軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回は風邪を引いてしまった彼の部屋へと胡桃ちゃんがお見舞いに行き、その手を握ったまま鼻歌を聴かせてあげたところで終わりました。今回は彼が胡桃ちゃんの鼻歌を聴いたまま眠りについた…その直後のお話となっています!

少し長めですが、のんびりと楽しんで下さい(*^^*)


百三十一話『あくむ』

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「………っく!」

 

椅子に座ったままガクッ!と前のめりになった拍子に目が開き、自分がほんの少しだけ眠っていた事を知る。

 

 

胡桃(やば…どのくらい寝てたんだろ)

 

部屋の奥にある窓の外へ視線を向けてみる…。

窓の外はまだまだ真っ暗であり、夜が明けていない事が分かった。やはり、眠っていたのはほんの十数分程度だろう。

 

その後、胡桃は自身の手が未だに彼の手を握っていた事、そしてそんな彼がいつの間にやらスヤスヤと寝息をたてている事に気付き、安堵の微笑みを浮かべた…。

 

 

 

胡桃「眠れたんだな…。ふふっ、あたしの子守唄のおかげか?」

 

ニヤニヤと微笑みながら彼の手をベッドの上へ戻し、胡桃は椅子から立ち上がる。彼も大人しく眠りにつけた事だし、もう自分の部屋へ戻ろう…。そう思ったのだが…。

 

 

胡桃「…………」

 

彼の寝顔を見ていたら様々な思いが浮かび、その身が自然とベッドの上に向かう…。気付いた時、胡桃は眠りについている彼の上に跨がるようにしてその寝顔をじっと見下ろしていた…。

 

そうしている内、少し前に彼が言ってくれた『もし世界が平和になって、一緒にいる必要がなくなったとしても、僕は胡桃ちゃんのそばにいたい』という言葉を思い出す。

 

 

胡桃(あたしと……一緒に………)

 

彼は何故、こんな自分と一緒にいたいと言ってくれたのだろう…。言動もキツくて、可愛いげなど全く無いこんな自分と一緒にいて楽しいのだろうか…。お世辞とかではなく、本心から一緒にいたいと思ってくれているのだろうか……。

 

 

胡桃「あた…しは………」

 

彼がそう思ってくれているとして、自分はどうなのだろう…。世界が平和になり、みんなと年がら年中一緒にいる必要が無くなったとして、それでも彼と共にいたいのだろうか…。その答えはすぐに出た。

 

 

胡桃「……いた…い…。ずっと…一緒がいいなぁ…」

 

覆い被さるようにして体を傾け、眠っている彼の上に身を寄せる…。

もし世界が平和になっても…ならなくても……ずっと彼のそばにいたい。

ずっとそばにいて、誰よりも近いところで彼を"感じていたい"。

 

 

胡桃「ん…っ……」

 

そんな未来を掴む為にはどうしたら良いのだろう。

胡桃はボンヤリとし始めた脳でそれを考えつつ、眠る彼の頬に唇を寄せる…。上に跨がったままそっと身を寄せ、彼の頭に両手を添えながらその頬へ唇をつける。

 

 

胡桃「っ…ぁ…」

 

みんなと…彼と…これからも一緒にいたい…。

そんな願望を叶えていくには、どうしたら良いのだろう…。

 

 

 

胡桃「あ…ぁ…っ」

 

その唇を頬から離し、胡桃は彼の寝顔をすぐそばから見つめていく。

このままずっと彼のそばにいたい…。もう、一瞬だって離れたくない…。

そのために…自分は何を、どうしたら良いのだろう………

 

 

 

胡桃(…ああ、わかった…)

 

一つの答を導き出し、胡桃はニヤリと笑う…。

しかし笑うと言っても微かに口角が上がっているだけで目は微塵も笑っておらず、暗闇の中で赤く光るだけ…。胡桃は鋭い八重歯がチラリと覗いている口を再び彼の顔へ寄せていくと………

 

 

 

胡桃(こうしたら…いいんだ…)

 

 

 

 

彼の首筋に向けて大きく口を開き、そのまま躊躇(ためら)いなく噛み付いた…。それはただふざけているだけとか、じゃれるような甘噛みだとか、そんなものではない。全ての歯を容赦なく立てたまま顎に力を込めて深く噛み付き、彼の首に食らい付く…。

 

 

胡桃「あぐ…っッ…んァ…ッ…」

 

