『きららファンタジア』内でのエピソード『さばくぐらし』にて、召喚されたのが由紀ちゃん達だけでなく、彼も含まれていたら…というifストーリーになっています!
元の『さばくぐらし』とほぼ同じ展開ですが、彼が加わった事によって多少会話が増えていたりもしますので、その辺を楽しんでもらえたら幸いです(*^^*)『きららファンタジア』を知らない人から見たら少し説明不足なシーン等もあると思いますので、予めご了承下さいませ!
物語は砂漠に出た胡桃ちゃんがとある少女らを助け、由紀ちゃん達の待つ洞窟へ戻ったところからスタートします。
由紀「おかえりー!」
胡桃「おう、ただいま。本当に由紀が言ったとおり、人がいたな」
洞窟の外…そこにある砂漠から戻ってきた胡桃へ、由紀は声をかける。胡桃はその背後に二人の少女…そして得体の知れない小さな生き物を引き連れていた。
悠里「お疲れ様。あなた達も、ね」
??「ありがとう」
由紀「わっ!?しゃべった!?えっ、どこかにボタンがあったりするのかな?」
??「……驚かせてごめん」
二人の少女と共にいた得体の知れない生き物…それが声をあげたことに由紀は驚く。タヌキとも…ネコとも違うようなその生き物は、宙にプカプカと浮いたまま苦い表情を見せていた。
??「あはは、最初はしょうがないよ。ありがとうございます、助かりました」
二人の少女の内、大きな杖のような物を持っていた茶髪の少女が悠里達へ向けぺこりと頭を下げる。それに続き、もう一人の小さな赤毛の少女も頭を下げた。
??「…ありがとうございます」
??「どうしたんだ、ランプ。やけに静かじゃないか。いつもならもっと――」
宙に浮く生物が赤毛の少女に寄り、不思議そうな顔を見せる。話を聞いた感じだと、赤毛の少女の名は『ランプ』というようだ。
ランプ「その…ちょっと驚いちゃって。ごめんなさい、皆様の方が大変なのに…」
悠里「……まずは、お互いに自己紹介しましょうか。どう呼んだらいいか分からないでしょうし」
由紀「そうだった!まずは自己紹介からだよね!巡ヶ丘学院高校三年C組、丈槍由紀だよ!それから、胡桃ちゃんとりーさん!二人ともすごいんだよ?えっと――」
胡桃「はいはい、一旦ストップな。今度はそっちの番だ」
興奮してきた由紀をなだめ、胡桃は目の前の少女らを見つめる。すると、杖を持つ少女達はそれに応えるようにして自らの名を告げた。
きらら「あっ、うん。私はきらら」
ランプ「えっと…ランプです。よろしくお願いします」
マッチ「マッチだ。異世界から来た人達からはよく驚かれてるよ」
まぁ、よく分からない生き物が宙に浮きながら喋るのだから、驚きもするだろう…。しかし悠里が反応したのはマッチの存在ではなく、今の言葉の中にある『異世界』というワードだった。
悠里「異世界…。やっぱり、ここは私達の世界とは違うのね」
マッチ「……君たちはあまり動揺していないんだね」
胡桃「まぁ、色々と経験してきてるからな。…いきなり砂漠に放り出されたのには驚いたけど」
悠里「きららさん達はこの世界の人なのよね?色々と聞かせてもらえると嬉しいのだけど……良いかしら?」
きらら「そうですね…。まずは皆さんが、この世界に来てしまった理由からでしょうか…」
そうして、きららは自分の知っている事を悠里達へ告げる…。
女神と呼ばれる者の存在や、それを封じた『アルシーヴ』という者の存在。そしてそのアルシーヴが"オーダー"という禁呪を用いて悠里達…"クリエメイト"と呼ばれる者達をこの世界、"エトワリア"へ呼び寄せ、彼女達から"クリエ"と呼ばれる力を奪おうとしている事を…。
胡桃「世界を乱す魔法…オーダーか。本当に別の世界なんだな」
きらら「はい。そしてクロモンや七賢者たちが皆さんを捕らえに来ると思います。クロモンは私の"コール"でなんとかできますが、今出てきた相手には対処が追いつかなくて…」
マッチ「そうだね…。やつらは一体なんなんだ?胡桃の言いぶりだと知ってるみたいだけど…」
きららの言う"コール"とは、彼女の使うことの出来る伝説の召喚魔法…というものらしい。そしてマッチのいう"やつら"とは、さっき砂漠にいた際、彼女達を襲ってきた存在のことなのだが…その姿は悠里達のいた世界に
悠里「…由紀ちゃん、ちょっとお水を取ってきてもらっていい?」
由紀「お水?」
