軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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本編の方は今年初の更新ですね(*´-`)
前回までは明るい展開が続いていましたが、今回は少しばかり不穏な雰囲気も出始めます。




前回までのあらすじ『主人公に下着泥棒の容疑が…!』


百四話『ささやき』

 

 

 

 

日が沈み、夜を迎え…夕食も済ませた由紀達一行。

今日は彼が初めて彼女達とともに水浴びを済まし、その後は下着ドロボウだと疑われるという中々に濃い一日だったが、それも終わろうとしていた…。

 

 

 

 

 

 

(平和といえば平和な一日だったけど、疲れたな…)

 

彼は自らの寝床である席につき、テーブルに伏せながら一日を振り返る。誤って美紀の胸に触れてしまったり、下着ドロボウに疑われたりと…ただの平和な日とは少し違う気もするが、それでもとても楽しい一日だった…。

 

 

 

 

由紀「そういえば、寝床がまた椅子に戻っちゃったね…」

 

通り際、毛布にくるまりながら席につく彼を見て由紀が呟く。

未奈の屋敷から外に出て二日経っているので彼は昨日もここで寝ていたのだが、昨日の由紀は早く寝てしまったので気づいてなかったらしい。

 

 

 

「…仕方ないです。空いてるベッド無いし、一緒に寝るわけにもいかないし。まぁ、慣れてるから大丈夫!」

 

彼は微笑みながら答えるが、一方で由紀は表情を曇らせる。

いくら慣れていると言っても、座ったまま寝るのとベッドで寝るのとではかなり違うハズだ。由紀のそばにいた悠里もそう思ったのか、心配そうに声をかける。

 

 

 

悠里「つらかったら言ってよ?しっかり休むことが出来ないまま外に出て、何かあったら大変だもの」

 

「気持ちは嬉しいですけど、どのみち寝る場所が…」

 

車内の後方…そこにあるベッドを覗き見ながら呟く。

ベッドの上では寝間着代わりの体操服に着替えた胡桃と美紀が笑顔で何やら話しており、楽しげな雰囲気だった。

 

 

 

 

悠里「どうしてもって時は私がそこで寝るから、あなたはあっちで…」

 

「いや…それはさすがに……」

 

言ってくれるのは嬉しいが、それだと彼女達とかなり近い距離で眠る事になる…。それは少し問題がある気がするし、変に興奮して逆に眠れなくなりそうな気もする。

 

 

 

悠里「ふふっ、そうね…。さすがにちょっとマズいかもね」

 

「でしょ?」

 

悠里「じゃあ、昼間とかに休みたい時にはあのベッドを好きなだけ使っていいからね。これも前から言ってるのに、まだ一回も使ってないでしょう?遠慮しなくていいのよ」

 

「はい…わかりました」

 

 

悠里「うん、じゃ…おやすみなさい」

 

由紀「おやすみ~」

 

就寝前の挨拶を済ませた悠里と由紀は彼のもとを離れ、ベッドへと向かう。するとそこにいた胡桃と美紀も彼の方をチラッと見つめ、就寝前の挨拶を告げた。

 

 

 

 

胡桃「おやすみ」

 

美紀「おやすみなさい」

 

 

「うん…おやすみ」

 

彼が二人に答えた直後、悠里が車内の明かりを消す…。

彼女達はそれを合図にベッドに潜り、瞳を閉じた。

席に座る彼もまた毛布にくるまり、そっと瞳を閉じる。

 

 

 

 

(今日は久々に楽しい一日だった…。また、こんな日を過ごせたらいいけどな。由紀ちゃん、美紀さん、りーさん、それと…胡桃ちゃんと一緒に)

 

昼間の水浴びを思い出しながら、にっこりと微笑む。

彼女達と出会い、楽しいことも苦しいこともあったが、一人でいた時よりもずっと幸せだという事だけは間違いない。出来る事なら…ずっと一緒に……そんなことを思った彼の耳に、誰かの声が入ってくる…。

 

 

 

 

 

『む……だ……て………ろう?』

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

俯けていた顔をあげ、辺りを見回す…。

明かりの消えた車内は視界が悪いが、それでもそばに誰かがいれば分かる。だがそばには誰もいないし、由紀達もベッドに横たわっている。彼に語りかけてきた様子はない。

 

 

 

 

 

(また、勘違いか?でも…)

