軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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かなり久々となる、本編の更新です!
本編の方を待っていた方がいらっしゃるのなら、お詫びを言っておきます…。
長いこと待たせてしまい、申し訳ありませんでした(汗)


本当に久々の更新なので、前回のあらすじを簡単に…。

由紀ちゃん達一行は真冬ちゃんと共にお風呂に入って仲直り。
そして、真冬ちゃん達が暮らしている屋敷の主である柳さんが胡桃ちゃんの治療に手を貸してくれると約束し、それまでの間…彼女達もこの屋敷に暮らすことに…というところが前回までです!(本当に簡単に済ませてしまいました…)



少~しだけ長めですし、相変わらず見辛い文ですが…どうぞごゆっくりとご覧ください_(._.)_


第十章・ともだち
百二十一話『ここから』


 

 

 

 

 

 

 

柳「では、少しじっとしていてくれ」

 

胡桃「ん、んん……」

 

置かれた椅子に座ったまま横に目を逸らし、胡桃はキッと目を細める。その直後、柳の持っていた注射器の針が彼女の右腕にそっと突き刺さり、彼女の真っ赤な血液がシリンジ内に少しずつ抜かれていった…。

 

 

 

 

柳「注射は苦手かな?」

 

胡桃「ん~…得意な奴の方が珍しいと思うんだけど」

 

柳「ははっ、それもそうだね…」

 

そんなやり取りをしてる間に、柳は胡桃の腕から注射器を抜く。どうやら必要な分の血液は取れたらしい。

 

 

 

 

柳「………」

 

シリンジ内に溜まった血液をじっと眺めると、柳はそれを手にしたまま部屋の奥へと消えていく。部屋の奥にはカーテンで遮られた空間があり、柳はその向こうへと消えたのだが、大した時間もかけず胡桃の元へと戻ってきた。

 

 

 

胡桃「ええっと……"検査"ってのは…もう…」

 

柳「ん?…あぁ、これで終わりだよ。ごくろうさま」

 

コンピューター端末だの見慣れぬ資料だのが置いてあるデスクの前に置かれた椅子にもたれ、"検査"の終わりを告げる。真冬達と風呂に入ってから一時間程後…『検査をしたい』と柳に言われ、単身この部屋に来た胡桃だったが、その検査は彼女が思っていたよりも簡単に終わった。

 

 

 

 

胡桃(なんか、普通の健康診断みたいだったな…)

 

検査と言われた時はどんな事をされるのかと内心怯えていたが、いざやってみたら体温を測られたり、何やら目をじっと見つめられたり、かとおもえば肩の傷を見せて欲しいと頼まれたりと、意外と楽なものばかりだった。もっとも、簡単に済むならそれで良いのだが……。

 

 

 

柳「もう戻っていいんだが…まだ私に用が?」

 

胡桃「えっ?い、いや…ただ、こんな簡単な検査で何か分かるのかなぁと思って…」

 

柳「まぁ、分かるところまではね…。検査内容が気に入らなかったならやり直すよ?そうだな……少しだけ、身体を開いたりするか?」

 

胡桃「いっ、いやっ!それは勘弁ですっ!!」

 

ニヤリとした笑みと共に放たれた柳の言葉は冗談なのか、はたまた本気なのか分からない…。いくら自分の身体を治すためとは言え、出会って間もない人間に解剖(まが)いの事をされるのは避けたかった。もっとも、どうしても必要だとあれば話は別だが…。

 

 

 

 

 

 

柳「だろう?なら大人しく待っていることだ。やれるだけの事はやってやる」

 

胡桃「……あんたから見て、あたしってどうですか?」

 

柳「…さて、どうだろうな。ただ、君は一度深刻な状態からの回復に成功している。それに今も………」

 

胡桃「………今も?」

 

柳「…今も、いくかの異変はあれど基本的には普通の人間だ。外を彷徨(うろつ)いている感染者達とは違う。まぁなんだ…あまり深く考えすぎない事だね…。と言っても、難しいだろうが」

