軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回のお話はちょっと長め…。
のんびりじっくり楽しんでもらえたら幸いですm(_ _)m


百六十四話『いじわる』

 

 

 

胡桃「でさ、あたしも暫くここに残って、柳さんから医学を習う事にしたから」

 

「は、はぁ!?医学?……っていうと、何かの病気とか治したり〜とか、変な薬作ったり〜とか、そういうのを習うってこと?」

 

胡桃「いや、変な薬の作り方は流石に習わないだろ…。

まぁ、難病とかを治すまでは無理でもちょっとした病気とか怪我くらいは治せるようになりたいな〜って、そう思ってさ」

 

屋敷の庭に出て、綺麗な緑の芝の上に腰を下ろしながら語り合う。

よく晴れた空の下でのんびり語り合うのは何とも心地良くてだんだんと眠くなってきたが、そんな眠気も一気に吹き飛ぶくらい、胡桃の言葉は衝撃的だった。

 

 

「胡桃ちゃんが…勉強…??

いや……全然イメージに無いっていうか、予想外というか…」

 

彼の顔には『何で急にそんな事を?』という疑問がハッキリと表情に出ていた。

 

胡桃「いやその…あたしがそういう知識を持っておけば、お前が怪我した時とか役立つだろ?」

 

「なるほど……………って、つまり僕の為ってこと?」

 

胡桃「そ、そういうわけじゃなくてっ……!

とりあえず覚えておけば損は無いだろっ?ほ、ほら!まだ生き延びてる人とかの手助けになるかも知れないし!!!」

 

ここで素直に『うん、お前の為』と言えないのがダメなんだなぁ…。

と、胡桃はそんな事を思ってこっそりため息をつく………。せっかく恋人同士になれたのに、未だ素直になりきれないのは何故だろう。

 

 

胡桃(ここまでくると、もうこういう性格なんだな…としか…)

 

もっと素直に気持ちを伝えられたら、こんなにモヤモヤする事も無いのに。横にいる彼からそっと目を逸した胡桃が一人苦笑していると、背後から寄って来た人物が二人に向けて声をかける。

 

美紀「家の中にいないなと思ったら、こんなところで話していたんですね」

 

胡桃「ん………まぁ、ちょっとな」

 

背後から現れた美紀の方へと顔を向けた胡桃は少しだけ気まずそうな笑みを浮かべると、またすぐに視線を前方へ戻す。もしかすると彼との会話を聞かれていたかも…と思って少し冷や汗が出たが、美紀の態度を見るに彼女は何も聞いてはいなかったようだ。

 

 

美紀「二人で何の話をしてたんです?」

 

胡桃「いや、えっと………大した事は話してないよ」

 

美紀「……そうですか」

 

目を泳がせながらそう言う胡桃の様子はどこかおかしくて不自然だったが、美紀は深く探ろうとはしてこない…。ただ胡桃の隣に腰を下ろし、ぼんやり空を眺めている。

 

 

(……何か気まずいな)

 

何十秒か沈黙が続き、彼は眉間に皺を寄せた。

本当ならここで美紀にあのことを……胡桃と付き合う事になったのを打ち明けても良いのだが、少し前に胡桃の方から『みんなに言うのはもう少しだけ待ってくれ』と言われていた。多分、まだそれを明かすだけの心構えが出来ていないのだろう…。彼はそれに従う事にしたのだが、隠し事をしているという後ろめたさからだろうか………美紀と何気ない会話を交わす事すら少し大変なものに感じてくる。

 

かと言って、このまま沈黙を続けるのもどうかと思う…。

何か話題になりそうな事…話題になりそうな事…………必死に考えた彼はある事を思い出し、美紀に尋ねる。

 

 

「そう言えば美紀、昨日は圭一さんと外に行ったって?」

 

美紀「あっ…はい、行ってきました」

 

胡桃「あたし、あの人の事はまだちょっと苦手っていうか…どうにも絡みづらい感じがすんだけど、美紀は平気なのか?」

 

彼が切り出した話題に胡桃も乗り、二人で美紀の顔を見る。

美紀は相変わらず空を見上げたまま『う〜ん』と声をあげ、人差し指で頬を掻きながら苦笑していた。

 

 

美紀「そうですね…正直、私もあの人は少し苦手ですよ」

 

胡桃「それなのによく一緒に出掛けたな?」

 

