軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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第四話目です!

今回は彼がくるみちゃんとデート…ではなく、遊びに行く話です。
見ているだけでニヤニヤしてしまう展開にしていきたいところですが、中々むずかしいですね(>_<)



前回までのあらすじ『デートかと思ったらデートじゃないと言われた』


第四話『どこの世界に』(くるみ)

 

 

 

胡桃「でさ、どこいく?」

 

待ち合わせをしていた公園から出て早々、胡桃は少しだけ前屈みになり隣を歩く彼の顔を覗きこむ。せっかくの休日…出来るだけ楽しく過ごしたいところだが、彼は細かい予定を立ててはいなかった。

 

 

 

「さぁ…どこ行きたい?」

 

胡桃「決めてなかったのかよ!」

 

呆れたように言いながら、胡桃は顔をグイッと空に向ける。

そうして上を向いた胡桃だったが今日は見事に晴れている為日差しがキツいらしく、眩しそうに目を細めながらため息をついていた。胡桃も胡桃で彼が予定を立ててくると思い込んでいたため、何一つ考えてこなかったのだ。

 

 

 

胡桃「む~~~……」

 

上を向いたまま腕を組み、トコトコと歩く。

彼はそんな彼女の横を歩き、上を向いたままの彼女が何かにぶつからぬように周囲を警戒していた。

 

 

 

胡桃「とりあえず…街の方に行くか?賑やかなとこに行きゃなにかしらあるだろ」

 

上げていた顔をスッと下げ、彼を見つめる。

彼はその提案に賛同し、二人で街の方へと向かうことにした。

 

 

 

「んじゃ、のんびり行きますか…」

 

胡桃「ちょいまち……目がチカチカする」

 

「日差し強いのにずっと上見てるからでしょ…」

 

日影に立ち止まってから両目に手をあて、苦笑いする胡桃。

彼は呆れた表情をしながら、彼女の目が治るのを待った。

 

 

その後二~三分待ち、胡桃の目が元の調子に元に戻る。彼女はそばで待っていた彼に対して申し訳なさそうに笑いながら、共に街へと向かった。二人が待ち合わせをしていた場所から街の中心までは大して距離はないが、それでも徒歩だと二十分近くかかる…。

 

 

 

 

 

 

胡桃「そういや、腹減ってる?」

 

街の方へと歩く道中、胡桃が彼に尋ねる。

時刻は午前10時を少し過ぎたばかり…小腹はすいているが、昼食にするには少しだけ早い気もする…。

 

 

 

「微妙なとこッスかね…。胡桃ちゃんは?」

 

胡桃「あたしはついさっき食べてきたばかりだ!」

 

「なっ!?」

 

ドヤ顔をして答える胡桃だが、彼は驚きを隠せない。

女の子と二人きりでの外出…昼食を共にしたかったという気持ちも少なからずある。だが、胡桃が先程食事を済ませたばかりだというならそれは叶わない。彼女がよほどの大食いだというなら話は別だが…。

 

 

 

胡桃「あれ…ショックだったか?」

 

「…べつに」

 

期待していた出来事が一つ潰れて、彼の表情が微かに曇る。

すると胡桃は彼の背をバシッと叩き、ニンマリと笑った。

 

 

 

 

胡桃「冗談だって!食べてきてねぇよ。せっかくお前と二人で出掛けるんだ、当然だろ♪」

 

嬉しそうに歩きながらそう告げる胡桃を見た彼は安堵すると共に、一つの疑問を抱く…。『二人で出掛けるなら当然だ』という彼女の言葉には、どんな意味が込められているのだろう?ひょっとして…彼女も自分との外出を楽しみにしてくれていたのだろうか?そう思うと変に意識してしまい、笑顔の彼女を見ているだけでドキドキしてくる……。

 

 

 

 

「………」

 

胡桃「当然、奢ってくれるんだもんな?」

 

 

 

「………はぁ?」

 

一瞬、耳を疑った…。

つまり彼女は彼との食事が楽しみだったとかそういう気持ちは一切なく、奢ってもらう事を期待していたのだ。ガッカリして肩を落とす彼だったが、まぁ…これはこれで彼女らしい…そう思って前を向く。不思議なもので、先程彼女に抱いていたドキドキはどこかへと消えていた。

