軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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学園生活部+彼、そして狭山真冬…。
このメンバーがファンタジーな世界に訪れたら?というコンセプトで始まったお話、その二話目ですっ!

この世界での学園生活部は『きららファンタジア』での衣装と同じ物を身に纏っており、そのあまりの過激さに主人公…彼が気絶して終わったのが前回となっています(苦笑)

今回は少しばかり文字数が多くなってしまいました(汗)
相変わらず見辛いと思いますが、ゆっくりご覧くださいm(__)m


第二話『ちから』

 

 

 

 

「わるい…皆の格好があまりに魅力的で……」

 

真冬「まぁ、露出は多いよね…」

 

目覚めた彼は村の木陰に座り、改めて彼女達の格好を見回す。美紀や悠里の格好も中々に刺激的なのだが、やはり胡桃と由紀は別格だった。

 

 

 

 

「…由紀ちゃん、ちょっと前屈みになってみて」

 

由紀「えっ?こうかな?」

 

悠里「ちょっ!?ダメよ由紀ちゃんっ!!」

 

美紀「先輩っ!何やらせてるんですかっ!!」

 

由紀は彼の前に立ち、前屈みになりかけるが、それは途中で悠里・美紀によって阻止された。彼が何故由紀にそんな事を命じたのか、その全てを読んでいたからだ。

 

 

 

 

(ちっ…もう少しだったんだけどな…)

 

胡桃「お前、マジで最低だな…」

 

胡桃は一人だけ離れた場所に座り、彼の事を冷めた目で見つめボソッと呟く。彼に出来るだけ自分の格好を見せたくないから離れた場所に座っていた胡桃だが、彼は直後そのそばへと歩み寄ってきた。

 

 

 

 

胡桃「うわっ!?ストップ!もう来るなっ!!」

 

「そんなに嫌がらなくても…一応、着るもんは着てるんでしょ?」

 

胡桃「そうだけどっ…!」

 

いくら言っても彼は止まらず、遂に胡桃の隣へと腰を下ろす。思わずサッと顔をうつむける胡桃だが、彼が自分の胸や腹や足…そのどこかをジロジロと見ている気がして、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。

 

 

 

 

胡桃「ぅ…ぅ…元の世界に帰りたい……」

 

「つってもねぇ…帰り方も分からないしねぇ…」

 

刺激的な衣装に身を包む胡桃を横目で眺めつつ、元の世界に戻る方法を考える。しかしながら、ここは"かれら"もいなくて、彼女達がこんなに素晴らしい格好を見せる世界だ。そもそも帰る必要がないのでは?彼がそんな事を思った時、真冬がしれっと凄い事を言った。

 

 

 

 

 

真冬「えっ?いつでも帰れるよ?」

 

「はっ…?」

 

胡桃「えっ?」

 

美紀「か、帰れるの…?」

 

全員がその言葉に驚き、真冬の事を見つめる。彼女がその首を縦に振るのを見た悠里は目を丸くして、自分が気になったいくつかの事を尋ねた。

 

 

 

 

悠里「いつでも…なの?」

 

真冬「うん、いつでも」

 

 

悠里「どうやれば帰れるの?」

 

真冬「この前、離れた空間と空間を繋ぐ魔法を覚えたの。だからボクがこれをパッと使えば…」

 

そう言って真冬は右手をかざし、それをさっと振る。すると目の前の空間がバチバチと激しい音を発てて歪み、そこに二メートル四方の穴が開いた。その穴の向こうに見えたのは見慣れた部屋の風景であり、一行は驚きの声をあげる。

 

 

 

 

由紀「すっ、すごいっ!真冬ちゃん、魔法使いみたいだよ!!」

 

真冬「みたいじゃなく…魔法使いなの」

 

悠里「この穴の先って、あの屋敷の部屋よね?」

 

美紀「凄い…本当に向こうと繋がってるんだ」

 

「大魔法使いってのは伊達じゃなかったのか…」

 

 

それぞれがいい反応を見せていたので、真冬は自慢気にニヤリと笑う。そんな中、すぐに帰れると分かった胡桃は安堵のため息をついていた。

 

 

 

 

 

胡桃「はぁ…よかった。じゃあ、さっそく帰ろうぜ」

 

真冬「ダメ…」

 

シュッと右手を振り、真冬が呟く。すると向こうの世界に続いていた穴は一瞬で消えてしまい、胡桃は驚きに目を見開いていた。

 