悠里「さっきまでランプちゃん達はお外にいたでしょ?だから、のどが渇いていると思うの」
由紀「そうだね!じゃあ、取ってくる!」
話の流れを読み取り、悠里は一度、由紀の事をこの場から離れされる。彼女が洞窟の奥へ水を取りに行ったのを見計らい、悠里は口を開いた。
悠里「やつらは…私達の世界にも似たのがいるわ。ここのも同じような性質を持っているみたい」
胡桃「無茶さえしなければ、対処するのは問題ない。足も遅いし、光や音につられやすいし」
悠里「無茶さえしなければ…ね。胡桃がそれを言うのかしら」
胡桃「う…っ…」
過去の事を思い返し、悠里は責めるような目を胡桃へ向ける。それに気付いた胡桃は気まずそうに顔を俯け、冷や汗を流していた。
マッチ「僕たちは今まで、"やつら"のような存在に出会ったことがなかった。オーダーによって、このエトワリアが君達の世界の影響を受けているのかも知れないね」
きらら「あくまでも、かもしれない…だけどね。この前とも全然違う形になっているから…」
胡桃「今までいなかったっていうなら、あたしたちのせいなんじゃ――」
ランプ「違いますっ!!」
この世界に"やつら"が現れたのは自分達のせいかも…そう胡桃が思い始めた時、ランプが大きな声をあげた。その声は洞窟内に響き渡り、水を取りに行ってきた由紀が驚いたような反応を示す。
由紀「えっと、お水持ってきたけど…。ランプちゃん、大きな声だして何かあったの?」
ランプ「由紀様…。とにかく、悪いのはアルシーヴです。胡桃様達が気に病まれることなんてないです…」
悠里「…ありがとうね。ランプちゃん」
今にも泣き出しそうな顔をしているランプへそっと寄り、悠里は彼女の頭を撫でる。悠里もまた、胡桃と同じような事を考えていたのだが…ランプの一言でいくらか気持ちが楽になった。
胡桃「えっと、ともかくだ。さっきの話だと、あたし達が元の世界に帰ることは出来るんだろう?」
きらら「は、はい…。ただ、あと二人…由紀さん達と"パス"の繋がっている存在がこの世界にいます。その方達を見つけてからじゃないと…。でも、なんだろう……一方のパスが少し感じ取りにくい…。どうしてだろう?」
"パス"の繋がっている存在…。つまり、由紀達と同じ世界からやってきた人物があと二人いる。胡桃はすぐにその二人が誰なのかを察し、目を丸くした。
胡桃「二人って…美紀とあいつか!?やっぱり、あいつらもこの世界に来てたのか!」
由紀「きららちゃん、みーくんがわかるの!?」
きらら「みーくん…ですか?」
悠里「みーくん…美紀さんは、私達の後輩。そしてもう一人の人は、ある日私達が出会った、少し変わった男の人よ」
ランプ「えっ?お、男の人…?そ、その方って…もしかして…」
悠里の口から出た予想外の言葉に驚くランプだが、彼女にはある心当たりがあった…。しかし、それはあり得ない事だと思っていたのだが…。
きらら「美紀さんがどっちにいるのかは何となく分かるんだけど…ただ…」
由紀「ただ?」
きらら「……この洞窟の外、"やつら"が大勢いる方なんだよね」
胡桃「あ~…なるほど」
悠里「さすがにあの中を抜けていくのは骨が折れそうね……由紀ちゃん?」
由紀「どうしたの、りーさん?」
悠里「一人で勝手に行っちゃダメよ。ちゃんと準備して、しっかり休んでからにしましょうね?」
由紀「は~い!」
一人でトコトコ歩き出した由紀を引きとめ、悠里は彼女を洞窟の中へと戻す。由紀は少し目を離すとフラフラといなくなってしまう為、油断などあったものではない。
悠里「学園生活部心得第三条…夜間だけでなく、緊急時も適用させるべきかしら」
胡桃「まぁ、そのへんは戻ってから考えればいいさ…」
『第三条・夜間の行動は単独を慎み常に複数で連帯すべし』…こういった心得があるのは良いのだが、由紀を守る為には夜間だけの警戒では足りぬかも知れない。由紀はそれだけ自由で、何をするか分からない娘だ。
由紀「そういえば、きららちゃんって何か部活入ってるの?コール部?」
きらら「えっと……まず、部活って何でしょう?」
由紀「ぶ、部活を知らないなんて……。えっと、じゃあ、学校はどこに通ってるの?」
きらら「学校……聞いた事はありますけど、私の村にはなかったので」
由紀「そ、そんな………」
