彼女の誕生日回だけは書かなきゃと思い、計画を練っていました!
扱いとしてはおまけ回に近いので短めですが、楽しんでもらえたら幸いです!
とある日の事………特にする事も無かった彼は由紀らと共に談話室でのんびりしていたのだが、その時、由紀が大きな声で……
由紀「わぁっ!それはお祝いしなきゃだね!!」
と、満面の笑みを浮かべながら騒ぎ始めた。
由紀、そして美紀と悠里、真冬と胡桃が集まっているその場所から少し離れた場所で休んでいた彼は何事かと思って彼女らの側へ寄ると、まず由紀に声をかける。
「お祝いって聞こえたけど…なんかめでたい事でもあった?」
胡桃「い、いや……別に大した事じゃ―――」
由紀「胡桃ちゃんね、今日がお誕生日なんだって〜♪」
一瞬、胡桃が気まずそうに口を開けたが、由紀が彼女の言葉を遮る様にして騒ぐ。どうやら皆で雑談をしていく内、今日が胡桃の誕生日だと知ったらしい。
「へ〜…誕生日ね…。そりゃめでたいけど……
…ええっと、そもそも今日って何日だっけ?」
胡桃「……8月7日…」
「ああ、7日ね…」
世の中がこんな風になってからというもの、日付けの感覚が無くなりかけていた彼だが、胡桃の言葉を聞いて今日の日付けを知る。今日は8月7日……胡桃の誕生日。
悠里「材料があったらケーキの一つでも作りたかったけど…
…今は難しいかしらね」
胡桃「いや…あまり気ぃ使わなくていいって」
真冬「ケーキは難しいけど、バースデーキャンドルならある…
今日の夕飯に立てておく…?」
胡桃「ん、んん……遠慮しとく…」
バースデーキャンドルはケーキに立ってるから良いのであって、普通の夕飯に突き立てられても何か違う気がする…。胡桃が苦笑してそれを断ると、真冬は顔を俯けてから『そう……残念…』と呟いた。
胡桃「りーさんから今日の日付けを聞いて、あ〜、そう言えば今日誕生日だったなぁって思っただけだ。プレゼントが欲しいとか、ケーキ食べたいとか言ってる訳じゃないんで、何にもしなくて平気だぞ?」
美紀「…でも、せっかくだしお祝いくらいしましょうよ。
何にも無しなんて、ちょっとつまらないですし…」
美紀にとって、胡桃は大切な先輩の一人…。
そんな彼女が誕生日を迎えたのなら少しでもお祝いしたい!
そう思ったからこそこう言ったのだが、美紀の言葉を聞いた胡桃は意味ありげにニヤニヤと笑い…
胡桃「…美紀、変わったよな。
あくまで他人の誕生日なのに、『何も無しなんてつまらない』とか言うようになったか……」
美紀「なっ、なんですかその言い方っ!?まるで…この前までの私が他の人の誕生日をちっとも楽しんだり出来ない冷血人間みたいな言い方してっ!!」
胡桃「うわっ!?そ、そこまで言ってねぇだろっ!!」
バンッ!!!と大きな音が鳴るくらいにテーブルを叩き顔を真っ赤にする美紀に対し、胡桃が慌てて言葉を放つ。美紀は少ししてからハッとしたような表情を浮かべるとほんのちょっと照れたようにして『コホン…』と咳払いをし、椅子に腰掛けた。
悠里「けど、美紀さんの言う通り…プレゼントとかは無しだとしても、お祝い自体はしたいわよね。そこまで派手には出来ないと思うけど……例えば……」
由紀「…はっ!!?帽子っ!!ほらっ、誕生日の人が着けるような……尖った帽子!!今日一日、あれを胡桃ちゃんに―――」
胡桃「いらない…!着けない…!!
