月が陰る。
細い月光が頼りなく照らすのは、ある少年の部屋だ。
「……」
部屋の主である少年、うちはサスケは窓の傍に佇んでいた。
その瞳が写すのは、写真立てに入れられた一枚の写真。自分が左端に、その隣にはサクラが。そして、右端には膝を曲げ、頭の位置を自分と同じ高さにしたナルト。後ろにはカカシが笑顔で写っている。
第七班として、初めての任務に赴く前に撮った写真だ。
あれから。あれから……。
思えば、回り道をしたものだとサスケは心の中で呟く。
これまでの時間はモラトリアム。自らを見つめ直すための時間だった。
その時間で得た答え。それは、別離。
今日からは、いや、今からは復讐のために生きなければならない。
──だからこそ、さよならなんだ。
その心の声は外に出されることはない。行動によって示される。
サスケの手が伸び、写真立てを倒す。
最後に写真立てを一瞥したサスケは振り替えることなく、部屋を後にした。
月が一人、里を歩くサスケを照らす。
通り過ぎる道で思い起こされてしまうのは、第七班として受けた任務の記憶だった。
その当時は下らないと感じていた任務の数々。猫探しや建築現場の資材運搬。強敵との闘いもなく、自らの力を示すことができる訳でもない。
それが今となっては愛おしい。
だが、振り返ってはならないことをサスケは理解していた。
もし、この暖かい記憶に囚われてしまえば、自分の足は動かなくなる。だからこそ、サスケは足を止めない。歩き続ける。
しかしながら、その暖かい記憶が、どうしようもなくサスケの視線を下に向けていた。
「サスケくん」
だから、彼女の気配に気づくことができなかった。
サスケはゆっくりと視線を上に上げる。
「サクラか」
「……」
「夜中に……こんな所で、何、うろついてる?」
「今日の……サスケくんの様子がいつもと違ってたから……」
「帰って寝てろ」
冷たく言い放つ。突き放す。
そうでなくてはならない。これは自分だけの復讐の道。友を、大切な人を巻き込むことはできない。
サスケは再び視線を下に向け、サクラの横を通り過ぎる。
「どうして、何も言ってくれないの?」
「余計なお世話だって言ってんだよ。もうオレに構うな」
「……あの日」
「……」
サスケの足が止まった。
「あの日から始まったよね。サスケくんと私、それにナルトとカカシ先生。四人でいろんな任務やって……苦しかったし、いろいろ大変だったけど……でも、やっぱり何より……」
「……」
「楽しかった」
サクラの独白は続く。それをサスケは止めない。
「サスケくんの一族のことは知ってる。でも復讐だけなんて……誰も幸せになんてなれない。サスケくんも……私も」
「やっぱりな」
「……」
サスケはサクラに背を向けたまま言葉を紡ぐ。
「オレはお前たちとは違う。お前たちとは相容れない道にいる。四人でやってきた。確かに、それを自分の道と思おうとしたこともある。四人でやってきたが、オレの心は結局、復讐を決めた。オレはその為に生きてきた」
サクラからは見えないサスケの顔。その顔は引き締まり、暗い決意に彩られていた。
「オレはお前やナルトの様にはなれない」
「……またサスケくんは自ら孤独になるの? 私には家族も友達もいる! だけど! だけど、サスケくんがいなくなったら……私には、私にとっては孤独と同じ」
対して、サクラの顔は悲しみに彩られていた。サクラの頬を伝う涙。見なくてもサスケは、それを感じることができていた。愛情深い、うちは一族なのだから、今のサクラの心も痛いほどにサスケには理解できていた。
「また……ここから、それぞれ新しい道が始まるだけだ」
だが、サスケはサクラを突き放す。