美紀「苦手には苦手ですけど、一緒にいるのが嫌だってわけでも、嫌いってわけでも無いですし……」

 

あの圭一という男は真冬のように由紀達と仲良くする訳でもなければ、穂村のように明るい性格な訳でもない…。他の者と比べると無口で愛想もなく、彼や胡桃も圭一とはあまり話した事がないくらいだ。…が、そんな圭一が先日は美紀を外出に誘い、美紀もそれに乗っていた。これはどういう事なのだろう。気になった胡桃と彼がそれとなく尋ねていくと、美紀は二人の顔をチラリと見て口を開けた。

 

 

美紀「何日か前………まだ先輩が寝込んでいた時の事です。

あの時はここでじっとしてるだけっていうのが嫌で……ちょうどその時に圭一さんが外に行こうとしていたからワガママ言って一緒に行かせてもらって…。その時、ちょっとあの人の足を引っ張るような事をしてしまったんですが……」

 

「それって、どんなこと?」

 

美紀「建物の中を調べていた時、足元をちゃんと見てなくて…。それで私転んじゃって、足首を捻ったんです」

 

胡桃「あ〜…そう言えば何日か前、足痛そうにしてたもんな」

 

今はもう大丈夫なようだが、少し前まで美紀が片方の足を動かしづらそうにしていたのを思い出す。どうやらあれはその時に足を捻ったのが原因だったらしい。

 

 

美紀「怪我自体は大した事無かったのですが、その時の状況が状況だったので……もしかしたら私はもうダメなのかなって思いました…」

 

美紀は苦笑いしながら思い出す……。

あの日、圭一と共に外へ出て、建物の中を調べていた時の事を…。

ちょっとした不注意で足を捻り、床に倒れた時の事を………

 

 

 

 

 

 

 

 

∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼

 

 

圭一「……屋敷を出る前、俺が何て言ったか覚えているな?」

 

元々はデパートだったのであろう大きな建物の二階、様々な店が並んでいる通路の上、美紀はその通路に尻もちをついたまま今捻ったばかりの右足首を押さえ、目の前に立つ圭一を見上げて焦りの表情を浮かべる。屋敷を出る前、圭一は『私も一緒に行きたいです』と言ってきた美紀に対してある事を言った…。そして、美紀はそれをしっかりと覚えていた…。

 

美紀「何一つ口出ししない……それと、足を引っ張らない……」

 

圭一「…ああ、そうだ」

 

圭一がどこに向かおうとしてるのか、何をしたいのか……ここに来るまでの道中、それらが少しは気になったが、美紀は無言でついていった。“無駄に喋らない”というのが、この外出に同行する為の条件だったから…。そして条件はもう一つ…それは“圭一の足は引っ張らない。何があっても自分で対処する”というものだったのだが―――

 

 

圭一「立つ事くらいは出来るだろう…何とか歩く事も出来るだろう…。けど、走るのは無理そうだな」

 

右足に力を入れる度痛みに震え、苦痛そうな声を小さく漏らす美紀を見て圭一は言い放つ。圭一の言う通り、立つ事は出来るし頑張れば少しの間は歩く事も出来そうだ。…が、走ったり跳ねたり、何かを乗り越えたり…というのは難しい。

 

美紀は近場の壁を支えにしながらゆっくりと立ち上がり、吹き抜けになっている所から一階を見る…。建物の一階…圭一と美紀はそこにある入口からここに入って来たのだが、建物内を小一時間探索してる間にいつしかそこには大勢の"かれら"が集まっており、多くの影がゆらゆらと蠢きながら呻き声をあげていた。

 

 

美紀「……ッ…」

 

"かれら"はこちらには気付いていない…。

が、美紀はその群れを上から見下ろすなり眉を寄せ、冷や汗を流す。あの群れの存在は今、自分にとって大きな脅威になっていると分かっているからだ。

 

圭一「散歩はもう終わりだ…。あとは帰るだけだが………」

 

圭一の冷たい視線は美紀に向き、そして右足に移る…。

あとは帰るだけ…そう、入った時と同じ様にあの入口から出て帰るだけ…。けど、今の美紀ではそれは難しい。そばの階段を使って一階に降りた瞬間、群れの多くがこちらに気が付く。どれだけ静かに降りてもそれは避けられないだろう。しかし、"かれら"は遅い…。上手く走れば追いつかれる前に群れを避けて入口へと辿り着けるが、美紀の足では……。