 

デスクの上に置いてあったペンを指先でコロコロと転がしつつ、胡桃にそういった言葉を伝えていく。真冬や穂村…そしてあの圭一という男も感染して死にかけていたところをこの男、柳に救われたと聞いていた胡桃だが、実はまだ半信半疑だった。

 

 

 

 

胡桃「真冬や…あの男の人達もあんたが…柳さんが助けたんですよね?」

 

柳「結果的にはそうだが、私はただの人助けとして彼等を助けた訳じゃない。この世界で…自由に動き回れるだけの力が欲しかったんだ」

 

胡桃「…力?」

 

 

柳「ああ…。あんなのが外を彷徨いているんじゃ、まともな調査も出来やしない。だから、私の手足のような存在になってもらうべく彼等を助けたんだよ。結果は上々…あの三人はよくやっている」

 

椅子に背中をよりかけ満足そうな笑みを浮かべる柳だが、直後にその笑みを引っ込める。笑みを無くした柳はそのまま胡桃の顔をじっと見つめると、めんどくさそうにため息を吐き出した。

 

 

 

 

柳「だが…狭山君の気まぐれで余計な仕事が一つ増えてしまった」

 

胡桃「…………」

 

柳の言う"余計な仕事"とは、胡桃を治す事なのだろう。まさか、真冬が胡桃達のような人間を連れてくるとは思ってもなかったようだ。

 

 

 

 

胡桃「面倒だよな…。すいません…」

 

柳「……いや、余計な仕事とは言ったが、これはこれで良い暇潰しになる。それに、この状況ってあれに似てないか?ほら、よくある……」

 

胡桃「…?なんですか?」

 

もたれていた背中を椅子から離し、それを思い出そうと目を閉じて唸る柳。胡桃は彼が何を言いたいのかまるで理解出来ていなかったが、その答えはすぐ、それを思い出した本人の口から告げられた。

 

 

 

 

柳「あれだよ…"娘が拾ってきた捨て猫をどうするべきか悩む親"…今日の私はまさにそれだ」

 

ちょうど良い例え話を思い出した柳はスッキリした表情だが、それを前にした胡桃は苦笑いしか出来ない…。

 

 

 

 

胡桃「あたしらは捨て猫か…」

 

柳「ははっ、まぁ気を悪くしないでくれ。狭山君にもああ言ってしまったしね、元の場所に戻してこいなどとは言わないさ」

 

胡桃「やっぱり、完全に猫扱いされてる…」

 

柳「狭山君にも言われたし、彼にもあれだけ頼まれたんだ……。ここで君の治療を断れば、私はただの悪役に成り下がる…。善人でいたいなどと思っている訳でもないが、小物じみた悪役になるのは勘弁だ」

 

ははっと笑いながら告げられた柳の言葉…。胡桃はその中の一部分が気になってしまい、恐る恐るそれを尋ねる。

 

 

 

 

胡桃「彼って…あいつですよね?」

 

柳「ああ、君を治すようにと私に言ったあの少年だよ。彼は君達が風呂に入っている時も私のそばにいてね…その間、何度も何度も、繰り返しそれを頼んできたんだ。私は『分かった、任せておけ』と答えているのにね……。その言葉が信じられなかったのか、それとも…それだけ君の事が大切なのか…」

 

胡桃「………」

 

その話を聞き、頭がジリジリと熱くなるのを感じた…。自分が風呂に入り、のんびりとしてる間も…彼は柳への説得を続けてくれていたのだ。

 

 

 

柳「あと、もう一つ面白い話をしてやろう」

 

胡桃「えっ…?」

 

それを思い出したのか、柳はニヤリと笑みを浮かべ…彼女にそれを語る。胡桃は目を丸くしたまま、黙ってそれを聞くことにした。

 

 

 

 

