軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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出来るだけ話を進めたかったので、今回も長めです。
狭山真冬との決着をつけた由紀ちゃん達一行がどこへ向かうのか、是非見届けてあげて下さいませ!




前回までのあらすじ『みーくんが頑張りました』


百十九話『きぼう』

 

 

 

穂村「んで、これからどうすんの?とりあえず一旦、あの公園に集合しようって圭一さんに言っちゃったけど…」

 

狭山「あの公園?」

 

穂村「ほら、アンタらの車…いや、今は俺の車か。あのキャンピングカーが停めてある公園だよ」

 

狭山「ああ、そっか……」

 

狭山はある事を思い出すとスタスタと歩き、穂村の前に立つ。直後、彼女は右手のひらをそっと穂村の前に突き出した。

 

 

 

 

 

穂村「…?なに?握手?」

 

狭山「違う。彼女達から奪ったあの車のキー、返してってこと。あれはやっぱり彼女達の物であって、穂村の物じゃない」

 

穂村「はぁ!?どうしてさ!!?」

 

狭山「いいからほら、とっとと返して…」

 

その言葉に戸惑う穂村は狭山の背後…そこに立つ由紀達の事を睨むように見つめる。それに気づいた狭山は直ぐ様穂村の頬をパシッと叩き、再びそれを催促(さいそく)した。

 

 

 

バシッ!!

 

穂村「ってぇ!!」

 

狭山「みんなを睨まないの…。ほら、はやく出して」

 

穂村「っぐ……わかったよ!ほらっ!」

 

穂村は半ば自棄になったように車のキーを差し出し、あからさまに不機嫌そうな顔をする。あの時に由紀達を見逃したのはこのキーがあったからだと言うのに、これではもう彼女らを見逃す理由すらない。

 

 

 

 

 

穂村「殺しもダメ、物資もダメ…なら、コイツらを襲った意味って何さ!?納得できねぇ…。よし、決めたっ!!」

 

何を決めたのかは知らないが、穂村は狭山の隣を抜けて由紀達の方へと歩み寄る。なんにせよ、穂村が決めたことなら良いことではないだろう。狭山は隣を抜ける穂村の手をすれ違い様に掴み、その動きを止めた。

 

 

 

 

狭山「…なにするつもり?」

 

穂村「いいこと…としか答えられない…」

 

胡桃「っ!?」

 

悠里「由紀ちゃん、美紀さん、下がってて…」

 

胡桃、悠里、美紀が今日一番の警戒心を穂村へ向ける中、狭山は呆れたようにため息をつく。

 

 

狭山(まったくコイツは……いや、さっきまでのボクは…コイツ以上にダメな人間だったか)

 

 

 

 

 

 

狭山「穂村、今日はこれでおしまいだよ。殺すのも、物資を奪うのも…全部終わり」

 

穂村「お触りはっ!?」

 

狭山「……それも無しだよ」

 

やっぱりそれが狙いだったのかと呆れつつ、穂村を彼女達から離す。一見すると冗談にも思えるだろうが、穂村なら本当に彼女達をこの場で襲いかねない。

 

 

 

 

穂村「ちょっとぐらい…触りたかった……」

 

胡桃「うわ…泣いてんの?」

 

鼻をすするような声がしたので、胡桃が引き気味になる。すると穂村は彼女達に背中を向け、その場に屈んでから悔しさ溢れる声で言った。

 

 

 

穂村「泣きたくもなるだろっ!生き残ってる人間はどこもかしこも野郎か、好みじゃない女ばかりで…もう限界だったんだよ!!ようやくお前らみたいな可愛い系の女子に会えたってのに…お預けなんて…!」

 

由紀「でも、真冬ちゃんも可愛いのに……」

 

穂村「狭山はダメ……ペッタンだから……」

 

狭山「このっ…!!」

 

 

 

バシッ!!!

 

穂村「ってぇ!!」

 

屈んでいた穂村へ寄り、狭山はその後頭部を思いきり叩く。彼女らのいる薄暗いボーリング場に気持ちいい程見事な音が響くと、直後…穂村はその場にうずくまり、狭山に叩かれた後頭部を両手で押さえた。

 

 

 

 

美紀「すごい音…」

 

由紀「今の…痛そうだよ?大丈夫なの?」

 

狭山「穂村は頑丈だから、このくらいじゃ平気…」

 

 

穂村「平気じゃ…ねぇ……マジいてぇ…」

 

叩かれた穂村を見て由紀が心配そうな顔をする一方、狭山は冷たい目線を穂村へと向ける。叩かれた本人はかなりのダメージを負ったようで、その後も少しの間、痛みに悶え続けていた。

 

 

 

 

 

 

穂村「せっかく手に入れた車は取られるし…狭山には殴られるし…厄日かよ」

 

ようやくダメージから立ち直った穂村は不満げに呟き、そっと立ち上がる。それを見た狭山はその隣をスタスタと通り過ぎ、雨降る外の様子を観察した。

 

 

 

