NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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受け継ぐ者

 拳を突きだしたナルト。吹き飛んだカブト。そして、ナルトの後ろで目を丸くしているシズネと綱手。

 

「ナルトくん!」

 

 が、残心することができずにナルトの体は前に向かって倒れる。

 

 対して、螺旋丸……ではなく、ナルトのパンチを腹に受け、背後の岩に叩きつけられたカブトだったが、意識は保っていた。ナルトの全てを籠めた拳を受けても尚、意識を保つことができている。

 それに比べれば、ナルトの拳圧により腹の部分の服が弾け飛んだのは些細なことだろう。

 

「そんな……」

「ふっ……」

 

 ──あの“娘”が音に来てなかったら……。

 

 カブトの肉体には天性の才は宿っていない。だが、彼には頭脳があった。その頭脳により、他者の優秀な能力を自身に宿すことに成功した数少ない忍である。

 自らの肉体に他者の才能の因子を取り込むことで、カブトは人としてのステージを越えていた。彼がその身に宿した因子は“うずまき一族”、つまり、ナルトの遠縁である者の因子。

 

「チャクラを腹に集めて、術……パンチを喰らう前から一気に治癒を始めた」

 

 青黒く内出血が見られる腹の色が急速に元の色に戻っていく。

 

「ボクが大蛇丸様に気に入られたのは技のキレでも術のセンスでもない。圧倒的な回復力。細胞を活性化、新しく細胞を作り替えていく能力。さっきの攻撃がナルトくんの最後の賭けだったみたいだけど……!!?」

 

 カブトの口から血が流れ出す。

 

 ──バカな。ボクの回復力をもってしても、まだ、ここまでのダメージが。もうチャクラが足らない。

 

 ナルトと同じように地面に倒れるカブトの目に、シズネがナルトに駆け寄る姿が目に入った。

 カブトは唇を歪ませる。

 

「クク……ナルトくんは、もうダメだよ」

「ナルトくんッ! これは……!?」

「九尾のチャクラを……力に還元する心臓の……経絡系を……切断した。……力一杯ね。自力で治癒する可能性を絶ち切るためにね……」

 

 カブトの言う通り、ナルトの心筋はズタズタに切り裂かれていた。

 そのことを理解したのだろう。ナルトの体を仰向けにしている途中のシズネは顔を青くする。

 

 今、綱手はカブトの血を被っており、動くことができない。血液恐怖症である綱手の血を拭った後にナルトの治療を二人で行うという手もあるが、今のナルトは余談を許さない状態。

 ナルトの顔を見るとチアノーゼ──血液中の酸素が低下することで顔が青くなる状態──が起こっており、このままでは酸素欠乏症により、近い内に間違いなくナルトは死ぬ。

 

「どうしたら……」

 

 そして、今のシズネでは完治させることはおろか、治療を行うためにナルトを仰向けにすることもできない。先ほど、ナルトを庇った時に負った左肩の傷により、左腕にまともに力が入らないときている。かといって、右腕だけでナルトの体をひっくり返すには、彼の体は重すぎた。

 また、ナルトの体をひっくり返すことができそうな綱手の血を拭おうにも、左肩から流れる血が綱手の血液恐怖症を刺激してしまう。

 ならば、まずは自分の傷を直そうとしても、カブトが投げたクナイは肩に深く刺さっており、さらに、右手で抜くには難しい位置にある。誰かの助力が必要であるが、自来也は大蛇丸と戦っており、こちらに来ることはできない。綱手は、血液恐怖症のためクナイを抜くことはおろか、血が着いているクナイに触ることすらできない。

 

 ──どうしたら……? 