「私は! 私はサスケくんが好きで好きでたまらない! サスケくんが私と一緒にいてくれれば絶対、後悔させない! 毎日、楽しくするし、絶対、幸せになるはずだから! 私、サスケくんの為なら何だってする! だから……お願いだからここに居て!」
「……」
「復讐だって手伝う! 絶対、私が何とかしてみせるから……だから、ここに……私と一緒に……」
「サクラ……」
「!」
嗚咽を漏らすサクラへとサスケは振り返った。
「お前もウスラトンカチだな」
「……」
サスケの言葉はそれだけ。それだけ残し、サスケは踵を返す。
サクラの言葉は届かない。サスケの隣に並べない。
「行かないで! 行くなら、私、アナタを殴ってでも止める!」
自分の気持ちを言葉にして、サクラの気持ちは固まった。サスケが闇へと進もうというのならば、全力で止めなくてはならない。そのためには、涙は不要。
手の甲で涙を拭い、目を開いたサクラ。その視線の先には誰もいなかった。
「サクラ」
「!」
想い人の姿は前ではなく、後ろにあった。
呼び掛けられた、自分の名前。それが、とても優しく、愛に満ちた声色で……サクラは動くことができない。
「ありがとう」
トンッと優しい衝撃がサクラの首筋に奔る。
──サスケくん。
遠ざかる意識の中、想い人の名を口にし。そして、サクラの意識は途切れた。
「……」
サクラの体を優しく受け止めたサスケは近くのベンチへとサクラの体を運ぶ。
「……」
ベンチにサクラを横たえ、サスケは大切な人の顔を見つめる。サクラの顔には涙の河が幾筋も流れていた。
親指でサクラの涙を拭ったサスケは、もう振り返ることはなかった。
一人、闇の中へと進むサスケの目的地は里の外。
木ノ葉の里は卵の殻のように、自分を閉じ込めていた。殻から出た後は、空にいくのが自然だと考えたサスケは里を囲む壁の上に向かう。
「お待ちしておりました、サスケ様」
サスケが壁の頂上に到着したと同時に、前から声がした。
「……どういう風の吹き回しだ?」
「里を抜けられた時をもって、アナタは私どもの頭になることに決まっておりました。今までの御無礼をお許しください」
そこにいたのは、音の四人衆。
先に会った時とは違い、丁寧な言葉遣いと態度を取っている。
「フン。そんなこと、どうだっていい。行くぞ……」
だが、そのような些事には興味を持てない。
「……始まりだ」
今のサスケが興味を覚えることは唯一つだけ。
“力”だけなのだから。
+++
月は落ち、日は昇る。
今日も変わらぬ朝日が木ノ葉の里を照らす。
「あ~、もう朝の四時だぜ」
疲れた顔で大量の書類を運ぶ二人の中忍の姿があった。
中忍試験の際、試験官として手腕を振るっていたコテツとイズモの姿だ。
「五代目も人使いが荒い」
「そういうな。就任してから、まだ日が浅い。一番、忙しい時期なんだろ」
「イズモ。そうは言ってもな……ん?」
と、腕に抱えている書類の上から行き先を確認していたコテツの足が止まる。
「どした?」
イズモが尋ねるが、それに答えるよりも早くコテツは口を開いていた。
「おい、起きろ! こんなとこで寝てっと風邪ひくぞ」
コテツの視線の先にあるのはベンチに横たえられた少女の姿。
ピクリと少女の瞼が動いたかと思うと、少女は弾かれたように身を起こした。
「サスケくん!」
意識を取り戻した少女──サクラ──のただならぬ様子にコテツとイズモの表情が険しくなる。
そして、経緯をサクラから聞いた二人はすぐさま、火影執務室、つまり五代目火影の元に向かって駆け出した。
彼らは中忍。忍としての実力には確かなものがある。
そして、その走力はサクラが横たえられていたベンチのある里の外れから、短い時間で里の中央まで駆けつけることができるほどのもの。
「五代目様!」
バンッと扉を勢いよく開けながら二人は火影執務室へと雪崩れ込む。
「朝から騒々しい!」
五代目火影──綱手──は調べものをしていた手を止め、二人に怒鳴り付けながら顔を上げる。
