NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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追い付いた

 “サスケ奪還作戦”

 

 シカマルが放ったワードに他四人の顔が引き締まる。サスケを連れ戻すための“連行”ではなく、“奪還”作戦。では、何からサスケを奪還するのか? 音隠れの、そして、元木ノ葉の三忍の、大蛇丸の手の者からである。

 その先にあるのは戦いだ。

 

「シカマル。作戦はあるのか?」

 

 それを知ってか知らずか、いや、理知的なネジのことだ。理解しているのだろう。彼は冷静にシカマルに問いかける。

 ネジの質問にシカマルは首を横に振ることで答えを返す。

 

「いや、ない」

 

 眉をひそめるネジに向かって、シカマルは言葉を続けた。

 

「敵さんの情報どころか、お前らの情報も、だ」

 

『だから……』とシカマルは言葉を繋げる。

 

「3分くれ。全部、把握する」

「承知」

 

 ナルトに続いて、キバ、チョウジ、ネジも腰のポーチの中身をシカマルに見せる。

 しばらくして、検分が終わったシカマルは一つ頷き、彼らに話を始めた。

 

「おし、把握した。概要だが……救出作戦として、こっちが追う立場になる。つまり、敵に先手を取られやすい。それを防ぐためのフォーメーション。一列縦隊でいく」

 

 近くにある枝を拾い、シカマルは説明を始める。

 

「まず、一番大事な先頭先導偵察員はキバ、お前だ」

「おう!」

「年中、赤丸と散歩してて火の国の地形、地理に詳しい。また、鼻が効くからサスケを臭いで追える上、敵の臭いのついたブービートラップを嗅ぎ分け発見しやすい。それに、前方からの攻撃に弱い一列縦隊の欠点を補うにも、赤丸と二人組なので効率がいい。で、キバの後ろがナルト。左後ろがチョウジ。二人の打撃力で敵を仕留めることが目的だ」

「承知!」

「うん!」

「そして、最後尾がネジ。アンタだ。白眼で後方を見つつ、前のメンバーで仕留めきれなかった敵に対する追い討ち役だ。動きの鈍った敵に対して強烈な一撃をお見舞いしてやれ」

「了解した……で、シカマル。お前はフォーメーションのどこにいる? 説明はなかったが」

「ああ、それか」

 

 ネジの質問に頷いて、シカマルはゆっくりと立ち上がる。

 

「ナルトを呼びに行った時、影分身と影真似、一糸灯陣でサスケを追おうとするナルトを止めた。で、オレのチャクラはかなり削られちまった」

「む!? それは済まぬ」

「いい。そのことも折り込み済みだ」

「シカマル。兵糧丸なら持ってるけど食べる?」

「お、いいのか?」

「うん」

「サンキューな、チョウジ」

「そんで、シカマル。お前のチャクラが減ったってことは分かったが、ネジの質問に答えてねーぞ。お前はフォーメーションのどこの位置がいいんだ?」

「位置的には、キバの後ろでナルトの前だ」

「じゃあ、初めから、そう言えばいいじゃねぇか。何でこう回りくどく……」

「正確にはナルトの腕の中だ」

「……?」

「ナルトの……腕の中?」

「シカマル、ボクの背中も空いてるよ」

「チョウジに背負われるっつーのも一つの手だが、それだと攻撃時に、オレを背中から降ろすっつーアクションを一つ挟む必要がある。それよりも早く攻撃できる手段をナルトは持ってる」

 

 話についていけないキバとネジ、そして、話をよく理解していないナルトを置き去りにして、シカマルとチョウジの話は進む。

 

「ナルトが持つ手段……というか筋力だな。ナルト、よく聞いとけ」

「承知」

「敵を見つけた後、隙を見てオレがナルトに合図を出す。そしたら、お前はオレを全力で敵に向かって投げろ」

「承知!」

「敵の近くに着地したら、オレが影真似の術で、サスケを含めて敵を全員、捕まえる。それで任務完了だ」

 

 キバは思う。

 

