軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回は由紀ちゃんとのイベントを終えたので、今回はみーくん編です!
このシナリオでは彼の飼い犬となっている『太郎丸』も登場するので、その辺りにもご注目してもらえればと!



前回までのあらすじ『彼もみんなと海に行ける事に!(日時未定)』


第十五話『止まない雨』(みき)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

ある休日の日…。彼は自宅の窓から外の景色を眺めていた。…といっても家は住宅街にあるので窓からの景色といっても見えるのは他の家だけ…しかも今日の天気は悪く、室内にいても雨音が聞こえるほどに激しい雨が降り注いでいた。

 

 

 

 

(雨…だいぶ強くなってきたな)

 

雨はつい一時間ほど前から降り始めたのだが、その時はまだポツポツとした小雨だった。しかし雨はみるみる勢いが増し、今は傘を持っていても外に出たくないレベルになっている。

 

 

 

 

(これ、今日中に()むのか…?)

 

少し不安を感じながら窓辺のカーテンを閉め、彼はくるっと振り向く。天気が悪いのもあり、まだ昼過ぎだというのに外は薄暗い…。なのでもう室内の明かりをつけてあるのだが、明かりに照らされている自分の部屋を彼はいつもよりほんの少し狭く感じた…。何故なら、今この部屋にいるのは彼だけではないからだ…。

 

 

 

 

 

 

 

美紀「……………」

 

彼は部屋にあるベットの上に腰かけ、室内を見回す…。普段は自分とその飼い犬である太郎丸しかいない空間に、今日は後輩の女子がいた。その後輩…直樹美紀はカーペットの上に正座しながら、目の前の小さなテーブルに三冊の本を置いて読書している…。

 

 

 

(…あの本を全部読み終えるのが先か、雨が止むのが先か)

 

もしかしたら、本を読み終えるのが先かも知れない…。それほどに雨の止む気配が無い。もしこのまま止まなかった場合はどうするかと頭を悩ませていると、美紀と共にこの部屋へ上がり込んで来たもう一人の後輩が彼に声をかける。

 

 

 

 

圭「あっ、先輩っ!このマンガ読んでも良いですか?」

 

もう一人の後輩…祠堂(しどう)(けい)が部屋にある本棚を眺めながら彼に尋ねる。彼が無言のまま首を縦に振ると彼女は一冊の漫画を手にしてニコニコと微笑み、美紀の隣へと座って読書を始めた。

 

 

 

 

 

(この雨、このまま止まなかったらどうするかな…)

 

二人に気付かれないよう小さくため息をつき、ベットに横たわる。

何故こんな状況になったのか。それは今から四十分ほど前の事だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

四十分前…。暇をもて余した彼は飼い犬である太郎丸を連れて近所を散歩していた。そしてその散歩も終盤に差し掛かりもうじき家につく…その時だった。突如雲行きが怪しくなり、ポツポツと雨が降り始める。

 

 

 

 

(雨?天気予報見てなかったから降るなんて知らなかった…。まぁ、もう少しで家だし構わないか)

 

太郎丸の首輪に繋いだリードを引きながら少しだけ歩くペースを上げる。雨は今のところ大した勢いではないが、のんびり歩いていたらさすがに濡れてしまうからだ。

 

 

 

 

「もう少しだから、がんばろう」

 

家まであとほんの二百メートルほど…。小さな四本足で自分の隣をトコトコと歩く太郎丸に声をかけ彼は進む。彼が歩くペースを上げると、太郎丸もそれに合わせて自分のペースを上げた。

 

そうして二人(正確には一人と一匹)は無事家へとたどり着く。ペースを上げたおかげか、体も大して濡れずに済んだ。

 

 

 

 

 

「よし、お疲れさん…」

 

太郎丸に一言告げ、家の中へ入ろうとしたその時だった。何故か太郎丸がリードを引いてもその場から動かない…。彼は負けじとリードを引くが、太郎丸は足に力を入れたまま道路の先をじっと見つめていた。

 

 

 

 

「おい…急にどうし――」

 

言いながら太郎丸の目線の先を見てみる…。するとそこには見覚えのある女の子が二人いて、彼の方へ駆け足で向かってきていた。

 

 

 

 

(あの二人……)

 

二人の格好が制服じゃなかったので一瞬判断が遅れる…。しかし徐々にこちらに寄ってくる二人の顔はよく知ったものであり、二人が目の前に来る頃には彼もそれぞれの名を呼んでいた。

 

 

 

 

「おっ、美紀さんと圭ちゃんじゃないですか」

 

美紀「先輩、こんにちは」

 

圭「こんにちは~…って、なんで美紀ちゃんだけさん付けなんですか?」

 

 

「後輩とは思えないくらい落ち着いてて優等生感があるから」

 

美紀「…意味がわかりません」

 

圭「はぁ~、なんとなく分かります」

 

美紀「いやいや…なんで分かるの?」

 

 

彼の発言にうんうんと頷く圭と、それを呆れた目で見つめる美紀。彼が聞くとどうやら二人は一緒に遊びに出掛けていたらしく、その途中で彼を見かけたからついてきたとの事だった。