そもそも、夜を徹して調べものをしていた綱手だ。リーの治療について1%でも成功確率を上げるため、医学書を読み漁っていた綱手には疲労が溜まっていた。
朝っぱらから荒っぽく扉を開けられたら、生来、喧嘩っ早い綱手の機嫌が悪くなるのは自明の理。
「火影様! 厄介なことが……」
「……なんだ?」
しかし、イズモとコテツの顔を見た綱手は、すぐさま顔を引き締める。
二人の様子から良くないことが起きたのは明白だった。
「それが……」
二人は事の顛末を説明する。
サクラが道端で横たわっていたこと。サクラがサスケの里抜けを止めようとしたこと。そして、彼女の必死の呼び掛けも届かず、サスケが里を抜けてしまったこと。
そして、サスケが里を抜けた理由、力を求めての行為だということも。
しかしながら、それだけではイズモとコテツは書類を放り出して動くことはない。
同時にサクラは伝えていたのだ。自らの頭脳によって導き出してしまった最悪の推察を。
そして、その推察はイズモとコテツに危機感を覚えさせ、一刻も早く火影に報告しなければならないと思わせる結果になった。
サクラの推察。
それは、里を抜けたサスケが大蛇丸の元へ向かおうとしているのではないかということ。
材料はあった。
一つ。イタチに負けた直後、修行や筋トレなどの自身の力を高めることもせずに復讐に向かうほどサスケは愚かではないこと。
一つ。里外にいる実力者でサスケと面識があるのは大蛇丸であるということ。
そして、最後のピース。
──やっぱり、私は君が欲しい。
大蛇丸との邂逅。その別れ際に彼の放った言葉がサクラの耳に焼き付いていた。
そこから推測したサクラは大蛇丸の手の者がサスケの里抜けを手引きしたのではないかと、イズモとコテツに上申していたのだ。
「……」
二人の話を聞き、腕を組んだ綱手の脳裏に、先日見た大蛇丸の弱りきった姿が過る。
──欲しいのは“うちは”の能力か。あの変態ヤローが。
「イズモ、コテツ」
「ハッ!」
「呼んで来て欲しい奴がいる」
+++
──なんつーか……オレ、場違いじゃねーか?
心の中で呟いたシカマルの額には、汗が一粒、浮かんでいた。
玄関のチャイムが鳴るまでは、いつもと同じ日だと思っていた。
大きな欠伸をして、それを母に怒られ、朝食を食べ、母のいない隙を突いて父に愚痴を溢し、父と共に術の修行をし、軽く昼食を摂り、そして、任務へと赴く。任務が終わった後は、いつもの仲間と軽く談笑。仲間と別れて自宅に戻り、夕食の準備。食事の準備がタラタラしていると母に怒られ、夕食を食べ、母のいない隙を突いて父に愚痴を溢し、ゆっくりと風呂に入りながら柔軟体操をし、体を拭き、寝巻きに着替える。布団を敷き、詰将棋の本を読み、そして、眠りに落ちる。
下らなくとも大切な日常だ。
もちろん、里が大変なことは理解している。だが、自分はこの間まで下忍。焦ったところで、できないことが急にできるようになる訳がない。
里の上役も、そのことを理解しているハズだから、自分のライフスタイルを大きく変えなくてもいいだろう。もうしばらくは、このままで。
シカマルはそう考えていた。
だが、現実は違った。
中忍の証しであるベストの裾を引っ張りながら落ち着きなく、目の前の綱手の言葉を待つ。
「昨夜遅くに、うちはサスケが里を抜けた。で、ほぼ間違いなく音の里に向かってる」
「抜けた!? どうして……!?」
挨拶もそこそこに、綱手はサスケのことについて話を始めた。
「あの大蛇丸に誘われちゃってるからだよ!」
「ちょ……ちょ……ちょい待ってくださいよ! 何で、あんなヤバイ奴にサスケが誘われなきゃいけないんスか!?」
「そんな理由はどうでもいい。とにかく時間が惜しい。とりあえず、シカマル。これから中忍として、初任務をやってもらう」
