軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

143 / 323
今回はあまり間隔を空ける事なく本編を更新出来ました(苦笑)
本編の方で書いていきたい話もまだまだありますので、出来るだけテンポ良くやっていけたらと思います(*´-`)


百二十九話『ふあん』

 

 

 

 

柳「さて、ではそろそろ帰ることにしようかな…」

 

未奈の屋敷にある広間にて雑談を交わしていくこと三~四時間…。

柳は窓の外がうっすらと暗くなっている事に気が付くと腰掛けていた椅子から立ち上がり、未奈へそう告げる。

 

 

 

未奈「あっ…もうお帰りですか?」

 

柳「ああ、あんまり長居しても悪いからね。それに、私の方は私の方で自分の家でやらなくてはならない事もある。まぁ、また近い内にお邪魔させてもらうさ」

 

未奈「……そうですか」

 

 

悠里「じゃあ、私達も帰りましょうか。別々のタイミングで帰ると門の開け閉めが大変でしょうし」

 

柳が立ち上がると悠里も立ち上がり、帰る準備を始めていく。由紀や未奈、白雪はまだまだお互いに話したい事がありそうな様子だったが、ワガママを言って相手を困らせるのも悪いと思ったのだろう……どちらも大人しくそれを受け入れ、静かに席を立つ。

 

 

 

由紀「また来るからね」

 

未奈「ええ、何時だってお待ちしてますよ~♪」

 

由紀と未奈が別れの挨拶を交わしていく中、彼や美紀、胡桃や悠里達も弦次や誠、宮野や白雪達と挨拶を交わしていく。そんな中、柳が未奈のそばへと静かに歩み寄っていった。

 

 

 

柳「未奈くん、ちょっといいかな?」

 

未奈「はい?なんでしょうか…?」

 

柳「君さえ、君達さえ良ければだが…家へ来るかい?」

 

未奈「…えっ?」

 

柳の発言を聞いた未奈は目をまん丸にして驚き、思わず返事を返せなくなる…。そんな未奈の反応を見た柳は『ふふっ』と鼻で笑った後、更に言葉を放っていく。

 

 

 

柳「自分の家に人を招くのはあまり気乗りしないんだが、未奈くんとは顔見知りだしね。ここで声をかけないのも失礼だろう?どうかな…君達さえよければ全員を家に招待するが…」

 

未奈「……いえ、私は大丈夫です。確かに柳さんのお宅なら今以上の暮らしが出来るでしょうし、悠里ちゃん達とも一緒にいられる…。けど…それでも…」

 

未奈はほんの少しだけ言葉を詰まらせ、数秒間沈黙する…。

その後、彼女は広間内をクルッと見回していったと思うと、どこか弱々しくも見えるような微笑みを浮かべた。

 

 

 

未奈「それでも、ここが私の家だから…。お父さんやお母さんとの思い出のある、大切な場所だから……。だから、私はここに残ります。お誘い、ありがとうございました」

 

ペコリと丁寧なお辞儀を見せ、未奈は微笑む。

 

 

柳「…そうか」

 

未奈「……あっ!!でもゲン君やヒメちゃん達はそっちに行きたがるかもっ…!ちょっ…ちょっと待っててもらっていいですかっ!?み、みんなの意見も聞かないとっ!!」

 

柳「ああ、構わないよ」

 

未奈はあたふたとした様子で広間を駆け回り、柳に持ち掛けられた話を自分の屋敷に住む全員へと告げていく。しかし皆今の生活で十分満足しているらしく、未奈がここに残りたいというのなら自分達もそれに付き合うと言ってくれた。

 

 

 

未奈「えっと、みんなももうしばらくはここにいてくれるみたいです」

 

柳「そうか。まぁ、それならそれで良いさ。これからは定期的に狭山君をここへ寄越すようにし、そちらにもある程度の物資を分けるようにしよう」

 

未奈「えっ!?い、いや、そこまでしてもらうのは悪いですよ…」

 

真冬「気にしないで良い…。ほんの散歩ついでだから」

 

