「出来ぬ……」
地面に胡坐を掻いたナルトの表情は固かった。
ナルトは悩んでいた。
カカシから教えて貰ったチャクラコントロールの修行法、手を使わず足だけで登る木登り。それがどうしてもナルトはできなかった。そして、彼は諦めることも知らなかった。
ゆっくりと彼は立ち上がる。
そもそも、普通のチャクラを練る事が苦手なナルトだ。チャクラを練り、それを足に留めるということは、今のナルトにとって非常に高いハードルであった。
──これではない。
カカシに手本を見せて貰った時、彼は靴を脱いで自身の足の指の力だけで木を登ってみせたが、それはチャクラコントロールを身に着けるという修行の目的に反することだ。
あくまでも、この修行で求められることはチャクラコントロール。足先で微細な木の幹の瘤を靴越しに把握出来たとしても意味はない。
青色のサンダルを履いたナルトの足は樹の幹にしっかりと着いていたものの、それは足の力のみを上手く使った上での成果だ。チャクラを使わずに木の幹を垂直に歩くという人間離れした動きを見せながらも、これでは趣旨が違うとナルトは顎を擦る。
チャクラというものをさっぱり把握できないナルトは考えた。チャクラを使わずに同じ動きをしていれば、チャクラを把握できるようになるのではないか、と。地面と平行にした体を上へと移動させているナルトだったが、成果は全くなく無駄足ではないかと考え始めた頃、隣の青い服が徐々に梢に近づいていることに彼は気が付いた。
「サスケ」
「何だ?」
「貴殿がどのようにしてチャクラを練っているか教えて貰ってもいいか?」
普段の時ならば、出来るまで只管に、愚直に、とことん同じことをしただろうが生憎、時間がない。仮死状態になった再不斬が復活するまで一週間程度とカカシは断定した。
つまり、ナルトは一週間以内にチャクラを練る事を覚え、更にチャクラコントロールまで出来るようにならなくては再不斬に対抗できない。
だが、チャクラを練る取っ掛かりすらもないのでは時間だけが過ぎて一週間が経ってしまうと考えたナルトはサスケへと尋ねるのだった。
「そこからか」
登る足を止め、地面に降り立ったサスケはナルトへと口を開く。
「身体エネルギーと精神エネルギーを体の中で混ぜ合わせる。それだけだ」
「しかし、己はエネルギーが何なのか分からぬのだ」
「バカは考えるな。感じろ」
「ぬ!?」
「テメェはこれまでもそうやってきただろうが」
「そうで……あったな」
ナルトの目に煌々と炎が灯った。木の影から彼らの様子を窺っていたカカシは昔の自分たち、下忍であった自分たちとは違う彼らの関係に破顔する。
弱気になったナルトをサスケが励ましている。チームワークが分かってきたみたいだな。
これはいい兆候だと考えたカカシは木の影から出て、彼らの前に姿を現した。
「サスケは上手くいっているみたいだな。で、問題はナルトか」
カカシはナルトを見つめる。
彼が今からナルトに行おうとすることは、成功する保証がない一種の賭け。上手く行かない場合は、まず間違いなく自分の命はないだろう。そして、下手をすれば、この地域一帯が更地となる可能性がある。
だが、行わないという選択肢はない。ここで、自分が何もせず、そして、再不斬が再度、襲撃してきた場合、再不斬はナルトを狙うだろう。その時に、自分がナルトを助けに入ることができないとしたら、その場合も波の国が滅ぼされる可能性がある。
どちらに転んでも悪い結果を引き当ててしまったら滅亡。それならば、まだ自分の力でなんとかできる可能性がある前者をカカシが選ぶのは当然とも言えることだった。
「……時間もないし荒療治といくしかないな」
「荒療治?」
「そ! 今から幻術をお前に掛けて、お前がチャクラを練れるようにする」
「そのようなことができるのか?」
『ああ』と頷いたカカシはナルトに教えられる程度の情報に嚙み砕いて説明する。
「なんというか、な。お前の中には大きなチャクラの塊がある。それが常にお前の体を循環していることで、お前がチャクラを練ることを阻害している訳だ。ま、そのチャクラのお陰で身体能力や治癒能力の大幅な向上になっているって面もあるけど」
「なるほど」
「幻術を掛けてお前の精神の中に潜り込む。そして、チャクラの塊を操作してお前にチャクラを流さないようにする」
「では、よろしく頼む」
ナルトは胡坐を掻き、体中の力を抜いてリラックスした状態をカカシに見せる。それと対照的にカカシの雰囲気は非常に硬いものだった。今まで見た事がない担当上忍の雰囲気にサスケは思わず息を呑む。そして、カカシが一体、ナルトに何をしようとしているのか見定めようと無意識の内に眼を見開いていた。
ゆっくりとした動作でカカシは左目を覆っていた額当てを上にずらす。
「なッ!?」
思わず、サスケの唇から声が漏れた。
──写輪眼!?
