軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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十七話『生きていれば』

新たなメンバー「穂村空彦」を加え、街を車で移動する彼女達。

 

 

 

 

「………………。」

 

 

美紀「………………。」

 

 

宛もなく移動する車の中、彼と美紀は横の席で会話している由紀と空彦を見ていた。

 

 

由紀「…でね、そこで始めてみーくんと会ったの!」

 

空彦相手に楽しそうに会話する由紀。

 

 

 

空彦「へぇ、じゃあ美紀は俺と同じでずっと一人で過ごしてたんだ?そのショッピングモールで。」

 

由紀の話を聞いて、空彦が美紀に言った。

 

 

 

美紀「いや…ずっと一人だった訳じゃ…。」

 

美紀が口ごもる。

 

 

 

空彦「何?誰か他の生存者と一緒だったの?」

 

 

美紀「いえ…由紀先輩達と会った時は私一人でした。」

 

 

 

空彦「会った時はって……じゃあその前までは誰かといたの?」

 

しつこく質問する空彦。

 

 

 

美紀「…あの…えっと。…」

 

答え辛そうにする美紀。

 

 

 

(………鬱陶(うっとう)しいヤツだな。)

 

美紀を質問責めにし、辛そうな顔をさせる空彦に彼は嫌悪感を抱く。

 

 

 

(あ…、あれは…。)

 

その時、窓の外の建物を見て彼は運転中の悠里に声を掛ける。

 

 

「すいませんりーさん、少し停めてもらって良いですか?」

 

 

悠里「ええ、良いわよ。どうかした?」

 

車をその場に停めて悠里が彼に言う。

 

 

「そこに本屋があったので、少し暇潰し用の本探してきても良いですかね?」

 

 

悠里「うん、かまわないわよ。じゃあ私はその間地図の確認でもしておくわ。…胡桃は?」

 

悠里が助手席の胡桃に尋ねる。

 

 

 

胡桃「う~んどうしようかな…、由紀は?」

 

胡桃は悩んでいるようで、由紀へ会話を繋ぐ。

 

 

 

由紀「行く~!マンガ探す!」

 

即答する由紀。

 

 

空彦「俺はいかない、アイツらがいそうで怖いし…丈槍さんも危ないから一緒にいようぜ!」

 

席を立った由紀を引き留める空彦。

 

 

由紀「え?…__くん、一緒に行っちゃダメかな?」

 

由紀が困った顔で彼に言う。

 

 

「もちろん良いですよ。傍を離れないようにして下さいね?」

 

彼が笑顔で答える。

 

 

由紀「えへへ…うん!分かった!」

 

由紀もそれに笑顔で答える。

 

 

空彦「危なくないかなぁ…本当にキミ一人で大丈夫なの?」

 

挑発的な口調で空彦が彼に言う。

 

 

「……。」イラッ

 

 

胡桃「大丈夫大丈夫。そいつ、今までずっと一人で奴らと戦って生き延びてきたんだから…お前もそうだろ?」

 

胡桃が空彦に尋ねる。

 

 

 

空彦「俺はアイツらとは戦った事は(ほとん)ど無い。…動き遅いんだから、無駄に戦う必要ないし。」

 

空彦が彼を見ながら言う。

 

 

(なんだ、その目は…僕が無駄に奴らと戦っているとでも言うのか?)

 

彼が心の声を口に出そうとした時、胡桃が空彦に言った。

 

 

胡桃「まあ確かに動きは遅いけどさ、囲まれたりとか道を塞がれたりして戦いを避けられなかった事とか無いの?」

 

 

空彦「…え?無いけど。」

 

 

胡桃「へぇ…運の良いヤツだな、あんた。」

 

胡桃はそう言って空彦との会話を終える。

 

 

胡桃「あ…__、あたしも車に残るからなんか面白そうな本あったらお土産に持ってきてくれ。」

 

胡桃が彼を見て言う。

 

 

「了解。」

 

 

由紀「じゃあ行こ?」

 

 

「あ…ちょっと待って下さいね。」

 

外に出ようとする由紀を待たせて、彼は美紀に言う。

 

 

「美紀さんも行きましょ?」

 

 

美紀「あ…はい!」

 

嬉しそうに返事をする美紀。

 

 

 

「それじゃあ、ちょっと見てきますね~!」

 

彼は悠里達にそう言うと美紀達を連れ車を降り、近くの書店に入る。

 

 

 

 

 

 

 

その書店は2階建てで平均的な書店よりも少し広く、1階に本、2階にDVDなどを置いているようだった。

 

 

美紀「思っていたより広いですね。」

 

美紀が書店の中を見回して言う。

 

 

 

「それじゃあ安全確認をするので、少しだけ待っていて下さい。」

 