狭山「…今なら感染者も少ない。みんな、車まではボクと穂村で送っていくから、ボクらの後ろを着いてきてね」

 

穂村「は?送る?なんで?」

 

美紀「じゃあ…お言葉に甘えて。先輩達もそれで良いですよね?」

 

由紀「うんっ!」

 

胡桃「まぁ、今はそうするしかねぇだろ」

 

悠里「あとは…彼と合流するだけね」

 

穂村「ちょっと待ってって。マジでどうなってんの?」

 

 

彼女らの車のキー返せと言ったり、送ると言ったり、後から来た穂村は何が何やら分からない。少なくとも、狭山はついさっきまで彼女達の事を殺そうとしていたのだから…。穂村は疑問だらけのまま場の雰囲気に飲まれ、気づけば狭山と並び、雨の中彼女達を守るようにして進んでいた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂村「あの…狭山先生?どうなってるんでしょー?」

 

狭山「ん?何が…?」

 

穂村「何が?じゃなくて…。お前、さっきまでこの娘達の事を殺す殺すってめちゃくちゃになってたじゃん。それがどうしてこんな状況に…」

 

彼女達四人をすぐ後方につけ、辺りを警戒する狭山。穂村が抱いていた疑問を狭山へぶつけると、彼女はそれに答えるべくボソッと呟いた。

 

 

 

 

狭山「…色々あったんだよ。また、のんびりと説明するね」

 

狭山はそう呟いてから目線を一瞬だけ隣に立つ穂村へと向け、照れたように微笑む。彼女のその笑顔を見て、穂村は思わず目を丸くした。これまで結構な間、彼女と行動してきたが…こんな顔を見たのは初めての事だったのだ。

 

 

 

 

 

穂村「じゃ、またのんびりと頼むよ…」

 

狭山「あっ…それとね………」

 

ゆっくり、慎重に進みながら、狭山は言葉を放つ。彼女の目線は正面を向いていたが、その言葉は穂村に向けられたものだった。

 

 

 

 

狭山「今まで…ごめんなさい…」

 

穂村「………」

 

降る雨の音に負けそうなほど小さく、力の無い声が穂村の耳に届く。これまで穂村には冷たく接し続けていた彼女がこんな事を言うのも初めてで、穂村はまたしても驚く事になった。

 

 

 

 

狭山「ボク、本当にどうしようも無いバカだった…。出会った時のあの事だって、穂村は当然の事をしただけ……悪い事なんかじゃなかったのに、ボクはいつまでもそれを恨んで、穂村に冷たくしてきた……」

 

穂村「まぁ…あれは俺も悪かったよ。もう少しだけ、マシなやり方もあったハズだったからな」

 

狭山の言う『あの事』というのは、彼女と初めて出会った時に穂村がしたある行為を指している。彼女はその事を恨み続けていたから、仲間であってもこの穂村とだけは距離を開き続けていた。しかし、美紀達と出会い…狭山は穂村のあの行いも許してあげたいと思ったのだ。

 

 

 

 

狭山「穂村が謝ることなんてないよ…。全部、ボクが悪いんだから…」

 

穂村「ははっ、お前がこんなふうに謝るなんてな」

 

狭山「これから少しずつ、変わっていきたいんだ…これは、その第一歩ってこと」

 

そう言って狭山はまたニコリと笑うと、振り向いて由紀達の顔を確認する。何があったのかは分からないが、彼女達が狭山を変えたのだろう…。穂村にとって狭山の謝罪はさっきまで持っていた車のキーよりも珍しい物だった為、穂村はいつしか機嫌を直していた。そんな中、あることが気になった胡桃が狭山へと声をかける。

 

 

 

 

胡桃「ところでさ、あいつも公園に来るよな?」

 

狭山「あっ…どうだろ」

 

悠里「まだ無事なのよね?なら、彼も来るんじゃないかしら」

 

穂村「無事っていってもどの程度無事なのかは知らねぇけどな。もしかしたら、死にかけかも知んないし…」

 

なんと言っても、彼を相手していたのはあの圭一だ…。まだ生きてると言うだけでもかなり幸運なのだから、そうなっていてもおかしくはない。

 

 

 

由紀「っ!?」

 

狭山「穂村……怒るよ」

 

穂村「わりぃわりぃ…でも、可能性の一つだ」

 

胡桃「…………」

 

美紀「きっと、大丈夫ですよ」

 

穂村の言葉を聞き不安げな顔をする胡桃…。それを見た美紀は彼女の手をそっと握り、優しく微笑みかけた。

 

 

 

胡桃「…だな。あいつなら大丈夫だ」

 

美紀の笑顔、言葉に安心したのか、胡桃の表情が少しだけ明るくなる。目標とする公園まで、あと少しだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

数分後、一行は無事に公園へとたどり着く事が出来た。

幸いな事に帰り道を"かれら"に襲われる事もなく、更に公園に停めておいた車…その付近にも"かれら"の姿は今のところ見られない。

 

 

 

 

穂村「よし、到着っ」

 

狭山「まだ…彼と圭一さんは来てないのかな?」

 

美紀「いや、来てるかも…」

 

車のそばには誰の姿も無いが、車内に明かりが灯っている。確か、出てくる時は明かりなどつけていなかったはずだが…。

 

 

 

 

胡桃「…確かめるか」

 

狭山「ボクが見る。他の生存者が入り込んだ可能性も無くはないから」

 

胡桃「じゃ…頼む。気を付けろよ」

 

胡桃が言うと狭山はニッコリと微笑み、そのドアに手をかける…。

 

 

 

ガチャッ……バタンッ!

