本当はもっと前に投稿するハズの話でしたが、色々考えていたら予想よりも遥かに遅れました(--;)
この話は本編の1話目よりも数日前…つまり彼と学園生活部が出会う前の時間設定なので、それを踏まえてお楽しみ下さい。
一話『動き出す者達』
"奴ら"は突如現れ次々と人々を襲っていった。
生存者の数は日に日に減り続け…それに比例するように奴らは数を増やし続けた…奴らに噛まれたり、引っ掻かれた人間はすぐに奴らと同じにようになり…そしてまた生きた人間を探し、襲い、数を増やす。
その姿は俗に言う"ゾンビ"そのもの…外の世界は奴らで溢れかえっている。
もう生存者は数える程しか残っていないかも知れない…。
……だから感謝してくれ、私は君を奴らになる前に救ってあげたのだから。
両手を鎖に繋がれ、身動きが出来ない一人の男に、見慣れないスーツ姿の男が言った。
???「……あんたは?」
柳「私は
???「恩人?」
柳「ああそうだ…まさか覚えてないとは言わないよな?」
???「さぁ……どうだろうな。」
柳「ふむ…まぁ私の仲間が見付けた時、君は死にかけていたしな…、無理はないかもしれん。…では君は何故自分が死にかけていたかは覚えているかな?」
???「…まあ見当くらいは。」
柳「そうか、では一応私の方から説明してやろう。」
そう言って、柳は男の前に椅子を引きずると、そこに腰かけ語りだした。
柳「街の外れ…その道路の真ん中で倒れていた君を私の仲間が見つけた。」
柳「どうやら奴らに噛まれ、逃げている途中で行き倒れたようだね。」
柳「倒れた付近に奴らがいなくて良かった、もし奴らの群れの中で倒れたら最悪の場合、治療不可能な程食い漁られていただろうさ。」
柳「そんなことにならずに良かったよ。私は君のファンだからね。
圭一「…ファン?」
柳「ああそうだ。当時は多くのニュースで取り上げられていたし…どの交番にも必ずと言っていい程君の指名手配書が貼られている。仕事場で上司を殺し、更には駆け付けた警官を二人殺して逃亡……、凄いな…警官を殺すなんて、普通は出来やしないよ。」
圭一「逃げるのに邪魔だったからな。」
柳「ふふっ…そうか。…では上司は何故殺したんだい?詳しく知りたいな。」
圭一「べつに…ただアイツが無能のクセ俺の
柳「なるほど……良く分かるよ、私も似たようなものだ。」
柳「……おっと、私の話は別にしなくていいか」
柳「…ともあれ、君を見つけたのが私達で良かったな、そのおかげでこの面白い世界を味わう事が出来たのだから。」
圭一「どうだろうな…。お前、さっき奴らに噛まれたりした人間は奴らと同じようになると言っていただろう?そして…俺は噛まれている」
圭一「つまりじきに奴らの仲間入りって事になる。…残念だったな、あんたは命の恩人を気取りたかったみたいだが…ただ怪我の治療だけしても無駄なんだろ?」
圭一は腹部に巻かれた包帯を見ながら柳にそう言った。
柳「いや?私は完全に君の命の恩人だよ。私が君に施したのは只の治療ではないからね。」
柳がニヤリと笑う。
圭一「…どういうことだ?」
柳「…確かに君の言った通り、奴らに怪我を負わされたらただ治療したってその人間はじきに奴らと同じ…歩く死体になる。…だがそれに対するワクチンも存在するんだよ。」
圭一「なるほど…お前はそのワクチンを俺に使ったのか。」