サスケの眼が捉えたのは、カカシの眼だった。赤く染まった虹彩の中に三つの黒い巴模様が浮かんでいる。
カカシが持つ眼。それは写輪眼と呼ばれる特異体質だ。木ノ葉の里“うちは”一族の中でも一部の者しか開眼できていなかった特異な眼。その能力は目を合わせることで幻術に引き込むことができる催眠眼、高速で動くものをも捉える洞察眼など瞳術の道具として最高峰の能力を持つ眼だ。
血継限界と呼ばれる血に依存する特異体質の中で“うちは”の血にしか許されていない力。それが、うちは一族でないカカシに宿っているのを見て、サスケの顔が強張る。
「サスケ。オレの写輪眼について、また今度、説明してやる」
「……ああ。今はアンタのことよりもナルトだな」
「済まないな、サスケ」
下忍とは言え、サスケも忍。優先させるべきものが何かはきちんと把握していた。
今一、話に付いていけていないナルトへと左眼を合わせたカカシは練り込んでいたチャクラを原料にナルトへと幻術を掛ける。
景色が変わった。
緑溢れる林の中から、灰色しかない建物の内部のような場所へと一瞬で景色が変わったことから、カカシは自分の術が上手くいったと確信した。
──ここが、ナルトの精神世界か。
まるで迷路のように入り組んだ廊下。足元には水が溜まっており、物寂しい景色が永延と続いている。
廃墟のようなナルトの精神世界を進むカカシの足取りには迷いは見られない。カカシの感覚が捉えている強大で冷たいチャクラ。そのチャクラを感じることができる方向に向かって進むことが正しいのだとカカシは理解していた。
水音がカカシの足元で跳ねる音が止まった。カカシはあるドアの前で立ち竦む。ややあって、覚悟を決めたように視線を鋭くしたカカシがドアを開けると、そこには巨大な牢があった。
「ワシに何か用か? ……人間?」
牢の隙間から見えるのは橙の巨体。それをカカシは以前にも見た事があった。
これから先も忘れることなどはできないであろう、あの日の出来事を。師を失った日のことを。そして、その怨敵とも言える存在がカカシの前にいる。
──今はその感情を捨て置け。
彼は忍だ。
自分の感情を殺し、部下のために依頼人のために最善を尽くすこと。今、自分が何をすべきなのか把握していたカカシは檻の中の存在へと話し掛けた。
「九尾の狐。アナタに話がある」
「ナルトにチャクラを練らせるようにワシからのチャクラを止めたいという所だろう?」
予期していない九尾の狐の言葉にカカシの動きが止まる。『なぜ?』という疑問をカカシが口に出す前に九尾の狐は先手を打ったのだ。
「ナルトの中から見ていたからお前のしたいことも分かる」
「なら……」
「ああ、好きにしろ。ワシとしても、封印が弱まったせいでナルトにチャクラを勝手に持っていかれるのは不快だ。カカシ、貴様に任せる」
前足に顎を乗せた九尾の狐が目を閉じたことを確認して、カカシは九尾の狐の力を抑えている封印を補修しようと手を少し上に上げた。と、九尾が下した瞼を持ち上げた。
「ああ。言い忘れていたが、カカシよ」
「ん?」
「ワシを“操作”できるなど随分と大きく出たものだな」
「!?」
九尾から発せられる強大なチャクラにカカシは身じろぎ一つできない。矮小な人間が天災とも言える存在の前で気を抜き、無礼な態度を取る事などは決して許されないことであった。
カカシが恐怖に固まる様子を見て満足したのか、九尾の狐は荒ぶるチャクラを収めた。
「ワシからナルトへ流れ出すチャクラを止めるという功績を認め、今回は目を瞑ろう。だが、次はない。覚えておけ」
「ええ」
