軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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いよいよ、彼が天国に旅立つ時となりました。

…といっても、死ぬわけじゃないですよ?
まるで天国のような場所…つまり、大好きな彼女達が水着姿で待つ外に行けるという事です(笑)


百話『いっしょに』

胡桃「あいつも……ここに呼んでやっていいかな?」

 

申し訳なさそうに、悠里・美紀・由紀の三人へと告げる胡桃。

それを聞いた悠里と美紀は驚いた表情をして、胡桃の顔を見た。

 

 

 

悠里「彼を…ここに?」

 

美紀「つまり、私達と一緒に水浴びを…ってことですか?」

 

胡桃「…うん。あいつとの生活も長いしさ、そろそろ、そんくらいは一緒でもいいかなって…。ほら、あたしら水着着てるし、裸見られるわけじゃないだろ?」

 

美紀「それはそうですけど…先輩は良いんですか?そもそも、こうして別々に水浴びを済ませてるのって最初の頃に先輩があの人に水着姿を見せるのが嫌だって言ったからだったような……」

 

思い出すようにして目を閉じ、美紀が胡桃に言う。

実際それは合っていて、彼と出会ってばかりの頃…水浴びの際に胡桃がそう言って彼を隔離したのだ。

 

 

 

 

胡桃「そ、そうだったっけ…?まぁ、あの頃のあいつは危ないヤツに見える事が何度かあったからな……当時のあたしはきっとそれを恐れたんだろう…」

 

悠里「で…今は大丈夫なの?彼を呼んだら、水着姿をジロジロ見られちゃうと思うけど」

 

胡桃「ジロジロって…そんなふうには見ねぇだろ。なぁ、美紀もそう思うだろ?」

 

胡桃はニコニコと微笑み、美紀の肩に手をあてながら尋ねた。

しかし美紀は目を逸らして黙るだけで、いつまで待っても返事を返してくれなかった…。

 

 

 

 

美紀「…………」

 

 

胡桃「…ああ、あたしだってバカじゃない。本当はそんくらい分かってるよ。きっと、あいつはジロジロ見てくるだろう…。でも、それでもさ……たかが水着姿だし、ちょっとくらい見られたって――」

 

美紀「ちょっとじゃなくて、ジロジロです…」

 

間違いを正すようにして美紀が横やりを入れる。

胡桃は咳払い一つしてから、それを訂正した。

 

 

 

胡桃「えっと…たかが水着姿だし、ジロジロ見られたって平気だろ?」

 

由紀「えへへ、そうだね♪わたしは全然いいよ~!」

 

ただ一人、当初から水着姿を見せる事に抵抗のなかった由紀はノリノリでそう答える。その言葉を聞いた胡桃は嬉しそうに微笑み、美紀と悠里の答えを待った。

 

 

胡桃「お二人さんは…どうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

悠里「……うん、私も平気♪せっかくの水着だもの、ちゃんと似合ってるか…男の人の意見を聞いてみたいわ♡」

 

胡桃の提案があまりに突然なので驚いていたものの、悠里も由紀同様に笑顔で答えた。するとそれにつられるようにして、美紀も渋々ながらその首を縦に振った。

 

 

 

美紀「はぁ…私も平気です。まぁ…あんまりジロジロ見てきたらちょっと怒りますけど……」

 

胡桃「あははっ、うん!それでいい!じゃあ、あたし…あいつ呼んでくるっ!」

 

みんなの同意を得られたのが嬉しいのか、胡桃は楽しげに笑う。

そうしてから彼女は立ち上がり、彼のいる車へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「先輩、どうして急にあの人もまぜてあげる気になったんでしょう?」

 

走る胡桃の背を眺めながら、美紀が尋ねる。

それに対し、悠里は川に足をつけながら答えた。

 

 

 

悠里「あれから、彼の元気が少しだけなかったでしょう?だから胡桃は、一緒に水浴びとかを楽しむ事で彼を元気付けてあげる気なんじゃないかしら」

 

美紀「そういうことですか…。確かに、元気のないあの人はどこか物足りないですものね」

 

由紀「胡桃ちゃん、あんなにニコニコしちゃって……」

 

美紀「そんなに水着姿を見せたかったんでしょうか?私には分からない気持ちです…」

 

これから来るであろう彼になるべく肌を見られぬよう、美紀は持ってきていた半袖のラッシュパーカーを羽織る。本当は体も髪も洗い終えていたので帰りたかったが、そうしないのは彼女なりの優しさだった。

 

 