 

 このままではナルトが死ぬ。

 

 カブトの一計。ナルトに向かってクナイを投げたこと。

 たった、それだけの動きで、こちらの全ての動きを封じられた。

 

 シズネは唇を噛み締める。詰みであるということを理解してしまった。

 ナルトを救うことはできない。医療忍者であるシズネは、これまでの経験の中で同様のことを経験してきた。

『助けてくれ』『死にたくない』『帰りたい』『見捨てないで』『お願いします』

 有言、無言。

 その区別なく、救えない者を切り捨てることで救える者を優先した。トリアージと呼ばれる、より多くの命を救うための区別。どれだけ懇願されようとも、それが医療に携わる者の宿命だと、そう言い聞かせ、シズネは切り捨てた。

 

 その度に自分の力不足を嘆きながら。医療忍者の少なさを嘆きながら、シズネは多くの人を救ってきた。

 

 だから、今回も同じ。今はナルトは切り捨て、木ノ葉隠れの病巣である大蛇丸の右腕、カブトを確実に仕留めることに意識をシフトさせるべきだ。

 

 だが、シズネは動くことができなかった。

 

 チャクラが尽きかけている中、自分の要請にすぐ従い、命懸けで戦ってくれたこの漢に何も、何一つも報いることができていない。自分がしたのは、死地にこの漢を送り出したことだけ。ただ戦いを傍観していたことだけしかしていない。

 

「うっ……うっ……」

 

 嗚咽が漏れる。涙が溢れる。

 何も役に立っていない情けない自分。本来ならば、自分がカブトと命懸けで戦わなくてはならなかった。

 クナイ一つを防いだところで、何を誇れるというのか? 何も誇れない。むしろ、そのクナイの防ぎ方をもっと上手くしていれば、こんな状況にはなっていなかった。この漢を救えないという状況に陥っていなかった。

 

「シズネ、泣くな」

「!?」

 

 後ろから聞こえた優しい声。

 その声はかつても、そして、今も憧れ続けている、最高の、そして、最強の医療忍者の声。

 

「力を貸してくれるか?」

「はい……はいッ!」

 

 その声の主は、至極、簡単に重いナルトの体を返す。

 

「綱手様ッ!」

 

 ──バカな!? 綱手様は血液恐怖症のハズ! 

 

 目の前でナルトの胸に手を当て、治療を行う綱手の姿にカブトは目を丸くする。

 

 ──ま、まさか、克服したのか? いや、克服“させられた”のか。

 

 次いで、カブトはナルトに憎しみの籠った目を向けた。

 

 ──君のせいだね、ナルトくん。けど、もう遅い。

 

 医療忍術を行使し、ナルトの治療を行う綱手とシズネのこめかみから汗が伝う。

 状況は最悪とも呼べるもの。治療開始まで、綱手が血液恐怖症を克服できるまでの短い時間。それが、致命的な時間だった。

 ナルトが切られたのは心臓の筋肉。心臓とは体全身に血液を送るためのポンプの役割を持つ。ここが切られたことにより、今のナルトの体には血液が行き渡らない状態となっている。

 そして、体の中で血液、それに含まれる酸素を最も必要とするのが、脳だ。脳細胞に酸素が行き渡らない場合、5分程度で脳細胞は壊死してしまう。それを止めることができない場合、待っているのは死。

 

 それを十二分に理解している医療忍者たち。

 カブトはナルトの死を願い、そして、シズネと綱手はナルトの生を願う。

 

 かくして、天秤は傾いた。

 

「礼を言う。二人とも」

「ナルトくん!」

「ナルト!」

「まさか……」

 

 ナルトは両手を伸ばし、上から覗き込む二人の目尻を拭う。

 

「そして、謝罪を……」

 

 そこまでだった。ナルトの両手が地面に落ちる。顔を青くさせたシズネだったが、素早くナルトの胸に耳を当て、ナルトの容態を確認していく。

 

「バイタル……安定してます!」

 

 安堵した顔つきで綱手はナルトの傷ついた左手を握りしめた。

 

「『必ずや受け継いでみせよう。火影の名を』かぁ」

 

 ──最後に……最後に、もう一度だけ……アンタに賭けてみたくなった。

 

