軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

103 / 323
前回、彼は胡桃ちゃんを治す手がかりを探すために外へと出ていく事を決意しました。それを由紀ちゃん達へと告げた結果、彼女達もついていく事に…。

今回の話には書きたかったものを出来るだけ詰め込んだため、またしても少し長めです(汗)


九十七話『それぞれの道』

 

 

胡桃を治す手がかりを探すべく、由紀達が再び外に出ることを決意したその翌日の昼過ぎ…彼女達の待つ広間へと誠が現れる。誠は連中が戻るはずの倉庫へと今日も偵察に出掛けており、それから戻ったところだった。

 

 

誠「やっぱり、今日も戻ってきてないな」

 

宮野「じゃあ…本当に…」

 

宮野はそっと顔を上げ、誠の顔を見つめる。

誠は広間をゆっくりと歩き、そばにあった椅子へと腰かけた。

 

 

 

誠「さすがに二日も帰ってこないのはおかしいからな…。こりゃ、本当に全滅したのかもな」

 

誠のそんな呟きを聞いても、宮野は驚かない。宮野自身もそう思い始めていたからだ。二人の他、その広間にいた彼、由紀、悠里、胡桃、美紀はそれぞれが安心したような表情をする。

 

 

 

悠里「もしそうなら、やっと安心できますね」

 

胡桃「ああ…、攻めてこられたら危なかったしな」

 

誠「人数が人数だったからな。それだけに、その連中が全滅したってのは驚きだが…」

 

宮野「まだ決まったわけじゃないですけど……」

 

不安げに呟く宮野…。

だが、連中が二日もあの倉庫に戻っていないというのはかなりの異常事態。連中の身に何かがあったというのはまず間違いないだろう…。

 

 

 

「…さて」

 

席につきながら話を聞いていた彼はそっと立ち上がり、誠のそばへと歩み寄る。もし連中が来ないというのなら、他にやらなくてはならない事があるからだ。

 

 

 

誠「あ?どうした?」

 

「マコトさん…それと宮野さんも、聞いて下さい」

 

宮野「ん?」

 

悠里達が見守る中、彼は昨日彼女達と立てた計画を二人へと告げる。

その話を聞いた二人は驚いたような表情を見せるも、外に出ていくという事に対して反対はしなかった。

 

何故なら、胡桃の為だと聞かされたからだ…。

 

 

 

 

 

 

誠「なるほど、胡桃を助ける為ね……」

 

宮野「やっぱり、完璧に治ってたわけじゃないんだね…」

 

胡桃「……」

 

誠と宮野は静かに胡桃を見つめる…。

目の前で気まずそうに目を逸らしている彼女はどう見ても普通に見えて、危ない状態だと言われても実感がもてない…。だが、本当に危ない状態ならばこのままここで様子を見ていても仕方ないと思った。

 

 

 

誠「…わかった。なら、俺も――」

 

悠里「いえ、マコトさんと宮野さんはここに残っていて下さい」

 

彼女達の事が心配なのか、誠も彼女達についていこうと立ち上がる。

だが悠里はそんな誠の発言を遮り、ここに残るようにと告げた。

誠は悠里の目をじっと見つめ返し、呆れたように言う。

 

 

 

誠「おいおい…本気で言ってるのか?」

 

宮野「危ないよ。私もついてくから、みんなで一緒に――」

 

悠里「私達なら平気です。だから、二人はここでミナさん達の事を守ってあげていて下さい」

 

ニッコリと微笑み、悠里は二人に告げる。

美紀や由紀も誠と宮野を見つめてそっと頷いているが、それでもやはり納得がいかなかった。

 

 

 

誠「……つってもなぁ」

 

宮野「だいたい、私もある程度落ちついたらここから出ていくつもりだったのに……」

 

誠「そうなのか?」

 

宮野「そうですよ!いつまでもミナちゃん達のお世話になるのは悪いじゃないですか…」

 

宮野は攻めてきた敵をどうにかした後、一人でここから出ていこうとしていた。裏切ったとはいえ元々は敵だったというのもあり、居辛かったからだ。もっとも、未奈たちは彼女が敵だったということを微塵も気にせずに優しく接していたが、宮野にとってはそれも辛かった…。

 

宮野が俯きながら黙っていると広間の扉が開き、白雪と弦次を引き連れてきた未奈が彼女の元へと歩み寄る。

 

 

 

未奈「………」

 

宮野「え、えっと……」

 

未奈は宮野の前に立ち、悲しげな目をしながら彼女をじっと見つめる…。それがなんだか気まずくて、宮野はキョロキョロと目を泳がせた。

 