突然走った痛みに彼は目を覚まし、覆い被さっている胡桃の身を腕で押し退けようとする…。しかし胡桃は爪が食い込むほど強く彼の両肩を掴んで離そうとせず、ただ必死にその首筋を噛み続けた。ガブリと食らい付いたまま顔を横や上へと動かしてその肉を引っ張り、口に収まる大きさになるよう切り裂く…。

 

彼の肉が千切れるブチブチという音が耳へ響き、その首筋から吹き出た赤黒い液体がベッドに広がっていく…。彼は自分の首筋に食らい付いたまま離れない胡桃を見て悲しそうにしていたが、その一方で胡桃はとても満たされていた…。

 

 

胡桃(こう…すれば……よかったんだ…)

 

肌を濡らしている血液…口内に転がる肉片……そのどちらも彼のモノだ。

そして自分はそんな彼のモノを口へと運び、念入りに咀嚼(そしゃく)しては飲み込んで胃に落としている…。つまり、自分は彼と一つになれているのだ…。

 

しかし、これではまだ足りない…。

もっと、もっと、もっと、もっと、もっと…彼と一つになりたい…。

胡桃はその一心で口を動かし、彼の身に食らい付いていく…。

彼はもうピクピクとしか動かなくなっていたが、胡桃はちっとも気にしない。彼は今、少しずつ自分と一つになり、ずっと一緒にいられるようになったのだから…。

 

 

もう決して離れない…。

いつまでも…いつまでも……ずっと一緒だ…。

 

この時、胡桃はこれが自分にとっての幸せなのだと信じて疑わなかった。

どう考えてもおかしいのに…これこそが本当の幸せだと思えた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

胡桃「っ……うわぁっッ!!??」

 

反射的に大きな声をあげながら胡桃は辺りを…目の前にあるベッドの上に眠る彼を見る。ついさっきこの口で食らいついてしまったハズの彼は寝息を立てながら穏やかな顔で眠っており、その体に噛み傷も無ければシーツに血が広がったりもしていない…。どうやら、先程のは夢だったらしい。

 

 

胡桃「はぁっ…!はぁっ…!!」

 

酷い悪夢を見てしまった…。

彼の眠るベッドの横…そこに置いた椅子の上に座っている胡桃は肩が上下するくらいに呼吸を乱しており、額には嫌な汗を浮かばせている。

 

胡桃は彼が無事な事を改めて確認すると握っていた手を静かに離し、大慌てで部屋をあとにする…。あんな夢を見てしまうなんて…。なんの躊躇いもなく彼に食らいついてしまうなんて…。

 

 

 

胡桃(くそ…くそっ!どう…なってんだよ…)

 

彼の部屋を出てすぐ廊下の壁に寄りかかり、頭を抱えてうずくまる…。

自らの口で彼に食らいつく感覚……血や肉の味……最後に見た悲しげな顔……それらはただの夢とは思えないくらい鮮明で、生々しいものだった。

 

もしかすると、あれは近い未来の自分の姿なのかも知れない…。

そう思うと一気に怖く…そして悲しくなってしまい、胡桃はそのままズルズルと腰を下げて遂には両膝を抱えて丸くなる。そんな時、誰かが彼女の方へと寄ってきた。

 

 

 

穂村「おう、そんなとこで何やってんだ?」

 

胡桃「……ああ、あんたか…」

 

ふと聞こえた声に顔を上げ、廊下の先に立っていた穂村に言葉を返す胡桃だが、その顔は穂村でも分かるくらいに真っ青だ。何かおかしいと思った穂村は眉をしかめてから彼女のそばへと歩み寄り、廊下の壁に背をつけたまま膝を抱えるその身を見下す。

 

 

 

穂村「やけに元気ないな…ははっ、彼氏とケンカでもしたか?」

 

胡桃「………………」

 

よく見ると、彼女の座っている場所の真横にある扉は彼の部屋へ続く物だ。それに気付いた穂村はニヤニヤした表情で冗談を言ってみたが、胡桃は大した反応を見せない…。彼女のことだ…てっきり顔を真っ赤にして怒ってくると思っていたのだが、今はそんな元気すら無いらしい。

 

 

 

穂村「…あ~~、マジでどうした?」

 

予想外のリアクションをされた事により何だか気まずくなってしまい、穂村は人差し指で頬を掻きながら尋ねる。すると、胡桃は微かに上げていた顔を抱えていた両膝へと埋めた。

 

 

