軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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十六話『少年』

 

 

 

 

スーパーで見つけた地図から、生存者らしき情報を得た彼女達は、地図の元の持ち主によって少年を見かけたと記されたアパートに向かっていた。

 

 

 

 

胡桃「…あ!あのアパートだな。」

 

助手席の胡桃が外に見えるアパートを指さして言った。

 

 

 

悠里「みたいね、地図に書いてあるその人…まだ無事だと良いけど。」

 

悠里はそう言いながら車をアパートへと走らせ、その目の前の駐車場に車を停めた。

 

 

 

 

「…先に降りてますね。」

 

外に出る為の装備の準備をしている悠里達にそう告げて彼はいち早く車を降りて外に出た。

 

 

 

 

外に出た彼はアパートとその周囲を確認した。

 

 

(アパートの外は何体か奴らが徘徊してるな…けれど数はそこまで多くはない、僕と胡桃ちゃんがいれば余裕で突破出来るだろう。)

 

 

(ただアパートの中が問題だな…このアパート、5階建てで…見たところ一つの階に部屋が約10室くらいか。全部で約50部屋…これをしらみ潰しに探さないとならないと……難関だな。)

 

 

そんな事を考えながら頭を抱えていると、悠里達も準備を終えて車から降りてくる。

 

 

由紀「ダメだよ__くん!先に行っちゃ!」

 

由紀が怒る。

 

 

 

「ああすいません。…少し安全確認をしてただけですよ。」

 

 

 

美紀「ちらほら奴らがいますね…。」

 

美紀がアパートの外を見て言う。

 

 

 

悠里「そうね…あのくらいの数なら、走れば問題無く中に入れそうだけど…。」

 

 

 

「いえ、アパートの中まで追いかけられたら面倒です。開けた屋外の方が楽に処理出来るので、そうしても良いですか?」

 

彼が悠里に尋ねる。

 

 

悠里「うーん…分かったわ。胡桃も手伝ってあげて。」

 

 

胡桃「はいよ!」

 

彼と胡桃はそれぞれナイフとシャベルを構えてアパートの外を徘徊する奴らを仕留めていった。

 

 

 

約4分後、二人で外を徘徊する奴ら、全部で12体を倒した。

 

 

 

胡桃「どうだ?もういないよな?」

 

最後の1体とみられる奴を倒して、胡桃が言った。

 

 

 

「多分それで最後だと、あとはアパートの中ですね。」

 

 

 

胡桃「そっか、とりあえずはお疲れさん。」

 

胡桃が彼に言う。

 

 

「はい、お疲れさま。」

 

 

 

悠里「二人共お疲れ。じゃあ中に入りましょうか。」

 

胡桃を先頭に、全員入り口からアパートの中へ入る。

 

 

 

中へ入るとそこは全部屋分の郵便受けとエレベーターのある広いフロアだった。

 

 

 

由紀「で…どこいく?」

 

由紀が大量の郵便受けを眺めながら言う。

 

 

 

「そこが問題なんだよなぁ…あの地図にはアパートのどの部屋とまでは書いて無かった。もしかしたらその少年もその時たまたまこのアパートに立ち寄っただけで、もういないって可能性も十分あり得る。」

 

 

美紀「けどいる可能性がある以上は探した方がいいですよね?」

 

 

悠里「ええそうね、一部屋ずつ調べていきましょうか?」

 

 

胡桃「うげぇ、さすがにそれは面倒だな。」

 

胡桃が嫌そうな顔で言う。

 

 

 

「…確かに、全ての部屋をまわるのは時間もかかりますし…奴らがいる部屋もあると思います。…となるとその方法はちょっと危険ですね。」

 

 

 

美紀「…ではどうしますか?」

 

 

 

由紀「外から大声で呼ぶ?」

 

 

胡桃「それも良いけどさ~、絶対奴らも寄ってくるよなぁ。」

 

 

 

悠里「…__さんはどちらが良いと思う?」

 

悠里が彼に尋ねる。

 

 