 チャクラを流し、傷がなくなったナルトの左手を優しく置き、綱手はナルトの首に今まで自分がしていたネックレスをかける。

 ナルトの顔を見つめ、綱手はその額にそっと唇を落とした。沙羅と鳴る金髪の隙間。そこから優しい声が小さく響く。

 

「火影になりな」

 

 ──縄樹、ダン。最愛のアナタたちの夢を受け継ぐ子が……ここにいる。

 

「シズネ。ナルトは任せる」

「はいッ!」

 

 綱手は大きく息を吸い込んだ。

 

「大蛇丸ッ!」

「……綱手ェ」

「ここからは私が……五代目火影が相手だ!」

「随分と大きく出たわね。私の前で火影の名を出すなんてねェ」

「当たり前だ。大きく出なきゃ、ここまでしてくれたナルトに顔向けできない。それに……」

 

 ──縄樹、ダン。今の私は、アナタたちに真っ直ぐ会える顔つきになったよな? 

 

「何よ?」

「……お前に言っても解らないことだよ」

「そう。言うつもりはないということね?」

 

 そして、始まった木ノ葉の三忍、三竦みの戦い。

 その詳細をナルトは知らない。これからも、知ることはないだろう。なぜなら、彼はこの戦いは三忍のものだけであり、自分は入り込む必要はないと思っているのだから。

 

 眠る彼の顔は安心した顔だった。

 それはきっと、綱手が遺志を受け継いだことを理解したからだろう。

 これから、火影の座に着く綱手。彼女が遺志を受け継ぎ、立派な火影として里に戻ることを確信した笑みであった。

 

 +++

 

 戦いから一日後。

 

「よし! ワシもナルトも回復したことだし、これから木ノ葉に向かう……が、ナルト」

「承知」

「まず、お前に聞きたいことがある」

「如何された? 師よ」

「お前、服はどうした? 服は?」

「着ているが?」

「……」

 

 短冊街の入り口に自来也とナルト、そして、綱手とシズネは立っていた。

 

「Tシャツは?」

「替えがない」

「だからといってのォ……」

「師よ」

「ん?」

「やはり、師の分もガイ先生に頼めば良かったか」

「要らん!」

 

 ナルトが着ている緑色の全身タイツを見て、自来也は額を押さえ、息を吐き出す。彼にとって、あまり目にしたくないのだろう。だが、替えの服がなければ仕方ないと割り切った。

 

「まあ、なんだ。これから里に向かう訳だが、急がなくちゃあならん訳がある」

「然り。サスケとカカシ先生、そして、リーを綱手殿に見て貰うためにも全速力で里に向かう」

「うむ」

 

『という訳で……』と自来也は綱手とシズネをナルトの近くに呼び寄せる。

 

「なんだ?」

「自来也様。まさか……」

「ああ。そのまさか、だ。ナルト!」

「うむ」

「綱手とシズネを抱えろ」

「承知」

「抱えろ、だぁ?」

 

 自来也の突拍子もない提案に綱手は眉を潜める。

 が、シズネは違った。

 

「お、お先に失礼します!」

「ナルト!」

「承知!」

 

 脱兎の如く走り出したシズネにすぐに追い付いて抱えるナルトの姿を見た綱手は、なるほどと頷く。

 

 ──確かに、ナルトに抱えられた方が速い、か。

 

 前線から遠ざかっていた自分の足よりも、ナルトの足の方が速いと綱手は得心がいった。

 

 ──姫のように抱き抱えられるなんて、何年振りだろうな。

 

 それに、綱手は乙女であった。

 そうであるからして、嫌々と首を横に振るシズネの様子を恥ずかしがっているからと決めつけてしまっていたのだ。

 そうして、ニコニコとした綱手もナルトの腕に収まった。

 

「よし!」

 

 ナルトにしっかりと抱き抱えられたシズネと綱手を見て、自来也は頷く。

 

「それじゃあ、しゅっぱ~つッ!」

「応ッ!」

「ヒィイイイ!」

「ぬなッ!?」

 

 ナルトの全速力。

 顔が歪むほどの風圧。体全身にかかるG。

 