 

未奈「宮野さん…出ていっちゃうんですか?」

 

宮野「へっ?」

 

未奈「今、外から聞いちゃったんです…。『ここから出ていくつもりだ』って…そう言ってるの」

 

未奈達は誠に言われ、少しの間席を外していた。何も知らない白雪の前で連中の話をするわけにはいかないと思っていたからだ。だが少し時間が経ち、様子を見に広間へと戻ってきたところ、宮野がそう言っていたのを聞いてしまったらしい…。

 

 

 

宮野「えっと…うん。そろそろ…ね」

 

連中も攻めては来なそうだし、もうそろそろ出ていくべきだろう。

そう思い、微笑みながら答える宮野。

未奈はそんな彼女を悲しそうに見つめ、そっと尋ねた。

 

 

未奈「ここにいるの…嫌ですか?」

 

宮野「…ううん、嫌じゃないよ。ただ、迷惑かけちゃうからね」

 

未奈「そんなことないです!私もヒメちゃんも、宮野さんの事好きですから…。出来れば一緒に…いてほしいです」

 

宮野「………」

 

その瞬間、宮野は境野のところにいた時には感じることのなかった温かい気持ちに包まれ、未奈の事を見つめる…。あの時、彼女には怖い思いをさせたハズなのに、彼女は戻ってからずっと優しく接してくれていた…。

 

白雪もそうだ…。初めこそ少し警戒していたが、彼女はすぐに自分から話し掛けに来てくれた。それからは定期的に目の前に現れてくれて、まるで可愛い妹が出来た気分だった。

 

 

宮野「…白雪ちゃんも、迷惑じゃない?私が…ここにいても」

 

見つめながら尋ねると白雪はそこにヒョコヒョコと歩み寄り、ニッコリと微笑んだ。

 

 

白雪「…はい。一緒に…いてほしいです…」

 

照れているのか、少し顔を赤くして答える白雪。

そんな白雪がとても可愛くて、宮野はその頭を撫でた。

 

 

宮野「そっか…ありがとうね」

 

彼女の頭をほんの少し撫でた後、そっと手を離す。

もし本当に迷惑ではないのなら、宮野はここにいたかった…。

彼女は最後に弦次を見つめ、その思いを告げる。

 

 

 

宮野「ゲンジくんも…平気かな?私なんかが、ここにいても…」

 

弦次「ええ、全然構いません。当然、マコトさんも残りますよね?」

 

宮野に答えた後、弦次はそばで椅子に腰かけていた誠へと尋ねる。

誠は腰かけた椅子をグラグラと揺らしながら、ニヤリと笑った。

 

 

 

誠「なんだ?寂しいのか?」

 

弦次「違うっての!男女の比率がアレだから…一人でも多くの男に居てもらわないとなんか気まずくて……」

 

照れたように顔を背けて、弦次は声を小さくする…。

思いもよらぬ本音を聞いた誠はおかしそうに笑い、他の者もつられて笑った。

 

 

宮野「ふふっ…そうだよね。大変だよね」

 

誠「はははっ!安心しろ、俺は残ってやる」

 

弦次「…どうも」

 

そう答える誠を見てどこか安心したような顔をする弦次だったが、直後に誠が放った言葉には驚くことになる。

 

 

 

誠「まぁ、コイツらは出てくけどな」

 

彼、由紀、悠里、胡桃、美紀を順に指さしていって告げる。

弦次はもちろん、未奈と白雪もそれには驚いていた。

 

 

弦次「なっ……!?」

 

未奈「なっ、なんで!?どうして!?」

 

「その…色々ありまして……」

 

申し訳なさそうな表情を見せる彼の横を白雪は通り過ぎ、後ろにいた美紀達の元へと駆け寄っていった。何も言わずにたたずむ彼女達を見た白雪は悲しそうな顔をして、静かに尋ねる…。

 

 

白雪「みき…本当に出てくの?」

 

美紀「…うん、ごめんね」

 

由紀「で、でもねっ!また遊びにくるから!」

 

白雪の悲しげな表情を見た由紀は彼女の肩を掴み、安心させるように告げた。白雪は目を潤ませながら由紀の目を見つめ、それから悠里と胡桃を見つめる…。

 

 

白雪「ゆうり……くるみ……」

 

悠里「ごめんね、どうしてもやらなきゃいけない事があるの…」

 

胡桃「わるい…。また近いうちに顔見せにくるからさ、それまで待ってられるか?」

 