柳「ああ、だがそのワクチンはどうやら完璧ではないみたいだ。奴らのウイルスの進行を一時的に止めるだけの物のようでね…。もしかしたら継続的な投与を前提として作られたのかもしれないが、生憎もうそこまで残っていない。」
圭一「何だと?だったらとっとと完全な物にしてほしいもんだな。」
柳「無茶を言うな。…いや、私なら完全な物に出来るかも知れないが。……もう少し時間が必要だ、いかんせんこのワクチンも拾い物で詳しい事は分かっていなくてね。」
圭一「拾い物かよ…。」
圭一はそう言ってため息をつく。
柳「ああ、だが安心しろ。…君には完全なワクチンよりも更に素晴らしい物をプレゼントした。」
圭一「素晴らしい物って……何だっていうんだ?」
柳「そのワクチンに少し手を加え、私が元々開発していた薬品を混合した物だ」
圭一「お前が開発していた薬…なんだよそれ…」
柳「まぁ簡単に言えば超人的な力を得れる薬だな、詳しい事はその内話すよ」
圭一「超人的?」
その言葉が気になった圭一は柳に尋ねる。
柳「どんな人間も、この薬を使えばそれだけで身体能力が跳ね上がる。人によっては、ちょっとした格闘家くらいには勝てるかもな」
柳はそう自慢気に話した。
圭一「バカな…ただ薬を使っただけで、そこまで人間が強くなるのか?」
柳「あぁ、強くなる。我ながら良い物を作ったと思っているよ…」
圭一「いやいや…あり得ないだろ。ドーピングにも程がある。」
柳「じゃあ聞くが…死体が歩くのとどっちがあり得ない?」
圭一「死体が歩く方がまだ分かる。」
圭一は即答した。
柳「……まぁ良い、私の開発した薬がいかに素晴らしい物か…後で外で試すと良い。」
そう言って、少し不満そうな顔をする柳。
圭一「んで、俺はそれを打たれて超人になった……以上か?」
柳「良く聞いてくれたな…、私の薬は人間の細胞を進化させてより強くするのだが…その進化させる対象は人間の細胞だけじゃなかったんだ。」
柳が明るい表情になる。
圭一「…は?」
柳「人間の身体だけじゃなく、混合して使用する事で…ワクチンの効果も進化させる事が出来た。それにより進化したワクチンはウイルスの進行を完全に止める。」
圭一「へぇ…そりゃ凄いな、だったらとっととその薬を量産して、世の中に配ってやればどうだ?」
柳「残念だがそれは出来ない。大きな理由が3つある。」
圭一「なんだ?」
柳「まず第一に、私の薬は拒絶反応が確実に起こる、力を手に入れる為にはこの拒絶反応を乗り越えなくてはならない。」
柳「君にこの薬品を試したのもかなりの賭けだった。今までにこの薬品を十五人程の生存者に試したが、生き残ったのは君を入れ三人だけ。…その君もこの数日間ずっと拒絶反応に苦しみながら眠っていたんだ。」
圭一「へぇ、そうだったのか……で、その生き残った二人は今どこに?」
柳「今も元気に外部の偵察に行っている、彼等は今や私の忠実な犬だからね。」
圭一「…犬だと?なんだ、この薬にはお前に従うようになる成分でも入っているのか?」
柳「いやいや、彼等が望んでそうなったんだよ。」
柳はそう言って不気味に笑う…
圭一はその笑顔に嫌悪感を抱きつつ、次の理由を尋ねた。
圭一「……そうかい、…で、2つ目の理由は?」
柳「残念ながらベースとなるワクチンのストックがもう僅かしかない、今までに無駄遣いし過ぎたな」
柳が苦笑いする。