柳「もし恵飛須君を治せたとして、その後はどうするのかと彼に尋ねたんだ…。恵飛須沢君…キミは分かっていないと思うが、彼がキミをここに連れてきた事…これはこの世界の状況を一変しかねない行動だ」

 

胡桃「なんで、ですか…?」

 

柳「キミは一度とはいえ、感染の症状を抑える事に成功している。今後どうなるかは分からずとも、一度…たった一度でも、それを抑えたというのは凄い事だ」

 

胡桃の目を真っ直ぐに見つめて柳は告げるが、胡桃にはその言葉の意味が分からない…。そもそも、この屋敷には自分よりもっと凄い人間がいるのだから。

 

 

 

 

胡桃「でも、それをいうなら真冬たちだってそうじゃないですか?あいつらだって、あんたの作った薬のおかげで感染した状態から立ち直ったって…」

 

柳「彼女達はウイルスを"抑えた"訳ではない。どちらかというと…"共存"している、という言い方の方が正しい」

 

胡桃「…共存?」

 

柳「ああ。まぁ、ここの辺りの説明は難しくてね…。それに触れるのはまたの機会にしよう。話を戻すが、つまり…キミの事を調べていけば完全なワクチンを作れる可能性があるかもってことだ」

 

さらっと放たれたその発言は胡桃にとって衝撃的で、思わず目を丸くしてしまう…。もし完全なワクチンを作る事が出来たのなら、それはこの世界に生きる人にとって大変喜ばしい事だろう。

 

 

 

 

胡桃「そんなことが…本当に…」

 

柳「ワクチンのヒントになる人間、つまりキミと…それを読み解ける人間、これは私だな…。こんな二人が出会えたことは奇跡に近い。完全なワクチンなど作ろうものなら、この世界を救うことすら可能になるかも知れないからな…」

 

胡桃「………」

 

柳の言う話は可能性の話だと、しっかり理解している。理解しているからこそ、その可能性が少しでもあることに胡桃は驚いていた。自分だけでなく、世界そのものを救えるなんて、そんなこと思ってもみなかった…。

 

 

 

 

柳「私の言いたかった面白い話ってのはここからでね…。これと全く同じ事を彼にも説明したんだが…彼はキミみたく驚いた表情は見せてくれなかった。彼はただ、『世界がどうとかって言われても、そんなのに興味はない。ただ、彼女さえ治ってくれればそれで良い』と…表情一つ変えずに言っていたよ」

 

胡桃「…なっ!?あいつ…そんな事言ったんですか!?」

 

柳「ああ、今の言葉は一言一句違わず、彼の放った言葉だよ」

 

胡桃「あたしさえ治れば…それでいい…」

 

彼がそんな言葉を言う様を想像し、胡桃は微かに頬を染める。彼が自分を治そうと必死になっていてくれてるのは痛いほど理解していたが、まさかそこまで思っていてくれたとは…。なんだか嬉しいような、照れるような気持ちを抱えて胡桃が微笑む中、二人の人物が部屋の扉を開けた。

 

 

 

ガチャッ…

 

 

胡桃「んっ…?」

 

柳「穂村君と狭山君か…どうした、何か用かな?」

 

部屋に入ってきた人物は穂村と真冬の二名…。二人は柳と胡桃のそばへツカツカと歩み寄り、場の雰囲気から彼女の検査が終わっている事を察する。

 

 

 

真冬「胡桃の検査、終わったんだ…」

 

柳「ああ、一先ずね…」

 

真冬「じゃ、彼女を連れていってもいい?中々帰ってこないから、由紀たちが不安になっちゃってて…」

 

柳「もちろん構わないよ。ああそうだ…狭山君、ついでに彼女達に適当な部屋を与えてやってくれ」

 

真冬「うん…わかった」

 

真冬はそのまま胡桃を連れ、部屋をあとにしようとする。胡桃もそれに応じて彼女についていこうとしたのだが、その時穂村がニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

 

 

 

穂村「よかったな。アイツにとって、お前は世界より大事な存在みたいだぞ」

 