悠里と胡桃は彼女の頭を撫で、優しく微笑む…。

白雪は二人の顔を見つめ、静かに頷いた。

 

 

 

白雪「…うん、まってる…」

 

美紀「良い子にしてるんだよ。まぁ、白雪ちゃんには言わなくても大丈夫か…」

 

白雪「また…遊びにきてね?」

 

由紀「うんっ、約束する!」

 

美紀…そして由紀も彼女の頭を撫で、今度は未奈達の方へと向く。

白雪とのやり取りを見ていて冗談などではないと実感したのか、未奈はかなり悲しそうな表情をしていた。

 

 

 

未奈「いつ…出ていくの…?」

 

悠里「出来るだけ早い方が良いので、今すぐにでも…」

 

未奈「……急だね…」

 

胡桃「その…ごめん、ミナ…」

 

泣き出しそうな未奈を見ていたら彼女達が自分の為に出ていくとは言い出せず、胡桃は申し訳なさそうに頭を下げる。すると未奈は顔をバッと勢いよく上げ、悠里に告げた。

 

 

未奈「……わかった!じゃあ、一時間だけ待って?」

 

悠里「一時間、ですか?構いませんけど…何を?」

 

未奈「みんなの車に乗っけてた物資、全部盗られちゃったでしょ?だから家にあるやつを乗るだけ分けてあげる!!」

 

未奈は強がっているかのようにニッコリと微笑み、元気よく言った。

しかしさすがに申し訳無い気がするので、悠里達は慌てた様子で答える。

 

 

悠里「いいですって!貴重な物資なんですから!」

 

胡桃「そうだよ!大丈夫っ、あたし達はまた外で探すから!」

 

未奈「家にはまだまだたくさんあるから良いのっ!!ほら、マコトさん達も手伝って下さいっ!!」

 

止めようとする悠里達を振り払い、未奈は広間を出ていった。

手伝えと言われた誠は渋々立ち上がり、弦次や白雪、宮野も未奈に続いた。

 

 

 

誠「本人がああ言ってるんだ、受け取っておけ」

 

弦次「減ってきたらまた集めに行くから、気にしないでオッケーですよ」

 

美紀「…ありがとうございます」

 

由紀「ヒメちゃんもありがとね」

 

白雪「ううん、大丈夫だよ」

 

白雪は由紀に笑顔を見せ、未奈達の手伝いに向かう。

彼女達だけに任せるのも申し訳無いので悠里達も手伝おうとするが…。

 

 

悠里「あの…私達も手伝いを…」

 

未奈「私達だけで大丈夫だよ。それより、みんなは部屋に置いてある荷物を取ってきた方が良いんじゃない?」

 

胡桃「あっ、そうだ。荷物忘れてた…」

 

美紀「危うく、着替えすら置いてくところでしたね」

 

由紀「じゃあ、取りに戻ろっか」

 

悠里「そうね…じゃあすいません。そちらは任せます」

 

未奈「うん、オッケー♪」

 

そういえば、それぞれの部屋に自分の着替えなどの荷物を置きっぱなしにしていた…。未奈に言われたことでそれを思い出した悠里達は慌ててそれぞれの自室だった部屋へと戻り、荷物を回収しに戻る。彼女達がそうしている間に、未奈達は車へ物資を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして役1時間が経ち…彼女達は屋敷の庭に停めていたキャンピングカーの前に立つ…。未奈達はまだ少しだけ悲しげな表情を見せ、これから出ていく彼女達を見つめていた。

 

 

 

未奈「えっと…食べ物とか薬とか…他にも必要になりそうな物は乗せといたから…遠慮なく使ってね?」

 

悠里「本当に何てお礼を言ったらいいのか…すごく助かります」

 

急に出ていくなどというワガママを受け入れてくれただけでなく、物資まで分けてもらってしまった。それがとても申し訳なくて、悠里は深々と頭を下げる。すると由紀達もそれに続き、未奈達へ向けて頭を下げた。

 

 

胡桃「みんな…ありがとな」

 

未奈「いやいやっ!そんなのいいから顔あげてっ!だいたい、私とゲン君はこの程度じゃ返せないくらいの借りをみんなに――」

 

白雪「……?」

 

危うく何も知らない白雪の前であの出来事の話をしてしまいそうになり、未奈は慌てて口を塞ぐ。そんな未奈を見た白雪は不思議そうな顔をしていたが、深く探ってきたりはしなかった。

 

 

 

弦次「…おい」

 

白雪の目線が未奈へと移っている内に弦次は彼のそばにより、小声で耳打ちする。先程未奈が言ったとおり、弦次は彼に大きな借りが出来たからだ。

 