 

由紀「みーくん、そんなの着て暑くない?」

 

美紀「半袖だし、足も川につけてるので平気です…」

 

悠里「ふふっ、恥ずかしがり屋さんなのね?」

 

美紀「っ……別に、そんなんじゃ……///」

 

パーカーで出来るだけ胸元を隠そうとしている美紀がなんだかおかしくて、悠里が笑う。そうして笑われた美紀は恥ずかしそうに頬を赤らめ、顔を俯けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、胡桃は車の扉を開けて彼へと目線を向ける。

彼は一人寂しく席についていたが、突如現れた水着姿の胡桃を見て驚いたような声をあげた。

 

 

「…うぉっ!?どうしたのっ!?」

 

胡桃「おぉ…いいリアクションしてくれるなぁ」

 

目を丸くして、ポカンと口を開けている…彼のこんな表情を久しぶりに見た胡桃は嬉しくなり、彼のすぐそばへと寄って水浴びに誘った。

 

 

 

 

胡桃「水浴び、一緒にしない?」

 

「えっ?一緒に?マジっすか……?」

 

胡桃「マジだよ。どう…?する?しない?」

 

「えっと……そうか…どうするかな……」

 

尋ねる胡桃が水着姿なので目のやり場に困っているのか、彼はキョロキョロと目線を動かして落ち着かない…。胡桃はそんな彼の顔を両手でガシッと掴み、真っ正面から尋ねた。

 

 

 

胡桃「ほら、はやく決めろって!」

 

「うがっ…!?」

 

すぐそばに顔を寄せられ、彼はドキッとする。

更に、その目線を少し下に逸らせば普段は見れない彼女の胸元…その谷間が目に入り、さすがの彼も顔を赤らめずにはいられなかった。

 

 

 

「わ、わかったわかった!行きますから!ちょっと待ってて!!」

 

胡桃「はやくしろよ~。みんなも待ってくれてんだから」

 

「みんなも?まったく、なんで急に……」

 

ブツブツ言いながら支度を進める彼…。

胡桃は彼が支度を終えるのを席に座って待ちながら、その経緯を話した。

 

 

 

 

胡桃「もう、お前との生活も長いしな…水着姿くらいなら見せてやってもいいって、そんな判断になったわけだ」

 

「逆に言えば、今日までは水着姿すら見せられない信頼度だったわけだね」

 

胡桃「そりゃそうだ。あたしらの水着姿は安くないからな!ありがたく思えよ~?」

 

「…はいはい」

 

笑顔の胡桃をチラッと見つめ、彼は支度を進める。

それから一、二分の時が経ち、もう少しでそれが終わるというタイミングで胡桃は笑顔を引っ込め、本当のことを彼に伝えた…。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「あの屋敷から出ていってからさ、お前…元気ないだろ」

 

「…えっ?」

 

言われた彼は手を止め、胡桃の方へ振り向く…。

胡桃の表情は少しだけ不安げで、彼を心配しているのが分かった。

 

 

 

 

胡桃「どうしたのかと思ってたけど、さっき分かったよ。お前…あたしの心配してるだろ?」

 

「………」

 

胡桃「違うなら違うって言えよ?まぁ…そうだったらそうだったで、あたしが自意識過剰みたいになるからめっちゃ恥ずかしいけど…」

 

胡桃はスッと目を逸らし、俯きながら彼の答えを待つ…。

すると彼は胡桃のそばへと歩みより、小さな声で言った。

 

 

 

 

「体の調子は…どうかな?」

 

胡桃「ん…いつも通り、かな」

 

 

「本当だね…。嘘はダメだよ?」

 

胡桃「…わかってる。少しでも調子悪くなってきたら、無理しないでお前に伝えるからさ…そんなに心配すんな」

 

じっと胡桃を見つめる彼のその目に力は無く、いつもの彼とは別人のようだった。やはり自分の事で悩んでいたんだと思うと申し訳なくて、胡桃は彼の手をギュッと握る…。彼は異常なまでに冷たいその手をそっと握り返し、顔を俯けた。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……あのさ、病は気から…って言うだろ?」

 

「あっ?う、うん…そうだね?」

 

急に言われたその言葉の意味が理解できず、彼は間の抜けた声を出す。

直後、そんな彼に胡桃はこう告げた。

 

 

 

 

 

胡桃「元気のないお前見てると、こっちまで気が滅入(めい)って体調が悪くなってくるんだよ。そのせいでほら、あたしの手がいつもより二割増しで冷たくなっちまってるだろ!」