真冬は未奈の背後から小さく呟き、こちらへ振り向く彼女の驚いたような表情を見てニコッと微笑む。未奈はまだ遠慮しているかのようにビクビクとしていたが、柳と真冬にそう言われては断る事も出来ずに小さく頷いた。

 

 

 

未奈「ほ、本当にたまにでいいよ?家に来る途中に真冬ちゃんが怪我でもしちゃったら大変だし…」

 

真冬「ボクの心配ならしなくていい…。こういう事、慣れてるから」

 

未奈「…強いんだね。私も真冬ちゃん達くらい強い女の子になりたいなぁ。そうすればゲン君やマコトさんの役にも立てるのに…」

 

真冬はもちろん、由紀達の行動力にも憧れていた未奈は落ち込んだように肩を落としてため息をつく…。自分も彼女らのように臆する事なく外に出ていけたらどれだけ皆の役に立てるだろうかとか、ついそんな事を考えてしまう。

 

 

 

柳「未奈くんはそんな事を気にしなくて良いと思うがね。人にはそれぞれ、得意不得意があるものだ。君にも何か…君にしか出来ない事があるんじゃないか?」

 

未奈「……………何も無いと思いますぅ。私なんてただの役立たずで、ボーッとしたままそこにいる事しか出来ない無能な存在としか…」

 

真冬「随分とネガティブな子……前からこんななの?」

 

柳「どうだったかな……確かに少し変わった子ではあったが…」

 

深いため息をつきながら辺りをトボトボと歩く未奈を眺め、柳は苦い笑みを浮かべる。未奈も色々と苦労しているようだが、何にせよ元気なようで少し安心もした。由紀達は屋敷から庭へ出ると乗ってきた車の前に立ち、帰宅の準備をしていく。

 

 

 

 

悠里「じゃあ、また近い内に顔を見せに来ますね」

 

未奈「うんっ!それまで元気でね」

 

 

誠「お嬢ちゃんも元気でな」

 

真冬「う、うん……また来る」

 

未だ気まずそうに顔を俯ける真冬を見て誠はヘラヘラと笑い、彼女の頭を撫で回す。まるで親戚のおじさんか何かのようだ…。

 

 

 

弦次「お前も元気でな」

 

「ん、ああ…そっちも…」

 

宮野「…何か辛そうね?どこか具合悪いの?」

 

「いや、大丈夫……だと思う」

 

彼は曖昧な返事を返すと微笑みを浮かべ、いち早くキャンピングカーへと乗り込んでいく。その足取りはどこかフラフラしているように思え、顔色も優れないように見えたが…。

 

 

 

白雪「…そう言えば、くるみ、あのお兄ちゃんとは何かあった?」

 

車に乗り込んでいく彼を見た白雪は手招きして胡桃を呼ぶと、周りには聞こえないよう小さな声で囁く。当然、胡桃はその言葉に頬を赤く染めた。

 

 

 

胡桃「な、何かってなんだよ…。特になにも無いって…!」

 

白雪「へぇ~、そうなんだ」

 

胡桃が彼の事をどう思っているのか…。白雪は以前にそれを本人から教えられていた為、ニヤニヤとした表情で彼女の事を見る。この事は胡桃と白雪…二人だけの秘密であり、白雪はこれを未奈達にも教える事なく過ごしてきた。

 

 

 

白雪「早くしないとあのお兄ちゃん、他の人と付き合っちゃうかもよ」

 

胡桃「まぁ…それならそれで良い。あたしから出来る事なんて、今は何にもないからな…」

 

白雪「今は…ってどういうこと?」

 

胡桃「………ま、色々あんだよ。大人の事情ってのはフクザツなんだ。それよりもほら、そっちはどうなんだ。ミナとゲンジは今、付き合ったりしてるのか?」

 

白雪「う~ん……よくわかんない。あの二人、前から仲良しだから」

 

胡桃「あ~…それもそうだな」

 

二人は今も近い距離に立っており、時折楽しげな会話を交わしては微笑んでいる…。恋人関係にあるのかどうかは不明だが、少なくとも友人以上の関係であるのは間違いないのだろう。

 

胡桃はそんな未奈と弦次を見て少しだけ羨ましいと思いつつ、由紀達と共に車へと乗り込んで未奈の屋敷をあとにした…。柳も真冬と共に自身の持つ車へと乗り込み、彼女らのあとに続いていく。