「シ……シシシズネぇえええ!」

「だだだだだかかからッ! 言ったたたじゃあああななないででですぅうううかぁあああ!」

 

 乙女の夢を壊すのは筋肉かと綱手は考え、そこで考えることを止めた。

 

 +++

 

「もうお前には二度と! 二! 度! と! 乗らん!」

「承知……」

 

 里に着き、火影執務室の屋上へと降ろされた瞬間、ニヤニヤしていた汗だくの自来也の腹に一発入れ、綱手はナルトに宣言した。

 

「けど、まぁ、思っていたより早く着いたな」

 

 頬を両手で挟み、崩れていないかどうか確かめた綱手は一度、大きく伸びをする。

 

「木ノ葉も随分と様変わりしたね。今日から私がこの里を治める、五代目火影だ」

「綱手」

「よう帰ってきた」

「ホムラの爺にコハル婆さんか」

 

 そこに姿を現したのは、ご意見番である二人。水戸門ホムラとうたたねコハルだ。

 自来也に綱手を捜索するよう以来した二人である。

 

「相変わらず口が悪いな」

「ホムラ。それよりも……」

「ああ」

「ん? なんだ?」

「ヒルゼンの様子が、な」

「先生が!? どういうことだ?」

 

 綱手は自来也へと目を向ける。

 三代目火影、猿飛ヒルゼンは大蛇丸に重傷を負わせられたものの、命に別状はないと自来也から聞いていた綱手にとって、ホムラとコハルの言葉は寝耳に水。

 だが、すぐに気を取り直し、宣言する。

 

「先生の容態は?」

「それがだな……」

「うむ」

「早く言え!」

「その……あれだ」

「“あれ”? なんだ?」

「官能小説に耽るヒルゼンから取り上げていいものかどうか悩んでおる」

「……いいと思うけど」

「そうと決まれば善は急げ、だ。行くぞ、ホムラ!」

「うむ」

 

 疾風のように姿を消す二人。それを見送った後、綱手は自来也を小突く。

 

「おい」

「……」

「私がやるべきことをやり終わった後、先生がエロ小説を読んでたら……分かるな?」

「わ、分かった! だから、拳を握るのは止めてくれ!」

「……行け」

「わ、分かった!」

 

 瞬身の術で姿を消す前に『ワシのせいじゃないのに』とぼやく自来也の言葉を聞き逃さなかった綱手は、『後で締める』と決意してナルトに向き直る。

 

「で、誰だっけ?」

「サスケとカカシ先生。そして、リーだ。おそらく、木ノ葉病院にいるハズ」

「分かった。今から行こうか。……シズネ! もたもたしてると置いてくよ!」

「は、はひぃ~」

「車酔い……人酔い? この場合、人酔いって言うのか? ……いいから、行くよ!」

「が、がんばります」

 

 屋上から繋がる階段を降り、廊下を歩く三人。と、前からよく似た二人が通りがかる。

 

「お! ナルトじゃねーか」

「シカマルか。久しいな」

「まーな。で、何でお前がこんなとこいんだよ? ん? もしかして、お前もか?」

「どういうことだ?」

「その反応ってことは、別件だな。それがよぉ……ちょっとめんどくせーことになっちまってよ」

「そうか。手を貸そう」

「お! いいのか?」

「よくねェ」

 

 シカマルの隣にいた彼によく似た男は、シカマルの頭を押さえつけ、無理矢理、頭を下げさせる。

 

「お久しぶりッス。綱手様」

「おお! 奈良家のガキか! で……そっちは子供か?」

「はい。息子のシカマルです。おい、シカマル」

「分かったよ。奈良シカマル。奈良シカクの息子ッス」

「よろしくな、シカマル」

 

 親父と話を始めたギャル。

 シカマルの目線からすれば、そのようなところだろう。そして、親父はへコヘコと頭を頻りに下げている。高い地位にある女性であることは理解できたものの、情報があまりにも足りない。