「…こうしましょう、車のエンジンをかけていつでも動けるようにしてからその少年を大声で呼び、返事も返ってこずに奴らだけが集まってきてしまったら大急ぎで逃げる。」

 

 

「もし返事が聞こえたら僕が助けに行くのでりーさん達は車で待機していて下さい。」

 

 

胡桃「あたしは?」

 

胡桃が尋ねる。

 

 

 

「胡桃ちゃんは僕がその少年を助けに行っている間、皆と車を守っていてもらえるかな?」

 

 

胡桃「分かった。」

 

 

美紀「なんにしても、一度車まで戻りますか。」

 

準備を始めるため、彼女達はアパートを出て車に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

車に戻ると、悠里がエンジンをかけて彼に合図する。

 

悠里「準備は出来たわ!呼んでみて!」

 

 

「分かりました。」

 

車外で待機していた彼は悠里のその言葉を聞いた後、アパートの方に向けて大声で叫んだ。

 

 

 

「おーーい!!誰かいますかー!!!」

 

 

すると暫くした後、アパート3階のベランダから男が顔を出し、叫んだ。

 

 

男「ここだー!来てくれ!」

 

男がそう言った後、それを確認して彼は再びアパートの中へ向かった。

 

 

 

胡桃「気を付けろよ!」

 

胡桃が彼の後ろ姿に声をかける。

 

 

 

「大丈夫!分かってるよ、皆も気を付けて!」

 

彼は一瞬だけ振り返って皆にそう言った。

 

 

 

 

(…さて、3階か…少しだけ遠いな、奴らが声に反応して寄ってくる前に戻らないとな。)

 

彼はアパートの中に入り、エレベーターの横に階段を見つけるとそれを一気に駆け上がった。

 

 

 

そして3階に上がると先程男が顔を出していた部屋へ向かう…するとその部屋の扉の前には1体のゾンビがいて、うめき声をあげながら扉をバンバン!と叩いていた。

 

 

 

(やっぱアパートの中にもいたか!さっきの男の声に反応してきたみたいだな。)

 

扉の中からは先程の男の助けを求める声が聞こえる、どうやらゾンビのせいで外に出れずにいるようだ。

 

 

彼はナイフを抜き、扉に気をとられている隙にゾンビの頭を一突きして仕留める。

 

 

「もう開けていいですよ。」

 

ゾンビが動かなくなったのを確認して、扉の中の男に声をかける。

 

 

すると扉がガチャリと音をたてて開き、中から男が現れる。

 

 

 

男は細い目付きと少し長めの髪をして黒色のシャツとジーンズを身に付けた微妙に冴えない少年だった、恐らくは彼と同い年くらいだろう。

 

少年「あんたが助けてくれたの?」

 

少年が彼に尋ねる。

 

 

「そうだけどとりあえずは早く逃げるぞ!外に仲間を待たせてる!」

 

彼は少年にそう告げて足早に駆ける。

 

 

少年「おい!待ってくれって!」

 

少年はそんな彼を追いかける。

 

 

 

(微妙に苦手なタイプが出てきたな…反射的にタメ口になってしまった。)

 

彼はそんな事を考えながら、少年を連れて悠里達の元へ急いだ。

 

 

 

アパートから出ると、既に数体の奴らが集まっていた。

 

 

 

胡桃「いたか!?なら急げ!」

 

胡桃が近付こうとするゾンビの頭をシャベルで叩きながら言った。

 

 

 

少年「おいおい…凄い数じゃないか…。」

 

集まった奴らを見て少年が怯む。

 

 

 

「この程度の数なら問題ないから、しっかりと僕の後ろについてきて下さいよ!」

 

彼はそう少年に言ってナイフを構えると、車への道を塞ぐ邪魔な奴らを数体倒して道を作った。

 

 

「良し!いける、走れ!」

 

道を確保してから彼は少年に言う。

 

 

少年は彼のその言葉通りに走り、車内に駆け込む。

 

 

胡桃「入ったな!?」

 

「うん!」

 

 

外の彼と胡桃は少年が車に乗ったのを確認してから車に乗り込んだ。

 

 

 