胡桃「あのさ……もしも柳さんが間に合わなくて、あたしが外の奴らみたくなったらさ……あんた、あたしを殺してくれるか?」

 

穂村「…はぁ?」

 

両膝に埋められている顔から放たれたその声は微かに震えており、泣くのを堪えているようにも思える。穂村の知る限り、胡桃は今日一日ずっと元気で明るかった。それが何故、今になってこんな事になっているのか……穂村は訳の分からぬまま首を傾げる。

 

 

 

穂村「何で俺が…。そういうのは他のヤツに……そうだな、あの少年にでも頼め」

 

胡桃「アイツにはもう、前から頼んでる…」

 

穂村「なら俺に頼む必要なんざ――――」

 

胡桃「けど、多分アイツには無理だ…。最近になってようやく分かった……アイツさ、あたしが思ってたよりもずっと優しいヤツなんだよ。だから多分、アイツはあたしがあたしじゃ無くなっても殺せないような気がするんだ…」

 

もし殺せたとしても、彼はその事をずっと後悔しながら…自分を責めながら生きていく事になるだろう。だからからこそ、胡桃は深く悩む…。いなくなってまで、彼に迷惑はかけたくないから…。

 

 

 

穂村「はぁ………ってかさ、その言い方だとアイツはともかく、俺は優しく無い人間だって言われてるように聞こえんだけど…」

 

胡桃「……ごめん」

 

穂村「そんな顔で謝られてもなぁ…。まぁ何にせよ、俺はお前を殺す気は無い。もちろん、奴らみたくなったお前が直接俺に襲いかかってきたら話は別だけど……そういうよっぽどの状況じゃない限りはあの少年か…もしくは美紀か、その辺に始末させる」

 

穂村は冷たく言い放ち、その場を離れようと背を向ける。しかし、まだ話は終わってない…。胡桃は慌てて立ち上がり、穂村に向けて口を開いた。

 

 

 

胡桃「みんなにはもう迷惑かけたくないんだよ…。今でさえ、毎日毎日余計な気を使わせちゃってるのに……この上、死んでからも迷惑なんて…かけたくない…」

 

穂村「…それでも、いざって時は仲間の手でやってもらった方が良い。お前だって、最期は俺にやられるより仲の良いヤツにやられる方が良いだろ?」

 

胡桃「そんなの…どうでもいいよ…」

 

とは言え、確かに最期の時は大切な友達の手で送ってもらいたいと心の隅で願っているのも事実だ…。が、それだとまた由紀達に苦労をかけてしまう。それだけは絶対に嫌だ。

 

 

胡桃「頼む……お願いだから…」

 

泣きそうな目で穂村を見つめて頼み込む……が、穂村は未だにどこか能天気な表情をしているというか…真面目に話を聞いている気がしない。

 

 

穂村「あのねぇ、俺だって別に意地悪で言ってるんじゃねぇんだぞ?」

 

胡桃「…………」

 

穂村「はいはい、じゃあもし仮にだ……明日、お前が外の奴らと同じようになっちまったとしよう!それで由紀やあの少年が変わり果てたお前を見てショックを受けてる中、俺が横から割って入ってお前の事を殺したらどうなると思う?」

 

穂村は呆れたような表情をズイッと胡桃に寄せ、その答えを尋ねる。胡桃は少し顔を俯けてからその答えを考えてみたが、結局分からずに首を横に振った。

 

 

 

穂村「じゃあ正解発表!正解は……俺一人だけが由紀に美紀、狭山やあの少年、そしてりーさんからもメチャクチャに恨まれて終わる…でした!」

 

胡桃「いや、そうはならないだろ…。みんなだって、全部分かってくれると――」

 

穂村「それが分からないんだよなぁ…。いいか、人間ってのは…特にお前らみたいなタイプの奴等はな、目の前で仲間が殺されたらこっちの都合なんてお構い無しにブチギレるんだよ…。どう見てももう助からない状況だった。殺してやるのが最善の手だった。いくらそう言ったって聞きやしない」

 

参ったように頭を抱えたかと思えば今度は深いため息をつき、穂村は胡桃の目を見つめる…。穂村の言い方だとそれはただの予想ではなく、過去に実体験があるかのような雰囲気だ。

 

 

 

穂村「まぁ、それはさておきだ…。どうして急に『殺してくれ』なんて言い始めた?」

 

胡桃「その……夢を見たんだ………あたしが、アイツの事を襲う夢を…」

 