 分かったのは精々、女の名前が“綱手”であることぐらいだ。そして、忍者学校(アカデミー)時代、『めんどくせー』と授業を聞かず、居眠りばかりしていたシカマルの耳に彼女の名前が入ることはついぞなかった。

 そうであるからして、シカマルは情報を集めなければならない。近くいる友に聞くのが一番早いと考えたシカマルはナルトの近くに寄る。

 

「おい、ナルト。若けーくせに、あの偉そーな女、誰だよ」

「五代目火影 綱手殿だ。若く見えるが50代のレディである」

「!?」

「ナルト! 行くぞ!」

「承知」

「それと、レディの年齢を言い触らすんじゃない!」

「む? それは済まぬ」

「まあまあ、綱手様。きっとナルトくんは、お友だちに綱手様へ敬意を持って欲しくて、年齢を言ったんだと思いますよ」

 

 騒ぎながら離れていく三人を見送りながら、シカマルと隣の父親へと質問を投げ掛ける。

 

「あの女が五代目になるんだってよ。何者だ、あの人」

「お~い、シカマルよォ。あの人ぁ……この世で一番強く美しい女だぜ。なんせ、“三忍”の紅一点だからなぁ」

「見た目はナルトの方が強そうだけどな」

「そりゃ……そうだが……」

「ついでに言うと、美しさって火影に必要ねーよな」

「いや、必要だ」

「?」

 

 シカクは腰を屈めて、シカマルと肩を組む。

 

「シカマル。男ってのは女がいなきゃダメになる生き物だ。美しい女にはいいとこを見せたくなるってのが男の(さが)ってやつよ。本来の自分以上に踏ん張れるいいチャンスだ」

「そのチャンスで中忍として頑張れってことかよ……めんどくせー」

「お前も年頃になりゃ分かる」

「分かりたくもねー」

 

 少し笑みを浮かべたシカクはシカマルと離れた。

 

「おっと、いけねェ! お前はこれから用事があんだろ? じゃ、オレは先帰るぜー。母ちゃんにどやされっから」

 

 ──女がいても駄目になる男もいるってことだな。

 

 離れていく父の姿を細目で見つめるシカマルだったが、目を奥の扉に向ける。

 それは目的の部屋の扉。約半年前に一度訪れただけの部屋の扉だ。

 

「めんどくせー」

 

 そういって、シカマルは“忍者登録室”と札がかかる部屋の扉を開けるのだった。

 

 +++

 

 木ノ葉病院についたナルト、綱手、シズネは病院の受付により、目的の部屋を確認する。

 まず、始めに向かったのはサスケの部屋だ。

 

「失礼する」

 

 扉を静かに開けた先にいたのは、ベッドに横たわるサスケと、その寝顔を不安そうに見つめるサクラの姿。と、振り向いたサクラの目が丸くなる。

 

「ナルト!?」

「サクラよ。サスケは?」

「まだ……まだ目を覚まさないの」

「邪魔するよ」

 

 ナルトの後ろから進み出たのは綱手だ。

 

「その人たちは?」

「綱手殿とシズネ殿だ」

「あ、アナタが綱手様!?」

 

 サクラは慌てて椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。

 

「ガイ先生からお話は聞いています。サスケくんを……サスケくんを助けてあげてください!」

「ああ! 任せときな!」

 

 サクラが身を引いたスペースに入った綱手はサスケの額に手を置く。そして、チャクラをサスケへと流し、乱れたチャクラを整えていく。

 

「じき、目覚めるだろう。治療は終わったが、ナルト。お前はどうする? ここにいるか?」

「……」

 

 逡巡。

 

「いや、カカシ先生とリーも心配だ。二人の様子を見に行く。それに、サスケにはサクラが着いている。心配はない」

「ナルト……」

「サクラよ、サスケを頼む」

「……うん!」

 

 一度、サクラに頷いたナルトは自動的に閉まっていた病室の扉を開ける。

 

「気が利くじゃないか」

「恐悦至極」

 