 

音を発てて開くドア…狭山はその先へ視線を向け、ほっとため息をついた。そしてその様子を後ろから覗いていた由紀、胡桃、悠里、美紀もまた…。

 

 

 

 

美紀「っ…先輩っ!」

 

開かれたドアの先、そこにある座席に彼の姿を見つけ、美紀は真っ直ぐそこへと駆ける。狭山は彼女の邪魔にならぬよう横へと身を退け、その様子を見守った。

 

 

 

「美紀…それにみんなも、無事なようで何より」

 

美紀が車内に上がり込み、そばに寄ってきたのを見ると彼はそっと立ち上がる。その後も由紀、胡桃、悠里が車内に上がり、彼の事を見つめた。彼の服は泥に汚れ、所々怪我をしているようだが、それでも元気そうだ。

 

 

 

 

胡桃「美紀にだけ反応しやがって…あたしらはついでか?」

 

「あははっ、そんな事ないよ。みんな大事な人だからね」

 

由紀「ほんと…無事でよかったぁ」

 

悠里「ええ、そうね…」

 

美紀「先輩…先輩っ…!」

 

それぞれが彼との再会を喜ぶ中、美紀は彼の胸に飛び込んで顔を埋めていた。その声は震え、涙混じりのような声になっており、彼は彼女の背中を撫でながら気まずそうに辺りを見回す。

 

 

 

「…どうした?」

 

悠里「美紀さん、最後までがんばったから…あなたに会えて肩の力が抜けたんじゃないかしら」

 

由紀「みーくん、もう大丈夫だからね…」

 

由紀、悠里も美紀のそばに寄り、その背中を撫でる…。一方、胡桃は未だドアの外に立つ狭山の方を見つめていた。

 

 

 

 

狭山「ボクのせい…だよね……」

 

胡桃「…ああ、こればっかりはそうだな」

 

狭山「……ごめんなさい…」

 

彼の胸に顔を埋めて体を震わせる美紀を見て、狭山は自分が彼女達を怖がらせたのが原因だと考える。ここに来るまでは冷静だったあの美紀も、本当はとても怖がっていたのだ…。そう考えると申し訳なくて、狭山は雨にぬかるむ地面へ膝をつけながら胡桃に謝った。

 

 

 

胡桃「あたしに言っても仕方ないだろ…。中に入って、しっかり美紀に伝えてやれ。それと、あいつにも謝っておけよ…」

 

狭山「う…んっ…」

 

微かに溢れた涙を両手で拭い、狭山はゆっくり車内へと上がる。彼女はそうして彼と美紀のそばに歩み寄ると、瞳を潤ませたままの状態で頭を下げた。

 

 

 

 

狭山「みんな…本当にごめんなさい……ボクのせいで怖い思いを…不安な思いを…迷惑ばかりかけちゃった…」

 

美紀「っ…私達はもういいの…。それより、先輩に謝ってあげて…?」

 

美紀は狭山の方へと顔を向け、彼に謝るようにと告げる。そう告げた美紀の目は真っ赤に腫れていて、やはり彼女も怖がっていたんだと、狭山は深く反省した。

 

 

 

 

 

狭山「…ごめんなさい…ほんとにごめんなさいっ…!」

 

狭山は彼に向け深々と頭を下げ、謝罪の言葉を放ち続ける…。頭を下げた彼女の瞳からはポタポタと涙がこぼれ落ち、車のカーペットに染みを作っていった…。

 

 

 

「…………」

 

美紀「先輩、彼女にも色々あったんです…。難しいことかも知れないですけど、彼女を許してあげてくれませんか…?私からもお願いしますから…」

 

中々言葉を返さない彼を前にして、美紀は不安そうな表情を見せる。確かに狭山のしたことはそう簡単に許せる事ではないと思うが、それでも…美紀らどうにか彼女を許してあげてほしかった。

 

 

 

 

「…わかった。でも、一つ条件がある」

 

狭山「条…件…?」

 

静かに顔を上げ、その内容を尋ねる。

しかし後にその内容を告げたのは彼ではなく、いつからか車内の助手席、そこに座っていたもう一人の人物だった。

 

 

 

 

圭一「こいつ、俺達の屋敷に来たいんだと」

 

狭山「っ、圭一さん…?」

 

助手席にいた圭一は立ち上がり、車内をのんびりと歩く。由紀達は圭一の顔を見たことがなかった為少しだけ戸惑いを見せたが、会話を交わしているのを見てすぐに狭山の仲間なのだと理解した。