 

圭一「自分でどうにか出来るよな?」

 

美紀「…………」

 

圭一の言い方は『自分だけでどうにか出来るか?』という確認ではなく、『自分だけでどうにかしろ』という様な言い方だ…。俺はお前を助けない。助けるつもりなんてない。だから自分だけでどうにかしろ、という気持ちがビシビシと伝わってくる…。

 

 

美紀「は…いっ……」

 

返事をする美紀だったが、正直に言わせてもらうとかなり厳しい。

この建物の出口はあの場所以外にも幾つかあるハズ……だから美紀だけは回り道をして、"かれら"のいない所からのんびり出て来ても良いのだが、その途中…もしくは屋敷に帰る途中で"かれら"に見つかったら……。今の美紀では、ほんの数体の"かれら"を避ける事も逃げる事も難しい。

 

なので本音を言うと圭一の助けが欲しいのだが……来る時に“足を引っ張らない”と約束した手前、言い出せない…。圭一の冷たい視線と声が、助けを求める事を許してくれない…。

 

 

圭一「じゃあ、俺はあそこから出て行く…。お前はまた他の出口でも見付けて、そこから出れば良い」

 

美紀「……あの……私…っ」

 

圭一「…何だ、まさか助けてとか言わないよな?足を引っ張らない、自分の事は自分でどうにかすると言ってたクセに、助けてくれなんて情けない事は言わないよな?」

 

圭一の言葉が耳を通る度、美紀は少しずつ呼吸を乱す…。

先輩が……彼が中々目覚めないのが辛くて、何もしないまま屋敷にいるのが辛くて、つい圭一に声をかけてしまった…。けど、それは間違いだった…。この男と二人で外に出るのは間違っていた……。この男は彼とは違う……自分がどれだけ困っていても、助けてはくれない。平気で見殺しにしてくる、冷たい人間だ……。

 

 

美紀(どうしよう…どうしよう…っ…)

 

こんな足で、無事に屋敷まで帰れる気がしない…。

きっと自分は今日、"かれら"に襲われて死ぬ……。

目の前にいる人間は…圭一は助けてくれない…。そういう人間なんだ、そういう冷たい人間なんだ、酷い人間なんだ……。

 

 

美紀「…………違うって、分かってる…のに…」

 

圭一「…?何を言っている…」

 

ポツリと呟いた言葉を聞き、圭一は美紀を見る。

美紀は額に緊張の汗を流しながら、圭一の事を見つめ返す。

 

 

美紀「あなたの事を酷い人だとか、冷たい人だとか……そういう事を思うのはお門違いだって分かってるんです……。今回の事は、私から言い出した事だから……私がワガママ言ってついてきただけなんだし、自分の事は自分で守るって事前に約束もしてたんだから、あなたの事を悪く思うのは間違ってるって……分かってるんです…」

 

圭一の言動は確かに冷たいが、そんな圭一と約束をしてでも外に出たがったのは他でもない自分自身…。どんな目に遭おうと、圭一を責めるのは間違いだと分かっている。

 

 

美紀「けど…でもっ………その……圭一さんは………意地悪です…」

 

自分はここで見捨てられる……そして"かれら"に襲われる…。

そう思っている美紀は瞳を潤ませながら圭一を睨み、意地悪だと言う…。この発言がどれだけ自分勝手な事なのかは分かっている…。ワガママな子供のような発言だと分かっている…。が、最近は色々あって心がボロボロになっていたため、これ以上余裕を保つ事が出来なかった…。

 

美紀「先輩だったら…私を助けてくれるのに…っ………」

 

ああ、自分は今とても情けない事を言っている……。圭一にこんな事を言っても仕方無いのに、八つ当たりするかのように言葉を放っている…。あまりの情けなさに胸がズキズキと痛み、美紀はほんの少しだけ涙を零したが、それをすぐに手で拭って更に圭一を睨んだ。

 

美紀「なんでそんなに冷たいんですか…?