 ──それで、ナルトの腕の中に居るって言った訳か。敵の思考にはシカマルが投げられて飛んでくるなんてもん、ある訳がねェ。その上、シカマルの影真似の術が決まれば全員、捕まえるのも簡単になるってことか。やるな、シカマル。

 

 ネジは思う。

 

 ──凄まじいほどのパワープレイ。……フッ、悪くない。これは、シカマルを隊長として認めない訳にはいかないか。

 

 と。

 

「何か質問あるか?」

 

 全員、首を横に振る。

 

「ねーなら最後に一番大切なこと言っとく」

 

 一歩、前に出たシカマルは四人に向き直る。

 

「サスケはオレにとっちゃ深いダチって訳でもねーし、別に好きな奴でもねェ。けど、サスケは同じ木ノ葉隠れの忍だ。仲間だ! だから命懸けで助ける。これが木ノ葉流だ。それに、いくらオレでもめんどくさがったりできねーだろーがよ」

 

 少し恥ずかしいそうに頭を掻きながら、シカマルは言葉を付け加えた。

 

「お前らの命、預かってんだからよ」

 

 頬を染めるシカマルに向かって、笑い合う仲間たち。

 

「へっ! 少しは中忍らしくなってるじゃねーの……お前も」

「うん」

 

 シカマルはパンッと手を鳴らす。

 

「よし、そんじゃ行くか」

「待って」

 

 が、彼らの後方から声が掛かる。

 

「サクラ……」

 

 声の主の名をナルトは呟く。

 そこには、目を赤く泣き腫らしたサクラの姿だった。

 

 厳しい顔つきになったシカマルは、辛そうに首を横に振ってサクラを拒絶する。

 

「話は五代目様から聞いてる。わりーが任務にゃ連れてけねーぜ。お前でも……サスケを説得できなかったんだろ。あとは力ずくでオレらが説得するしかねーからな。サクラ……お前は……」

「待っていろ」

 

 シカマルの言葉をナルトが引き継いだ。

 ナルトに一度、目線を向けたシカマルは身を引く。自分より、ナルトからサクラに想いを伝えた方が良いと考えてのことだ。

 

「サスケは己らが連れて帰る」

「ナルト……」

 

 かくして、その言葉は、シカマルが言うよりもサクラの心を打った。

 

「私の……一生の……お願い……」

 

 地面に小さな染みができる。

 

「サスケくんを……サスケくんを連れ戻して」

 

 小さくしゃくりあげながら、肩を震わせながら、サクラは懇願する。

 

「私にはダメだった! 私じゃあサスケくんを止めることができなかった! もうきっと、サスケくんを止めることが……救うことができるのは……ナルト……」

 

 頭を下げたサクラ。

 その痛ましい姿を、この漢──うずまきナルト──は放って置くなど……あり得ない。

 

「……アンタだけ」

「サクラよ。顔を上げろ」

「え?」

「貴殿には涙は似合わない。笑顔を浮かべる準備をするのだ」

 

 面を上げたサクラの頬を、ナルトの指がなぞり、涙を拭う。

 

「サスケは絶対に連れて帰る。一生の……約束だ!」

「ナルト……」

 

 親指を上げて見せるナルト。

 サクラは、ぎゅっと自らの腕で、自らの体を抱き締める。

 

「……ありがとう」

「シカマルよ、時間を取らせた」

「気にすんな。必要なことだ。そうだろ?」

「然り」

「それじゃあ、皆」

「うむ」

「おう」

「うん」

「ああ」

「行くぞ!」

 

 瞬時に五人の姿が消えた。

 見送ったサクラの頬に青い風が吹く。

 

「ナルトくんがナイスガイなポーズで言ったんです。もう大丈夫ですよ。きっと、きっと上手くいきます!」

「リーさん。……そう、だよね」

 

 涙は止まった。

 自分が今、できることは終わった。

 

 なら、これから自分ができることをするべきだ。

 

 サクラは空を見上げる。

 もう泣かないように、そして、強くなるために。彼女は未来を見据えたのだ。

 