 

「んっ?ん~~…」

 

握る彼女の手は確かに冷たいが、前もこのくらいだった気がする…。そう思った彼だが、あえてそれを言葉にはしなかった。

 

 

 

 

胡桃「そうだよ!まったく、これはお前のせいだからな?」

 

「えっと…それは申し訳ない……」

 

 

胡桃「だから、あたしを出来るだけ長く元気でいさせる為にも、いつもみたくヘラヘラしてろよ。クールキャラになったお前なんか見てても何にも楽しくない!」

 

「別に…クールキャラになったわけでは……」

 

胡桃「いつものお前なら、水着姿のあたしを見るだけでハァハァ言っただろうに……」

 

「それじゃただのド変態じゃないですか…」

 

胡桃「だって、それがお前だろ?」

 

「心外だな」

 

そんなやり取りをした後、彼は胡桃の手から自分の手を離して支度を再開する。あとは自分も水着に着替えるだけなのだが、思えば、彼は自分の水着を持っていなかった。

 

 

 

「そうだ…水着がない。どうしたもんかね…」

 

胡桃「はぁ?じゃあお前、いつも水浴びの時なに着てんの?」

 

「普通に下着か…もしくは何も……」

 

胡桃「ちょっとまて、お前、たまに由紀にそばにいてもらって見張り任せてたよな?」

 

「うん」

 

彼は軽い気持ちで答えたが、胡桃の顔は青ざめていく…。

水浴びの時、彼は基本的に一人だが、"かれら"の気配が少しばかり強い所では誰か一人を見張りにつけていた。それは彼の指名で決まるのだが、思えばその指名は由紀の比率が高かったような…。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「由紀に…変なモン見せてねぇだろうな…?」

 

「変なモンとは…なんのことですかね?」

 

 

胡桃「いいから…真面目に答えろ」

 

「………」

 

少しばかりふざけてみようかと思った彼だったが、胡桃の目が笑っていないのでそれは止めた。

 

 

 

 

 

 

「…見せてないよ。誰かが見張りにいる時はちゃんと下着着用だからね。だいたい、胡桃ちゃんも見張りに立ったことあったでしょ…」

 

胡桃「そうだっけか…覚えてねぇ…」

 

 

 

「っていうか、そもそも変なモンなんかじゃない!」

 

胡桃「そこはどうでもいいわ!!」

 

思い出したかのようにして怒る彼に向け、胡桃はそばにあったタオルを投げる。それは彼の顔に命中し、ペシッと軽い音がした。彼が顔にかかったそのタオルをどけてから、胡桃は立ち上がってある戸棚を開く。

 

 

 

胡桃「っと…たしかこの辺に…」

 

「…なに探してんの?」

 

胡桃「いや…ほら……お、あったあった!」

 

胡桃が笑顔で取り出したそれは一見するとただのトランクスのようだが、彼の物ではない。見覚えのないそれを見た彼は首をかしげ、不思議そうな顔をした。

 

 

 

「それ、なに?」

 

胡桃「なにって…水着だよ」

 

「いや、それ僕のじゃないし…」

 

胡桃「ミナのくれた荷物の中にあったんだ。お前にくれるってさ」

 

笑顔でそう告げる胡桃だったが、彼は素直に喜べない…。

一つだけ、不安な事があったからだ。

 

 

 

「それ、新品だろうな…。ゲンジ君のお古は嫌なんだが」

 

胡桃「タグ付いてたし、新品だろ。」

 

「それなら良いけど…ミナさんはなんでこんなのを持ってたのかねぇ」

 

投げ渡されたそれを受け取り、彼は着替え始める。

胡桃は彼に背を向け、着替え終えるのを待った。

着替えは胡桃が思っていたよりもはやく終わり、彼が彼女の肩を後ろから叩く。

 

 

 

「…終わりました」

 

胡桃「ん、はやいな」

 

そっと振り向き、彼を見る…。

彼はさきほど渡したトランクスタイプの黒い水着を着けており、一枚のパーカーを羽織っていた。

 

 

 

 

胡桃「ミナにもらってよかったな。下着姿じゃ、一緒に水浴び出来ないからな」

 

「…同じようなもんだと思うけど」

 

自らの水着を見て彼が呟く中、胡桃は外へ出ようとする。

しかし彼女は突如立ち止まり、少しだけ照れたようにして彼に尋ねた。

 

 

 

 

胡桃「あのさ……あたしの水着…ヘンじゃない?」

 

「………」

 

