昼くらいならご馳走してあげるけど」

 

由紀「ほんと?わ~い♪めぐねえ大好き~~♡」

 

慈「めぐねえじゃなくて佐倉先生ですっ!!ほら、支度しちゃってね」

 

 

 

 

慈に言われて彼と由紀はプールをあとにし、着替えを済ませてから学校を出た。その後、慈が約束通りに近所のレストランへと連れていってくれたので三人は昼食をそこで済ませ、そのまま解散したのだった…。

 

 

 

 

 

 




久しぶりに彼がかなり暴走しました…。
最近の本編などでは真面目なシーンが多かった彼ですが、元々はこんな一面もある人でしたね(汗)

由紀ちゃんの短パンの水気を絞って『由紀エキス』がどうとか言う場面はあまりにアレな感じなので載せるべきかとギリギリまで悩みましたが、面白そうなので載せることにしました(笑)

こんな変態っぽい一面もある主人公君ですが、これからも呆れることなく見守ってあげて下さいませm(__)m

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