 

 

 

 

 

胡桃「今、わざと消したのか?」

 

真冬「うん…」

 

胡桃「どうして?」

 

真冬「まだ帰りたくないもん…」

 

そっと呟き、真冬はそのまま木陰へと座りこむ。その子供のような行動に胡桃は苦笑いしつつ、自分も彼女の隣へと座った。

 

 

 

 

 

 

胡桃「…なんで帰りたくないんだ?」

 

真冬「せっかく来たんだし…どうせなら魔王倒して帰ろうよ…」

 

胡桃「そんな、美味しい店が近くにあるからちょっと寄っていこうみたいなノリで言われても…」

 

真冬から聞いた話では、この世界の魔王的存在である(ほむら)の王というのはかなり危険な存在だと言う。奴を倒さなければ帰れないとかならともかく、今すぐ帰れるのにわざわざそれとやり合いたいという真冬の考えが分からない。

 

 

 

 

胡桃「そいつ、危ないヤツなんだろ?」

 

真冬「ボクがいれば大丈夫だもん…」

 

胡桃「どうしてそう言い切れる?」

 

真冬「……大魔法使いだから」

 

 

胡桃(まいったな、ダメだこりゃ……)

 

はぁ…とため息をつき、胡桃は立ち上がる。真冬はこの場にいる誰よりも長くこの世界にいたおかげで力を身に付けているようだが、かといって魔王などと戦うのは気が引けた。

 

 

 

胡桃「…どうする?真冬はやる気満々みたいだけど」

 

悠里「でも、その焔の王ってこの世界の王様達が止められなかったような人なんでしょう?いくら彼女が優れた魔法使いだと言っても、私達は戦えないからねぇ…」

 

「いや…胡桃ちゃんがシャベルを振り回せば、あるいは…」

 

胡桃「シャベルで倒せる魔王がいるかよ…。そもそも、シャベルはこの世界に持ってこれてないみたいだしな」

 

この世界に慣れている真冬とは違い、自分達はまだ話にもついていけてない。こんな状態では魔王はおろか、村の外にいるという魔物とすら戦いたくないのだが…。その時、由紀が口を開いた。

 

 

 

 

由紀「でもさ、この世界の人は困ってるんだよね?」

 

悠里「…みたいね」

 

由紀「なら助けてあげようよ。大丈夫っ!わたし達には真冬ちゃんがいるんだから!ねっ、そうでしょ?」

 

由紀は真冬のそばに歩みより、ニッコリと微笑みながら手を差し伸べる。真冬はその笑顔に応えるようにして微笑んでからその手をとり、そっと立ち上がった。

 

 

 

 

真冬「うん、皆の事はボクが守るし、それに戦っていればみんなもすぐに―――」

 

立ち上がった真冬はそれぞれの顔を見回し、あることに気がつく。それは、この世界での経験を積んできた彼女だからこそ気付けた事だった…。しかしそれはどう考えてもあり得ない事であり、真冬は目を丸くしたまま立ち尽くす。

 

 

 

美紀「真冬、どうしたの?」

 

彼女の事を心配に思い、彼女の肩を揺さぶる美紀…。すると真冬はその口を静かに開き、自分が気付いた事を全員に告げた。

 

 

 

 

真冬「由紀も悠里も、胡桃も美紀も…ある程度の魔力が身に付いてる…。さっきこの世界に来たばかりなのに、どうして……」

 

美紀「?…それって凄いことなの?」

 

真冬「凄いことというか、あり得ないこと…」

 

次の瞬間、真冬は両手を彼女達四人の方へとかかげ、少ししてからその両手を胸の前で合わせる。そうしてから一気にその両手を広げると…

 

 

ブンッ…!!