彼が由紀と美紀の二人に言う。

 

 

由紀「うん、ラジャー!」

 

美紀「気を付けて下さいね。」

 

 

二人に見送られながら、彼は書店の1階部分をぐるりと一周して、二人の待つ場に戻る。

 

 

「お待たせしました、1階はどうやら安全なようですから好きに見て良いですよ。けれど念のためあまり僕から離れないで下さいね。」

 

彼が探索から戻って二人に言う。

 

 

 

由紀「わ~い!マンガみてこよ~!」

 

そう言って漫画コーナーに向かう由紀。

 

 

 

「…さて、僕も探すかな。…美紀さんは?」

 

 

美紀「私は小説見てきて良いですか?」

 

美紀が彼に尋ねる。

 

 

「小説コーナーは……漫画コーナーのすぐ近くか、はい!問題ありませんよ。」

 

彼は小説コーナーの位置を目視で確認してから美紀に言う。

 

 

 

美紀「ありがとうございます!じゃあ少し行ってきますね!」

 

そう言って嬉しそうに美紀は小説コーナーに向かった。

 

 

 

(嬉しそうだったな……小説とか好きなのかな?)

 

そんな事を思いながら彼は漫画コーナーに向かった。

 

 

 

その途中、一つの本が目に入る。

 

(これは!?…素晴らしい、胡桃ちゃんへの手土産にしよう。)

 

彼はその本を手に取り、改めて漫画コーナーに向かう。

 

 

 

 

 

 

彼が漫画コーナーに着くと既に由紀は数冊の漫画を抱えていた。

 

 

「はやっ!!もうそんなに選んだんですか!?」

 

そんな由紀を見て驚く彼。

 

 

由紀「えへ、面白そうな本沢山あって。」

 

漫画を抱えて笑う由紀。

 

 

「それは良かったです。」

 

そう言って彼も本を選び始める。

 

 

(ん?…なんだこれ?)

 

彼は巨大な目玉のようなキャラクターが表紙に描かれた漫画本を手に取る。

 

 

 

由紀「おぉっ!!ダリオマンを選ぶとは!__くん良いセンスしてるね!」

 

由紀が目を輝かせて言う。

 

 

「ダリオマン?…これ?」

 

彼が表紙のキャラを指さして言う。

 

 

由紀「それは違うよ!それは目玉壊すマン!ダリオマンの敵だよ!……けど敵といっても実は目玉壊すマンにも色々な訳があって…」

 

語りだした由紀を尻目に彼はそっとダリオマンを置く。

 

 

 

由紀「見ないの!!?」

 

由紀が予想外だとでも言いたげな表情で彼をみる。

 

 

 

「表紙が面白かったから手に取っただけで、別にそこまで興味は……。」

 

 

由紀「なッ……!!」ガーン

 

 

「…ごめんごめん、また今度見てみます!今回は保留という事で…。」

 

落ち込む由紀を見て彼はそうなだめた。

 

 

 

「というか、由紀ちゃんはこれ持ってかないの?」

 

彼がダリオマンを今一度手に取り、由紀に尋ねる。

 

 

 

由紀「私はもう最新刊まで読破しちゃったから。…また__くんが読み始めたらその時一緒に読み直して良い?」

 

 

 

「もちろん、では次回どこかの書店に寄るまでのお楽しみにしときますか…ここのダリオマン結構(あいだ)が抜けてますし…。」

 

 

飛び飛びの巻が並ぶダリオマンを見て彼が言う。

 

 

 

由紀「そうだね!…問題は次の最新刊はいつでるのか…。」

 

由紀が不意に言う。

 

 

 

「次?………ああそうか!!」

 

その言葉で、彼は重大な事実に気付く。

 

 

 

(漫画の事、全然考えてなかった!!世界がこんなになっていたら続刊なんて出ないじゃないか!!)

 

 

(いや……この世界が平和になればあるいは…。しかしそれもその時まで作者さんが無事なのが条件…!)

 

 

(………ショックだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「漫画家のみなさん……どうかご無事で…。」ボソッ

 

 

 

由紀「ん?なんか言った?」

 

 

「…いいえ、…ところで由紀ちゃん。もう完結している漫画でおすすめってあります?」

 

 

由紀「あ!それならね~……。」

 

 

彼はその後、由紀おすすめの本を数冊手に入れ、美紀の様子を確認に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…良いのありました?」

 

本を立ち読みしている美紀に彼が後ろから声を掛ける。

 

 

美紀「あ…はい!いくつか面白そうな本を選びました。」

 

そう言う美紀の足元をよく見ると、6冊の本が置かれていた。

 

 

 

「全部小説ですか?」

 

屈んでそれらを眺めながら彼が尋ねる。

 

 

 

