軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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せっかくなので今年もクリスマスエピソードを一話書いてみました。

一応本編世界が舞台ではありますが、時系列は不明…。
いつかのクリスマス、彼女らはこんな時を過ごしていました。



クリスマス回『くるみのおしごと』(☆)

 

 

 

 

すっかり寒い日が続くようになり、日によっては雪が降るようになってきた…。しかしどれだけ雪が降り積もり、外が歩き辛くなってきたとしても"かれら"は消えない。世界はまだまだ不安定なままだが、それでも…騒げる時には騒ぐべきだ。

 

 

 

 

穂村「ってな訳で、明日は思い切りパーティーしようぜ!!」

 

空から雪が降り、それが街を白く染め始めた頃…いつもの屋敷の談話室で穂村が騒ぐ。今に始まった事ではないが、この男のテンションに付き合うのはどうにも疲れる…。皆はソファーに座りながら冷ややかな視線を向けていたが、やはり由紀だけはそれに賛同した。

 

 

由紀「うんっ!明日は特別な日だもんね~」

 

穂村「おおよ!明日騒がなくていつ騒ぐってんだ!」

 

『お前はいつも騒いでるだろ…』と圭一が呟くが、興奮しきった様子の穂村にその言葉は聞こえない…。が、確かに明日はいつもより少しだけ特別な日ではある。これまで色々と大変な出来事の連続だったので忘れかけていたが、明日は12月25日……クリスマスだ。

 

 

由紀「ねぇりーさん、せっかくだからお祝いとかしようよ?」

 

悠里「ん~……そうね、せっかくだし、ちょっとしたパーティーくらいはやってみましょうか?」

 

あまり派手には出来ないが、それでも部屋を軽く飾り付けたり、食事に一工夫二工夫加えてほんの少しだけ豪華にするくらいは可能だろう。悠里が笑顔で答えると由紀が嬉しそうに跳ね回ったが、喜んでいるのは彼女だけではない。胡桃や美紀、真冬や彼も少しだけ嬉しそうに微笑んでいる。

 

 

「クリスマスパーティーね……七面鳥の丸焼きとかあるイメージだな」

 

胡桃「おお、いいなそれ。…けど、このご時世じゃ中々味わえそうにないなぁ…」

 

こんがりと焼けた丸焼きを頭の中でイメージすると、それだけでお腹がすいてくる…。この屋敷にはある程度の食糧が揃ってはいるものの、流石に七面鳥までは用意出来ない。少なくとも今年のクリスマスにそれを味わうのは無理だろう。また来年に期待だ。

 

 

美紀「あとは…ケーキとかですかね。クリスマスケーキ」

 

由紀「お~!大きい(いちご)が乗ってるのが食べたいなぁ」

 

悠里「苺…ね……」

 

以前まで暮らしていた巡ヶ丘学院高校と同様、この屋敷の屋上でも菜園をしていた悠里だが、苺は育てていなかった…。苺たっぷりのクリスマスケーキ…というのも、今年はお預けになるだろう。こちらもまた、来年に期待。

 

 

「……なるほど、あまり贅沢は出来そうにないな」

 

悠里「そうね…残念だけど、チキンやケーキはまた今度」

 

圭一「いや、その気になれば肉はどうにかなるだろう。穂村、今からお前がどこかの山奥にでも行って、食えそうな鳥を捕まえてくれば良い」

 

圭一が鼻で笑いながらそう告げると真冬もそれに賛同し、小さく頷いてニヤニヤと笑う。もうクリスマスはすぐそこまで迫っているが、穂村の頑張り次第では食事が豪華になる……かも知れない。

 

 

穂村「冗談よせって。こんな寒い日に外に出る気にはならねぇ」

 

真冬「残念…大きな鳥を捕まえてきてくれたら悠里が喜んだのに…」

 

小さな声で呟いた途端、穂村の耳がピクッと動く…。

やはり、この男は悠里に弱い。

 

 

穂村「ま、まぁ……りーさんがどうしてもって言うのなら…」

 

悠里「どうしても…なんて言いませんよ。鳥なんて無くたってパーティーは出来ますから、気にしないで下さい」

 

平和だった頃と比べると、食事もそこまで豪華には出来ない…。

…が、それでも良い。大切な人達と共に笑顔で過ごせるのなら、それだけで充分だ…。その後、悠里は由紀達と共に部屋を軽く飾り付け、そして夜を迎えた。

 

 

 

夕食を終え、それぞれ就寝するために部屋へと戻る…。

その後、穂村は談話室に呼んだ"ある人物"にこれでもかというくらい頭を下げて"ある事"をお願いしていた。

 