 

 

 

胡桃「うぉっ!?なんだこれっ!!?」

 

悠里「っ!?」

 

突如、彼女達四人の足元に青白い魔方陣のような物が浮かび上がる。不思議に思った彼は真冬の方へ目線を向け、そして驚く。両手を広げながらその場に立つ彼女の目が真っ赤に光っていたのだ。

 

 

 

 

「真冬ちゃん、何を…」

 

真冬「…女神……聖典…?………そういうことか…」

 

ポツリと呟き、真冬は広げていた両手を下ろす。すると彼女達の足元にあった魔方陣がスッと消え、真冬の目の色も元の黒へと戻っていた。

 

 

 

 

由紀「今の…きれいだったね!」

 

美紀「綺麗には綺麗でしたけど…でも…」

 

いきなり出された魔方陣は確かに綺麗な光を放っていたが、何の為の物だったのだろう…。美紀がそれを不安に思っていたのを表情から感じ取ったのか、真冬は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

 

真冬「いきなりごめんね…。この世界に来たばかりの君達に何故これほどの魔力があるのか、少し調べてたの」

 

悠里「そんな事もできるの?」

 

真冬「うん、ボクは大魔法使いだからね…」

 

自慢気に微笑み、真冬は語る。この世界に来たばかりの彼女達に何故、ある程度の力が備わっているのか…その理由を…。

 

 

 

 

 

 

真冬「簡単に言うと、君達はこことは別の世界にも呼ばれた事があるみたい」

 

由紀「こことは別の世界?」

 

胡桃「いやいやっ、こんな経験したのは今回が初だぞ?」

 

真冬「たぶん、元の世界に戻る時にその世界の記憶を失うようになっていたんだと思う。"エトワリア"っていう世界に聞き覚えは?」

 

美紀「…いや、知らない」

 

先程の魔法で彼女達の体を探った際に知ったその言葉を告げる真冬だが、彼女達は皆首を傾げていた。どうやら、そのエトワリアという世界に関する記憶を失っているらしい。

 

 

 

 

 

真冬「君達はみんなそのエトワリアって世界に召喚された事があって、その時に身に付けた力をこの世界でも引き継いでいるみたい。エトワリアもここと似たような魔法のある世界だったのかもね…。因みに、衣装もその時に着てたやつを引き継いだみたいだよ」

 

悠里「それ確かなの?全然心当たりがないけど…」

 

真冬「うん。そうじゃなきゃ君達の力に説明がつかないもん…」

 

真冬はこう言っているが、彼女達は今一つ理解出来なかった。そもそも、彼女の言う"力"というものに対しての実感がないのだ。

 

 

 

 

胡桃「ええと…つまり、あたしらは今の真冬と同じくらい強いの?」

 

真冬「そこまでではない。分かりやすくゲームに例えるとボクがレベル50くらいで、胡桃達は20~30前後」

 

胡桃「おおっ!分かりやすい例えだな!」

 

美紀「…それって凄いんですか?」

 

悠里「さ、さぁ…?」

 

胡桃や由紀、そして彼はその説明に納得したようだが、美紀と悠里はまだ良く分かっていない。真冬はそんな二人にも分かるよう、更に説明を続けた。

 

 

 

 

 

真冬「凄いことだよ。RPGゲームなんてのは大体レベル1から始まるのに、君達はいきなり二桁だもん。結構先の村まで負ける事なくサクサク進めると思う」

 

美紀「へぇ……」

 

真冬「もっと喜びなよ。彼なんて一人だけレベル1からのスタートなんだから」

 

「……はっ?」

 

微妙な表情を見せる美紀を喜ばせるべく、しれっと告げられた真冬の言葉…それは彼にとっては結構重要な発言であり、彼は慌てた様子で真冬の肩を掴んだ。

 

 

 

 

「ちょっと待った。なんで僕だけレベル1スタートなんだ?」

 

真冬「えっ?だって、君はこういう世界が初めてだから…」

 

「いや…みんな記憶を失っているだけであって、エトワリアってとこに呼ばれた事があるってさっき言ってたでしょ?」

 

真冬「ああ…そこ、キミは呼ばれてないから」

 

「っ!?なんでっ!?」

 

真冬の肩をより強く掴み、真正面から声を大にして尋ねる。彼女達が呼ばれているなら自分だって……彼はそう思っていたが、それは大きな間違いだった。

 

 

 

 

 

真冬「エトワリアに呼ばれたのは彼女達だけであって、キミとボクは呼ばれてないよ」

 

「いや、だからなんでさ!?」

 

真冬「あの世界に呼ばれるのはその世界の女神が記した"聖典"に登場するごく僅かな人間のみなの。…で、ボクとキミはその聖典に載ってない人物。だから呼ばれなかった…。どう?これで分かった?」

 

肩を掴む彼の手を離しつつ、冷静な口調でそれを告げる。しかしそれでも、彼は納得しなかったようで…

 

 

 

 

 

「その…聖典だっけ?由紀ちゃん達はそれに載ってるんだとして、なんで僕らだけ載ってないんだろうな…。そこが納得出来ん」

 