圭一「十五人もの人間に試し打ちしてたら、そりゃそうなるか。…その残り少ないワクチンを複製したりとか出来ないのか?」
柳「難しいな…かなりの時間もかかる。」
圭一「それは残念……じゃあ三つ目は?」
柳「…ああ、これが一番重要なんだが。」
柳は椅子から立ち上がり、圭一に顔を近付けて言った。
柳「もし仮に、この薬がウイルスの進行を完全に止め…しかも拒絶反応も無く、大量に量産出来たとして……」
柳「何故見ず知らずの人間共に配らねばならない?せっかく面白い世の中になったんだ、私はこの薬で人は救わない。…私にとって有益な人間にだけこの薬を与えながら、この世界を楽しませてもらう。」
圭一「楽しむ?」
柳「ああそうだ、世界がこうなった以上、殺しも略奪も自由自在だぞ?これを楽しまずにどうする?」
圭一「なるほどね…一理あるかもな。…ところで、今更だがお前は何かの研究者だったのか?」
柳「ああ、ある施設でちょっとした薬品の研究をしていた。…もっとも、世界がこうなる数日前に追い出されたが…」
柳「まぁ役立たずに囲まれて研究するより、こちらの方が遥かに調子がいいし…必要な物は探し出せばタダで手に入る…良い事ばかりだ。」
圭一「…そうか。」
柳「…そういう訳でだ…。」
柳が近くのテーブルにあったナイフを手に取り、脅すような口調で圭一に言った。
柳「…君は勿論、私に協力してくれるよね?」
圭一「…そのナイフは何だ、脅しのつもりか?」
柳「まあそんなとこだ、早く返事をくれ、あの薬をの拒絶反応を乗り越えた者は目を覚ましてからおよそ5分程で薬が完全に体に馴染む。」
柳「しかも君に投与したのは他の二人のより更に改良を加えた特別製だ…体に力が馴染んだら恐らく君は手を繋ぐその鎖さえ引きちぎる事が出来るだろう。」
柳「そうなれば私は君を止められない、だからその前に返事を聞くよ…今は君が目を覚まして………おや?」
突如、柳がテーブルの上の置き時計をみて間抜けな声をあげる。
圭一「…何だ?どうかしたか?」
柳「…んー。」
柳は急に大人しくなり、持っていたナイフもテーブルに戻した。
圭一「?」
柳「7分も経っていた、君が目覚めてからね。」
圭一「…ということは俺はもうあんたの作った薬の力を得ていると?」
柳「そういう事だ。…あ!鎖はちぎるなよ?まだ使うかもしれない…」
圭一「じゃあ俺はもうお前に脅される事も無いわけだ。」
柳「そうだな。参った参った。……だがあえて、まだ交渉させてくれないか?」
柳が真面目な顔で言った。
圭一「…言ってみろ。」
柳「君はもう奴らのウイルスには悩まされない、しかもその鎖もその気になれば外す事が出来る……私に従う義理は無い訳だが…それでも私の下につかないか?」
圭一「お前の犬になれと?」
柳を睨み付けて言う圭一。
柳「ああ、そうしてくれると嬉しいね。」
柳はそれに全く臆す事無く言い切った。
圭一「俺は無能なクセに偉そうなヤツが嫌いなんだが……」
柳「…?…私が無能だと思うか?」
圭一「…………」
柳「……………」
圭一「…まだその薬だかの力を信じた訳じゃないが、分かったよ…。どうせ帰る場所もないし、暇潰しにあんたの犬になってやろう。だけどもし飽きたらすぐに出ていくからな?」
柳「それで結構…では待ってくれ、今鎖を外す。」
柳はそう言うとポケットから鍵を取り出し、その鍵で鎖を外した。
ジャラジャラジャラ!