 

穂村「頼むっ!これはお前にしか出来ない事だっ…!!」

 

これまで、こんな必死になって頭を下げた事など無い。

このままだと土下座すら始めてしまいそうなくらいに頭を下げ続けていると、目の前にいた少女…恵飛須沢胡桃は呆れた表情を向けてツインテールを揺らす。

 

 

胡桃「そう言われてもなぁ……んん~……」

 

穂村「頼む!!マジで頼むっ!!!」

 

そう言って胡桃に突き付けるのは、一つの袋…。

穂村が言うにはこの袋の中にはサンタ風の衣装が入っているらしく、それを胡桃に着て欲しいらしい。

 

 

胡桃「なんであたしなんだよ…そういうのはりーさんに頼めって。あんた、りーさんみたいな人が好みなんだろ?」

 

穂村「それはそうだが……その……手に入れられたのはこの一着だけでな…。多分、りーさんじゃサイズが合わねぇ。俺の見た感じ、この服のサイズが合うのは胡桃なんだよ」

 

胡桃「え~……」

 

やはり、乗り気になれない…。

胡桃は瞳を閉じたまま『う~ん…』と唸ってどうすべきかと考えていたが、穂村は更にこう告げる。

 

 

穂村「明日はクリスマスだ。みんなの部屋の前にプレゼントを置いて驚かせたくないか?」

 

胡桃「プレゼント?」

 

穂村「この計画、実を言うと少~し前から準備を進めてたんだよ。でだ、りーさんもそれの手伝いをしてくれてて……ほれ、これを見ろ!」

 

穂村はそばにあった棚の中からまた一つの袋を取り出し、それを開く。

中にはプレゼント用にラッピングされた大小様々な箱が詰められており、胡桃は目を丸くした…。

 

 

胡桃「えっ、これ…りーさんと用意したのか?」

 

穂村「ああ、りーさんは由紀の喜ぶ顔が見たいんだとさ」

 

箱の中身が何かは知らないが、朝起きてこんな物が枕元にあったりしたら由紀は大喜びするに違いない。悠里はその反応を見て癒され、ニヤニヤするつもりなのだろう。

 

 

穂村「当然、プレゼントは由紀以外の分もある。どうだ、届けてくれるか?」

 

胡桃「……まぁ、りーさんまで関わってるなら仕方ないな」

 

ここで断るのは悪い気がするし、それに正直言うと…少しだけサンタ風の衣装という物に興味があった。だからこそ胡桃はその衣装の入っている袋を穂村から受け取り、そして…中を見て驚く。

 

 

胡桃「なっ…!?こ、これ…思ってたのと違うんだけど…」

 

穂村「へぇ、そう……」

 

プイッと横を向き、白々しく口笛を鳴らす穂村を見て胡桃は確信する…。

悠里は由紀の笑顔が見たくてこの計画を立てたのだろうが、この男は…穂村はこの衣装を自分に着せたかっただけだ。そうでも無ければ、皆にただプレゼントを配る…なんて計画にこの男が関わる訳が無い。

 

 

胡桃「…プレゼントは配る。けど、この服は着ない」

 

穂村「それは無し!!」

 

穂村はプレゼントの入った袋を勢い良く掴み上げるとそれを背後へ隠し、ニヤニヤと微笑む…。胡桃がその服を着ない限り、皆に配るプレゼントを渡さないつもりなのだろう。

 

 

胡桃「あ~もうっ!!わかったよ!着れば良いんだろ、着ればっ」

 

この男の企みの通りに動くのは少し嫌だが、もう仕方ない。

胡桃は衣装の入った袋を持って隣の空き部屋へ一人で移動し、その服に着替えていく…。最初はもっと普通のサンタっぽい服を期待していた。いや、これも色合い的にはサンタっぽいのだが、何というか…少しだけ露出が多い気がする。

 

着替えを終えた胡桃はそのまま隣の談話室へと戻り、穂村の前に立つ…。

そして顔を微かに赤く染めながらギリッと強い視線を向けると、右手を前へと伸ばしてプレゼントの入っている袋を要求した。

 

 

胡桃「ほら!着てきたぞ!!とっととそれよこせ!」

 

穂村「ふふふっ……よろしい!持ってけ!!」

 

袋を手渡した穂村は満足げに微笑んだ後、改めてその姿を眺めていく…。

胡桃は今、上半身に真っ赤なチューブトップ…そして下半身に真っ赤なミニスカートを纏った状態だ。サンタと言えば赤い衣装……という事で彼女にも赤の衣装を纏わせてみたが、それは思っていた以上によく似合っている。