 

勘違いにしてはハッキリと聞こえた気がした。

内容までは正確に聞き取れなかったが、それでも…誰かが彼に語りかけてきたのは間違いない。聞こえた声は低かったので男性だろう…。彼はその声にどこか聞き覚えがあった……。

 

 

万が一、不審者が忍び込んでいたらマズイのでもう一度辺りを見回すが、この狭い車内…自分達の目から隠れる場所などない。では車外から聞こえた声なのではとも考えたが、その可能性もない。声はそれほど彼のそばから聞こえたのだ…。

 

 

 

 

 

(今の声……まさか……)

 

聞き覚えのあるその声の主が分かりかけたが、それはあり得ない…。

彼はやはり聞き間違いだと結論付け、テーブルに顔を伏せる。

 

 

 

 

(そんなこと、絶対にあるわけない…。僕はただ、胡桃ちゃんを助ける手段の手がかりを探してれば良いんだ…。余計なことを気にするな…)

 

一刻も早く彼女を助ける事こそが今の自分にとって最大の目的。それを達成する為にも、下らない幻聴などで悩んでいる暇はない。きっと疲れが原因だ。そう考える彼に、またしても誰かが語りかける。その声は今までとは比べ物にならない程に鮮明で、不本意ながらも聞き間違いではなかったと確信してしまうほどだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何度も言わせるな。あの娘を救うのなんざ、無理だと気づいているだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

明かりが消え、暗くなった車内…。

それぞれが就寝に入って一時間は経った頃、未だ寝付けずにいる二人の少女がいた。胡桃…そして美紀である。

 

 

美紀はただ寝付けないだけだったのだが、胡桃の方は違った。

いくら寝ようと思って目を閉じても、一向に眠くならないのだ…。

普通の人間ならただ不眠症なのかとも考えられるが、胡桃の場合はあの傷がある…。恐らくはそれと関係しているのだろう。眠くならない自分の身体が少しずつ人間とは違う存在になっている気がして…胡桃は毎日言い様のない不安を感じながら夜を明かしていた。

 

 

 

 

胡桃(今日も…寝れそうにないな……)

 

モゾモゾと動きながら、胡桃は天井を見る…。

この事も彼に相談すべきだろうか?今日も何度かそう思ったが、あの彼のことだ…。もし胡桃が眠れないと知れば、朝まで一緒に起きてるなどと言いかねない。そうしてもらったらこの不安や恐怖も和らぐだろうが、夜くらいは彼を休ませてあげたかった。

 

 

 

 

胡桃(あいつを巻き込む必要はない。あたしが朝まで我慢すればいいだけの話だ…。)

 

眠れるとは思っていないが、そっと目を閉じる。

時を同じくして美紀も起きていたのだが、胡桃はそれに気付かなかった。そして美紀もまた胡桃が起きている事に気付いておらず、天井を見ながら一人瞬きを繰り返していた。

 

 

 

美紀(なんか…全然寝れないな。どうしてだろ…)

 

いくら目を閉じても眠る事が出来ず、結局目を開けてしまう…。

みんなが寝静まった車内は昼間とは比べ物にならない程に静かで、少し心細くなる。美紀はそんな心細さをごまかす為に昼間の出来事を思い返すが、そのほとんどは彼に関する事だった。

 

 

 

 

美紀(あの人、一緒に水浴び出来て嬉しそうだったな…。どうせなら、もっと前からしてあげればよかったかな?)

 

自分達の水着姿を見た彼が嬉しそうに微笑んでいたのを思い出す…。最初こそ、彼に水着姿を晒すのが恥ずかしかった美紀だが、慣れてきてからは彼と一緒の水浴びも悪くないと思っていた。

 

 

 

美紀(なんだかんだで楽しかったし、次もまた一緒に…。先輩たちも、きっとそのつもりだよね?でも…胸触られたのはさすがに恥ずかしかったなぁ…。よりによって水着の時に触られるなんて……ああ、思い出すだけで恥ずかしいっ…!)

