軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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ここ最近…というか今月は色々と多忙でして、更新が遅めでした(汗)
申し訳ないですm(__)m

ようやく落ち着いてきたので、これからはもう少し早く更新出来ると思います!!


前回は由紀ちゃん達を追う狭山真冬を足止めすべく、穂村(兄)が立ちはだかったところで終わりました。今回はその続きとなる訳ですが、後半では主人公君&神埼圭一の方の様子も描いております。


百十五話『もう平気』

 

 

 

 

 

 

狭山「っ…!!」ブンッ!

 

穂村「うおっ!…っぶねぇ!」

 

穂村は狭山が振り払う警棒をかわし、そのまま後ろへと下がって距離をとろうと試みる。しかし一発かわしただけでは狭山の攻撃は止まらず、彼女は続けて二発…三発とその警棒を穂村目掛けて振った。穂村はそれを再びかわしつつ、武器を持つ彼女の右手首を掴む。

 

 

 

 

…ガシッ!

 

穂村「どうにかかわせてるから良いものの、そんな攻撃が当たったらさすがの俺もマジで危ねぇんだけど…」

 

狭山「殺す気でやってるんだから当然でしょ。嫌なら早くどいて、彼女達を追えなくなる…!」

 

穂村「どうして今日はそんなムキになってるのかねぇ…まったく……」

 

狭山の右手を掴み、彼女の動きを止めている穂村は呆れたようにため息をつく。普段、穂村が他の生存者を追おうとすると狭山は『わざわざ追わなくても…』と面倒がるのに、今日はそれが逆転していた。

 

 

 

 

 

穂村「ほら狭山先生、一旦深呼吸でもして落ち着こうぜ?仲間同士でいがみ合ってても良いことねぇし、一応得た物はあったんだからさ」

 

辺りに降る雨もまだ止みそうにない…。これ以上服が濡れると気持ち悪いので穂村はとっとと家に帰りたかったのだが狭山にその気はないらしく、彼女は掴まれた右手に力を入れて振りほどこうとしながら穂村の事を睨み付けていた。

 

 

 

 

穂村「暴れるなって!言うこと聞きなさいっ!!」

 

狭山「…っ!!いちいちウザイッ!!」

 

自分は本気で怒っているのに、目の前にいる穂村はまだ冗談混じりな対応を続けている…。それにより一層の怒りを覚えた狭山は掴まれていない左手で自らの腰に着けていたポーチ…そこから一本の小型ナイフを取りだし、それを穂村の下顎へ突き刺そうと振り抜くが…。

 

 

 

 

 

パシッ!!

 

狭山「ちっ…!」

 

穂村はナイフが届くよりも速く狭山のその左手をあっさりと掴み、また呆れたようにため息をつく…。直後に穂村は掴んでいる狭山の両手の内、警棒を持つ右手の方を離したかと思うと、空いた手で狭山の首を掴み…

 

 

 

ガシッ…

 

狭山「う…っ…!!」

 

穂村「ほんと…いい加減にしろっての…!」

 

 

 

 

 

狭山「っぐ…!!」

 

ドッ!!

 

穂村は狭山の首、そして左手を掴んだまま彼女をそばにあった一本の木へと勢いよく押し付けた。首を掴まれたまま一気にそこへと押し付けられた狭山はその木に後頭部を打ち付けてしまい微かに苦しそうな声を漏らすが、穂村は首にかけた手を離さない。

 

 

 

 

 

狭山「ぅ…うぅ……」

 

穂村「このまま思いっきり首絞めてそのまま殺すことだって出来る。だからこの勝負は俺の勝ち。どう?大人しくする気になった?」

 

狭山の細い首を掴むその手に少しずつ力を加え、ゆっくりと絞めていく…。首と同時に左手を掴まれている狭山は自由に動かせる右手を使い穂村の事を警棒で叩いていたが穂村との距離が近くて十分にそれを振り上げられない事…そして首を絞められていて力が出ない事が重なり、狭山の右手が放つそれは攻撃とは呼べないほど弱々しいものになっていた。

 

 

 

 

狭山「う…っぐ…!ん…んっ…!」

 