 

 

 

圭一「おい穂村、お前も中に入ってこい。いつまで雨に打たれてるつもりだ?」

 

窓から顔を出し、未だ車外にいる穂村の事を呼ぶ。しかし穂村は車内へ入る事なく、ふてくされたように立っていた。

 

 

 

穂村「だってこの車…もう俺のじゃねぇし…」

 

圭一「じゃあ、お前は走って帰るんだな…」

 

圭一はそう言ってドアの方へと向かい、それを閉じようとする。それを見てさすがに慌てたのか、穂村は足早に車内へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

穂村「乗るから!乗りますからっ!!つーか本人達に許可もらわねぇと…えっと、乗ってっていいッスか!?」

 

悠里「えっ?えぇ…でも、ちょっと待って下さいね…まだ、私も話の流れがよく分かっていなくて…」

 

同乗の許可を求める穂村に戸惑った後、悠里は彼の顔を見つめる。話を聞いていると彼は狭山達のいる屋敷へと行きたいらしいが、何故なのだろうか…。

 

 

 

悠里「ねぇ、どういうことなの?」

 

「まだ確信は無いんで、詳しい事は言えません。ただ、この人達の屋敷にいる人物…そいつに会えば、事態が良い方向へ向かうかも知れない」

 

悠里「……そう、分かったわ」

 

正直に言えば何も分かっていないが、彼が言うなら何かしらの考えがあるのだろう…悠里はそう思い笑顔を返す。彼女は由紀達みんなを席につかせると、最後に狭山の方を見つめた。

 

 

 

 

 

悠里「という事みたいだけど、お邪魔しても構わないかしら?」

 

狭山「あっ…ボクは良いけど…その……」

 

狭山は圭一、そして穂村へ目線を向ける。仲間以外の誰かをあの屋敷に招いた事などなかった為、どうすれば良いのか分からないらしい。

 

 

 

圭一「俺はどっちでも構わない。だから狭山、お前が決めろ」

 

穂村「…だってよ。どうする?」

 

狭山「じゃあ…うん、分かった。みんなをあそこに連れていく」

 

圭一と穂村へそう告げてから、狭山は彼の顔を覗き見る。最初は何故、自分達の屋敷に来たいのかと思ったが、少し考えたらその理由は予想できた。

 

 

 

 

 

狭山(確かにあそこなら、あの人なら、どうにか出来るかも知れない)

 

向けていた目線を彼から胡桃へと移す…。直後、狭山は運転席に座る悠里に道案内を頼まれ、助手席へと腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

悠里「…で、ここを……」

 

狭山「右だね…うん、そうしたらすぐに見えてくるから…」

 

由紀「あっ、あれじゃないっ!?」

 

運転席の横から顔を覗かせ、由紀が大きな声をあげる。彼女が興奮するのも無理はない…曲がり角を曲がった先に見えたその屋敷はやたらと大きく、それを取り囲む門も異様に立派だった。

 

 

 

 

悠里「あそこ…なの?」

 

狭山「うん…穂村、門を開けて」

 

穂村「はいよ」

 

穂村はポケットから小さなリモコンのような物を取り出すと、開いた窓から手を出してそれを門へと向ける。直後に穂村がそれを押すとピッという電子音が鳴り、目の前の大きな門が自動的に開き始めた。

 

 

ガガ…ガガッ……

 

 

 

 

胡桃「うおっ!?すげー!そのスイッチで開けたり閉めたり出来んのか!?」

 

穂村「すげーだろ?どれ、閉めるのやってみるか?」

 

穂村は自慢気にニヤリと笑い、そのリモコンを胡桃の方へと投げ渡す。彼女はそれを受け取ると先ほどの穂村同様窓から手を出し、車が門の内側に入ってからその手を向けた。

 

 

 

 

胡桃「えっと…二つあるけどどっち押すの?」

 

穂村「ああ、下の方のボタンだ」

 

胡桃「…こっちか」

 

ピッ…

 

言われた方のスイッチを押すと、開いた門が今度はゆっくりと閉まりだす…。胡桃はそれに言い様のない感動をして、大きな瞳をキラキラと輝かせた。

 

 

 

胡桃「すっげぇ~!」

 

由紀「なっ!?胡桃ちゃんばかりズルいよ!わたしもやりたかった!!」

 

胡桃「あはは、わりぃわりぃ…ほら、返すよ」

 

穂村「どーも」

 

胡桃から投げ渡されたそのリモコンを再びポケットへとしまい、穂村は思った。彼女達は今、大して知りもしない連中の住み家へと来ている…だというのに、あまり警戒しているようには見えない。警戒する必要などないと思うほどに自分達を…狭山を信頼しているのだろうか?