 一路、カカシの病室に訪れた三人はサスケと同様に、綱手がカカシの頭に手を当て治療を行った。

 

「ん?」

「カカシ先生。大事ないか?」

「……ナルト? それに綱手様!?」

「オレを忘れているぞ!」

「ガイ。お前もいたのか」

「ああ!」

「ありがとう。綱手様を連れてきてくれて」

「班員として当然のこと」

「それに、ガイも。診ててくれたんだろ?」

「礼はいらん。友として当然のことだ」

 

 熱い抱擁が交わされようとした瞬間、綱手は先んじて言葉を発した。

 

「たかだか二人の賊にやられるとはお前も人の子だねェ……天才だと思ってたけど。で、ナルト。次は?」

「そうだ! 次は我が弟子、リーを診てやってください!」

 

 カカシに別れを告げ、リーの病室に向かう。

 

「失礼する」

「ガイ先生! それにナルトくん! あと、どなたでしょうか?」

「紹介しよう。五代目火影の綱手殿だ。医療に精通している故、リー。君の怪我を診て貰うために連れてきた」

「この方がガイ先生が言っていた……よろしくお願いします!」

「ああ。で、聞いた話だと診察が終わるまで少し時間がかかりそうだね。ナルト、もう行っていいぞ」

「む? ……済まぬ、リーよ。己はまだやらなくてはならぬことがある」

「やらなくてはいけないこと、ですか?」

「然り。シカマルが何らかの事件に巻き込まれたようだ。それに助力を申し出る故」

 

 先ほどシカマルと会った際に、『それがよぉ……ちょっとめんどくせーことになっちまってよ』とシカマルが言っていたことが気になっているナルト。もちろん、リーのことも心配ではあるが、ここで自分ができることは何もないということもまた、ナルトは理解していた。

 そして、シカマルの問題は実はなんということもない。彼が下忍から中忍に昇格したという、本人以外は喜ばしいニュース。

 

「分かりました、ナルトくん! ボクは大丈夫です! 君はシカマルくんのところへ向かってください」

「リーよ。感謝する」

 

 ナイスガイなポーズで大丈夫だとアピールするリーに向かって、ナルトもまた同じポーズで返す。そして、シカマルの元に向かうため、病院を飛び出したナルトだったが、それを彼は後悔することになる。

 

 なぜなら、リーの傷は医療スペシャリストである綱手でさえも手術の成功確率は50%であり、失敗すれば死ぬリスクがある過酷なものであるという診断が下されたからである。

 

 友の苦悩。それを知ることなく、飛び出してしまった自分をナルトは責めてしまう。それは美しき友情であろう。だが、同時にそれは呪いでもあった。

 

 友の苦悩。それを知って、飛び出さなかった自分をナルトは責めた。それは美しい友情であろう。だが、それは同時に呪いでもあったのだ。

 

 サスケがイタチに傷つけられていても、ナルトは動くことができなかった。その時の記憶が彼を苛み続けている。ナルトも、そして、サスケも。

 自分を信じて、今にも飛び出そうとしているナルトの目の前で、何もできなかった弱い自分の姿。

 

 ──何故、弱いか。

 

 我愛羅との戦いの時。

 

 ──足りないからだ。

 

 イタチとの戦いの時。

 

 ──……憎しみが。

 

 その光景に写っているのは……。

 

「サスケくん、リンゴよ!」

 

 差し出された皿。

 サクラがサスケの身を案じ、食べやすいようにと小さく切ったリンゴが乗っている。

 

「キャッ!」

 

 それをサスケは叩き落とした。

 

「……!? サスケくん?」

 

 サクラの声はもう届いていない。

 サスケが見つめているのは窓の向こうの空。遠くに飛んでいる鷹の姿だ。

 

 それを強く睨む。

 

 彼が見つめているのは四人の部下。しかし、本当にその目に写しているのは少年の姿だ。

 

 腕の痛みによる影響で目が鋭くなっていた。

 

「機は熟したわ……これから木ノ葉に向かいなさい」


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