 

当時の事を思い返しながら、一人顔を赤く染める美紀…。

そんな時、車内の前方……彼のいる席から声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「――――――」

 

内容までは聞き取れないが、抑えた声で彼が喋っている…。

寝言を言っているのかと思った美紀は静かに視線を向けるが、彼はテーブルに手をつけながら顔を上げている。どう見ても普通に起きているようなので寝言ではないと思うのだが……おかしい点が一つ。

 

 

 

 

「―――――」

 

 

美紀「………」

 

彼は顔を上げて言っていたが、その方向にあるのは誰もいない席…。

にも関わらず、彼は誰かと話しているかのような様子だった。

 

 

 

美紀(独り言…?にしては、相手がいるみたいに……)

 

目だけをそこに向け、不思議に思う美紀…。

同じくその時に起きていたもう一人の少女…胡桃もまた、どこかおかしい彼の様子をそっと覗き見ていた。

 

 

 

 

胡桃(どうしたんだろ…。夢見てるわけでもなさそうだし…)

 

美紀、そして胡桃は彼の事が心配になり、起き上がって声をかけようかと考えた。だがちょうどその時、彼はパタッとテーブルに顔を伏せ、それっきり独り言を呟かなくなった。

 

 

 

 

美紀(寝た…のかな…)

 

胡桃(…なんだったんだろ)

 

彼が眠りに入ったようなので、二人は起き上がるのをやめ、そのままベッドに寝そべる事にする。その後、美紀は10分ほどしたら自然と眠りに落ちていたが…胡桃は結局朝まで起きていた。少し様子のおかしかった彼の事を、不安に思いながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

悠里「おはよう。今日もいい天気みたいね」

 

早朝…車内の窓を覆うカーテンを開け、外が晴天だという事を確認する悠里。そのそばにいた彼は窓から入る日差しに目を細め、あくびをしていた。

 

 

 

「ふぁ……ほんと、いい天気ですね」

 

悠里「あら、まだ眠いの?なら、もう少しだけ休んでても良いわよ?」

 

どこか疲れているような彼を見て告げる。

だが彼は首を横に振り、席から立ち上がって身体を伸ばした。

 

 

 

「大丈夫、十分休めました」

 

悠里「そう?じゃあ、他の娘たちを起こしてもらえるかしら?わたしは朝ごはんの準備しちゃうから」

 

「オッケー…って、夫婦みたいなやりとりだな」

 

おかしそうに笑いながら彼が言う。

すると悠里は顎に人差し指をあてながら自分の発言を思い返し、ふふっと笑った。

 

 

 

 

悠里「そうね…。じゃあ頼んだわよ、アナタ♡」

 

ニコッと微笑み、彼の肩にポンッと手をあてる。

悠里に『あなた』と呼ばれる事は何度もあったが、この雰囲気で言われると今までのとは意味合いが違ってくる。冗談だと分かっていても、悠里に旦那として呼ばれるのは悪い気がしない。

 

 

 

「凄まじい破壊力だ…」

 

思わずそう呟いてしまう…。

すると悠里は頬を膨らませ、不満そうに言った。

 

 

 

悠里「違うでしょ?わたしが『頼んだわよ、あなた』って言ったんだから、あなたは『わかったよ。悠里』くらい言わないと!」

 

眉を寄せながら彼の胸を人差し指でつつく…。

珍しく、朝からかなりテンションが高い悠里だが、機嫌でも良いのだろうか?そんな事を思いながら、彼は悠里の目を見つめた。

 

 

 

「わかったよ…。任せてくれ、悠里」

 

見つめながら言うだけでなく、オプションとして悠里の頬に手をあてる…。さすがの悠里もそれには驚いたらしく、目を見開きながら彼の事をじっと見つめた。手を添えたその頬が次第に赤く染まっていく…。そんな彼女の表情はとても(あで)やかで、手を出した彼の方も思わず目を逸らしてしまいそうになる。

 

 

 

(こうして見ると…りーさんって本当に美人だな)

 

悠里「…っ…ん……」

 

頬にあてた手を静かに動かし、二回、三回と頬を撫でる。

悠里が黙ってそれを受け入れていたのもあり、おふざけで始めたこの行為が引き返せないところまでいきそうになってしまうが……。

 

 

 

 

 

胡桃「おい…なにを朝からイチャついてる……」

 

「なっ!?胡桃ちゃんっ!?」

 

悠里「ち、違うのっ!ただ、ちょっとふざけてただけで……!」

 

突如、悠里の頬を撫でる彼の背後から胡桃が声をかける。

背を向けていた彼はともかく、悠里は位置的に胡桃の存在に気付いてもよかったのだが、目の前の彼を凝視するあまり、声をかけられるまで気付けなかった。

 