あんなの着けて過ごすなんて恥ずかしいからな」
由紀が言ってるのは多分、パーティー帽子の事だろう…。
確かにあれを着けていれば誕生日感が一気に高まるが、当の本人…胡桃がそれを拒絶したので、由紀はショボンと肩を落とす。
由紀「じゃあ…せめてタスキだけでも…!!」
胡桃「やだ!絶対着けないっ!!!」
由紀「んん〜っ!胡桃ちゃん、ノリが悪い〜〜」
由紀はパーティ帽だけではなく、“本日の主役”とか書いてあるようなタスキを胡桃に着けさせたかったらしいが、上手くいかないものだ…。由紀がテーブルの上に顎を乗せながら頬を膨らませて抗議する中で話し合いはどんどん進み、今日は夕飯をちょっとだけ豪華にするという事……そして夜には胡桃の部屋に集まり、お祝いを兼ねて遊ぶという事が決まった。
悠里「じゃ、今日は少〜しだけ夜更しして騒ぎましょうか♪」
胡桃「その…ほんと、気とか使わなくて良いんだぞ?」
こうして友達に祝ってもらう事に慣れていないのか、胡桃は先程からほんの少しだけ落ち着きが無い…。けど、時折頬が緩んでニヤけかけている事もあるため、決して嫌な気分ではないようだ。
その後少しして、悠里達があれこれと楽しそうに雑談を始める…。
彼はみんなが会話に夢中になっている隙きにこっそりと胡桃の横へ身を移し、彼女にしか聞こえないくらいの声で呟いた。
「プレゼントとか……本当にいらない?
何か欲しいのがあるなら遠慮しないでよ」
せっかくの誕生日…もしも胡桃が望む物があるのなら、外で見つけ出して取ってきてやる。今日中には無理だと思うが、それでも、絶対に………。
彼はそう告げたが、胡桃は小さく鼻で笑ってから答えた。
胡桃「別に、欲しいのなんて無いよ。
さっきから散々言ってるけど、気ぃ使うなって」
「……本当に?本当に何もいらない??」
胡桃「あ〜……じゃああれだ、ちゃんと『おめでとう』って言え。
由紀達はすぐに言ってくれたけど、お前はまだだぞ?」
言われてみれば…確かにまだだった…。
彼は申し訳無さそうに苦笑してから胡桃の顔を見つめ…
「胡桃ちゃん、誕生日おめでとう…」
と、祝いの言葉を告げていく。
なんて事ない普通の台詞だが、それでも満足してくれたのか、胡桃は嬉しそうにニコニコと笑った。
胡桃「ふふふっ、それでよしっ♪」
椅子に座りながら両足をパタパタと揺らす胡桃は何時になくはしゃいでいるように見えるというか、本当に……本当に嬉しそうだ。彼女はその満足げな笑みを数秒間続けてからふと何かを思い付いたらしく、改めて彼の事を見つめだす。
胡桃「あっ………プレゼント…とは少し違うけどさ……
その………なんつーか……ええっと………出来るなら……」
彼は胡桃を待ったが、彼女は視線をチラチラとそらして歯切れの悪い言葉を放つだけ…。もどかしくなって『何か欲しい物があった?』と尋ねても、『いや…物とかじゃなくて…』と…訳の分からない事しか言わない。
胡桃「あ、あ〜〜………やっぱいいっ!何でもないっ」
「…何だよ、気になるなぁ。何かあるなら、遠慮しなくて良いのに」
胡桃「うぅ……本当にいいから、気にしないでくれ」
いてもたってもいられなくなり、胡桃は彼の前から立ち去って部屋の隅に移る。そして窓の外へ視線を移し、そのまま空を見上げた…。今の時刻は昼を過ぎた辺りだろう、今日の空はとても綺麗に晴れている。
胡桃(流石に……言えないよな………
そういうの
誕生日という力を借り、勢いのまま言おうか悩んだ…。
けど、やっぱり言えない…。
胡桃は空を見上げながらため息をつき、由紀達を…その後に彼の事を横目で見つめ、またもう一度ため息をつくと、心の中でだけそれを告げた…。さっき言えなかった、本当の望みを…。
胡桃(プレゼントとかどうでも良いから、出来るなら来年も…『誕生日おめでとう』って言って欲しいなぁ…)
他の娘の誕生日回についてはやれるかどうか微妙ですが、胡桃ちゃんだけは忘れずにやっていきますよ!!!…と言う事で、せっかくの誕生日回なので今回も胡桃ちゃんのイラストを描きました!もっと上手く描いてあげたかったけど、とりあえずは描けた!!!胡桃ちゃん、誕生日おめでとう!!!!
【挿絵表示】
…余談ですが、今回の話で本作の合計話数が300となりました。
ここまで続けられたのも、皆さんの応援があったからです!
本当にありがとうございます!!