 +++

 

 木ノ葉の森の中。

 突如、足を止めた音の四人衆を訝しげにサスケは見つめる。

 

「サスケ様……この辺りでいいでしょう。もう木ノ葉の里は抜けました」

「何だ?」

「実は大蛇丸様から仰せつかった大切なことが一つあります」

「いいから早く話せ」

「……アナタに一度、死んで貰わなきゃなりません」

「一度……死ぬだと?」

 

 目線を鋭くするサスケを他所に、サスケに話しかけていた左近はポケットに手を伸ばす。

 サスケの警戒が大きくなるが、左近が取り出したものを見て、警戒を少し緩めた。

 

「何だ、それは?」

「醒心丸。これを飲んでもらいます」

「だから、何だと聞いている」

「順を追って説明いたします。……アナタの呪印レベルは状態1。この丸薬は呪印の力を状態2に無理矢理、覚醒させるもの。ただし、呪印2になれば、呪印の侵食スピードが急激に上がって、そのままだと、すぐ死んでしまう」

「……」

「しかし、状態2の力をコントロールするには、その状態2を身体に長時間かけて慣らす必要があります。状態2を手に入れれば、おそらく……アナタは我々と同等の力を手に入れることができますが、覚醒すれば数分ともたず、確実に……死ぬ」

「死んで……その後はどうなる?」

「心配いりませんよ。そのために我々がいるのです」

 

 左近はサスケに丸薬が入った小瓶を握らせる。

 

「我々の結界忍術で副作用を抑え込み、永久の死から仮死状態へと段階を和らげる」

「……お前らの、その結界忍術とやらは信用できるのか?」

 

 サスケの質問はもっともである。

 出会って半日ほどしか関係のない彼らを信用するというのも無理な話。その上、彼らの力については、ほぼ何も知らない状態。

 その心の内を知ってか知らずか、鬼童丸が口を開く。

 

「サスケ様よォ。本来、オレたち四人衆は大蛇丸様の護衛役として存在しているエリートぜよ。だから、結界や防壁の忍術、呪印・封印術に長けてる」

「……頼むぞ」

 

 脳裏に過ったイタチの顔を振り払い、サスケは丸薬を飲み込む。

 効果はすぐに現れた。

 体のふらつきを止めることができない。膝が地面に着いてしまう。

 

 左近の大声が、他の三人が慌ただしく何かをしているのが、とても遠くに感じる。

 サスケ自身は気づくことができなかったが、動かない彼の体は円柱上の棺桶に入れられていた。

 

 形は違う。

 だが、それは例えるならば、“卵”だろう。

 殻の内側で変化し、より自身の目的に最適な形に変貌するためのものだ。

 蛇であるならば、しなやかで瞬発力に満ちた体を。鳥であるならば、空を駆けるための翼を。

 

 獲物を捕らえるための“力”を得るために、この世に生まれ落ちる前段階にサスケは入ったのだ。

 

 +++

 

 サスケを追うナルトたち。木ノ葉の森の中、枝を蹴って進んでいく。

 と、一列縦隊の先頭であるキバと赤丸の鼻が臭いを捉えた。

 

「シカマル!」

「どうした?」

「近くに、血の臭いだ。サスケを含めた五人と別の二人の臭いがぶつかってたが、血の臭いから五人の臭いが離れてくぜ! どうする!?」

「やっぱりか。手引きのヤローどもがいる。位置的にも、里と遠くない。任務帰りの里の忍とかち合って戦闘になったってとこだろーな」

「シカマル」

 

 シカマルは腕の中からナルトに鋭い目線を遣る。

 

「ナルト、お前の言いたいことは分かる。だが、これは任務だ」

 

 ナルトの心中を理解していたシカマルはピシャリと言い放つ。

 里の仲間に対する想いが人一倍強い、この漢のことだ。怪我を負ったであろう仲間を助けに行きたがるのは、手に取るように理解できた。

 