 

 

 

 

 

 

美紀「みんな元気そうで良かったです」

 

由紀「そうだね。なんか安心したよ」

 

悠里「また遊びにでも行きましょう。私達が顔を見せれば未奈さん達も安心するでしょうから」

 

運転席から放たれた悠里の言葉を聞き、後部の座席についていた由紀達は頷く。しかし彼だけは座席前のテーブルに顔を伏せたままぐったりとしており、反応が鈍い…。

 

 

 

美紀「先輩?大丈夫ですか?」

 

「……あぁ…多分」

 

ゆっくりと上げられたその顔は微かに赤くなっており、息も絶え絶えになっている。心配になった美紀はハッとした様子で彼の隣へと移動すると、その額に掌を当てて温度を確認した。

 

 

 

美紀「あっ…ちょっと熱いかも知れないですね」

 

胡桃「マジ?風邪か?」

 

「かも知れない…。とりあえず、美紀の手が冷たくて気持ちいい…」

 

彼は微かに苦しそうだが、それでも額に当てられた美紀の手の感触を楽しんでいるかのように笑う。具合が悪いと言っても最低限の力は残っているらしい…。

 

 

 

美紀「ニヤニヤ出来る余裕があるなら大丈夫そうですね…」

 

悠里「けど、帰ったらお薬飲んで休んでなきゃだめよ。今は余裕があっても、ほうっておいたら酷くなっちゃうかも知れないから」

 

「はいはい……」

 

再び机に突っ伏し、そのまま窓の外に流れる景色を眺める。

一行を乗せた車はすぐに柳の屋敷へと辿り着き、降りて早々に中へと入ると、広間で留守番していた穂村…そして圭一のそばに寄る。

 

 

 

悠里「あの、風邪薬とかってありますか?」

 

圭一「風邪薬?」

 

穂村「…っていうと、誰か風邪引いたんスか?」

 

悠里「ええ、彼がちょっとね…」

 

悠里が穂村達と話す中、彼は後方にあるソファーへ座ってダルそうに顔を伏せていた。そばでは由紀や美紀が心配そうな表情をして付き添っている。

 

 

 

穂村「薬ねぇ…どうだったかな。無いって事はないと思うけど、俺らはそういうのの場所把握してないんで…」

 

悠里「そう。じゃ、真冬さんか柳さんに聞けば良いかしら?」

 

穂村「そういう事っスね。ところで少年、本当に風邪なのか?実はどっかで噛まれて感染した、とかじゃないか?」

 

息を乱しながら顔を伏せる彼を見て穂村がヘラヘラと言う。それはほんの冗談であり、穂村自身本気でそう思っている訳ではない。しかしその言葉を聞いた瞬間、由紀達の表情が苦い物に変わっていく…。

 

 

 

美紀「バカ言わないで下さいっ!先輩はずっと私達と一緒にいたし、今日は"かれら"と戦う事もありませんでした。感染するようなきっかけがありません!」

 

穂村「分かってるって、ほんの冗談だよ。何もそんな怖ぇ顔しなくても…」

 

圭一「少しは考えてから物を言え。そこまで空気の読めていない冗談、俺だって言わないぞ…」

 

美紀の顔が思いの外不機嫌な物になってしまった為、さすがの穂村も少しだけ気まずそうに顔を逸らす。そうこうしている内に柳と真冬も広間へと現れ、悠里は二人に彼の事を話した。

 

 

 

柳「風邪薬か…。狭山くん、しまってある場所は分かるかい?」

 

真冬「うん…持ってくるから少し待ってて」

 

柳「ああ、ゆっくりでいいよ。その間、私は念のために彼が本当に問題なさそうか検査をしておく」

 

美紀「けど、先輩は本当に噛まれたりは――――」

 

柳「分かっているとも。けれど感染や風邪とはまた別の病気にかかっている可能性もあるだろう?だから"念のため"だ。…さて、私の部屋まで歩けるかな?」

 

「ああ…そこまで弱ってはいないんでね」

 