真冬「正確に言うと、ボクとキミも載っているといえば載っている。ただ、ボクらが載っているのは聖典の"切れ端"。女神様が聖典を記した際、同時に生まれた物で…今はどこぞへと封印されてるみたい」

 

「…マジか」

 

美紀「どうして、そこまで分かるの?」

 

真冬「さっき皆の体に宿る力を探った時、そのエトワリアって世界についても魔法で調べ、瞬時にそれを把握した。……すごいでしょ?」

 

悠里「ほんと、狭山さんの魔法は何でもありね…」

 

由紀達が他の世界へ呼ばれたことがあるということ…そしてその世界の細かな事情…それらをすぐに調べあげた真冬の魔法に驚く悠里の顔を見て、真冬はまたしても自慢げに笑った。

 

 

 

 

 

真冬「他にも色々出来るから…この世界では、元の世界以上にみんなを守ってあげられると思うよ」

 

胡桃「元の世界でもかなり頑張ってくれてるけどな、お前は…」

 

「一人だけレベル1スタートか…キッツいな…」

 

真冬「レベル1っていうのはあくまでも例えだから、そこまで気にしなくても大丈夫だよ…。キミは元々運動能力が高いから、目に見えて足を引っ張るような事はないと思う」

 

落ち込む彼の肩を叩き、真冬は笑顔を見せる。確かに魔法や魔力の上手い使い方をまるで知らないのは痛いかもしれないが、彼の事だ…きっとすぐに感覚を掴むだろう。

 

 

 

 

 

「じゃああれだ…魔王退治はともかく、先に魔物を見ておこう。この世界の魔法だの、魔力だのを知るには実戦するのが一番だったりするでしょ?」

 

真冬「うん、そうだね…。じゃあいこっか…」

 

ニコッと微笑む真冬に案内され、一行は自分らがいた村の外に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして入ったのは村の近くにあった一つの森…。この森にある木はどれも元の世界のより大きなものばかりで、それらの隙間から漏れる木漏れ日はとても幻想的だ。

 

 

 

…が、それを見ている余裕があったのは一時のみ。彼女達は森に入ってすぐ、何者かに辺りを包囲されてしまったのだ。彼女達を囲んで追い詰めたそれは木の裏、茂みの中から次々と現れる…。その姿は一メートル程の、小さな………

 

 

 

 

「こいつら…鬼?」

 

真冬「せーかい。この世界の人々には"森の小人"と呼ばれているけど、種族としては鬼神族…つまり鬼に分類されてるね」

 

胡桃「鬼神って…もしかして、めちゃくちゃ強いのか?」

 

真冬「個々の力は弱いけど…ちょっと数が多い」

 

辺りを囲む小さな者達の肌はどれも赤黒く染まっており、頭には真っ黒な角が生えている。その小鬼たちの数はざっと見た限りでも二十を越えており、胡桃と美紀、そして悠里の額を冷や汗が伝った。

 

 

 

 

悠里「私たちがいるのって…本当に魔物のいる世界なのね…」

 

美紀「みたいですね、この生き物達を見て私も実感しましたよ…。それより真冬、私達…まだ魔法の使い方も知らないし、武器と呼べる物も―――」

 

 

『グァ…ッ!!』

 

悠里「っ…!美紀さんっ!!」

 

美紀「あっ…!?」

 

真冬に話しかけているのもお構い無しに一匹の小鬼が飛び上がり、美紀に狙いを定める。武器も持っておらず、ましてや魔法の使い方も知らぬ彼女はそれに驚き、両手で頭を守る事しか出来なかったが…

 

 

 

ヒュッ!!

 

美紀「っ!?」

 

突如、美紀の後方から真っ赤に輝く光の玉が飛ぶ。それは彼女の頭上を通っていくと飛び掛かってきた小鬼へとぶつかり、ピカッと(まばゆ)い閃光を放った。

 

 

 

『…ッッ!!!』

 

ドカッ!!