 

 

穂村「いや~、いいねぇ……」

 

胡桃「うっ…ジロジロ見んな!」

 

いやらしい目でこちらを見てくる穂村の足を軽く蹴った後、胡桃はプレゼント入りの袋を持って廊下へと逃げる。あのままあそこに残っていたら、穂村に襲われそうな気がした…。まぁ、相手が穂村なら襲いかかってきたところで抵抗するし、大声だって出す。そうすれば誰かしら助けに来てくれるだろうから最悪の展開にはならないだろう。

 

 

胡桃「ってか…寒っ……」

 

チューブトップとミニスカートのみという格好で肌が思い切り出ている状態だからか、何時にも増して肌寒い。屋内とはいえ、この時期にこんな格好をするなんて自殺行為だ。もう夜も深い時間だし、由紀達は部屋で寝ているだろうから、早いところプレゼントを配り終えて元の服に着替え、そしてゆっくりと眠ろう…。なんて事を考えながら廊下を進んでいると、前方から話し声が聞こえてくる。

 

 

 

柳「で、また余裕のある時で構わないのだが、調べてきて欲しい場所があってね…」

 

圭一「ああ、分かった」

 

胡桃「っ…!?」

 

今いる一階から、皆の部屋のある二階へ上がろうとした矢先、柳と圭一の声がした。二人は仕事に関する話をしているらしく、その話声は胡桃の立つ階段の先から聞こえてくる…。そしてそれは段々と近付いてきて、とうとう二人が階段の上から現れた。それはあまりに突然の事で胡桃はその場から逃げる事が出来ず、ただプレゼント入りの袋を肩に担いだまま顔を俯けてその場をやり過ごそうとするが……

 

 

 

圭一「………お前、何をやっているんだ」

 

おかしな格好をしたまま階段のど真ん中に立っている胡桃を無視するのは流石に難しい事であり、圭一は何とも言えぬ表情を浮かべる。柳もまた、恥ずかしそうに顔を俯ける胡桃を見て苦笑いしている状態だ。

 

 

胡桃「いや…これは……そのっ……」

 

柳「…圭一君、これはそっとしておいてあげた方が良いと思うよ」

 

圭一「ん、ああ…それもそうだな……」

 

胡桃が何の意味もなくこんな真夜中に、こんな格好をして出歩く訳がない。柳は彼女の格好を見て大体の事情を察し、その場から立ち去ろうとする。しかし、胡桃は何かを思い出したかのように声をあげてから二人を待たせると、担いでいた袋を床へと下ろして中身を漁り始めた。

 

 

胡桃「あっ…ちょっと待ってて………ええっと、柳さんは…紫の箱…。圭一さんは……黄色の箱か……」

 

プレゼントと同じく袋の中に入っていたメモには誰にどの色の箱を渡すのかが記されており、胡桃はそれを頼りにして二人へプレゼントを手渡す。二人とも何も言わずにそれを受け取り、胡桃が袋を担ぎなおすのを見守った…。

 

再び袋を担いだ胡桃は二人の視線を受けながら気まずそうに微笑み、そっと口を開く。本当なら一刻も早くこの場を立ち去りたいのだが、やはり挨拶くらいはしておくべきだろう。

 

 

胡桃「あ……え~っと………メリークリスマス…」

 

柳「えっ?あ、ああ……メリークリスマス」

 

圭一「…どうでも良いが、寒くないのか、その格好」

 

胡桃「まぁ……かなり寒いけど、すぐに終わらせて着替えるから……」

 

圭一「……お前も苦労してるんだな」

 

珍しく、圭一が同情の眼差しを向ける…。

こんな真夜中にこんな格好をしてプレゼントを配り歩く胡桃の姿が、それだけ痛々しく見えたのだろう。胡桃はまた気まずそうに微笑み、二人の前から立ち去っていく。そうして二階へと上がった胡桃はメモに書いてある通り、各自の部屋の前へプレゼントを置いていった…。

 

 

胡桃(さて、あと一つ……)

 

由紀達の部屋の前にはプレゼントを置いたので、残るは彼の部屋の前のみ。そこにプレゼントを置きさえすれば、仕事は終わり…。元の服に着替え、そのまま寝るだけだ。

 

そう思っていたのだが、思いもよらぬ事が起きてしまう…。

彼の部屋の前に立ち、プレゼントを置こうとしたその瞬間……

 

ガチャッ……

 

