軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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男性陣によるジェンガ対決、第二話目です!
前回のラスト、またしても圭一さんが敗北してしまったので、その罰ゲームを決めるところからスタートします。


百四十七話『つみき―2―』

 

 

 

 

圭一「ぐっ…!!!!」

 

抜き取った積み木を上へと重ねた瞬間、テーブル上にあるジェンガの塔は音を立てて崩れ落ちる…。目の前で崩れる積み木の塔…圭一はそれをただ見つめていく事しか出来ない。

 

 

穂村「はははっ!二連敗かよ、こりゃ良い!

さてさて、次の罰ゲームは〜〜……」

 

崩れ落ちた塔がバラバラの積み木となってテーブルに広がった時、穂村は喜々とした様子で例の“罰ゲームカード“を取り出す。勝ち誇ったような穂村の表情は見てるだけで腹が立つが、ルールはルール……圭一は前回と同様に二枚のカードを抜き取り、その内容を確認すると―――

 

 

圭一「……おい、冗談だろう…」

 

そう呟き、頭を抱えた…。

引き抜いた二枚のカードの内、一枚には【罰ゲームを実行するターゲット(女性)の名前】が…そして、もう一枚の方には【そのターゲットに対し実行する罰ゲーム内容】が書かれている。前回引いた時、圭一は【美紀に下着を見せてもらう】という内容の罰ゲームを実行し、美紀にビンタをされた。

 

そして今度の罰ゲーム内容は…【今身に着けている下着の色を聞く】というもの。実行するターゲットは…またしても【直樹美紀】だった…。

 

 

 

「あちゃ〜……」

 

穂村「二回連続で美紀を引き当てるなんて、面白くなってきたな!

ほれほれ、とっとと行って来い!!しっかり遂行してくれよ〜♪」

 

圭一「このっっ……!!」

 

カードをオープンした後に見せてきた穂村のリアクションに苛立つ圭一だが、ここで怒って器の小さい男だと思われるのも気に入らない。圭一は渋々立ち上がると彼と穂村を残して部屋を去り、そのまま美紀の部屋へ直行する。

 

 

…コンコンッ

 

辿り着いた美紀の部屋…圭一はそのトビラを少し強めにノックして、中にいるであろう美紀の応答を待つ。先程、彼女に『下着を見せてくれ』と頼み、そのままビンタされてからそう時間も経っていない…。恐らくまだ、起きているだろう。 

 

そう考えていた圭一の読み通り美紀はまだ起きていたらしく、部屋の扉がガチャリと開き、僅かに開いた隙間から顔を覗かせてきた…。

 

 

美紀「………今度は何の用ですか…?」

 

美紀は見た感じ、かなり警戒している。

まぁ、ついさっきあんな事を言われたのだから、このくらいの警戒は当たり前だろう。ここでまた変な事を言えば、今度は大声を出されるかも…。

 

 

圭一(…が、ここで逃げたら穂村(あのバカ)に何て言われるか分からん。美紀には悪いが、ここは……遠慮なくいかせてもらう!)

 

心の中で決意をして、開いた扉の隙間からこちらを見つめる美紀の瞳を見つめ返す。そしてそのまま、圭一はハッキリと……開き直ったようにその言葉を告げた。

 

 

 

圭一「美紀…今履いてる下着、どんな色だ?」

 

美紀「なっッ…!!?」

 

とりあえず、聞くだけ聞きはした…。

あとはもうどうにでもなれだ。

さっきみたくビンタしてくれても良いし、大声を出したって構わない。

 

覚悟を決めてその場に立ち尽くす圭一だったが、

次の瞬間に美紀が取った行動は全く予想していないものだった…。

 

 

美紀「…はぁ……まったく、もう……」

 

美紀は呆れたようにため息を吐き、扉を完全に開けて廊下へ出ると、圭一の前に立つ。彼女は廊下に出るなり辺りを見回し、最後に圭一の顔を見上げた。

 

 