「それは、そうだが……」

「オレたちはサスケを追う。それに、今の木ノ葉の忍で、里外へ任務に出てるのは中忍以上のオレたちより経験豊富な強い忍たちだ。心配すること自体がその人たちへの侮辱になるぜ」

「そう……だな。では、このままサスケを追う」

「ただし、これまで以上に慎重に行動する。戦闘があったってことは敵の警戒も厳しくなったってことだ。当然、追い忍の可能性も考えてるだろう。つまり、トラップと待ち伏せに合う確率が高い。いいか……これからは感覚をフルに使え。待ち伏せを食らう前に、こっちが先に奴らを見つける! それから、怪しい痕跡を見つけたら、ただ避けるだけじゃなく解釈しろ」

 

 指示を出すシカマルに頷いたキバ。彼の嗅覚に嫌な臭いが引っ掛かった。

 

「オイ! 敵の臭いだらけだ!」

「みんな、止まれ!」

 

 シカマルの危機感を煽る声に、全員が瞬時に従う。

 

「上をよく見てみろ」

「起爆札。他に五ヶ所あるな。この形は結界法陣だ」

「ネジの言う通りだな。こいつは、トラップ忍術の一種だ。法陣系のトラップってのは、敵がその札で囲った陣内に入った途端、発動する時間差の罠。高等忍術ってオヤジに読まされた本に書いてたな」

「チィ……回り道するしかねーな」

 

 キバに頷いたシカマルは地面を指差す。

 

「一旦、下に降りて慎重に進むぞ。その前に、ネジ」

「どうした?」

「上の起爆札に血がついているか知りたい。白眼で見てくれるか?」

「……確かにシカマルの言う通り、微かだが血がついている。だが、それで何か分かるのか?」

「ああ。一番知りたいことが、な」

 

 シカマルはネジに向かって頷く。

 

「血がついているってことは、さっきの戦闘後に罠を設置したってことだ。そして、急いでいるのに態々、高等忍術まで使ってトラップを設置しているってことは……」

「休んでいる可能性が高い、か」

「ああ。思ったよりも早く追い付けそうだ」

 

 シカマルは気を引き締める。

 これまでは追跡のみで、危険はトラップのみ。だが、これ以後は戦闘になる。しかも、相手は自分の隊よりも強い中忍以上の忍を返り討ちにしたほどの忍たち。正面切って戦うとなれば、勝ち目は薄いであろうことは容易に推測はできた。

 

 だが、引く訳にはいかない。

 なぜなら、彼は中忍なのだから。

 

 ──どんなに危険な賭けであっても、降りることのできない任務もある。ここ一番で仲間に勇気を示し……苦境を突破していく能力。これが中忍という部隊長に求められる資質だ! 

 

 中忍試験、第一の試験の試験官であるイビキの言葉が思い起こされる。

 

 そう、これは降りることのできない任務だ。

 ここで引けば、確かに安全。隊員の命は無事だろう。だが、サスケの命は? 音隠れの里の里長である大蛇丸は危険な人物だということをシカマルは理解している。自分たちの里に大きな被害がもたらされたのだから、その力は十二分に理解している。

 ならば、その大蛇丸の手に落ちたサスケがどのような目に合うのか、想像したくもなかった。

 

 確かに、サスケとは親しい間柄ではない。

 だからと言って、見捨てる? 同期の忍を? 木ノ葉の仲間を? 

 

 そして、何よりも、自分の友であるナルトが大切に思っているサスケを見捨てるなど、シカマルには到底できなかった。

 

 シカマルの右手が自身の襟元に伸びる。

 

「お前ら……」

 

 木ノ葉の中忍以上の忍の証であるベストの襟を掴み、一度、目を閉じたシカマルは問いかける。

 

 何に? 

 それは仲間たちに、そして、自分自身に。

 

「準備はいいか?」

「然り」

「おう」

「ああ」

「うん」

 

 ナルトの、キバの、ネジの、チョウジの声を聞き、シカマルはゆっくりと目を開けた。

 

「奴らを……潰すぞ」

 


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