 

それをまともに受けた小鬼は勢いよく弾き飛ばされ、先にあった一本の木に激しく背を打つ。その小鬼はぶつかった木に身体をめり込ませたまま、ピクリとも動かなくなった…。

 

 

 

美紀「今の…なに…?」

 

後方から飛んできたその玉に助けられた美紀は冷や汗を流しつつ、そっと背後に振り返る。そこに立っていたのは、宙に右手をかざしたままニッコリと微笑む魔法使い…真冬だった。

 

 

 

真冬「鬼さんたち…女の子の会話を邪魔しちゃダメだよ?」

 

『グ…ァァッ…!!』

 

一体とはいえ仲間がやられたからなのか…はたまた、底知れぬ力を感じ取ったのか…。笑顔の真冬を前に、辺りを囲んでいた小鬼達が少しずつ後ずさりしていく。

 

 

 

胡桃「すげぇ…今のも魔法か?」

 

真冬「うん…すっごく低レベルなやつだけどね」

 

「それをくらったあの鬼は一発でダウンしたわけだけど…」

 

真冬「この子たち弱いからね…。あっ、美紀…それにみんなも聞いて。君たちの武器だけど、たぶん…頭で念じれば出てくるよ」

 

美紀「念じればって言われても…」

 

真冬は軽いノリで言っているが、そう簡単にいくとは思えない…。念じれば武器が出てくるなどと言われても、どのように念じれば良いかが分からないのだから…。

 

 

 

 

由紀「え、え~っと……でろ~…でろ~」

 

まず、一番最初にそれを実践したのは由紀だった。右手を宙にかざしながら眉をしかめ、彼女はブツブツと呟く……。それをそばで見ていた彼や胡桃、美紀と悠里は苦笑いしていたが……

 

 

 

シュイン…ッ

 

由紀「わぁぁっ!?すごいっ!杖がでたよっ!!」

 

何も無かったはずの空間から一本の杖が現れ、由紀の右手に収まる。木で出来たその杖はRPGゲームなどで魔法使いが持っているような物に良く似ていたが、そんな事はどうでも良い。重要なのは…本当に武器が現れたということだ。

 

 

 

胡桃「マジで出しやがった……」

 

真冬「だから言ったでしょ…念じるだけでいいって」

 

美紀「じゃ…じゃあ私も………」

 

皆、真冬の言葉に対して半信半疑だったが、由紀が杖を出現させた事で状況が変わった。彼女達は真冬の言葉が真実だったと知り、宙に手をかざしながら…強く念じる。すると先程の由紀と同様、何もない空間に光が集まり、それぞれの手元に武器が現れた。

 

 

 

シュインッ…!

 

美紀「っ…!?」

 

「これは…」

 

美紀の右手に現れたのは由紀の持っているような杖ではなく、騎士が持っていそうな剣…。また、彼女の元に現れた装備はそれだけでなく…左腕には頑丈そうな銀の盾がついていた。

 

一方、彼の手に現れたのは美紀の物よりも一回り大きな大剣…。一メートルと数十センチはあろう銀色の剣は片手で持つには重そうだが、意外にも彼はそれを片手で持ったままじっと見つめていた。

 

 

 

「…いいね、ゲームっぽい」

 

美紀「先輩…結構楽しんでません?」

 

現れた剣を見つめる彼の表情は楽しげで、美紀は呆れたようにため息をつく。確かに武器が現れた瞬間はテンションが上がりかけたが、それでも今、敵に囲まれているこの状況を楽しむ気にはなれない…。

 

 

 

 

胡桃「おっ!?あたしの武器はこれかっ!」

 

「…こんな世界でもシャベルか」

 

彼がチラッと目線を向けると、横では元の世界のと同じシャベルを手にニコニコと微笑む胡桃の姿が…。もしかしたらとは思っていたが、本当にシャベルを呼ぶとは……。異世界で相棒との再開を喜ぶ胡桃を見た彼が苦笑いする一方、悠里は真冬のそばに歩み寄って困ったような顔をしていた。

 

 

 

 

 

悠里「あの…私、武器を上手く出せないんだけど…」

 

真冬「えっ…?あぁ…たぶんだけど、悠里はボクと同じで魔法をメインとするタイプなのかも。あとで魔法の使い方を教えてあげるから、今は一先ず下がってて」

 

悠里「あら、役に立てなくて残念…」

 

真冬が言うには、悠里も魔法を主とした戦い方をするタイプのようだ。どうやら魔法使いには剣などの目に見えた武器はないようで、悠里だけが武器を出せなかったのもそれが理由らしい。

 

 

 

 

胡桃「さてさてっ!真冬っ、これからは普通に暴れればいいのか?」

 

