軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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十一話『楽しい毎日』

僕が彼女達と出会って早2週間。

 

 

 

 

…とある日の昼、僕と由紀ちゃんは車中二人で過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

「………コマ。」

 

 

 

由紀「………丸太!」

 

 

 

「んー………たい焼き。」

 

 

 

由紀「キツツキ!!」

 

 

 

「待ってましたと言わんばかりの即答だったね。」

 

 

 

由紀「へへーん♪これこの間胡桃ちゃんにやられたんだ~。」

 

 

 

「……キ…き……何があったかなぁ。」

 

 

 

そんな事をしていると、車の扉が開き、美紀が慌てて中に入って言った。

 

 

 

美紀「__さん!出番みたいです!」

 

 

「了解!…んじゃ由紀ちゃん、ちょっとまってて。」

 

 

由紀「ラジャー!」

 

由紀が敬礼して彼を見送る。

 

 

 

 

彼が車外に出ると遠方には大きな工場、そして目前にはその作業員達が使っていたのであろう広大な駐車場が広がっている、彼はその中にいる胡桃達に聞こえるよう大声で叫ぶ。

 

 

 

 

「おーい!手伝いますか~!?」

 

 

 

すると直後に胡桃の声が聞こえた。胡桃と悠里は車の予備の燃料が少なくなってきたため、駐車場にある他の車から燃料を抜き取りに向かっていたのだ。

 

 

 

胡桃「わりー頼む!けっこーいたわ!!」

 

駐車場に停めてある車の群れに隠れて姿は見えないが、割りと近くの方から聞こえた。

 

 

 

「じゃあ行ってくるので美紀さんは由紀ちゃんを頼みますね。」

 

 

美紀「分かりました、気をつけて!」

 

 

 

 

美紀にそう告げ、彼は駐車場入り口のポールをくぐり駐車場に入ると、声の方へと向かう。

 

 

そしていくつかの車の列を越えると重そうなポリタンクを抱えて走る胡桃と悠里を見つけ、声をかける。

 

 

「出口、こっちですよ~!」

 

彼は手を振りながら大声で胡桃達を呼ぶ。

 

 

胡桃達は声に気付くと彼の方へと駆け寄り、すれ違い様に言った。

 

 

 

胡桃「タンクで手が塞がってて処理しきれなかった!5人くらい追って来てるから足止め頼む!」

 

 

悠里「無理はしないでね!」

 

 

 

 

「了解です。」

 

 

 

それだけ伝えると、二人はキャンピングカーの方へと向かっていった。

 

 

 

少しすると、胡桃の言っていた通り、奴らが姿を現した。

 

 

 

「3.4.5……本当に5人だ、追われてるのに胡桃ちゃんよく見てるなぁ。」

 

胡桃の冷静な部分に感心しながら彼は腰のナイフを抜く。

 

 

 

「出来るだけ大人しくしていてくれよ。すぐに済むから」

 

 

 

そう言って、彼は素早く奴らに近付き、掴みかかろうとする隙も与えずに3体の頭を切り裂いた。その他の2体も、掴みかかってはきたが冷静に回避し、同じく頭を狙って仕留めた。

 

胡桃達と別れた後、大した時間もかけず、彼は5体のゾンビを仕留めた。

 

 

 

 

 

「…ふぅ。」

 

 

(いくら短期決戦とはいえ、命懸けの戦い……ほんの数秒でも凄く精神的に疲れるけど…あの人達を守る為だ、もう一々臆してられない。)

 

 

 

彼はナイフを納め、胡桃達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも~。」

 

手をパタパタさせながらキャンピングカーの外に集まっている胡桃達の元に駆け寄る。

 

 

 

胡桃「どうもって…奴らは?」

 

タンクを車に積みながら胡桃が尋ねた。

 

 

 

「全員倒したよ。」

 

 

 

胡桃「マジかよ!?はえーな!」

 

 

 

悠里「怪我は無い?」

 

 

 

「大丈夫です。」

 

 

 

悠里「なら良いけど…頼んだのは足止めなんだから、そんな無理しちゃダメでしょ?」

 

悠里がそう言う。…因みに、少し怒っているようだ。

 

 

 

「あぁ…その……落ち着いて見れば奴らの動きは単調なのでこのくらいは平気ですよ。」

 