 

 

 

穂村(狭山のヤツもいつの間にかコイツらの事を気に入ったみたいだしなぁ…。ついちょっと前まではあんなに殺す気満々だったのに…)

 

 

 

 

 

悠里「えっと、どこに停めればいいかしら?」

 

狭山「適当でいいよ。必要なら、またあとで動かしておくから」

 

門の中へと入り、たどり着いた大きな屋敷…悠里はその前に広がる庭の上に車を停め、後部座席の方へと振り向いた。

 

 

 

 

悠里「じゃあ…降りましょうか」

 

美紀「はい」

 

由紀「うんっ!」

 

美紀と由紀が返事を返し、悠里は笑顔を見せる。彼と胡桃も無言のまま頷き、そっと席を立っていた。そうして一行は車から降りると、目の前にそびえ立つその豪邸を見上げ、そして目を丸くした…。

 

 

 

 

 

 

由紀「おっきいね~!」

 

美紀「ほんと、未奈さんの家よりも更に大きい…」

 

つい先日まで世話になった少女、水無月未奈(ミナ)の住む家もかなりの大きさだったが、この屋敷は更にその上をいっている…。外から窓を見た感じだと、恐らく三階建てだろうか?それだけでも驚くというのに、横の広さも尋常ではない。それぞれの階に部屋が十や二十あってもよさそうだ。

 

 

 

 

悠里「これだけの豪邸、家主さんは…どんな人なんですか?」

 

気になった悠里がそばにいた圭一に尋ねる。すると圭一は首をかしげ、その屋敷や辺りを取り囲む高い壁を見回した。

 

 

 

圭一「…さぁな、俺も良く分かってない」

 

悠里「そう…なんですか…」

 

実際、圭一もこの家の主であるあの男の事を深くは知らない。ただあの男が自分達にした事や、この建物の備えを見るに…あの男は普通の者ではないということだけは分かる。

 

 

 

 

圭一「いい機会だ…問い詰めてみるか」

 

悠里「えっ?」

 

圭一「いや、何でもない…ほら、中に入るんだろ?突っ立ってると雨に濡れるぞ」

 

圭一はそう言ってスタスタと歩き、屋敷の扉を開く。悠里達も雨に濡れる前にとそこへかけ込み、中に入ってまた驚く。中の造りが立派な事もそうだが、何より明かりがついている事に驚いた。

 

 

 

 

 

美紀「この家って…もしかして…」

 

狭山「うん、電気が通ってるよ」

 

穂村「自家発電気だの浄水器だの、やたら揃ってるからな…」

 

由紀「おお~、わたし達のいた学校みたいだね!」

 

悠里「そうね…でも、この家の家主さんは個人で何故これだけの備えを…」

 

穂村「さぁ、心配性なんじゃねぇのかな?よく知らんけど…」

 

適当な事を言ってから穂村は靴を脱ぐと、そばに置いてあったスリッパを履いてスタスタと先へ進む。彼女達もそれにならって靴を脱ぎ、先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

狭山「…ねぇ」

 

「ん?」

 

広く、明るい廊下を進む途中、狭山が彼へと声をかける。一つだけ、どうして伝えておくべき事があったからだ。

 

 

 

 

狭山「キミと争った時、ボク言ったよね…昨日、ミナって娘の屋敷に行ったって…」

 

「…ああ」

 

答える彼の表情が微かにキツくなる…。あの時、狭山は未奈達全員を手にかけたと言うような発言をした。もしそれが本当なら、彼女を許すのは難しくなる。そう思ったが…

 

 

 

 

狭山「あの屋敷に行ったのは本当の事だけど、ボクは誰も殺してない…。入ってすぐに朝倉って男の人にバレて、その人と少し争っただけ…そしてあの男の人との争いもすぐ切り上げて帰ったから、みんな無事だよ…」

 

「…本当に?」

 

狭山「信じられない…よね。でも、本当のことだよ。どうしても気になるなら、あの屋敷まで送ってあげる」

 

そっと見つめた狭山の目は真剣なもので、嘘を言っているようにも見えない。なのにあの時意味深な言い方をしたのは恐らく、相手である自分を怒らせる為だったのだろう。彼はそう考える事にして先を進んだ。

 

 

 

「…分かった。一先ず信じる」

 

狭山「…ありがとう」

 

 

 

 

 

…バタンッ

 

圭一「とりあえずここで待っていろ。今、ここの主と話してくる」

 

大きなソファーやテーブルの並べられている客間のような場所に由紀達を招き、圭一はそう告げる。由紀達は大人しくそれに従おうとしたが、そんな中で彼だけが圭一らの前に立ち、待つ事を拒んだ。

 

 

 

 

「悪いけど、僕と彼女だけは一目先にその人に会わせてもらいたい」

 

彼はそう言って胡桃の事を指さし、圭一の目を見つめる。だが、大人しくそこで待っていようと思い、席につきかけていた胡桃は突然の事に戸惑っているようだ。

 

 

 

胡桃「あ、あたしも…?」

 

「ああ、じゃなきゃ話が進まない…」

 

圭一「……分かった、ついてこい」

 

彼の提案を了承し、圭一は二人を連れていく。その場に残された由紀や悠里、そして美紀が不安げな目を向けると、それに気づいた狭山が彼女らに言った。

 