 

 

 

 

 

 

美紀「ところで、その子は先輩の飼い犬ですか?」

 

「ええ、一応」

 

美紀「へぇ…名前はなんですか?」

 

「…太郎丸です」

 

美紀「太郎丸…?太郎丸……太郎丸…」

 

美紀はブツブツと呟きながら彼の隣にいる太郎丸を興味ありげに見つめる。美紀は少しの間太郎丸と見つめあった後にそっとその場にしゃがみ、太郎丸の頭へ手を伸ばした。

 

 

 

 

美紀「ほら、おいで…」

 

太郎丸「…ッ!!」

 

太郎丸は美紀の手を避けるようにして後ろに飛び退き、少し離れたところから彼女の事を見つめる。その様はどう見ても警戒しているようで、美紀は悲しげな顔をしながら立ち上がった。

 

 

 

 

美紀「っぐ…。どうしてだろ……」

 

圭「あらら…美紀ちゃん嫌われてる?」

 

美紀「違うよっ!たぶん、この子は人見知りしやすい子で――」

 

そう言って自分の気持ちを落ち着かせようとする美紀だったが、どうやら太郎丸は人見知りするタイプの犬ではないらしい…。何故なら、圭が先程の美紀のように手を伸ばすと太郎丸はそこへトコトコと歩み寄って彼女の手に顔をすり付けていたからだ。

 

 

 

美紀「な…っ…」

 

圭「あははっ、可愛い~っ♪」

 

寄ってきた太郎丸の頭を撫でながら満足げに微笑む圭と、それを横から妬ましそうな目で見つめる美紀…。彼は美紀のそんな表情を見て、自らの飼い犬の空気の読めなさっぷりに引いた…。

 

 

 

 

(頭くらい撫でさせてやれば良いのに…。うわ…また避けた……)

 

圭が太郎丸の頭を撫でる中、美紀もしれっと再チャレンジする。しかし太郎丸は何故か美紀の手だけをサッと避け、それからまた圭の方へと寄っていった。

 

 

 

 

美紀「…………そう言えば、ここって先輩の家ですか?」

 

避けられた事など気付いていない…そう言わんばかりに美紀はそばの家へと目線を移し彼に尋ねる。彼は美紀のそんな行動に苦笑いすると、圭のそばに寄る太郎丸を見つめながら答えた。

 

 

「はい。ちょうどコイツとの散歩から帰ってきたところです」

 

美紀「そういえば、先輩って一人暮らしでしたっけ…」

 

圭「へぇ~、じゃあ、もしよかったらお邪魔して良いですか?」

 

美紀「ちょっ…!?なに言ってるの!?」

 

足元にいた太郎丸を両手でひょいと抱き上げ、目をキラキラさせる圭…。しかしその一方、美紀は彼女を呆れた目で見つめていた。

 

 

 

 

圭「だって雨降ってきちゃったじゃん。私達傘とか持ってきてないし、雨が止むまでの間くらいならと思ったんだけど…」

 

「まぁ、こっちは別に構わないけど」

 

圭「ほら美紀ちゃんっ!先輩はこう言ってくれてるよ!」

 

 

美紀「って言ってもまだ雨宿りするほどの勢いじゃないし…だいたい、この雨すぐに止むの?」

 

圭「天気予報は今日雨が降るなんて言ってなかったから、今のこれも間違いで降ってるような雨でしょ?だからきっとすぐに止むって!」

 

美紀「間違いで降ってるような雨っていうのが意味不明なんだけど……まぁ、先輩が良いって言うなら…」

 

圭の言っている事はよく分からないが、確かにこの雨はすぐに止みそうだ。美紀はそう思っていたし、彼もそう思っていた。だからこそ彼は美紀達を家へと上げ、美紀達もそれに甘えたのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

二十分後……。

 

 

 

 

 

美紀「……圭はさっき何て言ったっけ?」

 

圭「えっと…この雨はすぐに止む…とか言ったかな…」

 

美紀「…うん、言ってたね。じゃあほら、もう一度外を見て…」

 

圭「は、はい……」

 

言い様のない美紀の圧力に気圧され、圭は彼の部屋の窓のカーテンをそっと開ける。実はこのカーテン…ついさっきも一度開けていたのだがその際にみた光景が信じられなくて、圭は現実から逃れるようにそのカーテンを閉めたのだ。

 

 

 

圭(もう一回見たら…外の光景が変わってたりしないかなぁ……)

 

あり得ないと分かりつつ、そんな事を願ってしまう。

次の瞬間にサッと開けたカーテンの向こう…その光景はやはりさっきと変わっておらず、圭は深いため息をつきながら恐る恐る美紀の方を見た。

 

 

 

圭「ど…どしゃ降りの大雨です……」

 

美紀「…うん。私からも見えてるから言わなくてもわかるよ」

 

圭「あはは…だよね」

 

その光景から目を逸らすようにカーテンを閉め、圭は美紀のそばへと寄る…。美紀は無表情のままカーペットの上に座り、何もない虚空を見て圭と目線を合わせなかった。

 