彼は検査を受けるべく柳の部屋へ…。そして真冬は他の部屋にあるという風邪薬を取りに。それぞれが広間を出ていった…。きっとただの風邪だ…だから大丈夫だとは思うが、広間に残った由紀達は彼の事が少し心配になる。

 

しかしそれから十数分後、そんな心配は無用だったと知る事になる。柳が彼を連れて広間へと戻り『ただの風邪だ』と告げたからだ。

 

 

 

柳「ま、何にしてもゆっくりと休む事だね」

 

「んー、そうさせてもらいますかね…」

 

真冬「薬を渡しておくから、これを飲んで少し寝てるといい」

 

「ありがとう…。じゃあ少し寝てくる」

 

由紀「ゆっくり休むんだよ?ムリしちゃだめだよ?」

 

由紀が言うと彼はニヤッと微笑み、片手を振ってそれに応える。ただの風邪だと判明して安心はしたが、彼の体調はだんだんと悪くなっているようだ…。広間から出る際のふらふらとした足取りを見ていたら何だか心配になり、結局は悠里が彼を部屋まで送り届けていった。

 

 

 

胡桃「どうだった?」

 

悠里「薬を飲ませてからベッドへ横にさせたから、このまま休んでいればすぐに治る…と思うけど、どうかしらね」

 

彼を部屋へ送り届けた後、悠里は広間へ戻って席につく。

彼には出来るだけ早く元気になって欲しいものだが…。

 

 

 

美紀「…とりあえず、しばらくは安静にさせてあげましょうか」

 

悠里「そうね…。夕飯も部屋まで運んであげた方が良いかしら?」

 

少しでもゆっくりさせてあげた方が治りも早くなるかも知れない。今日のところは夕飯も部屋まで持っていってあげよう…。そう決めて悠里が頷く中、穂村は何とも言えぬ表情を浮かべていた。

 

 

真冬「穂村、どうしたの?何時にも増してヘンな顔してるけど…」

 

穂村「いや…熱を出せばりーさんが部屋に来てくれるんだ。羨ましいなぁ…と思ってさ。俺も風邪引きたいねぇ…」

 

真冬「…バカじゃないの?」

 

圭一「コイツがバカなのは分かりきっていた事だろう。今さら反応するな…。…そうだ、どっかの川にでも飛び込んでしばらく泳いできたらどうだ?濡れた体のまま外をブラブラしてりゃ風邪くらい引けるかも知れないぜ?」

 

穂村「マジかっ!?よしっ!ちょっくら行ってくる!!」

 

穂村は瞳をキラキラと輝かせて広間をあとにし、そのまま外へと飛び出していく…。"かれら"という危険な存在がいるにも関わらず、風邪を引く為にと外へと飛び出すようなバカはあの男だけだろう…。

 

 

 

真冬「このまま帰って来なければ良いのに…」

 

圭一「同感だ。…が、残念ながらああいうヤツはしぶといと決まってるんだよな。夕飯までには生きて帰ってくるだろう…。しかも、目当ての風邪すら引くことなくな…」

 

圭一の読み通り、穂村は夕飯の時間ギリギリになって屋敷へと戻ってきた。本当にどこかの川で泳いで来たらしく全身ずぶ濡れだったが、ただ一度のくしゃみすらしない程に元気なまま…。

 

穂村は『風邪を引けなかったからりーさんに夕飯を運んでもらえないっ!』と悔しがっていたが、実際のところ穂村のような男が風邪を引いたところで悠里はおろか、誰一人として夕飯を運んだりはしないだろう…。

 

 

 

 

 

 




風邪を引いてダウンしてしまったので、次回から数話の間はさすがの彼も大人しくしていることと思います(^^;

…にしても、穂村君は本当に元気な人だなぁ(汗)
因みに穂村君は今屋敷内にいるメンバーの中だとりーさんの事を気に入っており、彼女を相手にする時だけは少しだけ丁寧な言動をとるよう心掛けているようです。こうやって振る舞えばりーさんの心を鷲掴みに出来ると信じているようですが、現実はそんなに甘くはありません!(笑)

次回の更新も出来るだけ近い内にと思います!
ではでは~(^-^)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。