 

 

 

狭山「大丈夫。ボクもそばで二人を見てるから…危ない目にはあわせないよ」

 

美紀「…うん、ありがとう」

 

悠里「じゃあ、二人の事おねがいね?」

 

狭山「うん、すぐに戻るから…ゆっくりしてて」

 

 

 

…バタンッ

 

扉が閉まり、三人は訳も分からぬままその場に残される。ゆっくりしててと言われたものの、この広い空間には慣れなかった。

 

 

 

 

由紀「__くん、なんで胡桃ちゃんだけ連れてったんだろ…」

 

悠里「さぁ、でも…そうしないと話が進まないって言ってたわね」

 

美紀「あの人の事です、何か考えがあるんでしょう。でなきゃ、胡桃先輩だけを連れていったりはしないでしょうから」

 

悠里「…そうね。とりあえずは待ちましょうか」

 

ただ彼の事を信じ、今はじっと待つことにする。それが彼女達の想いだった。今日は今朝から大変な目にあったが、これから少しずつ良くなっていく…そう信じながら、ただじっと待つ事にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

圭一「…なぁ狭山。お前、なんで急にコイツらとの戦いを止めた?」

 

屋敷の主であるあの男の元へ向かう道中、圭一は気になっていた事を尋ねる。狭山は圭一と目を合わせずに顔をうつむけると、穂村の時と同じように返事を返した。

 

 

 

狭山「また、ゆっくり話すよ…。ちょっと長くなりそうだから」

 

圭一「ふぅん…そうか」

 

狭山は突如彼女達との戦いを止めたが、どうもそれだけではないようだ。先程から、彼女が見せる表情がこれまでに比べ豊かになっているような気がしてならない。狭山は彼女達と出会い、何かが変わったのだろうか…。

 

 

 

 

穂村「まぁそれについてはまた後日ってことで、今はコレだな…。急に人連れてきちゃったけど、怒るかな…」

 

階段を上がって二階へと進み、そしてたどり着いた一つの扉…。穂村はそのドアノブに手をかけ、心配そうな表情を見せた。

 

 

 

圭一「その程度でキレるようなヤツじゃないだろ…」

 

狭山「万が一怒られそうになったら、ボクのせいにしていいよ。彼女達をここに連れてくって最終的な決断をしたのはボクだし…」

 

…ガチャッ

 

 

 

 

狭山は扉を開けるのを躊躇う穂村を退かし、自らが代わりにそれを開く。そうして彼と胡桃を招いたその部屋には何が入っているのか分からない棚がいくつもあったが、一同が目を向けたのはそこではなく…部屋の隅にあるコンピューターが置かれた机、その前の席に腰かける一人の男だった。

 

 

 

 

狭山「(やなぎ)さん、ただいま…。そして急だけど、会わせたい人が…」

 

柳と呼ばれたその男は狭山の声を聞いてから椅子ごとクルリと振り向き、彼と胡桃の存在に気付く。その男は顔だけ見れば若くも見えるが、短い黒髪の中に白髪が混じっており、今一つ年齢が掴めない。

 

 

 

 

柳「会わせたい人?珍しいな…この二人がそうかい?」

 

狭山「そう…」

 

柳「へぇ…それはそれは…」

 

男は席から立ち上がり、彼と胡桃の前にスタスタと歩み寄る。狭山はその間に入って少しだけ不安そうな顔をしていたが、男は首をかしげていた。

 

 

 

柳「なんで、私とこの二人を会わせたかったのかな?」

 

狭山「えっと…簡単に説明すると…」

 

まず、狭山は柳にこうなるまでの経緯をざっと説明した。彼女らは元々自分達が追っていた人物だったが、色々あって彼女らを殺すのは止めにした事。そして、その中の一人である彼が柳に会いたいと言った為、狭山自身がここに招いた事…。その全てを聞き終えると、柳は意味深な笑顔を見せた。

 

 

 

 

柳「んん、なるほどね……大体わかった」

 

柳は納得したように頷き、狭山の目を見つめる。その目は以前とは違う雰囲気に変わっており、彼女の言った事が全て真実だと確信した。

 

 

 

 

柳「…で、そこの君か?私に会いたがってたのは…。何の用かな?」

 

目線を狭山から彼へと移し、ニヤリと笑ったまま尋ねる。すると彼は真剣な表情を柳へと見せ、そばに立つ圭一の事を指さす。そうしてから…ここに訪れた目的を告げた。

 

 

 

 

 

「アンタは感染していたこの人を助けたと聞いた。なら、もう一人くらい救えるな?」

 

胡桃「っ!?」

 

柳「…圭一君、話したのか?」

 

圭一「冥土の土産にと思って話したんだがな、コイツが中々にしぶとくて…結局タイムオーバーになった」

 

参ったように笑いながら、圭一は部屋の壁へ体を寄りかける。圭一の発言を聞いた柳はため息をつき、そしてまた彼の事を見つめた。圭一が全て話したのなら、ごまかしても意味がないだろう。なら、彼の目的を聞いておこうと思った。