なんでそんなに……意地悪なんですか…?」

 

圭一「…………………」

 

圭一は何か言いたげに口を開き、どこか驚いたような目をしている。

圭一の性格だと、こんな事を言われたら冷たく『勝手にしろ』とでも言ってその場を去ってしまいそうなものだが………圭一は半泣きになる美紀を前にして目を丸くしていた。

 

 

圭一「意地悪って………俺がか?」

 

美紀「他に誰がいますか…」

 

圭一「…………そうか……そう、だな………」

 

美紀の台詞に何度か頷き、圭一はその辺りを落ち着きなく歩き始める…。美紀に言われた言葉を…『意地悪』という言葉を自分でも小さな声で、呪文のように何度も呟きながら近場をぐるぐると歩き回り、少しして…美紀の前で立ち止まった。

 

 

圭一「………なか………てやる…から」

 

美紀「……え?」

 

聞こえた言葉が信じられなくて、美紀は今一度聞き返す。すると圭一は面倒そうに舌打ちをして彼女から目線を逸らし、背を向けてその場に座り込んでもう一度さっきの言葉を、今度はよりハッキリと告げた。

 

圭一「背中に乗せてやるから、早くしろ…。グズグズしてると本当に置いていくぞ」

 

美紀「えっ…?あ、あっ……はいっ」

 

さっきまでは置いていくつもりでいたようなのに、急にどうしたんだろう…。美紀は戸惑いの表情を浮かべながらも圭一の背に乗り、圭一は彼女の両足を抱えてゆっくりと立ち上がる。

 

圭一「回り道するのは面倒だ……このまま下に降りて、奴らの隙間をくぐり抜ける。捕まらないように思い切り走るから、振り落とされないようしっかり掴まっていろ」

 

美紀「は…はい…」

 

圭一の肩をしっかりと掴み、振り落とされないようにと力を込める。

その後、圭一はそばにあった階段を静かに降りて一階に向かい、群れの数体がこちらに気付いた瞬間……素早く駆け出していく。

 

 

美紀「ッ…!!」

 

女の子一人背負っているとは思えない程に速く、素早く、それでいて正確に動き、圭一は"かれら"の群れを避けていく。そばにいた者がこちらに掴みかかろうと腕を伸ばしてきてもそれを上手く躱し、駆け出して十数秒が経過した頃にはもう出口を抜けて外へと出ていた。

 

美紀「あ、ありがとう…ございます……」

 

圭一「奴らはまだそばにいる、離れた場所に行くまでそのままでいろ」

 

建物から出てすぐに背中から降りようとする美紀だが、圭一は彼女を背に乗せたまま早歩きで進んでいく…。確かに、周囲には"かれら"の気配がある。まともに走ることが出来ない美紀が地面に降りるのはまだ早いだろう。軽い足取りで建物を離れ、そのまま屋敷へ向かおうとする圭一の肩を掴んだまま、美紀は気になっている事を恐る恐る尋ねる…。

 

 

美紀「あの……何で私のことを助けてくれたんですか?少し前までは見捨てるつもりでいたみたいなのに……」

 

圭一はすぐには答えず、無言のまま進んでいく…。が、やがて小さくため息をつき、歩を進めたまま語り出す。

 

圭一「………世の中がこうなる前、少しだけ……本当に少しだけ、親しくしていたヤツがいた。さっきお前に意地悪だって言われた時、急にそいつの事を思い出して…それで…………まぁつまり、ただの気まぐれだ。最初は本気でお前を見捨てるつもりでいたし、そのせいでお前が死んでも構わないと思っていた……けど、気が変わった」

 

この男が…圭一が誰かと親しくしているイメージがちっとも湧かない…。

いったいどんな人だったんだろう……というか、男の人だろうか?女の人だろうか?あれこれ気になってきてしまった美紀はそれについて尋ねようとしたが、彼女が口を開くよりも先に圭一の方から話し始めた。

 

圭一「今思うと、変な女だった…」

 

美紀「女の人なんですか?」

 

圭一「……変な勘違いをされる前に言っておくが、別に恋人だったとかじゃない。ただ何回か会って、何気ない話をしていただけ……といっても話してるのはあいつばかりで、俺はそれを適当に聞き流していただけだった」

 

その女の人がどんな人かは知らないが、圭一が適当に話を聞き流している様子はイメージ出来る。きっとその人がどんな事を話しても返事など殆どせず、たまに反応したと思っても軽く頷いたりする程度だったのだろう。

 

 