 

弦次「迷惑かけて、本当に悪かった…。それとお嬢を…いや、俺達を救ってくれてありがとう。お前がここに来なかったら、奴等を倒してくれなかったら…俺は一生、奴等の言いなりだった…」

 

「…いや、こっちこそ、このタイミングで悪いね。まだまだ油断出来ないってのに」

 

弦次「二日も経ったんだ、連中が来る可能性はかなり低い。どうにかなるよ…」

 

「やる事やったらまた様子を見に来る。それまで無事で…」

 

弦次「ああ、そっちも生き延びてくれよ」

 

彼と弦次はそんな会話を交わし、互いに微笑む。

一方、白雪は由紀の腰に抱きつきながら顔を埋め、泣き出しそうな表情をしながら別れを惜しんでいた…。

 

 

 

 

白雪「ゆき…みき…ゆうり…くるみ…絶対、また遊びにきてね?」

 

由紀「うん、絶対に来るよ~♪」

 

悠里「少しの間だけだから、良い子にしててね?」

 

美紀「また、遊びにくるよ…」

 

胡桃「勝手に外出たりするなよ~?」

 

白雪「…うん……うんっ…」

 

かけられた言葉の全てに頷きながら、白雪はそっと由紀から離れる…。そうしてから最後に彼の事を見つめ、白雪は言った。

 

 

 

白雪「みんなのこと…しっかり守ってあげて下さいっ!お願いしますっ!!」

 

「………うん、もちろんだよ」

 

白雪は深々と頭を下げながら彼に告げる。

それは白雪にしては大きな声だったため、そばで聞いていた未奈や弦次はとても驚いたような表情をしていた…。だが、二人はすぐに微笑む。これだけ大きな声を白雪が出したのは、それだけ彼女達の事が大好きだからなのだと気付いたからだ。

 

彼は目の前で頭を下げる少女の頭をそっと撫でると、振り返って車のドアを開ける。もう、出発の時だった…。

 

 

 

由紀「じゃあ…またね」

 

白雪に未奈、それから弦次、誠、宮野へと手を振りながら、由紀達は車へと乗り込む。それぞれが最後の挨拶をしながら車へと乗り込む中、最後に乗る胡桃へ誠と宮野が言った。

 

 

誠「どうにかなる…。だから、また元気な姿を見せてくれよ」

 

宮野「大変だと思うけど、諦めたりしないようにね?絶対、また会おうね…」

 

胡桃「……うん、ありがとう…。また来るよ!」

 

最後に笑顔を見せてから、胡桃は車へ乗り込む。

ドアは閉まり、エンジンのかかった車体が音をたてながら小刻みに揺れ始めた。誠は弦次と共に屋敷の門を開き、彼女達の出発を見送る…。

 

 

 

 

 

悠里「じゃあ、行ってきます!」

 

運転席の窓から悠里が顔を出し、誠達へと告げる。

由紀達も座席の窓から顔を出し、白雪達へ手を振っていた。

白雪達は自分達も大きく手を振り返し、門の外へと出ていく車を見つめる…。

 

 

 

白雪「絶対、またきてね~~!!」

 

大声で叫んだその言葉はしっかりと届き、由紀が走る車体から身を乗り出す。彼女は少しだけ泣きそうな顔をしながらも、ニッコリと微笑んでいた。

 

 

 

由紀「ばいば~いっ!またね~っ!!」

 

走っていく車はどんどん遠くなり、曲がり角を曲がって未奈達の視界から姿を消した…。それを見送った誠と弦次は門を閉め、未奈達のそばへと戻る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

誠「さて…行っちまったな」

 

宮野「少し…寂しいですね」                   

 

未奈「絶対にまた会えます…ね、ヒメちゃん?」

 

白雪「うんっ、また来てくれるよ」

 

弦次「…だな。あの人達なら大丈夫だ」

 

そんな言葉を交わしてからもう一度だけ、彼女達の走っていった道を見つめる…。またいつか会える事を心の底から祈りつつ、五人は屋敷の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

由紀「………はぁ…」

 

屋敷を離れ、どこに向かえば良いのかも分からないまま走っていくキャンピングカー…。その車内、後部の座席に座る由紀が悲しげにため息をつく。やはり、未奈や白雪と別れるのが辛かったようだ。

 

胡桃は由紀とテーブルを挟んだ真正面の席へ座り、窓の外をじっと見つめている彼女へと語りかける。

 

 

 

胡桃「わるいな…面倒なのに付き合わせちゃって…」

 