 

説教される前に慌てて言い訳する。

 

 

 

悠里「…そう?まぁ足止めを頼んだ私達に責任があるのだけど…あまり無理はしないでね?」

 

今度は優しい声でそう言った。

 

 

 

(良かった!説教は回避出来た!!!危なかった~……5体の奴らと戦うより、りーさんの説教の方が怖いからな…。)

 

内心そんな事を思う。

 

 

 

「…て言うかあれですよ?僕は始めに胡桃ちゃんに付いていくって言ったんですよ?二人だけじゃ危ないだろうって。けれど胡桃ちゃんが『ちょっと燃料取ってくるだけだから二人で良い』って……。」

 

彼が言いながら胡桃を睨む。

 

 

 

 

悠里「あら?そうだったの?」

 

 

 

 

胡桃「い…いやぁ~、絶対5分もかからないと思ったんだけど…驚く事にどの車もホースが燃料タンクに上手く入らなくてさ…入る車を見付けたと思ったら燃料抜いてる時に奴らに見付かって…えっと、どのくらいかかった?」

 

 

美紀「少なくとも先輩達が燃料を探しにその駐車場に入ってから20分は経ってますね。」

 

 

胡桃「……で、でも大丈夫!燃料は充分に手に入ったから!な!りーさん!!」

 

 

 

悠里「う~ん…まぁそうね。」

 

 

 

胡桃「良かった良かった!…ところで__!お前なんか強くなったか?5人瞬殺だろ?」

 

 

「うーん、5人くらいなら前からやれたよ。ただ始めて皆に会ったあの倉庫は狭いわりに数が異常に多かったからそれに焦って上手く動けなかったのが痛かったかな…足も怪我してたし。…ああ、あとナイフを新しいのに変えたのが大きいかも、皆と会ったデパートで見付けたやつなんだけど切れ味が異様に良くて使いやすいんだ。」

 

彼は腰に下げた大きなナイフをポンポンと叩いて言った。

 

 

胡桃「ふーん…あたしはなんてったってこのシャベルがあるからな!これがあればあたしも5人くらい瞬殺出来る!!燃料抜き取るのをりーさんに任せてる間、あたしも奴らを4体倒してるしな!」

 

胡桃が血に濡れたシャベルを構えて誇らしげに言った。

 

 

 

美紀「何張り合ってるんですか。」

 

 

 

悠里「まったく…。」

 

美紀と悠里が呆れる。

 

 

 

「…とりあえず燃料は積んだんですよね?じゃあ行きますか?」

 

 

 

悠里「そうね、移動しましょうか。」

 

 

 

由紀「……!皆!後ろ!」

 

車内にいた由紀が窓から顔を出し、胡桃達の後方を指さす。

 

 

 

 

「…おっと。」

 

 

由紀に言われ後ろを見ると10m程離れた先程の駐車場の中から1体のゾンビがよたよたとこちらへ向かって来ていた。

 

 

 

悠里「まだ1体遅れて私達を追いかけていたのね。」

 

 

美紀「どうします?」

 

 

 

胡桃「いよし!あたしに任せろ!見てろよ!__!」

 

 

「はいはい。」

 

 

胡桃がシャベルを構えて奴の元へと駆けていく。

 

 

 

胡桃「そりゃあ!!」

 

胡桃が大きくシャベルを振りかぶったところで彼は思った。

 

 

 

(とっとと車に乗って逃げても良いのに、まだ張り合ってるんだな。そんな事しなくても胡桃ちゃんが強いのは分かってるんだけどね…普通にやり合ったら僕は負けそうな気すらするし。)

 

 

 

 

(そういえば胡桃ちゃんが戦ってるのは始めて会った時も見ているし、この数日でも何度か見てるけどここまでマジマジと見るのは始めてだなぁ…。)

 

 

 

 

(シャベルって変わってるよなぁ、もっとそれっぽい鈍器とかあっただろうに…そういや僕も鈍器使ってた事あるけど鈍器で頭とか狙うとグロいから嫌なんだよなぁ……)

 

 

目線を胡桃へと向けると、彼女の持つシャベルが既にゾンビの頭を砕いていた。

 