顔を青く染めたカカシに満足したのか九尾の狐は唇を器用に歪ませて笑みを作る。
「ワシは寝る」
「……失礼します」
──なんだ、アレは。
暴力。思考が恐怖一色に染められるほどの力。
──アレが……尾獣か。
自分の見通しの甘さに震える。
例え、九尾の狐が暴走したとしても抑えることに自信があった。上手く行かなかった場合を考えていたといっても、それはあくまで最悪のケース、あまり考えられなかったケースだ。それなのに、今の自分の状態はどうだ? 震えているじゃないか。
自嘲気味にカカシは笑う。
──先生は……こんなモノを相手にしていたのか。
カカシの手の震えが止まった。
──なら、オレもがんばらなくちゃな。あの世で先生に会った時に顔向けができない。
印を組んでいくカカシの表情には、もう恐怖はなかった。あるのは覚悟。恩師の子である“うずまきナルト”を教え導くという覚悟だ。そして、あの悲劇の“うちは一族”の末裔であるサスケ、忍者学校でも特に目立つことがなかった普通の生徒であるサクラ、全員を守り纏めるためには、自分の力はまだ足りない。
目を閉じるカカシの瞼の裏に浮かぶのは、黄色の閃光。カカシが心の底から憧れた忍の姿だった。
カカシは目を開ける。まだ、自分の姿と重ならない影に向かって苦笑いを浮かべながら、彼は封印の修繕を完了させるのであった。
+++
「よいしょっと」
掛け声と共にサクラは鉄骨を持ち上げる。
「超すまんのう。護衛に加えて手伝って貰うなんて」
「修行の一環ですから」
そう言って笑うサクラへと微笑みを返したタズナは、ふと、他の二人の姿がないことに気が付く。
「そういやぁ、ナルトとサスケの姿が見えんが、奴らはどうした?」
「別の所で修行中。二人とも合格したら、こっちに来ると思う」
「ってことは、お前さんは先に合格したって訳か」
「ええ、私は優秀だから。ちょっと、全然信じてくれてないじゃない!」
タズナの目線を感じたサクラは唇を尖らせる。
「ちょっといいか、タズナ」
「ん? どうした、ギイチ?」
二人の談笑の中に一人の男が渋い顔をして入ってきた。彼の名はギイチ。タズナと長年付き合ってきた橋作りの職人だ。
ギイチは重苦く声を絞り出した。
「色々考えてみたんだが……橋作り、オレ、降ろさせて貰っていいか?」
「な……何でじゃ!? そんな急に……お前まで!」
「タズナ、アンタとは昔ながらの縁だ。協力はしたいが、無茶をするとオレたちまでガトーに目を付けられちまう。それに、お前が殺されちまったら元も子もねェ!」
荒げた声を抑え、ギイチは己の足元に視線を向ける。
「ここらでヤメにしねーか? 橋作りも」
「……そーはいかねーよ」
タズナは足元を見るギイチの顔を正面から見て宣言した。
「この橋はワシらの橋じゃ。資源の少ないこの超貧しい国に物流と交通をもたらしてくれると信じて、町の皆で造ってきた橋じゃ」
「けど、命まで取られたら……」
「もう昼じゃな。今日はこれまでにしよう」
タズナはヘルメットを目深に被り直す。
「ギイチ、次からはもう来なくていい」
ギイチに背を向けたタズナは歩き出す。彼の護衛を最優先させるようにカカシから言いつけられていたサクラは一人で先に行くタズナを慌てて追った。
タズナを追って、波の国の街を歩くサクラの顔色はいいとは言えない。先ほどのタズナとギイチのやり取りもサクラの顔色が優れない理由ではあるが、それ以上に、彼女は目の前の街の様子を注視していた。
──何なの、この町……。
活気がない。人通りが多いとは言っても、その全ての通行人の目は死んだ魚のように無気力なものだった。