圭一「ふぅ…さて、具体的に俺は何をすれば良いんだ?」
柳「簡単だ。外に出向き、出会った生存者やゾンビの奴らでも殺して回りながら体の調子を報告してくれれば良い。たまに必要な物資を取ってきてもらったりもするが。」
その時部屋の扉が開き、二つの人影が部屋に入ってきた。
柳「ちょうど良かった、穂村君、狭山君…お帰り。」
穂村「あれ?彼起きたんですか?」
茶色の髪を肩まで伸ばしたヤンキー風の穂村と呼ばれた男が言った。
柳「ああ、仲良くしてやってくれ。…圭一君、彼は
穂村「よろしく!」
穂村が握手を求める。
圭一「…ああ、よろしく。」
そう言いながら圭一は手を差し出して握手を交わす。
柳「…さて、それでこちらが……」
狭山「……
黒髪の、一見大人しそうな狭山という少女が、握手は求めず挨拶だけしてきた。
圭一「ん?ああ…よろしく。」
圭一「意外だ、こんな若い子もいたんだな?」
狭山を見ながら、柳に言った。
柳「あぁ、17才だったかな?」
柳が狭山に尋ねる。
狭山「…うん。」
圭一「へぇ…」
狭山を見つめる圭一。
穂村「…胸ないなぁ、とか思うでしょ?」
穂村がニヤニヤと笑いながら言うと、狭山がそれを無言で睨む。
圭一「俺は別にそんな下らない事は思ってないが……その様子だと気にしてるのか?」
狭山「……別に…胸の大きさとかどうでも良い。…いや、むしろ小さい方が良い…大きくても邪魔なだけ…」
狭山は俯きながら言った。
…が、それはどう見ても…
穂村「100%強がりだな…」
圭一「……まぁ分かった。俺は神崎圭一…二人共、改めてよろしく頼む」
穂村「あぁ!」
狭山「…うん」
柳「…それで、今日は何かあったかな?」
柳が狭山と穂村に尋ねる。
穂村「北にある工場の中に、生存者の集団がいるみたいだ。物資を探しに外を探索していたその仲間の連中から聞き出した。」
柳「ほう…何人いるのかな?」
穂村「全員で6人だったみたいだが、内3人は物資探索班…まぁその3人は俺達がもう殺したから、残りは3人だな。…行ってきても良いだろ?」
穂村が恐ろしい事をさらっと…とても嬉しそうに言った。
柳「もちろんだ。…今度は圭一君も一緒に行くといい。」
圭一「了解。」
穂村「助かるぜ!その3人の物資が邪魔だったから一回ここに置きに戻ったんだけど、仲間が増えりゃ持って帰れる物資も増える!」
狭山「…今すぐ行っても?」
柳「ああ、かまわないよ。」
穂村「んじゃ行こうぜ!狭山!神崎さん!」
圭一「ああ…これがあんたの犬になっての初仕事って訳だな?」
柳に向けて言った。
柳「そうだ、…だが君達はただの犬とは違うな」
圭一「なんだ…ナマズイヌか?」
圭一が冗談として昔のアニメのマスコットキャラの名を出す。
するとそれを聞いた穂村が爆笑し、狭山も少しだけ笑った。
穂村「あははははっ!!!」
狭山「…ふふっ」
柳「いやいや、君達はただ生易しいお使いをこなすだけではない……これから生存者共を追い詰め、殺してまわろうと言うんだ…」
柳「…猟犬と言った方がそれっぽいな。」
柳が圭一達三人を見回して言った。
穂村「お?何それ、カッコいー!…じゃあこれから俺達は猟犬部隊と名乗ろうぜ!!」
圭一「ネーミングセンスが中学生レベル……しかも部隊なのにメンバーは三人かよ。」
狭山「……ボクはナマズイヌ部隊の方が良かったな。」
柳「ああそうだ…君達、これを首に着けておいてくれ。」
柳はそう言って三人に黒い首輪のような物を渡す。
よく見れば細いコードがついていて、小さな端末のような物と繋がっていた。
圭一「おいおい…なんだこの首輪は、本格的に犬になれって?」
柳「いや、それは無線機だ。昨日やっと完成してね、通信手段があると何かと便利だろう?」
穂村「うわぁ~超ハイテクじゃん!」
穂村がその無線機を前にテンションを上げる。
圭一「あんた…薬だけじゃなく、こんなのも作れるのか」
柳「それに関しては私は手伝っただけで、主な製作は狭山君がやってくれた。狭山君は機械に強いからね。」