朝からとんでもないものを見せられた胡桃はどこか不機嫌そうな表情をしており、二人は慌てた様子を見せる。

 

 

 

 

胡桃「コイツはともかく、りーさんもそんななってふざける事あるんだな…。ちょっと意外だわ…」

 

悠里「ちょ…ちょっとね?たまにはいいかなぁ~って…」

 

胡桃「ふぅん……ま、いいけどさ」

 

そう言って胡桃は二人の間を通り過ぎ、席につく。

誰も見ていないと思ったからこその行動にも関わらず、思いきり胡桃に見られてしまった…。それがよほど恥ずかしかったのか、二人の顔は真っ赤に染まっていった。

 

 

 

 

悠里「く、くるみ…。わたしと彼は、そういう仲じゃないからね?」

 

胡桃「そんなこと…なんでわざわざあたしに言うの?」

 

悠里「勘違いさせちゃったら…まずいと思って……」

 

両の手を腹部の前で合わせながらモジモジとして、悠里が胡桃に告げる。胡桃は悠里のその焦った顔を見た瞬間、不機嫌そうだった表情を一変させた。

 

 

 

 

胡桃「っくく!んなこと、言われなくてもわかってるって!!」

 

悠里「…ほんと?」

 

楽しげに笑う胡桃を前にして悠里の緊張が解かれる。

もしかしたら勘違いさせてしまったのではと、本気で悩みかけたからだ。

 

 

 

 

胡桃「そもそも、二人の会話最初から見てたからな。りーさん、めっちゃノリノリだったなぁ~♪」

 

少しだけ馬鹿にするかのように胡桃が笑う。

悠里は自分と彼とのやり取りを思い返し、両手で顔を覆った。冷静になってみると、さっきは何をしていたのだろうと恥ずかしくなる…。

 

 

 

悠里「寝起きで変なテンションになっちゃっただけなの…きっと正気じゃなかったんだわ」

 

「それ、僕が傷つくんですけど…」

 

正気じゃない状態でないと自分とは触れ合えない…間接的にそう言われた気がして彼が肩を落とす。悠里はそんな彼をフォローするべく、慌てた様子で言葉を放った。

 

 

 

 

悠里「ううん、あなたのことがイヤってわけじゃないの。ただ…調子にのって『あなた♡』とか言う必要はなかったなって……」

 

「ふむ…まぁ、おかげで朝からテンション上がったんで良いですけど」

 

こそっと呟きながらベッドの方へと向かい、未だ寝ている由紀・美紀のもとに歩み寄る。すぅすぅと寝息をたてる二人の内、まずは美紀のそばへと歩みより、布団から出ていたその肩に手を伸ばして揺らした。

 

 

 

 

「美紀さーん、朝だよー」

 

揺らしながら言う。すると美紀は少しずつ目蓋を開き、そっと起き上がってから目の前にいる彼に答える。

 

 

 

美紀「……おはようございます」

 

その声はどこかダルそうで、まだ寝足りないようにも思えた。

そんな美紀の事を、彼が物珍しそうに見つめる。

 

 

 

「あれ、まだ眠いですか?」

 

美紀「……まぁ」

 

「これは珍しい…。夜更かしでもしてました?」

 

美紀「するつもりはなかったんですが、中々寝つけなくて…」

 

美紀は布団を捲り、ベッドから降りる。

そうしてから、彼に昨夜は一人で何を喋っていたのかを尋ねるつもりだったのだが、彼が由紀の方へと向かってしまい、そのタイミングを逃した。

 

 

 

 

美紀(まぁ…また後ででもいいか)

 

そう思いながらベッドを離れ、美紀は悠里達の方へと向かう。彼はというと、先程美紀にやったように、今度は由紀の肩を揺すっていた。

 

 

 

「朝ですよ~」

 

由紀「う……ぅん………も…ちょっと……ねる」

 

かけていた布団に潜り込み、モゾモゾ動きながら由紀は答える。

このまま寝かせても良いのか?無理やりに起こした方が良いのか?それを確認する為に彼がチラッと悠里に視線を向ける。すると悠里はため息一つついてからその場に歩みより、由紀の布団を力任せに剥ぎ取った。

 

 

 

ガバッ!!