美紀「穂村さんですか?それとも先輩ですか?」

 

圭一「………どういう意味だ?」

 

美紀「だから……圭一さんはあの二人のどちらかとゲームでもしてるんですよね?…で、それに負けたか何かして、罰ゲームでもやらされてるんでしょう?」

 

圭一「!!」

 

事情なんて知らぬハズなのに、美紀は全てを知っているかのように言葉を放つ。これには流石の圭一も驚きを隠せず、目を丸くする。

 

 

圭一「…どうして分かった?」

 

美紀「さっきあなたをビンタして部屋に戻った後、考えてみたんです。圭一さんってあんな事を言ったりするような人じゃなさそうなのに、急にどうしたのかなって…。で、考えた結果、あれは何かの罰ゲームなんじゃないかなって思ったんですよ」

 

圭一「………なるほど」

 

美紀「…で、圭一さんが付き合わされてるのは誰です?穂村さん?先輩?」

 

圭一「…二人ともだ。穂村のバカと、あの男………その二人とジェンガっていうゲームをして負けたから、罰ゲームとしてお前の所に来た」

 

ここまで気付かれているのなら無理に隠す必要も無い。

圭一が全ての事情を順に明かしていくと、美紀はまた呆れたようにため息を吐いた。

 

 

美紀「あの二人は……本当に仕方無いですね……」

 

圭一「まぁ、バカなのは主に穂村の方だがな…。ジェンガをやろうって言い出したのも、変な罰ゲームを考えたのも、全部あの野郎だし」

 

美紀「そう…なんですね…」

 

穂村はバカで変態だから気を付けろ。

真冬がよく言っていた言葉を思い返し、美紀は右手で頭を抱える…。

 

 

 

美紀「………穿()いてない……」

 

突如、美紀が顔を俯けながら呟く。

側にいる圭一でも聞き取れないくらい、小さな声で。

 

 

圭一「ん?なんて言った?」

 

美紀「…下着の色です。あの二人に何か聞かれたら、私は下着を穿いてないって言っていたと答えておいて下さい。あの二人はどうしようもない人達ですから、この答えを聞いたらきっと大はしゃぎしますよ」

 

その光景を想像したのだろう…。

美紀はそう言って、クスクスと笑いだす。

 

 

圭一「…確かに、アイツらなら大興奮間違い無しの情報だな」

 

美紀「でしょう?……あっ、これはあくまでもあの二人用に用意した嘘ですからね?私、ちゃんと下着穿いてますから、変な誤解はしないで下さいよ?」

 

圭一「ああ、言われなくても分かってる」

 

静かに答えると美紀は少しだけ微笑んでからペコリと頭を下げ、『では、おやすみなさい』と言い放つ。圭一はそっと頷いてそれに応えるとあの二人が待つ部屋へと戻り、結果を聞かれるや否や直ぐに答えた。『美紀は下着を穿いていない。だから、下着の色自体を聞く事は出来なかった』…と。

 

 

 

 

「なっ…!!?穿いてないっ!!?」

 

穂村「マジかよ!?美紀ってそんな大胆な娘なのかっ!?

ま、まさかとは思うけど…圭一さん、見せてもらったのか!!?」

 

圭一「いや、穿いてない…という情報を聞いただけだ」

 

やはりと言うべきか……目の前にいる二人の男は美紀が就寝時に下着を身に着け無いタイプの女性だと知り、かなり興奮している。これだけ綺麗に嘘情報に踊らされてくれるのなら、美紀も満足だろう。

 

二人は暫しの間興奮していたがやがて落ち着きを取り戻し、

ゲームが再開されていく…。

 

 

 

穂村「美紀はノーブラ……美紀はノーパン…っ……」

 

…いや、穂村だけはまだ、落ち着きを取り戻してはいなかった。

穂村は同じ言葉を何度も何度も、呪文のように呟きながらジェンガを積み重ねているが、その手は興奮のあまりプルプルと震えている。これではまともにゲームを続けられないだろう。