道路に座り込む子どもに心を痛ませながらも、サクラはタズナについていく。
「おお、ここじゃ」
タズナの案内に従い、サクラは一軒の店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
覇気の感じられない店主の声が彼女らを迎える。店の中を見渡すサクラの表情は更に曇った。
──ほとんど何もないじゃない。
数えるほどしか商品がない八百屋。書き入れ時にはまだ早い時間というにも関わらず、商品はほとんど残されていなかった。
自分たちが住む木ノ葉隠れの里では考えられない状況。それに意識を割かれていたサクラは自分に接近する影にギリギリまで気づくことができなかった。
サクラに近づく影がサクラの鞄に手を振れた瞬間、振動が彼女に伝わり、条件反射のような動きでサクラの足が近づく影の顎を捉えた。
「キャー! チカーン!」
「ち……違……」
倒れる男。本当は彼はサクラの財布を狙うスリだったのだが、彼を痴漢と思い込んでいるサクラは、彼が痴漢以外の目的があったことに気づくことはなかった。
それであるから、意識を失った彼に犯行に及んだ理由を聞くこともなく、彼女はただ呟くだけだ。
「何だって言うのよ、この町は?」
タズナたちは、サクラが痴漢と思っているスリを撃退した後、商品を買った八百屋を後にする。
突然、サクラの裾が引っ張られた。先ほどの男が頭の中をチラつき、サクラは最大限に警戒を高めて振り返る。だが、そこには拍子抜けするような光景があった。
裾を引っ張られたサクラが振り向くと、そこには手を広げた少年がいたのだ。彼の何かを待つ様子にピンときたサクラは、手を広げた子どもにいくつか飴を渡す。
「ガトーが来てからこのザマじゃ」
タズナは去っていく子どもを見ながら誰ともなしに呟く。
「ここでは大人は皆、腑抜けになっちまった。だから、今、あの橋が必要なんじゃ。勇気の象徴、無抵抗を決め込んだ国の人々に、もう一度、“逃げない”精神を取り戻させるために。あの橋さえ……あの橋さえ出来れば……町はまた、あの頃に戻れる、皆、戻ってくれる」
タズナは誰ともなしに呟く。
それはきっと、自分自身に言い聞かせていたのではないかとサクラは思うのだった。そして、彼に掛ける言葉が何一つ出てこない自分に歯噛みするしかなかった。
+++
サクラたちがタズナの家に着いてから数時間後、食卓には食事が用意されていた。ツナミの腕を振るった料理は、質素ながらも海に近い波の国の郷土料理で木ノ葉の里では見ることがほとんどない料理だった。
ツナミの料理に舌鼓を打つ木ノ葉出身の4人。黙々と料理を口へと運ぶ4人。言葉はないものの、美味しいという雰囲気を出す彼らにタズナは上機嫌だ。
「いやー、超楽しいわい。こんなに大勢で食事するのは久し振りじゃな!」
「タズナ殿。おかわりを……しても良いだろうか?」
「おう! 食え食え! それにしても、ナルト。お前さん、いい食いっぷりじゃのォ!」
「……おかわり」
「サスケもか! うむうむ。やはり、男はこうでなくてはな! 先生、アンタはどうじゃ?」
「いえ。私は遠慮させて頂きます」
「育ち盛りのこの子らと比べたらいかんとは思うが……それにしても、あまり箸が進んでおらんが?」
「いえ、とてもおいしいのですが……何分、小食なもので」
「残念じゃのォ。おっと、サクラはおかわりどうじゃ?」
「私もお腹一杯なので。というより、この二人が凄いから比べられても困ります」
頬を膨らますサスケと黙々と出された食事を平らげていくナルト。二人の食べっぷりは見事なものであった。それこそ、タズナが見とれるほどに気持ちのよい箸の進め方だった。