胡桃「いいぞりーさん!!」

 

車内に入った胡桃が、運転席の悠里に合図する。

 

 

 

その合図を受けて悠里は車を走らせた。

 

 

 

車は奴らの隙間を上手く縫って抜け出し、無事危険区域から出ることが出来た。

 

 

少年「助かった~!まさか他の生存者に会えるなんて!」

 

溜め息混じりに少年が言った。

 

 

 

 

悠里「…あれ?あなた穂村君!?」

 

運転席の悠里がバックミラー越しに言った。

 

 

少年「あれ!?若狭さんじゃん!」

 

少年が言った。

 

 

胡桃「ん?知り合い?」

 

胡桃が尋ねる。

 

 

悠里「え、ええ…以前私のクラスに転校してきた穂村空彦(ほむらそらひこ)君よ。」

 

 

胡桃「ああ、転校生か…だからあたしは知らなかったのか。」

 

胡桃が空彦を見て言う。

 

 

 

空彦「若狭さんも生き残ってたんだ…あれ?丈槍ちゃんもいるじゃん!」

 

空彦が由紀を見て言った。。

 

 

 

胡桃「え?由紀も知り合いなの?」

 

 

由紀「ん~?ごみん、分からないや。…喋った事とかあったっけ?」

 

由紀が空彦に尋ねる。

 

 

空彦「いや、話すのは今日が始めてだけど…丈槍さんちょっとした有名人だったから、一方的に知ってたんだ。」

 

 

胡桃「ん~?由紀ってそんな有名だったっけ?あたしは知らなかったけど。」

 

 

空彦「ああ、有名だったよ…ところであんたは誰?」

 

空彦が胡桃に言う。

 

 

由紀「ぷぷー!胡桃ちゃんは有名人じゃ無かったみたいだね!」

 

有名人と言われてはしゃいだ由紀が胡桃を挑発する。

 

 

胡桃「ほっとけよ!…あたしは恵飛須沢胡桃、あんたと同じ高校の3年だよ。クラスは違ったけどな。」

 

胡桃が自己紹介する。

 

 

空彦「ふーん、よろしく。」

 

愛想無く空彦が言う。それを見た彼は、胡桃が少しムッとしたのに気付いた。

 

 

(多分胡桃ちゃんもこいつの事苦手だな…。)

 

彼がそんな事を考える。

 

 

 

 

美紀「直樹美紀です。私も空彦さんと同じ高校の2年です。」

 

美紀も自己紹介する。

 

 

空彦「2年なんだ?後輩じゃん!よろしく美紀!」

 

馴れ馴れしく空彦が美紀の肩を叩きながら言う。すると美紀も胡桃と同じく、少しムッとした。

 

 

(……美紀さんも苦手なんだな。となると最後は由紀ちゃんだけど…。)

 

 

由紀「えっと、丈槍由紀です!よろしくね空彦君!」

 

 

空彦「よろしく!」

 

そう言って空彦は由紀に握手を求めた。勿論由紀はそれに応えて握手した。

 

 

(まぁ由紀ちゃんは大丈夫そうだな。…この人に苦手な人種は存在しないのかな?…ってか空彦も由紀ちゃんとだけ握手するのか。)

 

 

彼がそんな事を考えていると、握手を終えた空彦が悠里に改めて挨拶する。

 

 

空彦「若狭さんもよろしく!」

 

空彦が運転中の悠里に声をかける。

 

 

 

悠里「…あ、うん!よろしくね。」

 

悠里がそれに返事を返す。

 

 

(こりゃあ反応をみるに、りーさんもこいつが苦手なんだな。)

 

 

空彦「…で、あんたは?」

 

空彦が彼に尋ねる。

 

 

「…は?」

 

一瞬何の事か理解出来ずに彼がそう返事を返す。

 

 

 

空彦「は?じゃなくて…名前だよ名前!…ってかあんたも巡ヶ丘高校の生徒なの?」

 

空彦が彼に言う。

 

 

 

「違う、僕は他の高校の3年だ。名前は__。」

 

彼が空彦に目も合わせずに適当に自己紹介する。

 

 

空彦「ふーん……なんか態度悪いね。」

 

空彦が呟く。

 

 

「………。」イラッ

 

 

「悪かった、…よろしく。」

 

彼はそう言って愛想笑いを浮かべながら、空彦に握手を求めた。

 

 

空彦「まぁよろしく。」

 

空彦は握手はせずにそのまま椅子に座った。

 

 

「………。」イラッ

 

 

 

彼は苛立ちを抑えながら空彦とは逆方向の椅子に座り、テーブルに顔を伏せた。

 

 

(………一応僕は命の恩人なんだが?)