 

 

圭一(これは勝ったな…)

 

勝ちを確信した圭一が鼻で笑うのと同時、ジェンガが音を立てて崩れ落ちる。この瞬間、穂村の負けが決定した訳だが………

 

 

穂村「はいはい、罰ゲームね……分かった分かった……」

 

美紀の件が衝撃的過ぎてうわの空になっているのか、穂村はあっさり負けを認め、自ら率先して罰ゲームカードを引く。罰ゲームの内容は【本気で告白をする】…対象となる女性は【狭山真冬】だ。

 

 

 

「穂村が真冬に告白って……絶対振られるじゃん」

 

穂村「ふふふっ、まぁ見てろって。大人の超絶告白テクニックってヤツで、あの女をメロメロにしてくるからよ!」

 

その自信がどこから湧くのか知らないが、結果は見えている。

意気揚々と部屋を出て真冬のもとへ向かう穂村を見送った彼と圭一は暫しの間、休憩する事とした……。

 

 

 

圭一「……そう言えば、胡桃の体調は良くなったようだな」

 

「ああ、柳さんのおかげでどうにか……」

 

圭一「柳のおかげ………か…」

 

どんな手を使ったのか知らないが、柳は胡桃の体調を良い方へと導いてくれた。もしかするともうダメなのかも知れない……お別れの時が来るのかも知れない……一時、彼は心の奥底でそんな事を考えたりもしていたのだが、今朝、元気いっぱいの笑みを浮かべている胡桃を見てネガティブな気持ちは消え去った。

 

胡桃の身に何かあればきっと、自分は立ち直れない…。

なので、彼女を救ってくれた柳には本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

彼が胡桃の笑顔を思い返して静かに微笑む一方、

圭一は部屋の天井を見上げながら口を開く。

 

 

圭一「今こんな事を言うのはどうかと思うが、あまりアイツを…柳を信用し過ぎない方が良いと思うぞ。アイツは少し怪しいからな」

 

「確かに、ミステリアスな人ではあるね…」

 

どうしてこんな立派な屋敷を持っているのか…。

世界がこうなる前は何をしていたのか…。

気になる事は多々あるが、そこまで悪い人では無いと思う。

 

 

圭一「…ま、別にどうでも良いけどな………」

 

部屋の壁に掛けられていた時計がカチコチと鳴る音が響き、二人は無言のまま時を過ごす。その後少しして穂村が部屋へと戻ってきたが、不機嫌そうな顔をしているのを見るに……

 

 

 

圭一「遅かったな…大人の超絶告白テクニックとやらは成功したか?」

 

穂村「うっさい……ほっとけ。大体、狭山みたいなペタン娘は俺の趣味じゃねぇし、こっちから願い下げだっての……」

 

どうやら穂村の告白は失敗したらしい…。

まぁ、やる前から分かりきっていた事だが………。

 

狭山に振られた事で不機嫌になった穂村は部屋に戻ってくるなりジェンガを片付けるとそのままゲーム終了を宣言し、三人はそれぞれの自室へ戻っていく…。自室に戻る途中、彼は残りの罰ゲームカードの内容がどんなものなのかと気になったが……まぁ、また機会があればその内、明かされる時が来るだろう。

 

 

(何にせよ、負けなくて良かった…)

 

圭一がやらされたような罰ゲームを自分が、それも悠里を相手にやる事となったらもう大変。一時間や二時間では済まないくらいに長くて辛いお説教をされる筈…。今日、一度も負ける事が無くて本当に良かった…。

 

彼は安堵の表情を浮かべて自室へ戻り、ベッドの中へと潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 




みーくんが察しの良い子でよかった……。
作中では書かれませんでしたが、この翌日、彼と穂村(主に穂村の方)はみーくんに軽い説教をされました。けど、この二人はちょっとした説教なんかでめげるような男じゃないでしょうね…(笑)

穂村はド変態だし、彼もちょいとばかし変態さんなので……。

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