よかったよかった♪
…というわけで、本日よりまた平常運転でいきます!
前回までのあらすじ『狭山真冬inキャンピングカー』
バタンッ…!
彼と共に川へと向かっていた美紀が車内へと戻る。
悠里は戻ってきた二人に声をかけようとしたが、美紀と彼の間…そこに隠れるようにしていたもう一人の見知らぬ少女に気づく。
悠里「おかえり……って、その娘は?」
美紀「ああ…その、二人で川に行ったら会ったんです。名前は――」
狭山「…狭山真冬。よろしく」
悠里にじっと見つめられたその瞬間、真冬は美紀の横に立って自己紹介をした。彼女を見つめているのは悠里だけではなく、由紀・胡桃もだ。
胡桃「狭山真冬って……たしか…」
美紀同様、胡桃も彼から狭山の話は聞いていた。ただこうして実際に見るのは初めてなので、やはりどこか物珍しげな目線を送ってしまう…。そんな中、狭山の前へと嬉しそうに歩み寄る少女が一人……言うまでもないが、それは由紀だった。
由紀「真冬ちゃんだね♪わたしは丈槍由紀っ!よろしくね?」
狭山「えっと……うん、よろしく…」
由紀にそっと手を差し伸べられ、少し戸惑いながらも狭山は彼女と握手を交わした。狭山の手を掴んだ由紀は笑顔のままその手をブンブンと振り、満足げな表情で握手を終える。
悠里「私は若狭悠里。えっと、狭山さんは…一人なの?」
狭山「ううん…。一応仲間はいるんだけど、やりたい事があるから一人で外に出てたの」
悠里「やりたいこと?一人で外に出てまで?」
狭山「……うん」
そこまで話を聞き、悠里の表情が固くなる…。見たところ狭山は自分たちと同い年か…少し下くらいだろう。その年齢なら一人で外に出る事の危険性も分かっているだろうに、彼女はまるで警戒してないように見えた。
悠里「一人でなんて危ないわ…。外には"かれら"がいるのに…」
狭山「…………」
狭山は答えず、そっと俯く…。そんな彼女を席につきながら見ていた胡桃は静かに悠里の背に手を伸ばし、そこを指先でトントンと叩いた。
悠里「ん?なに?」
胡桃「とりあえず座らせてやんなよ。そいつにも色々と事情があんだろ。なっ?」
狭山「……うん」
狭山を見つめ、ニコッと微笑みながら胡桃が言う。狭山は彼女の顔を見つめ返して静かに頷き、その真正面の席に座った。
悠里「お節介に聞こえるかも知れないけど、あなたみたいな女の子が一人で外に出るのは危ないわ。あなたの『やりたいこと』というのが何かは知らないけど、出来るだけ仲間の人と行動した方が良いんじゃない?」
狭山「そう…だね。気を付ける、ごめんなさい……」
悠里がその返事を聞いて微笑む。直後、彼女は席についた狭山の顔を今一度見つめ…プレート皿に乗った料理をその前に差し出した。
狭山「これは…?」
悠里「朝ごはんとかまだなら、食べていってちょうだい。食料にはまだ余裕があるから、遠慮しないで」
プレート皿に乗っている料理は缶詰やレトルト食品を合わせたもの…。料理といっても温めるくらいしかすることがない食材ばかりだったが、この世の中においては中々の貴重品だろう…。
狭山「会ってばかりの他人に…ここまでしていいの?」
悠里「そもそも人と会う事自体が少ない世の中だもの。会ったからには、他人であろうと助け合わなくちゃ」
由紀「そういうことっ!だから真冬ちゃん、遠慮なく食べてね♪」
悠里「あなたと美紀さんも席について食べてね」
