軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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百三十八話『ごえい』

 

 

 

柳の提案により、悠里は皆と共に以前行ったことのある温泉へ向かう事にした。全員の賛同を得て一夜明かしたその日の翌朝、皆が出発の準備を整えて庭に停めていた車の前へと立っていたのだが…。

 

 

真冬「え…穂村達も来るの?」

 

いよいよ出発だという時、彼女達の乗るキャンピングカーの横で穂村もまた自身が使っているボロボロのワゴン車に荷物を積み込んでいた。よく見ると助手席には既に圭一が乗り込んでいたが、眠たげに目を閉じている。

 

 

穂村「なんだ、俺達が来ちゃいけないのか?」

 

真冬「圭一さんはまだ良いとして…穂村はちょっと…。今回は留守番してたら?ほら、柳さん一人だと危ないし」

 

穂村「あの人は一人で大丈夫だとよ。それより、外に出ていくお前らの方がよっぽど危ないだろ?何かあった時、狭山一人でコイツら全員守れるのか?」

 

穂村がキャンピングカーに乗り込もうとしていた由紀達をそっと指差し尋ねると、真冬はムッとしたような表情を見せる。いや、ムッとした表情をしたのは彼女だけでなく胡桃と美紀もだ。

 

 

美紀「そこまで心配してもらわなくても、自分の身くらい守れます」

 

胡桃「ああ、そうじゃなきゃここまで生き延びてないっての」

 

美紀達だって多少の危機管理能力はあるし、胡桃と彼は"かれら"と戦い慣れている。なので護衛が絶対に必要…という事も無いとは思うが、穂村はもう留守番する気など無いらしい。

 

 

穂村「まぁ、万が一ってこともある!そうなったらお前達の事をある程度は守ってやるから、そこそこ安心しとけ」

 

と言った後、穂村は目を輝かせながら『りーさんだけは死ぬ気で守るんで絶対に大丈夫!心の底から安心して下さいね!』と本人に告げる。その言葉を聞いた悠里は苦笑しながらも礼を告げると、そそくさと車に乗り込んでいった。

 

 

真冬「…はぁ、まぁ仕方ないか…。ところで穂村、凄い荷物だね?」

 

穂村「そ、そうか?そういう狭山も随分と大荷物に見えるけどな…」

 

真冬「別に、そんな事はない…」

 

穂村も真冬もやたらと大きなリュックやカバンを二~三つ持っており、それを各自の車両へと積み込む。他の者は多くてもリュック一つ程度の荷物で済ませている中、この二人だけは異様なくらいの大荷物を所持しているが、中身は何なのだろうか…。

 

 

穂村「俺達は目的地がどこにあるか知らないんで、そっちの車に後からついていく形になる。ってわけで先導よろしく」

 

全ての荷物を積み終えた穂村が車に乗った後、真冬達もキャンピングカーへと乗り込む。そして屋敷の門がゆっくり開いたところで車を発進させていくと、そのまま街の中へと進んでいった。定期的に外へ出ている真冬達とは違い、悠里達にとっては久しぶりの外出だ。

 

 

胡桃「もし疲れたら言ってくれよ。運転代わるからさ」

 

悠里「ええ、ありがとう」

 

運転中の悠里に一声かけた胡桃はそのまま車内を歩き、テーブル前の席に座っていく。するとすぐ隣に由紀がやって来てニコリと微笑み、真正面に美紀が座る。みんな久々の外ということで浮かれているのか、少しテンションが高いように思えた。

 

 

由紀「ふふ~♪久しぶりのお出かけだね~」

 

胡桃「…だな。けど、あんま気ぃ抜くなよ?」

 

由紀「うん!もちろん分かってるよ~」

 

ニコッ!と微笑みながら答える由紀を見た胡桃と美紀は、その笑顔につられて微笑む。外は未だに危険だらけと分かってはいるが、やはり皆と出掛けるのはすごく楽しい。

 

 

美紀「由紀先輩は少し目を離すとどこかへ行ってしまいそうですからね。しっかり見張っておかないと…」

 

胡桃「ああ、頼んだぞ」

 

由紀「もう!わたしはそんなに子供じゃないもん!みーくんも胡桃ちゃんも失礼だよ!!」

 

二人で由紀をからかって楽しげに笑うと、頬を膨らませて怒っていた由紀もすぐに笑い出す。その笑い声を聞いた悠里も嬉しそうに頬を緩ませていたが、胡桃達とはまた別の席にいる彼だけは違った。

 

 

真冬「…具合でも悪いの?もしかしてまだ風邪が治ってなかった?」

 

「えっ?いや…別に…」

 

先日まで引いてしまっていた風邪はもう治ったようだが、彼の様子はどことなくおかしい。まるで何かを企んでいるのではと思うくらい、緊張した様子でいるのが分かる。そんな状態の彼を真正面の席から見ていた真冬が首を傾げると、美紀達がジロリと視線を向けた…。

 

 

美紀「先輩、まさかとは思うけど、また覗きとかしませんよね?」

 

「……しない」

 

胡桃「おい、こっちを見ろ。あたしの目を見て言え」

 

窓の外を見ていた彼はその目線をゆっくり、少しずつ胡桃の方へ向けると、彼女の目をしっかりと見つめる。しかしそれを数秒保った途端に彼の額からは冷や汗が流れ落ち、目線も落ちつきなく泳ぎ始めた。

 

 

真冬「……もしかして、前の時にやったの?」

 

胡桃「ああ。まぁ、裸を見られる前に捕まえられたから良かったけどな。こいつは本当に油断も隙もないヤツだから、今回もどうせ覗くつもりで――――」

 

「違う違うっ!今回は大人しくしてるつもりだって!」

 

胡桃「じゃ、なんでそんなに冷や汗かいてんだよ?」

 

鋭い視線を受けた途端、彼はまた落ちつきなく目線を泳がせる。あからさまに怪しいように見えるが、彼は少ししてから胡桃達の目を見つめた。

 

 

「あの時は…悪いことしたなぁって反省してたんだよ」

 

美紀「…本当ですか?嘘ついてません?」

 

「本当だって。もちろん、今回は絶対に覗きなんてしないよ。もう一度やったところで、どうせバレるだろうし…」

 

胡桃「まるで、バレないならやるとでも言いたげだな…」

 

そりゃバレないならやるさ、当たり前だろう。

…そう言ってしまいそうになった彼は慌てて口を閉ざすとその後も『覗きはしない!』と言い続け、どうにか胡桃達の信用を得る。とはいえ、彼女達は少なからず警戒しているようだが…。

 

 

「はぁ………まったく…」

 

ため息をついてから窓の外を見つめ、今回は無理そうだな…と心の中で呟く。実のところ、彼女達が警戒していないようなら今回も覗きをしてみようと思っていたのだが、この調子だと挑むだけ無駄に終わりそうだ。

 

晴々とした空の下、彼がひっそりと(覗き)を諦めた中……彼女達の乗るキャンピングカーと穂村達の乗る車はその温泉へと向けて車道の上を走っていった。

 

 

 

 




いよいよ出発していった一同ですが、穂村と真冬ちゃんは何やら沢山の荷物を持ってきたようです。真冬ちゃんはともかく穂村はかなり怪しいので、しっかり警戒した方が良いですね…。

そして彼の方は隙があるようなら今回も覗きをしようと考えていたようですが、早くもみーくん達に目をつけられたので考えを改めたようです(苦笑)また色々な騒ぎが起きそうな予感がしますが、楽しんでもらえたらと思います!

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