「サスケを連れ戻す……ですか?」
知り合いが里を抜けたと聞いて、シカマルの頭脳が急速に回り出す。
到底、放っておける問題ではない。これから自分はどう動くべきか考えるために情報が欲しい。そのためにも、綱手の言葉を聞き漏らす訳にはいかない。
シカマルは続く綱手の言葉に耳を澄ませる。
「ああ。ただし、この任務は急を要する上に、厄介なことになる可能性が高い」
「厄介なこと?」
「この手の話ははじめてじゃなく前例があってな。前例と同じ手口なら、大蛇丸の手の者がサスケを手引きしている可能性が高い」
「……」
──しっかし、アイツがなぁ。同期の中で何かにつけてスゲー奴だと思って、一目置いてたのによォ……。
「五代目様。この任務、
「それはできないんだよ」
「な、なんで!?」
「今、ほとんどの上忍たちは必要最低限の人数だけ残して、皆、任務で里外に出てる」
「……」
「これより30分以内に、お前が優秀だと思う下忍を集めてサスケを追え」
「……うす」
任務成功率は上忍、中忍の混成部隊に比べると劣るであろうことは理解していた。だが、打てる手が少ないのも事実。五代目火影としても、苦渋の決断なのだろう。
そう考えたシカマルは踵を返し、火影執務室を後にしようとした。
「シカマル」
「ん? まだ何か?」
「一人、私の推薦したい奴がいるんだが……」
「ナルト……スか?」
「そう言えば……里に帰ってきた時、ナルトを供にしていたところを、お前に見られていたな」
シカマルの答えに得心がいった綱手は大きく頷く。
「ああ。私はナルトを推薦する。奴は強いぞ」
「ええ。十分、理解しているつもりです。それに、オレも元々、ナルトの奴を誘うつもりでしたから」
「そうなのか?」
「はい。サスケが大蛇丸の誘いに乗って、自分の意思で里を抜けてた場合、説得できるのはナルトとサクラぐらいしかいねーとオレは考えてます。なんで、この二人は元々、小隊に誘うつもりでした」
「あー、それなんだが……」
「……もしかして、サスケが里を抜ける前に、アイツの説得に失敗したんスか? サクラが?」
「ああ。サスケが里を抜けたという情報はサクラからだ」
「なら、サクラは連れていけねーッスね」
「他に当てはあるのか?」
「ええ。めんどくせーほど……」
軽く笑ったシカマルは扉を開いた。
「熱い奴らが、ね」
+++
シカマルはナルトの自宅の前で佇む。
しばし、考えを巡らせた後、シミュレーションを行い、大丈夫だと自分に言い聞かせたシカマルは、十字の印を切った。
「親父に習ってて良かったな。影分身の術!」
二人に増えたシカマルはアイコンタクトを交わし、チャイムを鳴らした。
「待たせた」
すぐに開かれた扉。
扉からナルトの顔が覗いた瞬間、二人に増えたシカマルは同時に動く。
「影真似の術!」
「一糸灯陣!」
「む!?」
シカマル得意の影真似の術。そして、対象の動きを止める基礎的な封印術である一糸灯陣。
どちらも対象を拘束するための術だ。
「ナルト、落ち着いて聞いてくれ」
「己を術に掛けねばならぬほど火急の事だな。承知した」
「サスケが里を抜けた」
「サスケェエエエエエエエ!」
間髪入れずに暴れるナルト。シカマルの二重の策でも、引きちぎれそうになっていた。驚くべきは封印術をかけられてなお、影真似の術を破りかけたナルトの筋肉であろう。
シカマルは影真似の術にチャクラを更に込める。
余談ではあるが、影真似の術は、術の発動中、チャクラを影に流し入れることで効果が強くなる。想定よりも対象の膂力があり、術を破られそうになった場合でも、立て直すことが可能だ。
「グゥッ! テメェ! 落ち着いて聞けっつったろ!」
「しかし! これは! 落ち着くなど! 無理だ! サスケェエエエ! サァアスケェエエエ!」
「今からサスケを連れ戻しにいくぞ!」