 

 

悠里「由紀ちゃん、起きてっ!」

 

由紀「さ、さむいよぉ……」

 

両手をバタつかせ、由紀は奪われた布団を取り戻そうとする。

だが悠里がそれを返すわけもなく、彼女はその場から降ろされた。

 

 

 

 

悠里「ほら、もうすぐ朝ごはんだから。それまでにしっかり目を覚まして」

 

由紀「ん~……ん…ん……」

 

ベッドから降ろされ床に転がった由紀は静かに立ち上がり、フラフラと歩き出す。どう見てもまだ寝ぼけており、悠里はもう一度ため息をつく。

 

 

 

悠里「はぁ……外の川で顔を洗ってきましょうか」

 

寝ぼける由紀の手を掴み、悠里は外に向かおうとする。だが由紀はその首を横に振り、ぼんやりした様子で告げた。

 

 

 

 

由紀「めぐねえと一緒に行くから…大丈夫だよぉ……」

 

「…………」

 

悠里の手をそっと払い、のそのそ歩き出す。

由紀は"めぐねえ"と一緒に行くと言っているが、その人物は彼女にしか見えておらず、実際には存在しない…。寝ぼけている彼女を一人で外に向かわせる訳にはいかない為、悠里は彼女の後をそっとつけていった。

 

 

 

 

 

…バタン

 

寝ぼけている由紀と悠里が外に出て、彼と美紀と胡桃が取り残される。

すると美紀は棚からタオルを取り出し、彼と胡桃に告げた。

 

 

 

美紀「タオル持っていかなかったから、届けてあげないと。そのついでに私も顔を洗ってきますが、二人はどうします?」

 

「ああ、んじゃ僕も…」

 

彼がそこまで答えた瞬間、胡桃が彼の手を背後から掴む…。胡桃はその手をグッと引いて彼を後ろに下げ、その代わりかのように答えた。

 

 

 

 

胡桃「あたし達はもう少ししてから行くから、先に行ってていいぜ」

 

美紀「?…そうですか?」

 

不思議そうな表情をしながらも、美紀は彼と胡桃を残して悠里達のあとを追う。彼女が車から降り、そのドアがバタンと音を発てて閉まると、彼は自分の手を引く胡桃の顔を無言で見つめる。わざわざこんな事をしたからには、何か伝えたい事があるのではと思ったからだ。

 

 

 

 

胡桃「……あのさ」

 

彼の手を離し、胡桃が静かに口を開く。

もしや、体の具合が悪化してしまったのか…そんな考えが頭をよぎり、少し不安そうな顔をする彼だったが、胡桃が告げたのは意外にも彼自身に関する事だった。

 

 

 

 

胡桃「昨日の夜…誰と話してた?」

 

「…えっ?」

 

恐る恐る尋ねると、彼はどこか間の抜けた声を出す。

胡桃がじっとこちらを見つめる中、彼は右手で頭をかきながら答えた。

 

 

 

「昨日の夜…?いや、誰とも話してないけど?」

 

胡桃「話してたよ。確かに相手はいないみたいだったけど、それでも誰かと話してるみたいにさ」

 

「マジか…もしかして、寝ぼけてたのかな?」

 

照れたように笑い、胡桃から顔を逸らす。

本当に寝ぼけていたならそれで良いのだが、昨日のあれはどう見ても寝ぼけていたようには見えなかった。彼が何かを隠しているような気がして、胡桃は心配そうな表情をする。

 

 

 

 

胡桃「だったらいいけどさ……何かあったら言えよ?こんなんでも一応、お前のこと心配してんだから…」

 

「……ありがと。平気だよ」

 

ゆっくりと歩き出し、そのすれ違い際に彼女の肩を叩く。

そうしてから二人も外に出て、悠里達とともに顔を洗ってから朝食を済ませた。その間、美紀と胡桃は密かに彼の事を観察していたが、特別変わった様子はなかった。

 

 

 

 

 




夜中に突然独り言を始める彼…。
本人は寝ぼけていただけだろうと言っていましたが、はたして…。

少し怪しげな雰囲気になってしまったので、りーさんとの夫婦プレイをお口直しとして入れてみました(^_^;)

胡桃ちゃんに見られていなければ……いや、車内にいるのが二人だけだったなら!!彼はあのまま、りーさんを押し倒していたかも知れません!だって夫婦ですし!!(朝からイチャつくの禁止!)

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