それに答える為、彼は改めてその水着姿を眺める…。

彼女が着ているのは青と白のストライプ模様のシンプルなビキニだが、そのシンプルさが彼女のスタイルを引き立てていた。

 

普段は制服などの下に隠れていて分からないが、やはり鍛えているからなのだろう、無駄のない綺麗な体をしているのが分かる。こうしてみると胸もわりと大きめで、ついジッと見つめてしまいそうになる…。

 

彼はそんな衝動を堪え、胡桃の目を見つめて答えた。

 

 

 

 

 

 

「うん…よく似合ってるよ」

 

胡桃「そう?へへ…よかった」

 

照れながらも、嬉しそうに胡桃が微笑む。

胡桃は彼を後ろに連れ、車の外へと出た。

 

 

…バタン

 

 

 

 

 

「おっ…今日は暑いね」

 

一歩外に出た途端、強い日差しが降り注ぐ。

彼はそれが眩しかったのか、右手で日差しを遮っていた。

 

 

 

胡桃(とりあえず、元気になったみたいでよかった。水着姿見せるのは少し恥ずかしかったけど…似合うって言ってもらえたし、我慢した甲斐はあったな)

 

似合うと言われた事を思い出し、胡桃はひっそりと微笑む。

そうして二人で川辺へと向かい、みんなと合流した瞬間、彼が突如大きな声を発した。

 

 

 

 

 

「なっ!!?」

 

胡桃「っ!?どうしたっ!!?」

 

彼は何を見たのか…もしや、"かれら"がそばまで来ていたのだろうか…?

そう思って胡桃は辺りを見回すが、"かれら"の気配はない…。

 

 

 

胡桃「…ほんとにどうした?」

 

「………」

 

彼は震えながら一点を見つめるばかりで、返事を返さない…。

恐る恐るその視線を辿る胡桃だが、なんだか嫌な予感がした。

 

 

 

 

悠里「あっ…来たわね」

 

由紀「__くん、こっちだよ~!」

 

美紀「?…なんか、様子が変ですね?」

 

 

 

 

胡桃「………おい」

 

胡桃はあることに気付いてしまう…。

彼が震えながら見つめているものを探るべくその視線を辿ると、そこには悠里がいたからだ。つまり…この男は悠里の水着姿を見て、言葉を失っているのだろう…。

 

 

 

 

胡桃「……お~い」

 

彼の顔の前で手をパタパタとさせ、注意を引くが、彼はまだ動かない。

どうやってコイツを正気に戻そうか…胡桃がそう考えたその瞬間、それは起こった。突如、彼が奇声をあげたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「むっは~~っ!!!」

 

胡桃「むっ…!??」

 

由紀「むっ?」

 

美紀「むっ?」

 

 

悠里「むっは?」

 

それぞれが彼の奇声に首を傾げ、なんとも言えぬ表情をする。

奇声をあげた本人はというと、水着姿の悠里を見て目を丸くしていた。

 

 

 

 

 

「あれは女神かなんかかっ!!?最高なんですけど!!」

 

悠里「そっ、そんなに言われると照れるわ…」

 

「いやいや、りーさん…スッゴい綺麗です!!天使みたいです!!」

 

ズカズカとそばに駆け寄り、彼は悠里の横につく。

悠里は先ほどの胡桃と同様のシンプルな水着を着ていたが、胡桃の水着とは色が違い、悠里のは緑色一色。そして最大の違いは…そのサイズだ。悠里の水着は、胡桃のよりも一回りか二回り大きかった…。彼はその大きな水着をもってしか隠せぬ胸の谷間に釘付けになり、息を荒げる。

 

 

 

 

「似合ってます…!ほんとに似合ってます!!」

 

悠里「そう…?ふふっ、ありがと♡」

 

 

 

胡桃「…………」ブチッ

 

自分の時とは全く別次元の反応を悠里に見せる彼を見ていたら、胡桃の中の何かが音を発てて切れた…。

 

 

 

胡桃(…シャベル、どこだっけ)

 

辺りを見回し、地面に置いていたシャベルを見つける…。

胡桃はそれを手に取ると、ニタニタした表情の彼の背後へと忍び寄った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





女の子の水着姿を見て奇声をあげる主人公ってどうなんでしょう?(まぁ、相手がりーさんだから仕方ないのか)


おかげで胡桃ちゃんが機嫌を損ねてしまい、少し不穏な終わり方になってしまいましたね(汗)

次回は死人が出そうです(それが誰かは言うまでもない…)

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