シャベルをクルクルと回した後、胡桃はそれをパシッと手に収める。少しばかりテンションが上がったのか、彼女はどこか好戦的なように見えた。真冬はそんな胡桃、そして彼を順に見つめ、自らも一歩前に出る。

 

 

 

 

真冬「うん…胡桃とキミは魔法よりも物理攻撃が得意なタイプだから、前に出てあの子たちと直接やり合って構わない…。美紀は二人ほど攻めず、盾での防御も意識してバランスをとった戦い方をして。そして、由紀は杖の形状を見るに回復魔法を扱うタイプだから…」

 

由紀「回復っ?それってあれでしょ、痛いのを治す魔法だよね?」

 

真冬「あ~…うん、簡単に言うとそう。これについてもまたあとで教えるから、悠里と一緒にボクの後ろで見学してて」

 

由紀「う~ん…まぁ、いきなり戦うのもちょっとだけ怖いもんね…」

 

持っていた杖をギュッと抱き、由紀は真冬の背後に回る。そうして真冬は由紀、悠里の二人を自分の背後に立たせたまま、目の前の光景を見てニヤリと微笑む。何故なら、向けた目線の先では彼と胡桃が武器を振り回し敵と楽しげに戦っていたからだ。

 

 

 

「ふんっ!」ズバッ!

 

胡桃「はあっ!」ブンッ!

 

 

『ギャアア…ッ!!』

 

 

 

由紀「うわぁ…大暴れだね…」

 

悠里「そ…そうね……」

 

真冬「怖いっていう由紀の反応が普通なんだろうけど…あの二人を見てるとよく分からなくなるよ。あの二人、戦うの大好き人間なの??」

 

辺りを囲む小鬼達の数はかなりのものであり、今やそのほとんどが彼と胡桃…そして美紀へと襲いかかっている。しかし、彼と胡桃はそれを一体ずつ…確実に撃退していた。一方、二人とは少し離れた場所にいる美紀の戦いはどこか危なっかしく……

 

 

 

『グァッ…ッ!!』

 

美紀「わっ…!?」

 

数体の小鬼に迫られた美紀は戸惑ったように後ずさりつつ、盾で守りを固める…。その盾は鬼の攻撃を全て弾いていたが、防戦一方の彼女を見た由紀、悠里はあたふたと慌て出す。

 

 

 

由紀「みーくんが危ないよ!助けないとっ!」

 

真冬「…いや、何だかんだで攻撃は全部防いでるし、大丈夫だよ。美紀くらいの魔力量なら、あの鬼たちの攻撃をまともに受けても問題ないし…」

 

悠里「そうなの?」

 

真冬「うん…せいぜいかすり傷程度の怪我までだと思う。言い忘れてたけど、魔力っていうのは何も魔法に使うだけじゃない。彼や胡桃…そして美紀のように魔法が使えない人間にとっても重要なもの…。身体を巡る魔力はそのまま力となり、身体能力の向上に繋がる……。だからほら、胡桃をよく見てて?」

 

由紀、そして悠里は真冬に言われるがまま、鬼達と戦う胡桃へ目線を向ける。複数の鬼に囲まれてもまるで動じず、背後からの攻撃すらかわす彼女の動きは確かにいつもより凄いもののように見える。

 

 

 

胡桃「そらっ!!」ブンッ!!

 

『グギッ…ッッ!!』

 

胡桃は鬼達の攻撃をかわし、反撃としてシャベルを振り払う…。その攻撃はギリギリのところでかわされてしまい、シャベルはそのまま鬼の背後にあった大木(たいぼく)へと当たるのだが………

 

 

 

バキィッッ!!!ギギッ…ギギギッ…!!

 

胡桃「なっ!?マジっ!!?」

 

振り払ったシャベルはその大木をあっさりと横に切り裂き、胡桃は目を丸くして驚く。木の高さは十メートルを越えており、幹回りも三メートルほどの物だ。まさか、それをシャベルの一振りで凪ぎ払えるとは思ってなかったのだろう…。

 

 

 

 

悠里「うそっ…!?」

 

真冬「ね?体内の魔力を力に回せば、あんな事も容易い…。もっとも、胡桃はちょっとパワータイプ過ぎるみたいだけどね」

 

由紀「く、胡桃ちゃ~んっ!!木、倒れるよ~っ!?」

 

胡桃「言われなくてもわかってるっての!!!」

 

ギギッ……バキバキッ…!!