 

胡桃「…あ」

 

目の前の扉が開き、彼が現れてしまった…。

 

 

「うぉっ!?な、何してんの…?」

 

部屋から出た瞬間、そこにいた妙な格好をしている胡桃と目が合い、彼は驚いたように声をあげる。そして彼女の格好をジロジロと見てから先程の柳と同様に大体の事情を察し、苦笑した。

 

 

「………それ、自分の意思で着てるの?」

 

胡桃「んな訳ないだろ、頼まれてんだよ……」

 

こんな格好、彼にだけは見られたくなかった…。

恥ずかしさのあまり頬を真っ赤に染めた胡桃は全ての事情を明かしながら袋を漁り、彼へプレゼントを手渡す。

 

 

「ああ、どうも…」

 

胡桃「お礼ならりーさんに言えよ」

 

これらのプレゼントを用意したのは悠里であって、自分ではない。

自分はただ、サンタっぽい格好をしながらその配達をしているだけ…。視線を逸らしながらそう告げる胡桃だが、ふとこんな事を思った…。もうじき日付が変わり、クリスマスになる。彼には色々と世話になってきたのだから、自分からもちょっとしたプレゼントを贈りたい…。

 

 

胡桃「…………」

 

せっかくのクリスマス、少しくらい思いきってみても良いだろう…。

胡桃は無言で手招きをして彼をそばへと寄せていくと、瞳を閉じてから頬へとキスを放った…。真っ赤な顔をしたまま彼の頬へ唇をつけ、5秒…10秒と経過する…。心臓の鼓動がドクンドクンと激しくなり、火が出てしまいそうなくらいに顔が熱くなった頃、胡桃はようやくその唇を離してニコリと笑った。

 

 

胡桃「今のはあたしからのプレゼントだ。…あと、口止め料でもあるな。プレゼントを配ったのがあたしだって、由紀達には言うなよ?今日見た事は全部内緒だ」

 

「ん、んん……了解…」

 

キスをされた事に驚いたのか、彼は少し戸惑いの表情を浮かべている。

しかしその表情はすぐに喜びの表情へと変わり、ニコニコと笑いはじめた。こうして喜んでもらえるのは嬉しい事なのだが、今になって自分のした事が恥ずかしくなる…。年に一度のクリスマスという事で少し浮かれてしまったが、流石にやり過ぎだったかも知れない。胡桃はまた一層に顔を赤く染めると、彼の視線から逃れるように背を向ける。

 

 

胡桃「来年はお前がこの役をやれよ!あたしはもうやらないからな!」

 

「まぁ、考えておくよ」

 

胡桃「………メリークリスマス……」

 

「ああ、メリークリスマス」

 

長かったようであっという間だった仕事が終わり、胡桃は元の服へと着替えていく。途中で柳達に会ってしまったり、彼と出会してしまったりというトラブルはあったものの、何だかんだ楽しい時間だった。

 

着替えを終え、自分の部屋へと戻った胡桃は直ぐ様ベッドへと潜り、静かに笑みを浮かべながら眠りに落ちる…。また来年もみんなと…彼と共に笑顔で過ごしていきたいと願いながら。

 

 

 

 

 




今回のクリスマスエピソードでは、胡桃ちゃんに頑張ってもらいました!

翌朝、部屋の前にプレゼントが置かれている事に気付いた由紀ちゃんは大喜びし、りーさんに癒しを与えた事でしょう(*`▽´*)各プレゼントの中身ですが、こちらは皆様の想像にお任せします!

因みに今回、穂村はりーさんからのお願いとして、例の衣装を身に纏った胡桃ちゃんの姿を一枚だけ写真に収めていました。そしてその写真を渡されたりーさんはニコニコと微笑みながら『可愛い~♡』と言い続け、胡桃ちゃんをからかい続けたそうです…。



…と!せっかくのクリスマス回なので、またイラストを描いてみました。
描いてみたのは、今回の話で一番活躍したあの娘です…!
プレゼントを配達している最中のワンシーンをイラスト化したので、彼女はこんな格好をして屋敷内を歩き回っていたんだな…と理解してもらえたら幸いですm(__)m





【挿絵表示】






という訳で、今回は胡桃ちゃんを描いてみました~。
わりと頑張ってはみましたが、描き終わってみると反省点ばかり見付かる…。胡桃ちゃんはこの何倍も、何十倍も可愛いのにっ!!!( `ー´)

衣装ももっと凝ったデザインにしたかったな…。
まぁまた少しずつ勉強していきますっ!!( ☆∀☆)

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