穂村「…………」

 

木に頭を押し付けられ、そして首を絞められながらも狭山は必死に右手を動かす。狭山は少しすると持っていた警棒は邪魔だと思ったのか、はたまた自分の意思とは関係なく手離してしまったのか……彼女は警棒を雨にぬかるむ地面へと落とし、目の前にいる穂村の体を素手でペシペシと力なく叩いた。

 

 

 

 

狭山「っぐ……っ…ぅぅ…」ペシ…ペシ

 

穂村「…はぁ。なんで諦めてくれないかねぇ…」

 

狭山「だ……って………」

 

いつもならこんなにしつこく他の生存者を狙ったりしないのに…狭山は何故彼女達に対してだけここまで執念深いのか。穂村がそんな事を思いながら狭山の事を押さえ付けていると、彼女は途切れ途切れに言葉を発した。穂村は彼女の首を掴むその手の力を微かに弱め、何を言っているのかと耳をすます。

 

 

 

 

 

穂村「何だって?言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

狭山「……彼女達…笑ってたんだもん…。この世界は地獄なのに……"幸せ"だって言って…笑ってたんだもん…」

 

穂村「……それが気に入らねえって?」

 

 

狭山「気に入らないとか…そういう事じゃなくて……ただ、分からせてあげなきゃって思った…。この世界に…そんな幸せなんかないって……」

 

穂村「…だからって、そこまであいつらに執着しなくても―――」

 

狭山「穂村に…ボクを止める権利があるの?キミは……ボクの幸せを奪った張本人のクセに…。ボクが他人の幸せを奪うのは止めるの…?」

 

力なく目を伏せ、狭山がポツリと呟く…。その言葉は穂村にとってはかなり苦しい物であり、彼女に握られている弱味でもあった。

 

 

 

 

穂村「はぁ……まだそれを言うかよ…。ったく…」

 

仕方なく狭山を掴んでいた手を離し、彼女にそっと背を向ける。狭山は掴まれていた首を自らの右手で軽く撫でながら、そんな穂村の背中を見つめた。

 

 

 

 

穂村「狭山……さっきお前の首を絞めてこのまま殺すことも出来るって言ったけど、あれ嘘な。俺はお前を殺せない…一応仲間だからな……」

 

穂村が背を向けたままの状態で言葉を放つ。狭山はそんな穂村の横をゆっくりと歩き、その通り際に答える。

 

 

 

狭山「穂村がなんと言おうとあの事はずっと忘れないし、許すつもりもない…。圭一さんが加わったからここ最近は控えてたけど、これからはまた…キミを殺しにかかるから…」

 

穂村「じゃあ、今やれば?」

 

狭山「今はダメ…彼女達の方が先…」

 

狭山はそう告げて由紀達が逃げていった方角へと目線を向け、そのまま勢いよく駆けていく…。一人その場に残された穂村は雨の降る空を見上げながら、そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

穂村「稼げた時間は二~三分程度か…。やば…全然足止めにならなかったな」

 

由紀達を逃がすべく狭山を足止めした穂村だが、その時間は短かった…。狭山なら逃げた彼女らにすぐ追い付いてしまうかも知れないが……。

 

 

 

 

穂村(珍しく他人の為に働いてやったんだ…。二~三分でも十分な仕事だろ。あとはもう知らん……とか思いつつ、気にはなるんだよなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

狭山が穂村の元を離れ、逃げた由紀達を追う一方…圭一はその仲間である少年、彼を相手に戦い続けていた。彼は圭一を倒すべく幾度も攻撃を仕掛けてきたが圭一はその全てをかわし、反撃する…。しかし彼もその攻撃をギリギリのところでかわし続けていき、今は距離をとって互いに息を整えているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

圭一「…ふぅ。思ったよりしぶといな、お前」

 

「そっちこそ……」

 

二人は約5メートルほどの距離を開き、互いの動きを警戒する。両者共、雨に濡れた服で動いているのでいつもより体力の減りが僅かに早いが、それでもまだ余力を残していた。

 

 

 

 

 