ズシャッ!という音が響き、道路の上に感染者の脳みそのような物が飛び散る…。

 

 

 

胡桃「いっちょあがり!」

 

胡桃が誇らしげに彼を見るが、彼は倒れた感染者をじっと見つめていた。

 

 

 

「………。」

 

 

 

胡桃「…?どした?」

 

 

 

「…………。」

 

彼は返事をせず、道路の死体と脳みそを交互に見ていた。

改めて見ると、かなりグロテスクな光景…ほんの少しだけ気分が悪くなる…。

 

 

 

「…酷い世界だなぁ」

 

胡桃「ん?どうした?」

 

「いや、なんでも…」

 

こんな可愛らしい女の子が武器を振り回し、化け物じみた者達と戦わなくてはいけないこの世界を嘆きつつ、彼は車へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

胡桃「…顔色悪くない?」

 

車内へと戻ってから、彼の顔色が優れない。

胡桃がそれを気にして彼の前へと立つと、彼は彼女を見てからそばにいた悠里達へと目線を移した。

 

 

 

「あの、りーさんや美紀さんはああいった死体…とかは平気なんですか?」

 

悠里「そりゃあ始めは怖かったというか…気持ち悪くなっちゃってたりもしたわ…。ただこう何回もそういう場面を見てるとさすがに慣れるっていうか…慣れなきゃやっていけないっていうか。」

 

美紀「…同じくです。」

 

 

「…それもそうか」

 

 

 

胡桃「なに?お前、ああいうのダメなの?」

 

 

「いや、もう慣れた…」

 

 

胡桃「んん…だよな」

 

そんな事を言いながら胡桃が彼のそばを離れると、入れ代わるようにして笑顔の由紀が彼の隣へと座る。

 

 

由紀「ほらほら__くん!そんな事より、さっきのしりとりの続きしよ?」

 

「…ああ、うん…どこまでいったっけ?」

 

由紀「私がキツツキって言ったとこ。」

 

「ああそうか……えっと。」

 

彼はすぐに言葉を放つが、半分上の空だったので結果、しりとりは由紀の勝利に終わってしまった。

 

 

 

由紀「やった~!勝った~!」

 

由紀はまだしりとりの勝利の余韻を楽しんでいた。

 

 

胡桃「由紀、しりとり相当に弱いんだけどな、……やっぱ__って少し頭がアレだな。」

 

 

「…それは僕にも由紀ちゃんにも失礼な発言だぞ。」

 

 

胡桃「まさか由紀に負けるなんて…あ~面白かった!」

 

 

「…くそっ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

(……この人達と出会ってもう2週間か…。)

 

(バカにされる事は多いけど、世界がこうなる前にも味わった事がない程楽しい毎日を過ごしている。)

 

(この人達を信じて良かった。…これから何があっても、この人達だけは……。)

 

悠里が運転席につき、走り出したキャンピングカーのその車内…彼はいつの間にか、眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠里「……!?今のって!!!」

 

 

突然悠里が声をあげて車を停める。それにより彼は目を覚ました。

 

 

 

「…どうかしました?」

 

 

 

悠里「……今、そこのビルの窓に人が見えたの。」

 

 

 

胡桃「本当か!?奴らじゃないよな?」

 

 

 

悠里「多分違うわ、走っていたもの。」

 

 

美紀「生存者ですか!?」

 

 

由紀「大変だ!助けようよ!」

 

 

 

悠里「そうね、行ってみましょう。」

 

 

ビルの目の前に車を停め、彼女達は車外に出た。

 

 

その5階建てビルは廃ビルだったのか、外には何の会社名も書かれていなかった。

 

 

 

「…りーさん、何階だったか分かりますか?」

 

外からビルの窓を見回しながら彼が尋ねた。

 

 

 

悠里「あの窓だったから…3階ね。」

 

悠里がひとつの窓を指さして言った。

 

 

 

胡桃「じゃあ、行こうぜ!」

 

 

 

由紀「うん!」 美紀「はい。」

 

 

 

(生存者か…僕が会ってきたヤツらみたいな人じゃないと良いけど…。)

 

 

 

 

 

5人は生存者を探して、ビルの中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回思ったのは、もし世の中がゾンビだらけの世界になったらグロ耐性ない人って大変だろうな~という事です。


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