圭一「これ…一から作ったのか?」
狭山「…ううん、既製品を解体して自分好みに改良した……足りない部品集めが大変だった」
圭一「…こいつは何者だ?」
柳「凄い娘だろ?…狭山君はうちの優秀な技術担当だ。」
圭一「若いのに…凄いんだな」
狭山「…どうも。」
穂村「てかさ…既製品を見付けてたなら、普通にそれを使った方が楽に済んだんじゃね?」
手渡された無線機を見つめながら穂村が言う。
すると狭山はほんの一瞬ムッとしたような表情を見せ、穂村へと返事を返した。
狭山「…自分で作り直した方がデザインも自由に出来る」
穂村「はぁ…つまりこの真っ黒な首輪みたいなデザイン、お前が好きでこうしたって事か?」
狭山「…うん、シンプルで可愛い。…満足のいく出来」
そう言って首輪(無線機)を見つめる狭山だが、満足していると言っているわりには無表情だ。恐らく、感じたことを表情に出さないタイプなのだろう。
穂村「ふぅ~ん…まぁ準備も済んだし、今度こそ行こうぜ!」
圭一「…腹が減った、まずは食事にしたい。」
圭一の発言を聞いて、準備万端の穂村は肩を落とす。
穂村「のわぁ~!…まぁ仕方ないか。柳さん、何か適当に食わせてから行くよ。」
柳「ああ、ご自由に…」
柳に見送られて部屋から出て階段を上がって行くと、大きな廊下に出た…先程の部屋は地下にあったようだ、赤い絨毯の敷かれた廊下を歩く穂村と狭山についていき一つの部屋に案内され、その部屋のテーブルの前に座り待たされる。
穂村「…へいお待ち」
そう言って部屋の奥から現れた穂村がテーブルに置いたのは、数種類のパンだった。しかも温められている。
圭一「…なんでパン?」
狭山「…柳さんが趣味でよく作るから…」
圭一の疑問に隣の席の狭山が答えた。
圭一「薬作ったりパン作ったり…忙しいやつだな。」
狭山「…穂村、ボクも一個食べる…適当なの持ってきて。」
穂村「お前もかよ…ちょっと待ってろ。」
穂村が文句を言いながらまた部屋の奥に戻る。
狭山「………」
圭一「なぁ?」
圭一は差し出されたパンを口に運びつつ、隣の狭山に声をかける。
狭山「……なに?」
圭一「柳が言ってたけど、俺達は本当に超人的な力を持っているのか?」
狭山「…うん、柳さんの薬は身体能力とかを進化させる物…でも元々その薬の効果は大したことはなく、投薬前の二倍程の力が発揮できるかどうか…その程度だった。」
圭一「十分スゴいけどな、お前…感覚マヒしてるぞ」
狭山「…かもね、でも二倍だよ?その程度の効果なのにあの拒絶反応…十五人に試して生き残ったのが三人だけって、少しリスキー過ぎると思わない?」
圭一「あれは感染者共のウイルスで死にかけている人間に投与したからこその死亡率じゃないのか?」
狭山「…違う、柳さんの薬は完全な健康時に投与してもあの死亡率の拒絶反応が起こる。本人がそう言ってた…」
圭一「そうなのか、俺はてっきりあいつの薬と感染者のウイルスが喧嘩して酷い拒絶反応を起こすのかと思ったよ。」
狭山「…あの薬とウイルスは喧嘩しない…むしろ逆…」
圭一「どういうことだ?」
狭山「…さっき言ったように…柳さんの薬はたとえ拒絶反応を乗り越えてもその効果は低い…普通の人間に使った場合はね…」
狭山「…けどある条件を満たした人間に使えばその効果は凄まじくなる、それこそ超人的な力が手に入る程に。」
狭山の発言が理解できず、圭一は首を傾げる。
圭一「条件って?」
その問いに、狭山は少し間を開けてから答えた。
狭山「…感染者のウイルスを体内に含んでいる事。もっと分かりやすく言えば、奴らに噛まれている事」
圭一「は?」
狭山「……奴らに噛まれた事で、ボク達は人間とあの化け物…どちらの細胞も持っている存在になる…そんなボク達が柳さんの薬を使うと…」
圭一「人間の細胞も化け物の細胞も…どちらも強化されて並外れた身体能力を手に入れられると。そういう事か?」
狭山「…うん、でもそのままだと化け物の方の細胞が暴走してしまうから、薬と一緒に調整したワクチンを混ぜる。」