「…聞きたいんだけど、あんたらは一体何者だ?」

 

圭一「ん?別に…よくいる略奪者のようなものだと思ってくれていい。この世界じゃ珍しくもないだろう?」

 

「………」

 

確かに、こうなってしまった世界においてそんな連中は珍しくないのかも知れない。思い返してみればあの境野も略奪者のようなものだ…。しかし今彼の目の前にいるこの男…圭一は少しそれと違う。彼がそう思う理由は圭一の右足にあった。

 

 

 

 

 

「略奪者は珍しくないかも知れないけど、足にナイフを刺されて反応しない人間は珍しいな…」

 

圭一「…?」

 

彼の言葉を聞いた圭一は自らの右足にそっと目線を移す。言われるまで気がつかなかったが、自分の右足の太ももには彼が今手にしている大きめのナイフ…それよりも一回り小さなポケットナイフが突き刺さっていた。

 

 

 

 

圭一「っ……いつの間に…」

 

「さっきあんたの攻撃を避けた直後に刺したんだけど、まさかのノーリアクションだから驚いたよ。結構深く刺したつもりだけど痛くないのか?」

 

圭一「いや、刺されたと分かったらジワジワと痛みだした…。まぁ大した痛みじゃないが」

 

圭一はそう答えながら足に刺さっているナイフの柄を掴み、一気にそれを引き抜く。そのナイフは十センチ程の刃渡りだったが、根元までそれを突き刺されていた傷口からは血がダラダラと流れ出ていた。

 

 

 

 

圭一「面倒だが後で手当てしなきゃな。…にしても凄いじゃないか。言われるまで全く気付かなかった」

 

「凄いのはあんたの体だろ。普通気付くっての…」

 

圭一「ああ、違う違う。俺にこんな物を刺した事…それ自体が凄いって言ったんだよ」

 

抜いたナイフをそばにある民家の塀の向こうへと投げ捨て、彼がそれを使えないようにする。彼が予備のナイフを幾つ持っているか圭一は知らないが、こうしていけば彼はいずれ丸腰になるだろうと考えた。

 

 

 

 

圭一(念のため、そのくらいの警戒しておいた方が良さそうだ…。コイツは中々に危なそうだからな…)

 

これまで色々な生存者を相手にしてきた圭一だが、ナイフを刺されたのは初めての事だった。刺されたのが足だから良かったものの、急所を刺されたらさすがに危ない…。圭一は彼の若さに油断するのをやめ、相応の警戒をすることにした。

 

 

 

「さっきの娘…狭山真冬もそうだ。見た目は普通の女の子なのに、身体能力がやたらと高かった。んで、あんたは足にナイフが刺さっていても動じなかった……。なんだ、変な薬でもやってるのか?」

 

圭一「…ははっ」

 

彼は冗談半分で言ったつもりなのだろうが、その発言は当たらずとも遠からずといった物……思わず圭一は笑い声を漏らし、その問いに答える。

 

 

 

 

圭一「そうだな…あながち間違いじゃない」

 

「…マジか」

 

圭一「これが中々に面白い話でな……俺は一度感染者に噛まれて死にかけていたんだが妙な男に拾われて、命を救われた…。その男が言うには俺はもう感染者に噛まれても平気だそうだし、更に――」

 

「ちょっと待て!噛まれてたのに、命を救われたって…!?」

 

圭一の放った思いもよらぬ発言に彼は驚き、目を丸くする。ここ男の言葉が嘘や狂言でなければ……。そう考える彼だが、圭一は話を続けた。

 

 

 

 

圭一「ああ、まぁ落ち着いて聞けって…面白いのはここからだ。俺はもう噛まれても平気だし、更に……」

 

 

 

……ダッ!!