胡桃「なっ…!?さっきの話、この人も聞いてたんですかっ!?」

 

柳「ん?ああ、あの時は穂村君もそばにいたからね…」

 

それを聞いた胡桃が顔を真っ赤に染めると、穂村は彼女の肩をつつきながらヘラヘラと笑う。彼女の反応が面白くて、ついからかってしまうようだ。

 

 

 

穂村「愛されてるね~!愛されてるね~!」

 

胡桃「っぐ…!あいつとはそういうのじゃないからっ!ほらっ、行こうぜ真冬っ!」

 

ぷいっと背を向け、胡桃は真冬と共に部屋をあとにする。彼女が部屋の扉を開けて廊下へと出ようとした時、真冬は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

真冬「胡桃と彼って…ただの友達なの?」

 

胡桃「お前までそんなっ…!見てれば分かるだろ!?」

 

『いや、見てたからこそ疑問に思ったんだけど…』そう言いかける真冬だったが、これを言ったら胡桃に怒られそうな…そんな気がしたので止めた。

 

 

 

 

バタンッ…!!

 

 

 

 

 

 

穂村「はぁ…元気なヤツだなぁ。ほんとに感染してんの?」

 

柳「ああ、そこは間違いない」

 

彼女達が出ていったのを見送ってから、柳はデスクの上にあった紙に先程の検査結果を記していく。それは専門的な単語が多く、横から盗み見た穂村には何一つ理解ができない。

 

 

 

穂村「…ってかさ、治せって頼まれたなら、俺らに使ったのと同じ薬を使ってやりゃ良いんじゃね?ダメなの?」

 

柳「ダメだな…。あれは投薬直後の反応が強すぎる。前にも言っただろう?私はあれを何人もの人間を相手に試してきたが、生き残ったのは結局君達三人だけだ」

 

穂村「ああ、そっか…」

 

柳「それに、恵飛須沢君にはあの薬は使わないようにと狭山君に言われている」

 

穂村「胡桃が死ぬかもしれないからか?」

 

柳「いや、そうではなく…」

 

自分達に使った薬を胡桃に使っても、彼女が無事に生きていられる可能性は少ない。だからこそ、真冬は『彼女にそれを使うな』と柳に言った…。そう考えた穂村だったが、柳が真冬本人から聞いた理由はそれと別のものだったようだ。

 

 

 

 

 

柳「恵飛須沢君には"普通の女の子"のままでいてほしいそうだ」

 

穂村「普通の女の子?なにそれ?」

 

柳「仮にだ、あの薬を恵飛須沢君に使って、運よく生き延びたとする。だがその結果…彼女は自分達と同じような、人間とも感染者とも違う存在になる。狭山君はそれが嫌なんだそうだ」

 

穂村「人間とも感染者とも違うって…狭山のやつ、自分の事をそんなふうに思ってんの?俺は自分のこと、わりとノーマルな人間だと思ってるけどね」

 

胸を張って言い切る穂村。柳はそんな彼を見て、はははと苦笑いする。狭山、圭一、穂村…この三人の中で、穂村が最も普通じゃないからだ。

 

 

 

柳(最もおかしいのは穂村君なんだがね…内面的な意味で)

 

本気で怒ると手がつけられない程に暴れ、かと思えば女である狭山の事を変な目で見たり、からかったりする。そんな人間が自分の事を普通だと言う光景はどこか不自然にも思えるが、柳はそれを口には出さない。

 

 

 

穂村「まぁあれか、ある程度寄らなきゃ感染者に気付かれなかったり、噛まれても平気だったり、力が異様に強かったり…そういったとこが普通じゃないと、狭山はそう思ってるんだろ?」

 

柳「ああ、だろうね」

 

穂村「普通の女の子のままでいてほしい、か…」

 

柳「やっと出来た大切な友達だからこそ、そう思っているのかもね…」

 

そう呟いてから、柳は一人思い返す。狭山と出会ったばかりの頃、とても冷たく、感情など無くしたかのような冷たい目で彼女が言っていた言葉を……

 