上げていた顔を静かに俯け、穂村にその夢の事を語っていく…。

あれはただの夢にしてはやけにリアルであり、彼の首筋に噛み付いた時の感触から血の味までハッキリと伝わってきた。なので、あれは普通の夢とはまた違うものに思えて酷く不安だったのだが、その全てを話し終えた時、穂村は呆れた表情を浮かべていた…。

 

 

 

 

穂村「どうしたのかと思えば…ようするにただ怖い夢を見ちゃった~って事かよ?おいおい…もうガキじゃねぇんだから、そんなの見たくらいでクヨクヨすんなって」

 

小さく鼻息を漏らし、穂村はまたヘラヘラと笑う…。

穂村からすると胡桃が見たのはよくある普通の悪夢であり、深く気にする必要は無いと思っているのだろう。

 

しかし、胡桃にはあの夢がもっと悪いものに思えて仕方ない…。

彼女は俯けていた顔を勢い良くバッと上げると、鋭い目で穂村を睨む。

 

 

胡桃「ッ…!だからっ、ただの夢とは違うって言ってるだろ!!あれはもっと生々しくて…その時の感覚だってあたしはハッキリと――――」

 

穂村「はいはい、じゃあその部屋開けてアイツの様子を見てきたらどうだ?それでもしアイツが首から血を流してくたばってたら、その時は思い切り悩め。けど、アイツが変わった様子なくスヤスヤ寝てるままだったらお前が見たのはただの夢だ。だからもう悩むのは止めろ」

 

胡桃「っ……」

 

実際、彼は今も部屋の中でスヤスヤと眠っており、胡桃もその寝顔を確認している。なので胡桃が見たものはただの夢なのだろうが、どうにも不安が拭いきれない…。

 

 

 

胡桃「けど…あたしは……もう……」

 

穂村「……いいか、俺、狭山、そして圭一さんは奴らに噛まれて死にかけていた状態から復活して今も生きてる。俺らを助けたのは柳さんで、その柳さんがお前を治してやるって約束してんだ。お前は何も考えず、ヘラヘラ過ごしながら薬が出来るのを待ってれば良いんだよ」

 

胡桃「……………」

 

恐らく、穂村は穂村なりに胡桃を元気付けようとしているのだろう。

しかし、胡桃の表情は中々明るくならない…。

 

 

 

穂村「ったく、ただの夢一つでそこまでヘコむかね…。いいか?どれだけリアルだろうと夢は夢だ!俺だって昨日、りーさんを部屋に入れてそのまま朝までご褒美タイム…ってな感じの夢を見たが、実際のところはどうだ?俺はりーさんとイチャイチャ出来てるか?」

 

胡桃「いや…全く…」

 

穂村「だろ?つまりそういう事だ。夢の中でどれだけ嫌な事があろうと、幸せな事があろうと、一度(ひとたび)目が覚めちまえば全部無しになる。現実とは全く関係ないんだよ」

 

胡桃「…………そう…かな」

 

穂村「当然だろ。…ほら、分かったら気持ち切り替えて現実を見ろ。お前はアイツを食ってなんかいねぇし、今はまだ可愛い可愛い女の子のままだ。何なら鏡のある場所まで連れてってやろうか?」

 

胡桃「…あははっ…いや、大丈夫」

 

元気付けるかのような手付きで肩をバシッと叩かれ、胡桃の顔に笑みが戻る。この男…穂村の事はただの危ないヤツ、変態だと思っていたのだが、穂村が放つ言葉の一つ一つを聞いていると不思議と前向きな気分になれた。

 

 

 

胡桃「……ありがとう、少し元気になれたよ」

 

穂村「ありがとう…ねぇ…。狭山のヤツもそうやって礼が言えるくらい素直なヤツなら、少しは可愛げがあるのにな」

 

胡桃「ふふっ、そうかもな」

 

ペコリと小さく頭を下げ、穂村に感謝の気持ちを伝える。

胡桃はそのまま穂村の横を通り過ぎ、自分の部屋へ戻ろうとした。

 

 

 

 

穂村「狭山のヤツ、お前らの前だとどんな感じだ?」

 

胡桃「えっ?」

 

そこを去ろうとした途端に尋ねられ、胡桃はくるりと振り向く。

穂村は横の方に視線を逸らして落ち着きなく爪先を上下に揺らしており、少し気まずそうな雰囲気だ。

 

 

 