満足したように笑うタズナを横目に、自分で作っていないために正確とは言えないものの、大雑把にカロリー計算を行うナルトは、ツナミの料理は筋肉にも良いことに気が付き、いたく感激した。アジやサバなどの魚類やエビやイカに含まれるタンパク質、カルシウム。玄米や野菜に含まれる糖質やビタミン。ヒジキに含まれる鉄分も体にはいい。
海に近い波の国の食事は健康によく、更に、筋肉に必要な栄養素もしっかり摂れる。ナルトは満足だった。
そんな呑気なナルトとは裏腹にサスケは只管に料理を口へと収めていた。目的はスタミナの回復のため。チャクラを練る時に使われる身体エネルギーはスタミナと呼ばれることがある。そのスタミナを回復させるための手っ取り早い方法が食事と休息だ。
外部から栄養を取るため、いつも以上に料理を胃の中に押し込むサスケ。
彼らを見てツナミはタズナと同じように笑うのだった。彼らに影響されてか、どこか影のあった笑顔が今だけはツナミ本来の明るさによって輝く。そんな笑顔だった。
しかし、楽しい時間は長く続かないのが世の常。
食事が終わり、熱い茶を啜りながらサクラは疑問に思っていたことを口にした。
「あの~、なんで破れた写真なんか飾ってるんですか? イナリくん、食事中ずっとこれ見てたけど……なんか写ってた誰かを意図的に破ったって感じよね」
サクラが指し示すのは壁に掛けられた一枚の写真。上半分は破り捨てられている奇妙な写真だ。
「……夫よ」
「……かつて、町の英雄と呼ばれた男じゃ」
瞬間、ツナミとタズナの顔から笑顔が消えた。それと同時に、食事の間も暗い顔のままだったイナリの表情が一段と暗くなる。
やおら、イナリは立ち上がって足早に部屋を出ていった。
「イナリ! どこ行くの? ……イナリ!」
ツナミへのイナリの返事は扉を閉める音。
「父さん! イナリの前ではあの人の話はしないでって、いつも……」
唇を噛み締めたツナミはタズナへと怒鳴るが、それが単なる八つ当たりだと気が付いたのか目で謝罪の意をタズナへと表した。分かっているというように寂しそうな顔付きのタズナから目を伏せたツナミはイナリを追うため、部屋から出ていく。
「イナリくん、どうしたっていうの?」
「何か、訳ありのようですね」
カカシはタズナを見遣る。
「……イナリには血の繋がらない父親がいた。超仲が良く、本当の親子のようじゃった。あの頃のイナリはほんとによく笑う子じゃった。しかし……」
静かにタズナは涙を流す。
「……しかし、イナリは変わってしまったんじゃ。父親のあの事件以来。この島の人間、そして、イナリから“勇気”という言葉は永遠に奪い取られてしまったのじゃ。あの日、あの事件をきっかけに」
「あの事件? イナリくんに一体、何があったんです?」
タズナは悔しそうに顔を歪めながら事のあらましを説明していく。
それは、カイザという英雄の話だった。イナリを助け、町の危機を救い、そして、英雄が邪魔だと感じたガトーに処刑されるという救いのない話。英雄を惨たらしく奪われた町民からは一切の希望が奪われ、ガトーの支配を受け入れるしかなくなってしまった悲劇をナルトたちは静かに聴いていた。
タズナの話が終わると、おもむろにナルトが立ち上がる。
「ナルト、修行なら今日はもう止めとけ。チャクラの練り過ぎだ。今は体力の回復に務めろ」
「済まぬが、それは了承できぬ」
カカシに向かってナルトは首を横に振る。
「己は証明しなければならぬ」
「どういうことだ?」
「己が……この世に
ナルトの広背筋は雄弁に語っていた。
彼が……ナルトこそが英雄であるということを。