 

 

~~~

 

『ボクは優しくなんてない。だからもう二度と友達なんて出来ないし、作るつもりもない…』

 

~~~

 

 

 

柳(ああは言っていても、変わる時は変わるものだな…)

 

当時の狭山に起こった境遇を思えば、彼女が友達などいらないと言っていた事は納得出来る。しかし、由紀達はそんな彼女の心すら晴れさせたのだ。本当に面白い娘達だ…。柳がそう思った時、穂村が首を傾げながら呟いた。

 

 

 

 

穂村「っかしいな…柳さんの言い方だと、狭山は俺を友達だと思ってないんだよな…。ってことはもしかして、狭山…俺の事を彼氏かなんかだと思ったりしてるのか?」

 

柳「……………」

 

やはり、この男は普通じゃない。今の発言も冗談ならまだ良いのだが、どうやらこの男は本気でそう考えているようだ…。う~んと唸りながら首を傾げ、悩むような穂村を見て、柳は深いため息をつく…。真冬と圭一もクセはあるが、まだ常識的な面もある。しかし、この穂村という男にはそれが無いような気がした。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

一方その頃、真冬は由紀達の元に胡桃を送り届け、そのまま二階の廊下へ彼女達を連れ出していた。今日からしばらく彼女達と共に暮らすことになったので、今からそれぞれに部屋を与えるところだ。

 

 

真冬「えっと…。ここから突き当たりまでの部屋は全部空き部屋だから、みんなで好きな部屋を好きなように使ってね…。一応、どの部屋にもベッドくらいは置いてあったハズだから、すぐに寝れるよ」

 

そう言われて由紀達はその廊下の突き当たりへ目線を向けるが、彼女らが今立っているところから突き当たりまでは十数メートル以上あるように見える。そこまでの間にある扉の中、その全てが空き部屋というのは驚きだ。

 

 

 

悠里「ええっと…本当にいいのかしら?」

 

真冬「うん…。柳さんが良いって言ってたから大丈夫。あと、地下の倉庫に適当な家具家電とかもあるから、明日にでも好きなやつを部屋に運んでね…」

 

美紀「なんか、暮らしが一変しそうですね…」

 

ついさっきは風呂に入れてもらい、今度はそれぞれが部屋をもらう…。しかも真冬が言うには、地下の倉庫にはテレビや冷蔵庫などの家電はもちろん、カーテンやタンスなども色々とあるらしい。

 

 

 

 

胡桃「ていうか、地下室まであんのかよ……」

 

「まったく、凄い家だな」

 

電気や水が使えるだけでなく、物資にもかなり余裕があるようだ。彼と胡桃は顔を見合わせ、この屋敷の凄さに驚く。

 

 

 

真冬「トイレも各部屋にあったと思うから、それもご自由に。あとの事は……また明日説明するね?」

 

悠里「ええ。本当にありがとうございますって、柳さんに伝えておいて」

 

真冬「…うん、わかったよ。じゃあ、おやすみなさい…」

 

由紀「うん!おやすみなさ~い」

 

部屋割りは彼女達自身に任せ、真冬はその場を去ろうと背を向ける。しかし由紀を始め、その場にいた全員が言ってくれた『おやすみ』という言葉を聞き、真冬は顔を振り向ける…。

 

 

 

 

 

真冬「あのっ………今日は、本当にごめんなさい…」

 

美紀「真冬…。もう、謝らなくていいよ。その代わり、明日からしばらくみんなでお世話になるから…これからよろしくね」

 

真冬「……うん。こちらこそ…よろしく…」

 

少し照れたように微笑み、真冬はそのまま、下の階へ続く階段へ急ぎ足で消えていく…。それを見送った後、廊下に残った彼女らはそれぞれの部屋の割り決めを始めた。

 

 

 

由紀「う~ん…どの部屋も広さとか同じっぽいね」

 