美紀「はい。私、本とか…主に小説ですが、わりと好きなんです!」

 

手に持っていた本をその6冊の上に重ねて、美紀が言う。

 

 

「それは良かった。」

 

 

 

美紀「__さんは?」

 

彼が手に持つ本を見ながら美紀が尋ねる。

 

 

「ああ…由紀ちゃんおすすめの漫画をいくつか。」

 

 

 

美紀「先輩のおすすめですか。__さん自体が探してる漫画とか無かったんですか?」

 

 

 

「んー。探してるのとかは特に無かったんですよね、ただ暇潰し探してただけで。」

 

彼が手に持った漫画を見ながら言った。

 

 

 

美紀「あの…もしかして気を使わせてくれたんですか?」

 

美紀が彼に言う。

 

 

「…どういう事ですか?」

 

 

美紀「私が空彦さんにしつこく質問されてたから…__さん、気を使って私を本屋に誘って無理矢理会話を終わらせてくれたのかと…違いますか?」

 

 

 

 

「…以前の借りはこれで返した事にして良いですか?」

 

彼がそう言って笑う。

 

 

 

美紀「…あははっ!ええ、それで構いませんよ?あれは本当に助かった…ありがとうございました。」

 

美紀が軽く頭を下げる。

 

 

「いえいえ。」

 

 

 

 

 

美紀「…私、先輩達と会う少し前までは…友達と一緒にそこに暮らしていたんです。」

 

頭を上げた美紀が言う。

 

 

「……そうでしたか。」

 

 

美紀「空彦さんには言いたくありませんでしたけど、__さんになら話せます。その友達…圭って言うんですが、先輩達と会う数日前に一人で外に出ていってしまったんです。ただ閉じ籠って生きていくなんて嫌だって…。」

 

 

「……。」

 

 

美紀「私は外に出るのが怖くて、圭を追えませんでした。…そんな私に圭は言ったんです『生きていればそれでいいの?』って。」

 

 

「………。」

 

 

美紀「その通りですよね。…いくらこんな世界だからって、ただ生き延びるだけではそれはただ辛いだけなんです。だから私は先輩達の声が聞こえた時、怖さを圧し殺して外に飛び出しました、…そしてそれがあったから、私は先輩達の仲間入りを果たす事が出来ました。」

 

 

美紀「あの時、本当に先輩達を追って良かったと…心からそう思っています。先輩達と出会えたおかげで私は、圭に胸を張って生きていて良かったと言える日常を手に入れたんです。」

 

 

「………その圭って子は、今どこにいるんでしょうね…。」

 

彼が言う。

 

 

 

 

美紀「……私達が暮らしていた学校を卒業して出ていった時、見かけました…。」

 

 

「無事だったんですか?」

 

 

 

美紀「いえ……もう既に……。けれど、もしかしたら似ていただけで別人かも知れません!はっきり見た訳ではないので!」

 

美紀がそう言って笑う。彼にはその笑顔は強がっているように見えた。

 

 

 

「そうですか……無事だと良いですね!」

 

彼が美紀に笑顔で言う。

 

 

美紀「……はい!そう祈ってます!」

 

彼の笑顔に答えた美紀の笑顔は、先程までの笑顔より明るい物になっていた。

 

 

 

「…にしても生きていればそれでいいのかっていうのは、なるほど心に響く言葉ですね。…僕も今なら分かる気がします。」

 

 

 

美紀「__さんはずっと一人で生き延びていたんですもんね。」

 

 

 

「はい、あの時は何とも思っていなかったけど…ふとあの日々を思い返すと酷くつまらない毎日だったなと思いますよ。」

 

 

「けれど僕も美紀さんと同じように、皆と出会ってこうして楽しい日常を手に入れた…あの日あのデパートに行って良かったと…そう思います。」

 

彼は一人で過ごしてきた日々を思い返しながら言う。

 

(本当に…むなしい毎日だったなぁ…。)

 

 

 

 

 

 

「あなた達のような人に会えて、本当に良かったです。」

 

彼は美紀を見つめて言った。

 

 

 

美紀「ふふっ…なんか照れますよ?」

 

美紀が笑いながら言った。

 

 

 

「あはは、すいません。…じゃあ由紀ちゃん呼んで戻りましょうか。」

 

彼はそう言って由紀を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

美紀「私も__さんに会えて、良かったと思ってますよ。」

 

由紀を呼ぶ彼の後ろで美紀がそう呟く。

 

 

 

 

 

「…ありがとうございます。」

 

彼が振り返る。

 

 

 

 

 

美紀「…聞こえてたんですね。」

 

 

美紀はそう言って、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もし世の中がこんなふうになってしまったら、気になる漫画の続きも見れなくなるんですね…恐ろしい事です。


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