たたずむ彼と美紀を席につかせ、二つの皿をその前に並べる悠里…。悠里達もまだ食べてはいなかったらしく、同じように料理の乗った皿があと二皿残っていた。しかし突然現れた狭山に一皿差し出してしまったからだろう…人数に対し、あと一皿足りない。
悠里「私はまた後で食べるから、由紀ちゃん、胡桃、先に食べちゃって?」
胡桃「いいのか?」
悠里「うん、すぐに用意できるから大丈夫よ」
由紀「じゃあ遠慮なく………………こっちのを…」
胡桃「おい由紀、お前ちょっと量が多いやつ選んだだろ…」
狭山(……変わった人達)
ガヤガヤと騒がしい人達だが、不思議と居心地は悪くない…。
出された料理に手をつけながら、狭山はそんな事を思っていた。
それぞれが会話を交わしながら料理に手をつけ、少ししてから悠里も自分の分の用意を終える…。そうしてその場にいた六人全員が席につきながら食事をとっていたのだが、狭山はあることが気になっていた。それは自分の向かいに座るツインテールの少女『胡桃』についての事だ…。
胡桃「……なに?」
ついじっと見つめ過ぎてしまい、彼女に気づかれる。
だが狭山は大して動じなかった。こうなったらこうなったで、ごまかす為の台詞を用意していたからだ。
狭山「…キミ、自己紹介がまだ…」
胡桃「ああ、そういやそうだったな…。恵飛須沢胡桃、よろしく」
狭山「うん…よろしく」
喋りながら、じっと胡桃を見つめる……。
以前見かけた時も感じたのだが、やはり胡桃は普通の人間とどこかが違う…。外見的にはいたって普通なのだが…何故か嫌な気配のような、黒いものを感じた。
狭山(この感じ……この娘、やっぱり……)
予想していた事だったが、改めて彼女を間近に見て確信する。
彼女…恵飛須沢胡桃に感じるこの気配……。それは狭山自身や、今はここにいない二人の仲間達から漂っているものに近いものだった。
狭山(そろそろ厳しいだろうに……よく持ちこたえてるな)
十数分の時が経ち…全員が朝食を食べ終わる。
悠里が空いた皿を片付ける中、彼女らは狭山の周りに座って気になっている事を問う。一番グイグイ来たのは、やはり由紀だった…。
由紀「ねーねー。真冬ちゃん、普段はどこかに暮らしてるの?」
狭山「えっと…ボクを拾ってくれた人が大きな屋敷に住んでる人で、そこに住ませてもらってる」
由紀「なっ……!?」
狭山の言葉に由紀が反応を示し、目を見開いて驚いたような表情を見せる。そんな彼女を気にもせず、美紀と胡桃は口を開いた。
胡桃「屋敷か…ミナの家を思い出すな。でっかい屋敷を持ってるヤツなんて今はミナくらいだと思ってたけど、いるとこにはいるんだなぁ…」
美紀「じゃあ、真冬さんはその人と二人で暮らしているんですか?というか…『拾ってくれた』っていうのはどういう意味です?」
狭山「順に答えていくと…今は四人で暮らしてる。拾ってくれたって言葉の意味は……そのまんまだよ。世の中がこんなになってばかりの頃…怪我して死にかけていたボクをあの人が拾ってくれたの…」
胡桃「死にかけてたって…何があったんだよ…」
彼女の発言の一つ一つが気になり、質問が止まらない。一方、由紀はまだ目を見開いて口をパクパクと動かしている…。
狭山「……色々あったんだ。この世界は腐ってるから…仕方ないことだと思ってるけど……」
胡桃「腐ってる……か。……わりぃ、ちょっと待ってくれ…。おい由紀、さっきから何ビックリしてるんだよ?お前のその顔が気になって話どころじゃねぇ」
驚いたように目を見開き、口をパクパクとする由紀…。彼女は胡桃に声をかけられた途端、隣に座っていた狭山の肩をバシッと掴んだ。