圭一「そうする事でワクチンの効果も進化して、ウイルスを永久に抑え込む事が出来ると…」
狭山「…柳さんは最初、自分の薬をワクチンと混ぜても…進化したウイルスの力に負け、投与した人を一気にそのままゾンビ化させてしてしまうんじゃないかと思っていたみたい。」
狭山「…けど大丈夫だった。柳さんの薬はウイルスの有益な力だけを上手く引き出し、悪いところはワクチンが抑える…そんな最高の結果を生んだ。まぁ大抵の人間は拒絶反応で死ぬっていうリスクはあるけど…」
狭山「…でも結果として生き残り、薬の恩恵を最大限に受けたボク達は普通の人間では得られない身体能力を手にいれた…。他にも色々と便利な能力もあるし…」
圭一「便利な能力?」
狭山「…それは追々話すよ。」
狭山が話を終えるとちょうど穂村が戻ってきた。
穂村「待たせた…ほら。」
穂村はそう言って狭山の前に一切れのトーストがのった皿を置く。
狭山「…どうも」
穂村「台所から聞いてたけど…狭山珍しくたくさん喋ってたな?」
狭山とテーブルを挟んだ正面の席に穂村は座り、珍しそうに言った。
狭山「…そう?」
トーストを両手で持ち、それを小さな口で食べながら狭山は答える。
穂村「基本一言ずつしか喋らないイメージだったから、少し驚いたわ。」
狭山「…そうかな?」
少しして圭一も狭山もパンを食べ終え、その部屋を後にした。
部屋を出た圭一は二人に案内され外に出る…
外に出てその建物を振り返り…初めて気付く
その家はとても大きな洋風の館だった。
圭一「…凄いな」
穂村「ん?…あぁこの家か、元から柳さんの家みたいだぜ。あの人…メチャクチャ金持ちみたいだな。」
屋敷を眺める圭一に穂村が言う。
狭山「……ついでに言うとこの屋敷には発電機とかもあるし、庭も広い上に塀も高いからわりと安全…こんな世界でも普通に暮らせるよ。」
圭一「発電機までねぇ…こんな屋敷を持ってるなんて、何者なんだ…あいつは。」
柳が何者なのかと考えつつ…二人のパートナーと共に圭一は外へと飛び出す…
殺しも略奪も許される、力で支配出来る世界……圭一は表情には一切出していなかったが…内心では少し面白く感じ始めていた。
危険な三人組がメインの話…本編とは少し違った雰囲気の内容になっています。
こちらの更新は本編よりも遅れると思いますし、恐らく短期連載になると思いますが…ご了承下さい。
新キャラプロフィール
この外伝の主人公であり、指名手配中の殺人犯。
年齢27才。黒髪短髪、体は元々鍛えていたので少々ガッシリした細マッチョ体型。
柳の薬の効果で人間としての限界を超えた力を持っている。
年齢34才。黒髪短髪だが少しだけ白髪混じり。
圭一達に薬を打ち込んだ張本人、元々は薬物の研究をしていたらしいが詳細は不明。
圭一・穂村・狭山の三人を束ねるリーダー的存在で、本人はめったに外出しない。
年齢21才。茶色の髪を肩まで伸ばしたヤンキー風の風貌をしている。
元は大きな暴走族のリーダーをしていた。
昔から喧嘩が得意、その強さは柳の薬によって更に強化されている。
年齢17才。黒髪中髪、自らを『ボク』と呼ぶ小柄な姿が印象的な少女。
物静かで口数が少なく感情を表に出さない。
機械に強く、役立つ物を作って柳達をサポートする事がある。
圭一・穂村同様に薬による力を得ているが、元が力の弱い少女な分、単純な力は二人よりも弱い。
この外伝が生まれた経緯。
その1.本編とは別の視点から、他の生存者の話を書こう!
その2.ただの生存者じゃつまらない…危ない人達にしよう!
その3.ただの危ない人達じゃつまらない…超人にしよう!
…そんなこんなで生まれた『猟犬部隊』
超人的な身体能力&ウイルスに対する抗体持ちという恐るべき人達です(>_<)
それと途中で圭一が言ったナマズイヌですが…元ネタはあのキャラです(笑)
昔から好きなんですよね~、ウ○ギイヌ…。
そんな新たな外伝が始まった本作ですが…皆様今年もどうかよろしくお願いいたしますm(__)m
では、また次回!