「む!?」
シカマルの言葉がナルトの動きを止めた。続けざまにシカマルは言葉を紡ぐ。
「で、そのために小隊員を集めにいく! だから、着替えて来い! その緑の全身タイツ、寝巻きだろーが!」
「承知!」
返事を返したナルトに頷きながら、シカマルは術を解いた。そして、彼の影分身も同じように一糸灯陣を解き、その姿を煙に変えた。
「ふぅー」
シカマルは少し体を動かし調子を確かめる。
ナルトがシカマルの術に掛かりながらも無理矢理、動いたために、影真似の術の術者であるシカマルも同じ動きを強制された。急な動きを強制されたことで、どこか痛めたかもしれないと考えたシカマルだが、どうやら杞憂だったようだ。
体調は残存チャクラ量を除き、万全だとシカマルは結論づけた。
「待たせたな、シカマル」
「おう」
そうこうしている内に準備を整えたナルトが出てきた。
「おし、次はチョウジだ」
「承知!」
一路、チョウジの家に向かう二人。ナルトとシカマルの呼び声で、すぐに玄関から出てきたチョウジは、ポテトチップスを頬張りながら、黙ってシカマルの説明を聞く。
「んじゃ、頼んだぜ、チョウジ。すぐ支度して10分後に正門で待っててくれ」
「わかった」
「おし、ナルト。オレたちはシノのとこに向かうぞ」
「シノは今、親父さんと一緒に特別任務でいねーぜ」
「ワンワン!」
ナルトとシカマル、そして、チョウジへと声が掛けられた。
「キバ!」
ナルトが声の主の名を呼ぶ。
そこにいたのは、彼らの同期の一人、犬塚キバだった。
「オレより先にシノを誘うって、どーいうことだよ、お二人さん?」
「お前、朝は赤丸の散歩の時間だろ? どこにいるか分からねーやつから誘うのは非効率ってだけの話だ。で、キバ。お前もオレたちと任務を受けてくれるか?」
「やっぱ早起きして散歩してみるもんだな。……いいぜ、オレと赤丸の力、貸してやるよ」
「キバ、感謝する!」
「おう!」
ナルトとキバは握手を交わす。
「お話は聞きました。お困りのようですね」
また後ろから声が掛けられた。
「リー!」
そこに居たのはリー。体力作りのためのウォーキングで通り掛かったリーは頷き、言葉を続ける。
「ボクにも一人、心当たりがいますよ。それも、飛びっきり強くなった人が」
+++
そうして、戦士は集まる。
「タイムリミットだ。とりあえず、五人は揃ったな」
チョウジ、キバ、ナルト、シカマル、そして、ネジ。
リーの心当たりは同班のネジだった。
並ぶ五人の姿を見て、リーは視線を落とす。
──くっ……こんな時にボクは……。
ネジが普段いる演習場へとナルトたちを案内しながら、リーはどのような任務を彼らが受けたのかシカマルから説明を受けた。
それ故に、リーは悔しい想いをしている。中忍試験で競い合いたかったサスケ。
次に闘うことができる機会をリーは心待ちにしていた。自身の手術が成功してからの話ではあるが。
それが、このような形で立ち消えになるのは嫌だった。そして、ナルトたちと共にサスケを説得する場に辿り着くことすらできないのは、残念で仕方なかった。
「リー」
「ネジ?」
「お前は、お前のやるべき事をやれ」
いつもと変わらない口調のネジ。しかし、その視線はリーの心を貫いていた。
──信じている。
言葉にせずとも、ネジの心はリーに伝わっていた。
ネジは何を信じているのか?
それは、リーの手術が成功すること。
──ボクもキミを信じています。
言葉にせずとも、リーの心はネジに伝わった。
リーは何を信じているのか?
それは、ネジたちがサスケを里に連れ戻すことができるということ。
それで十分だというように頷き合った二人はシカマルに視線を遣る。
「じゃあ……」
二人の視線を受け、シカマルは小隊の面々に真剣な顔つきを見せる。
「サスケ奪還作戦、開始だ」