由紀「ボクって言った!!真冬ちゃん…自分の事をボクって言ったよね!?」
狭山「うぐっ!?い、言ったけど…だからなに…?」
自分の両肩を掴む由紀の手をそっと振り払い、狭山は戸惑ったように答える。由紀は何故か狭山の『ボク』という言葉に興奮していた。
由紀「女の子なのにボクって…どういうことなの!?あれ?そもそも、真冬ちゃんって女の子なんだよね!?」
狭山「……見ればわかるでしょ」
言われた由紀は改めて狭山の顔や体を見回す…。
彼女の体は長めのコートで覆われていて体型はあまり分からないが、少なくとも悠里のような胸は持っていない…。顔つきは中性的といえばそう見えるが、長めのまつ毛や…ぷるっとした唇…それらは女性特有の物に思えた。
由紀「やっぱり女の子だよね…。じゃあ、何で自分の事をボクって言うの!?ボクって…女の子も言うの?」
胡桃「まぁ…人によっちゃボクって言う娘もいるだろ…。現に今、目の前にいるわけだし…」
由紀「うわぁぁぁ~っ♪かわい~~っ♡」
顔を真っ赤にして目を輝かせ、由紀は狭山をじっと見つめる…。その視線に耐えられない狭山は顔を俯け、深くため息をついた。
狭山(思ってたよりもヘンな娘だな……)
由紀「ねぇねぇっ!いつからボクって言ってるの?」
狭山「……物心ついた時から」
由紀「へぇ~…。ボクって言う女の子って良いなぁ…♪__くんもそう思うでしょ!?」
「えっ?あ…あぁ…そうですね」
朝食後、助手席で一息ついていた彼に由紀が尋ねた。ボクっ娘が良いかどうか……その辺はわりとなんでも良いと思っていた彼だったが、空気を読んで由紀に合わせる。
由紀「よしっ!胡桃ちゃん!ボクって言ってみて!!」
胡桃「はぁ?なんであたしが―――」
由紀「あたしじゃないでしょ!ボクだよボクっ!!ハイやり直しっ!」
由紀が両手をパンパン鳴らし、胡桃に告げる。かなり面倒だが、胡桃も彼同様に空気を読んで由紀に合わせた。
胡桃「…ボク、恵飛須沢胡桃。よろしくな」
由紀「………」
美紀「………」
狭山「………」
悠里「………」
「………ぷっ」
僅かな静寂の後、助手席から彼の吹き出す声が聞こえる。胡桃は顔を真っ赤にしてその場に歩みより、背後から彼の頭をバシッと叩いた。
「いてっ!」
胡桃「うるさいっ!!」
一言怒鳴り、胡桃は席へと戻る。彼が叩かれた頭を自分で撫でて痛みを癒す中、席に戻った胡桃を見て由紀が呟く。
由紀「ボクっていう言葉は人を選ぶんだね。胡桃ちゃんには全然似合ってなかったよ」
胡桃「じゃあ…由紀がやってみろよ」
由紀「ん~…多分わたしも似合わないかな…。りーさんもイメージ違うし……でも、みーくんなら…」
美紀「由紀先輩、そういった事をボクに振らないで下さい」
由紀「おおっ?」
自然な流れでその言葉を口にする美紀…。それは先程の胡桃の時とは違い何の違和感もなく、由紀が目を輝かせる。
由紀「みーくんいいねぇ!!すっごく似合う!!」
美紀「……もう言いませんよ?一回きりです」
一回きりだという台詞を聞き、惜しそうな表情を見せる由紀だが…彼女だけではなく助手席の彼、そして胡桃もどこか落ち着きのない雰囲気だ。
「一回きりか…もっとよく聞いておけばよかった…」
胡桃「まぁ、たしかに……美紀が自分の事をボクって言うのはあまり違和感なかったな…。ちょっとドキッとしたし……もっかい聞きたいかも…」
頬を少し赤く染め、胡桃が照れたように微笑む。美紀はそんな彼女を見つめながら、助手席に座る彼を指差して言った。
美紀「あの人はともかく、胡桃先輩まで変なこと言わないで下さいよ…」