 

 

圭「最悪の場合はほら、先輩から傘借りよっ?先輩、傘借りていっても良いですか?」

 

「へっ…?あ、あぁ!全然良いよ!」

 

急に話を振られ一瞬戸惑ったものの、彼は圭にそう答える。雨が強くなっていた事に気付いてからは美紀の表情が険しくなっており、彼も慌て始めていた。

 

 

 

圭「ありがとうございます!ほら美紀ちゃんっ、いざとなればこれで帰れるよ!!」

 

美紀「圭……こんなに勢いのある雨の中、傘なんて意味がないって分かるでしょ…」

 

圭「………はい」

 

「…………」

 

外に降る雨の勢いはかなり凄まじく、台風でも来ているのかと言わんばかりの風も出てきている。確かに美紀の言う通り、外がこんな状態では傘なんて役にたたないだろう…。

 

 

 

 

圭「たぶんその内止むっていうか、勢いが弱くなるっていうか……要するになんとかなるだろうから!ねっ?元気だそうよ?」

 

美紀「…まぁ、私もこの家に上がる事に賛成しちゃった訳だし、これ以上圭を責めたり出来ないよね…」

 

圭「私、やっぱりさっきまで責められてたんだ…?」

 

美紀「今お昼をちょっと過ぎた辺り……運が良ければ夕方までには帰れるかな…」

 

部屋の壁にかけられた時計を眺め、美紀は持っていたバックから紙袋を取り出す。美紀はそこからいくつかの本を取り出した。どうやら今日買ってきたばかりのものらしい。

 

 

 

 

美紀「とりあえず、読書でもして時間潰す…」

 

圭「あ~、その本早く読みたいって言ってたもんね?良かったじゃん、読むタイミングが思っていたより早く出来て!」

 

美紀「…………」

 

元気よく告げる圭だがその言葉は美紀の心を少しだけ苛立てたらしく、美紀の目付きが鋭くなる…。圭はペコッと頭を下げて彼女の怒りを静めた後、部屋の隅で寝ていた太郎丸とじゃれあっていた。

 

 

 

 

圭「ほんとに可愛い……癒されるなぁ…」

 

圭がよると太郎丸は尻尾を振り、腹を見せながらゴロゴロと寝転ぶ。圭がその腹を撫でると太郎丸は嬉しそうにし、しゃがんでいる彼女の太ももへと顔をすり付けた。

 

 

 

圭「えへへっ♪なんだコイツは~♪」

 

ニコニコした表情で犬の腹部を撫でる少女と、それを嬉しそうに受ける犬…。一見すると微笑ましい光景だが、これを少し違った目で見ている彼の心は純粋とは言い難いものだった…。

 

 

 

 

(アイツ…圭ちゃんの太ももに顔すり付け過ぎだろ…)

 

太郎丸は腹を撫でられる度に体をくねらせ、尻尾をパタパタ振りながら頭を彼女の太ももへと寄せる。当然、太郎丸はただじゃれあっているだけなのだが…彼はそれをこの上なく羨ましく思っていた。…というのも圭は中々に整った顔の少女であり、そんな彼女は今わりと短めのスカートを履いている。彼はそこから伸びるスラッとした彼女の足に興味があった…。

 

 

 

 

(僕もあの太ももに頭をすり付けたい……とか一瞬思ってしまった。これはだいぶ末期だな…。少し気持ちを落ち着けて………って!あいつ今スカートの中覗いただろ!?)

 

当然そんな事はないし、覗いたとしてもそれは偶然だ。太郎丸は彼と違い、人間の女子のスカートの中身など気にしない。彼がそうして太郎丸の事を羨ましく思いながら時は更に二十分過ぎ、現在へと戻る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

彼は未だベットの上に腰掛け、激しい雨の降る窓の外と室内を交互に見回す…。ついさっきまで圭とじゃれていた太郎丸も今はまた部屋の隅で寝ており、美紀と圭はそれぞれ読書をしていた。

 

 

 

 

 

 

圭「…………」

 

美紀「…………」

 

 

 

 

 

部屋の中央に置かれた小さなテーブルの前に隣り合って座る二人の後輩をじっと見つめてみる…。先程は雨のせいで少し距離のあった二人だが、今はこうして隣あわせに座っているのだ…元々の仲はかなり良いのだろう。彼は二人の可愛い後輩を見つめた後にまた窓から外を見つめ、ある事を思った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(生まれ変わるなら……犬になりたい)

 

 

 

 

 

 

 





…………やってしまったなと思っています。



彼は一応主人公なのですが、太郎丸と圭ちゃんがじゃれ合う様を覗いている時の思考はかなり危なかったですよね。彼が自分も圭ちゃんの太ももに頭をすり付けたいとか思った時は完全に危ない人だなぁと思いました(他人事)終いには『犬になりたい』とか思っちゃってますし…。

まぁ彼がそう思ってしまう程に圭ちゃんの太ももが魅力的だったって事で、これからもこんな主人公にお付き合いいただければなと思っていますm(__)m


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