由紀「ん?嫌だなぁ~、全然平気だよ~!何て言っても、愛する胡桃ちゃんの為だもんねっ!」

 

胡桃「愛するって、お前な…」

 

照れる胡桃の方へと目線を向けて微笑み、由紀は席の前にあるテーブルの上に身を乗り出す。そして正面に座る胡桃の右手を掴みあげてからガッシリと両手で握り締め、そこにそっと額をつけた…。

 

 

胡桃「………」

 

由紀「…ほんっとに冷たいねー」

 

由紀は両手と額とでその体温の冷たさを感じとり、ニヤケながら胡桃の顔を見つめる。直後に胡桃は掴まれている右手を軽く振り回し、由紀の手から逃れようとした。

 

 

胡桃「文句あるなら離せ~~」

 

真顔の胡桃が適当に手を振り回す。

由紀はニヤニヤしたまま両手を離さず、楽しげな表情をしていた。

 

 

由紀「えへへ~っ♡離さなぁ~い♡」

 

胡桃「…ぷっ!あははっ♪」

 

ずっとしがみついてくる由紀が面白かったのもある…。

でも、胡桃が笑った理由はそれだけではない…。

隠し続けていたものを大切な友達に打ち明けられた上に、みんながそれを受け入れてくれた。しかも、自分なんかの為にまた危険な外へと出てくれたのだ…。

 

 

胡桃(全部打ち明けると、こんなに楽になるんだな…。みんなに言えて…みんなが優しい奴等で…本当によかった…)

 

改めて、この仲間達の大切さを実感する。

出来ればここにいる全員に言っておきたい言葉があった胡桃だが、全員に言うのは少々照れくさいので、とりあえず…目の前にいる由紀にだけ告げる事にした。

 

 

 

胡桃「…由紀」

 

由紀「んっ?」

 

相変わらず、胡桃の右手を両手で握り締めている由紀…。

これから告げる言葉が恥ずかしいものなので、首を傾げてこちらを見つめる由紀を胡桃は直視出来ない。なので仕方なく、そっと顔を伏せてから小声で告げた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「………………大好き」

 

 

 

 

言った瞬間、胡桃は自分の顔が真っ赤になるのがわかった。

恥ずかしくて由紀の顔を見れない…。ひょっとしたら、今は普通の人間以上の体温になっているのでは?実際のところ胡桃の体温は低いままだったのだが、自分ではそう思う程に体が熱くなってきた気がした。そんなふうに胡桃が照れていると……

 

 

 

由紀「…あたしも大好きだよ」

   

由紀が小さく…それでいて優しい声で囁く…。

それを聞いた途端、照れていた自分が馬鹿らしく思えてきてしまい、胡桃は顔をあげて微笑んだ。

 

 

 

由紀「…絶対に治してあげるから…これからも一緒にいようね」

 

胡桃「…ああ…わかったよ…」

 

由紀の言葉が本当に嬉しくて思わず涙ぐみそうになるが、胡桃はそれを堪えて笑顔を保つ。由紀も胡桃が笑っているのが嬉しくて、二人でしばらく笑いあっていた。そして、少し離れた席からそれを見ていた彼もまた…嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                ~~

 

由紀『この日から、胡桃ちゃんはよく笑うようになった。きっと、キミのおかげだね…。結果がどうなるかは分からないけど…幸せそうに笑う胡桃ちゃんが見れて、本当によかった…』

 

 

                ~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時刻は二日前…。

ちょうど由紀達が境野達の手から無事に生還し、未奈の屋敷へと戻ったのと同時刻へと遡る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の五時を過ぎ、辺りが夕焼け色に染まる頃…一台の大きなトラックが町の中心部から少しだけ外れた道路を走る。そのトラックを運転しているのは、境野の仲間である如月という女性だった…。

 

 

 

 

 

如月「…よし、着いた」

 

境野から人員を借りた如月は自らの住み家へと戻る途中、ある場所に寄り道をしていた。ドアを開けて乗っていたトラックから降り、荷台を叩きながらそこに乗せていた境野の仲間達に降りるよう指示を出す。

 

バンバンッ!