 

 

 

 

「あまり高いのはダメ。てきとーなヤツなら…まぁ奢ってあげるよ」

 

胡桃とのデート(胡桃はあくまでも遊びだと言っているが…)代だと思えば多少の出費は我慢できる。そう思って胡桃に告げる彼だったが、直後に彼女は自らの顔の前で右手を左右に振り、焦ったような表情をした。

 

 

 

胡桃「いやいやっ!?これも冗談だぞ?そんなマジに答えるなって。昼飯代くらい自分で出すよ」

 

『奢ってもらう』と言ったのは冗談だったのに、彼はまさかのOKを出した。胡桃はそれに焦り、先程の言葉を慌てて撤回する。だがいくら冗談だったと言っても一度は言ってしまった事なので、彼も引き下がらない。

 

 

 

 

「大丈夫。僕は金持ちではないけど、かといって貧乏人でもない。昼食代くらいなら全然出すよ」

 

胡桃「…………マジ?」

 

「うん。マジ。さっき貰ったジュースのお礼も兼ねてね」

 

胡桃「………じゃあ、ごちそうになります……」

 

ここまで言ってくれるなら断るのも悪いと思い、胡桃は歩きながらペコッと頭を下げる。彼はそれを見て満足そうに微笑み、二人で街へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

十五分後…二人はようやく街へと着く。

待ち合わせをしていた公園の付近と比べると人通りが多く、車も走っていた。周囲には大きめのビルやアパート、飲食店など様々な建物がある中、二人はある一つの建物の前で足を止めていた。

 

 

 

 

胡桃「昼飯にするには少しはやい…。とくれば、時間を潰さなきゃな」

 

「…ここで?」

 

胡桃「あれ、不満か?暇潰しにはもってこいの場所だと思うんだけどな…」

 

目の前にある建物を眺めながら胡桃が呟く。

まだ日が出ているからそれほどではないが、きっと暗くなった時には派手に光るのだろう…。それほどに多くの電球がその建物の看板には付けられていた。並べられた電球は『GAME』という大きな文字になっており、彼はそこをゲームセンターなのだと理解する。

 

 

 

 

胡桃「来たことない。とか言わないよな?」

 

彼が無言でゲームセンターを見つめていたので、もしやと胡桃は思う。

一般的な高校生…それも男子なら一度くらいは行ったことがあると思うが、彼は少し変わっている…。初ゲームセンターの可能性もなくはない。

 

 

 

「さすがに来たことくらいはあるけど、けっこう前の事だし…しかもその時も大して遊んでない」

 

胡桃「ふ~ん…ま、とりあえず入ってみようぜ。久しぶりだってなら、ゲームの進化っぷりに驚くかもな」

 

そんな事を言いながら二人で中へと入る。

入り口に寄った時から既に賑やかな音が耳に入っていたが、自動ドアが開いて中へと踏み込むとその音はより一層賑やかになる。まぁ…悪く言えば騒がしくもあるが。

 

 

 

様々な筐体(きょうたい)が置かれている店内はそこそこ人も多く、自分達と同い年くらいであろう若者から、中年の男性客までいる。皆それぞれが好きなゲームで遊ぶ中、彼と胡桃もプレイするゲームを決めるべく店内をぶらついた。

 

 

 

 

胡桃「なにしたい?」

 

「あ~…任せる」

 

アーケードゲーム・クレーンゲーム・コインゲーム…その他にも色々なゲームがあるが、こう種類が多いと決めるのも難しい…。なので仕方なく胡桃に選択を任せると、彼女はそばにあったクレーンゲームへと歩み寄った。

 

 

 

 

胡桃「んじゃあ…これかな」

 

彼もそばに歩み寄り、ガラス越しに置かれている景品を確認する。

中には動物を模した可愛らしいぬいぐるみ達が乱雑に置かれており、それを見る胡桃の目がキラキラと輝いていた。

 

少し男っぽいところもある彼女だが、それでも根は乙女。やはりこういった可愛らしいグッズには惹かれるのだろう。彼女は自らの財布を取り出してゲームを始めようとしたが、彼がそれを手で制して言った。