この後にランプから聞いた話によると、この世界においての学校とは"神官"というものを養成する施設らしく、才能を持つ選ばれた者のみしか入れないらしい。こちらの世界とは違い、悠里達の世界ではほとんどの人が学校に通えるという事を知ると、きらら達は目を輝かせていた。
きらら「ほとんどの子が……少し羨ましいですね」
由紀「よ~し!じゃあまずは、学園生活部について教えてあげる!こっちだよ!」
きらら「ゆ、由紀さんっ!?」
悠里「あまり遠くまで行っちゃダメよ?私達は、ここでランプちゃんとお話してるわね」
いきなり由紀に引っ張られ、きららは戸惑ったような表情を浮かべる。その一方、悠里はランプのそばに立ち、彼女を見つめてニッコリと微笑んだ。
マッチ「すごい勢いだったな…。奥まで行っても平気なのかい?」
胡桃「一応、奥まで見回りは終えてるからな。それに、由紀が一人でふらつくよりはマシだ」
悠里「釘をさしたから大丈夫よ。ランプちゃんもそう思わない?」
ランプ「わ、わたしですか?」
悠里「ええ。だってランプちゃんは元々、私達のことを知っているんでしょう?」
ランプ「!?……どうしてそれを」
悠里が放った言葉を聞き、ランプは驚いたように目を丸くする。悠里は彼女のそんな表情を間近に見つめると、今度は小さく口を開いた。
悠里「…やっぱりそうだったのね」
ランプ「か、かまをかけたんですかっ!?」
悠里「ごめんなさい。少しだけね…。ほとんど、確信には近かったのだけど…。私がランプちゃんだったら、きっと同じような態度になっちゃうもの」
ランプ「…悠里様」
ランプの目が次第に潤んでいき、小さな肩が震えていく…。悠里は彼女を安心させるようにニッコリと微笑み、もう一度その頭を撫でた。
悠里「りーさんでいいわよ。私達のこと、気にしていてくれたのね…。ありがとう」
ランプ「…ありがとうございます、りーさん。仰るとおりわたしは…わたし達は、皆様の事を存じ上げています。どんな世界で生き抜いて、どんな困難を乗り越えてきたのかも」
悠里が頭を撫でるとランプはとうとう涙を流し、それを手で拭う事もなく肩を震わせた…。それを見た胡桃は彼女と視線を合わせるようにかがみ、親指でその涙を拭っていった。
胡桃「もー、泣くなよ。別にランプのせいじゃないだろ?」
ランプ「それはそうですけど…でも、何もしてあげられないのが申し訳なくて…」
悠里「そう気に病まなくていいわ。私達だって、みんなを助けられたわけじゃないもの」
胡桃「出来ることをやっていくしかないからな…」
仕方のない事だ…そう自分達の心に言い聞かせながら、悠里と胡桃はランプを泣き止ませる。そうしてランプが落ち着きを取り戻した時、洞窟の奥から由紀、そしてきららが慌てた様子で戻ってきた。
胡桃「っ!?どうした!?」
ランプ「由紀様!大丈夫ですか!?」
由紀「う、うんっ。きららちゃんが助けてくれたから…。でも、さっきのって…」
きらら「ええ。洞窟の外にいるのと同じですね…」
胡桃「そんなばかな…!岩場の陰まできっちり見回ったんだぞ…。見落としなんてあるわけが…」
悠里「でも、こうして出てきた以上は見落としがあったって可能性を考えなきゃいけないわ」
胡桃「…だな。わかった、もう一度行ってくる」
由紀達を危険な目にあわせてしまったのは自分の責任だ…。そう考えた胡桃は一人で洞窟の奥に向かおうとするが、悠里はそんな彼女の手をガシッと掴む。
悠里「ダメよ。今はきららちゃん達もいるんだから…みんなで、ね?」
胡桃「……そっか。うん、そうだな。わかった、みんなで行こう」
明るい笑みを見せ、胡桃は皆と共に洞窟の奥…先程、由紀ときららがやつらと出会した場所へ向かう。しかしそこには隠れられるような場所…見落とすような場所は存在していなかった。
悠里「たしかに…見落とすような場所には思えないわね」
胡桃「だよな…。じゃあ、いったいどこから…」
不自然なほど綺麗に整った洞窟の中…隠れられるような場所はない。にも関わらず、やつらはどこからともなく現れて由紀ときららを襲った…。それぞれがやつらの出所に頭を悩ませる中、ランプがあることを
ランプ「もしかしたら…隠し通路のようなものがあるのかも知れません。胡桃様、物音を発てて"やつら"を誘き出す事は可能ですか?」
胡桃「ああ、やれる。…よし、試してみるか」
皆を少し後方へと下げた後、胡桃は持っていたシャベルを振りかざす。そうしてそばにあった岩目掛け、何度も何度もそれを振り下ろした。
ガンッ!カンッ!ガンッ!!