 

「っ…!!?」

 

直後、圭一が彼の目の前へと一瞬で間合いを詰める…。あまりに一瞬の出来事、そして直前の発言に驚き、戸惑っていた事もあり、彼はそれに反応しきれなかった…。

 

 

 

 

圭一「身体能力が…かなり高くなっている」

 

辛うじて聞き取れたその発言の直後、彼は腹部に激しい衝撃を受けて吹き飛び、後方にあった塀へそのまま背をぶつける。そうして地面に膝をついてしまった彼は直ぐ様起き上がろうとするが………

 

 

 

 

「っ!!ゴホッ…!ゲホッ…!!」

 

起き上がろうとしても上手く息が出来ず、腹部が激しく痛む。どうしたのかと様子を見ても出血はしてないので刺されたりした訳ではない…。ただ、思いきり殴られただけのようだ…。

 

 

 

圭一「今のでもまだ本気で殴った訳じゃない。なのにこのザマだ…」

 

「ぐ…っ…!ゲホッゲホッ…!!」

 

ただ一発攻撃を受けただけだが、息は整わないし視界も歪む…。起き上がろうと地面に手をついてみても力が入らず、彼は雨に濡れた地面へ音をたてながら倒れた。

 

 

バシャッ…!!

 

 

 

 

「………っ…が」

 

圭一「終わりか。ま、それなりには楽しめたな……」

 

ポツリと呟き、倒れた彼の方へと歩み寄る。彼がもう限界なようならとっとと止めを刺し、狭山達の元へ戻ろうと思う圭一だったが…付近に気配を感じたのでその足を止めた。

 

 

 

 

圭一「……そこそこ騒いでたからな、そりゃ寄ってくるか」

 

向けた目線の先にはこちらへと歩み寄る感染者が二体…。楽に倒せる数だが、圭一はあえてそうせずに倒れている彼へ背中を向けた。

 

 

 

 

圭一「お前への止めは奴等に任せよう…。死ぬのが嫌なら、起きて奴等を殺せばいい。もしそれが出来たら…また第二ラウンドといこう」

 

「っ…あ……」

 

言葉ではそんな事を言っている圭一だが、本心では彼が起き上がるのは無理だと思っているのだろう…。圭一は彼をその場に残し、感染者から逃れるようにスタスタと歩いていってしまった…。

 

 

 

 

 

『グァ…ァァ…ッ…!』

 

倒れている彼を視界に捉え、感染者はそこへと歩み寄る。急いで起き上がろうと体に力を込める彼だったが、どうにも上手くいかない…。

 

 

 

 

「く…そ……!くそっ……!!」

 

このままでは死ぬ…急いで立ち上がらねば…。頭では分かっていても体が思うように動かない。彼はそれでも必死に手を動かし、体を起こそうと試みた。

 

 

 

 

(あと…少しなんだ……あと少しで……)

 

彼は目線を地面に向けているが…"かれら"がだんだんと寄ってきている事はその唸り声で分かる。自らの身が窮地にある今…ふと、彼の脳裏に由紀達の顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

(…みんなは……逃げられただろうか…。もし逃げられたなら…もう……)

 

地面に頬をつけながら、チラッと横の方を見る…。のんびりとこちら目掛けて歩み寄る"かれら"は、あと10メートルもない所まで迫っていた。

 

 

 

 

 

(もう……大丈夫かな…。出会う前はあの娘達だけで生きてきたんだ…。元々いなかった人間一人いなくなっても……たぶん…平気だろう……。彼女達なら…きっと………)

 

そっと目を閉じ、そんな事を思う…。彼は起き上がるために動かしていた手の動きすらも止め、静かに微笑んだ。降り注ぐ雨が地面に落ちる音…"かれら"の唸り声…そして境野の幻が楽しげに笑う声だけ、彼の耳に響いた。

 

 




穂村が狭山真冬を足止め出来た時間はほんの数分…これで由紀ちゃん達が逃げ切れるのかどうかは怪しいところですね。…と、問題はそれだけでなく、主人公君が圭一の一撃を受けて倒れ、更に"かれら"まで寄ってきました。

彼は由紀ちゃん達が無事に逃げきれた事を祈りつつ、自分の事を諦めかけてしまっています…。

それぞれがかなりピンチな状況ですが、次回を待っていて下さいm(__)m



また、番外編である『どんな世界でも好きな人』そして『短篇』の方のアイデアを私の活動報告にて募集中です!見てみたい展開、良いアイデアがある方は是非ご協力を!

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