 

激しい音を発てて傾く木を前に、胡桃は大慌てで避難を始める。こんな木が倒れるのに巻き込まれては一溜まりもない。

 

 

 

バキッ……!!ドシィィンッ!!!!

 

木は大きな音を発てて倒れ、辺りに木の葉がヒラヒラと舞う…。胡桃はどうやら間一髪で助かったらしく、真冬達の前に焦った様子で駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 

胡桃「なんだよあの木っ!!中が腐ってたのか…?」

 

真冬「ううん…そんなことないよ。ただ、胡桃の力が強すぎただけ」

 

胡桃「んなバカな……あたしにあそこまでの力はないって」

 

胡桃は肩にシャベルをかけ、冷や汗を流しつつ苦笑いする…。しかしその後、魔力はそのまま力になる…ということを真冬に知らされ、彼女は深いため息をついた。

 

 

 

 

 

胡桃「じゃあ…さっきの木は腐ってたわけじゃないと…」

 

真冬「うん。そうだね…」

 

由紀「やったね!この世界だと胡桃ちゃんはパワー百倍だよ!!」

 

胡桃「百倍って…そこまでは……………いや、そうかもなぁ…」

 

倒れている大きな木を見つめ、もう一度ため息をつく。魔法があり、魔物のいるゲームのような世界…。最初はこの世界の雰囲気にはしゃいだが、ここまで大きな力を持たされても困るような気がした。

 

 

 

 

胡桃(…うわ、鬼たちがめっちゃ下敷きになってるし)

 

胡桃はその木から逃れられたが、何体かの鬼は逃げ切れなかったようだ…。よく見ると、辺りにいた鬼がほとんどいなくなっている。

 

 

 

真冬「あの鬼たち、意外と小心者だからね…。木の倒れた音にビックリして逃げていったみたい」

 

胡桃「………」

 

悠里「美紀さんと彼も……どうにか無事みたいね」

 

辺りにいた鬼が逃げ去り、彼と美紀も真冬達の元へ歩み寄る。どうやら二人とも無事だったらしく、怪我をした様子もない。

 

 

 

 

美紀「いきなり木が倒れたから…驚きました」

 

「まったく、こっちまで巻き込まれかけた…。さてさて、あれは誰の仕業だろうな?あんな大木(たいぼく)を切り倒すなんて、人間の仕業じゃない事だけは確かだろうけど」

 

肩に剣をかけ、彼は倒れた木…そして胡桃を交互に見つめてニヤニヤ微笑む。どうやら、彼は胡桃があの木を切り倒す瞬間を見ていたらしい。

 

 

 

 

胡桃「わ、わざとじゃないぞっ!!」

 

美紀「えっ…あの木、胡桃先輩が倒したんですか?」

 

彼とは違い美紀はそれに気付いていなかったらしく、少し引いたような目付きを胡桃へ向けた。彼女にすらそんな目をされた胡桃は顔を真っ赤に染め、申し訳なさそうに顔をうつむける。

 

 

 

 

胡桃「ま…まぁな……えっと…ごめんな?」

 

美紀「いや…巻き込まれなかったから良いですけど…。でも、あんなに頑丈そうな木をどうやって……」

 

由紀「シャベルでズバッとやったんだよ!」

 

美紀「ははは…そんなバカな……」

 

真冬「ううん、本当にズバッとやった…」

 

 

美紀「ほ…本当ですか……?」

 

胡桃「うっ………」

 

由紀と真冬の言葉を聞き、美紀は何とも言えぬ表情を胡桃に向ける。その後、彼と美紀も真冬から魔力についての説明を受け、胡桃があれほどの力を見せた事についてある程度納得した。しかしその後、彼と美紀の二人が力試しとして大木(たいぼく)に剣を振っても胡桃のようにあっさりと切り倒す事は出来ず、二人は……いや、一行は胡桃のずば抜けた力の強さを思い知った…。

 

 

 

 

 

 

 

 




…というわけで、単純な攻撃力(腕力?)なら胡桃ちゃんが最強みたいです(^^;まぁ、彼女達は『強くてニューゲーム』なスタートですからね…。

しかしながら、主人公である彼もこれからトレーニングを重ねていき、どんどん強くなるハズです!

次回は今回の話から数週間後の話にしようと思っていますので、より強く…そしてこの世界にも慣れた彼女達が見られると思います(*^_^*)ご期待下さいっ!

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