由紀「そんなに八つ当たりして、胡桃ちゃん…シャベルにフラれたの?」
胡桃「ちげーよ!!音を発ててんの!!」
…ドサッ!
由紀へのツッコミを入れつつ音を発て続けていると突然、胡桃の背後に何かが落ちてくる…。上から落ちてきたそれは砂漠の方にいた、"やつら"と同じ者だ。それはゆっくり起き上がると、目の前にいた胡桃を見て呻き声をあげた。
『うぁ…ァァ…』
悠里「胡桃っ!!うしろ!!」
胡桃「こいつ…っ!どこからっ!!?」
ガシッ!!
胡桃「や…べぇっ…!!」
まさか上から来るとは予期しておらず、反応が遅れる。それは胡桃の右手をガシッと掴みあげ、そっと口を開いたが、胡桃は上手く振り払うことが出来ない。
マッチ「まずいっ!!」
ランプ「胡桃様っ!!」
胡桃の危機を救うべく、きらら達は自分達が動こうとする。するとその時、きららはある反応をすぐ後方に感じ取り、慌てて振り向いた。
きらら「この反応は…!?」
感じた反応は由紀達や、今はここにいない美紀と同じパス。しかし、何故か一つだけ上手く感じ取れない反応だった。ノイズがかかっているように曖昧なその反応はこれまでにその距離、位置を感じ取れなかったのだが…そばまで接近した今は、しっかりと感じ取れた。
ザシュッ!!
胡桃「…っ…!?」
きららや由紀達の横を凄まじい速度で通りすぎたその人物は持っていた銀色の直剣を"やつら"目掛けて振り払い、胡桃の危機を救う。自らに掴みかかっていたそれが倒れた後、胡桃はその人物を見て驚いた。
胡桃「お前っ!どうしてここが…!?」
「どうしてもなにも、砂漠が死ぬほど暑いから日影に…と思ってこの洞窟に入ったらみんなの声が聞こえたんで、慌てて駆けつけただけだ。でもまぁ、タイミングよく皆と会えてよかった。おかげで迷子にならずに済んだ」
ヘラヘラした様子でそう告げるのは、元の世界で行動を共にしていた"彼"だった。彼は持っていた剣を肩にかけながら胡桃、由紀、悠里を順に見てニヤリと微笑むが、この瞬間ですら"やつら"がボタボタと天井から…いや、正確には天井に空いていた穴から降ってきている。それらを眺めた彼は笑みを引っ込めてため息をついた後、胡桃の肩をポンッと叩いてから剣を構えた。
「聞きたいこと、言いたいことは山ほどあるけど、今はこれの処理が先か」
胡桃「ああ、油断すんなよ!!」
落ちてきた"やつら"の数は十体近く…。しかし、胡桃と彼…そしてきららとで迎え撃った結果、どうにかその全て倒し終え、場の安全を確保する事が出来た。
「はぁ……いきなり砂漠に放り出されたかと思えば変な化け物に襲われるし、かと思えば"やつら"もいるし…。途中でこの剣を拾わなかったら危なかったかも」
由紀「それ、拾ったの?かっこいいね!」
「わりと軽くて扱いやすいしね。ほんと、良いものを拾った」
剣を見て、彼が誇らしげに笑う。すると彼はワンテンポ遅れて悠里やきらら達の方を見つめ、不思議そうに首を傾げた。
「あ~……君達はどなたさんかな?」
きらら「あっ、私はきららといいます。そしてこっちがランプで…こっちがマッチです」
丁寧に自己紹介するきららと彼がある程度話した後、悠里は彼に自分達がおかれている状況の全てを語る。悠里が話した内容はあまりにも現実離れしたものだったが、彼もまた思っていたよりあっさりそれを受け入れたようだ。
「…つまり、ここは異世界。そして、僕らは悪~い奴等に狙われていると…そういうことでいい?」
胡桃「簡単にまとめるとそうなるな…。で、お前だけじゃなく美紀もこの世界に来てるみたいだから、早いとこ合流して元の世界に帰ろうって話だ」
「……了解。だいたい分かった。じゃあ早いところ美紀を見つけよう」
マッチ「彼も全く動揺しないね…。それだけ色々な事を、元の世界で経験してきたという事か……」
悠里達もだが、やはり彼も、ここが異世界と聞いても大した反応を見せない。むしろ、そんな彼等の反応を見たマッチらの方が驚くほどだった…。
とりあえず、彼が登場するところまでは進めました!
最初は一話で完結する話にしようとも思ったのですが、元となった『さばくぐらし』のエピソードが思っていたよりも長く、一話完結は無理だと気づきまして…(苦笑)
因みに、エトワリア内での彼は剣を使う戦闘スタイルとなっていますので…クラスで言うなら『せんし』になるのでしょうね(*´-`)