胡桃「どんなって……まぁ、普通?」

 

穂村「いや、だからその普通ってのがどんなかって聞いてんだよ」

 

胡桃「って言われても…普通は普通だ。普通に話して、普通に勉強して、普通に騒いで、普通に笑ってるよ」

 

最初の頃は少しばかり距離があったが、由紀や美紀が積極的に話していったおかげで真冬も変わった…。朝になれば皆と一緒に朝食を食べるし、時間のある時は誰かの部屋に集まって何でもない話をしたりするし、勉強したりもする。

 

今の真冬は、みんなと仲良く普通の日々を過ごしている…。

胡桃がそう伝えると、穂村は小さく頷いた。

その表情はほんの少しだけ、ホッと安堵したようなものに見えた。

 

 

 

穂村「あぁ…そっか…」

 

胡桃「…なんだよ、真冬の事が気になるのか?」

 

穂村「俺があのペッタン()の事を気にしてるって?ははっ、ご冗談を…。俺が気にしてるのは、りーさんのような巨乳美人さんの事だけだ」

 

穂村はヘラヘラと笑い、そのまま一人歩き出す。その背中を無言のまま見送ろうとも思ったが、胡桃には気になる事があった。

 

 

 

胡桃「あんたさ、つい最近まで他の人を襲ったりして物資を奪ったりしてたんだよな?」

 

穂村「ふふん、今だって当てがあればやってやるぞ。なんだ、何か欲しい物でもあるのか?」

 

胡桃「そうじゃなくて……その、あたしらへの対応を見てると…そこまで悪い人には見えないのになぁと思ってさ」

 

最初に出会った頃…いや、今でもその鋭い目付きやチャラチャラとした茶髪に少しばかり身構えてしまうが、さっきは悪夢を見て落ち込んでいた自分の事を元気付けてくれた。もしかすると、そこまで悪いヤツでもないのかも知れない…。

 

 

 

穂村「お前らへの対応が甘いのは、お前らが狭山のお気に入りだからだよ。お前らに冷たくしたり、ましてや傷付けたりしたら狭山のヤツに殺されるからな」

 

胡桃「ああ…そういう事か」

 

穂村「ま、可愛い女の子が好きだから甘くしてる…ってのもあるけどな。りーさんは言わずもがな美人だし、美紀も悪くは無い…。由紀のヤツは少しガキっぽいが、まぁあれはあれで可愛いな…。それにお前も結構可愛いと思うぞ」

 

胡桃「なっ!?気持ち悪いこと言うなよっ!」

 

ニッコリと微笑む穂村に『可愛い』と言われ、胡桃は半歩下がってから顔を青くする…。褒め言葉だと分かってはいるが、相手が穂村だと何故か素直に喜べない。

 

 

 

穂村「おいおい、何だよその顔は!?同じことをアイツに言われたら真っ赤な顔してニヤニヤするクセに!!」

 

胡桃「に、ニヤニヤなんてっ…!」

 

胡桃は拳を固め、穂村を睨む。しかし穂村はその視線を全く気にもせず、突如何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた。

 

 

 

穂村「そうだっ!胡桃、俺の部屋に良い栄養ドリンクがあってだな……お前も毎日色々と考えて心身ともに疲れてるだろうし、少しお裾分けを……」

 

胡桃「栄養ドリンク?」

 

突拍子の無い発言を受け、胡桃は首を傾げる。

一方、穂村は言葉を途中まで放ったところでピタリと口を閉じ、軽いため息をついてから胡桃に背を向けて歩き出した。

 

 

 

穂村「…やっぱいいや。今のお前にアレをやるのはさすがの俺も少し気が引ける。また今度飲ませてやるよ」

 

胡桃「は…はぁ……」

 

よく分からない事を言ってその場を立ち去る穂村を見送った後、胡桃も自分の部屋へと戻る事にした。眠ったらまた妙な夢を見るのではと不安だったが、この日はあれ以上夢を見ることなく眠る事が出来た。

 

 

 

 

 

 




物語の終盤、穂村は胡桃ちゃんに『栄養ドリンクが~~』等とおかしな事を言っていましたが、奴は何の事を言っているんでしょうねぇ(すっとぼけ)

まぁ何はともあれ、さすがの穂村も今回ばかりは空気を読んで大人しくする事にしたようです…。というか、今回の穂村は何時になくマトモだった気が……。もしかすると、あれは(ニセ)穂村だったかも知れない…(真顔)


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