胡桃「あはは…わりぃ…」
悠里「でも、本当に似合ってたわね。美紀さん、これから一人称をボクに変えたら?」
美紀「りーさんまでそんな事を……もう、怒りますよ?」
悠里「ふふっ、冗談よ。美紀さんは今のままが一番だもの」
胡桃「…ま、そうだな」
空いた食器を片付け終えた悠里が席に戻り、会話に交ざる。
その時、狭山が美紀を見ていて疑問に思っていた事を尋ねた。
狭山「美紀は…みんなの後輩なの?」
美紀「えっ?」
狭山「みんなのこと先輩って呼んでるから…そうなのかなって」
美紀「…ええ、そうです。先輩たちはみんな三年生ですが、私だけ二年生なので…一つだけ後輩です」
由紀「違うよみーくんっ!わたしたちはもう卒業したんだから、三年とか二年とかはなしっ!これから進学か就職のどっちを選ぶかっていう、立派な大人だよ!」
美紀「あはは…そうでしたね。でも、皆さんが私の先輩だって事はいつまでも変わらないです。進学しても就職しても…先輩たちは先輩のままでいてください」
美紀の発言に対し、由紀・悠里・胡桃は笑顔で応える。
進学か就職か…彼女達が何を言っているのか今一つ理解できていない狭山だったが、確かな事が一つだけあった。
狭山「じゃあ…美紀はボクと同い年だね。ボクも二年生だったから…」
美紀「へぇ、そうなんですか?」
由紀「おおっ、後輩が増えた…!」
狭山が一つ下だという事実を知り、由紀はまた一人後輩が増えたとはしゃぐ。しかし狭山本人はそんな由紀を放置して、美紀との会話を続けていた。
狭山「同い年の人……久しぶりに会ったよ」
美紀「私もです…。会う人会う人、みんな年上ばかりだったから…」
狭山「じゃ、敬語じゃなくてもいいよ。同い年なんだし、もっと普通に接してね…」
美紀「…………うん。わかったよ、真冬ちゃん」
先輩ではない同い年の女の子と会えたのが嬉しかったのか、美紀が嬉しそうに微笑む。彼女がこうして砕けた口調で話すのはかなり珍しい光景なので、思わず由紀達の頬が少しだけゆるむ…。
由紀「あ、ああいうみーくん…すっごく新鮮だね」
胡桃「あぁ…なんつーか……後輩同士の会話ってほっこりするな…」
悠里「胡桃…ニヤニヤしすぎよ…。美紀さんに気づかれちゃう…」
胡桃「……りーさんもニヤニヤしてんじゃん」
目の前で語り合う二人の後輩を見て、三人の少女はニヤニヤと微笑む。二人に気づかれないよう声こそ抑えていたが、ジロジロとした視線…そしてその表情は二人の後輩にとっくに気づかれていた。
美紀「…こんなだけど、みんな良い人達だから。ゆっくりしていってね、真冬ちゃん」
狭山「真冬って、呼び捨てにしてもいいよ」
美紀「それは……ごめん、ちょっと照れちゃって……」
狭山「…美紀は変なコだね」
美紀「そうかな…。言ったら悪いけど、真冬ちゃんも変わってるよ」
狭山「……うん、自覚してる」
狭山はあまり表情を見えない少女だが、美紀と話している時はどこか楽しげにも見える。このまま後輩がもう一人増えるのも良いかも知れない…。そう思う者もいたが、この狭山という少女と出会ったことにより、事態は思わぬ方向に向かっていった……。
思っていたよりも普通に溶け込んでいる狭山真冬ちゃん…。今のところは何でもない時間を過ごしていきました。このまま何も無ければただほのぼのした感じで終わるのですが……そうはいかないかも知れません。
先の展開をざっと考え直したのですが、この章はみーくんの活躍が多くなってくるかも知れませんね(´-`)