 

 

 

 

「大丈夫…僕に任せて」

 

胡桃「マジ?こういうの得意なの?」

 

自分の財布を取り出し、自信ありげな表情を見せる彼…。

胡桃はそんな彼を信じることにして、出していた財布をそっとしまった。

 

 

 

 

…チャリンッ

 

彼は自らの財布からコインを取りだし、それを投入する。

胡桃が無言で見つめる中、彼は集中してクレーンを操っていき、移動を終えたクレーンは下にあるぬいぐるみ目掛けゆっくりと下降していった…。

 

 

 

 

「………」

 

胡桃「………」

 

二人が無言で見守る中、クレーンが犬を模したぬいぐるみの腹部を掴む。

一見狙いは悪くないように見えたが、彼が思っていたよりもクレーンの力は強くなかった…。クレーンはぬいぐるみを撫でるようにして上がっていくだけで、掴みあげる気配など見せない。

 

 

 

 

「なっ!?今のでダメなのか!!?」

 

胡桃「まぁ、こんなもんだろ。意外とムズいんだよ…」

 

「ちっ…手強いヤツだな」

 

そう言いながらも、彼はまたコインを投入していく…。

彼の集中力を切らさないようにと黙ってそれを見ていた胡桃だったが……。

 

 

 

 

 

…チャリンッ

 

「……だめか。よし、もう一回」

 

 

 

 

…チャリンッ

 

「…くそっ。でも、コツは掴めてきた」

 

 

 

 

…チャリンッ

 

「…次だ、次で仕留める」

 

 

 

 

胡桃「お…おい……」

 

彼女の表情は次第に曇っていった。幾度クレーンを操り、何度失敗しても…彼がコインの投入を止めようとしないからだ。彼の使った金額は既に2000円を越えているだろう…。

 

 

 

胡桃「もう諦めた方がよくないか?これ、たぶん無理だよ」

 

「くっ!!次こそ…次こそ取れそうな気がするんだっ!」

 

彼が財布に手を伸ばすのを止める胡桃だが、彼の目は鋭いまま…。自分が負ける等とは微塵も思っていない表情だった。とりあえず警告はしたので、胡桃は呆れた表情をしながら離れる。

 

 

 

胡桃「あたしはちょっとトイレ行ってくるけど、あまり無理すんなよ?ただでさえ昼飯奢るって約束してんのに…」

 

「んん…わかった……」

 

店内のトイレに向かう胡桃に返事を返し、彼はまたコインを投入する。

だがその後も失敗が続き、さすがの彼も諦めてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

(厳しい…これがゲームセンターってやつか…)

 

ため息をつきながら店内を見回し、胡桃を待つ…。

すると先程のクレーンゲームのすぐそばに一つ、かなりサイズの小さなクレーンゲームがあることに気づく。彼はそのそばに寄り、そっと財布を取り出した。

 

こっちのクレーンゲームは先程のとは台の大きさからクレーンの大きさ…景品の大きさまでもかなりスケールダウンしている。中にある景品はよく分からない小さなキーホルダーばかりで可愛いとは言い難いが、一度くらい景品を掴みとってみたかった。

 

 

 

(ぬいぐるみは無理でも、これくらいなら…)

 

取り出したコインに想いを込め、投入する…。

すると何とも言えないBGMが台から鳴り出し、手元のレバーを倒すとそれに合わせてクレーンが動き出した。

 

 

(狙うのは……"アレ"でいいか)

 

一つの景品に狙いをさだめ、クレーンを降ろす。

狙いは悪くないが、どうせまたダメだろう…。そう諦めかける彼の予想に反し、クレーンのアームには狙った景品が引っかかっていた。

 

 

 

「…おっ!?」

 

思わず声が漏れる…。アームに引っかかった景品は途中で落ちたりする事はなく、開口部の上までしっかりと運ばれていった。彼が期待の眼差しを向ける中でそのアームがゆっくりと開き、景品は見事に開口部へと落ちていく。彼はすかさず取り出し口に手を入れ、それを獲得した。

 

 

 

「ようやく…!ようやくだ…!!」

 