 

 

如月「ほら、とっとと降りて!」

 

「あれ、ここが如月さん達の住んでるとこですか?めっちゃ豪華じゃないですか!」

 

荷台から降りる十人の男達…その内の一人が目の前にあるその屋敷を見て目を輝かせる。しかし、如月はすぐに首を横に振ってそれを否定した。

 

 

如月「残念だけど、ここには先客がいるの」

 

高い塀と頑丈そうな門。

その向こうにそびえ立つ屋敷はとても大きく、男達は各々驚きの声をあげる。

 

 

「持ち主はよっぽど金持ちだったんだろうな…」

 

「境野さんが目をつけてるあの女の子、ミナ…とか言ったっけ?あの娘の屋敷も中々豪華な造りしてそうだったけど、ここの方が上かな…」

 

未奈の屋敷を見たことのある者はそう呟き、如月を見つめる。

如月は門の前にスタスタと歩み寄り、それに寄りかかりながら中の庭を覗き見ていた。

 

 

如月「…いないのかしら?前はすぐに来たのに」

 

誰もいないその庭を見て、ボソッと呟く。

他の仲間も庭を見たが確かに誰もいない上に、屋敷から誰かが来る様子もなかった。

 

 

「ここ…誰が住んでるんです?」

 

気になった一人が尋ねる。

すると如月は門によりかけていた体を起こし、それに答えた。

 

 

如月「私達の敵…」

 

「敵?…っていうことは、ここに住んでるのが例のグループって事ですか?」

 

如月「そ。前に交渉してここを渡すように言ったんだけど、全く聞いてくれなかったの」

 

「確かに…ここを住み家に出来ればかなり良いですね」

 

如月「ええ、この門と塀があれば奴等は入ってこれないし、自家発電機まであるみたいよ?」

 

「おっ、そりゃスゲェ…。んじゃ、とっとと奪っちゃいますか?力ずくで奪う為に俺達を連れてきたんでしょ?」

 

如月「…いえ、今はちょっと挨拶に来ただけ。ここにいる連中と殺り合うのはもう少し後…私達の住み家に戻って、全員と合流してからね」

 

「今ここにいるメンバーだけじゃ足りませんか?相手、何人です?」

 

如月「前に会った時のままなら……三人よ」

 

「な…っ!?」

 

如月が不敵に微笑むのを見て、その場にいた男達は一瞬言葉を失う…。

たった三人なら今すぐにでも攻めてしまえば良いと、誰もが思った。

 

 

 

 

「たった三人…?なら、わざわざ合流するまでもないでしょ?俺達だけで十分!」

 

如月「私もそう思うけどね、あの人が言ってたの…『アイツらを甘く見るな』って…本当に怖い顔してね。だから、今は念の為に戦わないでおきましょ?」

 

「あの人ってのは…」

 

如月「ええ、ウチのボスね。あの人があんな顔するの見た事ないから、凄く驚いたわ。今回、境野から人手を借りてくるようにって提案したのもあの人なの」

 

自らのグループのリーダーの顔を思い浮かべながら、如月はその門に背を向ける。中の住人が不在のようなのでトラックに戻ろうとしたその時、一人が尋ねた。

 

 

「大体…どんな奴らなんです?ここにいるその三人ってのは」

 

如月「そうね…まず男が一人。彼はなんていうかヤンキーっぽくて…あと少しバカそう…そんな青年よ」

 

如月の毒舌な発言を聞いた男達がニヤニヤとする。中には声を出して笑う者すらいた。

 

 

如月「男はもう一人いるみたいだけど、その人については知らないわ、会ったことないから。問題は最後の一人…若い女の子なんだけど、スッゴくムカつくの…」

 

「あ!それがさっき言ってた女の子か。可愛いんですよね?」

 

如月「まぁ…顔だけならそれなりにね。私あの娘大っ嫌いだから、戦いが始まったら好きに苛めて良いわよ。見知らぬ男達連中に無理やり襲われれば、あの娘も泣き喚くでしょ」

 

「へへ…よっし!やってやろうぜ!!」

 

男達はやる気を上げ、それぞれ顔をにやけさせる。

如月はそんな男達を見ながらため息をつき、トラックのドアに手をかけた…。

 

 

 

???「如月さん…今日は随分と友達連れてるね」

 

如月「…あら、いたの?」

 

ドアに伸ばした手を下げ、そっと声の方へと向く。

その声はトラックの向こう側から発せられていて、その主はトコトコと歩きながら自分から姿を現す。

 

 

如月「久しぶりね、狭山ちゃん」

 

狭山「…どうも。にしても…まだ生き延びてたんだ」

 

如月「それはお互いさま…」

 

"狭山"と呼ばれたその中髪黒髪の少女は一度如月を見つめ、すぐにその後ろに控える男達を見る。そんな狭山を見た男達は思っていたよりも少し幼い子だという印象を彼女に感じたが、十分に興奮できるくらいの可愛さも兼ね備えていた。

 

 

 

「お~!わりと可愛いじゃん!!」

 