 

 

美紀「落ち着いて下さいね?」

 

そんな彼の向かいに美紀が座り、耳元で呟いた。

 

 

 

「ええ…必死に我慢してます。…アイツ、今まで会ったことないタイプの嫌な生存者です。」

 

彼も小声でふてくされながら言った。

 

 

美紀「…分かります。私も苦手です…多分胡桃先輩も…。」

 

美紀が助手席に座った胡桃を見て言った。

 

 

 

「でしょうね、胡桃ちゃん、自己紹介の時かなりイラッとしてましたもん。美紀さんもですが…。」

 

 

美紀「あの人…なんか馴れ馴れしいんですよ!いきなり肩とか叩くし、握手も由紀先輩としかしてないですしね。」

 

 

「僕なんか手を出したのに無視されたよ。」

 

 

美紀「されてましたね……ところで由紀先輩は本当にどんな人にも優しいですね。」

 

 

彼らとは反対方向の椅子に座り、空彦と向かい合って会話している由紀をみて美紀が言った。

 

 

「…まさかだけどさ、アイツもこれから一緒に暮らすの?」

 

彼が美紀にそう尋ねる。

 

 

 

 

美紀「分かりません、ただ助けてしまった以上は空彦さんにその気があればそうなるかも…。」

 

美紀が嫌そうな顔で言う。

 

 

 

「降りるって言ってくれないかな…悪いけどさ。」

 

彼がそう呟く。…その時。

 

 

 

空彦「若狭さん!俺もここに住んでも良いですか??」

 

空彦が悠里に尋ねる。

 

 

 

悠里「えっと…そうね…。」

 

 

 

 

 

(断れ!)

 

 

 

美紀(断って!)

 

 

 

 

胡桃「断れ。」ボソッ

 

 

 

由紀「え~?別に良いよねりーさん?」

 

由紀が言った。

 

 

 

 

 

__・美紀・胡桃(余計な事を!!)

 

 

 

悠里「まぁ…そうね?構わないわよ?……どうしてもならだけど。」

 

悠里が歯切れ悪く言う。

 

 

 

 

空彦「マジ!?やった!」

 

空彦が喜ぶ。

 

 

 

 

 

「…チッ!」

 

美紀「……。」

 

 

彼と美紀が頭を抱える。

 

 

チラッと彼が助手席に目をやると胡桃も頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

「助けなきゃ良かった。」ボソッ

 

 

美紀「まぁそう言わずに…頑張って慣れましょ?」

 

美紀が彼を慰める。

 

 

 

「…美紀さん、僕とアイツ……付き合うならどっちが良いですか?」

 

彼がテーブルに顔を伏せたまま美紀に尋ねる。

 

 

 

美紀「え!?…あの誤解はしないで欲しいですけど…さすがにダントツで__さんです。」

 

美紀が顔を赤くしながら彼に囁く。

 

 

 

「…ありがとうございます。…まあ相手がアレじゃ当たり前な気もしますけど…とりあえずは元気が出ました。」

 

 

 

美紀「はぁ…良かったです。」

 

 

 

 

 

そんな訳で新たなメンバーを乗せて走り出す車。

 

 

だがその車中の一部の空気は、とても重苦しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に助けなきゃ良かったなぁ…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新たなメンバー追加です。

空彦の顔は、言っちゃ悪いですが少しオタクな感じの顔を想像して下さい。

皆さんも読んでいる時、彼と同じように「降りろ!」と思ってくれていたなら幸いです。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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