 

 

 

 

 

柳「…誰を助けてほしい?」

 

「ここにいる、恵飛須沢胡桃だ…。アンタには彼女を助けてもらう」

 

胡桃「………」

 

彼は胡桃の肩を引き、自分のそばへと寄せる。彼の目的が自分を助けること…そして目の前にいるこの男がそれを可能にするかもしれないと知った胡桃は無言のままたたずみ、その目を真っ直ぐ目の前の男…柳へと向けた。

 

 

 

 

 

柳「君、感染しているのか?」

 

胡桃「えっと……うん」

 

柳「…わかった。とりあえず話を聞こう」

 

柳はそう言ってから部屋の中にあった椅子を二つ引っ張り、彼と胡桃をそこに座らせる。そうして胡桃は自分に起きたこれまでの事を柳へ事細かに話し、狭山、穂村、圭一はそれを立ったまま聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

胡桃「ってわけで…もう、あとが無いかなって…」

 

柳「ああ、だろうね」

 

胡桃「…っ……」

 

全てを話終えた後、柳は彼女の目を見つめたままそう答える。この柳という男が信頼できるかどうかは分からないが、もしもこの男がダメだったらどうすれば良いのか…。彼は胡桃の不安そうな横顔を見つめてから、柳にそれを直接聞いてみる事にした。

 

 

 

 

「…治せるか?」

 

柳「ある程度検査しなくては何とも言えんが、まるっきり希望が無いわけでもない…。にしても、その話が全て本当なら中々に面白いな…」

 

胡桃「………」

 

「じゃあ…いけるかも知れないんだな…?」

 

柳の言葉を聞き、彼と胡桃に少しだけ希望が湧く。だが、直後に柳が見せた笑顔はどこか裏があるような…そんな笑顔だった。

 

 

 

 

 

柳「ああ、私がその気になれば…の話だが」

 

「それは…どういう…」

 

柳「言葉のままの意味だ。ここで彼女を治したとして、私には利益がない。だが…彼女の身体は面白そうだ。ただ治すだけなんて物足りない……彼女がいれば、もっと面白い事が出来る」

 

 

「胡桃ちゃん…下がって…」

 

胡桃「あ、ああっ…!」

 

異様な雰囲気を感じ、彼と胡桃は立ち上がる。そうして柳から距離を開く二人だったが、柳はまだ笑顔を見せていた。

 

 

 

 

 

柳「さて、神崎圭一…穂村竜也…狭山真冬…」

 

圭一「……」

 

穂村「あん?」

 

狭山「……」

 

 

 

柳「その女、恵飛須沢胡桃を捕まえろ。これは命令だ」

 

告げた瞬間、三人の眉がピクリと動く…。

柳はそれぞれの顔を見回すと、また頬をゆるめた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳「なんて、ただの冗談だがな……」

 

「…はぁ?」

 

胡桃「!…??」

 

ふふっと笑ってから、柳はそのまま一人席へと戻る。彼と胡桃はその背中を呆然としたまま見つめていたが、戸惑っていたのは彼等だけではなかった。

 

 

 

 

穂村「ビビった…マジで命令されたかと……」

 

圭一「なんだ?柳が本気だったらやらなかったのか?」

 

穂村「えっ?いや…どうしようかな……胡桃はわりと良い娘みたいだし…」

 

圭一「お前まで狭山みたくなったな…」

 

狭山「ボクみたくって…どういうこと?」

 

圭一「甘くなったって事だよ…」

 

狭山「……そう」

 

少し冷たい圭一の視線…狭山はそれから目を逸らす。しかし甘いと言われるとそれもどこか気に入らず、狭山は頬を膨らませた。

 

 

 

 

狭山「………」

 

圭一「お前、本当に変わったな…」

 

不機嫌そうにむくれる狭山の顔を見て、思わずそう言葉を放つ。彼女は言葉こそキツい人間だったが、ここまで表情を出すことはしてこなかったハズだ。

 

 

 

柳「ふふっ、楽しそうだね?」

 

狭山「柳さんも…悪ふざけが過ぎる。さっきのは冗談に聞こえなかった」

 

柳「ん、そうかい?まぁ…本音も混じらせていたからね」

 

胡桃「混じらせてたのかよ……」

 

不安そうな声を漏らし、柳から目を逸らす胡桃…。柳は自分の座っている椅子を彼女の方へ向けると、またニヤリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

柳「ああ…君は貴重な人間だ。君のような実験体がいれば私の目標としていた物が出来上がるかも知れないのだが……」

 

狭山「ダメ。彼女はただ、治すだけにして…。もし胡桃に何かしようとしたら、いくらあなたであっても殺すから…」

 

柳「!?……良い目だ、本当に変わったんだね」

 

自分の仲間に殺すと言われたにも関わらず、柳はどこか嬉しそうに笑う。その笑顔が何を意味しているものなのかは誰にも分からなかったが、柳は一つだけ約束をした。それは胡桃にとって、そして彼や狭山にとっても希望となる約束だった。