「お嬢ちゃん!もうちょっとこっちおいで?」

 

男達は次から次へと彼女へ語りかけ、鼻息を荒くする。

狭山はそんな連中を見て、引き気味に口を開いた。

 

 

 

狭山「……如月さん、どこに行ったらこんな珍獣達を捕まえてこれるの?」

 

「はぁ…?珍獣?」

 

如月「…ね?ムカつく娘でしょ?」

 

「ちょっと口が悪いな…説教してやるか?」

 

「まぁまぁ、照れてるだけだって。可愛いじゃん」

 

狭山の発言に苛立つ者もいたが、何人かは彼女の発言を冗談として捉えたらしく笑いながら苛立つ者をなだめていた。

 

 

 

如月「狭山ちゃん、どうかな?この屋敷、私達に渡してくれない?」

 

狭山「…ボクはただ住まわせてもらってるだけだから、渡したりするような権限ない」

 

如月「じゃ、その権限持ってる人に伝えてよ。『渡さないなら全員殺して奪っちゃうよ』ってね」

 

狭山「…えっとね、多分返事は決まってる。『やってみろ』って言われるよ?」

 

かなり物騒な事を言った如月の発言に表情一つ変えず、狭山は首をかるく傾げながら答える。如月はそんな彼女を見て微かに眉間にシワを寄せ、不気味に笑った。

 

 

如月「…じゃあ、後一時間したらまたここに戻ってくるから、せいぜい楽しみに――」

 

狭山「ううん……ボク達の方から行くから良いよ。如月さんは自分達の住み家で待ってて」

 

言葉を遮るようにして告げる狭山に一瞬戸惑う如月だったが、それならそれで好都合だとも思った…。

 

 

 

 

如月「へぇ…わざわざ来てくれるの?」

 

狭山「…うん。だって、ここで戦ったら柳さんの家が汚れちゃう。如月さん達もどうせここを手に入れるなら、綺麗な方が良いでしょ?」

 

如月「………そうね」

 

狭山「…じゃあ一時間くらいしたら行くから、準備して待っててね」

 

如月「ええ…わかった…」

 

如月はそう答え、トラックのドアに手を伸ばす…。

狭山はそんな如月へ向け、無表情のまま手をパタパタと振っていた。

 

 

如月「……ねぇ、今一人なの?」

 

狭山「…え?」

 

如月「一人…よね?なら…アンタだけ…先に……」

 

ぽかんとした表情のままたたずむ狭山に気取られぬよう、如月は腰に隠していたナイフに手をあてる…。彼女一人ならば、このまま仕留められると思ったからだ。しかし、ここにいるのは彼女だけではなく…。

 

 

 

???「残念!一人じゃないんだなこれが!!」

 

如月「!?」

 

突如聞こえたその声の主はいつの間にかトラックの荷台に乗っていたらしく、ニヤニヤしながらそこから飛び降り、目前の如月とその仲間を見つめた。

 

 

如月「…穂村君、いたのね」

 

穂村「どうも如月さん。ダメじゃん、この家は渡さないって前に言ったろ?」

 

"穂村"と呼ばれた青年は肩まで伸びた茶髪が印象的で、かなり鋭い目付きをしていた。一見するとヤンキーのように見えるその風貌に引き気味の者もいたが、如月は動じずに穂村と睨み合っている…。

 

 

如月「いつからいたの?」

 

穂村「最初から狭山と一緒にいたけど、あんたら全員狭山に夢中みたいだからこっそりと荷台に乗って隠れてみた!!」

 

如月「…そう」

 

穂村「あんたらの会話聞いてたけどさ、本当にウケるわ。狭山お前、地味にイライラしてきてただろ?」

 

穂村は狭山の横に歩み寄り、その肩をバシバシ叩きながらケラケラと笑う。狭山は自らの肩を叩いてくる穂村の手をガシッと掴み、呆れたような顔をした。

 

 

狭山「…今の穂村の方がよっぽどイラつく」

 

穂村「そんなにイライラしてばっかりいるとモテねーぞ?お前、ちょっとしたことでもすぐにキレるからなぁ」

 

狭山「…ボクが怒る原因の120%は穂村のせいだから、キミが死ねばイライラもなくなるよ」

 

穂村「まったく…俺を見習ってもっと我慢強くなれっての」

 

狭山「……そういえばさっき、如月さんが穂村の事バカそうって言ってたよ」

 

穂村「んだとババァ!!!」

 

如月「ちょっ!?」

 