圭一「俺といても会話なんて弾みやしないのに、あいつはしょっちゅう俺の所に来て一人であれこれと話し出す…。まぁ、それでもこんな反応ばかりされていたらその内来なくなるだろうと思ってたんだが、あいつは懲りる事なく俺の所にやって来て、ある日…ついに逆ギレし始めた」

 

美紀「…何があったんですか?」

 

圭一「ろくに会話に乗ってこない俺に対して『意地悪だ』とか『冷たい人だ』とか…失礼な事を言い始めたんだよ。さっきのお前みたいにな…」

 

美紀「っ……その、さっきはすいませんでした…。最近色々あって心の整理が出来てなくて、少し混乱してて…その勢いでつい酷い事を言ってしまって…。反省してます…本当にごめんなさい…」

 

圭一「お前は他のやつと比べると大人しいイメージがあったから少し驚いた。まさかあんな…子供みたいな事を言うなんてな。俺にあれだけハッキリ意地悪だと言ったのはあいつとお前の二人だけだ」

 

冷静になって思い返すと恥ずかしくて、美紀は一人俯きながら頬を染める。しかし、そんな中でも今の圭一の発言にまた気になるところを見付けてしまった。

 

 

美紀「意地悪だって言ったの…本当に私とその人だけなんですか?」

 

本当はもっといると思う…。だって、優しいか意地悪かで言ったら圭一は間違いなく後者だ。二人だけ、というのは少し信じられないが―――

 

圭一「ああ、“面と向かって言ってきた”ヤツはな…」

 

美紀「あ………なるほど…」

 

つまり、心の内で圭一の事を意地悪だと思っていた人間は大勢いただろうが、それを本人に向けてハッキリと告げたのは二人だけ…という事らしい。圭一は雰囲気も顔付きも怖めなので、直接言葉を告げられるような者は殆どいなかったのだろう。

 

 

圭一「普段は穏やかで礼儀正しいヤツなんだが、それだけに怒ると面倒なヤツだった…。少しお前に似てるな」

 

美紀「…私、怒ると面倒ですか」

 

圭一「普段物静かなヤツ程、怒ると面倒くさい」

 

そう言った後、圭一は鼻で笑って話を止めた。

その女の人についての話をもう少しだけ聞きたいという気持ちもあったが、それはまたその内、機会があったらということにしよう……。

 

 

 

 

 

 

∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼

 

 

美紀「…という感じで、圭一さんに助けてもらったんです」

 

自分が圭一に『意地悪だ』と言った事や、圭一が話した女の人の話だけは隠し、美紀はあの日の事を彼と胡桃に話し終える。あの圭一が美紀を助けたというのはやはり意外だと思ったらしく、彼も胡桃も揃って目を丸くしていた。

 

 

「…結構良い人なのか?」

 

胡桃「う、う〜ん…どうかな、分かんない……」

 

美紀「少なくとも、悪い人ではないと思いますよ」

 

あの日以降、圭一はほんの少しだけ甘くなったように思える。もっとも、それは今のところ美紀に対してだけで、他の者への態度は殆ど変わっていないようだが………。

 

 

胡桃「まさかとは思うけど、あの人の事好きになってたりしないよな?」

 

危ないところを助けてもらったというのが切っ掛けで、恋愛感情が芽生えていてもおかしくはない…。ちょっとドキドキしつつ胡桃は尋ねる。しかし、それに対する美紀の目はジトーッとしていて呆れ顔だ。

 

 

美紀「ないですよ…どちらかというと苦手なタイプって言ったばかりじゃないですか。助けてもらった事を感謝はしてますし、悪い人じゃないとも思ってますが、恋愛となれば話は別です」

 

胡桃「そ、そっか…!!あはは、そうだよな〜〜」

 

美紀「大体、今は恋愛とかするつもりないですし…。

まぁ、いずれ良い人と出会えたら良いなとは思ってますけど………」

 

そう言って美紀は立ち上がり、屋敷の方へと戻っていく…。

それに続くようにして彼と胡桃も立ち上がったのだが、その寸前、美紀は『胡桃先輩みたいに…』と小声で呟き、二人に背を向けたままニコリと笑った。

 

 

 





ほんの少しだけですが、圭一さんの過去についてのお話をさせてもらいました。次回のお話では、主人公である“彼”と胡桃ちゃんの絡みを送る予定です〜!他のお話もまた、少しずつ進めていく予定です。

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