手に入れたのは小さなキーホルダーだが、それでも喜びが大きい…。

彼が初めての勝利を噛み締めていると、トイレから戻った胡桃が彼の肩を背後から叩いた。

 

 

 

胡桃「さっきのは諦めたか?」

 

「うん」

 

胡桃「それがいい。あのままじゃお前、全財産使いそうだったし」

 

否定できず、苦笑いする彼…。

確かにかなりの金額を使ってしまったが、それでも手ぶらで終わりはしなかっただけマシだろう。彼は目の前で笑う胡桃の手を掴み、たった今手に入れたばかりの景品を渡した。

 

 

 

 

胡桃「んっ、なに?」

 

「さっきのは諦めたけど、他のは取れた。それ、胡桃ちゃんにあげるよ」

 

胡桃「へぇ、ありが………って、何これ?」

 

手渡されたキーホルダーを見つめながら、胡桃は眉を寄せる。

およそ10cmほどしかないそのキーホルダー…何を模した物なのかと気になったが、細長い棒の先に平らな金属の付けられたこれはどう見ても……。

 

 

 

 

 

 

「シャベルだね。シャベルのキーホルダー…」

 

胡桃「なんでシャベルなんだよ…。これ作ったやつマニアック過ぎだろ…」

 

「おや?嬉しくない?」

 

胡桃「どこの世界にシャベルのキーホルダー貰って喜ぶ女子高生がいるんだよ。お前のセンスを疑うぞ…」

 

言われてから気付いたが、それもそうだ…。普通の女子なら、シャベルのキーホルダーなど貰っても嬉しくはないだろう。だがこのキーホルダーを一目見たとき、彼は何故かこのキーホルダーを胡桃にプレゼントしたくなった…。

 

 

 

 

「ああ…ごめん。もっと良いのが取れれば良かったんだけどね」

 

変な物を渡してしまったと思った彼は手を差し出し、それを返してもらおうと考える。だが胡桃は彼が手を出しているのには気づいておらず、自分の財布の端にそのキーホルダーを付けている最中だった。

 

 

 

 

胡桃「……よしっ♪」

 

「それ…付けるの?」

 

胡桃「うん。お前がせっかくくれたんだし、ありがたく貰っておくよ」

 

胡桃は財布を掲げると、その端で揺れるキーホルダーを見て嬉しそうに微笑む。その笑顔は無理しているようではなく、本当に嬉しそうな笑顔だった。

 

 

 

 

胡桃「さっきはああ言ったけど…あたし、シャベル好きだし」

 

「そうなの?変わってるね……」

 

シャベルが好きだと言う女子など聞いたことがなく、彼が苦笑いする。

だが胡桃は胡桃で自分でもなぜシャベルを気に入っているのか分かってないらしく、不思議そうな表情をしていた、

 

 

 

 

胡桃「変わってる…よな。好きな理由は特にないんだけどさ…なんかこう……落ち着くっていうのかな。このキーホルダー見てたら、急にそんな気がしてきたんだ…」

 

「…そっか。まぁ、喜んでもらえたなら何より」

 

胡桃「うん……ありがとな♪」

 

 

ポケットに財布をしまい、ニッコリと微笑む胡桃…。

また別のゲームを探しに向かう彼女はどこか上機嫌に思える歩き方をしており、ポケットからはみ出したキーホルダーのシャベルを揺らしていた。

 

 

 

 

 

 




予め説明しておきますと、このシナリオの登場人物達の多くは本編の記憶を少~しだけ、ぼんやりとですが引き継いでいます。今回、彼が胡桃ちゃんに『シャベルのキーホルダー』をプレゼントしたのも、本編の記憶がぼんやりと引き継がれているからこその行動ですね。

彼もハッキリ記憶している訳ではありませんが、『なんとなく、胡桃ちゃんといえばシャベルな気がする…』というような感覚なのだと思います。

こうして少しでも本編の記憶を引き継がせることによって、彼とヒロイン達の友好度が最初からある程度高めに設定できるのです!!(強くてニューゲームな感じですね)


これからもチラホラ本編の世界に関するネタが出てくると思うので、その辺りにもご期待下さいm(__)m

そして本編では彼との絡みが一切なかったあの人達も、後日登場予定です!
その辺にもご注目を!!

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