狭山の発言を聞いた穂村は如月に殴りかかろうとしたが、狭山が背後から穂村の服の腕を掴んでそれを押さえていた。暴走しかけている穂村を押さえている狭山はニヤニヤしながら如月を見ており、その表情がまた如月にとっては不快だった。

 

 

 

狭山「まったく…ダメだよ穂村…。女の人にババァなんて言っちゃ。ほら、あのババァ気にしてるよ」

 

如月「っ!!」

 

「ぷっ!!」

 

さらっと毒のある発言をする狭山と、それを聞いて狭山を睨む如月。

その光景が面白かったのか、男達の数人が声を押し殺して笑い始めた。

如月はそんな笑い声に気付き、男達をギロッと睨む。

 

 

如月「あんたら…ふざけてんの?」

 

「あははっ…いや、すんません。おかしくって…」

 

如月「ッ!もういい…帰るわよ!」

 

如月はかなり機嫌を悪くしてしまい、トラックに乗り込んでいく。

必要以上に強く閉められたドアはバンッ!と大きな音を鳴らし、いかに彼女が不機嫌かを知らしめた。男達はそんな彼女に遅れぬよう、慌てて荷台に乗り込む。

 

 

如月「…ちゃんと来なさいよ?来なかったらこっちから行くから」

 

狭山「…大丈夫、絶対行くから」

 

如月「楽しみにしてるから…あんたが泣きわめくの…」

 

運転席の窓から顔を出し、それだけを告げて如月は去っていく…。

狭山は穂村と二人でそれを見送り、直後に顔を見合わせた。

 

 

穂村「お前、泣きわめくの?」

 

狭山「…そんな予定はない。そういえばボク、前も別の人に似たような事言われたんだよね…」

 

穂村「狭山って泣かせたい系女子なんじゃねぇの?少しわかる。ほら、普段表情のレパートリーがないからさ、貴重な泣き顔見たら萌える…みたいな?」

 

狭山「…如月さんはただボクが嫌いだから泣かせたいだけでしょ。まぁ、絶対泣かないけど。…それより、穂村はボクの泣き顔に萌えるの?」

 

穂村「お前がいかに表情の無い人間かを知った今なら、かなり萌えると思うぜ。ほら、泣いてみて?」

 

狭山「……本当に死んでほしい。今回の戦いで名誉ある死を遂げてくれないかな…」

 

ボソッと呟きながらその門の鍵を使い、狭山は中へと入っていく。

穂村は自らも中に入ってから門を閉め、彼女の後に続いた。

 

 

 

穂村「あの調子だと、かなりの人数を集めてそうだな。狭山、大丈夫か?」

 

狭山「…大丈夫だよ。今はボクと穂村の他にあの人もいるし、少し人数集めただけの連中には負けない」

 

穂村「だといいがな…。一時間くらいで行くとか言っちゃったし、ろくな準備も出来ねぇか」

 

狭山「穂村…いつも戦う前に準備とかするっけ?」

 

穂村「しねぇ」

 

狭山「じゃあ…問題ないじゃん」

 

穂村「ああ、問題ねぇ」

 

穂村とその屋敷の大きな扉の前に立ち、それを開けていく。

狭山と共に屋敷の中に入った穂村がそれから手を離すと、木製の扉はギギッと軋むような音を響かせながら勝手に閉まっていった。

 

 

…バタン!

 

 

狭山「…今日はもう休む予定だったけど、仕方ないね」

 

一人呟き、狭山は穂村と共に歩を進める。

迫る戦いを他の仲間に伝え、準備をしなくてはならないからだ。

 

 

 

穂村「さぁて、気合い入れていくか」

 

狭山「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、彼等は再びいつものメンバーで外へと旅立ちました。
未奈ちゃんの屋敷には誠さん&宮野さんが残りましたので、余程の事がない限りは大丈夫なはずです…(>_<)



そして如月さんはより多くの物資や安全な隠れ家を手にいれるべく、本作の外伝メンバーと戦います。でも二日経っても帰ってこなかった訳だし、結果は……とも思うでしょうが、蓋を開けてみるまでまだまだ分かりません(/。\)


(そういえばやたらと年齢の事をいじられている如月さんですが、そこまで年はいってません!ただ少し老け顔だったり、出会う他の女性陣が若い娘ばかりなので目立つだけなのです!)

この戦いについてはまた外伝として投稿していくので、ご期待いただけたらと思います!m(__)m



それと次更新予定の話をもちましてこの章は終わり、新章突入となります!

次回の話は時間を遡っての回想回なのですが、これがかなり前から書きたかった話でして…ある意味では重要な回です!こちらもご期待下さいませm(__)m


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。