 

 

 

 

 

 

柳「信頼する仲間にまでこう言われたら退()けないな…。わかった、できる限りの事はしてやろう。結構特別だぞ…?狭山君に感謝しなさい」

 

「っ!?それはよかった…!本当に頼む!!」

 

胡桃「……ありがとう」

 

彼は柳に頭を下げ、もしかしたら胡桃を救えるという事実に心の底から喜んだ。一方で胡桃は少しだけ気まずそうに…しかし嬉しそうに、狭山へ礼の言葉をのべた。

 

 

 

 

狭山「ボクはなにも…体、治るといいね」

 

胡桃「…うんっ」

 

 

 

 

 

柳「…と、仲良くしているところすまない」

 

胡桃「んっ?」

 

狭山「…なに?」

 

柳は部屋の中を歩き回り、かと思えば扉を開けて廊下の方を覗き、何かを言いたげにして頭を抱える。そんな柳の目線の先を見て、その場にいた全員がハッとした表情を浮かべた。今現在、一同がいる柳の部屋…そしてこれまで歩いてきた廊下…そのカーペットが、グッショリと泥に汚れていたのだ。

 

 

 

 

柳「もしかして…今日は雨が降っているのか?」

 

穂村「降ってる降ってる!そりゃもうドシャ降りだぜ!!って、柳さん雨降ってるの知らなかったの?おいおい、引きこもりかよ…たまには外に出ろって!!」

 

満面の笑みを浮かべつつ、穂村は柳の背中をバシバシと叩く。目の前にいる男は自分の家を汚されて困っているというのに、穂村は本当に空気の読めない男だなと…全員が思った…。

 

 

 

 

柳「家に招待したのは…この二人だけか?」

 

狭山「ううん、あと三人いるよ…」

 

柳「そうか、じゃあ全員風呂に入れて着替えさせてくれ…。自己紹介はそのあとだ。それと穂村君、君は汚れた部屋と廊下…その全てを掃除しろ。これは冗談ではなく、本気の命令だ」

 

穂村「はぁっ!?なんで俺が!!?」

 

柳「いいから…やれ」

 

穂村「っ…了解ッス…」

 

柳から圧力を感じ、穂村は首を縦に振る。狭山は穂村が掃除している間に彼女達を風呂に入れてしまおうと考え、そばにいた胡桃を呼んだ。

 

 

 

 

狭山「胡桃も来て。君たち全員、一度に入ってもらうから」

 

胡桃「あ、ああ…」

 

穂村「全員一度に…?やったな少年、ハーレムが出来るぞ…」

 

「なっ…!?」

 

狭山の言葉を聞いた穂村が彼にボソッと呟き、ニヤリと笑う。もちろん『全員一度に』というのは女性陣だけの話であって彼はカウントされていないのだが、穂村に言われてその光景を想像した彼は目をこれでもかというほどに見開いていた。

 

 

 

 

狭山「…キミは違うからね?覗きとかもやっちゃダメだよ」

 

胡桃「だって、残念だったな?」

 

「ぐぅ…っ!」

 

ニヤニヤ微笑む胡桃が狭山と共に出ていくのを見送り、彼はグッと拳を握り締める。一瞬とはいえ、もしかしたらの可能性を期待した自分がいたからだ。

 

 

 

 

 

「まぁ…そうだよな……くそっ」

 

穂村「…なんかお前、結構俺と話が合いそうな気がするぞ」

 

「…バカな。そんなわけない」

 

穂村「じゃあ、この家の風呂に覗きポイントがあるかどうかも興味ねぇな?」

 

悪魔が囁くように、小さく耳打ちする穂村…。彼は握った拳をプルプルと震えさせ、途切れ途切れに言葉を放った。

 

 

 

「その…正直に言うと…興味あるかも」

 

穂村「ほら、やっぱり俺と同じ人種だ。ようこそマイブラザー!因みに言っとくと、この家の風呂に覗きポイントなんかねぇ。あったらまず、俺が覗きに行ってるっての…」

 

「ぐっ…!騙しやがったな……」

 

そんな会話を交わす二人を見て、柳は呆れた表情を見せる…。穂村がこういう人間なのは知っていたが、似たようなのがもう一人となると少しキツいかもしれない。

 

 

 

 

柳「はぁ……」

 

圭一「どうした、寝不足か?」

 

柳「いや…やっぱり追い払うべきだったかなと……今さら遅いがね」

 

狭山の前で約束してしまった以上、やることはやらねばならない。柳は未だ目の前で何やら話し合う二人を見つめ、また深いため息をついた…。

 

 

 

 

 




そういうことで、胡桃ちゃんの事は外伝登場キャラの一人である柳さんが面倒を見ることとなりました。実を言うと今回の話、柳さんが胡桃ちゃんを捕まえろと三人に命令したところで切る予定だったのですが、それだと少しシリアスな空気が出てしまいますからね…結局、書けるところまで書いてしまいました(汗)

次回は学園生活部の入浴シーンから始まります!!

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