胡桃「じゃあ適当でいいだろ…。あたしはここにする」

 

一番手前にあった部屋を選び、胡桃はその扉に背を寄りかける。他のメンバーもそれぞれ目に入った部屋を選び、最終的に手前から胡桃、美紀、悠里、由紀…そして一番奥の部屋が彼の部屋となった。

 

 

 

 

「結構広い部屋みたいだな…。胡桃ちゃん、僕とルームシェアする?」

 

胡桃「バカ…。しないに決まってるだろ……」

 

「そりゃ残念…」

 

その言葉が本気なのか冗談なのか分からなくて、胡桃はため息をつく。しかし、この言葉を聞いた由紀があることを思い付く。

 

 

 

由紀「あっ、そうだ!今日はさ、みんなで一緒に寝ない?」

 

美紀「"今日は"って…いつも一緒に寝てたじゃないですか」

 

由紀「そうじゃなくてっ!広いお部屋の、広いベッドで一緒に寝ることが大事なのっ!!みーくんわかってないっ!」

 

扉を開けて見たところ、どの空き部屋にもかなり大きめのベッドが置かれている。確かにあのベッドなら、四人一緒に寝ることも可能だろう。

 

 

 

由紀「ねぇねぇっ、だめかな…?」

 

悠里「…そうね。私は良いと思うわよ。今日は色々あったから、一人だと寂しいし…」

 

由紀「だよねっ!?ほら、みーくんと胡桃ちゃんも一緒に寝ようよ~!」

 

然り気無く、彼が仲間はずれになる事は確定していた。まぁ、さすがに女子四人と身を並べて眠るわけにもいかないし、仕方のない事だが…。

 

 

 

 

美紀「……じゃあ、はい。私もそうします」

 

由紀「えへへ~♪さぁ、あとは胡桃ちゃんだけだよ!」

 

胡桃「え~………どうすっかな…」

 

 

「因みに言っておくと、胡桃ちゃんに与えられた選択肢は由紀ちゃん達と一緒に寝るか、僕と二人で寝るかの二つだから」

 

胡桃が悩んでいるようだったので、彼がその選択肢を二択に変える。すると胡桃はスタスタと歩き、由紀達と肩を並べた。どうやら答えは決まったらしい。

 

 

 

胡桃「じゃあこっちだ…」

 

「残念…。もし胡桃ちゃんとベッドに入った場合、二人で熱い夜を迎える事になったかも知れな――――」

 

 

 

バタンッ…

 

まだ喋っている最中だというのに、胡桃は由紀達と共に部屋の中へと消えてしまう。廊下に一人残された彼は鼻でため息をつき、先程決めた自身の部屋の方へ身を向ける。

 

 

 

「まぁ、今夜は女の子達だけでゆっくり休むといい。みんな、ここまで本当によく頑張ってきたからな……」

 

ボソッと呟き、彼は自分の部屋へと向かう。彼女達もそうだが、自分もゆっくりと休まなくては…。今日は本当に疲れたので、はやく横になりたい…。扉を開けた彼は広さのわりに殺風景なその部屋をぐるりと見回し、そのままベッドへ倒れこむ。自分で思っていたよりもずっと疲れていたのか……彼は数分としない間に眠りについた。

 

 

 

 




久々の本編でしたが、いかがだったでしょうか?
次回からしばらくの間、ほのぼのとした話が続いていく予定です。

比較的安心できる生活環境を得た彼女達の、これまでとは違う暮らしを書いていく予定ですので、ご期待いただければなと思っています(*^^*)



余談ですが、今回の話の最後…由紀ちゃんがみんなへ『今日は一緒に寝よう』と提案する場面…。この"みんな"に彼を加えるべきか、わりと悩みました(笑)

しかし、あんな可愛い女の子達と同じベッドで寝るとなるとさすがの彼も辛いものがあると思うので、今回はあえなく仲間外れに…!(もし彼が暴走したら、R-18作品になっちゃいますからね…)




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